恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2010年10月

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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (58)


 長くも短くもない時間が過ぎ、触れたときと同じくらい静かに、ゆっくりと唇は離れた。

「…依織のバカ」
「アッキーこそ、拒否んなかったくせに…」

 まだ、唇に吐息が掛かる距離。
 最初にキスを仕掛けたのは依織だけれど、瑛貴は何の抵抗もせずに、それを受け入れた。
 そんなの同罪だと、依織は思った。瑛貴もそう思う。

「キスなんか、…すんなよ」
「…今さら言うなよ」

 依織は、瑛貴の背中に回した手を解かなかった。
 ただ、瑛貴からは顔を逸らすようにして、その肩口に額を押し当てた。

「しょうがねぇじゃん。……アッキーのこと、好きなんだもん」
「…知らねぇよ」
「嘘つけ」

 依織は腕に力を込めて、ギュウと瑛貴に抱き付いた。

「友だちに嘘つくなって言ったの、アッキーだぞ。俺には嘘つくな、て言ったくせに、アッキーのほうこそ、ずっと嘘ついてたじゃん」
「何で。嘘なんかついてない」
「嘘とおんなじだもん。だって俺がアッキーのこと好きなの、知ってるくせに、知らないふりしてた」
「それは…、」

 言い淀んだ瑛貴の脳裏には、ふと七槻の顔が浮かんだ。
 そういえば七槻は、ずっと瑛貴と依織の関係を指摘していた。鈍感な瑛貴に、懲りずに何度も繰り返した。忠告した。ハッキリと告げた。

『だって依織ってさ、アッキーのこと好きじゃん? LOVEで』

 確かに瑛貴は、鈍感な男だ。
 今までにも散々言われて来たし、いい加減、自分でも気付いている。
 だからずっと、依織の気持ちに気付かなかった――――と言ったら、あまりにも滑稽だ。バカすぎる。そんなわけがない。
 依織の瑛貴に対する態度も仕草も行動も、七槻から指摘されなくたってあからさまだったし、他の誰かに勘違いされるのも当然だったし、瑛貴だって、気付かないはずがない。
 はずはないけれど。

(でも、しょうがねぇじゃん…)

 ――――依織は友だちなんだから。

 それはずっと、瑛貴が言い続けてきたことだ。
 依織は男で、友だちで――――だから好きだとか、そんな恋愛感情あるはずないし、何かあるはずもない。

 誰かに何か言われるたびに、そう言い張っていた。

 一緒に駅まで行くくらい。
 始発を待つ間、一緒にいるくらい。
 終電を逃したから、家に泊めてもらうくらい。

『依織なんだから、別に何もないよ』

 それが瑛貴にとっての、最後の砦だった。

 依織の気持ちに気付かないはずはなかったけれど、そんな魔法の言葉で言い訳をして、ずっと気付かないふりをしていた。
 気付いていないと、思い込んでいた。

「キスなんか、すんなよ」

 依織がキスなんかしなかったら、何も変わらずに済んだのに。
 でも。

「しょうがねぇじゃん。アッキーのこと、好きなんだから」
「知らねぇよ」
「…嘘つき」

 嘘をついてしまったから。
 やっぱりもう、2人は友だちではいられないの?
 ――――なら、今の関係は?



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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (59)


 瑛貴は結局嘘つきなのか、2人の関係は友だちのままなのか、同じような応酬を繰り返しても答えの出なくて。けれど2人とも睡魔に勝つことは出来ず、いつの間にか眠りに落ちていた。

 先に目を覚ましたのは瑛貴で、何のアラームも鳴らなかったけれど、いつも起きるのと、大体同じくらいの昼前の時間だった。

 そしてふと気付く。
 腕の中に、依織がいる。

 寝返を打った拍子にでもそうなってしまったのだろうが、その腕の中の感触は、当たり前だが、真夕子を抱き締めるときとは違う。

(依織なんだから、当たり前だけど…)

 そう思ったところで、また『依織だから』と言っていることに気付いて、瑛貴は思わず自嘲した。

「ん…」

 起きたきり、二度寝するでもなく瑛貴がぼんやりとしていたら、腕の中で依織がわずかに身じろいで、瑛貴がその腕のやり場を迷っているうちに、依織が目を開けた。

「え…? あ、そっか…」

 目の前にある瑛貴の顔を見て、依織は寝言のようにモゴモゴと呟いてから、目をこすった。
 それから身を起こそうとして、瑛貴の腕が自分を抱いていることに気付き、困ったような顔で瑛貴を見た。

「あ、ゴメ…」

 瑛貴は慌てて依織に回していた腕を解いた。

「アッキー…」
「ん?」

 まだ眠くて仕方ないといった感じで、依織は目をゴシゴシとこすりながら、瑛貴のほうを振り返る。
 依織の頭の左に寝癖が付いていて、瑛貴はぼんやりとそれを見つめながら、体を起した。

「ゴメンね、いろいろ」
「え? あ、うん」
「…………。うん、て、アッキー。それだけ?」

 依織が何に謝ったのか分からないわけもなかったが、咄嗟にうまい返事の思い浮かばなかった瑛貴は、結局それしか言えず、そして依織には呆れた顔をされてしまった。

「…別にいいけど。ねぇ、ご飯どうする? たぶん冷蔵庫の中、空だと思うんだ。近くにファミレスあるけど、行く? つーか俺、この寝癖…」

 面倒くさそうに寝癖を撫でながら、依織はあくびを1つする。
 瑛貴はご飯よりも話の続きをしたかったが、依織はもうそんな気もないようで、仕方なく瑛貴も諦めた。

「で、どうする? ファミレス行く?」
「…行く」
「あ、アッキー、服どうする? あのスーツ着てく?」
「あ…」

 そうだった。
 瑛貴が今持っている自分の服は、昨日から着ている昨日仕事にあのスーツだけしかない。
 仕事中は制服だし、帰って来てすぐ依織に布製品用の消臭剤を借りて、たっぷりと吹き付けておいたので、酒やタバコのにおいは残っていないと思うが、昼のファミレスに着ていくのも…。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (60)


「俺のでよければ貸すけど」

 男モンもあるから、と続けた依織の言葉に、瑛貴は「…お願いします」と頭を下げた。
 依織は瑛貴に服を出してやると、淡々と出掛けるための準備を整えていく。

 瑛貴は少しも寝起きが悪くなくて、二度寝の経験も、22年の人生において片手で数えられるほどしかないのに、起きてからのテンポが悪いせいで、身支度が整うのがギリギリになってしまう。いつも。
 今だって、依織から渡された服にさっさと着替えて、顔でも洗ってしまえばいいのに、ただ何となくぼんやりと、完成されていく依織を見ていた。

「アッキー何してんの? 着替えないの?」
「…着替える」

 依織に怪訝そうに尋ねられ、瑛貴はようやく、パジャマ代わりに着ていたジャージを脱ぎ始めた。

「ねぇアッキー、ちょっと向こう行って着替えて。ふとん片付けるから」
「あ、ゴメン」

 瑛貴はのろのろとふとんの上から退くと、渡されたTシャツとジーンズに着替えた。

「あっ…」
「え、何?」

 思わず上がってしまった瑛貴の声に気付いて、ふとんを押し入れにしまっていた依織が振り返った。
 ちょうどジーンズを穿き終えた瑛貴は、チラリと依織のほうを見たが、「何でもない」とだけ答えた。

(…ウエスト、ちょっと苦しい…)

 丈もちょうどいいし、見た目の感じからして、瑛貴と依織の体格はそう変わらないはずなのに、悔しいけれど、何だかちょっとウエストが苦しい気がする。
 でも穿けないほどでもない、と瑛貴はサイズのことを口に出すのはやめて、代わりに、『明日からちょっとだけダイエットしよう』なんて、どこかのOLさんみたいなことを思った。

「アッキー、支度できたぁ?」
「んー」
「出来たの? ――――て、いつまで歯磨きしてんのっ!? これからご飯食べに行くのにっ」
「んーあっれ。あろもーひょっと」
「何言ってんのか分かんないっ」

 歯ブラシを銜えたままで話す瑛貴の言葉は、はっきり言ってこれっぽっちも聞き取れなくて、依織は苛付いた声を出した。腹が減っているのだ。
 朝(…という時間ではないが)起きて、食事の前に歯を磨くのは、瑛貴の昔からの癖だ。もちろん食後にも磨く。

「もーアッキー! 先行くよ!?」
「ちょっ待ってよ、俺ファミレスの場所知らない!」

 依織の声に、口の中に溜まった歯磨き粉を吐き出して、瑛貴は慌てて口をゆすいだ。
 借りたタオルで口元を拭きながら洗面所から出ると、依織は玄関先で靴を履いて、腕組みをしながら立っていた。1秒でも待ち切れないといった様子。
 今日の依織は、男の格好をしていて、寝癖が直り切らなかったのか、帽子を被っていた。
 寝るときと同じく、男物の服を瑛貴に貸してくれた依織のクロゼットの中は、瑛貴が見た限りでは(覗くつもりはなかったが、ボーっと視線を向けているうち、視界に入った)、男物も女物も半々くらいに入っているようだった。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (61)


「もうさ、さすがにモーニングメニュー終わってるよね」

 ようやく瑛貴の支度が整って、2人してアパートを出ると、すでに太陽が高く昇っていた。

「今何時?」
「えっと……あ、時計止まってんだった」

 思わず目をやった腕時計の針は、夜と同じ位置から1ミリも動いていない。
 いつもの癖で着けて来たが、動いてもいないその時計は、Tシャツとジーンズというカジュアルなスタイルには、少し不釣り合いに思えた。

「今だったらランチでしょ、よく分かんないけど」
「俺もよく分かんない。ファミレスあんま行かないから。……え、何?」

 特に変わったことを口走ったつもりはないが、なぜか隣の依織が憐れむような目で瑛貴を見ていた。

「まぁ…1人で行くの、寂しいもんね」
「おい依織、何で俺が1人で行くこと前提なんだよ」
「違うの?」
「違うよ!」

 いつも食事を1人でしているというイメージが、依織の中に勝手に定着しているようで、瑛貴は慌ててそれを否定した。
 1人で食事をすることは確かに多いが、いくら瑛貴でも、そこまで寂しい子ではない。

 やって来たファミレスは、平日の昼なのに、『ファミリーレストラン』の名にふさわしく親子連れで賑わっている。
 2人が店内に入ると、とっても一般的な制服に身を包んだ店員が、禁煙席にするか喫煙席にするかを尋ねて来た。

「アッキー、禁煙席がいい?」
「俺はどっちでもいいよ」
「なら喫煙で」

 瑛貴はタバコを吸わないが、仕事柄タバコの煙には慣れているので、別にどちらでも構わなかったが、依織が喫煙席を希望したのは少し意外だった。
 会ってから今までに、依織がタバコを吸っているところは見たことがない。
 人前で吸わないようにしているのかもしれないが、依織の家にも、タバコを吸うような形跡は見当たらなかったから。

