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2009.11.27 (Fri)
06. 並んですわる? (2)
「もう、並んじゃう?」
「え?」
「あれ」
郁雅の手から、空になったコーラの紙コップを取って、蒼一郎が立ち上がった。さりげなく紙コップを奪われた郁雅は、手持ち無沙汰になった手を持て余しながら後に続く。
当たり前のように郁雅の分まで片付けてくれるのは、いつものこと。
子どもみたいだし、手は掛かるし、情けない顔ばっかしているくせに、でも自然にカッコいいことをやってのけるし。
(だから、えっと…)
――――好き?
まぁ、そういうことだ。結局、何だかんだ言っても、全部引っ括めて、好きってこと。
「結構並んでんね」
「…、、えっ、何が?」
完全に思考がすっ飛んでいて、不意に掛けられた蒼一郎の言葉が、全然分からなかった。
よほど郁雅が驚いた顔をしていたのだろう、蒼一郎のほうを見れば、話し掛けた蒼一郎も、え? みたいな表情をしている。
「何がって……列?」
「……、列? いやゴメン、やっぱ聞いてなかった」
郁雅は何とか聞いてる振りをしてごまかそうかとしたけれど、ちょっと考えても分からず、結局諦め、聞いていなかったことを素直に認めた。
「何だよぉ、郁のバカー」
「ゴメンって。てか何、そんな重要なこと言ってたの?」
「えー…重要てか、うん、『結構並んでるね』て」
「何だよ、超普通のことじゃん」
いや、言っていることは何も間違っていないけれど。
でもそんな顔をして……さっきまでカッコいいとか思っていた、その余韻を返してほしい。
「…まぁいいけど」
「え、何で郁、ちょっと上から目線?」
「何でもない、こっちのこと」
観覧車はすでにイルミネーションが点灯していて、他のアトラクション同様、幾分か列が出来ていて、2人がその最後尾に付けば、すぐにその後ろにも人が並び出した。
やはり夜景目当てに、日が落ちてから乗る人も多いのかもしれない。
観覧車は片側に2人ずつ座れる4人乗りタイプで、混んでいるから、2人連れの蒼一郎と郁雅は他のグループと一緒にさせられるかと思ったが、運よく前は親子3人、後ろは女の子4人組だったので、結局、2人きりで乗れることになった。
2人がゴンドラに乗り込むとき、後ろの女の子たちの視線を感じないでもなかったが、そういうのはもう慣れているので、郁雅は気にしない振りをする。
「え、郁、そっち座んの?」
係員がドアを閉め、蒼一郎が進行方向に向かって座ったので、何となく郁雅はその向かいに座ったのだが、蒼一郎にはそれがすごく不思議だったようで、何で? 何で? としつこい。
「何でって……何となく?」
別に同じ側に座ったからって、ゴンドラのバランスが崩れるとかはないだろうけど、だって普通、ご飯を食べに行ってテーブル席に通されたって、こういうふうに座るし、本当に何となく郁雅はこちら側に座っただけなのだが。
「え、並んで座る?」
蒼一郎の言いたいことが分かり、今度は郁雅が驚く番だった。
けれど蒼一郎は、当然並んで座るものだと思っていたらしく、何で驚くの? といった顔だ。
「え?」
「あれ」
郁雅の手から、空になったコーラの紙コップを取って、蒼一郎が立ち上がった。さりげなく紙コップを奪われた郁雅は、手持ち無沙汰になった手を持て余しながら後に続く。
当たり前のように郁雅の分まで片付けてくれるのは、いつものこと。
子どもみたいだし、手は掛かるし、情けない顔ばっかしているくせに、でも自然にカッコいいことをやってのけるし。
(だから、えっと…)
――――好き?
