恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2008年09月

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26. ひとさじの愛をください (前編)


「啓ちゃん、そんなカッコで寒くない? 何か羽織るもん、貸そうか?」
「……ん、」

 とりあえず啓ちゃんをソファに座らせて、エアコンの温度をちょっとだけ上げる。
 啓ちゃんはぼんやりと床を見つめてるだけで、でもその体、すっごい寒そう。
 見てるだけで寒そうだから、クロゼットから出した室内用の上着を啓ちゃんに放った。
 でも、よく考えたら、啓ちゃんのカッコ、スーツじゃない。仕事んときと違うカッコしてるってことは、1回、自分ち帰ったってこと?

「なぁ啓ちゃん。何かあった?」

 こんな時間に、急に人んち来るんだもん。
 そんくらいのこと聞く権利、俺にだってあるよな?

「いや、まぁ言いたくはないとは思うけど、こんな時間にそんなカッコで急に来て、しかも何かケガしてるし…」
「……ん、ゴメン」
「謝られても」

 別に啓ちゃんが来たの、迷惑って思ってるわけじゃないし。

「家帰ろって思ったけど、この顔で帰ったら心配するし…」
「俺だって心配するわ」
「そうだな……ゴメン」
「……何か今日の啓ちゃん、らしくない」

 やっぱ言いたくないんだろな。
 何があったか知らないけど、あの傷は頬引っ叩かれでもしないと(それも相当強く)、出来ないだろうから…………そんな理由、出来れば人には言いたくないよな。
 それにしても、この啓ちゃんを引っ叩くって、いったいどんなヤツなんだろ。相当勇気いるよなぁ。

「貴久」
「ん? 何か飲む? あ、でもアルコールしかないかも。あったかいもん…」
「いや、いらないから。気ぃ遣わないで、ホント」
「うん。で?」
「あー……いや、ホントにテツ、いないんだな」
「…………うん」

 振り返れば、すまなそうな表情の啓ちゃんと目が合った。
 そういえば、哲也が出てってから、啓ちゃんとこの話をちゃんとすんの、初めてかも。
 啓ちゃんは、哲也と会ったり連絡しあったりしてるのかな…………って、そんなの気にしてどうすんだ、俺。

「うまくいかないなぁ、お互い」
「え?」
「…………恋人と別れた」

 ……………………。

「うぇっ!?」

 自分でも何て声出してんだ、て思うほど間抜けな声を上げて、俺はそれでも啓ちゃんが飲むかなって思って出そうとした缶ビールを、床に落としてしまった。
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26. ひとさじの愛をください (後編)


「は? え?」

 いや、啓ちゃんに恋人がいたなんて聞くのも初耳だし、いやまぁ別に恋人いるよーとか、そんなんいちいち報告しなくてもいいんだけど、え? 別れた?
 …………て、

「その傷、」

 もしかしてその別れた恋人さんに、引っ叩かれたとか?

「思っきりビンタされた」

 って、アンタ、事も無げに言いますけどね。
 ビンタて。
 口の端切れるほどのビンタって、何よ。

「別れたいって言ったら、バッシーンて」

 うっわー。
 振られた腹いせにってこと? こわー。

「……痛くないの?」

 冷蔵庫を閉めて啓ちゃんの側に行くと、「痛いよ」って普通に返された。
 そらそうだよ。血ぃ出てんだもんな。
 頬とか、冷やしたほうがいいのかな?

「啓ちゃん、手当て……どうしよ?」
「しなくていいよ」
「傷、残るよ?」
「構わん」

 仕事に差し支えるよ? って言えば、ごまかす、て。
 豪気な人だわ。
 まぁ……何て言ってごまかすかは、知らないけど。

「でも、啓ちゃん引っ叩くなんて、すごい子だね」
「…………3つ上でな、よく暴力振るう人だった」
「年上なんだ? てか、暴力て」

 そんな、普通な顔して言わないでよ。
 だって普通、暴力なんか振るわないでしょ。それって流行りの(いや、流行ってもらっちゃ困るけど)ドメスティックバイオレンスってヤツか?
 でもそんなのされて、よく啓ちゃんがキレもしないで、付き合ってたな。

「子供みたいな人なんだ。人一倍独占欲が強くて、なのに自分は奔放で………………でも、好きだった」
「でも……啓ちゃん、自分から別れたいて言ったんでしょ?」
「…………ん、言っちゃった…」

 ねぇ啓ちゃん。何でそんな寂しそうな顔してんの?
 だってしょっちゅう暴力振るうような人なんでしょ?
 そんな人となんて、別れて正解じゃないの?

「何で別れようなんて言ったんだろ、俺…」
「そんな…」

 今更―――――て続けようとして、俺は言葉を飲み込んだ。
 今更なのは、俺も一緒じゃんか。

「あ、啓ちゃん、傷あんま触らないほうが…」

 啓ちゃんが、もうかさぶたになってるそこを指で弄ってるから、また血が滲んで来てる。
 そんなんじゃ、いつまで経っても治んないじゃん。

「いいの。どうせこんな傷……いつかは消えるんだから」
「は?」
「一生…………一生消えなければいいのに。ずっと残ってたらいいのに」
「何言ってんの、啓ちゃん」

 下向いちゃったから、啓ちゃんの表情は見ないけど。
 でもホント、何を言ってるの?

「この傷がいつか消えてなくなるみたいに、あの人の中の……俺に振られたなんて傷、いつか消えてなくなっちゃうんだろうなぁ」
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27. 不器用でやさしい人だからきっと (前編)


 俺には分からないように、啓ちゃんはきっとずっと、(哲也のことも含めて)いろんなこと悩んでたんだろうな、いつの間にかソファで寝ちゃってて。
 まさかまたこのふとん出すときが来るなんて思ってなかったけど、しょうがない、前に哲也が使ってたふとんを出して、啓ちゃんを寝かしてやる。

 てか、よっぽど疲れてんのかな、肩担いで体起こしても、全然起きない。風邪とか引かなきゃいいけど。
 …………にしても、服、このままでいいかな? 寝苦しい? でも起こすのも何かかわいそうだし。どうしよ。

♪ ------ ♪ ------ ♪

「うぉっ」

 啓ちゃんのジーンズんのポケットから零れ落ちた携帯電話が、急に震え出して、思わずビクッてなった。
 ケータイのバイブの音って、案外デカイんだよね。

「啓ちゃん、ケータイ鳴ってるよ? 啓ちゃん」

 すぐに切れないところからして、たぶん電話のほうだと思うけど、こんな時間に掛かってくるなんて、何か急用とか、大事な用件なんじゃないかなって思って、とりあえず起こしてみる…………けど。

「起きないなぁ…」

 すっかり熟睡してる啓ちゃんは、全然起きる気配がない。
 いくら何でも仕事の関係ではないと思うけど……サブディスプレイに表示される名前。星野祐二。知らない名前だから、きっと啓ちゃんのプライベートなんだろうな。

「啓ちゃん、ケータイ……あ、切れた」

 うーん……どうしよ。

「啓ちゃーん」

 て、無理か。
 急用とかならまた掛って来るだろ。

 あ、服。
 どぉしよ。着替えさそうかな。
 でも起きないし……このままでも爆睡してるから、まぁいいか。寝苦しくなったら、起きるだろ。
 とりあえず着替えを啓ちゃんの枕元に用意してやって、俺は風呂入って寝ることにする。

 それにしても、啓ちゃんの恋人だった人が、そんな暴力的な人だったなんてなぁー。
 啓ちゃん、時々口悪いって言うか……ちょっと怖いときあるけど、そんな、物事を暴力で解決しようとか、そういう人じゃないし、理不尽なこと大嫌いなのに。
 意外っちゃあ、意外。

『うまくいかないよなぁ、お互い』

 さっきの、啓ちゃんの言葉が蘇る。

 何なんだろ、ホント。
 好きって、何?
 何が正解で、何が間違ってるの?

 俺らは一体どうすれば良かったんだろう。
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27. 不器用でやさしい人だからきっと (中編)


 翌朝、起きてリビングに行ったら、ふとんの上にペタンと座って啓ちゃんがいた。…………まだ寝惚けてんのかな?

「啓ちゃん、おはよ」
「…………あ……」
「俺んち。昨日来たじゃん。忘れた?」
「……ゴメ…、おはよ。あれ? 俺、いつ寝た?」

 一応ふとんの中にいたにもかかわらず、服のまんまってのがどうも引っ掛かるらしく、啓ちゃんは少し困惑気味だ。

「ソファんとこでいつのまにか寝てて。着替えとかするかなって思ったけど、啓ちゃん全然起きないから」
「ふとん出してくれたんだ。悪ぃ」
「別にいいよ。あ、そういえば昨日の夜、啓ちゃん寝た後、ケータイ鳴ってたよ? 一応起こしたんだけど…」
「俺、そんなに爆睡してた?」

 苦笑しながら、啓ちゃんが手繰り寄せた携帯電話を操作する。
 やっぱ疲れてたのかな。

「あ…」
「ん?」

 振り返れば、携帯電話持ったまま、啓ちゃんが固まってる。
 もしかしてすっごい大事な相手からだったのかな? もっとちゃんと起こしてやらなくて、まずかったかな?

「啓ちゃん? ゴメ……鳴ったとき、ちゃんと起こしたほうが良かった? もしかして」
「いや……ううん、いいんだけど……何で…」
「え?」

 でも啓ちゃんは眉をギュッと寄せて、携帯電話の液晶画面を見つめたまま、何も言わない。
 何でそんな顔してんの?

「え!? 啓ちゃん!?」

 突然啓ちゃんが頭を抱えるようにして、体育座りで立てた膝に顔をうずめたから、気分でも悪くなったんかと思って、慌てる。
 やっぱ風邪引いてもうたんかな!?

「だ、大丈夫!? 具合……」
「違う、平気…」
「でも、え?」

 答えた啓ちゃんの声が、何か震えてるように感じたのは、気のせい?

「ど…しよ、」
「え?」

 啓ちゃんは顔を上げて、でもキュッと握り締めた携帯電話を見つめてる。

「啓ちゃん?」
「メールが、来て、」
「は? あれ? 電話じゃなかったの?」
「電話の、後、メール」
「ぅん?」
「…………やり直したい、て」

 そこでようやく啓ちゃんは顔を上げる。
 困ったような、でも少し嬉しそうな表情。
 その、よく暴力振るう、昨日だって口元に傷を作った相手のトコに戻りたいって、そう思ってんの?

「…………俺、バカなんだよ」
「何が?」
「こんなこと、何回もあった…。引っ叩かれたこと何回もあるし、浮気されたこともあるし、そのたんびに別れようって思うのに、でもやっぱり一緒にいたいって思うんだ」
「好きなんだ?」
「……うん。あの人…不器用な人なんだよ。ホントは優しいの」

 優しいって…………暴力振るうような人が?
 本気でそう思うてんの? 啓ちゃん。

「いいんだよ。騙されてるとしたって、ずっと……一生騙し続けてくれるなら、それで」

 そう言って啓ちゃんは、再び携帯電話に視線を落とす。

「それでも、側にいたい…」
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27. 不器用でやさしい人だからきっと (後編)


 やっぱり啓ちゃんがもう帰るって言うから、とりあえず風呂を貸して、着替えを準備してやる。俺って結構甲斐甲斐しいヤツなんだな。

 にしても……見かけに依らずって言ったら悪いけど、啓ちゃんて結構一途なんだな、って思った。
 いや、好きな人に一途になるのはいいし、きっと俺もそうだとは思うけど、でも暴力振るったり、浮気するような人のことを思い続けるなんてこと、出来るかなぁ。
 まぁでも相手も、その日のうちに電話してきたりメールしてきたりしてるわけだから、案外一途なんかも。

 ………………てか、あれ?

 啓ちゃんの話し方だと、昨日の電話の相手から、メールが届いたわけだろ? で、そのメールを送って来たのが、よりを戻そうとしてる元恋人で。

 電話の相手 = メールの送信者 = 啓ちゃんの元カノ。

 でも昨日、俺が着信に気付いた電話の相手、星野祐二さん。
 あれって、どう見ても、女の名前じゃなかったよな。

「は?」

 まさか。
 まさか、な…。

 見間違えただけて、ホントは女の子の名前だったんだよね。うん、あれは女の子の名前なんだ。祐子とかさ。
 ……うん。

 あ、もしくは、あの電話以外に別の電話が掛かって来たんだな。あの電話の星野さんは男の人だけど、それとは別に女の子から掛かってきたんだ。それが啓ちゃんの元カノ。

 そのどっちかだ…………と思う、きっと。

「貴久、風呂、ありがとう」
「ッ…あ、うん」

 風呂から上がった啓ちゃんに声掛けられて、思わずビクッてなった。「何ビビってんだ」て、啓ちゃんに笑われる。

「あの、啓ちゃ…」

 ……いや、ちょっと待て。何て聞く気だ? 俺。
 啓ちゃんの恋人って、男の人? ―――――って、聞けるかいっ!!

