恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2011年11月

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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (47)


haruki


 んー…んーんー…。
 ふとんが柔らかくて、気持ちいい…。

「…ん…」

 あれ…? 隣、誰かいる…。
 ちーちゃん…? …でもちーちゃん……いつ、髪形変えたの…?

「ちーちゃ…………んっ!?」

 ―――――じゃないっ!

 ちーちゃんじゃない!! 違う! 違う人!
 だだだだだ誰、この人!!!

 ほんの一瞬前まで、ふかふかのふとんに、気持ちよくうっとりしていた遥希は、そんな場合ではないことに気が付いて、血の気が引いていくのを感じた。
 隣に、知らない人が寝ている。
 遥希とは反対のほうを向いているから、顔を確認することは出来ないけれど、その後ろ頭に見覚えがない。

(誰、この人…? ――――ッッッ!!??)

 視線を、その人の後頭部から少し下げたところで、遥希はとんでもないことに気が付いて、真っ青になった。

 ――――この人、裸だ…。

 朝起きて、隣に裸の男が寝ている状況として、考えられることはそう多くない。
 夕べのことを何も覚えていないということは、きっとお酒を飲んだということで、まさか酔った勢いで、行きずりの人とエッチなことをしてしまったのだろうか。
 シャレにはならないが、今までの人生で、遥希には、そういう経験が3回くらいある。

 もしかして俺…と、遥希は蒼褪めながら、そぉーとふとんを捲ってみた。

「あ…」

 ちゃんと、下穿いてる…。

 恐る恐る捲ったふとんの中、彼は素っ裸でもないし、下着だけという姿でもなく、ちゃんとスウェットのパンツを穿いていて、脱いでいたのは上だけだった。
 それに落ち着いて見てみれば、遥希もちゃんと服を着ているし(遥希のものではないけれど…)、体もヤッた後のような感覚でないから、この人とは何の不埒なこともなかったのだろう。

 とりあえず、一安心。
 でもまだ肝心の問題が片付いていなかった。

(この人……誰?)



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (48)


 たとえ体の関係がなかったとしても、知らない人と同じベッドで寝ている状況はいただけない。
 ここは遥希の部屋でもないし、ホテルの一室といった雰囲気でもないから、恐らくこの人の部屋なのだろう、ということは、昨夜、酔っ払った遥希を連れて帰ってくれたのだろうか。

 遥希はお酒が好きだけれど、酔うと結構ひどいから、きっと連れて帰るのは大変だったろうに、そんな子を床でもソファでもなく、ベッドに寝かせてくれるなんて、何て親切な人だろう。
 見たところ、このベッドすごく大きいから、男2人で寝ても窮屈ではないけれど、ゲイでもない男が、男と1つのベッドで寝るなんて、あんまりいい気はしないだろうに。

 …それとも、本当は体目当てだったんだけれど、遥希が酔っ払っていて、使い物にならなかったんだろうか。
 まぁそうだとしても、ベッドから蹴落とすこともなく寝かせてくれるなんて、親切なことは親切だ。

「えーっと…あの…」

 もしここがホテルの一室で、自分の服や荷物が手の届くところにあったなら、相手は知らない人だし、ホテル代を置いて、こっそり帰るところなんだけれど、さすがに人の家に泊めてもらって、何のお礼も言わずに帰るのは気が引ける。
 それに、どう見回しても、遥希の着ていた服がない。

「あのー…」

 遥希は遠慮がちに、隣で寝ている彼に声を掛けるが、その声が小さすぎるのか、もともと寝起きがよくない人なのか、少しも起きる気配を見せてくれない。
 どうしよう…と困りつつ、遥希は体を起こし、寝ている彼の様子を窺うため、そちらに少し身を乗り出した。

(見えな…)

 顔を見ようとして、けれど結構覗き込むようにしないと見えないと分かって、遥希はバランスを崩さないよう、その彼の向こう側にそっと手を突く。
 しかし、先ほどまで遥希を夢見心地にさせていたベッドのスプリングは、遥希の『そっと』なんてお構いなしに、突いた手を大きく沈ませた。

「…ん」

 ギシッとかいう嫌な音は少しも立てずに、ベッドは遥希の突いた手を受け止めて沈んだが、そのせいで、寝ていた彼がわずかに身じろいだ。

 ――――ヤバッ!

 遥希は反射的に、手を引っ込めた。
 動きを止め、息を殺す。

 いや、起こそうとして声を掛けていたんだから、別にこんな、起こさないように気配を殺す必要なんてないんだけれど。
 でも。
 でもっ…!



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (49)


「んー…」

 変な体勢で動きを止めてがんばる遥希の行動は、やはり無駄な努力だったらしく、彼は目をこすりながら、モゾモゾと動き出した。

(ヤヤヤヤヤバイ、起きちゃう!)

 起こそうとしていたくせに、彼の起きるタイミングが、思っていたのと違ったことで、遥希は慌てふためいてしまい、なぜか思わず逃げ出そうとしてしまった。
 人間、焦ると、何をし出すか分からない。

「……ハルちゃん…?」
「ギャッ!」

 ベッドから下りようと、彼に背を向けていた遥希が気付いていなかったが、上体を起こした彼は、寝惚けたままながら、遥希のほうへと腕を伸ばしていた。
 そして背後から、スルリと遥希のお腹へと腕を回して、遥希の腰を抱き寄せたのだ。
 これには当然、遥希も驚いて声を上げる。

 いや、驚いたのは、そのことだけじゃなくて、

 え、


 この人、


 ――――俺のこと、呼んだ?



 遥希のことを、『小野田』でも『遥希』でもなく、『ハルちゃん』なんて呼ぶ人間は限られている。
 少なくとも、昨日の夜、酔っ払って出会った男から呼ばれるような名前ではない。

 ということは、遥希が気付いていないだけで、彼はやはり知り合いだったのか。
 しかし、酔っ払った遥希を嫌がらずに(いや、嫌だったのかもしれないけれど)、ベッドに寝かせてくれるほど親切な知り合い、いただろうか(千尋だったら、間違いなく床に放置されている)。

「ハルちゃん、もう起きたの…?」
「ちょっ…わっ、え!?」

 お腹に回されていた手。
 引き剥がそうとしたタイミングで、名前を呼ばれたことに気が付いたから、その手の上に自分の手を重ねた状態で、遥希は驚いて固まってしまっていて。
 そんな遥希の手の上に、彼の反対側の手も重なって来て、遥希は後ろからすっかり彼に抱き締められるような格好になる。

(ななななな何この状況ーーーー!!!???)



