恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2009年02月

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十二月 滲む涙も君との聖夜 (12)


 クリスマスデートは、やっぱりきれいなイルミネーションを見て、いいところでディナーをして、そしてプレゼント交換。
 2人はまだ子どもだけれど、健全なままで終われるような年ごろでもないので、その後のことだって考えないばかりではない。
 出掛けの翔真の言葉をつい意識してしまうが、別に焦るつもりはないし、そんなことを焦って軽い子だと思われたくない! と、和衣の乙女回路がストップを掛ける。

「ここからも、ツリー見えるね」

 食事に入ったレストランで、通された席の窓からは、遠くのほうにクリスマスツリーが見えていた。
 こんな日は、普段行かないような高級なところでディナーをするのが、きっとロマンチックなクリスマスの過ごし方なのだろうけど、悲しいかな2人は、そこで奮発できるほど金を持ち合わせていない、ただの大学生だ。

 バイト代は日々の生活に充てられるのが大半で、それでも和衣はこの日のために遊びに使うお金を控えてがんばっていたが、それもクリスマスプレゼントを買って消えてしまった。

「あ、あのさ、祐介…」

 最後に運ばれてきたデザートを食べ終えたところで、ずっとタイミングを見計らっていた和衣は、思い切って口を開いた。

「これ、あの…」

 先日、睦月と一緒に考えた、祐介へのクリスマスプレゼント。
 電子辞書と決めたはいいが、どれがいいか分からないと、家電量販店にまで睦月を連れて行き、何とか選び抜いた一品だ。

「え、俺に?」
「…うん。クリスマス、だから…」

 恥ずかしくて、カバンから出した包みを渡す間中、和衣はずっと俯いていた。

「あ、あの…何か電子辞書、壊れちゃったんでしょ? だから、その…何か全然クリスマスぽくないけど、あの…」

 祐介の様子をドキドキしながら窺っていた和衣は、祐介が包みを開けると同時に言い訳を始めた。
 これぞと思うものを選びはしたけれど、和衣が夢見ていたようなロマンチックなプレゼントとは言い難いそれに、何となく言い訳が口をついて出てしまったのだ。

「ありがとう、和衣。欲しかったんだけど、ずっと買いに行けないでたんだ。すげぇ嬉しい」
「…ホント? クリスマスなのに?」
「クリスマスなのにって? 俺、和衣がくれるものなら何だって嬉しいよ」
「…、あ、ぁ…うん。あ、ツリー、見に行こっか」

 サラリとそんなことを言う祐介に、和衣は頬が熱くなって、ごまかすように冷めたココアを飲み干して席を立とうとしたけれど、それを祐介に止められた。

「何…?」
「ちょっと座って?」

 言われるがまま、戸惑いつつも和衣は元いた椅子にペタリと腰を下ろした。
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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

十二月 滲む涙も君との聖夜 (13)


「はい。これは俺から和衣に」
「……え…?」

 はい、と祐介から差し出された小さな包みに、和衣はポカンと固まった。
 かわいい包装のしてあるそれは、どう見てもクリスマスプレゼントだ。

「え? え? え? な…嘘…」
「嘘じゃないって。そりゃ俺だってプレゼントくらい用意するよ。クリスマスなんだし」
「俺……貰っていいの?」
「そりゃ、和衣のために用意したんだから」

 自分が上げることばかり考えていたから、まさか祐介からプレゼントを貰えるなんて思いもよらず、和衣は呆然としたままそれを受け取った。

「開けてもいい…?」
「どうぞ」

 ともすれば震えそうになる指で包みを広げれば、見覚えのあるロゴの入った箱。
 まさかと思いながら、箱を開けてみる。

「これ…」

 中に入っていたファッションリングに、和衣は驚いて顔を上げた。
 あの告白の日、和衣が諦めたそのリングが、そこにはあった。

「覚えててくれたんだ…」
「あ…うん」

 確かにあの日、買おうかどうしようか迷ってはいたけれど、これ以外にもいろいろ着けてみたし、買うのをやめた後はすんなり店から出てきたのに。
 まさかそれを覚えていてくれたなんて。

「指輪なんてあれかな、とか思ったんだけど……何か気に入ってたみたいだから」
「ありがと…、すげぇ嬉し…。てか、ビックリし…」

 感動と驚きで言葉が出て来なくなって、和衣はキュッと指輪を握り締めて、俯いた。

「どうしよ…、俺、こんなに幸せでいいのかな…?」

 大げさかもしれないけれど、和衣は今日ほど幸せだと思ったことはない。
 祐介と一緒にいれるだけで毎日がハッピーなんだけれど、ずっと夢見ていた恋人同士のクリスマスに、何だか涙が出そうだ。

「指輪着けたら、ツリー見に行こっか」
「…うん!」

 零れそうになった涙は瞬きでごまかして、和衣は立ち上がった。



 この間とはまた違った雰囲気のイルミネーションとクリスマスツリーに、和衣は感嘆の声を洩らした。
 さすがにイブの夜は、この間よりもずっと奥のカップルで賑わっていて、その雰囲気だけで、和衣はもうウットリしてしまっている。

「和衣」
「ん? ぁ…」

 首が痛くなるのではないかと思うほど、ツリーを見上げている和衣の手をそっと掴めば、和衣は嬉しそうに、けれど少し困ったように祐介を見た。

「大丈夫、誰も見てないよ」

 コッソリそう言われて周りを見れば、確かに周囲のカップルはみんな、ツリーを見たり、自分たちの世界で、誰も2人のことなんて気にしていない。
 和衣は、冷えた指を祐介のに絡めた。

「へへ」

 さすがに、そばのカップルのように抱き合うほどイチャイチャは出来ないけれど、今日は聖夜だし、このくらいのことは許されるだろう。
 繋いだ部分から伝わる熱に、和衣は幸せを噛み締めた。
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一月 かじかむ指とそまる頬 (1)


 クリスマスが終わって、お正月が来て、冬休みも終わりに近づくと、帰省していた学生たちもポツリポツリと戻り始める。
 お盆にバイトを入れて実家に帰れなかった睦月は、今度こそ学習して、祐介と一緒に帰省していたが、三が日を過ぎて寮へと戻って来ていた。

「亮たち、明日戻って来るってな」
「ふぅん。良かったね、久々にカズちゃんに会えて」
「え、俺!? あぁ、俺は、まぁ…」

 別にそんなつもりで言ったわけではないけれど、亮や翔真が戻って来るということは、もちろん和衣も戻って来るということなわけで。
 からかうような睦月の言葉に、祐介は思わず反応してしまう。

「クリスマス、楽しかった?」
「え、あ…まぁ、おかげさまで…」

 キス止まりの健全なデートではあったけれど、一緒に過ごせた最高のイブだった…………和衣もかわいかったし。
 一見すると、和衣のほうが祐介に熱を上げているようだけれど、その実、祐介も相当和衣に惚れ込んでいることを、睦月は知っている。
 だって、今までこんなにも恋に溺れている祐介を、睦月は1度も見たことがない。ただ、根が誠実な男だから、他人よりはその様子が分かりにくいだけで。

「…睦月は?」
「え、何が?」
「何がって…」

 前に、祐介には相談しない、と断言されているせいか、祐介も少々歯切れが悪い。
 チラチラと視線を向けても、睦月はその意味を本気で分かっていないのか、分かっていてあえて気付かないふりをしているのか、何も言ってこなくて。

「いや、だから、好きな人がどうとかって…」
「別に、普通だよ」
「普通…」
「うん、普通」

 だって、本当に普通だったのだ。
 それ以上に言いようがない。

 クリスマスイブの日、和衣を見送った後、彼女と約束があるという翔真は、さっさと身支度を整えて出ていった(和衣と違って、こんなときに時間が掛からないあたりが、デートとかそういったことのに慣れている証拠だろう)。
 残されたのは、睦月と亮。

『亮はどっか行かないの?』

 とは、さすがに聞けなくて、睦月はこっそりと亮の様子を窺っていたが、なぜかどこにも出掛ける様子はない。
 たとえ彼女がいなくても、友だちと過ごすとか、合コンに行くとか、いろいろあるだろうし、はたまたすでに帰省している連中もいて、寮の中は静まり返っていると言っていいほど静かなのに。

 けれど亮は、別にどこに行くわけでもなく、かと言って睦月とクリスマスっぽいことをするでもなく、ごく普通。
 いつもどおりに夕食の支度を始めて、いつもどおり睦月の分も作ってくれた。

 睦月は一瞬、日付を勘違いしているかとも思ったけれど、あんなに浮かれまくった和衣を見送ったのだから、間違いはない。

 睦月の分も作るということは、睦月も今夜どこにも行かないと思っているからで、いやどこにも行かないけれど、てことは一緒に過ごす――――過ごしたいという意味なのだろうか、でもそれにしたって、普通すぎる。
 和衣みたいなロマンチックさを求めてはいないけれど、イブの夜をこんな風に過ごしていいのかな、とも思った。

 けれど2人はただの友だちで、別にロマンチックな雰囲気は必要ないし、クリスマスを理由に盛り上がるにも気まずすぎる。
 だって睦月は亮のことを好きだけれど、先に好きって言った亮は、それを冗談だと言った。
 睦月は睦月で、冗談て言われるまで自分の気持ちに気付いていなかったから、今さらなのかもしれないけれど。

 結局2人で普通に食事をして、テレビを見て、年明けに提出しなければならないレポートを少しやって終わり。
 寝て起きたらプレゼントがあるわけでもない、普通の日と一緒のクリスマス。

「別にいいんだけどさ…」

 ポツリ呟いて、けれどその後、睦月は唇を噛んだ。
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一月 かじかむ指とそまる頬 (2)


「お前をある意味尊敬する。1回告って、冗談てことにして、クリスマスを普通に過ごすとか、悪いけど俺にはマネ出来ないよ。つーか、マネするつもりもないけど」
「うっせ!」

 翔真の言葉に、亮はベッドに突っ伏した。
 帰省中、暇を持て余して亮の実家を訪れた翔真は、クリスマスをどうしたか聞いて呆れ果てていた。

「だって、睦月だって普通だったし!」
「そりゃお前がそこまで普通にメシとか作り出したら、そうせざるを得なくね? だって変に意識してるとか思われたら、ヤじゃん」
「それか、俺のことなんて、ホントに全然どうでもいいと思ってるか…」
「いや、むっちゃんだって、そこまで鈍くねぇよ。全然意識してなきゃ、もっとクリスマスっぽいことしよう! てはしゃぐよ」
「……」