まぁ、そういうことだ。結局、何だかんだ言っても、全部引っ括めて、好きってこと。
「結構並んでんね」
「…、、えっ、何が?」
完全に思考がすっ飛んでいて、不意に掛けられた蒼一郎の言葉が、全然分からなかった。
よほど郁雅が驚いた顔をしていたのだろう、蒼一郎のほうを見れば、話し掛けた蒼一郎も、え? みたいな表情をしている。
「何がって……列?」
「……、列? いやゴメン、やっぱ聞いてなかった」
郁雅は何とか聞いてる振りをしてごまかそうかとしたけれど、ちょっと考えても分からず、結局諦め、聞いていなかったことを素直に認めた。
「何だよぉ、郁のバカー」
「ゴメンって。てか何、そんな重要なこと言ってたの?」
「えー…重要てか、うん、『結構並んでるね』て」
「何だよ、超普通のことじゃん」
いや、言っていることは何も間違っていないけれど。
でもそんな顔をして……さっきまでカッコいいとか思っていた、その余韻を返してほしい。
「…まぁいいけど」
「え、何で郁、ちょっと上から目線?」
「何でもない、こっちのこと」
観覧車はすでにイルミネーションが点灯していて、他のアトラクション同様、幾分か列が出来ていて、2人がその最後尾に付けば、すぐにその後ろにも人が並び出した。
やはり夜景目当てに、日が落ちてから乗る人も多いのかもしれない。
観覧車は片側に2人ずつ座れる4人乗りタイプで、混んでいるから、2人連れの蒼一郎と郁雅は他のグループと一緒にさせられるかと思ったが、運よく前は親子3人、後ろは女の子4人組だったので、結局、2人きりで乗れることになった。
2人がゴンドラに乗り込むとき、後ろの女の子たちの視線を感じないでもなかったが、そういうのはもう慣れているので、郁雅は気にしない振りをする。
「え、郁、そっち座んの?」
係員がドアを閉め、蒼一郎が進行方向に向かって座ったので、何となく郁雅はその向かいに座ったのだが、蒼一郎にはそれがすごく不思議だったようで、何で? 何で? としつこい。
「何でって……何となく?」
別に同じ側に座ったからって、ゴンドラのバランスが崩れるとかはないだろうけど、だって普通、ご飯を食べに行ってテーブル席に通されたって、こういうふうに座るし、本当に何となく郁雅はこちら側に座っただけなのだが。
「え、並んで座る?」
蒼一郎の言いたいことが分かり、今度は郁雅が驚く番だった。
けれど蒼一郎は、当然並んで座るものだと思っていたらしく、何で驚くの? といった顔だ。
2009.11.26 (Thu)
06. 並んですわる? (1)
何て言うか…………平和だなぁ、て思う。
うん、世の中は平和だ。
目の前で幸せそうな顔をしてクレープを頬張る蒼一郎を見ていると、つくづくそう感じる、と郁雅は思った。
「ぅん? 郁も食う?」
「いらね。つーかクリーム付いてるけど、口と…………鼻の頭に」
郁雅の視線を、クレープが食べたくて見ているのだと思ったらしい蒼一郎が、食べ掛けのクレープを郁雅のほうに差し出してきたが、甘いものの苦手な郁雅は、それをお断りした。
それにしても、いい年をした男が遊園地でクレープを食べるってどうなの? という以前に、どういう食べ方をすると、鼻の頭にまでクリームが付くのか教えてほしい。
(まぁ、いいんだけど)
見当違いなところを拭っている蒼一郎にあえて手を貸さず、郁雅は笑いを堪えながらその様子を眺める。
見た目はチャラいくせに、こういうところは癒し系だなぁ、とか思ってしまう。
年上のくせに手は掛かるわ、世話は焼けるわで、面倒を見るのは結構大変なんだけれど、でもこういうところが癖になる。
久々に来た遊園地は予想以上に2人のテンションを上げさせ、うっかり5連続絶叫マシンとか、2連チャンお化け屋敷とか、無駄に心拍数を上げまくった後、ちょっと休憩と、蒼一郎はクレープを、郁雅はコーラを買って座ったのだ。
浮かれてる?