「依織ってタバコ吸うんだ。知らなかった」
「吸わないよ」
「は?」

 案内された席でメニューを眺めながら何となくそう言えば、依織からあっさりとそんな答えが返って来た。

「俺、タバコ吸わない」
「じゃあ何で喫煙席がいいとか言ったんだよ」
「アッキー、どっちでもいいて言ったじゃん」
「言ったけど、」

 わざわざ喫煙席を希望するということは、タバコを吸うということではないのだろうか。
 いくら瑛貴が鈍くても、そのくらいのことは理解できる。

「だって禁煙席、子どもばっかなんだもん。俺、ちっちゃい子、ちょっと苦手」

 メニューをじっくりと見ながらそう話す依織の口は、拗ねたように少し尖っていて、それを見た瑛貴は思わず吹き出してしまった。
 もちろんそれはすぐに依織に気付かれて、ますますご機嫌を損ねてしまう。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (62)


「アッキー、何にするか決めたの? もう呼ぶよ?」
「ちょっ待ってよ」
「ヤダ、早くして。俺、喉乾いた」
「水あるじゃん」
「コーラ飲みたいの」

 店員を呼ぶためのボタンに指を掛けている依織に急かされ、瑛貴は懸命にメニューのページを捲る。
 こういうとき、瑛貴はかなりの優柔不断なのだ。

「じゅーう、きゅーう、はーち、」
「ちょっ」

 何の前触れもなく、依織のカウントダウンが始まる。
 そんな余計に焦らせるようなこと、やめてもらいたい(でも言えば、『そんなこと言ってる暇あったら、さっさと決めて』とあっさり返されるだろから、黙っている)。

「さーんにーいーち、」
「ちょ、依織、待っ」

 まともに単語を発することも出来ない瑛貴を無視して、依織は「ゼロ!」の掛け声と同時にボタンを押した。
 それが押したマネでないことは、『ピンポーン』と鳴ったチャイムの音ですぐに分かった。

「信じらんねぇ、お前」
「信じなくていいから早く決めて。店員さん来るよ」

 依織は最初から待つつもりなんてなかったのだろう(6からカウントのスピードが上がった)。
 子どもの泣き声と笑い声がうるさいことへの八つ当たりと、先ほど笑われたことへの仕返しで、依織はさっさとボタンを押したかったのだ。

「ご注文はお決まりでしょうか」
「モッツァレラチーズのトマトパスタとドリンクバー。アッキーは?」
「あっえっと、おっ俺も同じので!」

 迅速にやってきた店員に、依織があっさりとメニューを注文するので、まだ全然何も決めていなかった瑛貴は、焦って思わずそう言ってしまった。
 正面に座る依織の視線が冷ややかだ。
 店員は注文を繰り返した後、ドリンクバーの説明をして、席を離れて行った。

「アッキー…」
「だって!」
「別にいいけどさぁ、ファミレスの注文くらいでそんなに悩まないでよ。てか、ホントに同じのでよかったの?」
「…うん」

 モッツァレラチーズもトマトもパスタも嫌いじゃないから、それでいい。
 それでいいんだ。

「…ドリンクバー、持って来てあげるよ。何がいい?」

 食べ物の恨みは怖い。
 それが分かっているのか、しょんぼりしている瑛貴をかわいそうに思ったのか、依織はそう申し出て席を立った(瑛貴に行かせたら、また迷って、いつまでも戻って来ないと思ったのかもしれない)。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (63)


「えっと…えっと…」
「…あと3秒で決めないと、あっつあつのコーヒーにする」

 たかがドリンクバーのメニューくらいで、また迷い始めている瑛貴に、依織が呆れたように言ってやれば、すぐさま「ヤダ!」の返事。
 依織も喉が渇いているかもしれないが、それは瑛貴だって同じなのだ。冷たいものが飲みたい。

「さーん、にーい、いー…」

 しかし無情にも、依織のカウントダウンは始まった。

「いー…」
「えっと、えっと」
「いー…………」

 依織が30秒くらい掛けて最後の1秒を言ってやっても、瑛貴はまだ迷っていて、これなら最初から一緒に行ったほうが断然早かった。

「いー……」
「コーラ!」
「…ち」

「………………」
「………………」

 コーラなら、最初に依織が飲みたいと言ったものだ。

 依織が氷たっぷりのコーラを2つ持って席に戻ると、ちょうど頼んでいたパスタが届けられていた。
 この場合、ファミレスにおける料理の提供時間の速さを褒めるべきなのか、瑛貴の優柔不断ぷりを咎めるべきなのか。とりあえず依織は静かに瑛貴の前にコーラを置いた。

「いただきまーす」

 瑛貴が律儀に手を合わせてから食べ始めるので、依織も小さな声で「…いただきます」と言ってからフォークを手に取った。

 平日の昼間なのに、どうしてこんなにファミレスが混雑しているのかは分からないが、店内はざわついていて、子どもの声も大人の声も混ざり合っている。
 なのに、瑛貴と依織の席はずっと静かで、カチャカチャとフォークが皿に当たる音と、ズルズルとコーラを啜る音しかしない。

「…おかわり、いる?」
「へ?」

 掛けられた声に瑛貴が顔を上げると、依織が空になった自分のグラスを持って立っていた。
 見れば瑛貴のグラスも、コーラがあと1cmくらいしか残っていなくて、依織は新しい飲み物を持ってくるついでに、瑛貴の分も持って来てあげようと、声を掛けてくれたらしい。
 今日このファミレスに来てからだって、2度も瑛貴の優柔不断に付き合わされたのに、それでも依織は瑛貴に声を掛けてくれた。

「コーラでいい? 別のにする?」
「…コーラ」

 瑛貴は残りのコーラを飲み干すと、おずおずとグラスを依織に差し出した。
 依織の皿にはまだパスタが半分以上残っていて、でも瑛貴はもう2/3以上食べている。何となく瑛貴は、食べる速度を落とした。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (64)


「はい」

 戻って来た依織が瑛貴に渡したグラスには、またたっぷりの氷とコーラが入っていたけれど、依織のグラスにはオレンジジュースが入っていた。

「アッキー、今日も仕事?」
「うん」

 2杯目のコーラを啜りながら目線を上げると、巻いたパスタを口に運ぼうとしている依織と目が合った。
 話はまだ続くと思ったのだが、依織は「へぇ」と返しただけで、口に入れたパスタをモグモグさせながら、皿へと視線を落としてしまった。
 ふと見た自分の皿はもう空で、そういえばゆっくり食べようと思ってたのに、と瑛貴は今さらなことを思った。

「また行ってもいい?」
「え?」
「ダメ?」
「どこに?」

 まさに依織の言葉は、瑛貴が聞き返したとおり、『どこに』が抜けていたけれど、直前の話から、その『どこ』が『JADE』を指すと察してくれると思い込んでいた依織は、分かっていない様子の瑛貴に、思わず笑ってしまった。

「…え、どこに?」
「JADE。ダメ?」
「いや、いいけど。――――え、何?」

 OKの返事をしたはずなのに、依織は何も反応せず、瑛貴の顔を見ていた。
 その表情は、怒っているようにも、困っているようにも見える。

「何だよ」
「…アッキーて、ホント鈍感だよね。そんで残酷」
「は? 何が? 何で?」

 いくら瑛貴が鈍くても、今の依織の言葉が結構辛辣なものであることくらい分かる。
 眉を寄せる瑛貴を気にもせず、依織はパスタの最後の一口を口に入れて咀嚼している。

「依織、」
「…アッキー、昨日のこと、夢か何かだと思ってんの?」
「え…。え?」

 ビシリと言われて、瑛貴は言葉に詰まった。
 瑛貴のほうが、依織を問い詰めようと思っていたのに、ほんの一言二言で、あっという間に形勢が逆転してしまって。

 依織の言う『昨日のこと』が、寝る前のキスのことを指しているのは分かるが、その話は、このファミレスに来る前、依織によって打ち切られたはずだ。
 いや、またこの話をするというなら、それはそれでいい。
 いいけれど、どうして急に『鈍感で残酷』になるのか。瑛貴は、またJADEに来たいという依織の言葉にOKしたはずだけれど。

「だーかーら、アッキーは鈍感だっての。言われない?」
「…言われますけど」

 みんなからも言われるし、自分でも分かっているから、そんなに苛立たしげに言わなくても。
 分かっていても、ちょっと切ない。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (65)


「はぁー。昨日あんなことあってさ、今さら何の下心もなしに、お店行ってもいいとか言うと思った? そんなわけないじゃん。でもアッキーは、来たいなら来れば? くらいの気持ちで答えたんでしょ? どうせ」
「……」
「だからアッキーは、鈍感で、残酷て言ったの」

 人の気持ち何も知らないで、と依織は苛立たしげに、雑な仕草でストローを噛んでいる。
 瑛貴はそんな依織を見ていられず、目を伏せた。

「――――空いたお皿、お下げしてもよろしいでしょうかー?」

 瑛貴が返事に戸惑っているところに、突如割り込んで来た声。
 ファミレスの店員に、空気を読めと言ったところで、そんなこと通用するわけもないのだ。空いた2つの皿が気になったのだろう、店員のお姉さんが席にやって来て、手を伸ばしている。
 瑛貴は何も答えなかったが、依織が「お願いします」と棒読みで言えば、急かすように食器を下げるくせに、「ごゆっくりどうぞー」なんてその場の雰囲気にはまるでそぐわない明るい声を残して、お姉さんは立ち去った。

「…も、帰ろ?」
「え、あ、うん…」

 たった今、店員のお姉さんからは、『ごゆっくり』と言われたけれど、依織は伝票を持ってさっさと立ち上がった。
 いきなり会話をぶった切られた瑛貴は、結局何も返事を出来ないまま、依織の後に続くしかなかった。

「いい加減、タバコ臭いんだよ、あの席」

 レジに向かう途中、依織は瑛貴にしか聞こえないくらいの声で、けれど本当はきっと、あのタイミングで皿を下げに来た店員に言いたかったであろう言葉を吐き捨てる。
 会計はご一緒ですか? 別々ですか? と、レジに立つ店員に言われ、瑛貴は「一緒で」と、依織の前に踏み出した。
 依織は少し驚いた様子だったが、瑛貴は構わなかった。一晩泊めてもらったお礼に、昼食くらいは奢るつもりだった――――単純と言われようと。



*****

 置きっ放しの瑛貴の荷物を取り行くため、ファミレスを出てから来た道を戻る。

「…最初っから荷物、持ってけばよかったね」

 ファミレスは、依織の家と駅のちょうど中間……と言うよりは、駅寄りだから、瑛貴が全部の身支度を整えて、荷物もみんな持って出れば、わざわざ依織の家に戻る手間が省けた。
 でもあのときは、依織は腹を空かしていて、1秒でも早くファミレスに行きたかったし、瑛貴はただ何となくファミレスに行くことしか思っていなかったので、そんなこと考えていなかったから、仕方がない。

「服どうする? スーツ」

 戻って来た依織の部屋は、当たり前だが出て行ったときと同じで、瑛貴の荷物は何もまとめられていない。
 ハンガーに掛けられていたスーツを尋ねられ、瑛貴はハタとなる。
 そういえば瑛貴が今着ているのは、依織から借りた服だった。