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (50)


 やっぱり昨日の夜、この人とエッチなことをしてしまったんだろうか(体は何ともないと思っていたけれど、終わった後、この人がちゃんとしてくれたのかもしれない)。
 あぁ、だからこの人は、遥希のことを『ハルちゃん』なんて呼ぶのか。まさか遥希が、そう呼んでほしいとか言ったんだろうか。

 一気にいろいろなことが頭の中を駆け巡り、遥希の頭は飽和寸前だったが、このままではいられない! と、バッと振り返った。

「――――ん?」

 クルリと後ろを向いた遥希の真正面には、遥希を抱き寄せる、彼の顔。
 寝惚けていた頭も、ショート寸前の思考回路も、一気に覚醒してしまうほどのイケメン――――FATEの水落琉。

 …………………………。

「………………。でぇ~~~~~~!!!??? うわぁっ!?」

 もう本気で驚いて、冗談抜きで飛び上がったら、遥希はそのままベッドの下へと転がり落ちてしまった。
 ……痛い…。

「ちょっ…ハルちゃん、大丈夫!?」
「うぅ…」

 驚いたような琉の声が頭上から降ってきて、顔を上げれば、上半身裸の琉が、ベッドの上から遥希のことを心配げに見ていた(どうやってか、遥希は琉の腕を解いたらしい)。

「な、な、な…」

 何で? 何で琉がここにいるの? 一緒のベッド? 一緒に寝て? え、てことは、ここ琉のお家? 俺、琉のお家来たの? 酔っ払って? 酔っ払って琉の家に来て、一緒のベッドで寝たの? てか、酔っ払って琉の家来たってことは、琉と一緒に飲んだ?

「あ、」

 焦りながらも、頭の中で必死に記憶を手繰り寄せたら、何となく思い出して来た。
 昨日遥希は、琉に誘われて一緒にご飯を食べたのだ。そこには同じくFATEの大和もいて、キラキラしていて、いっぱいお喋りをして、お酒も飲んで、それから…。

(……それからー…)

 ………………。
 何か頭……おでこ痛い…。

「ハルちゃん、大丈夫?」
「……頭、痛い…」

 俺、そんなに飲み過ぎた? と遥希がおでこをさすっていたら、「コブになってない?」と、ベッドから降りた琉が顔を覗き込んで来るから、その近すぎる距離に、遥希はまた固まってしまう。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (51)


 それにしても……コブ?
 頭が痛いのは、二日酔いのせいでは?

「ハルちゃん、昨日のこと、あんま覚えてない?」
「…」

 そう言われて思い出せるのは、行った先に大和までいてすごくビックリしたことと、楽しくお喋りしたことくらいだ。
 酔っ払って、琉や大和に変なことしていたら、どうしよう…。

「あ…あの、俺、昨日…酔って変なこと……してないですよね…? てか、しましたよね!?」

 お酒の失敗やら失態は、出来れば知らないままでいたいけれど、琉に何か迷惑を掛けたんだとしたら、ちゃんと謝っておかなければ…と、遥希は勇気を出して聞いてみた。

「変なこと? いや、別に何もしてないよ。マンゴーサワー1杯と巨峰サワーの途中で、眠くなっちゃってただけで。ハルちゃん、お酒弱いの?」
「弱い…のかな。でも、友だちからは、あんま外で飲むな、て言われます。酔うとひどいから」

 サワーの1杯半で酔って寝てしまうのは、お酒に強いとは言い難いだろう。
 いつもだったらもう少し飲めるんだけど……やっぱり昨日は琉や大和が一緒で、緊張して、何とか中枢みたいのが変になってたのかも。

「ひどい、て言われんの? 酔っ払うと? 別にそんなことなかったよ。あぁ、ただ、酔っ払って甘えてくるハルちゃん、かわいかったけど、ちょっと無防備だったかもね」
「え? えっとー…」

 甘え…?
 別に何もしていない、とは言われたものの、その後に続いた琉の言葉に、遥希は嫌な予感を覚える。
 友人たちからは、酔っ払ったら甘え癖が出る…なんてこと、今まで言われたことはないけれど、まさか琉相手にそんな恐れ多いことをしてしまったのだろうか。

「えっと…俺、ホントに昨日、何もしてないん…です、よね…?」

 琉はゲイではないはずだから、酔った勢いでも遥希のことは抱かないだろうけど、遥希自身、酔っ払って箍が外れて、何だかとんでもないことをしてしまっていそう…。
 大体、酔っ払ったとはいえ、どうして遥希は琉の家になんかいるというのだ。
 もうそこからして、おかしいではないか。

「あの…えっと…ここ、水落さんち…ですよね…? 何で俺、ここ…」
「あーうん。ハルちゃん、起こしても起きなかったから、俺んちに連れてきちゃったんだけど……まずかった?」
「――――………………ッ…!!!!!」

 琉の口から出た衝撃のセリフに、遥希は卒倒しかけた――――いや、いっそそのまま卒倒してしまえたら、楽になれたのかもしれない。
 けれど、そうすることも出来なかった遥希は、口をあんぐりと開けた状態で、琉を見つめ返すしか出来なかった。



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「ハルちゃん? どうしたの? 大丈夫?」
「………………」

 琉が、遥希の目の前で手を振っているけれど、それでも遥希は、正気を取り戻すことが出来なかった。
 それはそうだ。
 だって遥希は、酔っ払って寝てしまった挙句、琉に連れて帰ってもらったのだ。変なことなんて何もしなかった…なんてとんでもない、しっかりバッチリ迷惑を掛けていた。

「ゴゴゴゴゴゴゴメンなさいっっ!!!」

 ガーン…と、しばらく放心状態だった遥希は、ようやく自分を取り戻すと、慌てて琉から離れて土下座をした。
 こんなことで許してはもらえないかもだけれど、でも謝らないわけにはいかない。

(わーん、俺のバカ! バカバカバカバカーーー!!! もう絶対お酒飲まない~~~~!!)