いや、一緒にいる蒼一郎が普段からこんなだから、郁雅がすごーく大人な感じがするけれど、実際は蒼一郎より1つ年下だし、まだ20歳だし、こういうところに来れば楽しいに決まっている。
「郁ー、次何乗る?」
「…まだ付いてる、鼻んとこ」
呆れてそう言えば、取ってよぉ〜、と情けない顔で蒼一郎が顔を寄せてくるので、仕方なく拭ってやる。
…うん。世の中は平和だ。
「で、何乗る? ねぇ、何乗る?」
「んー…」
蒼一郎に言われ、郁雅は薄暗くなり始めた園内をグルリと見回した。
日曜日の遊園地で並ばず乗れるアトラクションなど、そうあるはずもなく、待ち時間にもだいぶ費やしてしまったので、来場してから、結構な時間が経っていた。
これから並んで乗れるとしても、2つくらいが限界かもしれない。
「なぁなぁ郁ー、やっぱ最後は、…………アレ、行っとく?」
「ん?」
最後の一口に齧り付いた後(結局また、口元にクリームを付けている)、ニヤリと笑って蒼一郎が言って来るので、何かと思って指差す方向を見れば、大きな観覧車。
郁雅は、観覧車と蒼一郎を交互に見た。
「郁?」
「まぁ…………うん」
まったく羞恥心がないと言ったら嘘になるけれど、でも乗りたい気持ちのほうが勝って、郁雅はモゴモゴと頷いた。
べたに日曜日の恋人たちを演じている自分たちが、何だかちょっと恥ずかしい。というか、それを全然嫌だと思っていない自分が恥ずかしい。
何となく顔が熱い気がして、郁雅は一気にコーラを飲み干した。
うん、世の中は平和だ。
目の前で幸せそうな顔をしてクレープを頬張る蒼一郎を見ていると、つくづくそう感じる、と郁雅は思った。
「ぅん? 郁も食う?」
「いらね。つーかクリーム付いてるけど、口と…………鼻の頭に」
郁雅の視線を、クレープが食べたくて見ているのだと思ったらしい蒼一郎が、食べ掛けのクレープを郁雅のほうに差し出してきたが、甘いものの苦手な郁雅は、それをお断りした。
それにしても、いい年をした男が遊園地でクレープを食べるってどうなの? という以前に、どういう食べ方をすると、鼻の頭にまでクリームが付くのか教えてほしい。
(まぁ、いいんだけど)
見当違いなところを拭っている蒼一郎にあえて手を貸さず、郁雅は笑いを堪えながらその様子を眺める。
見た目はチャラいくせに、こういうところは癒し系だなぁ、とか思ってしまう。
年上のくせに手は掛かるわ、世話は焼けるわで、面倒を見るのは結構大変なんだけれど、でもこういうところが癖になる。
久々に来た遊園地は予想以上に2人のテンションを上げさせ、うっかり5連続絶叫マシンとか、2連チャンお化け屋敷とか、無駄に心拍数を上げまくった後、ちょっと休憩と、蒼一郎はクレープを、郁雅はコーラを買って座ったのだ。
浮かれてる?
いや、一緒にいる蒼一郎が普段からこんなだから、郁雅がすごーく大人な感じがするけれど、実際は蒼一郎より1つ年下だし、まだ20歳だし、こういうところに来れば楽しいに決まっている。
「郁ー、次何乗る?」
「…まだ付いてる、鼻んとこ」
呆れてそう言えば、取ってよぉ〜、と情けない顔で蒼一郎が顔を寄せてくるので、仕方なく拭ってやる。
…うん。世の中は平和だ。
「で、何乗る? ねぇ、何乗る?」
「んー…」
蒼一郎に言われ、郁雅は薄暗くなり始めた園内をグルリと見回した。
日曜日の遊園地で並ばず乗れるアトラクションなど、そうあるはずもなく、待ち時間にもだいぶ費やしてしまったので、来場してから、結構な時間が経っていた。
これから並んで乗れるとしても、2つくらいが限界かもしれない。
「なぁなぁ郁ー、やっぱ最後は、…………アレ、行っとく?」
「ん?」
最後の一口に齧り付いた後(結局また、口元にクリームを付けている)、ニヤリと笑って蒼一郎が言って来るので、何かと思って指差す方向を見れば、大きな観覧車。
郁雅は、観覧車と蒼一郎を交互に見た。
「郁?」
「まぁ…………うん」
まったく羞恥心がないと言ったら嘘になるけれど、でも乗りたい気持ちのほうが勝って、郁雅はモゴモゴと頷いた。
べたに日曜日の恋人たちを演じている自分たちが、何だかちょっと恥ずかしい。というか、それを全然嫌だと思っていない自分が恥ずかしい。
何となく顔が熱い気がして、郁雅は一気にコーラを飲み干した。
2009.11.25 (Wed)
05. アフタヌーン・ティー (3)
和衣は、自分の恋人が男だということを、後輩の真大には隠しておきたいようなのだが、その仕草や言動から真大にはバレバレだった(というか、真大にしたら、本当に隠す気があるのかと思いたくなるくらいだった)けれど、結局のところ、相手が誰なのかまでは分からなかったのだが、これでハッキリした。