「別にいいよ、その服アッキーに上げる。着て帰りなよ」
「上げるて、そんな。返すよ、ちゃんと」
「そう? まぁ何でもいいけど」

 上げる、と言われて困った表情をする瑛貴がおかしくて、依織が思わず吹き出すと、その張本人である瑛貴は、依織の笑い出した理由が分からなくて首を傾げていた。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (66)


 最初から、荷物なんてそんなに多くはないから、手際の悪い瑛貴でも、身支度はすぐに整った。

「じゃ、帰るね」
「うん」
「あの…いろいろありがと。泊めてくれたりとか…」
「…………、ふはっ! アッキー、もぉー!」

 終電を逃して困っている瑛貴を何とかしてあげたいという気持ちはもちろんあったが、それ以上に下心がなかったと言ったら嘘になる。
 それでキスまでして、さっきだってあれだけ言ったのに、最後に瑛貴の言ったことが『泊めてくれてありがとう』なんて、もう吹き出さずにはいられない。

「だ、だって、ありがとうはありがとうじゃん! 何だよ、依織!」
「あはは、何でもないよー」

 恥ずかしさからか、わずかに頬を染めながら、子どものように拗ねた表情で、瑛貴は荷物を抱えて玄関に向かう。

「待ってよアッキー! ねぇ、駅まで送ってこっか?」
「ん? いいよ、道分かる」
「そういうことじゃなくて! あっはっはっ」

 駅まで送る=道が分からないから、というつもりで言ったわけではないのに、瑛貴にすごくまじめな顔で返事をされて、収まっていた笑いがまた込み上げて来る。
 そして当の瑛貴は、どうして笑われるのか分からずに、不思議顔をしていて。

 本当にまったく、どこまで鈍感な男なんだろう。
 でもそんな瑛貴に愛想を尽かすことなく惚れている彼女がいて、依織もまた、然りなのだが。

「じゃあね、依織」

 瑛貴は困ったように眉を下げて、依織に背を向けた。

「…ねぇアッキー」

 その背中に声が掛かる。
 けれど、ドアノブに手を掛けていた瑛貴が、その声に振り返ろうとするより先、依織が背中に抱き付いて来た。
 もちろん瑛貴は何も身構えていなかったから、勢いのままドアにぶつかってしまった。

「イッテー。何すんだよ依織」
「…アッキーにまた会いたい」

 先ほどまで大笑いしていたのと同じ人物とは思えないテンションで、依織は背中越しに瑛貴に呟いた。
 瑛貴は依織とドアの間に挟まれた体を、何とか捻って依織のほうを振り返った。
 よく見れば、依織は裸足のまま、片足を土間まで踏み入れていた。

「会いたいの」
「…」

 瑛貴の胸に顔を押し付けたまま、依織は言った。
 もう瑛貴は、先ほどのように、会いたかったら連絡すればいい、とか、店に来ればいい、なんて言うことは出来なくて。
 静かに時を刻んでいく。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (67)


「…アッキー」

 いつまでも何も言わない瑛貴に焦れたのか、依織が顔を上げた。
 視線がぶつかる。
 依織の顔が近付く。
 逃げられない――――それは背後がドアに阻まれているから、だけではなくて。

「――――…………」

 重なった唇。
 瑛貴の腕は、依織の背中には回らなかったけれど、依織を引き剥がすように動くこともなかった。

「…アッキーが拒否んないなら、またするよ?」
「…ダメ」
「なら突き放せよ」

 けれど、そうはしない瑛貴に、依織は「…ズルイ」ともう1度唇を重ねた。





***** 

 あんなことがあって、それから依織が一体どう出るのか瑛貴は気を揉んでいたのに、1週間くらいしたら、依織は普通に、閉店時間ごろJADEにやって来た。
 ただいつもと違うのは、男の格好をしているということ。
 驚き過ぎて一瞬言葉を詰まらせた瑛貴に、依織は声を上げて無邪気に笑った。

「いや、俺だって男の格好で遊び行くことだってあるし。つーかさ、アッキーは相変わらず、終電命なんだね」
「いいじゃん、別に」
「いいけどー。何なら、俺んち泊まってく?」
「謹んでお断りします」

 瑛貴が丁重にお断りすれば、依織は「アッキーのケチー」と拗ねた表情をした。

「じゃあ、駅まで一緒に行く!」
「勝手にしろよ」
「勝手にするもん」

 またJADEに来ていいかと言った依織に、OKの返事をしてしまった手前、ここでダメだとは言えないと、律儀な瑛貴は思ってしまうわけで、結局そんなぶっきら棒な返事をしてしまう。
 だが依織は、そんなこと気にするわけでもなく、笑顔で瑛貴の後を付いて来た。

 駅までは、たあいもない話ばかりだった。
 この間のキスのことは、別にわざと避けるつもりもなかったが、こんなところで歩きながら話す内容でもない気がして、瑛貴からは何も言い出せなかった。

 あんなことがあったのに、どうして今、こんなに普通に話をしているのかとも思ったが、それは偏に瑛貴の鈍感さがなせる技で、"普通に話をしている"なんてそんなこと、瑛貴が思っているだけのことなのかもしれない。
 依織は本当は、あのときの話の続きがしたいのかもしれないけれど。

「…今日も、アッキーの時計が止まってたらよかったのに」
「止まってねぇよ」

 駅に到着すると、依織が残念そうにそう言ったが、瑛貴の時計は、今日は正しく時を刻んでいた。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (68)


「じゃあね」
「あ、アッキーちょっと待って。ね、こっち来て?」
「は? ちょっ時間!」

 駅に入ろうとする瑛貴を、依織が引き止めた。
 ここまで来ておいて、今日も終電に乗り遅れたなんて、そんなの絶対に嫌なのに、依織は瑛貴の儚い抵抗を無視して、「まだ大丈夫」と瑛貴の腕を引っ張って行く。
 そんな自信を持って大丈夫と言い切れるくらいの、時間の余裕があるとは思えないのに。

 わけも分からず瑛貴が連れ込まれたのは路地裏。駅前は、終電に急ぐ人でごった返していたのに、さすがにこの場所には誰もいなくて。

「何だよ依織。お前、これでまた乗り遅れたら…」
「大丈夫、すーぐ」
「だから何が、て――――ちょっ…」

 一体何なんだ、と瑛貴は聞きたかったのに。
 でもその一言も言えないうちに、依織の両手が瑛貴の肩を掴んで、その顔が近付いてきて。

「――――…………」

 何てことだ。
 また、依織とキスをしてしまった。

「依織、おまっ…」
「えへへ。バイバイのチュー。したくなっちゃった」

 唇を離した依織は、少しも悪びれずに笑っている。
 瑛貴は頭を抱えた。

「バッカじゃねぇの、お前。てかバカだろ、絶対」
「うん、バカかも。あ、ホラ時間! 終電乗り遅れるよ?」
「誰のせいだよ!」

 もっと依織に詰め寄ってやろうと思ったのに、時間を指摘されると、瑛貴の立場は弱い。
 こんなことで電車に乗り遅れたくはないし、そのせいで依織の家に泊まるはめにもなりたくはないと、駅まで急ぐ瑛貴の背後、『アッキー、バイバーイ』という楽しげな声が聞こえたが、瑛貴はそれを無視した。

 飛び乗った最終電車は、相変わらず嫌になるくらい混雑していて、酒臭い。
 瑛貴は押し潰され掛けながら、ただボンヤリと窓の外の景色を眺める。いつもと同じ光景。

(また、キスした…)

 こんな簡単な手に引っ掛かる自分は、相当単純な性格なのだろう。
 だからなのだろうか、依織が懲りずにこんなことをしてくるのは。

『バイバイのチュー。したくなっちゃった』

 依織は、そう言って笑っていた。
 そんなのどこのバカップルだよ、と思ったが、それ以前に瑛貴と依織は恋人同士ではない――――告白はされたけれど。

(そういえば、何も返事してない…)

 依織への気持ちが恋愛感情でない以上、依織からの告白は受け入れられないと、ちゃんと言わなければならないのに、でもそうしたら、もう依織と会えないような気がして、瑛貴は依織を突き放せない。
 依織のことは嫌いではないし、出来ればこれからも会いたいし、でも男同士だからということでなく、恋人にはなれないのに。

 本当にまったくズルイ男。
 瑛貴自身もそう思う。
 一体依織は、こんな男のどこがよくて好きだなんて言うのだろう。

 けれどそれなら、瑛貴だって、よく依織に愛想を尽かさないものだと思う。
 性格も感覚もまるで違うし、全然合わない。
 確かに依織は好きだと言ったけれど、瑛貴にしたら、依織はただの友だちだと思って――――いや、(自分自身に言い聞かせるように)思い込んでいただけで、普通そんなヤツにキスなんてされたら、今までのように会いたいなんて思わないだろうに。

 ならば、と自分の気持ちを整理する。
 真夕子と比べて依織はどうなのか、という問題。
 紛れもなく真夕子は瑛貴の恋人で、瑛貴は真夕子のことを愛している。しかし、それを依織に当て嵌めようとすれば、『愛情』や『恋愛感情』では括れないカテゴリのような気がして。

(あーもう、何なんだよっ)

 わけの分からない苛立ちに、瑛貴はぶんと首を振ったら、その拍子にドアに頭をぶつけてしまい、痛いやら、周囲の視線が突き刺さって恥ずかしいやら。
 結局、何の答も出ないまま、降りるべき駅に到着してしまった。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (69)


 こんなことがあって、今日は眠れそうもないや…と瑛貴は密かに思っていたのに、人間の体はよく出来たもので、いや、単に瑛貴の繊細さが微々たるもの過ぎたのか、普通にしっかりばっちり眠ってしまった。
 だが、寝て起きたからといって、今の瑛貴を取り巻く状況に何か変化があるわけでもなく、時間ばかりが過ぎていく。

 まず、依織は今までどおり、ちょくちょくJADEに来る。
 しかも相変わらず客ではないので、閉店時間ごろ店の前にいて、時々泰我と遊びに行き、時々瑛貴と一緒に駅まで向かう。
 変わったことと言えば、女の子の格好をしていないことくらいで、元からの友人である泰我はともかく、分かっていても初めて男の姿をした依織を見た七槻は、やはり相当驚いていた。

 瑛貴と駅まで行くときは、流行りの音楽のことだとか、ゲームのことだとか、携帯電話の新機種のことだとか、話すのはそんなことばかりで、まるで普通の友だちのようだった。
 しかし依織は瑛貴に告白をしたのだし、キスだってしてしまった間柄で、とても友だちだなんて言える関係ではない。

 ――――その証拠に、だって、今日だって依織とキスをしている。

 駅近くの路地裏、喧騒とは切り離された、静かで誰もいない空間。
 1度そこまで引っ張られて行ってキスされたのに、瑛貴は何も学習していないのか、その次に依織と駅まで行ったときも、同じようにキスされてしまって。
 何度かそんなことをしているうち、JADEから駅まで一緒に行ったとき、その別れ際にキスをするのが普通になってしまっていた。

