恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2010年07月

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5. 利子の変わりにちゅーさせて (1)


 連れてこられたのは、いかにも高級!! って感じのマンション。徳永さんのお店じゃないし……もしかして自宅かな?
 借金取りって儲かるんだなぁ。

 すげぇ、電子キーだ! 暗証番号入力するヤツ!
 最初のエントランスで、もう暗証番号とか入れるんだ、マジすげぇ!!

 うわぁ、うわぁ、超広い!
 ちょっとしたホテルのロビーより、よっぽどすごいんじゃね!?
 何ここ! 凄すぎる!!

「おい、どこ行く気だ?」
「あ、すいません!!」

 物珍しさから、辺りをキョロキョロしてたら、いつの間にか徳永さんは、エレヴェータのほうへ行ってた。
 そんな状況じゃないってことは分かってるけど、あまりの豪華さにちょっと興奮気味の俺。
 昔、テレビで見たことあるよ、こういうの。
 超お金持ちが住んでんだよね!?
 エレヴェータの中もめちゃくちゃ広いし……ってか俺、最近エレヴェータにすら乗ってないよ!

「すご…」

 どこをどう見ても、高級感が漂ってるマンション。
 エレヴェータは最上階で止まって、徳永さんは降りてから3つ目のドアの鍵を開けた(これも当然電子ロック!)。
 3つ目っていうか……このフロアに、玄関のドアって、3つしかないんだよね。俺の住んでたアパートも各階に3部屋ずつしかなかったけど、規模が違いすぎる!

「どうぞ」
「はぁ…」

 こんなきったない格好で入っちゃっていいのかな?
 チラッと徳永さんの様子を窺うと、目が合って、早くしろって感じで促される。

「……お邪魔しまーす…」

 うわー……部屋の中も超広い!!



「―――で、さっきのは一体どういうこと?」

 部屋の広さに圧倒されて、立ち竦んでいた俺の背後から、徳永さんの低い声。

「え、さっきのって…?」
「さっき。どこに行こうとしてたんだよ、あの男にくっ付いて」
「あ…」

 さっきの、サラ金のビラ配りのお兄ちゃんのことか。
 どこって……よく分かんないけど、あの人の働いてるお店、だよね?
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (2)


「これ…」

 何て説明したらいいかよく分かんなくて、さっき渡されたチラシを徳永さんに渡す。受け取った徳永さんは、チラッとそれを見た後、フンッと鼻で笑った。

「まさか、これ信じて、付いてったのか?」
「信じてっていうか…」

 無理やり連れて行かれたんだけどね。
 でも、興味を惹かれたのも確か。だって20分以内に振り込んでくれるんだよ? 凄くない?

「本気で20分以内に振り込んでくれると思ったわけ?」
「…………だって……」
「何だよ」
「だって、すぐにお金が必要だったんだもん…」

 ものすごいバカにしたような徳永さんの言い方に、何だか泣きたくなってくる。
 確かにバカだけどさ。
 でも1週間以内に10万円工面する方法なんて、ほかに知らない。

「お前、俺んとこのほかに、こういうヤミ金にまで手ぇ出すと、マジで取り返しつかなくなるぜ?」
「ヤミ、金……やっぱ、ヤバイとこだったのかな…?」
「ホントに分かってなかったのかよ!」

 徳永さんは本気で呆れたように、大げさに溜め息をついた。

「で、でも! とりあえずここで500万借りれば、徳永さんから借りてたのは返済できるし!」
「多重債務って、そうやってなってくんだぜ?」
「でも……10万だけなら…」
「は?」
「10万だけ借りれば……とりあえず徳永さんに、今月の分は払えるし…」

 今月分の支払期限は、だって1週間しかないし。ほかにそれだけ稼げる方法も思い付かないし。

「つーかさ、」

 サングラスを取った徳永さんは、スーツの上着だけ脱いで、無造作にソファの背に掛けた。何やっても様になるなぁ、この人は…。

「今月の返済って、君じゃなくない?」
「はぁ…」

 一応、2人で交互に返済するって話はしてあって、それでもいいって言われてはいたんだけど、実はアイツが逃げちゃったってことは、まだ話してない。

「もう1人は? 一緒じゃねぇの?」
「…………。……アイツの分も、俺が何とかしますから!」
「どうやって?」
「……それは…」

 やっぱりさっきのとこに行って借りようかな。ヤミ金って言ったって、10万くらいだったら、どうにかなるかもしれない。で、バイト代が入ったら、そっちに10万返して、それから徳永さんに…。
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (3)


「―――直央くんが何考えてんのか、想像が付かなくもないけど」

 そういえば、何でこの人、俺のこと"直央くん"って呼ぶんだろ。別にいいけど。
 っていうか、それより! 俺の考えてること、想像が付いちゃうって、そんなの…。

「なぁ、ホントのこと話してみ?」
「……別に、ホントも嘘も、ない…」

 だってそんなの、言ったところでどうなるわけ?
 話したところで、徳永さんには500万返さなきゃいけないことに変わりはないし。違うといえば、1人で返すか2人で返すか、それだけのことだ。

「今日、直央くんち行ってみたら、別の人が住んでたよ。今日から越してきたって言ってた」

 あぁ…やっぱりもう、俺はあそこには戻れないんだ…。
 俺、これから、どこに帰ればいいのかな…。

「もしかして、アイツに逃げられちゃったとか?」
「…………」
「なぁ、そうなんだろ?」

 これ以上、この人に隠し事できないって思って、俺は黙って頷いた。そしたらそのまま顔を上げることが出来なくなった。

 何か、泣きたくなった。
 この先どうやっていこうっていう不安もあるけど、何でアイツ、いなくなっちゃったのかなぁっていう、悲しみ。

 原因は借金だろうけど、何で俺に黙っていなくなっちゃったのかな?
 逃げるのに、俺、邪魔だったのかな? 最初から、俺に借金押し付けて、逃げるつもりだったのかな?

 鼻の奥がツン…と痛くなる。
 あぁ、俺って、情けない男だなぁ……いい大人が人前で泣くなんて。

「……ぇ…」

 徳永さんの手が俺の髪に触れて、そのまま顔を上に向かせた。ヤダなぁ、俺、泣いてんのに。

「逃げられたって、昨日の話?」
「…………ん…。バイトから帰ったら…」

 俺は昨日からのことを、すべて徳永さんに話した。
 いつの間にかアパートも引き払われてたこと。財布の中には3,000円ちょっとしかなくて、預金残高はマイナスだったこと。連絡先も分からなくて、アイツにはもう連絡がつかないこと。
 俺もアイツも身寄りはないから、ほかに連絡する場所もないんだ。

「捜さねぇの?」
「捜しようもないし……そんなことするより、別のバイト見つけるほうが先かなって」
「コンビニとスタンド、辞めんの?」
「辞めないけど、それだけじゃ足らないから。それに、住むとこも探さないといけないし」

 アイツは俺を残して逃げたんだから、きっとそう簡単には見つからないところにいると思う。
 そんなことに金と時間を使うくらいなら、バイト探したり、住むとこ探したりするほうが、よっぽど懸命だ。
 だって俺は、今日ここを出たら、行くとこがないんだから。
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (4)


「相変わらずお人好しでかわいいねぇ、直央くん」
「はぁ?」

 今、かわいいって言った? この人。
 何? 今の、俺に言ったの? 何だろ、そういう冗談がお金持ちの人の間じゃ流行ってんのかな?

 それよりもその前に言った"お人好し"っての、褒められてんの? 貶されてんの?

「それよかさぁ、これからは直央くんが、1人で500万返していくわけじゃん?」
「はぁ…」
「俺の言うこと聞いてくれたら、とりあえず利子の分、チャラにしてやってもいいけど」
「ホントですか!? やります、何でもやります!」

 こうなったらもう、怖いモンなしだ。
 それこそもう、失うものなんて何にもないし。

「じゃあ……利子の代わりにちゅーさせて?」
「………………………………」

 ……………………??
 …………え?
 ……ん?

「えええぇぇ~~~!!!???」

 ちゅ、ちゅーってことは、えっと、えっと、それって、あの"ちゅー"のこと? えっと、あの、あの……

「俺……男なんですけど…」
「知ってるよ」

 知ってるよって……知ってるなら、何で!?
 金持ちの間じゃ、男同士でキスすんの!? 俺、貧乏だからよく分かんないっ…!!