だって、普段よく一緒にいる仲間の中で、恋人でもない人間とお揃いの指輪なんか、絶対にしない。もし後から似たのを持っていることが分かったら、いくら気に入っているものだとしても、そこから先、着けるのをやめる。
少なくとも、真大ならそうする。
しかし2人は、気にすることなくお揃いの指輪をしているし、祐介の隣に座った和衣は、幸せそうにその指輪を見つめているようにさえ、真大には見える。
(カズくんがプレゼントしたのかな)
それとも2人でお揃いのものを買いに行ったのだろうか。
どっちだとしても、ちょっと羨ましいとか思う自分がいて、真大は心の中で自分自身に突っ込んだ。
(別にそんなの…)
真大は空にしたミルクティーのペットボトルを、ベコベコと潰す。
「ねーカズちゃん、俺もミルクティー飲みたい。温かいの」
「?? 飲めばいいじゃん、何で俺に言うの?」
真大が飲んでいたミルクティーを見て思ったのだろう、食べ終わったアイスのゴミを弄っていた睦月が、なぜか和衣におねだりする。
「買ってよー」
「だから、何で俺に言うの! 亮に言いなよ」
全部飲まないで、ちょっと分けてあげればよかったかな、でも俺の飲み掛けなんて飲まないよね、と真大は2人のやりとりを見ながら思う。
和衣のことなら高校のころから知っているから、今さらそのキャラに驚きはしないが、睦月はさらにその上を行っているようで、不思議な人だと思うし、見ていて飽きない。
きっと睦月と2人きりになったら、祐介と違って気を遣うことなく、つまんないとか平気で言っちゃうんだろうなぁ、この人は。
「真大、お待たせ」
「あ、翔真くん」
真大が勝手に先輩方の人間観察をしていたら、ようやく待ち人来る、だ。
「あれ、ショウちゃん、1人?」
確か亮と一緒だったはずなのに。
睦月はバキッとアイスの棒をへし折った。
「ん? 亮、トイレ。すぐ来るよ」
「だってさ、むっちゃん」
翔真の返事ににんまりしたのは和衣で、隣で睦月は唇を突き出して、「うっさいなぁ」て、和衣の腕をペチペチ叩いている。
翔真はその様子に苦笑しながら、真大の隣に座った。
(…お揃い、か)
視界に入った翔真に指には、センスのいい指輪。
自分で買ったのかな、それとも誰かに買ってもらったのかな? もしかして、昔の女?
嫉妬なんてカッコ悪いし、お揃いとか、そんなの別に。
――――でも。
「ねぇ翔真くん」
「ん?」
耳元で、こっそりと囁く。
「これから2人で買い物行こうよ」
「んー? いいけど?」
それでさ、買っちゃおっか。
お揃いの指輪。
また出掛けんかった…。
だって、普段よく一緒にいる仲間の中で、恋人でもない人間とお揃いの指輪なんか、絶対にしない。もし後から似たのを持っていることが分かったら、いくら気に入っているものだとしても、そこから先、着けるのをやめる。
少なくとも、真大ならそうする。
しかし2人は、気にすることなくお揃いの指輪をしているし、祐介の隣に座った和衣は、幸せそうにその指輪を見つめているようにさえ、真大には見える。
(カズくんがプレゼントしたのかな)
それとも2人でお揃いのものを買いに行ったのだろうか。
どっちだとしても、ちょっと羨ましいとか思う自分がいて、真大は心の中で自分自身に突っ込んだ。
(別にそんなの…)
真大は空にしたミルクティーのペットボトルを、ベコベコと潰す。
「ねーカズちゃん、俺もミルクティー飲みたい。温かいの」
「?? 飲めばいいじゃん、何で俺に言うの?」
真大が飲んでいたミルクティーを見て思ったのだろう、食べ終わったアイスのゴミを弄っていた睦月が、なぜか和衣におねだりする。
「買ってよー」
「だから、何で俺に言うの! 亮に言いなよ」
全部飲まないで、ちょっと分けてあげればよかったかな、でも俺の飲み掛けなんて飲まないよね、と真大は2人のやりとりを見ながら思う。
和衣のことなら高校のころから知っているから、今さらそのキャラに驚きはしないが、睦月はさらにその上を行っているようで、不思議な人だと思うし、見ていて飽きない。
きっと睦月と2人きりになったら、祐介と違って気を遣うことなく、つまんないとか平気で言っちゃうんだろうなぁ、この人は。
「真大、お待たせ」
「あ、翔真くん」
真大が勝手に先輩方の人間観察をしていたら、ようやく待ち人来る、だ。
「あれ、ショウちゃん、1人?」
確か亮と一緒だったはずなのに。
睦月はバキッとアイスの棒をへし折った。
「ん? 亮、トイレ。すぐ来るよ」
「だってさ、むっちゃん」
翔真の返事ににんまりしたのは和衣で、隣で睦月は唇を突き出して、「うっさいなぁ」て、和衣の腕をペチペチ叩いている。
翔真はその様子に苦笑しながら、真大の隣に座った。
(…お揃い、か)
視界に入った翔真に指には、センスのいい指輪。
自分で買ったのかな、それとも誰かに買ってもらったのかな? もしかして、昔の女?