 イブの日、和衣や翔真を見送った後、2人きりになるのは気まずくて、けれど今さら行くところはないし、何となく部屋に戻れば、睦月も普通にやって来た。
 しかも出掛ける素振りもない。
 気になる子はいないと言ったときから気持ちが変わっていなければ、イブを一緒に過ごす恋人はいないはずだけれど、それを睦月に聞く勇気はなくて。

 他の友だちと過ごす約束もないのか、いつものごとく、当たり前のように亮が夕食を作るのを待っているから、亮もあえてその様子には突っ込まず、普通に支度をした。
 そして普通に食事をして、テレビを見て、レポートをして、それでイブの夜は終わったのだ。

「何か……スゲェ寂しい2人組だな…」
「うっせぇ、つーの! 俺はクリスチャンじゃねぇんだ! クリスマスなんかに浮かれやしねぇよ!!」
「分かった分かった、叫ぶな、負け犬」
「負けっ…」

 翔真の最後の言葉が大打撃となったのか、言い返そうと頭を上げていた亮は、再びベッドに沈んだ。

「いいじゃん、いいじゃん。好きな子と一緒にクリスマスを過ごせるなんて、超ハッピーじゃん。超普通の夜だけど」
「……」

 慰めているのかバカにしているのかはよく分からないが、とりあえず気には掛けてくれている翔真に、亮は返す言葉がない。

「で、亮。どうすんの、これから」
「どうする、て?」
「え、だって、クリスマスに一緒にいても普通なわけだろ? てことは、何かアクションを起こさない限り、ずっとこのままってことじゃねぇの?」
「そうだけど…、何て言うんだよ。冗談て言ったのはやっぱ嘘で、ホントはお前のことが好き、とか?」
「言えばいいじゃん」
「言えるか!」
「じゃあ、諦めんの?」
「グッ…」

 睦月に気がないのは分かっている。
 その気持ちを知っていて、冗談とごまかしたとはいえ、1度好きだと言った相手に、2度目の告白をするなんて、愚か過ぎるとは思うけれど。
 けれど、自分の気持ちをごまかしたままいるなんて。

「だってもう1月じゃん? もしかして、むっちゃん、2年になったら寮出るかもよ?」
「、」

 寮と言っても、大学が安価で提供している施設に過ぎず、特段の決まりはない。翔真のかつての同室者のように、年度の途中で出ることも可能だし、部屋さえ空いていれば、途中で入ることも出来る。
 睦月のあの生活で1人暮らしが出来るとは到底思えないが、進級して寮を出ると言い出さないとも限らない。

「まぁ、友だちとしては、そんなことで疎遠にはならないだろうけど、……なぁ?」
「分かってるって!」

 どう転ぶにしたって、ずっとこのままではいられないのは、亮が1番よく分かっている。
 それに、気になる人はいないと言っていた睦月だって、いつそんな人が出てくるとも知れない。
 何もしないまま、そんな日が来てしまったら、自分は一体どうなってしまうんだろう。

(……頭が痛い…)
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一月 かじかむ指とそまる頬 (3)


 この、ベッドで大口を開けて寝ている男を、俺は本当に好きなのか。

 何だか寝付けずにベッドをゴロゴロしていた睦月は、ベッドを下りて、亮の顔を覗き込んだ。
 寝るまで点けていた暖房も、今となってはすっかりその効果をなくし、部屋の中は冷え切っているというのに、狭いベッドで大の字になって寝ている亮は、ふとんから足がはみ出している。

(好きか、……好きじゃないか)

 いや、好きなんだけど。
 ずっと自覚してこなかった感情は、亮の冗談だという言葉によって、確信に変わった。
 冗談と言われてショックを受けて、やっと気持ちに気が付いた。
 ――――けれど。

「冗談て言われた…」

 本当に冗談だったのか、和衣が言うように、やっぱり冗談なんかじゃなくて本気なのか、だとしたら、どうして冗談なんて言ったのか。
 睦月の乏しい恋愛経験では、さっぱり理解不能だ。

 人をこんな気持ちにさせておいて、口を開けた間抜け面で眠りこけている亮が憎たらしい。
 何なの、この態度!

(…でも、)

 あれ以来、亮の態度は相変わらずだ。
 クリスマスも、普通だったし。

(…てことは、俺だけが気にしてる、てこと?)

 俺は亮のことが好きで、亮の告白も、その後の冗談て言葉も気にしてて、でも亮は別に気にしてないわけだから、俺のことなんか本当は好きとかじゃなくて、てことは、やっぱりあれは冗談で、単にからかうつもりだったとか、でも俺は……

「…………ぶぇっくしっ!!」

 グルグル、グルグル。
 取り留めのない思考が頭の中を駆け巡っているうち、結論が出るより先、盛大なくしゃみが出た。

「グジュ…」
「……ん…」

 ズルリと鼻を啜り上げていたら、睦月のくしゃみの音に気が付いたのか、爆睡していた亮のまぶたがかすかに動いた。

「……睦月…?」
「あ、ヤベ」

 まさか亮が起きるなんて想定もしていなかった睦月は、目を覚ました亮に気が付いて、慌てて自分のベッドのほうに戻ろうとしたが、それより先、起き上がった亮に、手首を掴まれてしまった。
 寝起きなんて、いつもすごく悪いくせに、どうしてこんなときだけ、こんなに俊敏に動けるんだろう。

「ちょっ…何?」
「何って……それ、俺のセリフなんだけど。睦月こそ何してんの? こんな夜中に電気も点けないで。てか、超冷えてんじゃん!」

 部屋の明かりは、睦月が自分の枕元で点けているライトだけで、室内はほの暗い。
 しかも亮のことを、ふとんから足を出して…なんて思っていたくせに、その自分は上着も羽織らず、パジャマ姿でこの寒い室内にいたのだ。
 寝起きの亮がギョッとするのも無理はない。
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一月 かじかむ指とそまる頬 (4)


「睦月、どうした?」
「…どうしたじゃねぇよ、お前のこと考えてたんだよ」

 手を掴まれて、解こうと思えば出来るけれど、逃げられないと判断した睦月は、吐き捨てるように言って俯いた。

「何だよ、好きとか、冗談とか…、わけ分かんねぇよ」

 もしかしたら、そのことを気にしているのは、自分だけかもしれないけれど。
 亮は、もしかしたら、「冗談」て言ったことすら忘れるような、些細なことだったのかもしれないけれど。

「…もう寝る」

 もうこれ以上、考えたくない。
 亮とこの話はしたくない。
 亮が何もなかったみたいに普通でいたいのなら、もうそれでいいから。

 睦月は唇を噛んで、背を向けた。
 もうこのままふとんの中に潜り込んでしまおう。
 そして朝起きたら、この夜のことも、なかったことにしてしまおう。
 全部全部、なかったことにしてしまおう。

「睦月っ」
「ッ…」

 背後で亮がベッドから下りる気配がしたと思った、その次の瞬間には、冷えた体が温もりに包まれていた。
 前に回された腕は亮のもので、逃げようともがいた体は、けれどあっけなくその腕に封じられて動けない。
 亮に抱き締められたまま、動けない。

 あまりに唐突すぎて、頭が付いていかない。
 けれど心臓だけはバクバクとうるさく鳴り響いていて、もしかしたら、うぅん、もしかしなくても、きっと亮に伝わっている。
 だって、亮の鼓動も、聞こえて来るから。




「…好き」



 長い長い沈黙の後。
 いや、それはほんの何秒かの沈黙だったのかもしれないけれど。
 永遠に続くのではないかと錯覚しそうだった、暗くて重い沈黙の後、吐き出された亮の愛の言葉は、白い息が消えていくように闇の中に溶けていった。

「好きなんだ、睦月のこと」

 再度繰り返された言葉に、睦月は亮の腕の中、身じろいで振り返った。
 少しだけ高い位置にある、亮の顔を見上げる。

 今、コイツの、この口が「好き」て言った。
 また言った。
 ……どうせまた、「冗談」て続けるくせに。
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一月 かじかむ指とそまる頬 (5)


「そんなの、知らない」
「…うん。でも好き」
「知らないってば」
「知らなくてもいい。でもやっぱ、ちゃんと言っておきたい。このまま有耶無耶にしたくない。睦月のことが好きだから」

 亮は、好きって言って、冗談て言って、でも冗談なんかにしたくないって言う。
 何て勝手な男。
 どれがホントの気持ちなの?
 それとも全部が嘘で、からかってるだけ?

「亮の嘘つき」
「嘘じゃない」
「だってそうじゃなきゃ、嘘じゃなきゃ、好きって言った後、冗談とかって言わないもん」
「…ゴメン」

 亮の腕の中を抜け出したくて、その胸を押し返すけれど、離してくれない。

「ゴメン、……でも好き、睦月のこと」
「…ヤダ」
「…うん、知ってる」
「え、」

 どうして「ヤダ」なんて言ってしまったのか、気持ちと裏腹の言葉を吐き出した自分に慌てたのも束の間、亮の言葉に、睦月はさらに焦る。
 知ってる、て。
 亮は確かにそう答えた。
 ヤダ、て言葉に、知ってる、て。

「ど…ゆこと…?」

 何を知ってるの?
 俺の気持ちを知ってるの?
 ヤダって言ったのに、それでも俺の気持ちを知ってるの?

「だって睦月、前に言ったじゃん。好きな子も、気になる子もいないって」
「あ…」
「うん、だからさ。告っても、ヤダって言われんの分かってたから…」

 亮はそこで言葉を切って、そして睦月を抱き締める腕の力を緩めた。
 この腕から逃げ出すなら、きっと今しかない。
 けれど睦月は、その場から、その腕の中から、動くことが出来なかった。

「だから言えなかったし、言うつもりもなかったんだけど…、でもこの間は、何か言わずにはいれなかったっていうか…。……でも睦月が戸惑ってるのが分かって、思わずごまかしちゃって、…冗談とか、ひどいよな。ゴメン」
「…ん」
「でも、睦月のこと好きなのは、ホントだから。それだけは伝えさせて? 冗談とかじゃなくて、ホントだって」

 亮にジッと見据えられ、その真摯な瞳に、ギュッと胸が痛くなる。
 ずっと、好きだったの?
 でも俺が、好きな人いないって言ったから、その気持ちに蓋をしていたの?

「困らせてゴメン。もう言わないから」
「え…」

 思いがけない言葉に、睦月は固まった。
 スルリと亮の腕が離れて、冷たさが突き刺さってくる。

 もう、言わないの?

 だって、本当に好きなんでしょう?
 冗談なんかじゃないんでしょう?