 瑛貴にしたら、何となくのキスだった。
 依織の気持ちは知っているし、きっと依織はこのキスに意味を持たせたいのだろうけど、瑛貴はその気持ちには応えられなくて。なのに、何となく流されるまま唇を重ねてしまう。
 そのキス自体が嫌だということはなかったが、かといって、依織への気持ちが恋愛感情に変わったかと言えば、そうでもなくて。

(よく依織、こんなヤツ、嫌になんないよなぁ…)

 もう何度となく思ったことを、今日も瑛貴は思ってしまう。
 かといって、だったらいっそ嫌いになってくれればいいのに、などとも思わず、このままでいてくれたらいいと思う。
 …本当、ズルイ男。

「アッキー、何考えてる?」
「…え?」

 キスの後、ボンヤリとしている瑛貴が気になったのだろう、依織は小首を傾げていた。
 それに瑛貴が「…何か、いろいろ」と緩く首を振れば、それでは納得いかなかったのか、依織は拗ねたように少し唇を突き出し、瑛貴の胸に顎を預けるようにして凭れて来た。

「いろいろ、て? いいこと? 悪いこと? それとも…」
「普通のこと」
「えぇっ? 何それー。そういうときは普通、依織のことだよ、とか言ってくれんなんじゃないの?」
「何それ」
「だってそうでしょ? 一緒にいるんだからぁ」

 もーやっぱアッキー鈍感! と依織はむずかるように言いながら、瑛貴から離れた。
 けれど、そんなこと言われたって、正直に答えられるわけもなくて、瑛貴はごまかすように依織の頭を撫でた。

「アッキーのバカ」
「…知ってる」
「バーカ」

 依織はもう1度、瑛貴の唇を奪った。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (70)


*****

 このところ依織が、いつも男の姿でしか現れなかったので、瑛貴は依織が女の子の格好をするのだということを、何となく忘れていた。
 だから、駅前の雑踏の中で女の子の格好をした依織を見掛けたときは、本当に息が詰まるかと思った。
 隣には男の姿。腕を組んで歩いている。

「……」

 何とも言えない嫌な気持ちに襲われたが、しかしそんな依織を咎められないことは瑛貴自身、知っていた。
 大体、瑛貴と依織は恋人同士でも何でもない。もしかしたらもう友だちではないかもしれないが、少なくとも恋人にはなっていない。瑛貴の恋人は真夕子だ。
 それなのに、瑛貴と依織はキスをする。

 ――――依織が、女の子の格好でどこかの男と関係を持つことは、真夕子という恋人がいるにも拘らず、依織とキスしてしまう瑛貴と同じだ。

 こんなことで似ている2人だとは言わないが、けれどやっていることは結局同じ。
 だから瑛貴は依織のやっていることに何も言えない。もし何か言ったり言われたりするのだとすれば、瑛貴が真夕子に咎められる以外にない。

 暗闇に紛れるように消えて行った依織と男を、瑛貴は何となくボンヤリと眺めていたが、その直後、ハッと駅を振り返った。
 電車。
 完全に乗り遅れた。

「あぅ…」

 今日の瑛貴は付いていない。

 終電は逃すわ、タクシーで帰れるほどの持ち合わせはないわで、結局瑛貴は、嫌々ながらも始発までファミレスで過ごすはめになってしまった。
 泊めてくれそうな友人や知人をあたるという手もあったのだが、誰かと過ごすよりも1人でいたかったから。

 駅近くのファミレスは、混雑していると言うほどでもなかったが、それなりにお客がいて、瑛貴は少し驚いた。
 窓際の席まで案内される途中、いるのは、お喋りに夢中になっている派手めの女の子たちやら、勉強をしている学生やら、寄り添ってイチャイチャしているカップル。
 中には、瑛貴のように終電を逃した人もいるのだろう。不思議な空間だと思った。

「お決まりになりましたら、お呼びください」

 昼間ほどは高くないテンションで、店員がメニューと水を置いて立ち去った。
 何だか腹も減っていなかったが、ファミレスに来て、ドリンクバーだけで何時間もいられるほど図太い神経をしていない瑛貴は、適当にメニューを捲る。

 しかし、キレイに撮られた料理の写真は、本来ならば食欲をそそるはずなのに、なぜか少しもそんな気にならない。
 年齢相応の男子らしく食欲旺盛なほうなのに、少しも食欲が湧かないなんて、やっぱりどうかしてしまったのだろうか。

 だが、他に考えることがないと、頭の中は依織のことで占領されそうになるので、瑛貴はわざと1品1品じっくりと詳細まで丁寧に眺める。
 それなのに、とうとうデザートのページまで辿り着いてしまい、最後のページを捲ったら、メニューが閉じてしまった。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (71)


「はぁー…」

 こんな時間だから、店内に人は多くても客の回転は悪いから、店員も時間を持て余しているようで、店内を見回るようにときどき通り過ぎる店員が、何も注文しない瑛貴をチラチラ見ていく。
 もとが優柔不断なうえに、食欲もないのでは、決まるものも決まらない。

 散々迷った挙句、それほど食べたいわけでもなかったが、瑛貴は軽めのサラダとドリンクバーを注文した。
 注文を受けた店員は、お決まりのセリフでドリンクバーの説明をしてから立ち去ったが、瑛貴はドリンクを取りに席を立つ気分にもならず、何となくグダグダとしていた。
 このままだと、せっかく注文したのに、飲み物を取りに行かないまま終わってしまいそう…。

 時計に目を落とせば、まだ2時を過ぎたところで、時間はたっぷりある。
 本当に始発が動き出すまで、こんなところにいることなんて出来るんだろうか。

「お待たせいたしました」

 注文したものが簡単なサラダだけだったから、瑛貴がボーっとしているうち、あっという間に料理が運ばれて来てしまった。
 瑛貴がそちらに顔を向ければ、笑顔とも言い難い微妙な顔をしている店員と目が合った。

「ご注文は以上で…」
「あ、はい。あ、あ……はい」

 丸めた伝票を置こうとした店員の歯切れが何だか悪くて、ようやく瑛貴は彼の表情の意味が分かった。
 普通ドリンクバーなんて、まず取りに行くものなのに、相変わらず瑛貴のテーブルには最初に出された水のグラスしかないものだから、『ご注文は以上でお揃いですか?』という定番のセリフが吐けなかったのだ。

「あの……はい、取りに行くんで、ドリンクバー…」

 別に取りに行くことを忘れているわけでも、ドリンクバーのシステムを知らないわけでもないから、そんな顔をしていないで、さっさと立ち去ってほしい。
 いたたまれず瑛貴が視線を落とすと、店員は「…ごゆっくりどうぞ」と静かに行って離れていった。

 瑛貴はフォークで適当にサラダをつついた後、パプリカを1つ口に運んでから席を立った。
 しかしこちらも残念ながら、これと言って飲みたいものもなく、瑛貴はコーラをグラスの半分ぐらい注ぐと、適当にストローを差して席に戻る。

(あ、氷忘れた…)

 座った瞬間に、グラスの中に氷がないことに気が付いたが、面倒くさくて、改めて氷を入れに行くのは諦めた。
 もそもそとサラダをつつきながら、氷の入っていないコーラをダラダラと飲んでいる姿は、もしかしたらひどく陰気に見えるかもしれないが、有り難いことに周囲は、そんな瑛貴には無関心だ。

 通路を挟んだ向かいの席は男3人組で、そのうちの2人はテーブルに突っ伏して寝ている。残りの1人は携帯電話に向き合って、メールなのかゲームなのか、先ほどからずっと熱心だ。
 しばらくすると、テーブルに突っ伏して寝ていた1人が頭を起し、寝ているうちに氷が全部融けたことで出来た、グラスの中の中途半端な水を啜ってから、ドリンクバーへ向かう。
 その正面に座って、ずっと携帯電話を弄っていたヤツは、起きた友人に目もくれず、相変わらず小さなディスプレイを覗き込んでいる。

 知らない人間。
 注目する必要もないし、そんな気もなかったから、瑛貴は自分のサラダへと視線を戻した。
 ドレッシングの中に、レタスやらベビーリーフの欠けらが沈んでいる。グラスの中は空。

(…コーラ)

 今度こそ氷を入れて、新しいのを持ってこよう。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (72)


 フォークを置いて、ノロノロとグラスに手を伸ばす瑛貴の耳に、「いらっしゃいませー」という店員の声が届く。こんな時間だというのに、ファミレスというのは、つくづく不思議な空間だ。
 だが、来店した客に興味はない。瑛貴はグラスを持って立ち上がった。いや、立ち上がろうとした。

「アッキー?」

 その声に、手が止まった。
 何となく視線を向けたままだった空のグラスから、顔を上げられない。

「やっぱアッキーだ。通り掛かったら、アッキーがいるの見えて。終電乗り遅れたの? でも珍しくない? アッキー、ファミレスで時間潰すなんて」
「…俺だって、そういうことくらい、あるよ」

 瑛貴はグラスから手を離し、ゆっくりと視線を上げた。
 そこに立っていたのはやはり依織で、駅前で見掛けたのと同じ、女の子の格好をしていた。

「始発までいるんでしょ? 俺もここ座っていい?」
「何で? 他にも席空いてんじゃん。つーかお前、歩いてだって帰れんだろ?」
「そうだけど……ダメ? アッキーどうしたの? 何か暗くない?」
「…普通」

 結局依織は、勝手に瑛貴の向かいの席に座った。
 瑛貴は飲み物を取りに行くつもりだったのに、タイミングを失ってしまい、仕方なしにフォークを持ち直した。

「ぅん? アッキー何か飲むんじゃなかったの? 俺、持って来てあげよっか?」
「別に、」
「俺も何か飲みたいし」

 どうしてそんな、余計なことまで気付くんだ。
 そんなさり気なくグラスを持って立ち上がるなよ。

「ねぇコーラでいいの? アッキー?」
「…うん」
「アッキーてコーラ好きなの? 俺も好きだけど。あ、すいませーん、ドリンクバーもう1個」

 瑛貴に話し掛けながら、依織は見つけた店員に追加の注文をしている。
 店員はテーブルに新たな伝票を置いていき、依織はドリンクバーへと向かった。

 何でこんなことになってしまったのだろう。
 依織は、通り掛かったら瑛貴がいるのが見えたと言っていた。そうか、ここは窓際の席で、外から見えるのか。
 もう電車は終わっているし、先ほど見た男と事が済んだ依織は、歩いて家まで帰るところだったのだろう。その彼と朝まで一緒には過ごさないのだろうか。

「はい」

 氷たっぷりのコーラが目の前に差し出されて、瑛貴は何も言わずにそれを受け取った。

「ねぇアッキー、何でそんなテンション低いの? 眠いの?」
「違ぇよ。つーか、お前のテンションのほうがおかしいんだよ、時間的に」

 言い放って、瑛貴はストローが刺さっているにも拘らず、直接グラスからコーラをがぶがぶと飲み始めた。
 過ぎるくらい分かりやすく、今日の瑛貴は機嫌が悪い。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (73)