「ねぇ、させてくれる?」
「あ、あの……男だって分かってるなら、何で…?」
「んー? いや、前からかわいいなぁって思ってたし」

 よ…よく分かんない! その感覚、全然分かんない!! 俺のどこ見て、かわいいとか言ってんの!?
 こんな借金まみれの小汚い男を捕まえて、一体全体どこがかわいいって言うの!?

「ダメ?」
「え、あ…あの、ホントにそれで、利子の分、チャラにしてくれるんですか…?」

 男とキスなんかしたことないけど(っていうか、ここしばらく女の子ともしてないけど)、でもそれでホントに利子分チャラにしてくれるって言うなら、俺、がんばる!!

「もちろん」
「じゃ…じゃあ、お願いします…」

 とは言ったものの、どうしていいか分かんなくて、俺よりちょっと高い位置にある徳永さんの顔をジッと見つめてたら、徳永さんに「フッ…」って笑われた。
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (5)


「目、くらい瞑ろうぜ?」
「あ、はい!」

 言われて、俺は慌てて目を閉じた。

 ひぃっ、何か怖いっ!! さっきは怖いモンなしなんて言ったけど、やっぱ怖いよ! 俺って超だせぇ。
 でも怖くてギュって目を瞑ってたら、徳永さんの顔が近付いてくる気配を感じる。

 徳永さんの手が俺の顎を押さえて、唇が触れる。
 中学生じゃあるまいし、でもすげぇガチガチになってる、俺。


「―――ッ…!!!???」


 え、え、ええぇぇ~~~!!??
 し、舌がっ! 徳永さんの舌が、口の中にっ!!
 ウソッ、ちゅーでしょ、だって!! こ、こんなのもう"ちゅー"の粋を出てるよぉ!!


「ん、んっ…んー!!」

 く、苦しいっ!!
 息継ぎしたくて首を捻ろうとしたけど、徳永さんにがっしり押さえ込まれてて、それも叶わず。
 角度を変えたりしながら、徳永さんの舌が俺の口の中を動き回ってる。

 ヤバイ……何か頭がボーっとしてきた……どうしよう、俺、このまま窒息死しちゃったら…。

「ふあっ…!!」

 俺が頭の片隅で死を覚悟した瞬間、唐突に徳永さんの唇が離れて、俺を押さえてた手も放れて、支えを失った俺の体は、そのまま床にペタンってなった。

「は…ふぅ…」

 良かった……生きてる…。

「どうした? キスだけで腰が砕けちゃった?」

 笑いながら徳永さんが俺の前に屈んだ。

「息、出来なくて……で、」
「ねぇ、まさかこれがファーストキスだとか言わないよね?」
「ちっ違います!! キスくらいしたことあります!」

 俺だって、もう23歳だし!
 それにいくら何でも、ファーストキスが男だっていうんじゃ、悲しすぎる!!

「あぁ、失礼。いや、そうじゃなくてね、こういうキス。自分から女の子にしたことあるの?」
「な…何でそんなこと、話さなきゃ…!!」
「もしかして直央くん、童貞?」
「mqあcうぇdrかb;vcp;@!!!???」
「当たりだ!」
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (6)


「もしかして直央くん、童貞?」
「mqあcうぇdrかb;vcp;@!!!???」
「当たりだ!」

 徳永さんはさも楽しげにそう言って笑うけど、これって、俺にしたら、ものすごい屈辱じゃない!?
 しょうがないじゃん!! こんだけ借金抱えて、のん気に女の子とそんなことして遊んでられると思ってんの!?

 あ、そっか、分かった!
 キスして、俺にこういう恥ずかしい思いをさせようって、そういう魂胆だったんだ!! バカバカ、超ひどい!!

「ふぇ…」

 恥ずかしさと悔しさで感情が昂って、涙が溢れた。
 さっきもう泣いてるとこ見せちゃったし、散々恥ずかしい思いもさせられたから、今さらこの人の前で泣くくらい、どうってことないよ、もう。

 俺は恥も外聞もなく、子供みたいにワンワン泣いた。
 もういい加減にしてほしい。

 これならさっき徳永さんに助けてもらわないで、あのサラ金のお兄さんに付いて行けば良かった。
 そうすればもう、俺の口座に500万円が振り込まれてて、徳永さんに全額返済してたのに。

「ゴメン、ゴメン直央くん…」

 何だよ、直央くんて、バカにすんなよ…。
 徳永さんが、子供にするみたいに、よしよしって俺の頭を撫でてくるから、悔しくて俺はその手を振り払った。

「直央く…」
「やめてください! 俺、もう帰ります!!」
「ちょっ…待てよっ!」

 何とか立ち上がって、部屋を出ようとする俺の腕を、徳永さんが掴んだ。

「放してっ! ちゃんと、ちゃんと返しますから! もう許してっ…」

 それでも力の差では徳永さんに全然敵わなくて、俺の体はあっさり引き戻された。どこまでも惨めな俺。

「ヒック…」
「ゴメン、からかいすぎた。ホントにゴメン…」
「もう……いいですから、俺のこと、帰してください…」
「ヤダ」

 ……何だよ、それ。
 一体俺のこと、どうしたいわけ?

 涙でグチャグチャになった俺の顔を、徳永さんの手が拭っていく。もうどうしたって逆らえないって分かって、されるがままになる。
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (7)


「あのさぁ、場合によったら、借金の500万、帳消しにしてやらないでもないんだけど、どう?」
「は?」

 何を言い出すんだろう、この人。
 何考えてんのかさっぱり分かんないのは、俺がバカだから? それとも金持ちと貧乏人の違い?

「ホントはね、そのことを言おうと思って、直央くんをここに連れてきたわけ、今日」
「はぁ…」
「ちょっと話す順番間違えたら、泣かしちゃって。ゴメン」
「それはもういいですけど…」

 子どもを慰めるみたいに頭を撫でられて。それも何だか癪に障らないでもないけど、今さらだから、何も言わない。
 それに俺も、いつまでも泣いてるの恥ずかしいから、深呼吸を1つして泣きやんだ。

「でも帳消しって……やっぱ条件があるわけですよね?」
「まぁ、そういうことだけど」

 500万円に見合うものだから……やっぱ体で稼げってこと?
 風俗? 俺、何かそういうとこに売られちゃうの?
 こんな体で大丈夫? ちゃんと稼げそう?

 それとも、あ、もしかして内臓系?
 腎臓とか切り売りして、お金作れってこと??

「条件っていうのはね、」
「はぁ」
「500万円帳消しにしてあげるから、俺のものになれよ、てこと」

 ……………………???
 俺のものになれ??
 あぁダメだ。俺、バカだから、よく分かんない。

「まずはね、俺とここで暮らすこと」
「はぁ…、………………。…って、えええぇぇぇ~~~!!!???」
「いいリアクションするねぇ。で、次は、」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! 一緒に暮らすって、はぁっ!?」

 ダメだ、この人の言ってることに、全然付いていけないっ!!

「だって俺のモンだもん。そんで、さっきみたいなちゅーしたり、『大好きv』って言ったりすんの」

 わ、分かんねぇ~~~!!
 カオスだ! カオスがここにある!!

 っていうか、それが500万円を帳消しにする条件なの!? 何、また俺を陥れようとしてる!?
 そうだ、そうに決まってる!
 落ち着け、瑞原直央。こいつはこういうこと言って、焦る俺を見て楽しんでんだ。

「どうする? この条件、飲む気ない?」

 飲むっつったら、何、俺、またさっきみたいなちゅーされちゃうの?? 俺、男だよ? ってか、そういう問題じゃない?? ダメだ、わけ分かんない。誰か教えてくれ。誰か…………

「直央くん!?」
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (8)


 覚えているのは、最後に徳永さんに名前を呼ばれたこと。
 で、気が付いたら、今まで見たことも触ったこともないような、ふっかふかのベッドの上に寝かされてた。

 何で俺、こんなとこで寝てんの?
 さっきまで徳永さんと話してたよね? つーか、徳永さんは? つーか…

「バイト!!」

 今何時!?
 バイトは!? 遅刻しちゃう!!