 やはり友人の言葉は、素直に従っておくものだ。
 それをこんな形で、身を以って実感するなんて――――。

「ちょちょちょっハルちゃん、頭上げてよ!」

 猛省中の遥希の肩を押さえて、琉が遥希の土下座をやめさせた。
 琉が起きてからの遥希は、悲鳴を上げてベッドから落ちたかと思ったら、ポカンと口を空けて愕然とした次の瞬間、すごい勢いで土下座なんてするから。

「何、どうしたの、ハルちゃん。え、何? 何で謝んの?」
「だって…」

 何てことをしてしまったんだとパニックに陥る遥希は、すでに涙目だ。
 泣いても時は戻らないけれど、でも泣きたい。
 酔っ払って迷惑を掛けたくないのは、琉だけでなく、友人たちすべてに対してなんだけれど、でも、選りにも選って、琉にまでそんなことをしてしまうなんて…。

「ゴメンなさい…迷惑掛けて…」
「迷惑? 何が? 俺、別に何も迷惑掛けられてないけど」
「でも水落さん、俺、酔っ払って寝ちゃったの、ここまで連れて来てくれたんですよね…?」

 酔っ払いの介抱ほど面倒くさいものはない、ということを、遥希もよく知っている(時々だが遥希も、酔った友人の面倒を見てあげることがあるから)。
 そんな遥希を、わざわざ家まで連れて来てくれるなんて、迷惑でないはずがないのに。

 …いや、ちょっと待て。
 そもそも遥希が琉に対して掛けた迷惑は、それだけなのか?
 ご飯を食べている間とか、ここまで来る道中とか、本当に何もしなかった?
 大体、遥希は今、昨日と違う服を着ているけれど、酔っ払って寝ていたということは、きっと琉が着替えさせてくれたわけで……それだけで迷惑千万だ。



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「そんなの全然迷惑じゃないし。他も何もなかったよ? ハルちゃん、ずっといい子にしてたよ?」
「……」
「ホント。信じて?」
「あ…ぅ…」

 琉の言葉が本当に本当なのかは分からないけれど、『信じて?』と甘い声で言われて頭を撫でられたら、ポーッとなって、それ以上のことは何も考えられなくなってしまう。
 何だか頬が熱い……でも普通の男子は、いくら相手がFATEの水落琉でも、こんなことされて顔を赤らめはしないだろうから、遥希はがんばって表情を引き締めた。

「てかハルちゃん、もっと食べたほうがいいよ。運ぶとき、めっちゃ軽くて心配になった。バイトと学校そんながんばってんのに、体持たないよ?」
「は…はぁ…」
「とりあえず、ご飯しよっか。何食べたい? えっと、今日は学校ないんだよね?」
「………………、え?」

 なぜか琉に体の心配をされ、よく分からないけれど、心配してくれてありがとう、と思っていたら、続いた言葉が理解できなくて、少しの間を置いて聞き返した。
 …俺、琉と一緒に、ご飯するの?

「何がいい? ハルちゃんは、朝はパン? それともご飯の人? あ、米は炊かないとなかったかな」

 遥希が、わけが分からずにいるうちに、話がどんどん進んでいく。
 でも遥希は、現在っ子らしく、普段から朝食はサボりがちなので、パンもご飯も、出来ればいらない感じだし、それにこれ以上、琉の手を煩わせたくない。

「ご飯、いらなぃ…」
「ダメ、食べるの。俺に迷惑掛けたって思うなら、安心させるためにも、ちゃんと食べなさい」
「は、はい…」

 琉の手に頬を挟まれ、顔を上げさせられたまま言われ、遥希は止むなく返事をした。
 そう言わないと、手を離してもらえなそうだったから。

「よしよし。じゃ起きよっか。あ、ちょっと待って、今服出すから」
「えっ、そんな、いいです、自分の着るんでっ…」
「でも昨日と同じの、ヤでしょ? 貸すよ。つか、お風呂入るよね?」

 いいです、いいです、と遥希が遠慮してるのも聞かないで、琉はクロゼットの中を物色している。というか、服だけに留まらず、お風呂にまで話は進んでいる。
 強引なんだけど、優しい琉。

 男のわりに華奢な遥希に比べてガッシリとしている琉の背中を見つめながら、遥希はじんわりと胸に愛しさが募るのを感じていた。



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 ハルちゃん先にお風呂入っていいよ、と言われ、遠慮したものの、琉に半ば無理やりバスルームに追いやられた遥希は、仕方なくTシャツとスウェットパンツを脱いだ。

(もしかして、お酒臭い…?)

 遥希がお酒臭いのが気になって、お風呂を勧められたんだろうか。
 でなければ普通、そこまで親切になんかしてくれないと思う。
 でも遥希は、酔うとひどいと言われているから、翌日に酒臭さが残るほどには飲まないようにしているし、昨日もサワー1杯半しか飲んでいないみたいだから、そんなにお酒臭くはないと思うんだけど…。

「…よく分かんない…」

 それでも気になって、クンクンと自分の匂いを嗅いでみたけれど、自分ではいまいち分からない。
 でもまぁ、入れと言われたんだし、もう深く考えるのはやめて、言うとおりにしよう。

「わー、お風呂おっきいー」

 広々としたバスルームに、遥希は思わず声を上げた。
 湯船だけで、お風呂とトイレ一緒の、遥希の家のバスルームくらいありそう。

 遥希は、本当はゆっくりお風呂に浸かりたい人なので、こんなすてきなお風呂を前にすると、さっきまでクヨクヨ落ち込んでいたのも忘れて、ついテンションが上がってしまう。
 だって家のお風呂は、足も伸ばせないようなちっちゃな湯船だから。

 けれど、この広いバスルームにあるのは、必要最小限のシャンプー類と洗面器やタオルくらいだけだし、脱衣場も素っ気なくて、何だかもったいない気がする。
 もし遥希の家のお風呂がこんなだったら、絶対に、集めているボディソープやバスキューブを並べちゃうのにな。

「はぁー…」

 ゆったりと湯船に浸かりながら、遥希は大きく息をついた。
 この数日の間、ドキドキすることが多かったから、ようやく少し落ち着けた感じ。

(水落さん、何で俺のこと、こんなによくしてくれんだろ…)