嫉妬なんてカッコ悪いし、お揃いとか、そんなの別に。
――――でも。
「ねぇ翔真くん」
「ん?」
耳元で、こっそりと囁く。
「これから2人で買い物行こうよ」
「んー? いいけど?」
それでさ、買っちゃおっか。
お揃いの指輪。
また出掛けんかった…。
2009.11.24 (Tue)
05. アフタヌーン・ティー (2)
単にショップで見掛けただけなら、こんなに印象深く覚えてもいないだろうから、きっと他に誰か着けている人がいるのだろう。
でも誰だったか、思い出せない。
(蒼ちゃん? 郁? んー…)
思い出せそうで思い出せない、嫌な感覚。
真大は必死に記憶を辿る。
別に祐介が着けている指輪のことを、そこまで突き詰める必要なんてないのに、時間を持て余しているせいだろうか、やけにそのことばかり考えてしまう。
テレビで誰か芸能人でも着けていたのだろうか。
しかし、センスのいい指輪ではあるけれど、真大の趣味ではないから、ここまで覚えているとも思えないのだが。
(うーん…)
真大はグビリと冷め掛けたミルクティーを飲んだ。
(んあ゛ー……思い出せないっ!)
悔しいけど、ダメだ〜っ! て、真大は思い切りテーブルに突っ伏した。
もちろん、真大の内心なんか知る由もない祐介は、突然の真大の行動にギョッとして視線を向けたが、テーブルに伏している真大はそれに気付かない。
思い出せないから諦めよう、て思うのに、目をギュッと瞑っても、目に焼き付いたかのように、頭の中に祐介の指輪が浮かんでくる。
何かが真大の中で引っ掛かっているのだ。
「お待たせ〜。真大、どうしたの? お腹痛い?」
「…あ、カズくん」
テーブルに突っ伏していた真大は、和衣の声に慌てて頭を上げた。
先ほど真大たちを置いてどこかに行ってしまった、和衣と睦月が戻って来たのだ。
しかも睦月は、もう涼しいと感じる季節になってきたというのに、アイスを頬張っていて、案の定、祐介に「寒くねぇの?」と突っ込まれている。
「だってカズちゃんが、ごちそうしてくれるって言うから」
「むっちゃんが食べたい、て言ったんでしょ!」
2人が来た途端、急に席が賑やかになる。
祐介は、苦笑しながら雑誌を閉じた。やはり雑誌は、真大と一緒にいる間の、間を持たせるためのものだったらしい。
「むっちゃん、垂れてるよ」
「んー…ティシュー…」
睦月は、融けたアイスが垂れた手を、和衣のほうに差し出している。食べるのに専念したいから、拭いてくれということらしい。
和衣は、「もー」とか言いながら、それでもティシューを取り出して、甲斐甲斐しく睦月の手を拭いたり、テーブルに垂れたアイスを拭いたりしている。
「あ、」
ティシューを片付けている和衣の手元を、何となくぼんやりと眺めていた真大は、ふと気付いてしまった。
和衣の右手の指輪。
先ほどまで真大を苦しめていた、思い出せないモヤモヤが、一気に解決してしまった。
(指輪……カズくんがしてるのに似てるんだ…)
祐介の右手で光っていた指輪、どこかで見た覚えがあると思っていたら、和衣がよく着けているものと似ているのだ。
まったく同じ、というわけではない。
けれど、明らかにお揃いだと分かる品。
(…ふぅん)
真大はようやく納得がいった。
彼が、和衣の恋人なのだ。
でも誰だったか、思い出せない。
(蒼ちゃん? 郁? んー…)
思い出せそうで思い出せない、嫌な感覚。
真大は必死に記憶を辿る。
別に祐介が着けている指輪のことを、そこまで突き詰める必要なんてないのに、時間を持て余しているせいだろうか、やけにそのことばかり考えてしまう。
テレビで誰か芸能人でも着けていたのだろうか。
しかし、センスのいい指輪ではあるけれど、真大の趣味ではないから、ここまで覚えているとも思えないのだが。
(うーん…)
真大はグビリと冷め掛けたミルクティーを飲んだ。
(んあ゛ー……思い出せないっ!)