 俺はベッドから飛び起きた。
 時計、時計……あった! ―――って、11時!? 11時って夜? 夜だよね、まだ夜だよね?

「昼だーーー!!」

 側の窓のカーテンを開ければ、眩しいくらいの日差し。どう考えたって、夜の11時じゃない!!
 ガーン……バイト、遅刻だっ!! どうしよう、無断遅刻なんて、首になっちゃうよぉ!!
 俺はベッドの側の棚に置いてあった財布とかを掻き集めて、急いで部屋を出た。

「わぁっ!?」

 その瞬間に、いきなり何かにぶつかって、反動で俺は後ろに引っ繰り返った。

「いってー…」
「あたた……あ、直央くん、起きた?」
「ゲッ」

 徳永さんだ。あ、『ゲッ』とか言っちゃった。でも徳永さんは気にしたふうもなく、俺の手を引いて起こしてくれた。

「どこ行くの?」
「どこって……バイト、ですけど…」

 あぁもう、一刻も早くバイト行きたいのに!!

「その格好で?」
「へっ!?」

 パ…パジャマ!? 何で俺、パジャマ!? 着替えた覚えないし!
 で、俺の服は!?

「とにかく落ち着きなって。大丈夫、バイト先には連絡しといたから。体調が悪いから、今日は休むって」
「そんな勝手な! 別に俺、体調なんか悪くない! 嘘ついて休むなんて…!!」
「嘘じゃないでしょ? 昨日、倒れちゃったんだから」
「…………え?」

 倒れたって、俺が?

「覚えてない? 話してる途中で、そのままバッタリ。過労だってさ。だからこのままベッドにバックプリーズ」

 徳永さんに背中を押され、俺はそのまま、さっきまでいたふかふかベッドに戻された。
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (9)


「どんだけ無理して働いてんの? 電話したら、バイト先の人、超心配してたぜ?」

 心配、してくれんだ…。いい人だなぁ、やっぱ。
 だったらなおさら、このくらいのことで休んでられないよね。

「…徳永さん、昨日の話、」
「あ、何? 受けてくれる気になった!?」
「ていうか、何で俺にそんなこと言うんですか? 俺の反応がおもしろいから? 500万も借金抱えてるし、言えば何でもするだろうって…」
「おい、そういうことじゃねぇだろ?」
「だったら何!? 俺、バカだし、よく分かんない…。利子チャラにするとか、借金を帳消しにするとか、そんなこと言っ……ヒック…」

 そのたびに弄ばれる俺の心って…。

「俺はねぇ、直央くんのこと、好きなんだよ?」
「……え…?」
「最初は借金のかたに、どこかに売り飛ばしてやろうかとも思ったんだけど、ホラ、ソッチ系に受けそうな顔してるじゃん?」

 そ…ソッチ系…………って、どっち系??
 つーか、ホントに売り飛ばされちゃうとこだったの!? 俺!

「でも必死になって借金返そうとしてる姿見てたら、何かかわいいなぁって思って。でさ、どうやったら直央くんのこと、手に入れられるかなぁって考えたわけ」
「…本気で言ってるんですか?」
「もち」
「俺、男なのに」
「だからそれは知ってるって」
「そんな……俺は、500万の借金帳消しにしてまで手に入れたいようなモンじゃないよ」
「何でそこまで自分を卑下するの?」
「だってホントのことだし」

 だって、バカで、お人よしで、借金押し付けられて逃げられちゃうような男だよ? どこにそんな惚れるような要素があるっていうの?

「…どうやったら、信じてくれるかな?」
「分かんない。そんな好きだなんて……どうせすぐに思い違いだって気付く。そんで結局俺はまた捨てられちゃうの。分かってる。いっつもそうだもん。だから俺は、自分で500万円返すことにする」
「直央くん…」

 クシャって、徳永さんの手が、俺の頭を撫でた。
 俺はどんな顔していいか分かんなくて、ふとんの中に潜り込む。
 もう2度と、こんなふとんじゃ寝れないんだろうな。あぁ、俺の行く末は、やっぱりホームレスか…。

「……、」

 徳永さんの離れていく気配がする。ドアの開く音。子供みたいな俺の言い分に、呆れて出てっちゃったのかな?
 でもそれでいい。どうせ俺は、こんな奴なんだ。

 明日からはもうふとんの中で寝れないんだから、今はここでしっかり体調を整えて、ちゃんとバイトに行こう。そんで、ちょっとずつお金も返して…………
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5. 利子の変わりにちゅーさせて (10)


「……?」

 バサッ…と、頭上に何かが落ちてきた。頭までふとんを被ってたから、徳永さんが戻ってきてたことに、気付いてなかった。
 もしかして、俺の服とか持ってきたのかな? 出てけってことか…。

 俺はもそもそとふとんから這い出した。

「えっ?」

 ベッドの上に落とされたのは、俺の服でも何でもない、1万円札の束か5つ。
 な…何これ。

「500万。それで直央くんのこと、買うから」
「はっ!? な…何それ! 買う!? えっ!? そんな困るっ!!」
「困るも何もないの。直央くんは俺に借金してんだよ? 拒否権なんてあるわけないでしょ?」
「……う…」

 てことは、やっぱりソッチ系のどっかに売り飛ばされちゃうってこと!?
 ひぃ~……せめて、優しい人が買ってくれますように……って、あれ? 買うって…??

「買い主は俺だから。分かった?」
「…………」
「その金はもう直央くんのものだから、好きに使っていいよ? 欲しいものがあるなら買えばいいし、借金の返済に充ててくれてもいいし」
「徳永さん…」
「信じられないなら、信じなくてもいいよ。時間掛けて、じっくり教え込ませてやるから」

 そう言って、徳永さんはニヤッと笑った。

「とりあえずは、ちゅーの練習からかな?」
「えっ!?」

 マズイ! って思ったときにはもう、唇を塞がれてて。俺は徳永さんの勢いに押されて、そのまま後ろに引っ繰り返る。
 500万円の札束が散らばるベッドで何度となく愛を囁かれ、俺は彼のもとにいる決心を固めた。





 借金のかたに、500万円で売り飛ばされた先は、借金取りさんのもと。
 その人、徳永仁が、単なる借金取りでなく、大手ファイナンシャルグループの御曹司だと知るのはもう少し先の話。




*END*
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だから君が好き (1)


 誕生日。
 朝、携帯電話を見ればお誕生日おめでとうメールが何通か届いていて、留守電にも誕生日を祝うメッセージが残ってた。

 …けれど。
 肝心の人物からは、メールもなければ電話もない。当然会ってもいないわけで、直接『おめでとう』なんて言われてもいない。
 原因は……今更考えるまでもない。

『ッッッ、、、拓海のバァーカッッッ!!!!』

 …3日前の大ゲンカ。
 そんな(子どもみたいな……と言ったら、また怒られる)捨て台詞を残して俺の部屋から飛び出していった悠ちゃんからは、それ以来、何の音沙汰もない。
 一応こっちからは様々な手段で連絡をつけようとはしてるけど、一向に連絡つかず…。
 おまけにここに来て、学生会の仕事が忙しくなって、直接悠ちゃんに会いに行くことも出来ない有様。

「はぁ…」

 これじゃ謝るにも謝れない。

 ………………。

 つーか、俺が謝んなきゃいけないんだっけ?
 原因、俺だっけ?

 でも絶対に100%間違いなく悠ちゃんのほうからは謝って来ないのは分かるから、ここは俺が大人にならないと…(悠ちゃんのほうが、3つも年上ですけどね!)。

「拓海、さっきから何暗くなってんの? 今日、誕生日でしょ」

 製本の手を止め、声のほうに顔を向ければ、呆れ顔で冷ややかな視線を向ける真琴の姿。
 悪いけど、コイツにだけは呆れられたくない。

「悠ちゃんとケンカした?」
「は? 何が?」

 真琴には、悠ちゃんととケンカしたことなんか、話していない(俺のプライド的に)。
 コイツ、何で知ってんだ? そんなに勘のいいヤツだったっけ?