 今まで身内では気軽に『琉』と呼んでいたが、本人に向かってそうも呼べなくて、『水落さん』と呼んでいたら、自分1人で考えるときも、呼び方がそんなふうになってしまった。
 いろいろな意味で、琉に浸食されている気がする…。

「うー…ん…」

 …別に遥希に限ったことではないのかもしれない。
 ゴシップ系の週刊誌が伝える琉は、クールでワガママで女癖の悪い男だけれど、遥希が知らないだけで、琉はもともと誰にでも優しい性格なのかもしれない。

 取り違えて持っていった携帯電話を返したら、ご飯をごちそうになって、家まで送ってもらって、『メールしてね』てアドレス交換して。冗談かと思ったら、本当にメールが来た。
 それから一緒にご飯して、酔っ払って潰れたら、家まで連れて来てくれて、お風呂も貸してくれて。

 誰に対しても、うんと優しい人でなかったら、こんなこと普通、出来ないと思う。
 それか、出会ったばかりの遥希が物珍しいのか。



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(どっち? …て、どっちもか)

 少なくても、遥希だけが特別なわけではない。
 …悲しいけれど。

(いやいやいやいや、悲しいとか。琉とお友だちになれただけでも、十分嬉しいし)

 別に、琉と友だち以上の関係になりたいだなんて、思ってなんかいない。
 そんな大それたこと、思うわけがない。

(そんなの、ちーちゃんに言われなくたって、ちゃんと分かってるんだから)

 水落琉はゲイじゃないんだから、遥希となんか恋人同士になれるはずがない。
 100歩譲って、男性も恋愛対象で見れる人なんだとしても、遥希を好きになってくれるかは別問題だし、第一、芸能人なんだから、そんな簡単に恋人なんか作れないだろう。

 …そんなの、遥希自身が一番分かってる。

『ねぇハルちゃん、大丈夫っ…?』
「ぇ…?」

 遥希が何度目かの溜め息を零したとき、バスルームのドア、磨りガラスの向こうに人影が現れて、慌てたように声を掛けられた。
 声の主は、もちろん家主の琉だ。
 一体何事かと思ったが、遥希はひとまず返事をしておく。

「あの…何かあったんですか…?」

 急に予定でも入って、すぐにでも家を出なければいけなくなったとか、そういうことなのだろうか。
 久々にゆっくり足を伸ばして入れるお風呂に、遥希はのんびり浸かっていたが、湯船に手を突いて、脱衣場のほうへ身を乗り出した。

『いや、ハルちゃんなかなか上がって来ないから、寝ちゃったのかと……何ともないならいいんだけど』

 琉に言われて、浴室内に置いてある防水用の時計に目をやれば、遥希が入ってからまだ30分くらいしか経っていない。
 普段の遥希は、平気で1時間くらい入っている人だけれど、他人の家の風呂では、30分も長かっただろうか。

「すっ…すいませ…、今上が…」
『ううん、逆上せないなら、ゆっくり入って』

 そして琉の気配が遠ざかっていく。
 遥希はどうしようか迷ったけれど、きっと琉も風呂に入りたいだろうし…と上がることに決めた。

 …琉の服、おっきい。
 真っ白な洗い立てのバスタオルを使わせてもらって、借りた着替えに袖を通せば、やはりそこは体格の差のせいで、遥希が着ると少し大きい。

(いやいやいや、ドキドキしてる場合じゃないし。いや、ドキドキなんてしてないし)

 事あるごとに反応してしまう自分に、遥希はしっかり言い聞かせる。
 別に、何でもない。

(琉は、…何でもないんだから)



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (56)


 琉の家は、芸能人の住んでるトコって広いんだろうなぁ、と遥希が想像していたよりももっと広くて、バスルームを出ると、遥希は早速迷子になった。
 遥希は、寝室からバスルームに直行したので、それ以外の部屋への行き方が分からないし、第一、琉が今どこにいるかも分からないのだ。
 まさか、片っ端からドアを開けていくわけにもいかないし。

「ど…どうしよう…。水落さーん…」

 また寝室に戻ったのかな? 眠そうだったもんな、と遥希は先ほどまでいた寝室に戻ってみたが、残念なことに琉の姿はなく、遥希は寝室を出ると、隣の部屋のドアをノックした。
 勝手に開けるのはマズイけれど、ノックして、そこにいるかどうか確認するくらいならいいだろう。

「水落さん…いますか…? 水落さーん…」
「はーい」
「ぎゃあっ!!」

 自分で琉のことを呼んでおいて、返事が返って来たことにビックリして、肩を跳ね上げた遥希は、かわいくもない悲鳴を上げ、しかもその拍子におでこをドアにぶつけた。
 だって遥希は、もし返事があるなら部屋の中からだと思っていたのに、琉の声は、予想外にも背後からしたのだ。驚くに決まっている。

「え、ちょっ、ハルちゃん、大丈夫!? 今、すごい音……おでこぶつけちゃった?」
「だいじょ、ぶ…です…」
「ゴメンね、ハルちゃん呼んでたから声掛けたんだけど、そんなに驚くとは思わなくて」
「あ…、お風呂上がって…、でもどこ行ったらいいか分かんなくて、すみません、勝手に部屋入るつもりとかじゃ…」

 遥希が気付かないうちに背後に来ていたのなら、琉は遥希がドアをノックしているのも見ていたはずで、勝手に部屋に入ろうとしていたのだと勘違いされたら嫌だから、遥希はすぐに謝った。

「うぅん、ゴメン。キッチンいたんだけど、言っとけばよかったよね、ゴメン」
「いえ…お家、おっきいからビックリし…」

 遥希の家なんて、6畳一間でお風呂とトイレ一緒だから、絶対に家の中で迷いようがない。
 ちょっとした(いや、ちょっとどころでない)カルチャーショック。

「部屋数あったって、俺の体は1つしかないんだから、そんなに意味ないんだけどね。でもまぁ音楽機材とかあるから、防音室はいるんだけど」
「防音…?」
「曲作るのにさ、楽器もあるし」

 琉たちFATEの楽曲は、大半を作詞家や作曲家が作っているけれど、中には自分たちで作っているものもある。
 しかし、まさか防音室まで完備して曲作りをしているほどとは思わなくて、遥希は驚いて、部屋のドアと琉の顔を見比べた。