 傍から見たら笑えるくらい終電で帰ることに拘っている瑛貴が、こんな時間にファミレスにいる理由はすぐに分かるし、そのせいで機嫌が悪いのも分かる。

 しかし不本意にもファミレスで始発を待つはめになったとしても、1人で時間を持て余すよりは、誰かいたほうが時間を潰せそうだと依織は思ったのだが、どうやら瑛貴はそうではないらしい。
 とすれば、その原因が自分にあることが、瑛貴ほど鈍感ではない依織にはすぐに分かった。

 恐らく依織が相席することすら、瑛貴のご機嫌バロメーターを容易に「不機嫌」のほうへ押し遣るのだろう、だが今さら別の席に替わる面倒くさいので、依織は構わず向かいの席に座った。

「アッキーもうご飯食べちゃったの? サラダ? ねぇねぇ何かデザートとか頼まない?」
「…いらない」
「あ、そう」

 素っ気なく、そう顔すらも上げずに瑛貴が答えれば、しかし依織は溜め息の後、なぜか店員を呼ぶためのボタンを押した。

「は? ちょっ…」
「俺が食べんの。いいでしょ? それなら」
「…勝手にすれば」

 目も合わせず瑛貴が答えたところで、店員がテーブルへとやって来た。

「えっとー、黒蜜抹茶ケーキとカシス&ベリーパフェ」
「え、ちょっ…」
「かしこまりましたー」

 なぜかデザートを2つ頼んだ依織に、瑛貴が慌てたのも虚しく、店員は躊躇する素振りもなくあっさりと去って行った。

「依織、お前、」
「だって2つとも食べたかったんだもん。食べ切れなかったら、アッキー半分食べて」
「ふざけんな」

 勝手なことを言う依織に、瑛貴は大げさに溜め息をついた。
 けれど本当は、何だか機嫌の悪い瑛貴に気を遣ったに違いないことは、瑛貴にも分かっていた。

「…つーか依織、お前、こんなとこ来てていいのかよ」
「何が?」
「さっき一緒にいたヤツ。もうバイバイして来たの?」

 メニューを片付け、コーラのグラスに手を伸ばしていた依織は、グラスを掴む直前に、そのままの格好で一瞬固まった。

「何、アッキー……それって、」
「え、だってさっき駅んトコで、一緒にいるの見たし」
「あ…」
「いや別にいいんだけどさ。何か最近JADEに来るとき男の格好で来るから、依織が女の子の格好すんだってこと、ちょっと忘れ掛けてただけ」

 それは、本当のこと。
 そんな権利はないけれど、少し嫌な気持ちになって、勝手に不機嫌になってはいたものの、瑛貴は別にそのことで今さら依織を咎めようなんて思っていない。

「何か…だって、女の子の格好してるってことは、まぁそういうことじゃん? 何かアッキーに、まだそんなことしてんのかよ、て思われたくなかったから」
「けど、今その格好で会いに来たら、意味ないじゃん」
「そうだけど、でも見掛けたら、会いたくなったんだもんっ」

 瑛貴に笑いながら突っ込まれ、依織は拗ねたように言い訳した。
 依織が女の子の格好をする理由を、瑛貴は知っているのだから、今の姿を見れば、一緒に歩いているところを見なかったとしても、何となく想像は付くに決まっているのに。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (74)


「それにさ、女の子の格好でJADEに行ったら、またあのキャバ嬢の子とかに何か言われちゃうかもでしょ? アッキー、前すっげぇ困ってたじゃん」
「そうなんだけどさ」

 依織を瑛貴の彼女だと勘違いし、しかも浮気をしているのだと思い込んでいる有華のことを言っているのだろう。
 彼女に見られたら、何かと厄介なのは確かだ。

「てか…俺、そういうとこ、しょっちゅうアッキーに見られてるよね」
「そりゃそうだろ、俺、毎日あの駅使ってんだもん。見られたくないなら、別のトコ行けよ」
「…確かに」

 瑛貴に想いを告げて、しかしそれでも、寂しさからいろいろな男性と関係を持ってしまうことをやめられなくて。
 隠したところでどうにもならないのは分かっているのに、つい瑛貴にバレないように行動している自分がいた。
 けれど結局、そんな隠し事、うまくいくわけないのだ。

「お待たせいたしました」

 依織の自嘲なんて構うことなく、黒蜜抹茶ケーキとカシス&ベリーパフェが運ばれて来た。
 こんな時間に食べるには、少しどころでなく胸焼けしそうなスイーツに、依織が瑛貴に視線を向け直すと、「食べれば?」と瑛貴はソファの背に凭れて伸びをした。

「ねぇアッキー、先これ食べててよ」
「は?」

 黒蜜抹茶ケーキにフォークを立てた依織が、ズイ、とパフェを瑛貴の前に差し出した。
 最初から、1つは瑛貴に上げるつもりだったのだ。

「パフェ。アイス融けちゃうから、アッキー先食べてて」
「…お前が2つ食うんだろ?」
「食べるけど! あ、そのイチゴ残しといてね」

 そう言って依織は黒蜜抹茶ケーキを食べ始めるから、瑛貴は少し迷ってから、仕方ない素振りでスプーンを手に取って、ベリーソースの掛かったアイスに刺した。



*****

 デザートを食べ終わっても、始発にはまだ少し時間があって、でももう座っているのも窮屈で、結局2人でファミレスを出た。

「え、依織何でこっち来んの?」

 ファミレスを出て、瑛貴はもちろん駅に向かうのだが、なぜか反対方向の依織まで一緒にやって来た。

「いいじゃん、俺も駅まで行く」
「いいけど逆じゃん」
「でもいいの」
「あっそ」

 こんなことで言い争うつもりもないから、瑛貴は依織の好きにさせる。
 ただ、以前こうして2人で始発の動き出す時間に駅まで向かっていたのを、七槻に見られたことがあるから、それだけはちょっと気を付けないと。
 別に見られたら困るわけではないけれど、七槻も何かと瑛貴にちょっかいを出してくるから、面倒くさいのだ。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (75)


「まだ早かったかなー」
「早いね、完全に」

 ファミレスから駅までの距離があまりに短すぎて、ゆっくり歩いても殆ど時間潰しにはならなかった。
 それでも駅近くには、チラホラ人の姿がある。

「まだ時間あるでしょ? もうちょっと一緒にいよ?」

 何をしていようか瑛貴が迷っていたら、依織に腕を引かれた。
 向かったのはいつもの路地裏。普段は暗闇に紛れるそこも、今は柔らかな朝日が差し込み始めている。
 一緒にいるだけだとしても、駅前だと誰に見られるか分からないし…と依織が思ってくれたのかは知らないが、いつもはただ何となくキスをしている場所で、今は何となく話の続きをする。

「つかアッキー、仕事終わってすぐ帰りたいなら、もっと近くに住めばいいのに」
「ダメダメ、近すぎんのはダメ」
「何で」
「だって俺んちが近くにあったら、絶対、帰れなくなったヤツが、泊めてーて上がり込んでくるに決まってるもん。時々ならいいけど、しょっちゅうはキツイ」

 泰我のように朝までオールで遊べるか、毎回タクシーで帰れる人間ばかりならいいが、ホストクラブで働いているとはいえ、そこまで体力や金銭的に余裕のある人間ばかりではない。
 瑛貴がJADEの近くに住んでいるとなれば、体よく利用されるのは、目に見えている。

「あぁ…何かアッキーなら、そうなりそう…」
「…それ、絶対いい意味で言ってないだろ、お前」
「あはは」

 先輩としての威厳が少なめなことは、依織に言われるまでもなく、瑛貴自身がよく分かっているのだ。
 七槻からは、それがアッキーのいいところじゃん? なんて、何の慰めにもならない慰めの言葉を時々掛けられているし。

「七槻くんも、結構言うね」
「ホントだよ。つか俺、七槻くんとは同い年だし、店に入ったのも俺のほうが早かったのにさぁ」
「ウッソ。アッキー、七槻くんと同い年なの!?」
「そうだよ、うっせぇな」

 客がホストを選ぶときに見る男メニューの写真が、写真スタジオの技術向上のおかげで実物の何割増しにもなっている中、七槻は間違いなく写真どおりかそれ以上のキレイな顔立ちをしていることもあって、童顔の瑛貴と比べると、やはり同い年には見えない。
 瑛貴もそれは十分に承知しているが、改めてそんなに驚かれると、ちょっと切ない。

「ゴメンゴメン、アッキー! でもいいじゃん童顔だって。かわいいんだし」
「お前に言われたくない」
「それって、俺がかわいい、てこと?」
「…」
「冗談じゃん」

 冷ややかな視線を向けて来る瑛貴に、依織は笑いながら肩を竦めた。

「…アッキー」
「ん?」

 依織は隣の瑛貴に凭れるようにして、その肩に頭を乗せた。
 瑛貴はチラリと依織を見たが、無理に押し退けようとはしなかった。

「…ん」

 少し首を捻って、唇を重ねる。
 そういえば、女の子の格好をしている依織とキスをするのは、意外にも初めてだった。
 昨夜も一緒に歩いていた男とも、依織はこんなふうにキスをするのだろうか。それともいきなり肉欲的な行為から始まるのだろうか。

(…別にどっちだっていいけど)

「…ぅん?」

 少しだけ唇を離して、依織が尋ねるように瑛貴の目を見る。
 瑛貴は、「何でもない」と答えようとしたが、それより先に依織が「何?」と聞き返した。

「…女の子の格好してるとき、キスすんの初めてだと思っただけ」

 思ったことはそれだけではなかったけれど、すべてを話す気にはならなくて、瑛貴はそのことだけを話した。
 けれど、それだけで依織は、瑛貴が本当に思っていたことまでを感じ取ったのか、小さく溜め息をついた。

「アッキーとはね」
「…どっかの男とは、してんだもんな」
「しょうがないじゃん、アッキーは俺のモンじゃないんだし」

 瑛貴が、言うつもりのなかった言葉を滑らせれば、依織は「1人は寂しいもん」と付け加えて目を伏せた。
 依織に会えないときは、俺だって寂しいよ、とは言わなかった。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (76)


*****

「あー依織、女の子ー! 久々ー!」
「七槻くん、声おっきいっ」
「んんんー」

 陽気な七槻の声がJADEの前で響き、瑛貴が慌てて七槻を押さえ込んだ。
 酔っ払っているせいか、やけにテンションが高い。そんな七槻を見るのは初めてで、店のそばで瑛貴を待っていた依織は、ポカンと口を開けた。

「七槻くん?? 何か今日テンション高いね」
「えへへ、今月もナンバーワン! なっちゃった~」

 依織が目をパチパチさせながら、いいように酔っ払っている七槻に尋ねれば、七槻は子どものように無邪気な顔でブイサインを作った。

「そうなんだ、おめでとうございます」
「ありがと~」

 いつもは、甘えるようなかわいい表情や仕草をしても、どこか隙のない雰囲気をしているのに、瑛貴に肩を借りている今日の七槻はそういった部分が削ぎ落とされた感じがする。

 ナンバーワンは、同じ店で働くホストのすべてが狙っている座だから、いくら七槻が顔もよくて、トークもうまくて、店にいるときだけでなくすぐに女の子に口説かれるような男でも、その地位にあぐらを掻いてはいられない。
 そんなのん気に構えているヤツは、あっという間に売り上げのランキングから叩き落ちてしまう。