「だって拓海が今そんな深刻な顔して悩むことっつったら、悠ちゃんのことくらいじゃん」
「ソーデスネ」
「やっぱケンカしたの?」

 椅子ごとこっちに近付いてきて、真琴はわざわざ耳元でコソコソっと聞いて来た。
 あぁ、いい心がけだね。お前、声大きいからね。

「ね、ね、そうなの?」
「そうですよ」
「バカだねー、自分の誕生日に、悠ちゃんとケンカなんて」
「……」

 悪いけど。
 ホンット悪いけど、コイツにだけはバカにされたくない。

 苛立ちに任せてホチキスを動かせば、変なふうに紙の束が留まって、余計イライラさせられる。

「…ちゃんと仲直りしなよ?」
「うっせぇな、分かってるよ」
「拓海から言わなきゃ、たぶん悠ちゃん、絶対に100%間違いなくぜぇーーーーったいに謝んないから」
「…分かってるよ」

 俺が思ってるよりも、もっとずっとズバッと断言する真琴に苦笑しつつ、俺は作業を早く終わらせるため、気合を入れ直して製本作業に向かい直した。






 拓海くんBD、ホントは7月下旬設定ですが、前倒しで(笑)
 ハピバです~。
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カテゴリー:拓海×悠也
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だから君が好き (2)


 それはもう、悪魔の呼び出しと言ってもいい。
 言ってもいい、じゃない。絶対にそう言うべきだ。

 学生会の作業が終わって帰ろうとしていた俺の携帯電話が鳴ったのは、バイク置き場に向かっている途中だった。
 誕生日おめでとう電話か、あわよくば悠ちゃんからかも!? なんて淡い期待をしながら携帯電話を開けば、そこに表示されたナンバーは、バイト先のもの。
 いっそ無視してバイクに跨ってしまえばよかったものの、そこまで薄情にもなれず、電話に出てしまったのが運の尽き。

『バイトが1人風邪でダウンしちゃったの。何とか出て来れない!?』

 マネージャーの切羽詰まった声に、とてもNoとは言い切れず、バイクで向かった先は悠ちゃんちじゃなく、バイト先。
 もう泣きたい。



*****

 抜けた穴をキッチリと埋めるべく、結局11時まで仕事をさせられる破目に。
 今日は俺の誕生日だっつの!!
 でもそんなこと口を滑らせれば、がんばってくれたお礼も兼ねて、誕生日のパーティなんて言われかねないので(先月、別のバイト仲間の誕生日パーティをしたから分かる)、黙ってバイト先を後にした。

 とりあえず、向かうのは悠ちゃんち。
 悠ちゃんが1人暮らしを始めてから何回か行ったことがある。
 今日はバイトが休みの日だから、家にいると思うんだよね。

 ちなみに悠ちゃんが1人暮らしを始めたのは、お姉さんが結婚して、その旦那さんと子どもが悠ちゃんちに入ったから。
 バイト代だけだと苦しいみたいだけど、家にいづらい…と、泣く泣く1人暮らしを始めたのだ。

 バイクを降りて、急ぎ足で悠ちゃんの部屋に向かう。
 誰もいない廊下に、俺の足音だけがうるさく響く。

 ――――ピンポーン…。

 呼吸を整えながら、中から悠ちゃんが出てくるのを待つ。
 あぁ、今まで悠ちゃんちに来て、こんなに緊張したことないよ………………て、全然反応ないし!
 え、いない!?

 近所迷惑にならない程度に、何度かインターフォンを押してみるけれど、やっぱり反応なない。

「ウッソー…」
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だから君が好き (3)


 まさか俺みたく、急にバイトに呼び出されたとか?
 いや、でも、そんな偶然…。
 てことは、どっかに遊び行ってる?
 こんな時間に悠ちゃんが行きそうなトコって言ったら…………ネットカフェ? 漫喫? 意外とそういうトコ好きだかんね。
 でも確実に行ってるかどうかは分かんないし、行きつけの店も知らない。

 つーか、もう11時40分ですけど?
 あと20分で、日付変わっちゃいますよ?
 電話もメールもないし……俺の誕生日なんか、祝う気もないってこと?

「悠ちゃん、どこいんだよ…」

 俺は、悠ちゃんの部屋のドアに寄り掛かった。
 今日はもう会えないんだとしても、このままじゃいられない。てか、いたくない。

(メール…)

 電話は出ないかもだけど、メールなら。
 返事が来るかは分かんないけど、気持ちは伝えられる。きっと読むくらいなら、読んでくれると思う。
 メールを読むことすら、してくれないなら――――。

 嫌な思いを振り切って、メールの作成画面を出す。
 とりあえずは『ゴメンなさい』て言っとかないと。
 俺が悪いのかどうかは、もういいとして、今はとにかく仲直りしたい。
 悠ちゃんのこと好きだから。こんなケンカしたままで、誕生日の1日を終わりにしたくないから。
 とにかく俺は、文字数ギリギリまでひたすら悠ちゃんに対する今の気持ちを打ち続けた。





 全力でメールを打ち終えたときにはもう、11時55分になっていた。

「頼むから、読んでくれよ…」

 1度大きく深呼吸してから、送信ボタンに指を掛け、ボタンを押した――――まさにその瞬間だった。

 ♪~~~~~♪

「ぅえ!?」

 突如として響いた着信音に、ビビって携帯電話が手から滑り落ちそうになって、慌てて掴み直した。

「な…メールかよ…」

 ビビらせやがって。
 何だっつーの!
 俺がメールを送った瞬間に来たわけだから、タイミング的に悠ちゃんからじゃねぇよな。
 あーもう!
 俺は、悠ちゃんからメールが欲しいの!

「…て、悠ちゃんだし!」
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だから君が好き (4)


 なっ何で!?
 俺が送ったメールに返信……じゃねぇよな。
 絶対にまだ読み終わってないはず。てか最悪、読んでない。

 でも送信者は間違いなく、橘悠也。
 何で? 何で?
 とにかく急いで悠ちゃんからのメールを開いた。










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20XX/ 7/ XX 23:55
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From 橘悠也
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Subject Re:Re:Re:Re:
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誕生日おめでとう。
ホントは直接言いたくて拓海の家の前で待ってたんだけど、何か帰って来ないし、でも今日中に言いたいから、メールするね。
てか、電話しようかなぁとか思ったんだけど、何か何言っていいか分かんないし、気まずいんでやめます。
今まで電話とかメール無視してゴメンなさい。
ホントはずっと謝りたかったんだけど、言えないうちに今日になってたよ。ゴメン。

学校は忙しいみたいだけど、1つ大人になったんだから、明日からもがんばりなさい。
じゃあねー。
















来年の誕生日は、よかったら一緒に祝わせてね。

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だから君が好き (5)


「悠ちゃん…」

 呆然としたまま、口から滑り出た言葉は、悠ちゃんの名前。
 何か…何て言っていいか分かんない。
 だって絶対、悠ちゃんが謝るとかない、て思ってたから。
 俺の誕生日なんかどうでもいい、て思ってるかも……なんて、一瞬でも思っちゃった自分が恥ずかしい。

 うんとスクロールした最後に、そんなこと書いてくるのも、何か悠ちゃんらしい。
 てか、次に一緒に祝うのは、俺じゃなくて、悠ちゃんの誕生日じゃん。

「はぁー…」

 何か心臓がバクバクしてる…。
 落ち着くために、何度か深呼吸してたら、握り締めてた携帯電話が元気よく鳴り出した。
 電話、悠ちゃんからだ。

「もしもし…?」
『……俺、だけど』

 モソモソとした声。
 たぶん恥ずかしいんだろうなぁ。

「ねぇ悠ちゃん、今、俺んちの前なんでしょ?」
『…だけど? つーかお前こそ、俺んちの前にいんの?』
「…うん」

 俺んちの前にいる悠ちゃんと、悠ちゃんちの前にいる俺。
 微妙に合ってないのに、でも、同じ瞬間にメールを送り合えるくらい、絶妙な相性。

「ねぇ、悠ちゃん。会いたいな」
『…ふぅん』
「悠ちゃんは会いたくないの?」
『お前に?』
「うん。嫌?」
『嫌……ではない』
 
 悠ちゃんらしい返事に、少し笑う。
 でも今日は、ヤダつっても、会いに行くよ。
 だって悠ちゃんに会いたい。
 今すぐ会いたいよ。

「じゃ、今から俺んち…」
『あっちょっ待っ』
「え?」

 俺んちに向かう、て言おうとしたら、いきなり悠ちゃんが焦ったような声を出して、俺を制した。
 え、やっぱダメとか言う気?