「別にそんな大したのじゃないよ。近所迷惑して追い出されないように、気を付けてるだけ。中見る?」
「えっ!?」
「まぁ機械ばっかだけど。ギターとかあるよ?」

 遥希が驚いている間に、琉はさっさとそのドアを開けてくれる。
 中に、ギターやパソコンがあったり、遥希が見たことのないような機械(つまみみたいのがいっぱい付いてるヤツ)があったり、何だか不思議な空間。
 遥希は楽器とか全然しない人なので、まったく詳しくないんだけれど、何だかすごく本格的にやってる人っぽい感じ…。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (57)


「すご…」
「うぅん。俺なんて曲作りまだまだだからさ、こんなもんだよ。プロの作曲家なんて、もっとずっとすごいからね」
「でも俺、りゅ…あ、水落さんの曲、すごく好きです! 歌詞も。ホントすごいいい曲ばっかで、俺っ…」

 遥希は琉ファンであると同時に、琉の曲も大大大好きなので、琉の曲のことを話すと、つい力が入ってしまう。
 …それが、琉本人の前なのが、どうかとは思うが。

「ありがと、ハルちゃん。…嬉しい」
「うわっ、あのっ、すいません!」

 琉に、はにかむような顔でお礼を言われ、遥希はハッと我に返った。
 大好きなFATEの話だったので、つい熱く語ってしまったが、相手はその本人である琉だったのだ。恥ずかしくて、顔が熱くなる。

「ハルちゃん、俺らの曲、ケータイの着信音にしてくれてるもんね」
「あの、いえっ…」

 そういえば琉には、遥希の携帯電話の着信音を聞かれているのだ。
 男なのに、男性アイドルにここまで夢中って、やっぱり変だと思われるだろうか。

「そんなに好きでいてくれるなんて、すごい嬉しいよ」

 けれど、遥希を心配をよそに、琉は本当に嬉しそうにそう言って、遥希の頭を撫でた。

(し…心臓が…)

 別に、LOVEて意味で好きなんじゃなくても、ファンなんだから、こんなことされたらドキドキするに決まっている。
 こんなんじゃ、ますます琉の虜になってしまう。…いや、ファンて意味でだけど。

「新曲出たら、また聞いてね?」
「は…はいっ」
「じゃ、ご飯にしよ? もうすぐ出来るから」

 高鳴る心臓を押さえつつ、琉に連れられてキッチンへと向かえば、そこはダイニングを兼ねたキッチンで、やっぱり相当広い。
 朝食(…というか、もうブランチ)の準備が途中のままだ。

「…水落さん、自炊するんですか?」
「するよー。1人暮らしだしね。ハルちゃんはしないの?」
「してます」

 遥希の場合、少しでも食費を切り詰めたいから、という理由もあって、シビアな自炊生活なのだが。
 芸能人さんは自炊なんかしなくても、誰かが作ってくれたり、外で食べたりするものだと、勝手な想像で思っていた遥希は、不思議な気持ちで、フライパンを火にかける琉を眺めた。

「えと…俺も何かすること…」
「ぅん? じゃあそのパン、ちょっと焼いてくれる? トースター、使い方……大丈夫?」
「はい」

 今の家にはトースターなんてないけれど、実家にはあるから使い方は大丈夫。
 でも、こういうアイテムが琉の家にあるのは、ちょっと新鮮だと思いながら、遥希は食パンを2枚差し入れてレバーを下げた。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (58)


「つかハルちゃん、お風呂もっとゆっくり入ってもよかったのに。俺が顔出したから、気ぃ遣って上がっちゃったんでしょ?」
「え、いや…」
「ゴメンね。30分も経ったのにハルちゃん上がって来ないから、もしかしてお風呂で寝ちゃったのかと思って」
「心配掛けて、スミマセン…。でもいつももっと長く入ってるから、大丈夫です」

 遥希は家でも長風呂だが、眠いときは確かに危ないので、すぐに上がるようにしている。
 でもあのバスルームの感じからして、琉はきっと、お風呂はすぐに上がるタイプなんだろう。そんな彼からしたら30分は、ちょっと長いかも。

「…てか、ハルちゃん」
「はい?」

 琉がオムレツをテーブルに出したところで、食パンがトースターから飛び出した。
 何か実家にいたころを思い出す…と遥希が和んでいたら、サラダを取りに行った琉が振り返った。

「ハルちゃん、何で敬語?」
「え?」

 盛り付けたサラダを持って来た琉が首を傾げているが、首を傾げたいのは遥希のほうだ。
 なぜ敬語なのかと言われても、遥希は会ったときからずっと、琉には敬語を使っているし、いつも勝手に琉と呼んでいても、琉本人には『水落さん』と呼んでいるのに。

「いや…だって昨日は普通に喋ってくれたじゃん。それに琉て言ってくれた…。なのに何で一晩経ったら、元に戻っちゃうの? 寂しい」
「え」

 もう2枚パン焼いて? と言われ、再び食パンをトースターにセットしようとしていた遥希は、その一言にピタリと手を止めた。

「…え?」

 食パンを持ったままフリーズしてしまった遥希は、ゆっくりと顔だけ琉のほうに向けた。
 琉は『寂しい』の言葉どおり、本当に少し寂しそうな、残念そうな顔をしている。

「えと…俺…」
「ん? ハルちゃん、どうしたの?」

 ガーンとなって動けずにいる遥希の手から、琉は食パンを勝手に受け取って、トースターに入れた。

(『どうしたの?』じゃないしーーー!!!)

 本当にもう、酔った勢いで一体何をやっているんだろう。
 千尋から、外でお酒を飲むとき気を付けたほうがいいよ、と言われていたわけが、ようやく分かった。琉にタメ口になっちゃうし、寝ちゃうし、もう最悪っ!