「何?」
「あ……いや、何でも…」

 啓ちゃんがそのことについて何も言わないってことは、言わないなりの何か理由があるからだろって思って、聞くのをやめた。

「貴久、……ゴメンな、迷惑掛けたり、心配掛けたりして」
「いや、俺はいいけど、その……気を付けてな?」

 何に対して言ってんだろ、でも啓ちゃんは少し笑って、「ありがとう」って言って、出ていった。

「それでも側にいたい、か…」




*****

 その、問題の恋人とは、どうやらその後うまく行ったみたいで、週が明けて会社で顔を合わせた啓ちゃんは、いつもどおりの啓ちゃんだった。
 頬の腫れはもう引いてて、そして啓ちゃんが一生消えなければいいと言っていた口元の傷も、薄くなって消え掛けていた。
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28. ベクトルの先。 (前編)


***

 予期せぬ残業で、会社を出たのは10時を過ぎてからだった。
 別に帰って何をするってわけでもないから、残業は別にいいんだけど、何がツライって、昼メシ食ってからこの時間まで何も食ってないってこと。

 マジ死ぬ。
 腹空き過ぎて、死ぬ…。
 帰ってから作る元気もないし、食べて帰るのも寛げないから、結局コンビニで買って帰ることに。寂しい男だなぁ…。

 しかも時間が中途半端だったせいで、種類も数もあんましない…。
 別にグルメってわけじゃないけど、どうせならうまいもん食いたいし。うー……どれにしよ。

 ひとしきり悩んで、最後の1個になってたとんかつ弁当に手を伸ばせば、隣からスッと伸びた別の手が、そのとんかつ弁当を掴んでしまった。

「あ、」

 あー……思わず声出た。

 いや別に、弁当の1個くらい、いいんですけどね。もう一生食えないもんでもないし。
 でも食べたかったんですけどね、とんかつ弁当。
 はぁ…ツイてない。

「あ…」
「え?」

 他の弁当を選ぼうと思ったら、そのとんかつ弁当を掴んだ誰かの手が止まってる。
 何? って思って、顔向けたら。

「あ、」

 あぁ、何てこと。
 出来の悪いドラマか。昔の少女マンガとか。

「…………………………」
「…………………………」

 2人して、ただ突っ立ったまま、何も言うことでも出来ず、その場を離れることも出来ない、俺と…………哲也。

「あ……た…かひさ…、今、帰り…?」
「……う、ん」

 互いにその存在に気付いてしまったのに、そ知らぬ振りをするのも不自然で、俺は、問われるがままに頷いた。

「残業で、」
「そう…」

「……………………」
「……………………」

「あ、じゃあ…」

 今さら何の会話をしていいのか分からなくて、このまま哲也と向き合っているのは息苦しくて、俺は咄嗟にそう言って適当に弁当を1つ取ると、レジに向かった。
 哲也はまだ何か言いたそうにしていたような気もしてけれど、それには気付かない振りで。
 本当は温めてもらうつもりだった弁当を、そうせずそのまま受け取ると、哲也のほうはあえて振り返らずに店を出る。

 逃げてる。

 そう思ったけど、足が止まらない。
 さすがに走り出しはしなかったけど、いつもより絶対早足だと思う。
 アホだ、俺は。

 なのに。

「貴久!!」

 …………コイツも、アホだ。
 こんな人通りのあるとこで、そんなデカイ声で呼ぶなよ。
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28. ベクトルの先。 (中編)


「貴久、待って!!」

 この声も。
 この呼び方も。

 俺は振り返らずに、足を止めた。

「ちょっと待ってよ!」
「……何? どうした?」

 飽くまで、普通に。
 普通に問い掛ける。

「いや、あの……何か…」

 哲也は困ったように、俯いてしまった。

「その…途中まで、一緒に帰らない?」
「…………え? あ、うん」

 意外ともいえる哲也の言葉に驚きつつ、よく分からないまま俺は承諾してしまっていた。

「仕事……どう?」

 一緒に帰ろうと言ってきたくせに、哲也は何も言わずに隣を歩いてるだけだから、何とはなしに聞いてみた。

「え? あ、うん…何とか。新しくデザインした服、置かしてもらったり」
「順調なんだ。良かったな」
「……うん」
「ん?」
「うん、順調」

 俺のほうを向いた哲也が、少し笑った。

「貴久、は…?」
「え? あぁ、うん、相変わらずだよ?」
「そう…」

 何となく、会話がぎこちない。続かない。
 そりゃそうだ。
 だって俺たちは…。

「、哲也?」

 隣を歩いてた哲也が急に立ち止まったんで、何かと思って俺も足を止める。

「どうした?」
「あ…俺、こっちだから…」

 哲也が指差すのは、俺が帰るのとは別方向の路地。
 じゃあな、て言って別れればいいのに、きっと哲也もそれを分かってるのに、でも互いに何も言えずに立ち尽くす。

 向こうに……この向こうの先に、哲也の新しい生活があって、いつもの帰り道の先に、相変わらずな俺の生活がある。
 歩き出せばもう、2度と交わらない道かもしれないけれど。

「じゃあ」
「……ん、」

「………………」
「………………」

「…………じゃ…」
「…………」

 2人とも、動き出せなくて。
 周りの景色が、ゆっくりなのか、素早くなのか、ただ流れていって。

「じゃあ、な」
「ぅん…」

 吹っ切るように、哲也に背を向けて。
 ゆっくりと、歩き出す。
 いつもの、帰り道。自分の家に向かって。



「貴久っ!!」


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28. ベクトルの先。 (後編)


「貴久っ!!」

 止めたくなかったけれど、名前を呼ばれて、足が止まった。
 別に何かを期待してるわけじゃない。
 もう戻れないし、もう遅すぎる。

「貴久、俺…、…………俺ら、もうダメのかな?」
「…………ダメって、何が?」

 振り返りもせずに。

 あぁ、今君はどんな顔をしてるの?
 また泣きそうな顔、してるのかな。

「たか…ひさ…」
「泣くなよ」
「泣いてないっ…」

 どこが。
 めっちゃ泣き声じゃん。
 そんな多くないけど、周りに人いるのに。

「何で泣くんだよ」
「泣いてない言ってんだろ!」

 振り返れば、…………やっぱり目を潤ませてる、哲也。

「泣いてんじゃん。いい年して何泣いてんだよ、こんなトコで」
「…るさい!」

 とりあえずここじゃ、人目に付き過ぎる。
 哲也を引っ張って、歩道の端っこに。もうシャッターの下りてる店の前。

「何で泣くんだよ」
「……泣いてな…」
「どこが。なぁ、何で泣いてんの、哲也」
「知らん…!」

 そう言って哲也は俯いてしまって。
 俺はただ、その金髪のつむじを見つめる。

「…………哲也、」
「俺、な……ホント、幸せだよ?」
「え?」
「仕事もうまく行ってるし、俺の服いいって言ってくれる人もいるし、帰るトコ……あるし、…………『好き』って、言ってくれる、し…」

 それは、最後まで俺の言わなかった言葉。
 俺と哲也の関係を壊したくないと思って、言えなかった、けれど結局は俺たちを別つことになった、一言。
 それを今、哲也に言ってやれるのは、もう俺じゃなくて。

「だから俺、今幸せなの。幸せなはずなの、そうでしょ?」
「そうだと、思うよ?」
「でもさ、ダメなんだ、俺…」
「何が?」
「………………」

 けれど哲也は、項垂れた頭を左右に振るだけ。

「ダメなの」
「何が。何がダメなの、哲也」
「ダメなんだ、ここが…」

 そう言って、顔を上げた哲也は、握った拳で自分の胸を叩いた。

「ここが……何か、ポッカリ空いてんの。こんなに幸せなのに、でも満たされてないなんて…………ダメだよね」
「ダメかも、な」
「はっきり言うなよ、アホぉ…」
「自分で言ったんだろ。アホはお前だ」
「貴久、意地悪だ…」

 だって。
 そんな、今さら優しくだなんて、そんなの。

「…………優しくしたら、ツラくなるだろ?」

 お前も、俺も。

「今だって、ツライよ」
「そんなの……言うなよ」
「……ゴメン。だって…」

 きっとお互い、待っているのは…………待ち望んでいるのは、きっかけ。
 この閉塞的な空間を、時間を打破するような。

 きっと、お互いが掛けたい言葉は、同じはずだけれど。
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29. 星が降る限り月が輝く限りそれは変わらないもの


「哲也……もう、ここでバイバイしよ?」
「え?」

 長い沈黙を打ち破るように言った俺のセリフに、弾かれるように哲也は顔を上げた。
 黙ったまま、どのくらいの時間が流れたのかは分からない。沈黙は、長かったのか、短かったのか―――――時計を見たら、思いのほか経過していた時間に驚かされる。

「もう帰らないと、心配される」
「…………嫌だ」
「哲也、」
「だってここでバイバイしたら、もう会われなくなる!」
「………………もう、会わないほうがいいよ」
「嫌だ!! 嫌だぁ…」

 何で?
 何でそんなん言うんだよ。
 また会えばツラくなるってこと、お前だって分かるだろ?

「俺……ホントは分かってるよ? 何でこんな気持ちになるのか」
「哲也! …………それは言うな、言ったらダメだよ。……お前には、帰ったら待っててくれる人がいるんだよ? お前のことを愛してくれる、」
「貴久……俺のこと、もう嫌いになったの?」
「そうじゃなくて、」
「なら何!?」

 嫌いになるなんて。
 そんなわけない。
 そんなこと、あるわけないだろ?
 お前とは一緒にいたいよ? でも、もう無理だろ? 何でそれを分かってくれないの?

「お前は分かってない。言っただろ? お前には帰るトコがあるんだよ。もし俺がお前といたいって、俺んトコに戻って来いって言ったら、お前、それ捨てて来れんのか? 全部捨てることになるんだぞ!」
「………………」

 哲也はハッとしたような顔で、俺のことを見上げていた。
 こんなクサいセリフ、出来損ないのドラマじゃあるまいし、まさか自分で言うときが来るなんて、思ってもみなかったけど。

「分かっただろ? だからもう、バイバイしよ?」
「……嫌だ…」
「哲也」
「だって俺……それでも貴久といたいんだもん」

 真っ直ぐに、見つめられて。
 その瞳の中に、揺るぎなさを見つける。




 ………………ふと、啓ちゃんの言葉を思い出した。

 よく暴力を振るう人だって。
 そんなの、何でよりを戻したいなんて思うのか、俺には全然理解できなかったけど。
 でも、

『それでも、側にいたいんだ』

 何でそんな風に言うのか。
 あぁ、やっと分かった。

「あぁ…」

 大きく息をついて、頭を抱えた。

 いや、前から分かってたよ。
 気付きたくなかっただけ。

「貴久?」
「…………アホだなぁ……ホント」
「は!? え? 何が?」
「……俺が」
「え? 何で?」

 顔を上げれば、まだ目を潤ませたまま、けれど俺の行動を不可解に思ったのか、眉を寄せて訝しげな表情をしてる。
 ダメだ……俺まで泣きそうだ。

「…………そうなんだ、側にいたいんだ…」
「え?」

 きっと、それだけじゃ、ダメなんだろうけど。
 側にいたいって、一緒にいたいって、それだけじゃあダメなんだろうけど、でも。


「俺も、お前と一緒にいたいよ、哲也」
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30. 曲がり角で明け星ひとつ (前編)


 きっと、こんなんじゃ、ダメだ。


 …………でも。



*****

「秋は、休みがいっぱいあって、いいね。連休もあるし」

 初秋の冷たい空気の中。
 隣を歩く哲也が、突然そんなことを言い出した。

「別にお前、連休とか関係ないだろ? 日曜日、元から仕事だろ?」
「でも、何かいいじゃん。休みだぁーってなるじゃんか!」
「だーかーら、お前は休みじゃないだろ」

 言えば、哲也は子供みたいに頬を膨らまして、「でもいいの!」て言う。
 まぁ俺はカレンダーどおり休みだし、もっと言えば土曜日もお休みですから。満喫しますけどね。

「寒いなぁ」
「うん、すっげぇ寒い」

 昼間、晴れたからな。今になると、すげぇ空気冷たい。

「…………ゴメンな、こんな時間に」

 手がかじかむんか、しきりに手をさすってた哲也が、小さい声で言った。
 …………こんな時間。
 まぁ、ね。
 もうすぐ4時ですわ―――――明け方の。
 明日……いや、今日は仕事休みだからいいんだけど。

 哲也からの電話は、3時ちょっと過ぎに鳴った…………5日ぶりの電話。

 そんな時間、もちろん俺は寝てたからすぐに出れなくて、1回目のは出そびれた。
 寝惚けてボーっとしてたら、すぐに2回目が鳴って、慌てて電話に出た。
 電話越しの哲也はグズグズ鼻を啜ってて、どうやら……というか、間違いなく泣いてるようで。
 泣きながら哲也が『会いたい』って言ってきたから、『おいで』って言ったけど、雨降ってる音がして―――――嫌な予感。

『傘持ってない』

 その言葉が決定打。
 哲也の居場所を聞き出して、俺は家を出る。それが3時半。
 啓ちゃんが聞いたら、『どこまでお人好しなんだ』て、絶対突っ込まれる。

「ふふ…」
「え? 何急に笑ってんの、貴久」

 想像が付きすぎる啓ちゃんを思ったら、思わず吹き出してしまって。
 途端に、『キモイ』とか言いながら、哲也が眉を顰めた。

「何でもない。それよりちゃんと傘入れよ。わざわざ迎え来てんのに、濡れて風邪引いたら承知しねぇぞ」
「……ん、」

 哲也は素直に、半歩ほど俺のほうに寄った。

 …………はい、そうです。相合傘です。
 いや、別に変な意味で、傘を1本しか持ってかなかったわけじゃないんです。もとから俺ん家に傘が1本しかないから、しょうがないんです。

 幸いにも哲也は小さなカバン1つしか持ってないから、これ以上濡れる心配がない。他の荷物は店に置いてあるとかで。

「もともと……そんなに置く場所もなかったし」

 荷物は? て聞いたら、そんな風に言われて。どうやらずっと、あの大荷物は哲也が勤めてる店に置いていたらしい。
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30. 曲がり角で明け星ひとつ (中編)


「6畳一間なんだよね。別にさぁ、男の1人暮らしだから特別狭いわけじゃないし、宿なしの俺に比べたらマシだし…………そんなに、嫌じゃなかったよ」

 別に深入りして聞くつもりはなかったのに、哲也のほうから勝手にそう打ち明けてきた。

「だって、貴久みたいにバカデカいヤツじゃなかったし」
「悪かったな、無駄にデカくて」
「そこまで言ってない」

 少しだけ苦笑しながら、哲也はひょいと傘から抜け出した。

「おい、」
「雨、止んでるよ?」

 何してんだ、て続けようとしたら、空を見上げながら哲也は両手を翳して見せた。

「星、見える」

 のんきにそう言う哲也にもう何も返さず、俺は傘を閉じて、雨粒を払った。

「あのさぁ」
「んー?」
「あの人さぁ」

 ちょっとだけ先を歩いてた哲也が、くるっと振り返って、後ろ向きのまま歩く。
 危ないな、て思う。

「貴久みたく2部屋もあるようなウチに住んでないし、」
「だからそれは、」
「仕事場まで遠いから、朝すっごい早くて夜遅いし。夜勤とかあるから、あんま家にいないし。冷蔵庫の中、いっつも空っぽだし。それにメシもあんま興味ないから、作ってあげても何も言わないし」
「………………」
「貴久と、全然似てないよ。容姿も違うし、生活のリズムも全然俺と合わないし………………でも、いっぱい好きって言ってくれた」
「そこも、俺とは違うんだな」
「うん」

 はっきりと肯定して、哲也はまた前を向いた。

「でも、貴久と似てるトコもあるよ?」
「どこ?」
「俺が出てくって言ったら…………止めなかった」
「…………嫌なトコ、似てんだな」
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30. 曲がり角で明け星ひとつ (後編)