『拓海、誕生日おめでとうっっ!』

 すぅ、と息を吸う音さえも聞こえてきて。
 一体何を言われるのかと、ちょっと身構えていたら、悠ちゃんからは、全然想像してなかった言葉が掛けられた。
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だから君が好き (6)


「……え…?」
『ッッッ、「え?」じゃねぇよ、バカ! ギリギリセーフだっただろ!?』

 ギリギリセーフ?
 その言葉に、思わず時計に目をやれば、タイムリミットまであと30秒を切ってた。

「ホントだ…。ギリギリだったね」
『お前、一瞬、何のことか分かってなかっただろ、バカ!』

 段々と口調が荒くなってるのは、たぶん照れ隠し。
 時間が時間だから、声が大きいのはちょっとアレだけど、そういうとこはめっちゃツボで、ホントかわいいて思う。

「ね、今から行くから、待っててくれる?」
『知らねぇよ』
「…分かってるよ」

 悠ちゃんが、ちゃんとそこにいてくれるって、ちゃんと分かってる。



*****

 バイクをすっ飛ばして家に帰ると、玄関のドアに凭れかかった悠ちゃんの姿を発見した。

「悠ちゃん!」

 すぐにでも悠ちゃんを抱き締めたい衝動に駆られたけど、何とか堪えて玄関のドアを開けて中に入る。
 そしてドアが閉まるか閉まらないかのうち、相変わらず人の家だけど、さっさと先に入る悠ちゃんを、背中から抱き締めた。

「なっ…ちょっ暑ぃよ、拓海!」

 ずっと空にしていた部屋の中は、窓ももちろん閉め切っていたから、とんでもなく蒸し暑くなっている。
 悠ちゃんが文句を言うのも当然で、俺はキスを1つしてから悠ちゃんを解放した。

「もー、ちょっとは待てよ!」

 悠ちゃんはダッシュで部屋の中に進むと、勝手知ったる何とやら、さっさとエアコンのスイッチを入れた。

「はぁ~涼しー」
「ちょっ…冷房強すぎ、悠ちゃん!」
「部屋の中、涼しくなるまでー」

 まったく地球にやさしくない温度で、ガンガンとエアコンを掛けている悠ちゃんを咎めても、全然聞く耳を持ってくれない。
 しょうがないんだから。

「てかこれ、悠ちゃんの?」

 テーブルの上に、見覚えのないコンビニの袋。
 俺のじゃないから……悠ちゃんの?
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だから君が好き (7)


「あー……うん、まぁ…。うん、俺のっちゃあ俺のだけど…」
「ぅん?」
「拓海に…」

 急に歯切れの悪くなった悠ちゃんを不思議に思ってたら、エアコンのスイッチをソファに放った悠ちゃんが、つかつかと詰め寄って来て、その袋を掴んだ。

「え、何?」

 ズイ、とコンビニの袋を差し出されて、ちょっと戸惑う。
 え、俺にくれる、てこと?

「拓海、甘いもん食わねぇだろうな、て思ったけど、誕生日だから、一応…」

 受け取った袋を広げれば、中にはコンビニで売ってるショートケーキが1つ。
 バースデーケーキてこと??

「ホントはちゃんとしたの買おうとしたんだけど、だから、時間がっ、だって」

 何も言わない俺の反応が気になったのか、悠ちゃんは俺の様子を窺うように、言い訳をするように言った。

「悠ちゃん…」
「…んだよっ」

 ちょっと怒ったみたいな口調になる悠ちゃんが、何かかわいい。
 照れると、すぐにこうなっちゃうんだよね。

「別に食いたくないなら、」
「そうじゃなくて。すっごい嬉しい」

 俺は悠ちゃんをギュッて抱き締めた。
 ケンカして、電話とかメールとかに全然反応なくて、俺のことなんかどうでもよくなったのかなとか、考えちゃって。
 なのにそんなことは全然ないし、こんなにも俺のことを思っててくれた。
 …何で俺、こんな大事な人とケンカしちゃったんだろ。

「悠ちゃん、ゴメンね」
「何でお前が謝んの? 意味分かんない」
「…そうだね。ゴメンじゃないよね、ありがとうだよね」

 腕の中の悠ちゃんが、顔を上げた。

「…拓海、誕生日おめでとう。また1年……よろしく」
「……ありがと。ありがと、悠ちゃん。悠ちゃんのこと、すっげぇ好き」
「し…知って…、俺も、好き、だし…」

 俄かに赤く染まる頬も。
 恥ずかしさで視線を彷徨わせるところも。

 みんなみんな大好き。



 だから今夜は、聞き過ぎた冷房にかこつけて、ずっとずっと抱き合っていよう。




*END*
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1. 突然の大雨。開け放した窓が原因で部屋が水没。枕1つ持って君んちへ行く。 (前編)


*このお話は、以前やっていた日記ブログ(現在閉鎖)にて掲載したことのあるお話です。いないとは思いますが、もし以前読んだことのあるかたがおりましたら、それを書いたのも私です(ハンドルネームは違います)。パクリではないので、ご了解ください。

「それにしてもすげぇ雨…」

 窓を叩く雨の音に、陸斗(リクト)はふと雑誌から顔を上げた。
 夕方から怪しくなってきた雲行きは、陸斗が帰宅するまでは何とか持ったものの、やはり降り出してきた。
 窓の向こうもすごいが、屋根に当たる雨音もひどい。どこにも寄らずに帰ってきて正解だった。

 陸斗がボンヤリと窓の外を眺めていると、雨音に混じって聞こえたチャイムの音。
 こんなときに来客?
 時間も時間だし、友人なら来る前に何か連絡を入れるだろう。というか、この雨なら、よほどの約束でなければキャンセルしてくるだろうに。
 不審に思いつつ、陸斗は玄関に向かう。

「えっ!?」

 モニターで覗いたそこには、寒そうに身を竦めた詩音(シオン)の姿。陸斗は慌ててドアを開けた。

「詩音!?」
「あ…良かった、ちゃんといて」

 ホッとした顔を見せる詩音の唇は、寒さのせいか、色をなくしてる。

「おま……どうしたんだよ、この雨の中!」
「避難」
「は?」
「雨がひどいんで、避難してきました」
「はい?」

 詩音の不思議ちゃん発言は慣れているとはいえ、陸斗は間の抜けたような声で聞き返すことしか出来ない。

「とりあえず入れてよ。寒い」
「あ、あぁ……ってか、何でお前枕なんか持ってんの?」

 大雨の中、突然の訪問にも驚いたが、やって来た詩音が、なぜか枕を手にしているのにも、いささかビビる。
 包装されているわけでもないから、枕を買いに出たついでに陸斗の家に寄ったのではなく、自分の家から枕を持ってきたのだろう。

「なぁって」
「んー?」

 勝手知ったる陸斗の家。詩音はさっさと部屋に向かった。
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1. 突然の大雨。開け放した窓が原因で部屋が水没。枕1つ持って君んちへ行く。 (後編)


「枕。何なんだよ、それ。つーか、避難て」

 まだよく詩音の言いたいことが分からない陸斗は、部屋に入って、勝手に持ってきた枕をベッドに放った詩音に、しつこく問い質す。

「だーかーらー、避難は避難」
「だってお前、自分ちから来たんだろ? この雨の中。普通外に出ねぇほうが、安全じゃね?」
「帰宅してみると、開けっ放しにしていた窓が原因で、部屋が水没していました」
「はぁ?」
「部屋中水浸しで寝る場所がないんで、陸斗ん家に避難してきました」
「……で、何で枕?」
「寝るには枕が必要だろ? ふとんは重いから持ってこれなかったの」
「…………はぁ……」

 ……………………。
 …………えーっと……。

「……冗談だよね?」
「当然」

 フフンと、鼻を鳴らすように笑った詩音は、そのままベッドに飛び乗った。

「何だよ、もっと喜べよ。この俺様が大雨の中、わざわざ出向いてきてやったのに」
「あー……いや、ありがとう…」
「は?」
「いや、すげぇ嬉しい…」

 陸斗が妙に照れるから、強気な俺様セリフを吐いていた詩音も、何だか少し恥ずかしくなる。

「バッ…何言ってんだよ、陸斗」
「だって……」

 この大雨の中。
 会いたければ、陸斗を呼び出すことだって出来る(というか呼び出しかねない)詩音が、わざわざ自分のほうからやって来てくれるなんて。

「陸斗! 寒い! あっためろ!」
「はいはい、喜んで」

 窓の外は大雨。
 浸水注意。
 部屋の中は、2人で暖かいけれど。





*end*
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2. 突然の訪問。案の定食べ物が無く、災害時の為に買い置きした缶詰を食べる。