悔しいけど、ダメだ〜っ! て、真大は思い切りテーブルに突っ伏した。
もちろん、真大の内心なんか知る由もない祐介は、突然の真大の行動にギョッとして視線を向けたが、テーブルに伏している真大はそれに気付かない。
思い出せないから諦めよう、て思うのに、目をギュッと瞑っても、目に焼き付いたかのように、頭の中に祐介の指輪が浮かんでくる。
何かが真大の中で引っ掛かっているのだ。
「お待たせ〜。真大、どうしたの? お腹痛い?」
「…あ、カズくん」
テーブルに突っ伏していた真大は、和衣の声に慌てて頭を上げた。
先ほど真大たちを置いてどこかに行ってしまった、和衣と睦月が戻って来たのだ。
しかも睦月は、もう涼しいと感じる季節になってきたというのに、アイスを頬張っていて、案の定、祐介に「寒くねぇの?」と突っ込まれている。
「だってカズちゃんが、ごちそうしてくれるって言うから」
「むっちゃんが食べたい、て言ったんでしょ!」
2人が来た途端、急に席が賑やかになる。
祐介は、苦笑しながら雑誌を閉じた。やはり雑誌は、真大と一緒にいる間の、間を持たせるためのものだったらしい。
「むっちゃん、垂れてるよ」
「んー…ティシュー…」
睦月は、融けたアイスが垂れた手を、和衣のほうに差し出している。食べるのに専念したいから、拭いてくれということらしい。
和衣は、「もー」とか言いながら、それでもティシューを取り出して、甲斐甲斐しく睦月の手を拭いたり、テーブルに垂れたアイスを拭いたりしている。
「あ、」
ティシューを片付けている和衣の手元を、何となくぼんやりと眺めていた真大は、ふと気付いてしまった。
和衣の右手の指輪。
先ほどまで真大を苦しめていた、思い出せないモヤモヤが、一気に解決してしまった。
(指輪……カズくんがしてるのに似てるんだ…)
祐介の右手で光っていた指輪、どこかで見た覚えがあると思っていたら、和衣がよく着けているものと似ているのだ。
まったく同じ、というわけではない。
けれど、明らかにお揃いだと分かる品。
(…ふぅん)
真大はようやく納得がいった。
彼が、和衣の恋人なのだ。
2009.11.23 (Mon)
05. アフタヌーン・ティー (1)
何でこんなことになったんだろう――――真大はロイヤルミルクティーのペットボトルを弄りながら、ぼんやりと思った。
大学のカフェテリア。
向かいにはなぜか、1学年先輩の野上祐介。
周囲はざわついているのに、この席だけはシン…と静まり返っている。微妙過ぎるお茶会。
(ホントに、何でこんなことになっちゃったんだろ…)
最初、真大は1人で、恋人である翔真が来るのを待っていた。
そこに高校からの先輩である和衣が、祐介と睦月一緒にやって来たのだが、何か買いたいものがあるとかで和衣と睦月が席を立ってしまったものだから、この不思議で微妙な2人組が取り残されてしまったのである。
学年が違うとはいえ、和衣や翔真の友人である祐介とはそれなりに面識はある。それに真大は人見知りとかあまりしないほうだし、あえて祐介のことを避けていたこともないのだが、何となく今まで話したり遊んだりする機会のないまま過ごしてきた。
だから、彼と2人きりになることが、まさかこんなに気まずいとは、夢にも思わなかったのだ。
(気まずいて言うか……いや、別にいいんだけど…)
2人でいるからといって無理に会話をする必要もないし、現に祐介はずっと雑誌を見ていて、真大と話をする気もないようだから、何も真大だけが気にすることはないのだけれど。
(でもやっぱ…)
気にならないと言えば、それは嘘だ。
けれど今さら席を変えるのも妙だし、やっぱりこうしているしかないのか。
(…不思議な人)
2人きりになってから、会話らしい会話をしていない。
普通、ちょっとは気を遣って、話し掛けるとかしそうなものなのに。…いや別に、話したいわけじゃないけど。