 だからこそ、七槻は密かに人一倍の努力をしているのも事実だ。
 周りから見たら、「今月もナンバーワンになれた~!」と、七槻がここまで無邪気にはしゃぐ理由は分からないかもしれないが、それくらいに嬉しいことなのだ。

「それで嬉しくていっぱい飲んじゃったの?」

 酔っ払っている七槻でなく、隣の瑛貴にコッソリ尋ねると、瑛貴は肩を竦めた。

「嬉しくて、てか……まぁ、売り上げ伸ばすには、それだけいっぱいお酒空けなきゃだし、今日はナンバーワンのお祝い、てお客さんがどんどん入れてくれたから。でもあれだけ飲んで、これしか酔っ払ってないなんて、すごいよ、マジで」

 普通の人ならとっくに潰れてるよ、と瑛貴は呆れたように言った。
 瑛貴がいつもより早く店を出て来たのは、酔っ払った七槻を連れて行くためだったらしい。

「七槻くん、今日彼女んトコ行くんでしょ? しっかり立って」
「彼女じゃねぇって、カ・レ・シ!」
「あっそ。知らないよ」
「彼氏っつーか、俺が好きなだけだけど~」

 ナンバーワンになれたお祝いしてもらうんだからー、と七槻はあどけなく笑っている。

「七槻くん、片想いなの?」

 意外にも一方通行らしい七槻の恋心に、依織が食い付いて来た。
 七槻くらいなら、いくらでも両想いになれそうなのに。

「んーんー、分かんないー。でもアイツ、きっと俺のことなんてどーでもいいから、片想いかなぁー」

 それはとっても切ないことのはずなのに、七槻はなぜか、キャハハハーと笑っている。
 依織は訝しげに眉を寄せたが、笑っている七槻にバシバシと背中を叩かれている瑛貴は、ひどく迷惑そうな顔だ。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (77)


「つか、彼氏でも彼女でも、何でもいいから早く行きなよ。待ってんでしょ?」
「待ってるかなー?」
「迎え来てもらえば?」
「…来ねぇよ」

 いきなり、先ほどまでの無邪気な声とは裏腹の、低い声を出した七槻に、話を振った瑛貴だけでなく依織も驚いたが、七槻は構わず瑛貴から離れた。

「アッキー、タクシー」
「え、俺に拾って来いって?」

 七槻の顔からは、笑みが消えていた。
 酔っ払いの機嫌を損ねるのは面倒くさいことを知っている瑛貴は、相変わらず電車の時間を気にしつつ、それ以上の文句を言わずに、表通りにタクシーを拾いに行った。

「…さっきまでの、酔っ払ってたの、演技?」

 七槻と2人きりになって、依織は思わず尋ねた。
 単に機嫌が悪くなっただけではない、今の七槻は。

「酔ってるよ、めっちゃ飲んだもん。つか醒めた、今」
「アッキーのせい?」
「アイツさぁ、いいヤツなんだけど、何であんな鈍いんだろーな。俺のこと、どうでもいいとか思ってるヤツが、迎えなんか来てくれるわけねぇのに」
「…だね。てか、そんなどーでもいいとか思ってる人のこと、七槻くん好きなの?」
「んー…暫定1位て感じかな?」
「何それ」

 たぶん笑い事ではないけれど、依織は思わず笑ってしまった。
 瑛貴から聞いた話では、七槻もわりと日替わりで隣を歩く彼女や彼氏が変わっているらしいから。

「つか依織も大変だよな、あんなの好きになって」
「大変。でも、しょうがないよ。だってアッキーは彼女のこと好きなんだし。…けど、それならそれで、俺のこと突き放してくれればいいのに、とは思うけど」
「そんな器用なヤツじゃないよ、アッキーは」

 苦笑する七槻に、「だね」と依織も同意した。

「つーかさ、依織、マジで久々じゃね? 女の子の格好で来んの」
「まぁ…いろいろ事情がありまして」

 女の子の格好で瑛貴に会わないようにしていたのだが、先日、まだ女の子の格好でいろいろしていることがバレてしまったので、取り繕うのを結局やめたのだ。

 今日も実は、ここに来る前、男1人を相手してきた。
 というか、それで終わって、家に帰るつもりだった。
 なのに終わった後、その男がとってもあっさりしていて、別に甘い言葉なんて望んではいなかったけれど、それがすごく寂しくて、瑛貴に会いたくなってしまったのだ。

「俺、お前が女の子の格好で来るのやめたから、とうとう真っ向勝負か!? とか思ってたのに、違ったんだ?」
「そうしたかったんだけどねー。さっき言ったとおり、アッキーは鈍感で不器用だから」

 まさか自分がこんなにも他人の感情を振り回しているなんて、瑛貴は微塵も思っていないのだろう。
 わざとでなくて、無自覚。
 本当にタチが悪いと思う。けれど嫌いになれない。

「七槻くん、タクシー」

 しばらくして、瑛貴が戻って来た。
 手には、ミネラルウォーターのペットボトルを持っていて、「はい」とそれを七槻に渡した。
 酔っ払った七槻のために買って来たのだろう。的外れなタイミングは、いかにも瑛貴らしくて、七槻は少し笑ってからそれを受け取った。

「じゃ、俺帰るわ。アッキー、タクシーありがと」

 手を振った七槻が2人に背を向け、タクシーに乗り込んだ。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (78)


「…俺らも行こっか」

 タクシーが遠ざかるのを見送ってから、瑛貴が依織に声を掛けた。
 今日はまだ終電までに時間もあるし、ちょっとだけゆっくり話が出来るかな、なんて依織は少し期待する。

「…アッキー」

 2人して歩き出してすぐに、瑛貴を呼び止める、1つの声。
 依織には聞き覚えのない声で、この界隈で働く女性キャストか誰かかと思ったが、隣の瑛貴はハッとした顔で声のほうを見た。

「え、真夕ちゃ…」

 あまりにも思い掛けない人物がそこにはいて、瑛貴は言葉が続かなかった。
 立っていたのは、真夕子だった。瑛貴の恋人である真夕子が、何の表情もなく、足を止めた2人を見つめていた。
 依織は直感的に、この人が瑛貴の恋人なのだと分かった。

「そんな驚いた顔しなくても。あたしがここに来たの、そんなに意外だった?」

 やけに静かに、真夕子は話した。
 意外と言えば意外だが、真夕子は瑛貴の働いている店を知っているし、来たからといって別に不思議なことはない。
 時間的にもお客として来たわけではないから、だとすれば瑛貴のことを迎えに来たのだろうか。いや、そんな生易しいことではないことは、鈍感な瑛貴ですら、真夕子の纏う雰囲気から分かった。

「アッキーのね、そういうとこ、嫌いじゃないよ? けどさ、あんまり惨めな思いさせないでよ。あたしにだって一応、プライドとかあるんだから」
「真夕ちゃんっ」

 真夕子が何を言わんとするのか分からないのは、瑛貴が鈍いせいなのか、今の状況に焦っているせいなのか。ただ、真夕子が瑛貴と依織の関係に猜疑心を持っているのは確かで。
 でもそうでなくて、真夕子の声色に涙が交じっているのが分かったから、瑛貴は慌てて真夕子のそばに駆け寄った。
 依織はその場に立ったまま、2人のことを見つめていた。

 理知的で、優しそうな、大人の女性。きっと優柔不断で鈍感な瑛貴のこと、普段から引っ張って行っているのだろう。
 そんな彼女が、涙を浮かべていた。
 そうさせているのは瑛貴で、――――そして依織だ。

「ねぇ、」
「えっ…?」

 真夕子は瑛貴でなく、依織に声を掛けた。
 呆然としていた依織は反応が遅れ、ハッと真夕子の顔を見た。

「どうしてアッキーなの? 何で? あたしの恋人なのに、何で盗ろうとするの?」
「…」
「真夕ちゃん、違う、依織は…」

 依織は男で、友だちで、別にそういう関係じゃない――――もし真夕子に誤解されてしまったら、そう説明するはずだった言葉。
 しかしそれが今、一体何の意味を成すだろう。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (79)


「気付かないふりで、信じてるふりするのが、どんなに惨めだったか、アンタ分かんないでしょ?」

 依織に向って放った真夕子の言葉に、瑛貴のほうがハッとした。
 気付かないふり?
 だとしたら真夕子は、

「そんなの、とっくの昔から知ってるってば…。だって、あたしだって、……あたしだって、アッキーに会いたくて、何回ここに来たと思ってんの?」
「え…」

 瑛貴のほうを向き直って、まっすぐに思いをぶつけて来る真夕子。
 初めて聞いた事実に、瑛貴は目を見開いた。
 真夕子が、ここに来ていた?

「だってアッキー、メールも電話も殆どくれないし、会いに行きたくたって、時間が合わないんだもん。ここに来るしかないでしょ?」
「それは…」

 電話やメールの無精を、真夕子から咎められたのはこれが初めてで、瑛貴はただただ呆然としてしまう。
 そんな瑛貴に、真夕子は大きく溜め息をついた。

「…言わなきゃ、寂しいのもアッキーには伝わらなかったの? あたしなら寂しくないとか思ってたの?」
「そうじゃ…」
「アッキーの仕事は分かってるから、別に女の子と駅まで一緒に行くくらい、て思ってるけど、でも一緒にいるのがいっつもその子だって分かったとき、どんだけ悔しかったか、アッキー分かんないでしょ?」

 伸ばした瑛貴の手はやんわりと拒まれ、真夕子は依織のほうを向いた。
 真夕子は何度も瞬きをして、涙を堪えようとしていた。

「ねぇ、何でしょっちゅう店までアッキーのこと迎えに来て、一緒に駅まで行って、何でそんなことすんの? 自分のほうが会う機会が多いからって、あたしが全然会えなくて、いい気味だとか思ってた?」
「真夕ちゃんっ」

 瑛貴を押し退け、真夕子は依織に激しく詰め寄った。
 依織は何も言えず真夕子をただ見つめていたが、それが余計に彼女の怒りに触れてしまうようだった。瑛貴が止めようとしても、うまくいかなかった。

「バカにしないでよっ」

 真夕子の右の手のひらが、パシッ…と乾いた音を立てて、依織の左頬にきれいに入った。
 恐らくよけようと思えば出来たはずだが、依織はそうはせず、そのままその平手を受け止めた。

 真夕子の瞳からは、とうとう涙が零れ落ちていた。
 けれどその涙を拭うことも隠すこともせず、真夕子は依織をキツク睨むと、瑛貴の手を振り払って去っていく。

「え、あ、ちょっ…」

 瑛貴は真夕子を追い掛けようとしたけれど、しかし頬をぶたれた依織のことも気になって、すぐにはその場から動けなかった。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (80)