「ヤダ…」
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一月 かじかむ指とそまる頬 (6)


「ヤダ…」
「え? あ、ゴメン! あの、いや、気まずくなるのは分かってたんだけど、その、ゴメン…。俺が余計なこと言わなきゃよかったんだよな、ホント、ゴメ…」
「ちが…」
「睦月?」
「もう言わないの、ヤダ…」
「…え?」

 かじかむ指で、思わず亮の着ているスウェットの裾を掴んだ。
 亮が、ひどく驚いた顔をしている。

「そんなの、ヤダ…」

 グズッと鼻を啜って、でもそれは寒さのせいだけじゃなくて。
 自分の気持ちも伝えずに、いったい何を言っているのかとも思うけれど。
 でも。
 亮が「好き」て言ってくれなくなるの、ヤダ。

「睦月?」

 亮の指が、頬に触れる。
 もうすっかり冷えた指先。
 涙を拭われて、泣いていることに気が付いた。

「亮のこと、す…き、だから、ヒック…もう言わないの、ヤダ…」
「え…」
「うぅ…」

 言葉にした後は、バカみたいに涙が零れてきて、とうとう睦月はその場に蹲った。
 亮がどんな顔をしているのかは、見なかった。
 驚いているのか、戸惑っているのか、呆れているのか。

「睦月…」

 ふわりと、温もりに包まれた。

「睦月、今言ったの…ホント?」
「…え…?」
「俺のこと好き、て……ホント?」

 ゆっくりと顔を上げれば、ジッと見つめる亮の瞳とぶつかる。
 ホント? ともう1度尋ねられ、睦月はコクリと頷いた。

「亮のこと、好…………ふぇっくしゅん!!! う゛ー…」
「………………」
「…………あ、」

 だって、だって。
 すごく寒かったんだもん。
 ただでさえ寒い、真冬の真夜中。暖房だって点いていないところにきて、パジャマ代わりのスウェット1枚という格好。
 いくら雰囲気がロマンチックだとしたって、寒いもんは寒いんだもん。

「いや、まぁ…いいんだけど、ね…」

 困ったような、けれど笑いを堪えているような、そんな表情で、亮は自分のパーカーを引っ手繰ると、睦月に羽織らせてやる。
 ついでに蹲ったままの睦月を抱き起こすと、ベッドの縁に座らせた。

「はい」
「…何?」
「さっきの続き」

 ニコニコの笑顔で顔を覗き込んでくる亮に、睦月はキュッと眉を寄せた。

「さっきの続きって…………ぁ…」
「『亮のこと』……何? 何て続けようとしたの?」
「ぅ…」
「ねぇ睦月、言ってよ。何て言おうとしたの?」
「…言いたくない」
「いや、聞きたい」

 ……亮の、その瞳に見つめられると、弱い。
 治まってたはずのドキドキが、ぶり返してくる。頬が熱い。

「ねぇ、言ってよ。俺は睦月のこと好きだよ。睦月は?」
「…………好、き…」

 そっと抱き寄せられて、恥ずかしさの余り、睦月はその肩口に顔をうずめた。
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一月 かじかむ指とそまる頬 (7)


「は……くしゅっ! うー…」
「むっちゃん、大丈夫ー?」

 朝から何度目になるか分からない睦月のくしゃみに、隣を歩いていた和衣が、心配そうに声を掛けた。
 和衣の横の祐介も心配げな顔だが、あまり心配しすぎると、また過保護と言われ兼ねないので、口を出さない。

「風邪かなー? 鼻止まんない」

 グジュグジュと鼻を啜りながら、睦月はカバンの中からボックスのティシューを取り出した。

「え、ここで鼻かむの?」
「だって」

 まぁ別に、ここは大学構内の廊下で、特別お上品に過ごさなければならないような場所ではないけれど、わりと人も行き交う中、「ちょっとこれ持ってて」と、和衣にティシューのボックスを預けて鼻をかみ出した睦月は、大胆と言うほかない。

「大丈夫? もうすぐテストなのに、熱出さないでね?」
「んー…でももし熱出たら、カズちゃん、助けてね」
「えー、無理だよ! むっちゃん、早く風邪治して」
「じゃあ、ゆっち、助けて」
「ダメ!」

 いつもの調子で祐介を頼ろうとする睦月に、間髪を入れず突っ込んだのは、和衣だ。
 自分だってテスト前に祐介に助けてもらったくせに、睦月には「そういうのは自分でしなきゃダメだよ!」とか言ってくる。
 祐介は苦笑いするばかりだ。

「ふぇ…くしゅっ!」

 ギャーギャーと騒いでいる睦月たちの後ろ、亮が同じように派手なくしゃみをした。

「…りょーおくん」

 さすがに歩きながら鼻をかむつもりはないのか、先ほどから鬱陶しそうに鼻をグズグズさせている亮の横に忍び寄ったのは翔真だった。

「…んだよ」
「亮"も"、風邪引いたの?」
「…まぁな」

 "も"の部分を強調してくる翔真に亮は睨みを効かせるが、まるで堪える様子はない。

「そっかー、2人揃って風邪引いたんだー」
「…何が言いてぇんだよ、ショウ」
「…………」

 飽く迄しらばっくれようとする亮に、翔真はヒクリと口の端を引き攣らせる。

「テメェ、人にさんざん愚痴ったり相談したりしたくせに、何の報告もなしたぁ、いい根性してんな!」
「イダダダ!」

 前を歩く3人に気付かれないよう声を潜めつつ、翔真は亮の耳を引っ張って、その耳元で思い切り文句をぶちまけた。

「白状するか、このヤロ!」
「するする! だから痛ぇって!」

 真夜中の告白劇を、亮も睦月も、実はまだ誰にも話してはいないが、どうやら翔真は何も言わなくても、どうやら"何か"に気付いてしまったようで。
 悲しいかな、親友というのは、こういうときにごまかしが効かない。
 どうせいつまでも隠しておけるわけではないと、亮は観念してみんなに白状した。
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二月 原点はチョコレートじゃない (1)


「ねぇ、むっちゃん。チョコ買いに行くの、いつにする?」

 バイトが終わって、控え室で着替えている最中、和衣から掛けられた言葉に、睦月は小首を傾げた。

「だってバレンタイン、来週じゃん。そろそろ買いに行かないと、間に合わなくない?」

 あぁ、確かにもう2月。
 町中の店にはバレンタイン関連の品が並び始めているし、2人がバイトしているコンビニでも、レジの側にバレンタインコーナーを作った。

 けれどそれでも睦月は、和衣の言っている言葉の意味が分からない。
 だって、和衣とは何の約束もしていないし、睦月がチョコを買うなんて一言も言っていないのに、和衣の言うことには初めから、「チョコを買わない」という選択肢がない。

「え、だって亮にチョコ上げるでしょ? 一緒に買いに行こうよ」
「……」

 "自分はもちろん、睦月もチョコを買うんだから、当然一緒に買いに行く"という図式が、和衣の脳内ではいつの間にか出来上がっていて、それとまったく同じものが睦月の頭の中にあると、和衣は信じて疑っていない。

 夢見がちな思考回路を持っている和衣は、バレンタインだとかクリスマスだとか、恋人っぽいイベントが大好きだから、この時期になれば、そんなことを言い出すと、睦月もある程度予想していたが、まさか「一緒に買いに行こう」と言われるとまでは思っていなかった。

「買わないよ」
「え、何で!?」

 まさか睦月からそんな返事を貰うなど、ゆめゆめ思っていなかったのか、和衣は目を真ん丸に見開いて固まっている。

「だって俺、男なんだけど…」

 睦月が当然とも言える主張をすれば、途端に和衣は不満顔だ。

「でもバレンタインに女の子がチョコ上げるのは、日本だけだよ? 外国じゃ、男も女も恋人に贈り物するんだよ?」
「ここは日本だし、俺は日本人だよ」

 何とか睦月をその気にさせようとする和衣の作戦もむなしく、睦月は一向にチョコを買おうという気にはならないらしい。
 和衣はがっかりして、溜め息をついた。

「…じゃあ、俺買うから、選ぶの、付き合ってくれる?」
「えぇー…」

 この時期、男がチョコ売り場に行くこと自体が恥ずかしくて、和衣の誘いを渋っているというのに、結局一緒に売り場に行けば同じことだ。
 しかも男2人。
 絶対に回りに変な目で見られる。

「いいじゃん、行こうよぉ~! どんなのが喜ぶか、一緒に選んで!」

 無意識だろうが、甘えるような仕草で、和衣は睦月の服の袖を引っ張った。

「…あのさぁ、カズちゃんもいい加減、そういうの自分で選んだら?」
「何が?」
「ゆっちに上げるプレゼントでしょ? 俺が選んでどうすんの?」
「だってむっちゃんのほうが知ってんじゃん。祐介が喜ぶヤツを上げたいの、俺は!」
「カズちゃんが上げれば何でも喜ぶって…」

 それでも睦月は、意気込む和衣を止めることは出来なかった。
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二月 原点はチョコレートじゃない (2)


 2月13日。
 あの日以来、和衣が何も言って来なかったから、てっきり諦めたものだとばかり思っていた睦月は、バイトが終わるとそのまま和衣に腕を引かれて、各種テナントのたくさん入ったデパートへと連れて行かれた。

「カズちゃん、諦めてなかったんだ…」

 ポツリ呟いてみても、フロアの各店舗で売り出しているチョコレートに目を奪われている和衣には届かない。

 さすがにバレンタイン前日ということだけあって、チョコレート専門店や、お手ごろ価格のチョコを種々に置いてある雑貨店は、レジに女の子の行列が出来ている。
 まさかこの中に混じって、チョコを買う気なのだろうか。
 睦月は、血の気が引くのを感じた。

 だいたい2人とも、亮や翔真と違って体格も小さいし、男らしい精悍な顔立ちをしているとは言えないが、女の子にだって見えない。
 特に睦月は、女の子に間違われるのが屈辱なので、出来るだけそう見えない格好をしているわけで、あからさまに男の2人組がバレンタインのチョコ売り場にやって来ているこの状態。
 現に、和衣が店頭に並ぶかわいらしいチョコの包みを見入っているだけで、周囲に女の子たちが奇異な視線を向けている。