 哲也と、再会して。
 それでもやっぱり一緒にいたいって、気持ちに気が付いて。
 だからって、そんな、駆け落ちみたいな真似が出来るわけでもないから、ひとまずは互いの戻るべき場所に戻って。ケジメを付けようって。

 そして、今日だ。
 何でこんな時間になったのかは分からないし、聞くつもりもないけれど、哲也は一緒に住んでた人のところを出て、俺のところに来た。

 …………奪った、て言うのかな。こういうの。
 略奪愛?
 そんなの、絶対あり得ないって思ってたのに。
 普通に彼女が出来て、付き合って、いつか結婚する……みたいな、そんな普通の将来像を、何となくやけど、ぼんやりと思い描いてたのに。
 気付けば男を好きになってて、こんなことになってる。

「あ…あれ」
「え?」

 隣で、哲也が空を指差してる。
 だんだんと明るくなり始めてる、東の空。

「何?」
「明星。明けの明星だよ、あれ」
「あれって、どれよ」

 俺、そんなに星とか詳しくないから、全然分かんない。
 哲也が指差してる方向に、じっと目を凝らす。

「あの、ホラ、すっごい明るいヤツ」
「あー……あれ、かな?」

 何となく、哲也の言わんとするものなのがどれなのか、分かってくる。

「で? それが何? だいたい明星って何? 一番星?」
「貴久のアホ! 明星て、金星のこと! 明けの明星は、明け方に見えるヤツで、宵の明星が夕方に見えるヤツ」
「ふぅん」
「…………あんま興味ないだろ?」
「ゴメン」
「バカ。…………明けの明星は、ラテン語で"ルシフェル"って言って、最高位の天使に与えられた名前なんだよ? でもルシフェルは天界を追放されて、堕天使になっちゃうの」

 そこまで言って俺のほうを見た哲也は、ちょっとだけ複雑な表情で、でも口元に笑みを作った。
 どっちの意味の笑顔かは知らんけど。

 でも出来れば、俺が星座とか神話とか何も知らなくて、アホだなぁって呆れてる笑いだったらいいな。
 堕天使とか何とか、そんなの気にしてるのをごまかしてるんじゃなければ、いいと思う。

「……寒いから、早く帰ろ?」
「…………うん」
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31. ミルクティーは薔薇色の夢 (前編)


「…………何か、変な感じ、ですね」
「何で敬語なんだよ」

 帰る途中、コンビニで買ったミルクティの缶を手の中で弄びながら、数日ぶりにウチに来た哲也は、何か、借りてきた猫みたいにちっちゃくなってる。

「飲まないの? それ」
「え? あ、飲、む」

 もう冷めてんじゃねぇの? て思ったけど、哲也はぎこちない仕草でプルトップに指を掛けた。

「あの、さぁ…」
「何?」

 一口飲んだところで、哲也が顔を上げた。

「あのー…」
「何だよ」

「あの、だから…」
「だから、何だって!」

「だーかーらー!」

「…………哲也、何か緊張してる?」
「ッ、そりゃするだろ! 分かれよ、この鈍感!」
「いや、分かるけど! やめろよ、こっちまで緊張するじゃん!」

 だって、よく考えたら。
 互いの気持ちを伝え合ってから、ちゃんとこんな風に2人で一緒にいるのって、初めてなわけだし。
 そんなの別に意識してなかったけど、哲也が変に緊張してるから、それがこっちにまで伝わって来て、妙に落ち着かない気分になる。

「貴久ぁ」
「……何?」
「もーちょっとそっち行っていい?」

 俺らは、ローテーブルを挟んで、ソファにやなくて、じかに床に座ってて。
 いいよ、て言ったら、テーブルに缶置いた哲也がズリズリと俺に近い側のテーブルの角にまでやって来た。

「ホントにちょっとなんだな」

 そう言って笑えば、「うっさい」って突っ込まれた。でも顔が赤い。

「……………………」
「……………………」

「…………貴久だって、顔赤い」
「………………」

 言われなくても分かってる。
 何か、頬が熱いし。

「…………なぁ、哲也。何か俺ら……傍から見たら、めっちゃ恥ずかしい2人組だぜ?」
「俺もそー思う…」

 いい歳した男が2人、顔を赤くして、付き合いたての中学生みたいな雰囲気を醸し出してんだろ。
 恥ずかしいって言うより、キモいよなぁ……なんて思ってたら、哲也がもうちょっと俺のほうに寄って来て、「何?」て聞くより先、ぽて、て額を俺の肩に乗せた。
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31. ミルクティーは薔薇色の夢 (後編)


「貴久…………ありがとう…」
「……何が?」

 何で急に礼を言われたのか、分からない。
 何で? 何が? て思ってたら、いきなりキュッて抱き付かれて、思考が止まった。

 多少の戸惑いはあったけど、俺も哲也の背中に腕を回す。
 さすがに男相手にはないけど、俺だって今まで付き合った女の子をこうやって抱き締めたことくらいあるのに、何だろ、すげぇ緊張してる、俺。

「……俺のこと、見捨てないでくれて、ありがとう」
「見捨てるて……そんなの…、何それ」
「まだ俺のことを好きでいてくれて、ありがとう。またこうして一緒にいてくれて、ありがとう。…………ありがとう、貴久」
「…………そこまで感謝されんのも、何か恥ずかしいんだけど…」

 そう言って少し手を緩めれば、哲也がくっ付いたまま顔だけ上げて。目が合ったら、何だかおかしくなって、2人して吹き出した。

「そんなんだったら、俺もだ」
「何が?」
「言っとくけど、俺はいっぺんお前に出てかれてんだぞ? いわば、俺は哲也に捨てられたってことじゃんか?」
「違うよ、貴久が俺のこと捨てたんだろ? だから俺が出てったの!」
「違うって」
「違うよ」
「……………………」
「……………………」
「ふはっ」

 しょうもないことで言い合ってたら、またおかしくなってくる。
 ホント、小学生の会話だよ、これ。

「そんなの言いたかったんじゃないの。俺も哲也に"ありがとう"て言いたいって思ったの。…………戻って来てくれて、ありがとう、て」
「そんなの…………だって、」

 キュ~て哲也の腕に力が入って、その額をグリグリ俺の肩口に押し付けてきて。

「何? どうした、哲也」
「…………好き」
「、」

 それはそれは小さな。
 蚊の泣くような声やったけど。
 はっきりと耳に届いたその言葉に、自分でもビックリするくらい心臓が高鳴って。

 哲也が顔を上げて、俺のほうをジッと見た。
 俺の言葉を待ってる。

「…………好き、だよ?」
「何で疑問形やねん!」
「だって!」

 めっちゃ顔熱い!
 だって、だってこんなの! ………………ラブラブ?

 だあぁ~~~~!!

「貴久?」

 …………………………。

「…………ゴメ……ちょっと恥ずかしかった……」

 今度は逆に、俺が哲也の肩に頭を乗せた。

「貴久が壊れた…」
「やってこんなの、恥ずかしいじゃんか」
「何でだよ。今まで彼女にしてきたのと同じだろ?」
「……………………」
「何で黙んだよ」

 えーっと。
 まぁ俺も今までに何人かの女の子とお付き合いをしてきましたけどね。
 よくよく考えると、こんな風にイチャイチャ、みたいなんしたことがないなって。

「嫌いなの? そういうの」

 クリクリした目で下から覗き込んでくるから、俺は曖昧に笑ってごまかした。
 嫌いってわけじゃないけど…………苦手? いや、別にいいんだど。

「くふふ……好きだよ、貴久」
「ッ……分かったって!」

 もー! めっちゃ恥ずかしい!

「あんまりからかうなよ…」
「貴久、ヘタレー」
「るさい! 違うわ!」
「違うの?」
「違うて」
「ふーん…………ねぇ、なら、キスして?」

 ……………………。

「…………はい?」
「キス。して? 好きって言って」
「哲…」

 こんなの普通に言ってくるなよ、恥ずかしいじゃんか! とか思いつつ、うっかりかわいいとか思ってる俺も俺だ。

「貴久?」

 あーもうっ!

「何回も言わすな、ボケッ」




 重ねた唇からは、甘いミルクティの味がした。






*END*







 開始したのが6月だって事実に、笑ってもらえるといい。もう9月だし。
 ここまでお付き合いくださったみなさま、本当にありがとうございました。
 そして拍手、コメント、ランクリしてくださったみなさん、大変励みになりました。本当にありがとうございました。
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(無題)


「痛い」
「……」
「めっちゃ痛い」
「……あっそう」
「なぁ、痛いってば! 何でこっち見ないんだよ。『あっそう』て、それだけ? 伊織、冷たい」
「啓、うっさい…」
「何で? 何でそんなこと言うの? 俺、また引っ叩かれたのに」
「あぁー……ちょぉ口んトコ切れてるな」
「痛っ…ちょっ、伊織、触んな」
「はいはい。だいたいなぁ、お前は何でそんなにバカなんだ」
「何が?」
「引っ叩かれて喜んで、マゾか」
「喜んでない」
「だったら、別れりゃいいじゃん、そんなヤツとなんか」
「……別れらんないし」
「…………。…なら、」
「ん?」
「俺が奪ってやろうか? アイツから」
「伊織…?」



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 まだ全然何にも書いてない啓ちゃん番外編を、こんな風にしようかなぁ…みたいな気がしないでもない。
 全然違う話になったら、後でこっそりカテゴリー変更します。
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腐女子バトン


 明日からの、読み切り短編まつりを前に。
 今さらですけど、私の萌えとか。もしかしたら知ってたほうがかなぁ、みたいな。
 きっとこの自分の萌えに忠実に、まつりを進めていくと思う。

 てなことで、「腐女子バトン」です。
 どぞー!




記号は興味の度合い ◎・○・△・×
 ◎ → 大好き
 ○ → 好き
 △ → まあまあ
 × → ダメ(>_<)


01. マンガ系 : △
 昔はまってたこともあるけど……今はマンガ全然読まないんで、よく分かんないです。
 ちなみに昔はまってたのは、スラム○ンクとか、幽遊○書とか、るろうに○心とか。(何のために伏せてるのか、よく分からなくなってきた)


02. アニメ系 : △
 私の中で、アニメはマンガ原作ってイメージがあるので、上と同様の理由で今はよく分からないです。


03. 芸能系 : ◎
 うん、好き。普通に好き。
 芸能界は疎いけど、生身のいい男は好き。昔、芸能系の同人にもはまってた。


04. スポーツ系 : △
 自分自身が運動とかスポーツをしてこなかったんで、スポーツに燃えない。よって萌えない。


05. 創作june系 : ○
 これって、版権とかナマモノでなく、オリジナルてことですかね。
 作品を読むこと自体、好きです。
 でもオリジナルじゃないの(マンガ系とか芸能とか)も好きだから、○てことで。


06. 眼鏡 : ◎
 もうね、◎の10乗くらい。
 超好き。好きすぎて変になる(もう十分変だけど)(だよねー)

 私の場合、秀才キャラで眼鏡かけてるのは、そんなに萌えないんですよ(同級生に敬語で喋るようなキャラ自体、萌えない)。
 単なるオシャレ眼鏡が好き。
 眼鏡男子ラブ。


07. ひげ : ×
 ひげの生えない男はいないだろうけど、夢だけは見させてください。


08. 年下攻め : ○
 年下だから好き、とかそういうこだわりはないですが。
 あ、でもオヤジ受けとかは無理です。オヤジが無理なんで。


09. ショタ : ×
 ごめんなさい、下は高校生が限界。
 ちなみに年齢ストライクは、20~24歳。がんばって17~26歳。(せまっ)


10. 鬼畜 : ×??
 何か…いまいちピンと来ない。
 精神面? エロ?
 エロが激しいのはいいんですけど(いいんだ…)、無理やり系とかね。
 立場を利用してエッチにもつれ込むとか、弱みを握ってひどいことするとか、そういうのは苦手です。


11. 幼馴染 : ○
 高校生男子を書いて、意外といいって気が付いた。


12. 全寮制男子高校 : ×
 まず、高校生って部分にそんなに萌えがないです。学生なら、大学生がいい。
 「高校生男子」はエロを書きたいだけで、「高校生」て部分にこだわりなし。

 あと、高校の寮生活って、自由が全然ない気がする。
 私、時間的にも社会的にも束縛が少ないほうが好きみたい。
 希望する人だけが入ってる、大学生の寮なら超萌える。(もう黙って)


13. 先生 : ○
 先生と生徒なら、結構好きかも。
 先生同士はいまいち萌えない。
 (その微妙なボーダーラインはどこで発生してんの?)


14. リーマン : △
 キライじゃないけど、萌えはない。
 私、「スーツ」てアイテムに萌えがないです。ネクタイも。

 社会人なら、自由業の人がいい。それか接客とか、ウォーター方面とか。書いてるのも、だいたいそんなのばっか。
 だから今になってみると、「アスファルト~」のアイツらが、リーマンである必要がどこにあったのかと思う。(もう遅い)


15. 主従関係 : ×
 性格的なこと(ヘタレと強気とか)で発生する主従っぽいのはいいけど、役職とか家柄とか、どうしても逃れられない主従関係はいまいち。
 学校とか会社の先輩後輩も、その立場を振り翳すような関係になると、もうダメ。
 社会的立場として、対等なのがいい。


16. 誘いうけ : ◎
 すみません、大好物です。
 自分が書くと、だいたいそんな感じになってる気がする。


17. 総受け : ○
 オリジナル作品で、総受けだと、いまいちかも。
 二次創作だと、ときどきありますよね。
 攻め受けが好みなら、ありですね。(ですね、て。何その解説風)


18. 天然 : ○
 好きだけど、天然でボケはあんまり。
 天然の強気がいい。
 強気でシレッとしてるんだけど、やっぱ天然、みたいな。
 しっかり者なんだけど、どっか抜けてる、とか。


19. 友情から発展 : ○
 どんな発展の仕方かにもよる。(難しいね)
 片思い系が好きなんで、友情なんだけど、片方はずっと恋心だったとか、友だちとして出会ったんだけど、片方一目惚れとか。
 そんなのがいい。


20. 近親相姦 : ○
 でも仲良し兄弟とかよりも、どっちかの思いが強すぎて、そういう関係に無理やり発展するとか、切ない系がいいな。
 ちなみに親子は無理です(親の年齢が、ストライクゾーンを外れてるんで)。


21. リバ : ??
 CPによる。
 無理なものは無理。
 でも良ければ、人様がドン引くくらいマイナーなカプでもOK!(だいたいそんなのばっか)(すまん!)