「はぁ?」

 そんな陸斗の第一声に、詩音は思わず顔を顰めた。

「どういう意味? 何で『はぁ?』なの?」
「あー……いや、何しに来たの?」
「何だよ、その失礼な言い種ー!!」

 子どものように頬を膨らませて怒る詩音を、とりあえず陸斗は部屋に上げる。外でぎゃあぎゃあ騒がれては、近所迷惑だ。

「何だよ、俺……来ちゃまずかった?」
「そうじゃねぇけど、何の連絡もなかったから、来るなんて思ってなくて…」

 急に殊勝な声を出す詩音に、陸斗はついうっかり詩音の突然の来訪を許しそうになる。

「だって急に陸斗に会いたくなって。突然行ったら驚くかなーって思ったから、連絡しないで来ちゃった」
「めちゃくちゃ驚きました」
「へへー」

 嬉しそうな顔で、詩音は背後から陸斗に抱き付く。
 こういう子どもみたいなことで、"してやったり"みたいな顔をする詩音は、本当に無邪気な子どものようで、かわいいと思う。言えば、『子どもじゃねぇ!』って怒るけど(それが子どもっぽいってことに、彼はまだ気付いていない)。

「陸斗ー、腹減った」
「ん? 食いに行く?」
「面倒臭い。陸斗、何か作ってよ」
「今、冷蔵庫の中、何もないんだけど。コンビニ行く?」
「うー……」

 陸斗の提案も、詩音はあまり乗り気ではない様子。どうやらもう、外に出る気はないらしい。

「買って来ようか?」

 こういうところが、詩音に対して甘すぎると思う。
 連絡もなしに勝手にやって来た相手に、どうして何の不満もなく尽くそうとしているのか、陸斗は自分でも不思議だ。

「ホントに陸斗んち何もないの?」
「何もないって。あ、」
「え?」
「んー……缶詰、とかならある」
「はぁ?」

 どこの家にも缶詰の1つや2つないこともないだろうが、男の1人暮らしで、食事として腹が満たされるほどの缶詰を常備しているのも珍しい。

「いや……こないだかぁちゃんが置いてって…」
「缶詰を?」
「何か災害のときに必要だから、とか何とか…」
「あぁ、避難用の? 嘘、陸斗、そんなの用意してんの!? あの、避難バッグみたいなヤツ!?」

 興味津々、好奇心丸出しの顔で、詩音が身を乗り出してきた。

「いや、だからかぁちゃんが…」
「食いたい! 缶詰食いたい!」
「あのなぁ……おもしろがってんじゃねぇよ」

 こんなときに食べて、せっかく母親が置いていってくれた食料が、本当に必要なときに食べられなかったらどうするつもりなんだ。

「おもしろがってないって!」
「バカ、めちゃくちゃおもしろがってるだろ。あれは、災害に遭って、緊急事態になったら食べるの」
「今だって緊急事態じゃん。食うもんねぇんだから」
「だから買いに行―――…………分かった、分かったから! 食わせてやるから、そんな目で俺を見るな!」

 結局、かわいいかわいいエンジェルの頼みを断われるわけもない陸斗は、母親が買い置きしてくれた缶詰を詩音に分け与えてやる。

(まぁ……こういうのも、いっか)

 満足げに缶詰を食べている詩音を見て、陸斗はふと思うのだった。
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3. 突然の雷。恐怖に慄くが、君が絶叫して飛びついてきたのでかえって落ち着きを取り戻す。


 雨音が強くなる。
 遠雷が聞こえる。

(雷とか……久し振りだな…)

 別に雷が好きなわけではないが、自然現象を肌で感じるのは嫌いではない。
 陸斗が雷鳴に耳を傾けていると、徐々にそれが近付いてくるのが分かった。

(あー……ヤダな、近くに落ちなきゃいいけど…)

 カーテンの向こうが急に明るくなって、陸斗は少し体が震えた。

(情けねぇー……)

 こんな姿、詩音には見せられないな。雷にビビって、震えてるなんて。詩音にどれだけバカにされることやら……などと思っていた矢先だった。

 ―――バッシーンッ!!

 雷、と言うには、あまりに激しい音だった。驚きのあまり、体がビクンと跳ね上がった。それから続けざまに、雷がゴロゴロ、バリバリと鳴り響く。

「うわっ」

 これには陸斗も恐怖に慄いた。けれど。

「わーーー!!!」

 陸斗よりもデカイ声で絶叫して、詩音が陸斗に飛び付いてきた。

「し、詩音!?」
「な、な、何だよ、何なんだよ! この雷!!」

 1人、雷に逆ギレする詩音。

「詩音…」
「バカ! もー、陸斗のバカぁ!」

 どうして陸斗をバカにしているのか、おそらく詩音自身もよく分かっていないだろう。それくらい雷に驚いてしまっているのだ。

「はいはい、大丈夫だよ、詩音」

 さっきまで、自分だって雷にビビって震えていたくせに。
 なのに愛しい人に抱き付かれて、落ち着きを取り戻してるなんて。

「男って、単純だよなぁ…」
「……え…何?」

 陸斗の胸にしがみ付きながら、詩音がゆっくりと顔を上げた。目が、少し濡れている。

「ううん、何でもない」
「陸斗ー…」
「ん?」
「……何で俺、お前に抱き付いてんだろ…」

 ようやく落ち着いたのか、今の状況に目を向けた詩音が、恥ずかしげにそう言った。

「いいじゃん、もうちょっとこうしてようぜ」

 雷が過ぎ去るまでは。
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4. 突然の停電。ギャアギャア喚く君を置いて懐中電灯を探しにいくが、君がやたらに動き回るので気になって仕方ない。 (前編)


 大学の授業が終わった後、陸斗は約束どおり詩音をお持ち帰りして、帰宅した(もちろん、陸斗が夕飯を奢るという条件付きだったが)。

「ただいま~」

 なぜか言ったのは詩音。

「お前が言うんじゃねぇ。ここは俺んちだ」
「ひゃはは。いつかは俺も住むかもじゃん」
「―――ッ…!!??」
「なーんてね。ビビッた?」

 無邪気な顔で覗き込んでくる詩音に、陸斗は一気に頬が熱くなった。

「バッ……お前、なぁ!」

 変に声が裏返る。
 動揺しているのが、バレバレだ。

「ふふ……何? 本気にした?」
「うるせぇ! 冗談でそんなこと言うなよ」
「ゴメン、陸斗」

 キュッと後ろからしがみ付いてくる。それで、「怒った?」なんて言われたら、「怒ってないよ」って答えるしかない。
 あぁ、重症だなぁ。

「陸斗ー、ゴメンね?」
「怒ってねぇって」

 2人してベッドに転がる。
 詩音は甘えるみたいに陸斗に擦り寄ってきて。時間的にはまだ早いけど、いい雰囲気だ。このまま流されるのも、悪くはない。
 そう思ったのに。

「え?」
「な、何?」

 突然、部屋の明かりがフッ…と消えた。

「停電?」
「な、何で?」
「知らねぇよ」

 陸斗は手探りでベッドを降り、窓のほうへと向かう。
 カーテンの向こう、月の見えない闇夜。街灯も、近所の家の明かりも点いていなくて、この停電が自分の家だけでなく、この辺り一体だと知る。

「な、何? ねぇ、何で?? 何で急に停電になったの?」

 室内が突然暗くなったのと、陸斗が側を離れてしまったことで、詩音はすっかり動揺している。
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4. 突然の停電。ギャアギャア喚く君を置いて懐中電灯を探しにいくが、君がやたらに動き回るので気になって仕方ない。 (中編)