「カズちゃん、ちょっと…!」

 睦月は慌てて和衣を引っ張って、店の前から離れた。

「何? どうしたの?」

 まるで分かっていない様子の和衣は、キョトンとした顔で睦月を見た後、そばの店に置いてある別のチョコに気を取られている。

「あ、むっちゃん、これかわいくない!?」
「かわいい、かわいいから…」

 もうちょっと声、小さくして……という睦月の願いもむなしく、好みの感じのチョコを見付けたらしく、和衣は、キャーッとテンション高く店の中に入っていってしまった。

「ちょっ…カズちゃんっ!」

 急いで追い掛ければ、和衣はもうお目当てのチョコを発見したのか、「これにする!」と睦月に見せ付けてきた。

「分かった、分かったからっ…!」
「むっちゃん、どれにする?」
「はぁっ!?」
「これ、よくない?」
「…………」

 周りを気にしている自分がバカらしく思えるほど、和衣はニコニコの笑顔で、わざわざ睦月の分のチョコレートをセレクトしてくれた。

「それともこっち? あ、ねぇ、これは?」

 あからさまにバレンタイン仕様のチョコを手にしては睦月に見せてくる和衣は、どう見ても、甘いものが好きな男が自分用に買おうとしているのでも、チョコを貰える当てのないモテない男が、見栄を張って買おうとしている姿でもない。

 睦月は、男が男を好きだという性癖をおかしいとは思わないし、そんな自分を恥ずかしいとも思わないが、今、周りにいる女の子たちに、ヒソヒソと何か囁かれているこの状況だけは、本気で勘弁願いたいくらい恥ずかしい。

「むっちゃん、どれにする?」

 睦月はもう、ダッシュで逃走したいくらい恥ずかしいのに、顔を上げた和衣はもちろんそんなことには気付いていないから、ねぇ、どれにする? どれにする? と、笑顔で睦月の答えを待っている。

「むっちゃん?」
「も…何でもいいから、カズちゃん、レジしてきて…!」
「え?」
「お金、後で払うから…!」

 もう無理! と、とうとう睦月は店の中から逃げ出した。



 バレンタイン前日ということもあって、(おそらくはばら撒き用の義理)チョコ目当ての女の子で混雑している店内は、当然レジも大行列で、先に店を出た睦月のもとに和衣がやって来たのは、それから20分もしてからだった。

「ゴメン、ゴメン、お待たせ」

 店から少し離れたところにあるベンチに、項垂れるようにして座っていた睦月は、その声に頭を上げた。

「はい、これ。むっちゃんの分」
「……ありがと…」

 何の恥ずかしげもなく、かわいらしいビニルの袋を2つ持って来た和衣は、その1つを睦月に渡した。
 そっと中を覗けば、同じようにかわいいラッピングの施された包みが1つ。

「よかったねー、チョコ見つかって」
「…そうね」

 和衣に悪気はこれっぽちもないから、睦月も責めるに責められない。とりあえず代金を和衣に払って、受け取ったチョコの袋をカバンにしまおうとしたが、チョコのほうがカバンよりも若干大きく、なかなか入らない。

「ダメだよむっちゃん、そんなしたら、チョコ壊れちゃう!」
「だってこんなの、手に持ったままなんて恥ずかしいし」
「こんなの、て何!? 大事なチョコでしょ!」
「そういうことじゃなくて!」

 何となく突っ込みどころの違う和衣を放っておいて、睦月はその袋をカバンに収めようと、悪戦苦闘している。
 まず、かわいらしく店名がデザインされたそのビニル袋は、どう考えたって、男2人で買い物に行く店のものではない。
 それに、恥を忍んで(恥ずかしいと思っているのは睦月だけだが)買ったチョコ、ここまで来たら亮に上げないわけにもいかないが、このまま持って帰れば、バレンタインになる前に、チョコを買ってきたのが亮にバレバレだ。

「そうだよね、上げるまで内緒にしておきたいよね」

 睦月の適当な言い訳に、単純な和衣はすぐに納得してしまう。

「俺のカバンの中なら入るから、帰るまで入れてってあげるね」

 そう言って自分のカバンの中にしまってくれた和衣に、睦月は少なからずホッとした。
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二月 原点はチョコレートじゃない (3)


 バレンタインに、恋人が他の女の子からチョコレートを貰ったからって、睦月は和衣と違って、そんなことに妬いたりなんかしない。
 寝るときは大口を開けて眠る間抜けだけど、亮はいわゆる"イケメン"だし、優しい男だから女の子にモテる。
 それを分かっているから、教授のところに寄った帰り、恋人を待たせる理由が、「女の子からチョコを受け取るため」だとしても、そのことに睦月は怒ったりはしない。

 けれど。
 睦月は機嫌が悪い。

「睦月ー、ゴメンってばー」
「謝んな」
「だって超機嫌悪いじゃん」

 やっぱ、あんなとこでチョコ貰ったの、まずかったよなー、ていうか、断るべきだよな!? と、亮が自分のデリカシーのない行動を反省している傍ら、睦月は亮が受け取ったチョコをじっくりと観察している。

「何これ、超高いヤツじゃん!! 大学生のくせに、生意気!!」

 包みを見れば、そういったことに詳しくない睦月だって知っている高級店の名前。
 大きさからしても、結構いいお値段がするに違いない。

「生意気って…、あの、いや、ゴメン…」

 ベッドの上でジタバタ暴れ出した睦月を宥めるべく、亮が再び謝れば、キッと睦月に睨まれた。

「何で亮ばっか、女の子からチョコ貰えんの!?」
「え、」
「ずるい!! 俺だって女の子からチョコ貰いたい!!」
「はい?」

 てっきり、自分が女の子からチョコを受け取ったことを怒っているものだとばかり思っていた亮は、ずるいずるいと繰り返す睦月に、思考回路がストップしかける。

「俺もチョコ欲しー…」

 散々暴れまくった睦月は、ボスッとベッドの中に沈んだ。
 睦月だって、男だ。
 恋人が他の子からチョコを貰えば、確かにいい気はしないが、それよりも自分が貰えなかったことのほうが悔しい。
 恋人としての立場より、男としてのプライド。
 睦月の機嫌の悪い理由は、そこなのだ。

「えっとー…」

 何て声を掛けたらいいか分からない、といった風に、亮は頭を掻きながら、ベッドの縁に腰を下ろした。

「睦月」
「…んだよ」
「これ」

 ふて腐れたように顔を上げた睦月に手渡されたのは、かわいらしいラッピングの包み。
 バレンタインの、チョコ。

「…何?」
「上げる、睦月に」
「……お前のお下がりなんて、いらねぇよ」
「じゃなくて」

 再びベッドに突っ伏そうとする睦月の顔を無理やり上げさせた。
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二月 原点はチョコレートじゃない (4)


「上げる、俺から睦月に」
「………………。……は?」

 睦月はその包みと亮の顔を見比べた。

「えっと…、……は?」

 まだ意味がよく分からないのか、睦月はキョトンとしたまま小首を傾げていて。

「だから、睦月にバレンタインのチョコ」
「…………。…亮から?」
「そう」
「俺に?」
「うん」
「……何で?」
「何でって、だってバレンタインだし?」

 そんなに驚かれるようなことをしたつもりのない亮は、あまりに呆然としている睦月に、亮は思わず苦笑した。
 さきほどまで、あんなにチョコが欲しいと喚いていたくせに。

「え、亮、自分で買ってきたの?」
「買ってきたよ」
「…恥ずかしくなかった?」
「そりゃ、恥ずかしかったよ」

 季節柄、女の子ばかりが溢れる店内で、男がバレンタイン用のチョコを買うなんて、いったい何の羞恥プレイだろうかと思ったが、それも一瞬のことだと、亮は勇気を出してチョコを購入してきたのだ。

「あ…りがと…」

 睦月は顔を真っ赤にして、俯き加減に言った。
 素直にお礼を言うとか、そういうことは苦手なのだ。

「あっ、あのさ!」

 睦月は、机の引き出しの中に厳重に保管しておいたチョコを思い出して、ベッドから飛び降りた。

「これ!」

 昨日、和衣に振り回されながらも、何とか買った(というよりは、買ってもらった)亮へのチョコレート。
 無理やりカバンの中にしまおうとしたせいで、若干歪んでしまったリボンを直して、睦月は亮に押し付けるようにしてそれを渡した。

「え?」
「チョコ! 俺だって買ったの! お前にやるために!!」

 もう、恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがない。
 自分がそうだったということを棚に上げておいて何だけど、「え?」とか、そういう反応、やめてほしい。
 本当は和衣に無理やり買い物に付き合わされたのだとか、自分は店の中にいるのも恥ずかしくて、結局和衣が買ってきたのだとか、言おうとしたけれど、亮があんまりにも嬉しそうな顔をしているから、睦月はそれを省略した。

(こんなに亮が喜んでくれるなら、チョコくらい買いに行ってもいっか……いや、でもやっぱ恥ずかしい!)
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二月 原点はチョコレートじゃない (5)


 今日がバレンタインデーだということは、男である以上、祐介だって知っているし、気にもしていた。
 そして義理とはいえ、バイト先の女性の先輩がチョコをくれるであろうことも予想していた。もちろんそれは、祐介だけでなく、他の男性陣全員にだ。
 義理チョコをへたに断るのも不自然だし、受け取るのが礼儀だろうと思ったが、貰った後で祐介は、和衣にどう説明しようかと、ふと我に返った。
 ヤキモチ妬きな恋人は、たとえ義理でも、女性から貰ったチョコを見て、快くは思わないだろう。
 かといって、貰ったものを返すとか、ましてや捨てるなんてまねが出来るはずもなくて、結局祐介は、それをカバンにしまって帰宅した。



 祐介の同室者は、後期のテストが終わった後、春休みに入った途端に帰郷した。地元で車の免許を取るのが目的らしい。
 1人の部屋、机に向かって腕組みをしながら、祐介はカバンから取り出したチョコの包みを眺めながら、ボンヤリと和衣への言い訳を考えていた。

 きっと黙っていて、後でバレたほうが、傷は深そうだ。
 というか、黙っていることを後ろめたいと感じている時点で、やっぱり隠しておいたらいけない気がする。
 あ、でもバレないうちに食べるってのも、1つの手かも…………いやいや、でも結局それって隠しておくのと一緒だし、…………てか、たかが義理チョコ1個で、何こんなに悩んでんだ!?

「祐介ー!」
「うわぁっ!?」

 1人で鬱々と考え込んでいた祐介は、ノックの音に気が付かなかった。
 いや、気が付いたとしても、ノックとほぼ同時に部屋に上がり込んできた和衣には、返事も間に合わなかっただろう。
 和衣は、驚きのあまり椅子から落っこちそうになっていた祐介に抱き付いた。

「えへへ。はい、チョコ」
「…………え、」

 突然目の前に差し出されたかわいい包み。
 祐介は何度か瞬きをしてから、和衣に視線を移した。

「え?」
「バレンタインのチョコ。祐介に上げる」
「え、あ…ありがと…」

 呆然としたまま、祐介はそれを受け取った。
 義理チョコを貰って、どうしようかとばかり考えていて、まさか和衣がくれるとまでは思っていなかったから、驚きを隠せない。
 というか。

(俺、和衣にチョコ用意してない…!!)