22. june :
 昔は読んでた。もう忘れちゃった。

23. b-boy :
 すみません、読んだことないです。

24. gust :
 昔読んだことがあるような気がしないでもない……くらい昔のことなんで、好きかどうかの判定できません。

25. BEaST :
 読んだことないです。
 タイトル見ても、ピンと来ない。

26. 花音 :
 本屋でタイトルを見たことがあるくらい。
 読んだことないです。

27. アンジェリーク :
 すみません、全然知りません。
 タイトルはうっすら知ってるけど、内容は皆無。

28. 遙かなる時空の中で :
 上と同じ。
 これがマンガなのかアニメなのかゲームなのかも分かんないです、ごめんなさい。

29. 金色のコルダ :
 同じく。
 てか、知らないのばっか。

30. ときメモ :
 あ、知ってるの出てきた。
 昔ちょこっとだけやったことある。1時間くらい。(みじかっ!)
 でも好き嫌いの判定は分かんないです。

31. すきしょ :
 また知らない。
 何の略ですか? (略されてなかったりして…)

32. 学園ヘヴン :
 タイトルだけ知ってる。
 でもスミマセン、内容知りません。

33. 咎狗の血 :
 分かんないです。
 読み方も分かんない。
 ファンの方、ごめんなさい。


34. オンリーイベント : ◎
 今はまってるジャンルには、足繁く通ってます。
 何のジャンルかはナ・イ・シ・ョ。(キモイ)(本気で謝ります)


35. オンリーオベントにサークル参加 : △
 オンリーイベントには、サークル参加したことないです。
 チャンスがあればしてもいいけど、本を出す気力がもうない。


36. コミケに行く : ◎
 自分の好きなジャンルとか、サークルさんが出てれば行きます。


37. コミケにサークル参加 : △
 昔してたけど……もう、本出す元気がない。
 人の店番とかならいい。


38. 同人サイト : ◎
 いや、まぁ、今まさに、ですしね。
 サイトってか、ブログですが。
 HPを作れ、て言われたら、管理できないんで、「×」です。


39. ペンネーム : ◎
 これ、○とか×とか付けられるもの?
 自分のペンネームが好きかどうかってことですかね。

 てか私、PNとかHNって、普通の名前みたく、苗字+名前じゃなきゃダメだと思ってたんですよ、バカだから。
 でも何でもいいんですよね。
 人のカッコいいHN見ると、ちょっと羨ましく思う。


40. 同人小説執筆 : ◎
 もう私の人生そのものになりつつある。(大袈裟)
 小説を書き始めたのが、小学生くらいで(同人じゃないよ)、同人的内容を書くようになってももう10年くらい…。
 ここまで来れば、人生って言っていいと思う。(いいよね?)

 てか、そんなに長いこと書いてるくせに、いまだこんな内容のしか書けない私って…。精進しますよ!
(いや、もうこの年だし、こんなことに精進するより、他に何かすることがあるんじゃないかとも思う)(もっともだ)


41. 同人漫画執筆 : ×
 自分がするかどうか、てことですよ。絵が描けないんでね。
 マンガ書いてる人は、本気で尊敬します。


42. イベント主催 : ×
 無理。
 面倒くさい。
 主催してくれてる人、本当にありがとう。


43. コスプレ : ×
 自分ではしたことがないし、するつもりもないです。
 でもしてる人って、器用なんだなぁ、て思う。自分で作るんでしょ?
 家庭科は苦手です。


44. お絵かきチャット : ×
 だから、絵が描けないんでね。


45. 仲の良さそうな男同士を見ると受攻を考える : ×
 身近な人間で、そういうことをしたことはないです。
 やっぱ妄想は妄想。そのほうが楽しい。
 芸能も生身の人間だけど、しょせん出会うこともない夢の国の住人だからね。


最後に……
※これ見た人全員やってください

------------------------------------------------------
 ↑ てなってますけど、やりたい人だけやってください。




 てな感じで、やってみました。
 いまさら私の萌えを知ってどうすんだ、て感じですけど。
 てかたぶん、人様の萌えと大きくかけ離れてる気がする。

 ていうか。
 最初の「◎・○・△・×」て「・○・」とか「・△・」が顔に見える! (だから?)
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カテゴリー:notes

読み切り掌編集 INDEX


*シリアスもラブラブも特に表記なく入り乱れてますので、ご注意ください。

↑OLD ↓NEW

おれの恋人はとてもかわいくない (tittle:lisさま)
戻れない (tittle:lisさま)
君のてのひら
幸せをみると泣きたくなる。私には手に入らないから。 (tittle:lisさま)
No Smoking!?
ある夏の日 (tittle:lisさま)
■チャンス (前編) (後編)
甘いのは、唇
きみはばかだ (tittle:lisさま)
甘い言葉はいらないの (tittle:雨霰さま)
いつも傍にいたい (tittle:as far as I knowさま)
Midnight Butterfly
 *@MKさんへ素敵なイラストとともに出張中です。2009.7.4記事「Midnight Butterfly 出張中」
so sweet
叶わないと知っている (だから、だからきっと) (tittle:雨霰さま)
愛すことよりずっとカンタン (突き放してしまえば楽なのに) (tittle:雨霰さま)
おはようのキス
きみはまぶしいひかり (tittle:lisさま)
lips
stray love
ナビゲーション
好き。だから、好き。
赤色の嘘 (tittle:lisさま)
今日は雨の日 (tittle:lisさま)
信頼関係
世界の果てまで行こう (tittle:lisさま)

君がニャンと鳴いたから*会話SS
 *@MKさんのクリスマスフリー絵に、間抜けなSSを付けてしまいましたっ…!!
 *しかもこんなSSに、とってもすてきなボイスまで付けていただきました!!

  →@MKさんvoiceページ

ふしだらな男
 *「ひまつぶし」伽羅さんの『秋の特別企画』に参加させていただきました。

死にたい三月 (tittle:lisさま)
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カテゴリー:読み切り掌編

おれの恋人はとてもかわいくない


 俺の恋人は、かわいくない。



「…………弘人、うぜぇ」

 ドカッ。

 ゲームに向ってた俺の背中を直撃したのは、床でゴロゴロしてる和希の足の裏。
 ……うざいって―――俺、何もしてないんですけど。
 っていうか、和希のほうがうざい。だからとりあえず無視。ゲーム、いいとこだし。

「何で無視すんだよぉ!!」

 ドカドカ。

 予想どおりの反応に、思わず吹き出しそうになる。
 俺の背中を両足の裏で蹴っ飛ばしながら、和希がジタバタ暴れてる。

「弘人のバーカ、バーカ」

 あぁ、ホントにうざい。
 全然ゲームに集中できないんですけど。

「あのねぇ、」
「あ、やっとこっち向いた」

 いい加減イライラしてきて、少し低い声で振り返れば、俺のそんな様子、全然分ってないのか、和希は嬉しそうに笑った。
 ポーズを掛けるのを忘れていたゲームから、ゲームオーバーを告げる間抜けな音が響く。
 むかつくなぁ。
 とりあえずむかつきに任せて、ダラリと俺のももに乗っけてる和希の足を掴んで持ち上げた。

「うわっ!? 何すんだよ、バカ弘人!」

 ジタバタしてみたって、和希の抵抗なんか大したことない。グイッとその足を引っ張って、自分のほうに引き寄せた。

 ゴチッ。

「いでっ!」

 あ、ヤバ。
 突然のことにバランスを取り切れなかった和希が、床に思い切り頭をぶつけた。
 大丈夫かな? これ以上悪くなったりしないよね?

「バカ! 弘人、ざけんな! 放しやがれ!!」
「ほらほら、そんな乱暴な言葉遣いしないの」
「うぜぇよ! 放せって!」

 何とか俺のことを蹴っ飛ばそうと、掴まれてる足をもがいてるけど、反対の足は自由なんだから、そっちでやればうまくいくよね、きっと。何で気付かないんだろ。

「何ニヤニヤしてんだよ! キモい、弘人!」

 ホントに、さっきからうざいだのキモいだの、よく恋人に向ってそこまで言えるよね。

「はーなーせ……ひぁっ!?」

 もがいてる和希の足をもうちょっと引っ張って、さっきから俺に乱暴してくるその足の裏をペロッと舐めた。

「な、な、な……何すんだよ、この変態!!」

 あーあ、耳まで真っ赤にしちゃって。
 夜になればもっといろいろしてるくせに、何でこのくらいのことでこんなに照れてるの、この子は。

「はいはい、そんなに暴れないでよ」

 掴んでた足を望どおりに放してやったら、案の定、すぐさま蹴飛ばされた。

「バカ、死ね!」

 あー、ホントにもう。
 どうしてこの子は、口を開けばかわいくないことばっかりなのかな。

「ねぇねぇ、和希。その口、ちょっと塞いでもいーい?」
「バカ弘人…………へ!?」

 にっこり笑って問い掛ければ、和希はそのままの格好で固まった。

「ね、いい?」
「あ…え? あの…」

 見る見る間に顔が蒼ざめていく。
 そんなに怖がらせるようなこと、言ったかなぁ?

 逃げられないように和希の足首を掴んで、それから肩を押さえて圧し掛かる。

「ちょ、ちょ、ちょ……ひろ、んっ!?」

 ギュッて目を瞑った和希に顔を近付けて、その口を…………塞ぐ―――――唇で。

「んん~っ!!??」

 しばらくして、やっと事態を把握したらしい和希が、ジタバタと暴れ出す。
 でも力だったら、俺だって和希には負けてないからね。

「なに、なっ……何すんっ…!」
「だからー、口塞ぐ、って言ったでしょ?」
「ふさっ…」

 あ、もしかして、ガムテープとかで塞いじゃうと思った?
 言っとくけど、俺にそんな趣味ないよ? それとも和希、そういうプレイでもしたいの?

「バカ弘人!!」

 真っ赤な顔で目を潤ませながら怒鳴ったって、少しも迫力ないんですけど。

「バカバカバカ!!」
「あーはいはい」


 前言撤回。
 俺の恋人は、十分かわいいです。





彼らのお話、こんなのあります ↓
 今日は雨の日



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戻れない R18


*R18です。18歳未満のかた、そういった表現の苦手なかたはご遠慮ください。

 足を踏み入れたのは、底の見えない、深く暗い沼。
 沈んで、沈んで…………もう戻れない。





「んっ……んん…」

 唇を噛んで、その上から両手で自分の口を押さえて、必死で声を堪える。
 キュウと強く瞑った瞳の端から、キレイな涙が零れ落ちる。

「やぁっ!!」

 グイ、と腰を押し進めると、我慢できずに春也は身を捩った。拍子に両手が口元から外れ、甘い声が漏れる。

「お兄ちゃん……そんな声出したら、お母さんたちに聞こえちゃうよ…?」
「…ッ!!」

 耳元で囁くように言われ、春也はハッとして唇を噛んだ。
 潤んだ瞳を開けると、智也の―――弟の智也の、細めた目と視線が合った。

 智也は血の繋がった弟で、3つ下の弟で、けれど今自分はその弟の下に組み敷かれて、本来はそうでない場所に、彼の屹立したものを受け入れている。
 力強く押さえ込まれ、腰を動かされ、いいように揺さ振られて。

「とも……もぉ…」

 苦しい。
 彼を受け入れているその場所も、塞がれた唇も。―――認めたくはない、この快感も。

 もう何度となく実弟を受け入れて、そして慣らされてしまった体。
 どんなに否定しても反応してしまう自分の体が、余計に春也を苦しめる。

「気持ちい?」
「や…ちが……」
「何が違うの? こんなにして。弟に突っ込まれて、感じまくってんでしょ? 淫乱…」
「やだやだぁ…!」
「ほら、静かにしなよ。お母さんたちに気付かれてもいいの? もしかして見られたいとか?」
「い、いや……違う…ちが……」

 ポロポロと零れ落ちる春也の涙を、智也は舌で舐め取ってやる。
 快楽と懺悔の気持ちの狭間で、感情の昂ってしまった春也は、ただただ泣きじゃくるばかり。

「…………お母さん、ゴメンなさ……」

 しゃくり上げながら、春也が呟くように言った。

「―――お兄ちゃ…」
「んぁっ!?」

 優しく口付けた後、いきなり智也が大きく腰を動かした。
 驚いて春也は大きな声を上げたが、慌てて枕に顔を押し付けて、声を殺す。
 何が突然、智也をこんな狂気に駆り立てたのか、春也には分からない。けれど、両親にばれてしまわないよう、ただひたすら唇を噛んで、静かに涙を零した。

 淫らな吐息。
 軋むベッド。

「と…ともっ……」

 体を反転させられ、伏せの格好で枕に顔をうずめた春也は、嬌声を堪えて智也の名前を呼ぼうとするがままならず、掴まれた腰を激しく揺さ振られる。

「智也……んっ…―――――」

 最奥の一番感じる場所を突かれた瞬間、春也は智也の手の中に欲望を解き放ち、そのまま意識を手放した。




「春也、愛してる…」

 その最後、智也の声が聞こえた気がした。



















 さよなら、神様
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君のてのひら


 アルコールが回っているせいか、繋いだ手が、熱い。
 ていうか、何で手なんか繋いでるんだ、って話だけど。

「律ー、コンビニ寄って帰ろー?」

 帰り道から少し外れたところに見えたコンビニの明かりに、朋春が声を上げた。
 少し後ろを歩いていた朋春に、繋いだ手を手を引っ張られた律は、思わず眉を寄せた。

「……何?」

 律の機嫌は、すこぶる悪い。酔いが醒めるほどに。いや、むしろ悪酔いしそうだ。
 原因は言わずもがな、朋春と繋いだ、その手。
 外ではもちろんのこと、家でたとえ2人きりでも手なんか繋ぎたくない、その良さが分からないと、公言している律には、人通りがないとはいえ、屋外でこうして朋春と手を繋いでいるという事実が何とも許しがたい。
 何度か振り解こうとしたが、ただでさえ力のある朋春が、今は酔っ払っているせいで、いつも以上に力が強く、そうすることも敵わない。

「コンビニー」

 そんな律の気持ちを知ってか知らずか、朋春は繋いだ手をブンブン揺らしている。
 普段は朋春も、外で手を繋ぐなど以ての外と言っているから、おそらく平生ならこんなことはないだろうが、何しろ今日の朋春は酔っ払っている。
 律の眉間に寄っているシワになど気付くはずもなく、「なぁー、コンビニー」なんて、呑気に言っていて。