うん、別に話したいわけじゃない。
だって話したければ、こちらから話し掛ければいいだけだし。
真大は勝手に結論付けて、自分自身を納得させ、暇潰しに携帯電話を開いた――――けれど、何だか集中できない。気にしないようにしているのに、何だか祐介が気になる。
自分の友人にいないタイプだからだろうか。
「ぅー………………あ、」
「…え?」
「あ…いや、何でもないです」
「??」
思わず漏れてしまった声に祐介が反応して顔を上げたので、真大は何でもないふうにごまかした。
(…指輪)
ふと、祐介の右手で光る指輪に目が止まったのだ。
20歳の大学生が着けるに相応しくないような、そんなデザインではない。シンプルながら、センスもあるし。
ただ勝手に、祐介が指輪とかを着けるようなタイプだとも思っていなかったので、ちょっと意外だった。
真大は携帯電話を弄るふりをしながら、祐介の手元を観察する。
男にしては細い指。キレイな手だと思う。
そこに嵌る指輪を、真大はどこかで見たことがあるような気がした。
(最近チェックしたリングじゃないし…………翔真くんが似たようなの、持ってたっけ?)
大学のカフェテリア。
向かいにはなぜか、1学年先輩の野上祐介。
周囲はざわついているのに、この席だけはシン…と静まり返っている。微妙過ぎるお茶会。
(ホントに、何でこんなことになっちゃったんだろ…)
最初、真大は1人で、恋人である翔真が来るのを待っていた。
そこに高校からの先輩である和衣が、祐介と睦月一緒にやって来たのだが、何か買いたいものがあるとかで和衣と睦月が席を立ってしまったものだから、この不思議で微妙な2人組が取り残されてしまったのである。
学年が違うとはいえ、和衣や翔真の友人である祐介とはそれなりに面識はある。それに真大は人見知りとかあまりしないほうだし、あえて祐介のことを避けていたこともないのだが、何となく今まで話したり遊んだりする機会のないまま過ごしてきた。
だから、彼と2人きりになることが、まさかこんなに気まずいとは、夢にも思わなかったのだ。
(気まずいて言うか……いや、別にいいんだけど…)
2人でいるからといって無理に会話をする必要もないし、現に祐介はずっと雑誌を見ていて、真大と話をする気もないようだから、何も真大だけが気にすることはないのだけれど。
(でもやっぱ…)
気にならないと言えば、それは嘘だ。
けれど今さら席を変えるのも妙だし、やっぱりこうしているしかないのか。
(…不思議な人)
2人きりになってから、会話らしい会話をしていない。
普通、ちょっとは気を遣って、話し掛けるとかしそうなものなのに。…いや別に、話したいわけじゃないけど。
うん、別に話したいわけじゃない。
だって話したければ、こちらから話し掛ければいいだけだし。
真大は勝手に結論付けて、自分自身を納得させ、暇潰しに携帯電話を開いた――――けれど、何だか集中できない。気にしないようにしているのに、何だか祐介が気になる。
自分の友人にいないタイプだからだろうか。
「ぅー………………あ、」
「…え?」
「あ…いや、何でもないです」
「??」
思わず漏れてしまった声に祐介が反応して顔を上げたので、真大は何でもないふうにごまかした。
(…指輪)
ふと、祐介の右手で光る指輪に目が止まったのだ。
20歳の大学生が着けるに相応しくないような、そんなデザインではない。シンプルながら、センスもあるし。
ただ勝手に、祐介が指輪とかを着けるようなタイプだとも思っていなかったので、ちょっと意外だった。
真大は携帯電話を弄るふりをしながら、祐介の手元を観察する。
男にしては細い指。キレイな手だと思う。
そこに嵌る指輪を、真大はどこかで見たことがあるような気がした。
(最近チェックしたリングじゃないし…………翔真くんが似たようなの、持ってたっけ?)