 だって生まれてこの方、チョコを貰うことはあっても、上げたことなんかないから、今日だってそんな発想、まったくなかった。
 自分の考えの貧困さに、嫌気が差す。

「あ…あの、和衣、俺…」
「あっ、チョコ!」
「あ、うん、その俺…」
「祐介も用意しててくれたんだ!」
「えっ!?」

 いや、何も用意してなかったから、謝ろうとしてたんだけど……と、祐介が言い訳するよりも先、嬉しそうな声で手を伸ばした和衣が取ったのは、机の上に置きっ放しになっていた、例の義理チョコ。

「あ、いや、それは…」
「嬉しー! ありがとう、祐介!」
「え、あ、うん…」

 いや、本当はそうではなかったんだけれど、でも喜んでいる和衣の気持ちに水を差すのも何だし、えっと、そういうことにしてしまってもいいのかな…?

「祐介、大好き!」
「え、うん、俺も…」

 本当に嬉しそうに抱き付いてくる和衣に、祐介は、来年こそちゃんと自分でチョコを用意しようと、心に決めた。
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三月 続く日々も君とありたい (1)


「カズ、4月からの寮の入居希望、出した?」

 亮の言葉に、和衣は日替わり定食のエビフライを銜えたまま顔を上げた。
 冬休みの前に、4月以降の入寮希望についての書類を貰っていたのだが、締め切りが2か月以上も先だったので、まだいいやと思っているうち、いつの間にかあと10日ほどになってしまっていた。
 4月から入居を希望する人のためにも、早めに継続かどうかを決めなければならない。

「そういえばさ、俺らが寮に入るって決めたのも、去年の今ごろだよね」
「だな」
「あのときはさー、2人部屋だし、男ばっかだし、安いだけが魅力だよ、とか思ってたけど…」

 寮に入ったおかげで、和衣は祐介と、亮は睦月と恋人という関係になれたわけで。
 ある意味それも運命なのかもしれない。

「で、カズ、どうすんの?」
「…一応、残るつもり。祐介とは一緒の部屋にはなれないけど」

 新入生以外は、1部屋2人の人員が割れているところに入寮希望者が割り振られるため、亮と睦月の部屋のように、2人ともが引き続き入寮を希望している場合は、基本的に同室者の変更はない。

 和衣の同室者も、4月以降、このまま寮にいると言っているから、和衣が祐介と同じ部屋になる確率はほぼ0%だ。
 もちろん今の同室者も嫌いではないし、一緒にいて居心地はいいけれど、出来れば亮たちのように、自分だって祐介と一緒の部屋になりたい。

「でもまぁ…別のとこにアパート借りるよりは、今のほうが近いし…」

 2人で寮を出て、一緒にアパートで暮らすという手もあるが、睦月がそれを言ったら、そんな恐れ多いこと出来るわけない!! と、和衣はまた、よく分からない理由でキッパリ否定した。

 ちなみに、1年間、親元を離れて暮らし、とても1人暮らしなんて無理! と自覚した睦月は、「亮がご飯作ってくれるし、このまま寮にいよー」と、亮が寮に残ること前提で、さっさと継続入居で書類を提出した。
 まぁ亮も、睦月と同じ部屋でいられるなら、このまま寮生活を続けるつもりだったから、いいと言えばいいのだけれど。

「ショウちゃん、どうするのかな」

 どうやら今の彼女とは長続きしているようで、そうなると寮での生活は窮屈かもしれない。
 ショウちゃん、寮出ちゃうのかな、そうなると寂しいな、でも好きな子とは一緒にいたいよね、と、和衣の乙女回路は、相変わらずなことを考えていた。




*****

 祐介の同室者が、車の免許を取るために帰郷していることを知った和衣は、じゃあ4月までは2人きりになれるチャンスがいっぱいある!! と胸躍らせて、前よりも頻繁に祐介の部屋を訪れるようにはなったが、でもあんまり行き過ぎて迷惑になったらヤダ……と、少し我慢しているらしい。

「いいな、俺も車の免許欲しいな」
「免許があっても、車がないと…、俺もう完全にペーパーだよ」
「祐介、免許持ってんの!? すごい!」
「でもペーパーだって」

 パッと顔を輝かせた和衣に、祐介は苦笑する。
 免許があって、車があれば、きっとドライブとか行けるんだろうけど…。

「じゃあ俺も、がんばって車の免許取って、がんばって車買って、祐介とドライブ行く!」

 意気込む和衣に、祐介は笑うしかない。
 和衣とドライブには行きたいけれど、何となく和衣の運転は怖い気がして。ペーパードライバーの自分が言うセリフではないだろうから、黙っておくけど。

「じゃあ、いつか一緒にドライブデートね?」
「はいはい、いつになるか分かんないけど」
「すぐじゃなくていいよ」
「は? 何で?」
「何でも。その代わり、絶対だからね」
「?」

 意味が分からないのか、祐介は不思議顔で首を傾げているが、和衣は1人で満足そうだ。
 だって、その約束が果たされる日までは、ずっと一緒ってことでしょう?
 いつになるか分からない、その"いつか"までは、一緒にいられるってことでしょう?
 うぅん、本当はその先も、ずっと一緒にいたいけれど。

「…和衣、別にそんなの、保証にするなよ」
「え?」
「ドライブにはいつか行きたいけどさ、そんな約束なくたって、一緒にいようよ」
「……。うん!」
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三月 続く日々も君とありたい (2)


「あぁ~、4月からはまた2人部屋かぁ…」

 約半年あまり、1人部屋を満喫していた翔真は、4月になって、新たな同居者が入ってくることに、ひどく残念そうに項垂れた。

「あれ、ショウちゃんも寮に残るの?」

 残り少なくなったパック飲料をズルズル啜りながら、睦月は小首を傾げた。

「え、ダメ? 残っちゃ」
「ううん。でもだってホラ、ショウちゃんと前一緒の部屋だった人、彼女が出来たから、寮出たんでしょ? ショウちゃんはそうしないのかな、て」
「まぁ、その辺は問題なしだから」
「そうなんだ。やっぱショウちゃんて大人だね」
「……そう…かな?」

 単に翔真の場合、彼女といつでも一緒、ベッタリの関係が苦手なだけで、その程よい距離感を保つには、今の寮生活のほうが自分には合っていると思っただけだ。
 そんなことを言ったら、和衣に何と憤慨されるか分からないので、寮に残る理由はあえて明らかにはしないけれど。

「今度はどんな人が来るかな。また、彼女出来たーて、途中で寮を出て行くような人だったら、ラッキーなのにね」
「…そうだね」

 新入生がためしに寮に入ってみるのと違って、在学生がアパート暮らしをやめて寮に入るのには、恐らくそれなりの理由があるはずだから、睦月の言うようになることは、まずないだろうけど。
 だからこそ、どんな人と一緒になるのかが気になる。
 単に、新しい生活に夢や希望を抱いていただけの、去年とは違うから。

「むっちゃんは、また亮と同じ部屋だね」
「うん、亮と一緒」
「ご飯作ってくれるしね」
「ッ…べ、別にそればっかじゃないし!」

 継続入居の書類を書いたときの睦月の名言を思い出し、翔真はまた笑いが込み上げてきた。
 天然とはいえ、よくまぁそんなにハッキリと言えたものだと思う。

「もぉ! そんなに笑わないでよ!」
「ゴメン、ゴメン」

 あのときだって、そんなに変なことを言ったつもりもないのに、またこんなに笑われて、睦月は頬を膨らませた。
 これだけ天然発言と行動を繰り返しているのに、睦月は、自分はしっかり者だと思っているから、余計に笑える……とは、間違っても言えない、と翔真は思う。

「ショウちゃんのバカー」
「ゴメンてば。あ、亮来たよ」

 とうとう機嫌を損ねてしまった睦月に、慌てるでもなく翔真は、向こうから来る彼の恋人に手を振った。

「お待たせ、……て、ショウ、何そんな笑ってんの?」
「笑ってないよ」

 我慢しているのだけれど、どうも口元が緩んでいたらしい。
 亮の指摘に、睦月からキツク睨まれる。

「え、何?」
「何でもないの!」

 これ以上深く追及されまいと、キョトンとしている亮を尻目に、睦月は口を開こうとした翔真を遮った。

「はいはい、じゃあ、邪魔者はこれにて退散します」
「え、ショウちゃん、行っちゃうの?」
「どうせ彼女だろ」

 席を立った翔真は、亮の言葉にニヤリと笑って去っていった。

「ショウちゃん、あんなに彼女とラブラブなのに、寮に残るんだって」
「あー…だろうな、アイツなら」

 長い付き合い、翔真の性格を知っている亮は、納得したように頷いた。

「亮はさぁー」
「ん?」
「寮に残るでよかったの?」
「は? 何が?」

 だって、さっきまたそのことで、翔真に笑われたし。
 もしかして亮、何か無理してる?

「いや、別に。俺も睦月と一緒にいたかったし」
「……ホント?」
「ホント」
「ホントにホント?」
「ホントだって。何で信じないの?」

 ここまで来て疑り深い睦月に、思わず苦笑する。

「ホントにホント。ずっと一緒にいよ?」
「……うん」
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三月 続く日々も君とありたい (3)


「え、ショウちゃんの同室の人、まだ来てないの?」

 3月も終わりに近づき、引っ越しやらで連日、寮の中も騒がしい。
 そんな中、4月から翔真と同室になるはずの人物は、いまだに姿を見せないし、その引っ越しの荷物すら届いていないのだ。

「全然来る気配なしなのですが」

 それでも、同室者の人が来たときに、あまりだらしないのも悪いと思って、それなりに部屋の片付けなどをしておいたのだが、いつになっても、何の連絡すらもない。

「……何かさ、それって、亮のこと思い出す」

 それまで黙ってコーヒーを啜っていた祐介が、思い出したようにポツリと言った。
 そういえば去年、睦月と同室になる亮は、段取りの悪さから、入学式の前日に引っ越しをしてきたのだ。
 確かに言われてみれば、翔真の新しい同室者も、それに似ているかもしれない。