「ちょっと待って。懐中電灯探してくるから」
「え? ちょっ……陸斗、どこ行くの?」

 姿は見えないが、陸斗の気配がさらに遠ざかっていくのが分かる。

「だから、懐中電灯探してくるって。確かどっかにあったはずなんだよな」
「え? え? ちょっと待ってよ、1人にすんなよ!」
「すぐ来るから、そこで待ってろって」

 子どもでもないんだからと、陸斗はギャアギャア喚いている詩音を残して、慎重に部屋を出た。
 こういうときのために、懐中電灯を常備してあるのは確かなのだ(その所在が思い出せないのが、いまいちなのだが)。

「ちょ…陸斗……陸斗ー……」

 部屋に1人残された詩音は、泣きそうな声で陸斗を呼ぶが、返事はない。
 怖くて、不安で、『そこで待ってろ』という陸斗の言い付けを破り、詩音はベッドを降りた。

 陸斗ほど部屋の中の様子に慣れていない詩音は、あちこちにぶつかりながら、陸斗の気配を探す。

「陸斗、ねぇ、どこ…?」
「え? 詩音? おま……部屋いろっつったじゃん!」
「だってぇ……、ねぇ陸斗、どこいるの…?」

 声が聞こえるほどの距離にいるのに、詩音はまだ、陸斗がどこにいるのか分からない。

「どこって……こっちだよ。おい、危ないからウロチョロすんなよ?」

 けれど詩音は怖くてジッとしていることが出来ないのか、まだウロウロしているらしい。ときどき「いてっ!」とか声が聞こえてくる。

「詩音! 動くなって! ケガしたらどうすんだよ!」
「だってだって! 早く懐中電灯見つけろよ!」
「お前がやたら動き回るから、気になって探せねぇんだよ! ジッとしてろ!」
「だってぇ!!」

 もう、声に涙が混じっている。
 ちょっとパニックになっているらしい。

「あ、あった!」

 カチ…スイッチの入る音がして、少しは部屋が明るくなる……はずだった。

「あれ?」
「え? 何? あった? 懐中電灯。ね、早く点けてよ!」
「あー……うん。あれ? でも…」

 カチカチとスイッチを入れたり切ったりする音がするけれど、一向に明かりは差さない。
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4. 突然の停電。ギャアギャア喚く君を置いて懐中電灯を探しにいくが、君がやたらに動き回るので気になって仕方ない。 (後編)


「どうしたの、ねぇ、陸斗!」
「…………ゴメン……」
「え?」
「電池、切れてるみたい……」
「………………。…………バカーーー!!!」

 一気に詩音がぶち切れた。

「ゴメンッ!! ゴメン、詩音!!」
「もぉー早く何とかしてよー!!」

 とにかく陸斗は、泣き喚く声だけを頼りに、詩音の居場所を探る。
 詩音につられて軽いパニック状態に陥った陸斗は、自分の家だというのに、思うように詩音のところまで辿り着けない。

「いってー!! あたたた……足、ぶつけた……。ねぇ、マジ詩音、どこ?」
「ここ!」
「ここってどこだよ!?」
「知るかよ! お前んちだろ、ここ! ―――ひゃあっ!?」

 スッと背中を掠めた感触に、詩音が素っ頓狂な声を上げた。

「バカ、何つー声出すんだよ!」
「……りく、と…」

 背中に触れたのは、やっと詩音を探し当てた陸斗の手だった。

「もう泣くなって、大丈夫だから」
「なっ…泣いてねぇよ!」

 陸斗に抱き締められ、詩音はすぐに強がりを言う。ついさっきまで、この腕をずっと求めていたくせに。

「ゴメンゴメン」

 しっかりと抱き寄せ、クシャクシャと頭を撫でる。

「陸斗…」
「ん?」
「今日は、もういいけど……次に懐中電灯の電池が切れてたら、絶対ぶっ飛ばしてやる…」
「はいはい」

 出来るもんならね。
 密かに思って、陸斗は詩音の髪に口付けた。





*end*
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5. 突然の告白。暗闇の中で愛を叫ばれるが、すいません。そっちじゃなくて此処に居ます。 (前編)


 残念ながら今日は陸斗とは会えないし、他に遊ぶ友だちも見つからなかったし、さっさと風呂でも入って寝よう…と詩音が思った矢先だった。
 着替えのパンツを手にした瞬間に、狙ったように鳴ったチャイムに嫌な予感を覚えつつ、ドアを開けてみれば案の定、そこには友人の優希斗がいた。
 いや、いるだけならいい。
 しかしこの友人が、こんな時間にここに来るときは、大体ろくなことがないのだ。

「詩音ー、今日ここ泊めてー」
「えー」

 思いっ切り嫌そうな声を出してやったのに、それを無視して優希斗はさっさと部屋に上がり込んだ。

「もぉー、俺風呂入って寝ようと思ってたのにー」
「いいよ、勝手にして。俺も勝手にするから」

 どんだけ上から目線だよ! と、自分だって十分女王様気質な詩音が思ってしまうくらい、優希斗は勝手なことを言って、冷蔵庫を開けている。
 冷蔵庫を漁られるのはおもしろくないが、どうせ大したものは入っていないから、言わないことにした。

 そして詩音仕方なく、さっき取り出したパンツを持って、バスルームへと向かった。



*****

「えっ? 暗っ!」

 シャワーを浴び終えた詩音がバスルームから出ると、すでに室内の明かりがすっかりと落とされていた。

「ユキちゃん…?」

 もう寝てしまったのだろうか。
 そうだとしても、詩音が風呂に入っているのだから、電気くらい点けておいてくれてもよかったのに。
 詩音は小さく優希斗を呼びつつ、足を忍ばせながら、電気を点けるため、手探りで部屋の中央へと向かった。

「いてっ…」

 早速、足をテーブルの角にぶつけた。地味に痛い。
 あぁ、これだったら部屋の電気でなくて、ベッドのところにあるスタンドに向かえばよかったかもしれない。
 真っ暗な部屋の中、どうすることも出来ないし、これ以上痛い思いもしたくないから、仕方がなく、目が慣れるのを待つことにする。

 しばらくして目が慣れたころ、ベッドのふくらみがモソッと動いた。
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5. 突然の告白。暗闇の中で愛を叫ばれるが、すいません。そっちじゃなくて此処に居ます。 (後編)


「ユキちゃん? 起きた?」
「……寝てたわけじゃないけど。ねぇ、詩音ー」

 ふとんから這い出た優希斗は、詩音がまだバスルームのほうにいると思ったのか、そちらを向いている。
 もう部屋の中央辺りにおりますが…。

「ねぇ詩音、好きっ!」
「…………あの…ユキちゃん……俺、こっちだけど…」
「あれ?」

 優希斗は少しきょとんとしてから、キョロキョロと辺りを見回した。

「あ、」
「だってユキちゃんが電気消すから。目が慣れるまでここにいたの」
「ゴメン、ゴメン」

 優希斗は目が慣れたころになって、ようやくベッドサイドの電気を点けた。

「っていうかさ、航とケンカするたびに俺に告るの、やめてくれる?」

 詩音は呆れたように、ベッドの縁に腰を下ろした。

「だって俺、詩音のこと好きだし」
「航の次に、でしょ?」

 猫のように擦り寄ってくる優希斗の頭を、よしよしと撫でてやる。完全に子ども扱いなのに、優希斗は気を悪くするどころか、嬉しそうにしている。

「ねぇー詩音、一緒に寝て?」
「…明日、航に何て言い訳すんの?」
「暗くてベッドを間違えましたーって」
「…………」

 笑顔で言う優希斗に、詩音は小さく溜め息。
 ベッドどころでなくて、帰る家自体を間違えている。
 あぁ、だから優希斗がこんな時間に来るなんて、やっぱりろくなことがない。

「詩音? ダメ?」

 分かっていてわざとなのか、それとも天然なのか、優希斗は小首を傾げながら詩音を見つめる。

「……その言い訳、陸斗にも通用するかなぁ?」

 溜め息とともに肩を竦めて、詩音は同じベッドに潜り込んだ。




*END*
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forever you (1)


「あ、結婚式してる」

 ふと耳に入って来たのは、真琴の声。
 ただぼんやりと歩いていた慶太は、何となく顔を上げた。




 
『ねぇー、今日、何か暑いし、冷たいモン食いたくなぁい?』

 と最初に声を上げたのは、高遠だった。
 何かご馳走してくれるのかな? と、みんなが期待したのも束の間。

『うん、お金は俺が出してもいいけど、誰か買って来てね?』

 と笑顔で付け加えた学生会長に、みんなが愕然とした。
 各教室と同じく冷暖房の完備された学生会室は、冷たいものはないとしても、涼しい天国なのに。
 買い出しに行くとなれば、ここを出るハメになるわけで。