「…アッキー」
「依織、あの、ゴメ…」
「早く彼女、追い掛けて?」
「え…」

 依織の頬は、まだ赤いままだ。
 大丈夫かと声を掛けようとした瑛貴の言葉は、それより先に依織に遮られた。

「アッキー、早く追い掛けてあげて。彼女、傷付いてる」
「でも…」
「…俺が行っても、余計に怒らせちゃうから」
「依織、でも…」
「俺なら平気」

 お願い行ってあげて、と泣き出しそうな声の依織に背中を押され、瑛貴は依織を気にしつつも、真夕子の後を追い掛けた。
 方向からして、真夕子が向かったのは駅だろう。まだ電車には乗っていないでくれ。

「真夕ちゃん…」

 真夕子のあんな顔は、初めて見た。
 けれど真夕子が大人で、しっかりしていても、ただの人間だ。愛する人と会えない日が続けば寂しいだろうし、泣きたいことだってあるだろうし、裏切られれば怒るに決まっている。
 一体今まで真夕子の何を見て来たのだろうかと、瑛貴は焦る頭の中で自問を繰り返していた。

「真夕ちゃんっ」

 駅に着く前に、真夕子に追い付いた。
 真夕子は、瑛貴が追い掛けて来たことにひどく驚いた様子だったが、逃げ出そうとはしなかった。
 まだ少し、まつ毛が涙で濡れていた。

「アッキー……来たの?」
「だって…」
「あの子に言われたんでしょ? 追い掛けろ、て」
「それは…」

 つくづく嘘のつけない性格の瑛貴に、真夕子は少し笑った。
 こんなときくらい、「そんなことないよ」と、嘘でも言えばいいのに。

「あの、あの…ゴメン、真夕ちゃん、あの…」
「何?」
「えっと、だから…」

 尋ねれば、瑛貴はすぐにへどもどしてしまう。
 それは、たぶん瑛貴ならそうだろうな、と真夕子が思っていたとおりの反応で、分かっているのに聞いてしまうなんて、もしかしたら意地の悪い女なのかしら、とも思った。
 けれど、本人が、何について謝っているか分からないような謝罪なら、いらないから。

「ねぇ、結局アッキーは、どうしたいの?」
「え?」
「アッキーは、あたしといたいの? それともあの子といたいの?」
「えっ…」

 与えられた二択に、瑛貴は言葉を詰まらせた。
 そんなこと比べたこともないし、比べるものでもないと思っていた。だって真夕子は恋人で、依織は……

 ――――――――依織は?



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (81)


「…ね、アッキー。ホントはもう分かってるんでしょ?」
「何が? 何を?」

 わけが分からなくて、早口で真夕子に聞き返す。
 分かってるって、何が?
 そんなの、何も分からない。

 答えられないでいる瑛貴を、真夕子はただじっと見つめて、待っていた。
 どうにもならない表情で、瑛貴も真夕子を見つめていた。

「アッキーのバカ…。最後まであたしに言わせる気?」

 長い沈黙を破って、真夕子が声を掛けた。
 いつだって答えへと導くのは、真夕子だった。

「どっちも同じくらい好き、なんてないんだよ?」
「そんなの分かって…、俺は真夕ちゃんのこと、」

 好きだよ、と続けようとして、けれどそれより先に、真夕子が諦めたように首を横に振った。
 やっぱり瑛貴には、最後まで先導が必要だったみたい。
 そんなところが好きだったんだけど。

「『どっちも好き』はないの。アッキーが好きなのは、あの子なの」
「な…」

 静かに告げた真夕子の言葉に、瑛貴は信じられないと言った顔で瞠目した。
 まさか本気で分かっていなかったのだろうか。瑛貴のことだから、十分あり得る。そういうところが好きだったの。

「何言って…、違う、違うよ。俺は真夕ちゃんのこと…」

 言い訳でも弁解でもなく、瑛貴は真夕子に、愛していると告げた。
 恐らくそれは、何の嘘偽りもない言葉。
 ――――けれど。

「あたしより、もっと好きになっちゃったんでしょ? あの子のこと」
「ちが…だってアイツ、依織、あんな格好してるけど、ホントは男だし」

 今さら言うつもりはなかったけれど、瑛貴はその事実を真夕子に告げた。
 真夕子が、依織を女の子だと勘違いしていて、そんなことを言っているのだとしたら、まだ反論の余地はあるから。
 しかし次に口を開いた真夕子からは、さらに瑛貴を驚かせる言葉が飛び出した。

「そんなの知ってるよ」
「えっ?」
「あの子が男なことくらい、最初っから知ってるってば」

 真夕子の思い掛けない言葉に、瑛貴は続けようと思った言葉が分からなくなって、ポカンと真夕子を見つめてしまった。

「アッキーと一緒にいるとこ初めて見たときから分かってたよ、女の子の格好してる男の子だって」
「嘘…」
「そんなの見れば分かるに決まってるじゃん。てか別に、男だからどうとか、ていう問題じゃないでしょ? 好きになるのに」

 諭すようにゆっくりと、真夕子は話す。
 雑踏の中。
 誰も2人に注意を払わない。

「ねぇアッキー。ずっと会えなくて寂しかった相手は、誰?」
「え…」
「他の男と一緒にいるの見て、ムカついたのは?」
「……」
「それ、あたし?」



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (82)


 心臓がバクバクとうるさくて嫌だ。
 だってそんなの。
 何で。

「ていうか、あたしが他の男と一緒にいたのなんて、知らないでしょ? アッキーは」
「えっ!? え、え、他に男!? て、え…」

 焦った声を出す瑛貴に、真夕子は小さく笑った。
 私のことでも、少しはそんな表情、してくれるのね。

「…嘘。そんな相手いないよ。でもそんなことも分かんないんでしょ? あたしのことは」
「そんなこと…」

 そんなことはないと反駁したいのに、でもどうしても真夕子の言葉に言い返せない。
 真夕子のことが好きなのに。
 真夕子のことは好きだけど。

「アッキーがあたしのこと好きなの、分かる。それは分かるの。あたしもアッキーのこと、好きだから。でも、アッキーの中で、『好き』の順位が変わっちゃったら、恋人としては、一緒にはいられないでしょ?」
「……」
「だから、ね。アッキーの今一番好きな相手に『好き』て言ってあげて?」

 あぁ、どうして。
 こんな簡単なことなのに、最後の最後まで真夕子に言わせてしまったのだろう。
 どうして。

「アッキーのこと、好きだから。嫌いになりたくないから、もうバイバイしよ?」

 どうして、最後の言葉まで。

 真夕子は泣いていなかった。
 涙を零したのは、瑛貴のほうだった。瞬きの拍子に、1つ、涙が頬を転がり落ちた。慌てて手をやったが、間に合わなかった。

「バカ。何でアッキーが泣くの?」
「ちが、だって、俺、」

 瑛貴はグッと唇を噛んだ。
 きっともう、どんな言葉を掛けても、真夕子の気持ちは変わらないのだろう。
 そうさせてしまったのは、他ならぬ瑛貴に違いなくて。

「アッキー。お願いだから、そんな申し訳なさそうな顔、もうしないでね。余計惨めになっちゃうから」
「…ん」

 瑛貴は鼻を啜って、コクリと頷いた。
 真夕子は微笑んでいるようにも見えた。

「…でも、あたしのせいで、少しは胸を痛めてね?」
「…ぅん」

 痛いよ。
 すごく痛い。
 けれど、きっとこの何十倍も、真夕子はずっと傷付いていた。
 何も気付けなくて、ゴメン。

「も…これでバイバイね、アッキー」

 これでバイバイだから。
 バイバイして、2人はそれぞれに帰って行く。
 だからもう歩き出さないといけないのに。

「あ、あの子に謝っておいてくれる? 引っ叩いちゃってゴメン、て。あたしはきっともう会わないと思うし」
「…うん」

 2人、見つめ合ったまま、動けなくて。
 歩き出さないと。

「てか、あたしもバカだよね。アッキーが全然自分の気持ちに気付いてないなら、気付かせないまま奪い返しちゃえばよかったのに」
「…ん」

 泣き出しそうな笑顔。
 きっと2人とも。

 真夕子は1歩、瑛貴から遠退いた。

「じゃあね、アッキー」

 笑顔でお別れを言って。
 真夕子は瑛貴に背を向ける。歩き出す。

 これで、バイバイ。

「真夕ちゃん、好きだった、すっごく。いっぱい傷付けてゴメンっ…」

 最後の言葉が、こんなでゴメンね。
 ――――ゴメン。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (83)


 真夕子が去って、けれど瑛貴はただボンヤリと突っ立っていた。
 終電はとうの昔に終わっていて、乗りそびれた人たちも、段々といなくなっていくけれど、瑛貴に行く当てはない。
 ファミレスで時間を潰すのはもうご免だし、JADEに戻っても仕方がないし、友だちのところに、依織の、

(依織…)

 依織はもう、帰ったのだろうか。
 まさかまだあの場所にはいないだろうから、……もしかしたら誰か、一緒にいてくれる人のところにいるのかもしれない。

 真夕子の言葉がグルグルと蘇る。
 けれどもう、依織には会えないと思う。
 そのために真夕子から別れを切り出されて、2人は別々に歩き出したけれど、今さらどんな顔で依織に会ったらいいのか分からない。
 真夕子と別れたから付き合おう、とでも言う気か。バカすぎる。いくら瑛貴が鈍感で間の抜けた男でも、そんなこと言えるわけがない。
 ――――それとも、恥も外聞もかなぐり捨てて、言ってみるか?