「えー、どうしよう、亮みたいのが同じ部屋だったら」
「俺みたいて何だよ! 何が不満なんだよ!」
「もー、亮うっさい」

 翔真に軽くあしらわれ、亮がギャーギャー喚き出すが、相手にはしない。
 しまいには和衣に、「まぁまぁ」とか言って宥められる始末で。

「…もういいよ」

「あーあ、亮が拗ねちゃった」

「むっちゃん、亮拗ねちゃったから、慰めてあげなよー」

「え、何かめんどい」

「えぇっ!?」

「ひゃはは、むっちゃん、それいい! 超ウケるんだけど!」

「全然よくねぇよ! カズ、笑いすぎ! ショウも!」

「2人とも、何でそんな笑ってんの??? ねぇ、何で?」

「あはは、むっちゃん、分かってないなら、いいよ」

「つーか、お前らホント、笑いすぎだから!」

「だってー」



「んん??」




「ねぇ?」





「――――…………」









 相変わらずの仲間。
 けれど離れられなくて。
 大事だから、これからも、ずっとずっと一緒にいたい、て思う。

 これから続く日々も、ずっと君と一緒にいたいよ。



















「…ていうか、みんな、声大きすぎだから…」
「え、祐介、何か言った?」
「……。…何でもない」








*END*








 ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
 11月の終わりから始まって、もう2月の半ば。今までの中で、1番長いお話になりました。
 訪問してくださるみなさんをはじめ、コメント、拍手、ランキングクリックしてくださるみなさん、大変励みになりました。
 ありがとうございました。
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毒か蜜かも分からない (1)


「お邪魔しまーす、…て、ちょっと!」

 久々にやって来た智紀の家。
 部屋に通されるなり、慶太はいきなり智紀の腕に抱き締められた。

「…んだよ」

 今日は家族が家にいないから、て、本当は帰って来てすぐに抱き付こうとしたのを制されて、部屋まで我慢したというのに、相変わらず恥ずかしがり屋の恋人は、すんなりとは甘えてくれない。

「だっていきなりだから…」
「何だよ、じゃあ先に、『抱き締めるよー』て言えばいいわけ?」
「…それも何か間抜けな気が…」
「お前が、いきなりとか言うからだろ!」

 子どもみたいな拗ね方をする智紀に苦笑しながら、慶太はカバンを置いた。学校帰り、そのまま連れて来てしまったから、テキストやらが入ったままだ。
 慶太は壁際に寄り掛けるようにしてカバンを置いたつもりだったが、手を離して少しもしないうち、バランスを崩してカバンが倒れてしまった。

「あ…」

 智紀の腕の中に収まった慶太は、その音に気付いて振り返ろうとしたが、智紀はそれを許さずにキスを仕掛ける。

「ん…」

 甘やかなキスに翻弄されていた慶太は、けれど、コロコロと床を転がって来た筒状のモノが視界に入った瞬間、

「うわぁっ!!!」

 何とも色気のない声を上げて智紀から離れて、それを拾い上げた。

「いってぇ…。慶太、お前…」

 驚きの余り、抱き締めていた智紀を突き飛ばしていたらしい。
 まったく身構えていなかった智紀は、いきなりの衝撃に床に引っ繰り返っていた。

「あ、あ、すすすすいません!!」

 低い声で智紀に呼ばれた慶太は、その筒状のボトルを背後に隠して、焦ったように智紀に頭を下げた。
 別にキスが嫌で智紀を突き飛ばしたわけではないし、でもそれにしたってこの仕打ちはひどすぎるから、謝るほかはない。
 でもそれよりも、すっかり忘れていた、今この手の中にあるボトルの存在が…。

「お前、何隠してんだ、後ろ」
「ななな何でもないです!」
「何でもねぇわけねぇだろーが」

 もし本当に何でもない、どうでもいいようなものだとしたら、そんなもののために、キスを中断し、あまつさへ恋人を突き飛ばしたというのか。

「ホントに何でもないんですー!」
「見せろ、このヤロ!」
「嫌だぁ~! うわーゴメンなさーい!!」

 慶太はズリズリと後退しながら智紀から逃げたが、背中が壁にぶつかり、そして顔の両脇には智紀の手。
 もう逃げ場がない。

「あ…あの…、…ん」

 怒鳴られるか、怒られるか、ビクビクしながら智紀から目を伏せていた慶太は、唇に触れる柔らかな感触に驚いて目を開ければ、真正面には智紀の顔。
 ビックリしてまた目を閉じる。
 触れるだけの優しいキスは、けれど唇を舐められて、思わず口を少し開ければ、すぐに熱い舌が滑り込んでくる。
 舌を絡める。
 深いキス。
 智紀の手が、慶太の体のラインを辿っていく。

「ん、ん…」

 追い上げられるような感覚に堪らなくなって、慶太は智紀の背中に腕を回して縋った。
 巧みなキスに、すっかり翻弄されて、気付かなかったのだ。

 両手を智紀のほうに回せば、隠していたボトルがどうなるのか。






 てことで、誰も覚えてないと思いますが、年末カウントダウン小ネタまつりの「すてきなプレゼント」のその後的なお話です。エロです。
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毒か蜜かも分からない (2)


「ぇ…あ…??」

 ゴソリと背中に回った智紀の手。
 探るような仕草。

「……ぁ…、……あぁっ!」

 唇が離れ、大きく息を吸い込んだ慶太は、背後に隠していたはずのボトルが智紀の手中にあることに気が付いた。

「ひど、いぃ…」

 あんなキスを仕掛けておきながら、実は慶太が隠していたボトルを手に入れるためのキスだったなんて。
 自分もキスの途中で智紀を突き飛ばしておきながら、でもこんなのひどい! て慶太は目を潤ませる。

「うっせ、元はといえばお前が悪いんだろ? てか、何なんだよ、これ」
「わーーー、ダメダメ、返して!」

 慶太はそのボトルを取り返そうと、必死に智紀に縋り付くが、あっさりとかわされる。

「あ、相川さ…」
「…んだよ、――――て、これーーーーー!!!!」

 慶太から奪い取ったボトルに貼られているラベルを読んでいた智紀は、書いてある能書きを読み切らないうち、思わず絶叫した。

 白っぽいボトルは、一見してごく普通のボトルだけれど、「温感ローション」と書かれたラベルをよく読めば、美容のためのローションではなくて、夜の生活に欠かせないほうのローションだと、すぐに分かる代物だった。
 おまけに、普段は潤滑目的にしか使っていないローションだが、こちら、ヒアルロン酸入りだのとなぜか美容面の効能まで謳われていて。

「ちょっおま、え、何で、えぇ!?」
「わーわーもう、もういいじゃん! 返してよぉ!」

 智紀も慌てたが、慶太も慌て過ぎて、思わずタメ口になっている。
 でもお互い混乱しているせいで、そんなことももちろん気付かず、ただアタフタとするばかりだ。

「な、な、な…」
「相川さんのバカぁ~~~!!」
「ちょっ、落ち着けって、イテッ、叩くな、慶太!」

 羞恥で完全にパニックに陥っている慶太は、バシバシと智紀を叩く。
 智紀はそのひ弱な抵抗を押さえ付けた。

「ゴメン、ゴメン、俺が悪かったから。見せたくないのに、勝手に見てゴメン。だからホラ、泣くなって…」
「相川さんのバカ、嫌い…」

 顔を真っ赤にした慶太は、とうとう涙を零れさえ、鼻を啜った。
 小さな子どもが泣くような仕草に、何だかいじめっ子にでもなった気分で、智紀は困り果てたようにその背中をさすってやった。

「だってお前がこんなの持ってるなんて思わなかったんだもん…」
「うー…グズ…」
「てか、何なの? 何でこんなの持ってんの?」
「う…」

 智紀に指摘され、慶太の頬が赤く染まる。

「返せって、いやお前のモンだから返すけどさ、……その、返したら、どうすんの?」
「え、」

 先ほどから慶太は、返せ返せとしつこいが、この手のローションを智紀に内緒で隠し持っていて、しかも返してくれなんて、誰かほかに使い相手でもいるのだろうかと、思わず勘繰ってしまう。

「あの、その…」

 慶太は耳まで赤くしながら、これまでの経緯を打ち明け始めた。
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毒か蜜かも分からない (3)


 事の発端は、高遠だった。
 学生会室にいた慶太と真琴を呼び止めた高遠が、2人の手に乗せたもの。
 それがこの温感ローションなのだ。

「あのバカ…」

 智紀は唖然としながら、宙を仰いだ。

「いらないっつったのに、無理やりカバンの中に入れられるし、相川さんに見られたら、て…すげぇ恥ずかしくて…」
「そっか…」

 温感ローションを床に置いた智紀は、まだ顔の赤い慶太の肩を抱いて慰めた。

 それにしても、高遠に無理やりカバンの中に入れられたところまではいい。高遠は先輩だし、慶太の性格からして断り切れないのも分かる。
 けれど、本当に嫌なら途中で捨ててくるとか、何か方法はなかったのだろうか。
 確かにチラッと見ただけではよく分からなかったが、カバンの口がファスナーとかで閉められるタイプではないから、よく見たら誰か気付いたかもしれない。

(お前、それは究極の羞恥プレイじゃないか…?)

 もちろん慶太はそんな自覚まるでないから、単に智紀にバレたことだけを恥ずかしがっているが。

「…で、どうしますか? 慶太くん」
「え?」

 智紀を見れば、しかしその手に、置いたはずのローションが再び握られてて、慌てて目を逸らす。
 どうする? と言われて、一瞬何のことかと思ったが、でもその言葉の意味が分からないほど、慶太だってバカではない。
 だからこそ、返事に詰まる。

「どう、て…」
「はい」
「え?」

 智紀はローションのボトルを、慶太の手に渡した。
 わけが分からず、慶太はジッと智紀の顔を見る(というか、手の中のものに視線を向けられない)。

「いや、お前が散々返せって言うからさ。はい、返すよ。元々はお前が高遠から貰ったんだし」
「え? え? え?」

 いや、確かにさっきは返せって言ったけど。
 けれども。
 そんなの今さら返されたって、困る。

「相川さん…」

 困ったように慶太は、ローションのボトルを智紀に押し付けた。
 だってこんなの絶対持って帰れないし、持っていたくもない。
 もし自分が使うとしたって、智紀以外の相手はいないだろうし、というか、もう何でもいいから、さっさと自分の視界から消してしまいたい。

「あのさ、恥ずかしいのは分かるけど、お前…」

 そんな真っ赤な顔でローションのボトルを無理に渡してきて、それって誘ってるって取られても、文句言えねぇよ?