「コンビニなんか寄らんよ」

 不機嫌さに任せて、律はぶっきらぼうに返した。

「何でぇ? 俺、のど渇いたし」
「あっこに自販機あんじゃん」
「いやだー、コンビニ行きたい。なぁ、律ー」

 ブンブン。駄々を捏ねる子供のように、朋春が手を揺らす。
 律のイライラが募る。

「律ー、なぁ。なぁって」
「うっさい、ボケェ! 行かねぇよ!!」

 とうとう怒りが頂点に達してしまった。
 別にそんな、キレやすいというほどの性格でもないのに。
 繋ぎたくもない手を、ずっと繋いでいたせいか。酔っ払いのやっていることに、いちいちムキになるなんて、そんなの。

 勢いを付けて繋いだ手を解くと、朋春がポカンとした顔で律を見ていた。

「律、怒ってんの?」

 今さら何を、と突っ込みたくなるようなことを言う朋春に、律は大げさなほど大きく溜め息をついた。
 朋春は、律の怒る理由など皆目見当もつかないのか、律の溜め息に、むくれた顔をする。

「なら、1人で行くし」

 クルリと踵を返すと、朋春はさっさとコンビニのほうへと歩いて行ってしまう。律が拍子抜けするほど、あっさりと。

「おい、ちょっ…トモ!」

 そうは言っても、足元がふらついている。外で飲んだのに、ここまで朋春が酔っ払ったのは、やはり律と2人きりだったからだろうか。
 けれどその朋春は1人、律のもとを離れて行ってしまって。
 律は舌打ちを1つすると、小さくなりかけているその背中を追い掛けた。

「トモ!」

 グイッと肩を掴むと、その勢いにガクリと体を揺らして朋春が立ち止まった。

「何?」

 さっきまで怒っていたのは、律だったのに。
 朋春1人がご機嫌で、律はずっと不機嫌だったのに。
 今はもう、勝手に拗ねてしまった朋春の何とか機嫌を直そうと、必死になろうとしてる。

「トモ、ほら、手」
「何が」
「手ぇ貸せ」

 何のことだか分かっていない朋春の手を強引に掴むと、律はその手を引いて歩き出した―――――コンビニとは逆方向、今来た道を戻る。

「ちょっ、どこ行くんだよ!」

 まだコンビニに未練があるのか、朋春は慌てるが、そんなことお構いなしに律はズンズンと歩いて行く。

「あそこの自販で好きなの買ってやるから」
「コンビニ行かんの?」
「コンビニ行ったら、手ぇ繋げないだろ?」
「…………、」

 思い掛けない律の言葉に、朋春はキョトンとしてから、ニコッと口元を緩めた。

「アイスカフェラテがいいな」
「何だそれ。お前ホントに飲むのか?」
「飲むよ」

 いまだかつて朋春の口から、そんなしゃれた飲み物の名前なんか聞いたことがないし、飲んでいるところを見たこともない。
 第一、そこの自動販売機に、朋春の所望しているアイスカフェラテなど、あるのだろうか。
 なかったら、またご機嫌を斜めにしてしまうのではなかろうかと、律は無駄な心配をしてしまう。
 そんな律の気持ちをよそに、朋春は律の手を引っ張った。
 結局自分は、思っている以上に、朋春に対して甘い人間なのだ。

「なぁ、律ー」
「何だ」
「お前の手、汗ばんでるー」
「………………。やかましいわ! お前もだろ!」

 お前が繋ぎたがるから、やってんだぞ! ―――――そう突っ込みたい気持ちを抑えて、律は朋春の手を繋ぎ直した。
 確かに汗ばんでいる、手。熱い。
 アルコールのせいか、それとも。

「ホラ、トモ。どれにすんの? 選べよ」

 目的の自販機までやって来て、律は朋春と繋いでいるのとは逆の手で小銭を探り、機械の中に落とす。

「トモ、」
「んー……これ!」
「えっ!? ちょっ、おまっ…」

 えいっ! と朋春が押したそのボタンは、カフェラテには程遠いコーンポタージュ。当然ホット。

「お前、何してんだ! アイスカフェラテじゃねぇのか!? 何"あったか~い"買ってんだ!」
「ひゃっひゃっ」

 律が空いた手で突っ込んでみても、ご機嫌な酔っ払いはまったく堪えておらず、へらへら笑っているだけだ。
 仕方なく律が商品取り出し口に手を突っ込んでみると、やはり季節柄、購入する人があまりいないせいか、朋春が選んだコーンポタージュは、"あったか~い"どころか、"あっつー!!"というほどに缶が熱くなっている。

「お前なぁ、あっつ! これ、ホントに飲むのか? すっげぇ熱いんだけど」
「んふふ。律にあげる」
「あげるじゃねぇよ! 俺の金で買ったヤツだよ、バカ」

 ダメだ。恐らくこれ以上何を言っても埒が明かない。
 そう判断した律は、まだあっつあつの缶を空いているほうの手の中で転がしながら、自販機の横に朋春を座らせた。

「なん? 帰らんの?」

 いったん手を離して、今度こそ冷たい飲み物を購入する。
 朋春が当初望んだアイスカフェラテは売っていなかったので(もしあって買ったとしても、恐らく飲まないだろうし)、無難に緑茶のペットボトル。

「ホレ」

 ジッと律の行動を見つめていた朋春にペットボトルを放ると、律はその隣に腰を下ろした。

「開けて」

 どう考えても、力なら朋春のほうがあるだろうに、酔っ払った拍子に甘え癖まで出てしまったのか、仕方なく律は素直にペットボトルのキャップを開けてやって、朋春にそれを返した。

「律、飲む?」

 半分くらい開けたところで、朋春が飲みかけのペットボトルを律のほうに差し出して来た。
 それが、実のところ、"もう飲みたくないから、残り全部飲んで"というサインなのを律は知っているから、何も言わずに受け取った。
 片手に冷たい緑茶のペットボトル、もう片方にホットのポタージュの缶。変な感じだ。

「律ー」
「あぁ?」
「律ぅー」
「何だよ」
「好きー」
「こんなとこで言うな、アホ」
「ひゃっひゃっ」

 ペットボトルの残りを飲み干して、今度はコーンポタージュを開ける。

「あち…」

 口を付ければ、まだ熱い。
 チラリ、隣に視線を向ければ、"ホントにそれ飲むの?"という朋春の視線とぶつかったが、何も返さず、ポタージュを口に含む。
 ご丁寧にも、コーンの粒々が入っているタイプ。本当に鬱陶しい。

「あっついなぁ、律ぅ」
「…おう」

 そう言いながらも、朋春は律の手に自分の手を重ねてくる。
 熱い。

「熱い、なぁ」

 真夏の夜。
 "あたたか~い"のコーンポタージュも。
 繋いだ手も。

 熱い。
 何もかも。

「熱いなぁ」

 それでも、繋いだ手が、解けない。







 あんまり涼しくならないうちに…。
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幸せをみると泣きたくなる。私には手に入らないから。


「千秋! 久し振り!」
「わっ、律哉!?」

 授業が終わってカフェテリアに向かう途中、突然背後から抱き付かれ、このテンションの高さは恭平だと信じて疑わなかったのに、振り返ってみたらそれは律哉だった。

「ど…したの?」
「へへー。千秋髪切ったんだね。短いのも似合うー」
「うーん……ちょっと、会話が噛み合ってないよね」

 相変わらずな律哉に、少し苦笑。
 律哉の腕を緩めて振り返れば、今度は俺の髪をワシャワシャし出す。

「あ、ねぇねぇ、千秋にお願いあるんだけど、聞いてくれる?」

 身長なんて数cmしか違わないのに、律哉はクリクリとした瞳で上目遣いに見上げてくる。
 あーあー、そんなかわいい顔、惜しげもなく披露してくれちゃって。

「なぁに?」

 もちろん律哉の願いを断われるはずなんかなくて。
 でも。

「ねぇ、ちょっと胸触らして?」

 でもでも!
 …………律哉は相変わらずの不思議ちゃんだった。

「は?」
「む、ね! いいでしょ~? ね、捲くっていい? シャツ」

 まだイイともダメとも答えてないのに、律哉はサッと俺のシャツの裾に手を掛けて、ここが学校の廊下だっていうのに、何の躊躇いもなくバッと俺のシャツの前を捲り上げてくれた。

「り…律哉くん、君は何がやりたいのかなー?」

 次の授業が始まって、殆ど人が通らないのがせめてもの救いだけど。
 廊下の真ん中。
 いい年した男が、もう一方のシャツを捲り上げて胸を露にさせているなんて、どうかしてる!!

「わーやっぱすごい筋肉! ね、触っていい?」
「はい? わっ!?」

 そしてこれまた律哉くんは、俺が何の返答もしないうち、ペタペタと俺の胸を触ってきて。
 まぁ、男の子同士だし、セクハラってことはないけどさ……一体何なの??

「りつ…」
「りつやーーー!!!」

 …………ここが大学の構内の廊下だって分かってないヤツが、もう1名―――恭平だ。
 奥の角を曲がって姿を現した恭平は、バッチリ俺と目が合ったと思ったら、すぐさまデカイ声で律哉の名前を呼びながら、全力疾走で駆け寄ってきた。

「りっりっりっちゃん!! 何してんの!?」
「恭平、うるさい」

 何してるって…………俺のシャツ捲り上げて、胸をペタペタ。ホント、何やってるんでしょう。

「りっちゃん! よその男の胸を、そんな容易く触るんじゃないの!」

 俺の胸を触っていた律哉の手は、恭平によって引き剥がされて。
 とりあえず俺は、捲り上げられてたシャツを元に戻すけど。

「ねぇねぇ、千秋の胸、すごいんだよ!」
「は? 千秋の胸? 何が? 乳首?」
「るせぇよ!」

 よく分からないけれど、妙に俺の胸を褒めてくれる律哉に対していらないボケをする恭平にとりあえず突っ込んでおく。
 乳首小さいのは、俺だって気にしてんだよ、バカ!

「胸筋だってば! すっごい胸板厚いの! 俺ね、前に着替えるときちょっと見てさぁ、ちゃんと見たいと思ってたんだよねー。千秋、どのくらい鍛えてんの?」
「どのくらい、って言われても……でも結構サーフィンとか行ったし」
「サーフィン!? 超かっこいい! そんでそんなに胸板厚くなるんだ!? すごいすごい!!」

 子供みたいに無邪気に感心する様がかわいくて、ついつい頬が緩んでしまう。そんな律哉の横で、恭平は苦虫を噛み潰したような顔をしてるけど。

「千秋、サーフィンよく行くの?」
「んー時間があればね。この夏は結構行ってるかな。よかったら律哉も一緒に行く?」
「マジで!? あ、でも俺やったことないし…………全然出来ないから、一緒に行ってもつまんないかも…」
「そんなことないよ。しっかり教えるし」
「ホント!? 行きたい行きたい!!」

 キャー!! なんて、もう周りにパァッとお花でも飛ばしちゃってるんじゃないかっていうくらい満面の笑みで、律哉が顔を綻ばせながら抱き付いて来た。
 せっかくだから抱き返してあげると、律哉はますますキュウと抱き付いてきて…………あぁ、何だかいい感じ。

「ちょちょちょちょちょっと!!」

 グイッ。

 そんないい感じの俺たちを引き剥がす手。
 もちろん恭平だ。

「何すんだよ、恭平!」

 俺から離された律哉は、そのまま恭平の腕の中にキュウキュウに抱き寄せられている。

「何すんだじゃないでしょ! ダメダメダメ! 何で千秋とサーフィンなわけ!?」
「だって俺も、千秋みたいにサーフィン出来るようになりたい。胸板厚くなりたいの」
「サーフィンなら俺もするし! つーかこれ以上胸板厚くしてどうすんの!?」

 確かに。
 かわいい顔して筋肉大好きの律哉は、最近やたら鍛えまくってて、すっかり逞しくなっているらしい。
 脱いだところは見たことがないけれど、この顔であんまりムキムキなのもなぁ…。
 でも本人が鍛えたがってるのを止めるのも気が引けるし、それに一緒にサーフィンとか行けるんだったら、すっごい嬉しいのにな。

 …………でも。
 でもさぁ…。

「でも恭平、今年まだ1回も海行ってないって言ってたじゃん。ホントにちゃんと出来るの?」
「出来るっつーの! てか、千秋と行くなんて、言語道断!!」
「言語道断…………あー……難しい言葉知ってて偉いねぇ、恭平くんは」
「偉いっしょ? だから千秋なんかとサーフィン行くのはやめて、俺と遊びに行こうね?」
「えー? ご飯は恭平の奢り?」
「もち」
「じゃあ、しょうがないから恭平と一緒に遊んでやるか」
「やた!」

 ものすごい上から目線なんですけど……律哉さん。
 でも恭平は渋々どころか、大喜びって感じで律哉と約束を取り付けてる。ってか、どうせ今日だって一緒に帰るんでしょ?

 あーあ、やっぱ最後は恭平に持ってかれちゃうのか。

「ゴメンね、千秋。一緒にサーフィン行けそうもないや」
「残念だったね。恭平の教え方がへたくそだったらいつでも連絡してよ。駆けつけるからさ」
「んふふ、そうする!」

 なるべく冗談に聞こえるようにそう言って、恭平の腕の中に収まってる律哉のふわふわの髪の毛を撫でてやる。
 この髪の毛の1本ですら、俺のものにはならないなんて。

「じゃーね、千秋、バイバーイ」
「じゃあね」

 恭平に引き摺られるようにして去っていく律哉。
 無邪気に手を振って。



 あぁ、やっぱ恭平には敵わないんだなって、思い知らされる。
 どんなに強く想ったって、律哉の気持ちのベクトルは恭平のほうを向いていて。




 こんな不毛な恋心……いっそ捨ててしまえればいいのに。






 それでも幸せになれる日を思い描いてるなんて。








 ―――――手に入りっこないのに。
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No Smoking!?