 ちなみに千尋が気を付けろと言っているのは、遥希の酒癖というよりは、酔っ払うと完全に無防備になってしまうからなのだが、それは遥希の知らないところだ。

「ハルちゃん、昨日みたいに『琉』て呼んでよ。普通に喋って?」
「あ…ぅ…」

 ねだるように見つめられ、遥希の頬が熱くなっていく。
 だってこんな顔、テレビ画面越しのドラマでしか、見たことがない。ファンだったら、遥希でなくたって、絶対に赤くなる。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (59)


「りゅ…琉…」

 千尋と話しているときは平気で『琉』と呼んでいるし、どうやら夕べもそう呼んでいたらしいのに、素面に戻って、琉を前にすると、うまく言葉が出ない。
 それでも琉は、遥希が名前で呼ぶと、嬉しそうに笑顔を見せた。

「オムレツ、ケチャップでいい?」

 料理の並んだテーブルに、ケチャップやらドレッシングやらマーガリンが揃って行く。
 遥希が家で1人でご飯を食べるときは、全然ここまでちゃんとしないのに…と、純粋に琉を感心してしまう。

「琉、料理、上手…」
「えー、そんなことないよ。ハルちゃんがいるから、張り切っただけ」
「…」

 …琉の冗談は、心臓に悪い。
 冗談でもそんなこと言われたら、勘違いしてしまいそうになる。
 琉にそんな気がないことは、遥希自身が一番分かっているのに、それでもこんな思いをさせるなんて……何て罪な男。

「冷めるから、食べよ?」
「はいっ、あっ、うん!」

 敬語にならないで、と言われたのに、つい「はい」と返事をしてしまい、遥希が慌てて言い直せば、琉に笑われた。



*****

 琉の作ってくれたご飯はおいしくて、いつもだったら、朝はパンの1つも食べられないのに、最初は食べたくないと言っていたのが嘘のように、遥希はすべて平らげた。

「ごちそうさまでした」

 お行儀よく手を合わせて食事を終えれば、琉がティシューで遥希の口元を拭ってくれた。
 えっ何っ!? と遥希がビックリして目を見開けば、琉は「卵、付いてた」と笑っている。

「うぅ…」

 恥ずかしい…。
 本当に、子どもみたいでどうしようもない…。

「あ、ハルちゃん。今日、学校は休みだけど、バイトは? 大丈夫?」
「…今日はお休み」
「日曜は休みなんだ?」
「うぅん、たまたま。曜日とか関係なく、シフトが入ってるから」
「ふぅん」

 学校行ったりバイトしたり、ハルちゃんは大変だね、と、その何倍も忙しくて大変であろう琉は、またそんなことを言っている。
 大学生の中にはバイトをしていない子だっているし、もっともっと勉強もバイトもがんばっている子もいれば、残念ながら、勉強のほうは手を抜いている子だっている。遥希は別に、全然大変じゃない。
 …今だってこうやって、夢のような時間を過ごせているし。



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「琉は? 今日はお仕事…」
「あぁ。夕方から、新曲の打ち合わせ」
「新曲出るの?」
「まだ時期は全然未定だけどね。たぶん今日、デモ聴けるんじゃないかな」
「そうなんだ…」

 まだみんなには内緒ね? と、立てた人差し指を口元に当てる琉の仕草に胸をときめかせながらも、遥希はふと気が付いた。

「でも、あの…仕事あるなら俺…」

 まだ昼を過ぎたばかりだけれど、夕方から仕事だというなら、遥希がいつまでもいたのでは邪魔になるだろう。
 琉だって、少しもゆっくり出来ないし。

「全然邪魔じゃないよ。ハルちゃん、気にしすぎ」
「でも…」
「ハルちゃん、俺と一緒にいるの、イヤ?」
「えっ何で!?」

 急に真面目な顔になった琉が、思い掛けないことを言うので、遥希はひどくビックリしてしまった。
 だって、琉といられて夢みたいに幸せだとずっと思っていたのに(そりゃ、迷惑を掛けて、申し訳なくて、消え入りたい気持ちにはなったけれど)。

「いや…だってハルちゃん、何かっていうと、すぐに帰りたがるから」
「それは……だって琉、仕事がある、て言うから…。迷惑かな、て…」

 それは本当に思っていること。
 別に遥希は少しも慎み深い人間ではなくて、どちらかというと無鉄砲でやんちゃな性格をしているが、スーパーアイドルの琉のことはずっと前から大ファンで、だから迷惑を掛けたくないという気持ちが強くなる。
 遥希だって、出来ればこの夢のような時間が、いつまでも続けばいいとは思っているけれど。

「ホント? 俺のこと、ウザくなったとか、そういんじゃなくて?」
「じゃ…じゃない、じゃないっ! そんなわけないっ!」

 琉のこと、ウザいなんて思うわけない。
 琉にそんなふうに勘違いされたくなかったのと、思った以上に琉が近くから顔を覗き込んできたのに慌てたので、遥希は声を大きくしてしまった。

「そっか、よかった」

 おそらく遥希の態度は挙動不審だっただろうけど、琉はそれを気にすることなく、そう言って笑った。
 その笑顔が眩しくて、遥希の胸はまた、キュンとしてしまったのだが。

「あ、そうだ。ハルちゃんがそんなに帰りたがるなら、俺がハルちゃんちまで送ってってあげよっかな」
「ぅ? ……? ??? …………うえぇっ!? わたたたっ! ギャッ、ごめんなさ…イダッ!」

 琉の言った意味が分からなくて、しばらくは首を傾げていた遥希だったが、その言葉が脳内に行き渡った途端、驚きのあまり、声を張り上げて立ち上がった――――まではよかった。
 考えなしに立ち上がったものだから、椅子に足を引っ掛けるわ、そのせいで椅子を引っ繰り返すわ、うるさくしてゴメンなさい! と頭を下げたときは大丈夫だったのに、椅子を元に戻そうとしたら、後頭部をテーブルにぶつけるわで、1人で勝手に大変な騒ぎとなってしまった。

「い、ぅ…」
「ちょっ、ハルちゃん! 大丈夫!?」
「うー…だい、じょー…ぶ…」



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (61)


 後ろ頭をさすりながら、遥希は涙目になりつつ、一応、大丈夫だと答えてみる。
 痛い痛くないより、1人でバタバタしてしまったことが恥ずかしい(さっきもおでこぶつけたし…)。

「ゴメンなさい…」
「いや、俺はいいけど、ハルちゃん、ホントに大丈夫? ケガしてない?」
「平気…」

 椅子を引っ繰り返したり、テーブルに後頭部をぶつけたりした音は大きいが、実際に遥希の被害は殆どなくて平気なのだが、琉は、「よしよし」とそのおでこをさすってくれる。
 これだけ派手にバタバタすれば、心配するのは当然だが、それにしても、この心配の仕方は…!