「え、んっ!?」

 慶太の体を自分のほうに向かせると、激しくその唇を奪った。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

毒か蜜かも分からない (4) R18


*R18です。18歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。

「んは…」

 乱暴にTシャツとジーンズを脱がされ、ベッドに押し倒される。耳たぶを食まれながら、下着の上から自身を揉まれると、ビクビクと慶太の太ももが震えた。

「や…相川さん、耳ヤダ…」
「何? 感じちゃうから?」
「はぅ…」

 わざと耳元で囁いて、ベロリと耳の縁を舐めれば、慶太の体が跳ね上がった。

「ま、今日の目的はそれじゃねぇしな」

 言って智紀は、いったん慶太から体を離すと、着ていたものを脱いでベッドの下に落とした。
 温感ローションのボトルを手に取ると、慶太にそれを見せつけた。

「もう照れんなって、バカ…」

 額を合わせてキスをしてから、智紀はボトルのキャップを開けた。

「相川さんがエロい顔してる…」
「…お前に言われたくないんですけど」
「んぁ…」
「あ、わり、冷たかった?」

 本当は1度ローションを自分の手のひらに落として、その温度を人肌に馴染ませてから慶太に垂らすつもりだったのに、話しているうちにボトルが傾いていて、直接、その胸に掛けてしまった。

「ちが……平気…、あったかいよ…?」
「あ、温感ローションだから? もっと掛けても平気?」
「ん…」

 慶太の許しを得て、さらにその胸にローションを垂らすと、ラベルに書いてあったとおり、トロトロのヌルヌルのそれは、ゆっくりと慶太の胸の上を伝っていく。

「あぁ…」
「何? 慶太、ローション垂らしただけで感じんの?」
「バカ…」

 口ではそう言うものの、慶太が普段よりも感じているのは、紛れもない事実で。
 智紀が、そのローションがシーツにまで伝い落ちる前に指先で掬い上げて、ツゥーと慶太の肌の上を滑らせれば、慶太はビクビクと体を震わせて、慌てて両手で口元を押さえた。
 まだ大した愛撫も受けていないのに、あられもない声を出すのが恥ずかしいのだろう。
 そうやって我慢していても、どうせ最後には甘い声を上げてしまうのを分かっているから、智紀はあえてその手を外さず、慶太の好きなようにさせた。

「…ん、」

 ローションの滑りを借りて、智紀は指先で、慶太の小さな乳首を押し潰すように捏ねれば、その体がビクリと跳ね上がった。
 片手で乳首を弄びつつ、もう片方の手で、キレイに筋肉の付いた腹筋や脇腹を撫で回す。

「ふぅ…ん、ん…や…何か、いつもより…」
「感じる?」
「ん、あ…いい…」

 智紀はローションを足すと、ビクビクと震えている慶太の足を押さえて、滑らかな太ももに手を這わせた。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

毒か蜜かも分からない (5) R18


*R18です。18歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。

「はぁっ…」

 膝のほうからその付け根のほうに向かって手を滑らせれば、ヒクリとももを震わせた後、むずかるように腰を揺らめかず。

「ぁ…相川さ…、あ、あぁ…」

 いつもとは違う感触と、もどかしい智紀の手の動きがじれったいのか、慶太は智紀の手を取ると、自分の中心へと導こうとした。

「ん? 慶太、触ってほしいの?」
「あ…ん、触って…」
「つーかさ、慶太のここ、まだローション垂らしてねぇのに、グチャグチャなんだけど」
「あ、あ…らってぇ…」

 首を振ってもがく慶太の両足を開き、閉じられないように間に体を入れると、智紀は手にたっぷりとローションを出して、もう先走りをダラダラと零している慶太自身を握り込んだ。

「―――――ああぁっ…!!!」

 突然の刺激に、慶太は背中を反らせる。
 反射的に足を閉じようとして、けれど間には智紀の体があって、ローションまみれのももが、その腰を滑っていく。

「はぁっ…あ、あっ…相川さん、相川さん…!!」
「慶太、かわい…」
「んーっ…あぁ…」

 慶太の前を弄る手を止めず、智紀は慶太を背後から抱き締めて、空いているほうの手で、柔らかい尻たぶを開くように揉めば、堪らないといったように慶太は腰をうごめかす。

「はあぁっ…!!」

 ローションにまみれた智紀の手が、アナルから会陰にかけてを何度も辿ると、慶太の全身がビクビク震え出す。

「ん? 慶太、これ、いいの? 気持ちいいの?」
「あ、あ、あっ…」
「あ、じゃ分かんない」
「んぁ…あ、あいか…相川さ…、い…いい、気持ちいぃっ…」

 我慢できなくて、後ろ髪がクシャクシャになるほど智紀の胸に後頭部をすり寄せて、慶太は喘ぎまくった。
 口を閉じることも出来なくて、端からダラダラと唾液が零れる。

「やぁっ…!!」

 痕が残らない程度の強さで、慶太の首筋に歯を立てる。

「あ、や…イク…!! イキたい……イッて、いい…!?」

 切羽詰まったような慶太の声に、智紀の口元がニヤリと歪む。

「…イケよ」
「ア、ア、あぁーーー!!!」

 耳元で吐息とともに囁けば、慶太は背中をのけ反らせて達した。

「すげ…お前、溜まってたの? それとも、いつもより感じてる?」
「ヤ…バカ…」

 精液で汚れた手を見せつければ、慶太は恥ずかしがって身を捩りつつも、薄く口を開いて、智紀の指先をペロリと舐めて口に含んだ。
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カテゴリー:智紀×慶太
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毒か蜜かも分からない (6) R18


*R18です。18歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。

 チュプチュプと夢中で指をしゃぶる慶太の体を仰向けにして、口から指を引き抜くと、膝裏を掬って足を開かせた。

「あ…あん…、入れて…」
「バカ、全然慣らしてねぇよ」
「や…相川さ…、ふぅ、ん…」

 ローションと精液でベトベトの指で、慶太の秘所を探る。
 ゆっくりだけれど、一気に2本の指を含ませようとすれば、慶太の中は、さして抵抗もせずに飲み込んでいく。

「はっ…ぁ、ん…」
「すっげ…中、ゾワゾワしてる…」
「やぁ…ん、く、ぅ…」

 中を押し広げるようにして指を進めて、けれど一番感じる部分をわざと避けて指を抜き差しすれば、じれったくなったのか、慶太は腰を動かし始めた。

「や…あいか、わ…さん、そこじゃ…」
「うん? ここイヤ?」
「あっ…もっと上んトコ…」

 震える慶太の手が、智紀の手に重なる。
 智紀は指を3本にして、慶太が触れてほしい部分を撫で付けた。指が増えたことで、いつもより多めに垂らしたローションが、中からグチュリと溢れ出た。

「んんっ…ん、ソコッ…」
「ここ、慶太の好きな場所?」
「あぁー…ん、いい…! ね、も…いいでしょ? 入れて…入れてよぉ…」

 情欲に濡れた瞳で見上げられ、智紀はゴクリと喉が鳴ったのが分かった。
 ズルリと一気に指を引き抜くと、手早くゴムを付ける。すっかり力の抜け切った慶太の足を抱え直して、ヒクつくそこに熱く滾った自身を宛がった。

「あ…早く…」
「慶太…」

 ジワジワと少しずつ挿入していけば、我慢できなくなったのか、慶太は智紀の腰に手を回して、奥まで入れようとする。

「クッ…」

 限界なのは智紀も同じで、普段よりも大胆でいやらしい慶太の痴態を見せられていて、我慢なんか効くはずもなく。
 慶太の腰を掴むと、グッとに引き寄せた。

「あぁっ…あ、あ、んっ…」
「はっ…」

 慶太に覆い被さるようになれば、ローションにまみれた胸がこすれ合って、今までにない感触が襲う。

「やっ…やぁ、や、何かっ…」

 慶太の上擦った声。
 智紀は腰の動きを止めずに、慶太を抱き締めるようにして、さらに体を密着させる。
 ただでさえ胸が敏感な慶太は、もうすっかり飛んでしまったのか、乱れた呼吸に口を閉じることも出来ず、ただ何かに耐えるように首を横に振っている。
 しっとりと汗ばんだ肌に、乱れた髪が貼り付いている。

「あ、あ、ッ…あい、相川さんっ…!」
「ヤベ、すげぇ気持ちい…」
「ん、ぅん、いいっ…! あん、ん…あぁっ…!」

 奥の敏感な部分ばかりを狙って細かく突けば、縋るように智紀の背中に回されていた慶太の手に力がこもる。

「んっ…ぁ、あっ…!」

 2人の腹の間に挟まれた慶太の性器がグッと膨らんで、爆ぜる。
 ローションに混じってダラダラと垂れていく精液に、智紀は、慶太がイッたことを知ったが、当の慶太は、まだガクガクと体を揺さぶられながら、快感を追い掛けている。

「ヤベ、俺もイキそう…。慶太、イッていい? このまま、」
「え…? あ、ん、ん…あぁ…」

 もう答えることもままならない慶太の腰を掴み直して、1度引き抜くと、逃がすまいと締め付けてくる慶太の中に、一気に深く突き上げる。
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カテゴリー:智紀×慶太
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毒か蜜かも分からない (7) R18


*R18です。18歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。

「いやっ、やっあっ、待ってっ、」

 イッた直後の慶太の体はひどく敏感で、智紀の動きに付いていけない慶太は、背筋を掛け上がっていく快感に、悲鳴のような声を上げる。
 もう無理、て智紀を止めたくて目を開ければ、目の前にはめったに見れないくらいの、余裕のない智紀の顔。
 セクシーなその表情に慶太は、思わず智紀を受け入れている部分がキュッと締まるのを感じた。

「ちょっ…慶太!」

 焦ったような、智紀の声。
 慶太も、中にある智紀自身の形をリアルに感じてしまって、慌てて力を抜こうとするけれど、智紀が遠慮なしに突き上げてくるから、もうどうすることも出来ない。

「ん、ぅん…」

 深く唇を合わせられ、舌を絡められて。
 密着した体が、ローションで滑る。

「ぁっ…慶太、好き…」
「あぁっ…!!」

 唇を重ねたまま囁いて、その次の瞬間、中の最奥の部分に熱を解き放った。

「はぁっ…相川さ…」

 ローションやら精液でドロドロになった体を離そうとすれば、「ダメ…」と慶太がしがみ付いてくる。

「慶太…ヤバいって。またやりたくなっちゃうから」
「…ん、する…」

 夢うつつのような、うっとりとした表情で、慶太は濡れた唇を舐め、そして中の智紀をキュッと締め付けた。








*****

「うぅー…腰痛い…」

 鍛え上げているとは言わないが、それでも筋肉の付いた男である慶太は絶対に重いはずなのに、ローションと汗と精液でベタベタの慶太の体は、軽々と智紀に抱えられて、バスルームへと連行された。

「あーん、相川さん、腰痛いー!」
「泣きごと言うな! 何回したと思ってんだ」

 泡をたっぷり乗せたスポンジで体を洗われながら、智紀の胸に背中を預けた慶太は、先ほどからずっとグズっている。

「……相川さんが盛るから…」
「盛るとか言うな!」
「だって5回とか……ドーブツ…」

 ドーブツて! と智紀は軽くショックを受けるが、慶太は構わない。

「でも気持ち良かっただろ? お前だって」
「知らないし!」

 照れてまた赤くなっている慶太を、かわいく思う。

(今度は違うローションとか…)

 冷たい慶太の視線に気付くことなく、智紀はそんなことを考えながら、シャワーで慶太の体を流してやった。





*END*






 で、この後、「高遠さんのメモ帳」に続くわけです。グッジョブ。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

甘い運命 (1)


 俺は知っている。

 アイツには好きな人がいて、でもアイツの好きな人にはもう恋人がいて、それは絶対に報われない恋心だってこと。

 けれどアイツはそれを知っていて、それでもなお、想うことをやめないでいること。想い人にも、そして他の誰にも気付かれないよう。



 でも俺は知っている。

 だって俺は、そんなアイツに、実ることのない恋心を抱いてるんだから――――。




*****

 教室に入って来た水樹の眉間のシワで、いかに彼の機嫌が悪いかは一目瞭然だった。
 恋人の恭がまだ来てないから、水樹が癒されに行くのは晴海のところだろうと踏んでいたのに、実際に彼が近付いてきたのは章吾のところで、少し伸びて金色に染めたその坊主頭をグリグリと撫で回し始めた。

「……水樹さん。いったい何を…」

 グリグリ、グリグリ。

(……癒されてんのかな…?)