 クチュ…とやらしい音を立てて、唇が離れる。唾液に濡れた唇をペロッと舐めて視線を上げると、那智がなぜか眉を顰めていた。

「何だよ」
「タバコ臭い!」
「は?」
「渉のキス、タバコ臭い!」

 那智が超が付くほどの嫌煙家だということを忘れていたわけではないが、そういえばキスする直前までタバコを吸っていたことを、今さらながら渉は思い出した。

「しょうがねぇだろ、タバコ吸ったんだから」
「吸わなきゃいいじゃん。服とか髪にもタバコの匂いって付くんだよ」

 自分の着ているシャツを鼻に近付け、そのタバコの匂いに、那智はますます渋い表情をする。

「お前も吸えば気にならなくなるだろ」
「吸わないよ、そんなの!」
「吸わないんじゃなくて、吸えないんだろ、お前は」
「吸えなくたっていいもん、タバコなんて。体に悪いだけだし」

 何を言っても減らず口を叩く那智をベッドに組み敷き、もう1度キスしようと顔を近付けたが、力ではやはり勝っている那智の腕が、渉の体を押し戻した。

「イヤ!」
「何だよ」
「渉のキスは好きだけど、タバコは嫌いなの! だから今、渉とキスしたくない気分」

 プイッと那智は体ごと渉からそらした。渉は軽く舌打ちして、那智の横にゴロリと転がると、腕を那智の体に絡める。

「何だよぉ」
「いいだろ、こんくらいさせろ」

 わざと面倒臭そうにしながら、那智は寝返りを打って渉のほうを向いた。

「あのさぁ、俺がタバコ吸えば気にならなくなる、じゃなくて、やっぱ渉がタバコやめるべきだと思う」
「何だよ、まだその話かよ」
「ね、やめなよ、タバコ」
「やめねぇ」

 大体そんなに簡単にやめられるものなら、最初から吸ったりなんかしない。

「何でやめらんないの? 口寂しいの?」
「あぁ、そうかもな」

 そんな理由なんかよく分からない。きっとニコチンとか何かそういうものが影響しているのだろうけど。

「ふ~ん」

 渉の言葉をどう受け取ったのか知らないが、那智は少し何か考えるようにしてから、伸ばしてきた手で渉の顎を掴んだ。

「何だ…」

 言い切らないうち、那智は先ほどまで散々嫌がっていたキスを、自分のほうから仕掛けてきた。
 思いがけない不意打ちのキスに、渉も一瞬固まる。

「―――な、ち…」

 深く舌を絡めようとしたところで、やはり那智のほうから唇を離された。

「おいっ!」

 何なんだよ、自分から誘っといて!
 渉はギラついた目で那智の顔を覗き込んだ。

「これで口寂しくないでしょ? ね、タバコの代わりだよ」
「…………」

 少し呆気にとられている渉に構わず、那智は満面の笑みで話を進めていく。

「渉がタバコやめて口寂しいときは、俺がキスしてあげるの。良くない? これ」
「―――……考えとく…」

 自分が今、ものすごい誘い文句を言っているとはまったく分かっていない様子の那智に、渉は溜め息とともにそう答えるのが精一杯で、甘えてくる那智を何とかあやしてやったのだった。



 そしてその後、渉は本気で禁煙を考えたとか、考えなかったとか。
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ある夏の日


「あちぃ…」

 もう今さら言われなくたって、十二分に分かりきっていることを言っている将人。
 ゴロゴロ、ゴロゴロ、ベッドの上。
 俺のベッドだけどね。

 窓を開ければ、うるさいくらいのセミの声。
 扇風機は生温い風しか運んでこなくて。

「あちぃ、あちぃ、あちぃ!!」
「分かってるよ、うるせぇな」

 あまりにうるさい将人にキレれば、シュンとしてベッドに沈んだ。





「そういえば将人、1年の子、振っちゃったんだって?」

 将人はモテる。
 やっぱ見た目かな? カッコいいもんね。
 でも、付き合ってもすぐに別れちゃうの。バカだから。

「あー、うん」
「ふーん」



「ねぇー悟ー、こっち来てぇ?」
「はぁ?」
「ここ」



 そう言って将人は、ベッドの端をポンポンする。
 だからそれは俺のベッドだって。

 てか俺、今、課題やってる途中なんですが。

「暑いからヤダ」
「ケチィ」
「何とでも」

 チェッ、とか何とか言って、大人しくなる将人。





「ねぇ、何で振っちゃったの?」
「あぁ?」
「その1年の子。何で?」
「だってタイプじゃなかったし」
「ふーん」

 ゴロリ。
 ベッドの上を転がって、転がって、将人はドタンと床に落ちる。

「何してんの?」
「悟のバカ」
「バカなのは、将人でしょ?」

 恨めしそうにこっちを見てるから、しょうがなく手を差し伸べてやる。


「悟…………キスしたい」


 伸ばした手を掴まれて。
 振り解いてしまいたい。


「何言ってんだよ、バカ」
「したいの、悟と」
「バカ将人。そういうのは女に言えよ」


 将人に掴まれた手首が熱い。




「だって、タイプじゃないんだもん」

「バーカ」




「ねぇ、悟。俺は、」





 分かったよ、もう言わないで。俺の負け。




「キス、しよっか?」










 熱くてぬるい、真夏のキス。
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チャンス (前編)


 部屋はアルコールとタバコのにおいに満たされ、テーブルの周りは空き缶が転がってる。
 決してキレイとは言い難いこの空間で、愛しい人は、かわいらしい寝息を立てて眠っていた。

「はぁ…、どうすりゃいいんだ…」

 俺は普段吸わないように心がけているタバコに火を点けた。




*****

 酔っ払ってぐでんぐでんになった海晴(ミハル)さんが俺んちに来たのは、夜中の2時を過ぎたころ。
 ガンガンとドアを叩かれ、俺は慌てて玄関に向かった。
 こんな時間に、この仕打ち。
 イタズラにしては度が過ぎる。それとももっとヤバイ輩か? なんて思いつつ、モニターを覗けば、映っていたのは、職場の先輩で、俺の想い人の海晴さん。
 俺の名前を呼ぶ声が、ドア越しに聞き取れる。
 近所迷惑もいいところで、急いでドアを開けると、なだれるようにして海晴さんが入ってきた。

「酒くさ…」

 俺に凭れるようにして何とか立っている海晴さんからは、それだけで分かるくらいアルコールのにおいが漂っている。

「ん~…アサノぉ~」
「どうしたの、海晴さん。とにかく中入って?」

 子供に言って聞かせるようにして、海晴さんを連れて中に入る。

「あ、あ、あぁ…」

 ソファに座らせてやろうとすると、海晴さんの体はズルリと滑って床に落ちた。

「水飲む?」

 とりあえず海晴さんの体をソファに凭れさせる。

「いらな…、ん~アサノら~」
「そうですよー、アサノくんですよー」

 すっかり呂律の回らなくなっている海晴さんは、俺の両手を掴んで、楽しそうに揺さ振っている。

「何か飲まないと、しんどいでしょ?」
「ビール!」
「飲めないでしょ?」
「飲むの! お前も飲め!」

 飲めないと分かってても、とりあえず言われたとおりにビールぐらいは持ってこないと、海晴さんの気は治まらないかもしれない。
 仕方なく缶ビールを持ってくると、海晴さんは吸いもしないタバコを1本灰にしていた。

「どうしたんすか? こんなに飲んで」

 確か今日海晴さんは、友だちとメシに行くとか言って、嬉しそうに職場を後にしたはず。友だちとケンカしてやけ酒? まさか。
 新しいタバコに火を点けた海晴さんは、一口吸って灰皿に置くと、ビールを受け取った。

「遊びらって…」

 力の入らない手で必死にプルタブを開けようとしている海晴さんから缶ビールを受け取り、代わりに開けてやろうとしていると、ポツリと海晴さんが呟いた。

「俺とのことは遊びなんらって…、……う゛ー…」
「それって…」

 "俺とのこと"ってことは、それには相手がいるわけで。

「今日、友だちとメシじゃなかったの?」

 気付きかけてる真実から目をそむけ、俺は遠回しにそう尋ねる。

「メシじゃねぇよ、このデコ!」

 もうフニャフニャになってるのに、しっかりと俺のデコに突っ込みを食らわせ、海晴さんはビールに口を付ける。

「ここんとこ急いで帰ってたの、そのため?」
「らって、好きらって…俺のこと…」
「いくつ年上?」
「……8…」

 ……てことは、31歳か。
 ってことは、その8つも年上のキレエなお姉さんに、いいように遊ばれたってわけね。
 海晴さんかて、そんなにマジになるほうじゃないけど……今回はかなりハマってたな、こりゃ。

「今まで散々好きらってゆってたのに……やっぱ旦那のほうがいいって…」
「っ!! 人妻かい!」

 思わず突っ込む。
 人様のもんに手ェ出したらダメでしょ、アンタも大人なんだから。

「うっせぇ、お前に何が分かるんだよ!」
「ゴメン、ゴメンて。だからもうちょっと声小さくして…」

 零しそうになってるビールの缶を手から離してやり、何とか海晴さんの気を鎮めさせる。
 夜中の2時にそんなに騒がないでよ、マジで。

「お前なんかに俺の気持ちが分かるかよー…」
「そうだね、ゴメン」
「…ん、まぁ、い…けど」
「眠いの?」
「んーん…」

 緩くかぶりを振るけど、もうまぶたは半分落ちてるし、頭は舟を漕いでる。

「もう寝る?」
「ん…」

 コテンと海晴さんの頭が、俺の肩にも垂れてくる。

「海晴さん?」

 呼びかけても返事はない。寝息だけが聞こえてきて。

「はぁ~、やっと寝た…」

 ちょっとホッとする。
 俺はソファからクッションを引っ張り下ろして海晴さんの枕にし、毛布を掛けてやった。

「年上、ねぇ…」

 海晴さんが年上好きなのは前から知ってるし、最近も何となく浮き足立ってる海晴さんに、彼女いるんだろうなぁって薄々気付いてたけど、まさかそれが人妻で、しかも遊ばれてポイなんて結末は想像してなかった。

「年上、年下、年上…」

 どんなに想っても。
 どんなに努力しても。
 決して変えられない、この年の差。

 どんなにがんばっても俺は海晴さんの年下で。
 男ってだけでもこの恋のハンデなのに、そんな余計な試練を与えなくてもいいのに。

「ホント、どうすりゃいいんだよ…」








 短編だっつってんのに、前後編になってしまいました…。すみません。続きはまた明日。
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チャンス (後編)


「う゛ー…」

 翌朝、海晴さんを起こさないように部屋を片付けていた俺は、海晴さんの奇声に手を止めた。

「海晴さん?」

 眉間にシワを寄せて、海晴さんはゴシゴシ目をこすってる。

「んー、う゛ー」
「海晴さん? 具合悪いの?」

 海晴さんの寝起きの悪さはよく知っている。
 単に覚醒してないだけかもしれないが、昨日の海晴さんの飲酒量を思うと、二日酔いで苦しいという可能性のほうが高い。

「頭痛ぇ…」

 ムクッと起き上がった海晴さんは、キョロキョロしてどうやらここが自分の家でないことに気が付いたらしい。

「え? アサノ? あれ?」
「おはよ、海晴さん」
「おはよ…って、そうじゃなくて、え、何で? ここお前んち?」
「昨日の夜中、酔っ払ってきたでしょ? 覚えてないの?」
「覚えてない…」

 ま、あれだけ酔っ払ってれば、無理ないか。

「俺、何でここ来たんだっけ…」

 ガリガリ頭を掻きながら、海晴さんはまだ床にへたり込んでる。

「言っていいの?」
「何?」
「いいの?」
「…いいけど」
「振られたからでしょ? 8つ年上の人妻に」

 俺は海晴さん前に身を屈めた。

「何で知って…」

 あ、振られたことは覚えてんだ。

「だって海晴さん、俺んち来てずっとくだ巻いてたじゃん」
「マジー? 最悪」

 海晴さんは心底嫌そうな顔をする。年下の俺に、みっともないトコを見せたから。
 年下。

「ゴメンなー」
「別にいいけど…よくここ分かったね。前、1回来ただけなのに」
「何となくな」

 それもだいぶ前、引越ししたばっかりのころで、俺も道順怪しくて、結構遠回りした気がするのに。

「何か食う?」
「いらね」
「水は?」
「飲む」

 俺はゴミ袋を部屋の隅に放ると、冷蔵庫のよく冷えたミネラルウォーターをグラスに注いだ。

「サンキュ」

 海晴さんは受け取った水を一気に飲み干す。俺はその様子を見ているだけ。

「ねぇ海晴さん」
「ん?」
「そんなに年上、好きなん?」
「何だよ、急に」

 夕べの出来事が蘇ったのか、海晴さんは顔を顰めた。

「好き? 年上の人」
「別にー、大人だし、楽だから。…ふん、ガキンチョのお前には分かんねぇよ」

 苛々させる原因に、海晴さんは容赦なかった。
 海晴さんは、今一番俺の嫌がる言葉をサラッと吐いて、「もう1杯」と空のグラスを俺のほうに差し出してる。

「ガキンチョって…」

 俺はグラスじゃなくて、海晴さんの手首を掴んだ。

「何だよ」
「俺だって、もう子どもじゃないんだけど」

 グイッと海晴さんの腕を引いて、2人の距離を詰める。

「アサっ…」

 慌てる海晴さんを無視して、俺はその距離をゼロにした。
 合わせた唇は冷たくて、アルコールの味がした。

「んっ…やめ…、何すんだよ、バカッ!」
「ゲホッ…ってー…」

 もがいていた海晴さんに思いっ切り腹を蹴っ飛ばされ、俺は咳き込みながら海晴さんから手を離した。

「何すんの…」
「そりゃこっちのセリフだよ! お前何しやがんだ!」

 口元を押さえて、海晴さんは耳まで真っ赤にしてる。いくら相手が男だからって、キスくらいでそこまでの反応しなくたっていいのに。

「今さらキスくらいで、腹蹴っ飛ばされるなんて思わなかった」
「何開き直ってんだよ! いきなりキスしといて!」

 反省の色なんか全然ない俺に、海晴さんは文句を捲くし立てる。

「だってしたかったんだもん」
「したかったって…お前なぁ」

 何を言ってもきかないと諦めたのか、海晴さんは溜め息をつけてソファに背中を預けた。

「したかったの、海晴さんとキス」
「うるせぇ、クソガキ」

 伸ばした手をパシッと叩き、海晴さんは「ドーブツ!」とか「ケダモノ!」とか喚いてる。
 やっぱり海晴さんにとって、俺はまだまだガキでしかないのかな。
 そりゃ、"したいからしました"でキスするような男は、ただのガキか動物でしかないかもしれないけど…。

「お前、俺にキスしたからには、ちゃんと責任取れよ?」
「え?」
「ちゃーんと責任取れっつってんの」

 体を起こして、海晴さんはグッと俺のほうに詰め寄った。

「せきに―――んっ…!?」

 わけが分からない…って思ってたら、急に海晴さんに唇を塞がれて。さっき俺がしたのよりも、ずっとずっと深いキス。舌を絡められて。

「ん…」

 唇が離れると、海晴さんはニヤリと笑って見せた。

「本気になってガキじゃねぇって証拠、見せてみな?」
「言ったなー。後悔しても知らないよ?」
「お前こそ、うかうかしてると、俺、逃げてっちゃうよ?」
「絶対逃がさない」

 このチャンスだけは、絶対に逃せない。
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甘いのは、唇


「あー、弘夢(ヒロム)、いいなー、俺にも一口ちょうだい!」

 仕事の休憩時間、自販機が並んだとこでベンチに座ってたら、後ろから声を掛けられる。振り返れば、そこにいたのは彰久(アキヒサ)で、その視線の先には、俺の飲んでるいちごミルクのパック飲料。
 早速目を付けてきたか…。

「ねぇー」

 …この人、確か俺より3つも年上だよね? それが何でこんな甘えたなわけ?
 まぁ、俺と2人きりだからだろうけど。

「はい」

 しょうがないから、俺は飲み掛けのパックを彰久に差し出した。

「わっ、サンキュー」

 本当に嬉しそうに笑って、彰久は俺の横に腰を下ろした。
 律儀に彰久は「いただきま~す」とか言って、ストローを銜える。

(………………やべぇ…………)

 ゴクリと動いた彰久の喉に、思わず俺の喉まで鳴ってしまった。
 つーか、俺が飲んでたストローそのまま使うって、あのっ……それって、か…間接キスっ…!!
 いやいやいや、俺たちもう、キス以上のことしてるし!! 昨日だって、いっぱい彰久に愛されたし! って、そうじゃなくて!