「依織…」

 瑛貴はズルズルとその場にしゃがみ込んだ。
 もう嫌だ、全部。
 自分がこんななせいで、いろんな人を、いっぱい傷付けた。そしてなぜか、自分まで傷付いている。バカだ。

(もう、何もかんも嫌だ…)

 抱え込んだ膝に顔をうずめて、とうとう瑛貴はその場に座り込んだ。
 辺りに人の姿はなく、時おり車の通る音もするけれど、静まり返っている。瑛貴の世界は真っ暗で静かだった。

 何も考えられなくて、後悔だか絶望だか、とにかくドロドロとした感情が、頭も体も重く満たしていた。



*****

 どのくらいそうしていたか、瑛貴はふと、蹲っている自分の前に人の気配があるのに気付いた。通り過ぎて行くでもなく、瑛貴の前に立っている。
 酔っ払って寝ているか、具合が悪くてこうしていると思われてるのかな、などとボンヤリした頭で考えた瑛貴は、やはり鈍感で間抜けだった。
 こんな時間に、何の目的もなくこんなところを通り掛かる人間なんて、そういるわけがないのに。
 頭を上げるのが面倒くさくてそのままでいたら、頭上でボソボソと喋る声がする。1人でなく、2人組だったらしい。しかし2人の会話は、瑛貴の想像とは掛け離れたほうへ進んでいた。

「てか、男じゃん」
「男でもよくね? ヤッちまえば変わんねぇよ」
「ギャハハ、お前、マジすげぇな。突っ込めりゃ、何でもいいのかよ」

 下品な笑い声に、瑛貴の頭は一気に覚醒した。
 自分は今、とんでもない状況下にいる。
 どんな2人組かは知らないが、瑛貴の前にいるのは決して柄のいい連中ではなくて、女だろうと男だろうと、自分たちの欲望のままにしてしまおうという輩だった。
 瑛貴は男だったから多少の猶予時間はあったが、これが女性だったら、あっという間に牙を剥いていたに違いない。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (84)


(どうしよう…、急に起きてダッシュで逃げれば…)

 けれど、もし捕まったら? 抵抗すればそれだけ相手を逆上させてしまいそうだし。
 しかし何も手向かわずにやられてしまうくらいなら…。

 瑛貴は寝たふりをしながら、必死に頭をフル回転させる。
 どのタイミングで立ち上がればいい?
 時間はない。
 どちらかの男の手が瑛貴の肩に触れた、瑛貴は立ち上がろうとした、立ち上がりかけた、

「えっ…ちょっ」

 けれど、それよりもずっと早い動作で、瑛貴の体は後ろへと押し倒された。
 目の前には薄笑いを浮かべた男が2人、その向こうに薄暗く淀んだ空が見える。

「ちょっ、離し…んんっ…」

 コンクリートのタイルに背中と頭をぶつけた痛みに怯んだ隙に、強い力で押さえ付けられ、瑛貴は必死に暴れたけれど、そのまま路地裏へと引き摺り込まれた。

「ハハ、かわいー顔してんじゃん」
「はな、ちょっ、離しっ…!」
「暴れんなって」

 瑛貴もそれなりに力はあるけれど、相手が2人となれば、その抵抗も虚しい。
 乱暴な手がネクタイに掛かる。
 本当、最悪なときには最悪なことしか重ならないのだと痛感した。

「んんーーっ!!」

 あぁもう本当にゴメンなさい、いろんな人、ゴメンなさい。
 お父さんお母さん姉ちゃんゴメンなさい。
 だから許して、助けて。

「アッキー!」

 頭の中で、ここしばらく音信不通の家族になぜか謝罪して助けを求めたら、頭上で瑛貴を呼ぶ声が聞こえてハッとした。
 けれどこの声は、瑛貴の家族のものではない。大体、家族は瑛貴のことを「アッキー」なんて呼ばない。この声は依織だ。

「うわっ」

 男の間の抜けた声とともに、急に体が軽くなる。
 見れば、男の1人は瑛貴の横に転がっていた。依織が、男に体当たりしたのだ。

「ふっざけんな!」
「アッキー早く!」
「え、あ、え!?」

 突き飛ばされた男が、怒りをあらわにして起き上がるより先、依織は、呆然としている瑛貴の手を掴んで、その体を無理やり引っ張り起こすと、ダッシュで駆け出した。

「アッキー、早く! 早く走って!」
「だっ…ちょっ待っ依織…!」
「早く!」

 そんなこと言われても足は縺れるし、いろいろなことが一編に起こったせいで、まだ全然頭が働いていないし、てか、何で依織がこんなトコいんの? とか考えようと思っても、全然考えられない。
 瑛貴は依織に引っ張られるがまま、走り続けた。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (85)


「はぁ…、も…大丈夫…?」

 とにかく走って走って、駅前まで出ると、人の姿がそれなりにあるし、交番の灯りも見えて、依織はようやく足を止めた。

「はぁっ…はぁ…、アッキー…、…平気?」
「…ん…」

 息を切らせながらも、瑛貴は頷いた。
 依織は先ほど別れたときと同じ、女の子の格好をしていたが、必死に走ったせいか、髪が乱れていた。

「何で、依織…」

 瑛貴は今の状況が信じられなくて、呆然と目の前の依織に尋ねた。
 何で一体こんなことに?
 だって今日は、酔っ払った七槻を連れるため片付けもしないで店を出て、そしたら女の子の格好をした依織と会って、真夕子と会って、別れを切り出されて、死にそうなくらい凹んでいたら、2人組の男に襲われ掛けて、依織に助けられて、

「…家、帰るトコだったから。したら何か誰か襲われ掛けてるし、ヤベェて思ったらアッキーだし、……後はもうよく分かんない」
「…そっか。…ありがと…」

 今さらどんな顔で依織に会えばいいのかと散々頭を悩ませていたのに、こんな形で再会してしまって、瑛貴はどうしたらいいか分からなくて、そこから先の言葉に詰まった。

「…アッキー、タクシー乗るお金、ある?」
「、えっ…?」

 何を話そうかと逡巡していた瑛貴は、依織の言葉にハッと視線を上げた。

「タクシー。危ないから、こんなトコで始発なんて待たないで、帰ったほうがいいよ。さっきのヤツら、多分俺らの顔なんて覚えてないとは思うけど、鉢合わせしたくないでしょ? それか、カプセルホテルとか探す?」
「…」

 依織が瑛貴のことを心配してくれているのは分かったが、ふざけてでも、以前のように「俺んち来る?」とは言わなかった。
 真夕子はあぁ言っていたけれど、やはり依織とは新しい関係になれそうもないみたい。

「…帰る」
「…………、…そう。お金は? 足りそう?」
「分かんない、けど…」

 そういえば、真夕子にぶたれた頬、大丈夫なのだろうか。
 気になって瑛貴は依織を見遣ったが、この暗がりの中では、その頬が赤いのかどうかも分からなかった。

「いくら掛かるか、聞いてみるね」

 そう言って依織は、客待ちをしているタクシーのほうへと歩いていく。
 瑛貴はその背中を見つめた。
 こんなふうに依織の背中を見ているのは初めてで、それは、いつも依織が瑛貴のことを見送ってくれていたからなのだと、瑛貴は漸く気が付いた。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (86)


「アッキー、行き先どこ?」

 助手席側の窓を開けてもらい、運転手と話をしていた依織が瑛貴を振り返った。

「アッキー!」
「…依織…、…………俺、真夕ちゃんと別れちゃった…」
「………………、…えっ?」

 答えない瑛貴に、急かすように声を掛けた依織は、聞かれたこととは全然違うことを瑛貴が答えたので、一瞬、怪訝に思ったが、すぐにハッとして目を見開いた。
 タクシーの運転手に、少し待っていてくれるように告げて、依織は瑛貴のもとに駆け戻る。

「アッキー、」
「俺、真夕ちゃんと別れちゃった…。別れよう、て言われ…」
「…………」

 どうして瑛貴が突然、こんなことを打ち明けてくれたのか分からないが、依織はキュッと唇を噛むと、呆然としている瑛貴の手を掴んで、タクシーのほうへと引っ張って行く。
 そして、成すがままの瑛貴をタクシーに押し込むと、自分もその隣に乗り込んだ。
 運転手がルームミラー越し、訝しげに2人を見ていたが、依織は構わず行き先を告げる。

 瑛貴は、依織の勝手な行動を咎める気にも、文句を言う気にもならず、ただぼんやりとタクシーに揺られていた。
 しばらくしてタクシーが停まった先は、依織のアパートの前で、依織は料金を運転手に押し付けると、瑛貴を連れてタクシーを降りた。

「依織、何で、ここ…」
「アッキーが行き先言わないからでしょ? いいから行くよ?」

 依織の部屋に向かうのを躊躇っている瑛貴の手をしっかりと握ると、依織は有無を言わさず連れて行く。
 淡い色のマニキュアが塗られているだけの、シンプルな依織の爪が、手の甲に食い込んだ。

 依織の部屋は、以前来たときと何も変わっていなかった。
 所在なさげに突っ立っている瑛貴に、手を離した依織は「座れば?」と促した。

「何か飲む?」

 その場に体育座りで座った瑛貴は、緩く首を振ってそれを断った。
 スーツ姿でそのポーズてどうなの? と思いつつ、依織もその隣に座る。

「で、アッキー。さっきの、どういうこと?」
「…何が?」
「何がじゃない。彼女と別れたってどういうこと?」

 少しも笑っていない依織に詰め寄られ、瑛貴は怯んで視線を落としたが、その正面に回り込んだ依織は、両手で瑛貴の頬を挟むと、顔を引き上げた、
 どうやら、ちゃんと答えるまでは許してくれないようだ。

「……だって別れよう、て…。俺、真夕ちゃんのこと好きなのに、でも真夕ちゃん、俺は真夕ちゃんより依織のほうが好きだから、だからもう一緒にいられない、て…」
「そう言われたの? 彼女に?」
「言われ、た…」

 言いながら切なさが込み上げてきたのか、瑛貴の瞳に涙が浮かぶ。
 依織が頬を挟んでいた手の指で涙を拭ってやれば、瑛貴はグズッと鼻を啜った。

 瑛貴にしたら、彼女のセリフは本当に思い掛けないものだったのだろう。
 お互い相手のことが好きなのに、それでも別れるなんて、そんなこと想像もしていなかったに違いない。



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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (87)


「アッキー、俺のこと好きなの?」

 まっすぐに見つめられたまま尋ねられ、瑛貴はその視線と頬を押さえる手から逃げようとするが、依織はそれを許してくれない。

「俺は、アッキーのこと好きだよ?」

 強い視線のまま、依織はその想いを伝える。
 瑛貴は涙を浮かべたまま、困惑した表情でいる。だってそんな、以前のようにごまかすことなんて出来ない告白。

「だからアッキーも、俺のこと好きになって、もっと」
「…………ダメ…」

 やっとの思いで瑛貴は声を絞り出す、その返事はNoだった。
 しかし依織の表情は絶望に変わることはなく、どうして? と穏やかな顔で、しかし黙秘は許さないというように首を傾ける。

「依織は……俺のこと好きになったらダメ…」
「何で?」
「ダメ、だから…」
「そんなの、答えになってない」

 追い詰める。
 たった1つの答えを聞き出したくて。
 なのに瑛貴の心は難攻不落だ。

「だって…、俺のこと好きになったら、俺が依織のこと好きになったら…、……依織が傷付く」
「意味分かんない」

 この期に及んで、瑛貴は一体何を言い出すのだろう。
 自分のせいで真夕子を傷付けてしまったように、想いを寄せ合えば、依織も傷付けてしまうと思っているのだろうか。
 けれどそんなの、今さらだ。
 傷付かない恋愛なんて、あるわけがない。
 だからお願い、

「アッキー、」
「ッ、ヤダ…! やっぱ俺、真夕ちゃんのことが好きっ…」
「、」

 答えを迫ろうとする依織の手を振り払って、瑛貴は膝を抱えて顔をうずめた。
 依織は好きだし、会えなくなるのも嫌だし、でも、やっぱり真夕子のことが好きだ。

「……アッキー…」

 その震える肩に、依織はもう、瑛貴に手を伸ばすことは出来なかった。

 …結局、瑛貴を傷付けてしまった。
 真夕子を傷付けたのも、瑛貴を苦しめるのも、彼から愛する人を失わせたのも、みんなみんな、

「ゴメン…、俺のせいだね…」

 依織は瑛貴の前にへたり込んだ。



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