 突っ込みを入れるべきか入れざるべきか章吾は迷ったが、とりあえずはされるがままになっておく。下手にこれ以上機嫌を損ねるのは、得策ではないと思ったからだ。
 水樹の機嫌を伺いつつ、ふと視線をその先に向けた章吾は、こちらを見ている晴海と目が合って、ハッと目を逸らした。
 いや、目が合ったというのは、章吾の思い込みかもしれない。正確には、晴海は水樹のことを見ていたのだから。

(自意識過剰……晴海が俺のことなんか見るかよ…)

 章吾は少し恥ずかしくなった。
 晴海の、そんなほんの些細なことすら意識してしまうなんて。

「…てか、あのさぁ水樹、これ、どういう遊び? 俺は笑って済ませばいいのか?」

 水樹からの反応はなし。
 代わりに上機嫌で近付いてきたのは、ようやくやって来た恭だ。

「ね、ね、俺も交ぜてよ!」

 グリグリ、グリグリ。グリグリ…。

 2人の手が、章吾の頭をグリグリ撫で繰り回して。

「だーーー!! 俺はおもちゃでも暇潰しでもねぇーー!!」

 わざとキレたふうを装って、章吾は大きな声を上げる。
 晴海の顔が、水樹を見つめる晴海の顔が気になったけれど、それすらも気付かないふりして。
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カテゴリー:読み切り短編
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

甘い運命 (2)


「しょーご、どうした?」
「は?」

 授業の始まる前、唐突に水樹に尋ねられ、章吾はわけが分からず眉を顰めた。

「俺のほうがお兄さんなんだから、何でも相談してくれていいんだよ」
「何言ってんだ」

 兄貴肌、なんてタイプでもないくせに、どういうつもりか水樹は章吾の隣に座ると、章吾に話を促してくる。

「何もねぇけど……何? 俺、何か変か?」
「だって章吾、ここんとこ何か元気ないじゃん。違う?」
「俺だって、毎日毎日ハイテンションなわけじゃねぇよ。こういう日だってたまにはあるっつーの」
「…………アノ日? それとも溜まってるとか?」
「このバカッ!!」

 バシッといい音を響かせて、水樹の頭を引っ叩いてやる。
 本人は好きなようだが、水樹に下のほうのジョークは似合わない。

「ホントに何でもな…」
「何が?」

 章吾と水樹の会話に割り込んで来たのは、先ほどまで恭にいいように遊ばれていた晴海で、胡散臭い笑顔で章吾と水樹の間から顔を出した。

「なっ……うわっ!?」

 ガタンッ!!

 突然掛けられた声に、そしてその声の主が晴海だったことで余計に驚いて、章吾はそのまま椅子から転がり落ちた。

「何やってんの?」

 章吾を驚かせた張本人は、しれっとした顔で章吾の腕を引っ張って、その体を起こしてやる。

「ビビらせんな、バカ晴海」
「相変わらずひどいなぁ」

 章吾に何か言われたところで凹むでもなく、晴海は空いている椅子を引き摺って来て、2人のそばに座った。
 普段の扱われ方のせいか、晴海はこういうとき、案外打たれ強いのだ。

「章吾さぁ、ちょっと元気ないの。で、水樹くんのお悩み相談室」
「そうなんだ。で、どんな悩みなの? 章吾が相談したのって」
「まだ聞いてない。ってか、何で晴海が知りたがるわけ?」
「そりゃ知りたいでしょ。章吾が悩んでるなんて、ほっとけないじゃん?」
「……弱みを握りたいってこと?」
「あ、バレた?」
「ウチは秘密厳守でーす」

 もとは章吾のことなのに、2人は彼抜きに勝手にどんどん話を進めていく。
 何となく気持ちがスーッと冷めていく感じがして、章吾はパイプ椅子を立つと、2人から離れた。
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カテゴリー:読み切り短編
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甘い運命 (3)


「――――で、結局今日のは何だったわけ?」

 授業が終わって、帰り支度の最中、真っ先に身支度を整えた晴海が、章吾に声を掛けた。

「…何が?」
「さっきの、水樹くんの」
「だから、何でも…」
「俺、関係してる?」
「―――――、」

 図星を突かれて、けれどそんなこと気付かれたくなくて、章吾は何でもないふりで帰り支度を済ませた。

「章吾、一緒に帰ろうよ」
「何で、」
「何食べたい?」
「話を勝手に進めるな」
「焼肉?」
「…お前の奢りなら」

 せっかく誘ってくれたのだ。無下に断る理由はない。
 ただ、もっと素直に言えれば、かわいげだってあるのに、とは自分でも思うけれど。

「じゃ、決まり」

 そう言って晴海は、短い金髪の章吾の頭をワシャワシャ撫でた。



***

 店が混んでいたから仕方ないといえば、仕方ないのだけれど、男2人、個室で焼肉…。

「まぁ、こういうのも、いいよね」
「よかねぇよ」

 ふて腐れたように、章吾はメニューを立てて、それを覗き込んだ。実際は、晴海と個室で2人きりという状況にドキドキして、赤くなっているであろう頬を隠すためだったのだが。

 注文した肉を焼きながら、時折章吾は晴海の様子を窺うが、いつもの晴海と変わりがない。
 いや、2人で食事に行くこと自体、初めてのことでもないし、晴海がいつもどおりだって別にどうってこともないのだが、今日はどうも晴海が、章吾と水樹との遣り取りを気にしていたようだったから、何かそのことで言いたいことでもあるのかと思ったのだ。

「俺の顔、何か付いてる?」
「え?」
「さっきから、チラチラ見てるよね、俺のこと。ってか章吾、学校とかでも、よく俺のこと見てる」
「―――――ッ、バ…バッカじゃねぇの? 自意識過剰だよ、お前」
「そうかな?」

 ずっと見てた。
 見てたけど、そんなのバレてないはず。

 だってお前は―――――俺のことなんか見てないだろ?

「バカじゃねぇの、俺はお前のことなんか見てない」

 こんな話、していたって虚しくなるだけで、さっさと話を切り上げたかったから、章吾は無理やり話を終わらせた――――のに。
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カテゴリー:読み切り短編
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甘い運命 (4)


「だって俺、よく章吾のこと見てるんだけど、結構目が合うなぁ、って思ってたんだよね」
「ッ…、ちょっ……は?」
「それってやっぱ、俺の気のせい? 章吾の言うみたいに、俺って自意識過剰なのかな?」
「おい、ちょっ…待てよ」
「何?」
「お前、今何つった?」

 聞き捨てならない晴海のセリフに、網の上で肉が焦げるのも気に留めず、章吾は晴海に詰め寄る。

「『俺って自意識過剰なのかなぁ?』」
「そこじゃねぇよ」
「『それってやっぱ、俺の気のせい?』」
「もっと前!」
「もっと前? ……何だっけ?」
「お前はニワトリかっ!? おま、俺のこと見てるって…」
「あぁ、それ。うん、見てるよ。そりゃだって、好きな子のことは見ていたいじゃない? あ、言っちゃった。わっ、焦げてる焦げてる!」
「………………」

 とんでもないセリフをサラリと吐いた後、言ったこと自体を認めておきながら、どうしてこの男、焦げた肉の心配なんかしているんだろう。
 章吾には、それがたまらなくおかしかった。

「…何笑ってんの? 肉焦げてんのに」
「肉に笑ってんじゃねぇよ。はぐらかすな、バカ晴海」
「いやー、だってはぐらかしたくもなるでしょ。普通告白っていったら、もっとロマンチックな雰囲気の中でやるもんじゃない? それを肉焼いてる最中にうっかり口走っちゃったらねぇ」

 うっかり告白して焦っているはずなのに、晴海にはそんな雰囲気まるでなくて、いつもの冷静な彼のままだ。
 だから余計に、章吾はその言葉の真意を測り損ねている。

「お前、マジで言ってんの…?」
「うん。あ、もしかして嫌だった? ゴメンねー」
「謝り方に全然心が籠ってねぇ…。てか、何でお前、そんなに普通なの? 今告ったんだろ? 返事とか、気になんねぇの…?」
「いい返事を期待してるよ。あ、悪い返事だとしても、大丈夫、ここの分はちゃんと奢るから。それは約束だからね」

 だから遠慮せずに、自分の素直な気持ちを答えて?

「だってお前……水樹…」
「は? 水樹くんがどうしたの?」

 お前はずっと、水樹のことを見てただろ?

「俺……お前は水樹のことが好きなのかと思ってた…」
「水樹くんのこと? まぁ、同じゼミだしね」
「それだけ?」
「うん。疑り深いね」
「だって…」

 お前はずっと、水樹のこと、見てたじゃないか……。

「だって水樹くん、よく章吾のそばにいるじゃん。それで俺が水樹くんのこと見てると思ったの? ヤダなぁ、俺、そんなに安売りしないよ」
「バカ…」
「ねぇ、それで返事は?」

 晴海の視線が居心地悪くて、章吾は視線を彷徨わせた後、俯いた。

「聞きたいな、章吾の口から。俺のこと、好き? 嫌い?」

 追い詰められるような、そんな感覚だった。
 感情が、溢れ出す。

「好、き…」

 肉の焼ける煙の向こう、嬉しそうに笑う晴海の顔が見えた。






*END*
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