「弘夢?」
「はいっ!?」

 声、引っ繰り返っちゃった。何俺。超だせぇ。

「どうした? あ、ゴメン。一口っつったのに、いっぱい飲んじゃった!」

 俺があんまりにも彰久のほうをジロジロ見てたから、変に思ったらしい。慌てて俺のほうにパックを返してきた。

「え、あ…」

 何気なくそれを受け取って、まだ少し中身が残ってる……けどっ!!

(飲めねぇ~!! 無理! ぜぇーったい無理です!!)

 つーかそんなこと意識してる俺って、何か変態っぽくね?

「弘夢?」
「い…いいよ、全部飲んで…」

 俺はもう1回、パックを彰久に押しやった。
 無理です! 間接キスとか意識し始めたら、マジ飲めないっす!

「いいの? ありがとー、弘夢優しー」
「あ…うん…」

 その笑顔にまたドキリとして、何気なく視線を逸らした。
 間接……じゃなくて、ホントにキスしたい。彰久の唇に。彰久の唇って、気持ちいいんだよね。キスだけでさ、どうにかなっちゃいそうになるの。
 昨日も……

 …って、まずいまずい。こんなとこで、何思い出そうとしてんだ、俺!!
 落ち着け、落ち着け、俺。

 ………………ふぅ…………。
 ……ヤバイ…………俺、変態か?

「なぁ、弘夢」
「な、に…?」
「お前さぁ、頼むから、他のヤツがいる前で、そんな顔すんなよ?」
「え?」

 そんな顔、って?
 隣で彰久が、空になったパックを握り潰して、ゴミ箱に放った。

「あきひ、さ…?」

 グッと彰久の顔が近付いてくる。
 ち…近い…。

「ッ、な…」

 彰久、って呼ぼうとするより先に、重なる、唇。
 ここ会社だし!! …って、頭を過ぎらなかったばっかりじゃない、けど。それよりももっと、この唇の感触を、味わいたかった。

「…ん、」

 ゆっくりと、彰久の唇が離れていく。何となく、名残惜しい気持ち。

「あ……ッ、こ、ここ、会社だしっ!!」

 キスされて、嬉しかったくせに。
 俺の口をついて出た言葉は、そんなかわいげのないセリフ。

「んー? いちごミルクのお礼」
「はぁ?」
「だって弘夢、キスしてほしいって顔してたから」
「し…してないし!」

 うわーうわー、超恥ずかしい!!
 そんなに顔に出てた? 俺。
 ってか、彰久って、そんなに聡いヤツだったっけ?

「続きはお家でね、ひーろちゃん」
「バッ…」

 ニヤリ。
 彰久には珍しい、人の悪そうな笑み。
 でも、不覚にも俺は、ドキリとしてしまうわけで。

「ちゃんと責任取ってよね!」






 いつも学生設定なんで、今回は社会人てことで。
 でも、全然社会人ぽくないし、そうする必要性も、どこにもなかった…orz
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きみはばかだ


 愛を誓いましょう。

 永遠を誓い合いましょう。







 こんな紙切れ、1枚で?












き み は ば か だ







「…………は……?」

 もっと気の利いたことを、言えれば良かったんだと思う。
 でも、口をついて出た言葉は、たった一言、それだけだった。
 間抜けだなぁ、と思った。

「聞こえてた?」
「あぁ、うん……何? 結婚?」

 確かにコイツの口はそう言った。
 一瞬、意味を取り損ねそうになったけど、確かにそう言った。


『俺、結婚することにした』



「えっと……誰と、とか聞いちゃっていいのかな?」
「之哉の知らない子」
「……へぇ…」

 俺の知らない子?
 俺が知らない誰かと、和史が結婚しちゃうの?

 そんな、何で?

「やっぱもう、夢ばっか見てらんないよね」
「はぁ」
「男同士、だなんて。やっぱどうにも何ないよね」
「あー……あぁ」
「ね、見て、これ。婚姻届」

 にっこり笑って和史が見せ付けたのは、紛れもない、"婚姻届"。
 片方に和史の名前が書かれてる。
 このもう一方に、俺の知らない誰かの名前が書かれるの?

「和史、結婚、すんの…?」
「そうだよ。之哉も祝福してよね?」
「え…」

 祝福?
 俺が祝福すんの?
 和史が他の誰かと結婚すんのを?

「和史ッ!」

 ドタンッ!

 気付いたときには、和史を押し倒していた。
 硬くて冷たい床の上。
 和史が突然の衝撃に顔を顰めてる。

 婚姻届が、ひらひらと舞った。

「何す…」
「そんな、結婚だなんて……じゃあ、俺とのことはっ…!?」
「…………もう終わりにする」
「何で!?」
「だってもう無理だもん」
「そんな、俺はこんなに好きなのに……」

「嘘つき」

 俺の下、和史はひどく冷たい目で、俺のことを見つめた。

「嘘って何がだよ」
「俺のこと好きだなんて、そんなこと、言ってくれたことなんかないくせに……」
「…………え、」
「ただ会って、セックスして…………それが之哉の愛なわけ? そんなの、俺、知らない。俺が欲しかったのは、そんなんじゃない。之哉とじゃ、幸せになれない」

 どこか、安心していたのかもしれない。
 和史の思いは、ずっと変わらないと。ずっと俺のほうに向いていると。

「じゃあ、その子とだったら、幸せになれるってのかよ?」
「……ッ、……なれるよ! なれる……なれ、る……ヤッ…」

 潤んだ和史の瞳から、涙が一筋零れて。
 それが俺を凶暴な気持ちにさせる。
 逃げようとする和史を無理やり押さえ付けて、唇を奪う。

「ヤ、之哉……やめ、お願……!」
「ッ…てめ…!」

 唇に痛みが走って、口の中に鉄の味。親指で唇の端の傷口を拭った。
 唇を離すと、和史に鋭く睨み付けられる。

「…………結婚なんかすんなよ」
「もう遅いよ、バカ」
「何で!?」
「今さら何て言うんだよ、その子に。俺はやっぱり男のほうがいいから、結婚できないって? そんなの言えるわけないじゃん! …………婚姻届、返して?」

 零れた涙も拭わずに、和史は自由の利かない右手を、必死に婚姻届へ伸ばしてる。

「これ?」

 俺は和史よりも先にその婚姻届を拾い上げる。

「返して! お願……俺はそれで、それ、で……幸せになるんだ…」
「こんな紙切れ1枚で?」
「ッ…」
「永遠の愛を、誓い合うの?」
「だって、だって……こうするしかない! ―――あぁっ! やめて!」

 俺は和史の目の前で、その紙切れをビリビリと引き裂く。
 和史が"永遠の愛"だというそれを、細かく千切って部屋中に巻き上げた。
 紙吹雪。

「結婚なんかすんな」
「…………バカ、バカだよ、お前は……」
「ゴメン…………でもやっぱお前のこと、好きなんだ…」

 泣きじゃくる和史を抱き締める。
 嫌だ、離したくない。

「之哉……バカ、責任取れよ…」

 和史の腕が背中に回って。
 2人で、泣いた。





「愛してる…」







 永遠だなんて、知らない。

 知らないけれど―――――
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甘い言葉はいらないの


 だってもう、10年来の付き合いですし。
 週に4回は学校で顔合わすし。

 今更そんな、ラブラブな雰囲気なんて、…………なぁ?



*****

「聡くんは、ホント、夏希くんのこと、好きなんだねぇ」

 帰り支度をしている最中、ほのぼのと、まったりと、それこそおじいちゃんがお茶でも啜りながら話すように、コウがそんなことを抜かしやがった。

「はぁ? 何言ってんだ?」

 ホントは突っ込むのも面倒臭かったけど、そこはそれ。律儀な俺は、すかさずコウの頭に平手を1発かましてやった。

「イッター! 何すんの!? ボク、ホントのこと言っただけなのに!」

 今度はおじいちゃんじゃなくて、今日の見た目(爪の色を交互に塗り替えて、よく分かんないピンキーリング? とか嵌めて、何かピンク色したちょっとフリフリっぽい服着てる)に相反することなく、キャンキャンと、小犬のような、今どきのギャルのような返し。

「…で? 何て?」
「だーかーらー、聡くんて、めっちゃ夏希くんのこと好きだよねぇ?」
「はぁ?」
「見てたら分かるよ?」
「お前の目ん玉は腐ってる」

 何をほのぼのしみじみ言い出すかと思えば。

「何でぇ? もしかして聡くん、照れてんの?」
「……お前、もっかいド突いてやろうか?」
「イダッ!」

 コウの返事を待たずに、俺はもっぺんコウの頭を引っ叩く。

「何でこんな叩かれないといけないの、ボク」
「お前がアホなこと抜かすからだ」
「いいこと言ってるじゃん。何年間もずっと1人の人を同じように思い続けられるって、ステキなことでしょう? ラブラブじゃん」
「それはステキだけど…………あのなコウ、その想いを、何で俺見て思うんだ。違うだろ? それはお前の理想か、歌詞の中の世界やろ?」
「うん、歌にしてもいい。聡くん見てて、歌詞ひらめいた!」
「ふざけんな!」

 目をキラッキラさせて言うコウに、再度突っ込みを炸裂させたところで、裕太と斗真が教室に入って来た。

「とーま!」

 俺の突っ込みに顰めていた顔をパッと輝かせて、コウは斗真に飛び付く。
 俺から見たら、お前のほうがよっぽど"斗真大好き!"だし、ラブラブ度も高いんですが。
 つーか、ここは教室で、他の学生はいないけど、俺も裕太もいるんやから、ベタベタすんな。
 今日はもう授業終わりなんだから、そういうのは家に帰ってからやれっちゅー話だ。

「……聡くん、めっちゃ顔が険しくなってますけど」

 ボソッと言う裕太に視線をくれたら、裕太は裕太で目のやり場に困っているのか、出来る限り2人から目を逸らそうと、ぎこちない格好で帰り支度をしていた。

「アホか、あいつら」

 そんな2人を置いて教室を出ようとしたら、"俺をこの状況に1人残さないでくれ!"と言わんばかりに、大慌てで裕太が後を追ってきた。



*****

 確かに、付き合いは長い。
 最初に会ったのが小学校3年生のときで、それからいわゆる"恋人同士"って関係になって、もう何年も経って。

 一緒にいるのは、嫌いじゃないから。
 別にそんな、コウが言うみたいな、"ラブラブ"とか、そんなのないし。

「…?」

 帰って来て、ドアを開けると、出がけに消していったはずの部屋の明かりが点いてる。
 おいおい、何か変なのが入り込んだんじゃねぇだろうな?
 最近は、オートロックのマンションっていったって、まるっきり安心てわけじゃないらしいしなぁ…。
 そんな弱っちぃ男じゃないけど、さすがに強盗とかには太刀打ちできないし。

 そぉーっと足を忍ばせて、部屋のほうに行ってみると、

「……………………はぁ!?」

 部屋の中央に置いてあるソファにだらしなく座って、携帯型のゲームに熱中しているのは、紛れもなく、今日散々話題に上った夏希さんで。

「よぉ」

 チラッとだけ画面から視線を俺に向けて、挨拶とも言えるような言えないような声を掛けてきた後、夏希は再びゲームに。

 おいおい、ちょぉ待てよ。
 何で。
 何でお前は人んちで、こんな普通に寛いでんだ!

「夏希、おま……はぁ!?」
「あぁー?」
「何でいんの? つーか、どうやって入った!?」
「合鍵」
「あいか……あ、」

 そういえば。
 この間、俺が帰る前にここに来た夏希が、鍵がないからって、中に入れなくて。だったら、俺に連絡するなり、外で時間潰すなりすればいいのに、玄関の前で2時間もアホみたいに待ってるから。
 仕方なしに、ここの合鍵を作って渡したんだった。

「夏希、飯食って来た?」
「まだ食ってない」

 おい、当たり前のようにそう返しとるけどな、お前。
 先に帰って来てんだから、お前が作っとけよ。何、人んちでめっちゃ寛いでんだ(まぁ、そう言ったら言ったで、料理なんか出来るわけないって返されるのがオチだけど)。

「何でもいい?」
「んー」

 別に俺だって、そんなに料理得意とかってわけでもないけど、1人なら作らなきゃしょうがないし、こいつはまったく作る気ないし、いつの間にか料理は俺担当みたいになってる。
 まぁ別に嫌じゃないけど。

 つーか、あれだよ。
 コウ。
 アイツ、ホントのアホだな。
 だって、夏希ってこんな奴だぞ?
 合鍵持ってるからいいんだけど、人んちに勝手に上がり込んで、メシでも作ってるのかと思えば、ゲームしてるし。
 家主が疲れて帰ってきても、『よぉ』だけだし。

 そんな奴と付き合うてる俺も俺やけど、そんな俺見て、『聡くんて、めっちゃ夏希くんのこと好きだよねぇ?』って、何だ、それ!
 別にそんなラブラブじゃねぇっつーの! 見たら分かるだろ、アホ!