 琉は無意識なんだろうけど、その仕草が、まるで恋人を甘やかすみたいだから、遥希は無駄に心拍数を上げてしまう。
 こんなことされたら、勘違いしそうになるから、やめてよ。

「ハルちゃん? そんな心配そうな顔しないで? こないだ、南条の運転だけど、ハルちゃんちまで1回行ってるから、道なら大丈夫だし。まぁナビも付いてるけど」

 遥希が気掛かりそうな顔をしていたのを、琉が道に不案内なせいだからだと本気で思ったのか、それともそんな顔をしている遥希を笑わせたかったのかは分からないが、どこまでも優しい琉に、遥希はがんばって笑顔を作った。



*****

 遥希は、高校を卒業してすぐに車の免許を取ったけれど、それから地元を離れて一人暮らしをしているので、車の運転は、実家に帰ったときの年数回しかしたことがない、ペーパードライバーだ。
 まだ大学生だし、もともとそんなに車に興味もないので、車を欲しいとも、いつかこんな車を買いたいとも、考えたことは実はなかった。
 だから、マンションの地下駐車場で琉の車を見ても、それが人気車種の最新モデルだということにも気付かず、左ハンドルだから外車かな? くらいにしか思っていなかった。

「あ、こっちじゃないっ」

 左ハンドルの車だと分かっていたのに、普段助手席に乗るときの癖で、遥希はつい車体の左側に行ってしまい、琉に「ん?」と言う顔で振り返られ、慌てて助手席のほうへ回った。

「…この車、」
「ん?」
「琉の? こないだ乗ったのと、違う」

 先日、南条の運転する車に乗ったとき、遥希は後部座席に座ったけれど、確か運転席は右側だったし、車の色も違う。
 もしかして遥希は、琉の車の助手席に乗せてもらえているのだろうか。しかも、琉自身が運転する。

「あぁ、こないだのは会社のだよ。これは俺の車。先月買ったばっかだから、誰か乗せんのは、ハルちゃんが初めてだよ?」
「へぇっ!?」

 琉がサラッと、ビックリするようなことを口走るので、遥希は声を引っ繰り返してしまった。
 遥希が一番なの? この車に乗るの。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (62)


「いや、南条がうるさいんだよね、何かあったら危ないから、あんま運転すんな、て。だから、ディーラーに乗せられて買ったはいいけど、殆ど乗れてない、ていう。でもさ、普段から乗ってないと、そのほうが危ない気しない?」
「は、はぁ…」
「ん? 大丈夫だよ、全然乗ってないわけじゃないから、そんなに怯えるほどのレベルじゃないし」
「や、そうじゃなくてっ、あの、」

 琉の運転の腕は、もちろん疑ってはいない。100%、遥希よりうまいに決まっている。
 そうでなくて、本当にこの車に乗るのが遥希が最初なのだと知って、仰天して、呆然となってしまったのだ。

(琉の車に……助手席に、一番に乗った…)

 これから先、この車にはいろんな人が乗って、きっとその中には琉の彼女となる人もいて、助手席にも座るんだろう。
 でも、一番は遥希。
 くだらない優越感だけれど、嬉しいものは嬉しい。

「じゃ、しゅっぱーつ」

 そんなささやかな遥希のドキドキに気付かず、琉はのん気にそう言って、車を発進させた。



*****

 琉との会話は楽しいし、話すことがなくても、一緒にいる空間は、沈黙が少しも気にならない。
 …それに、運転している琉の横顔が格好いい(あんまりジロジロ見ていると、何だか見つめているみたいに思われそうだから、時々チラッとしか見れなかったけれど)。

 でも、楽しい時間はあっという間で、気付けばもう、遥希の住むアパートが見えてきた。
 南条の運転で、1度遥希の家まで行ったことがあるとはいえ、もちろんそれで完璧に道を覚えられるはずもなく、結局カーナビが頼りだった(というか、遥希のナビが下手くそなのも一因だ)。

「ハルちゃん、また遊ぼうね?」

 アパートのそば、邪魔にならないところに停車し、遥希が車を降りると、琉は優しい顔でそう言った。
 けれど、俺なんかが琉と仲良くして迷惑じゃない? という心配と、一緒にいるとドキドキが治まらない…という思いから、遥希は戸惑う。

「お酒抜きでいいから」

 遥希が、酔っ払って潰れたことを相当気にしているせいで返事が出来ないと思ったのか(もちろん、相当気にはしているが)、琉はそう言ってくれた。
 遥希だけが特別なんじゃないとしても、そう言ってもらえるのは……やっぱり嬉しい。

「ね? また遊ぼ?」
「は…はい」
「ハルちゃん、敬語」
「あ、はいっ、あっ…う、うん…?」

 何とかがんばって、今まで敬語でなく話していたが、咄嗟のことになると、どうしても敬語になってしまう。
 琉に指摘され、慌てて言い直したら、吹き出されてしまった。



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「じゃあね」
「…うん」

 ずっと夢みたいな時間が続いていたから、遥希はちょっと贅沢になってしまったのかもしれない。…だって、琉とバイバイするのが寂しいなんて。
 一緒にいられるだけで、こんな幸運なことなんてないのに。

「ハルちゃん?」

 車を降りてもドアを閉めないまま突っ立っていた遥希に、琉が不思議そうに声を掛けてきた。

「あ、あの…えっと…、琉…、……帰る?」
「へ?」
「え、う、なっ何でもない、ですっ! 送ってくれてありがとうございま、あ、あの、」

 思わず口走ってしまった言葉に、遥希は、自分の顔が赤くなるのが分かった。
 琉がもう帰ってしまうのが寂しいのもそうだけど、いろいろお世話になっているし、上がってお茶でも…みたいなことを言ったほうがいいんだろうか、とか思って、そんなの変かな? でも友だちだって、そういうの変じゃないよね? お礼だもんね、でも琉、夕方から仕事て言ってたから、そんな時間ないのかな? てかそれ以前に、お茶とか、そんな気の利いたアイテムなんかない気がする……と、いろいろ考え過ぎ、でも結果、出た言葉は『帰る?』だったのだ。