 ここはやはり公平にジャンケンだろうと、言い出した真琴が真っ先に負けて。
 1人じゃ嫌だと喚いた真琴に、仕方なく慶太が付いていくことを決め、なら俺も行くと言ったのは、学生会には全然まったく関係ないが、しょっちゅう学生会室に入り浸っている智紀だった。

 大学の中にも売店はあるのに、そこのアイスはいいのがないとみんなが口を揃えて言うものだから、結局3人は、この暑い中、構外に出るハメになった。
 大学の売店のアイスは、確かに安いだけでいいのがないのは3人とも十分に承知しているので、強く反論できなかったのもあるが。

「キャー、花嫁さん、キレイー!」

 大学近くにある結婚式場は、教会風の造りになっていて、通りを歩くと、外からでも式の様子が窺えるようになっている。
 みんなに祝福されながら歩いている新郎新婦に、真琴は目を輝かせている。

「いいなぁ、結婚式。ドレスもキレイー」
「んー…」

 純白のドレスに身を包んだ花嫁に真琴はテンションを上げるが、暑さにやられている慶太の反応は鈍い。

「幸せそうだな、2人とも」

 その隣で智紀は汗を拭いながら、そう漏らす。
 すてきな光景。
 慶太は式場のほうに目をやる。
 しかし最初に結婚式に気付いた真琴の気持ちは、残念ながら、あと100m先にあるコンビニに、すでに向いていた。
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カテゴリー:智紀×慶太
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forever you (2)


「は?」

 いや、出来ればもっと気の利いたセリフを言いたかった。
 少なくとも、今まで付き合って来た女の子には、もうちょっと気の利いたことを言って来たはずだ。

 なのに智紀は、慶太からの言葉に、たった一言、『は?』しか返せなかった。
 だって、何が何だか意味が分からなくて。
 本当にそれしか言う言葉がなくて。

「は? え? お前、今何つった?」

 智紀の部屋に2人きり。
 ドアのところに突っ立ったままの慶太に、先にソファに座った智紀は、もう1度聞き返した。

「だから………………俺ら、別れたほうがいいのかな、て」

 慶太は、智紀と目も合わせずに、先ほどと同じ言葉を繰り返した。

「は? 何それ。何で? 俺、何かしたっけ?」

 智紀の問いに、慶太は目を伏せただけで、何も答えなかった。
 でもそれだけで済ますわけにはいかなくて。

「慶太、」
「別に…相川さんが何かしたとか、そういうことはないんですけど…」
「じゃあ何だよ。え、何で急にそういう話? ちょっマジで意味分かんねぇんだけど」

 昔は誇張された噂が、いや実はそれほど誇張もされてないけど? というくらい女癖の悪い智紀だったが、慶太と出会い、そして付き合いだしてからは、友人たちが驚くほど品行方正な生活を送っているのに。
 何もかもが誠実で、一途で……とは言わないが、相手から別れを切り出されるほどひどい生活はしていないはずだ。

「慶太、どういうことだよ」
「どうも…」
「はぁ? 理由も言えねぇのに、納得なんか出来るわけねぇだろ?」
「でも…別れてほしい…」

 慶太はグッと唇を噛んだ。
 視線を落とした先には、いつも自分が使っているクッションが目に入る。
 この部屋には慶太の痕跡が、こんなにもあるのに。

「…俺のこと、嫌いになった?」
「違いますっ」

 慶太は即答した。
 恐る恐る聞いてみた智紀は、逆に驚いた。まさかこんなにきっぱりと否定してくるなんて、思ってもみなかったから。

「嫌いになんか……そんなの、あるわけない。すごく好きだから……だから別れたほうがいいと思う」
「何だよそれ。意味が分かんねぇ」

 智紀は苛立ちから声を荒げ、慶太は俯いたまま黙った。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

forever you (3)


 慶太が俯いてから、どのくらいの時が流れたか。
 膠着していた時間が動いたのは、メールの着信を告げるため、智紀の携帯電話が音を立てたせいだった。
 しかし智紀は、その携帯電話に手を伸ばさなかった。
 逆にそれに視線を向けていたのは慶太で、出ないのだろうかと智紀を見れば、しっかりと目が合った。

「あ…」
「――――もう、俺とは話もする気がねぇってこと?」

 智紀の言葉に、慶太は緩く首を振って、そして観念した。

「…今日の花嫁さん、キレイでしたよね」
「は?」

 ようやく口を開いたかと思えば、何の脈絡もない話を始められ、智紀は少々面食らった。

「キレイで、すごい幸せそうだった」
「確かにそうだったけど…」
「新郎のほうも、すごい幸せそうで、」
「それはもう分かったから。だから何なんだよ?」

 筋の見えてこない慶太の話に、智紀は眉を寄せた。
 慶太は、グッと噛み締めていた唇を開いた。

「…俺じゃ、あんなふうに相川さんのこと、幸せにしてあげられない」
「え?」
「あーやって相川さんが結婚式を挙げるとき、俺はその隣には立てない。みんなに祝福してもらうことも出来ない」
「慶太、」
「どんなにがんばっても、どんなに相川さんのことを好きでも、俺には…」

 慶太は、ギュッと拳を握り締めた。

「―――だから、別れたほうがいいって?」
「だって、このまま2人で一緒にいても、あんなふうにはなれない。相川さんのこと、幸せにしてあげられない。だから――――ック…」

 慶太の白い頬を、涙が一滴、伝い落ちた。
 それを拭うことも出来ず、慶太は俯いた。

「慶太、顔上げろ」

 ゾッとするほど低い智紀の声に、慶太は思わず肩を震わせた。
 智紀は本気で怒っている。

「顔上げろっつってんだよ、慶太」

 慶太は恐る恐る顔を上げた。
 目の前には厳しい表情をした智紀がいる。

「っ…」

 ゆっくりと立ち上がった智紀は、慶太の前に立って、その胸倉を掴んだ。
 殴られる―――そう思って、慶太はギュッと固く目を閉じた。
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カテゴリー:智紀×慶太
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forever you (4)


 けれど。

「んっ…」

 智紀から与えられたのは、ひどく優しいキスだった。

「相川さん…?」

 ゆっくりと目を開けると、厳しい表情をしたままの智紀と視線がかち合った。

「そんな半端な気持ちで、お前のこと好きなったんじゃねぇよ」
「え…」

 胸元を離れた相川の手は、そのまま慶太の体を抱き締めた。

「お前のことが好きだよ? なのに、何でそんな先のことで、今別れなきゃなんねぇの?」
「俺だって相川さんのこと、好き、だけど……でも、今日の見てたら、結婚式…、俺じゃ相川さんに迷惑かけ…」
「俺が、お前と一緒にいるの、迷惑だとか言ったこと、あったか? そりゃ結婚とか、どうにもなんねぇことはあるかもだけど、…そんな先のことのために、何で今お前と別れなきゃなんねぇんだよ。これから先、お前なしで生きてかなきゃなんねぇの? 俺」
「相川さん…」

 智紀の肩がかすかに震えているのは、気のせいなのか。気のせいであってほしい。

「先のことは分かんねぇじゃん。いつまで一緒にいられるかなんて分かんねぇし、何で別れることになるか分かんねぇけど、そのときまでは一緒にいろよ。先のことで別れるとか言うなよ…」
「…はい」



*****

「何て言うんだっけ?」
「何が?」

 ベッドの中、慶太を腕に抱いた智紀が、首を傾げた。

「貧しいときも、病めるときも、て言うヤツ」
「健やかなるときも、ていうのも、ありませんでしたっけ?」
「健やかなるときも……あとは?」
「さぁ」
「おい。本番、大丈夫かよ」

 実は慶太も、詳しくは知らない。
 答えれば、智紀が苦笑した。

「大丈夫です。ずっと愛してるって、ちゃんと誓うから」
「俺も」




*END*




 何か…なぜかプロポーズみたいに…。
 でも慶タンは、いちいちこういうことをすごく気にしてそう。
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