「聡、なぁ、聡て」
「へっ? ッ、アダーッ!!」
「バカ、何してんだ!!」

 ボーッとなってたとこ、夏希に声掛けられて、ビックリした拍子に手が滑って、包丁で人差し指を…!!

「イッター!」

 傷は浅いみたいやけど、血がタラーッて…。

「何してんだ、バカ!」
「お前が急に声掛けるから!」
「ちょぉ見してみ?」
「いいよ、大丈夫だから……って、わっ!?」

 こんなんティッシュで押さえとけばすぐ止まるって思って、夏希の手を払おうとしたより先、俺の手首を掴んでた夏希が、それを自分の口元に持ってって、血の垂れてる俺の人差し指をパクッて…!!

「な、何すん…」
「あぁ? 止血。なぁ、絆創膏とかあんの?」

 動揺してる俺をよそに、夏希はいたって普通に、俺の指先の血を舐め取って、絆創膏を探しにいく。

「なぁー、聡ー。絆創膏ないのー?」
「あ…うん、そこの引き出しに…」

 ……………………。

 つーか、絆創膏て。
 いや、正解なんだけど、その前にお前、何した!?
 何今の!
 何でそんな…………はぁ~~~??

 顔が熱い。

「おい、何、血垂れ流してんだ。絆創膏貼るぞ?」

 流水でサーッと血を流してティッシュで拭った後、夏希が手際よく傷口に絆創膏を貼っていく。俺はただその様子を見てるだけしか出来なくて。

「どうした? 疲れてんの? メシ、外に食いに行く?」
「あ……いや、そうじゃないけど…」

 そうじゃなくて!
 お前、何で自分の行動を、そんなサラッと流してんだ!

「聡?」
「……アホ」
「何だよ、急に」
「アホだからアホって言ったんだよ」
「ホント、かわいくないなぁ」

 夏希が苦笑してる。
 しょうがないじゃん。
 だってこんなことされて。
 今更こんなことされて、かわいげあることなんか出来るか?

「バカ…」

 夏希の肩に額を乗せる。

「何だ、急に甘えたさんになってぇ」

 茶化すような言い方に、一発ド突いてやろかと思うけど、背中に回った夏希の手が優しくて、振り解けない。

 あぁ、ホントのアホは、夏希でもなくて、コウでもない。完璧に俺じゃん。

 コウ。
 俺の負け。
 やっぱお前の言ってたこと、間違ってなかった。


 俺はコイツのこと、めっちゃ好きみたいです。
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いつも傍にいたい


 …………ヤバイ。

 そう思ったときには、もう遅くて。

「悠有(ユウ)!?」

 どこか遠くで、ゼミ仲間たちの声が、聞こえた気がする。






*****

 ―――――あー…………頭が冷たくて気持ちいー……。

「―――…………え……?」

 開けた視界には、よく見知った顔が。

「じゅ、ん…?」

 何で? 何で淳がいるの?
 だって俺、ゼミのみんなと一緒にいたじゃん――――そうだよ、俺、学校…!

「うっ…」

 慌てて起き上がろうとしたら、目の前がグラグラして、そのままベッドへと倒れた。

「おい、無理すんなって! 熱まだ引いてねぇんだから!」

 淳が布団を掛け直してくれる。

「熱…?」
「そうだよ、お前、熱出してぶっ倒れたんだろ?」
「ウソ…」

 熱で倒れたって……学校? 信じられない…………ってか、俺ってマジ最悪。

「でも……何で淳…」

 学校で倒れちゃったとして、でも一緒にいたのはゼミの仲間だろ? もし側にいるとしたら、家族か医者か、少なくともゼミ仲間の誰かなんじゃないの?

「ダチから、お前が倒れたって聞いたの!」
「そう……なんだ…」
「冷えピタ貼り替える? おかゆとか食べれる? あ、薬、」

 …………ゴメン淳。
 ただでさえ熱で頭がボーっとしてるんだ。
 そんなに一遍に言われても、分かんない…。

「悠有?」
「……食欲ない…」
「でも何か食べなきゃ、薬飲めないっしょ? 大丈夫、おかゆは悠有のお母さんが作ったヤツだから、おいしいよ。今あっためてくるね!」
「じゅ…」

 淳は俺の返事を待たずに、部屋を出て行ってしまった。

「ふぅ…」

 何で?
 淳だって仕事、忙しいんでしょ? たまたま時間あったの? だったらゆっくり休みたいんじゃないの? それか、遊びに行くとか。
 なのに何で、こんな病人の看病になんか来てんの?

 ぼやけた頭の中。
 いろんなことがグルグル回る。

 グルグル、ぐるぐる……。





*****

「悠有、お待たせ」
「ぁ…」
「また熱上がった? 起きれそう?」

 まだ頭はグラグラするけど、淳の言うとおり、何か食べなきゃ薬は飲めないから、何とか体を起こす。
 ベッドヘッドに体を凭れ掛け、淳からおかゆの乗ったお盆を受け取ろうとするが、どういうわけか、淳はそれを寄越そうとしない。

「淳?」
「いいから、」

 は?
 いいから、って、何が? なんて思ってたら、淳はレンゲでおかゆを掬って、俺の口元に差し出してきた。

「はい、アーン」

 はぁ~~~??

「アーン、して? 食べさせてあげるから」
「い、いいよ! 自分で食えるし!」
「何で? アーンしてあげんのが、看病の醍醐味でしょ?」

 …………アホだ。
 本物のアホがここにいる…。

「ほら、悠有! 早く!」

 どうあっても淳は、俺にアーンてしておかゆを食べさせたいみたいで、一歩も引く様子がない。
 体起こしてるだけでグラグラしてる俺としては、こんなことにいつまでも時間を費やしていたくないわけで。

「…………」

 仕方なく、あー……と、口を開けると、淳が嬉しそうにおかゆを俺の口に運んでくれた。

 あ、おいしい。
 そりゃそうか、お母さんが作ったんだし。

「悠有、おいしい? おいしい?」

 なのに淳は、まるで自分で作ったみたいにそう聞いてくるから、「おいしいよ」って答えれば、満面の笑みを見せて、2口目を運んでくる。

「これ食ったら、薬飲んで寝ようなぁ? あ、冷えピタの替え持ってこないと!」

 ふふ、何かこんな甲斐甲斐しい淳、新鮮でいいなぁ。

「淳、優しいんだね」

 おかゆを食べ終えた俺に、風邪薬と水の入ったグラスを手渡す淳にそう言うと、淳は困ったような顔で視線を逸らした。

「悠有? 早く飲めって。ホラ、冷えピタ!」
「淳、貼ってよ」

 薬を飲んで、ちょこっとだけ淳に甘えてみると、淳はますます困ったような顔をする。
 もしかして、照れてるの?
 さっきまで、「アーン」とか、もっとずっと恥ずかしいことを平気でしてたくせに?

「淳?」
「分かったよ! ホラ、頭出せ!!」

 照れ隠しなのか、声が大きくなってる。
 結構、頭に響くんですが…。

 ベリッて、全然優しさの感じられない剥がされ方で、温くなった冷えピタを剥がされ、スースーするおでこに、新しい冷えピタを貼ってもらう。

「完了。ほら悠有、寝て!」
「……ん」

 もぞもぞフトンに潜り込めば、淳がフトンの襟を直してくれる。
 あったかい…。

「ねぇ、淳…」
「ん?」
「んーん…」
「もう寝ろよ。そんで早く治せ」
「……ん、」

 でも。
 でもさ、淳がこんなに優しくしてくれるんだったら、たまには熱を出すのも悪くはないかなって、ちょっと思ったんだよ。

 ちょっとだけね。
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Midnight Butterfly R15


*何となくモデル設定です。(趣味←私の)
*R15です。15歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。
*@MKさんへ素敵なイラストとともに出張中です。2009.7.4記事「Midnight Butterfly 出張中」



 俺にとってはたった1人の愛しい人でも、アイツにとっての俺は、大勢いる中の1人でしかない。

 分かってる、けど。









 本日最後の撮影が終わって、帰り支度をしていると、先に支度を終えた天音(アマネ)が、通り過ぎ際、匡哉(マサヤ)の手をなぞるように触れていった。
 視線は交わさない。
 匡哉は適当に荷物をカバンに詰めると、挨拶をして、何事もないように控え室を出た―――――背後でドアが閉まると、慌てて先に出た天音の姿を探す。それほど時間を置かずに出たものの、すでに廊下に天音の姿はない。
 匡哉は軽く舌打ちすると、駐車場に向かうべく、エレヴェータホールへと駆け出す。

 ―――――いたっ…!

 本人は自覚していないが(というよりむしろ、目立たないように努力しているらしいが)、エレヴェータを待つ後ろ姿は、明らかに天音だとすぐに分かるそれだ。
 匡哉は後ろから誰も付いてきていないことを確認すると、歩幅を緩めた。エレヴェータの扉が開くタイミングで、天音と同じ箱に乗り込む。

「……そんなに慌てて追い掛けて来なくても、駐車場で待ってたのに」
「天音、待つの嫌いでしょ?」
「天音とか、下の名前で呼ばないで」
「今は、2人きりじゃん」

 返事はなかった。それより先に、エレヴェータが地階の駐車場に到着したのだ。コンクリートに囲まれたそこは、独特の、ひんやりとした空気に包まれている。
 天音はおとなしく、匡哉の後を付いてきた。
 別にそうすることを要求したことなんてないのに、天音のため、匡哉は甲斐甲斐しく助手席側のドアを開けてやった。悪い気はしないけど。

「何か、食って帰る?」
「面倒臭いな」

 たあいのない会話。
 静かに車が動き出す。駐車場を出たところで、天音がサングラスを外した。

「……それ、最近よく掛けてるね」

 それほど目敏いというわけでもないが、今まで天音が持っていなかったブランドのものだったので、つい目が行ってしまった。サングラス1つだとしても、決して安い買い物ではない品。

「貰ったの。いいなぁ~って言ってたら、プレゼントされちゃった」

 シャツの前にサングラスを引っ掛け、天音はチラリと匡哉を見た。
 その視線に気付いたけれど、匡哉はあえて気付かないふりをする。"貢がせた、の間違いだろ?"という言葉も飲み込んで。

「匡哉は何もくれないよね」
「俺はお前のパトロンか」
「俺、欲しいリングがあったのに」

 冗談とも本気とも取れる口調でそう言って、天音は口元を歪めた。

「やっぱ腹減った。パスタ食いたい。お前以外の人が作ったヤツ」
「素直にメシ食って帰りたいって言いなよ」

 それでも匡哉は、最近行ったお気に入りのイタリア料理店へと、進行方向を変えた。




*****

 食欲が満たされたところで、2人はそのまま、近くのホテルへと向かった。天音は絶対に自分の家に人を入れさせないし、匡哉の家には両親と弟がいるから。
 今は、有人のフロントを通らなくても入れるところが多いから、何かと便利だ。
 中は多少豪華な雰囲気を醸し出す部屋だったけれど、お互いそんなことには興味なく、ドアが閉まると、匡哉は少し乱暴に天音に口付けた。

「…ッ、匡哉、バカ、がっつき過ぎ…!」

 匡哉の肩を押し返した天音は、肩で息をしながら、濡れた唇を拭った。

「いいじゃん、欲しいの、俺は」
「ぁ…」

 もう1度深く口付けられて、天音は抵抗をやめた。











*****

「ねぇー」
「…ん、? ぁ、ん…」

 何度もイカされて、気怠い体。
 シャワーを浴びたいけれど動くのが面倒臭くて、匡哉が(抱っこしてでも何でもいいから)バスルームまで連れて行ってくれないかなぁ、なんて勝手なことを考えていたら、スルリと体のラインをなぞられる。

「なに…? お風呂ぉ…」

 眠くなって来たせいで、天音の言葉の語尾が甘く伸びている。
 日ごろ素っ気ない素振りを見せているくせに、こんなとき無意識に甘えてくるからタチが悪い。
それでも匡哉は心を動かされてしまって、すり寄せってくる天音を抱き締めてしまう。

「ここ、」
「んん、やぁ…」

 太ももの付け根に指を這わされ、天音はビクリと体を跳ね上げた。

「やめてよぉ…」

 キュウと眉を寄せて、匡哉を押し返そうとするが、力が入らずうまくいかない。

「ねぇ、ここさぁ、」
「ん、ふぅ…」
「俺も付けていーい?」
「な、に…?」

 何のこと? と視線を向ければ、いたずらっぽい笑みを浮かべる匡哉と目が合って、天音はそれでもキッと睨み付けた。

「匡哉、ヤ、」

 片足だけを胸に付くくらいグッと持ち上げられて、体勢的に苦しい。足をジタバタさせてみても、匡哉は離してくれない。

「何、も…や、あっ!」

 足の付け根、先ほど舐められた敏感な場所に走る小さな痛み。何をされたのか分からない、初心な人間ではない。
 抱えられていた足を下ろされて、自分からは確認できないその場所に付いたであろうキスマークに、天音は少し渋い顔をした。

「ざけんな…」

 先ほどまでの甘い声ではもうなくて、少し苛付いたそれに、けれど匡哉は悪びれたふうも見せない。

「いいじゃん、どっかの誰かさんだって、付けたんでしょ? ここに。俺にだってさせてくれたっていいじゃん」
「、」

 天音は何も言い返さない。
 匡哉ではない誰かが付けた、所有印。そうしたからといって、天音が自分だけのものになるわけでもないのに。

「匡哉も、そういうの好きだね」

 匡哉"も"。
 けれど匡哉は、敢えてその言葉を聞き流した。
 天音も分かっていて、それ以上は何も言わない。

 束縛は、するのもされるのも嫌い。
 愛されるのは、好き。
 愛されてるって、実感するのが。
 だから心は誰にもあげないけれど、体なら誰にでも差し出せる。ううん、みんなが欲しがってくれるから。
 みんなが自分のことを、うんと欲しがって、愛してくれて。追われる恋がいい。

「天音…」
「ん…」

 キレイに筋肉の付いた天音の体を組み敷いて、匡哉くは甘く唇を奪う。すんなりと受け入れる天音を嬉しく思いつつも、寂しさを隠し切れない。

 誰のものにもならない天音。
 その体も、ましてや心も。

 消えかけた誰かのキスマークの上に記し直された、新たな印。
 消えてなくなるまでは、せめて。




 どうか、せめて今だけは。
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