 キョトンとしている琉に、遥希は我に返ったが、何と言っていいか分からなくて、アワアワしてしまう。
 だって、いくら何でも、一言に凝縮しすぎだ。

「…ゴメン、ハルちゃん。これから仕事だからさ」
「い、いや、いいんです! あ、あの、こないだから、送ってもらったりいろいろお世話になってるから、上がってお茶でもとか思って、あのっ、別に変な意味じゃっ…」

 焦り過ぎて、遥希はすごい早口で捲し立てた。
 もう、何が何だか、よく分からない。

「じゃ、今度ハルちゃんちに遊び来よっかな」
「えぇっ!?」
「え、ダメ? 今、誘ってくれたのに?」

 自分でも何を言っているか分からないくらい慌てていた遥希は、琉の思い掛けない言葉にさらに驚いて、声を引っ繰り返してしまう。
 遥希自身も、これは挙動不審すぎると思ったのだが、やはり琉も苦笑していた。

(そうだよね、おかしいよね、俺。何でこんなパニックなってんの? だって…、だって琉が~~~~~!!!)

 別に琉は何も悪くないのだけれど、でも遥希がパニックに陥っている原因は琉にあるわけで、あぁ琉が苦笑いしてる……て、え、琉、ホントに来たいの?

「また遊ぼ。またメールするし。ハルちゃんもメールとかして?」
「は、はい!」
「うん、でしょ?」
「う、ん…」

 まだパニック冷めやらない遥希は、何とか必死にコクンと頷いた。
 遥希が返事をすると、琉は満足そうに笑う。



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「じゃあね。今度ハルちゃんち遊びに来る」
「え、ぅ、」
「バイバイ」

 琉の発言に顔を赤らめながらも、遥希は手を振り返しながら、今度こそ車のドアを閉めた。
 だってこれ以上、うまく喋れそうもない。

 去っていく琉の車を見送っているうち、さっきまでドキドキほわほわしていた胸が痛くなって、涙が溢れそうになって、遥希は急いで自分の部屋に戻った。
 部屋に駆け込んで、ドアを閉めて、その場に蹲る。

 痛い、痛い、痛い。
 …胸が痛い。

 琉は芸能人で、遥希はただのファン――――それだけのこと。
 それは遥希もよく分かっているし、偶然から友だちになったけれど、別にそれ以上の関係になれるなんて、…いや、なろうとも思っていない。

 なのに、琉があんまりにも優しいから。
 迷惑ばかり掛けている遥希に、呆れることなく、笑顔を向けてくれるから。
 遥希に興味があるみたいな、そんな素振りを見せるから。

「……好き…」

 声に出して言ったら、とうとう涙が零れてしまった。

 でもだって、好きだ。
 ノン気の男を好きになってもロクなことがないのは十分に承知しているし、たとえ琉がゲイだとしても、遥希のことなんか好きになってくれるわけがないし、第一、琉は芸能人なんだし…………そんなの、分かってるけど。

 …分かってるけど、好きなんだもん。
 好きになっちゃったんだもん。
 ずっとファンだった遥希にしたら、いくら琉がみんなに優しいんだとしても、遥希だけが特別なんじゃないとしても、その気持ちが『好き』に変わるには十分すぎた。

「バカ…」

 自分の気持ちに気が付いて、でもあまりにも望みのないこの恋に、苦しくて、痛くて、どうにかなりそう。

 あんなに、好きになっちゃダメ、て思っていたのに。
 千尋に、あれだけ念を押されていたのに。
 何度も何度も、これは恋じゃない、琉のことは何でもない、て自分に言い聞かせたのに。





 ――――俺はバカだ。




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ryu


 雑誌の取材の合間、撮影の準部が整うまでの空き時間、意味もなく携帯電話をパカパカと開いたり閉じたりしている琉の様子を、大和はおもしろそうに眺めていた。
 別に琉の顔に見惚れているわけではない。
 もともと琉は携帯電話大好きだけれど、今は、誰かしらと繋がっていたいというより、たった1人の相手からの返信を待っているのだと分かったから、おもしろくなってきたのだ。

 その、たった1人の相手とは、先日琉がナンパした(本人は否定しているが、大和はそうだと勝手に確信している)かわいい子で、琉はただいまその子にべた惚れ中なのだ。
 ちなみに、そのかわいい子の名は小野田遥希――――歴とした男の子である。

 FATEの水落琉が男に惚れたなんて、ゴシップ誌が喜びそうなネタだが、大和にしたら、琉や遥希が傷付かなければ、相手の性別なんて別に気にならない。
 というか、女にしろ男にしろ、琉がそこまで惚れ込むほどの人て、どんな人なの? と、そのほうが気になった。
 しかし実際に会ってみたら、琉が好きになるのも無理はない、という感じのかわいい子だった。
 男相手に『かわいい』はないと思うし、見た目が、アイドルやモデルの女の子に勝るとも劣らない、というわけではないんだけれど、雰囲気や仕草の1つ1つがかわいいのだ。

 大和は、酔っ払って琉に甘える遥希しか記憶にないので、きっと毎日ラブラブでメールをしているんだろうと思ったのだが、しかし今の琉の表情は、そういうことには程遠い、険しい顔だ。
 遥希からの、返信待ちではないんだろうか。

「琉ー、またハルちゃん?」
「おわっ!」

 気になって大和が声を掛ければ、全然周りに気付いていなかったのか、琉は大げさなくらいにビックリして、携帯電話を放り投げそうになっている。
 そこまで周りが見えなくなる、て……一応、今仕事中なんですけど…。

「ビビらせんなよ、バカ」

 とか言いながら、琉はさりげなく携帯電話をポケットにしまった。
 もちろん、大和はそれを見逃さない。

「どうせハルちゃんからなんだろ? 今さら隠さなくても。ラブメールは、仕事が終わってからにしてくださーい」

 ニヤニヤと大和がからかってやれば、しかし琉は本当に嫌そうに眉を寄せた。
 ただちょっと冷やかすくらいの気持ちで言っただけなのに、そんな顔しなくても。まさか、ケンカ?

「ケンカとかやめてよ? ハルちゃんがかわいそうだから、琉、ちゃんと謝って!」

 琉と遥希がケンカしているのかも、それで琉に非があるのかどうかも知らないが、大和は勝手にケンカの原因を琉と決め付けて、そう言ってみる。
 大和は、琉の親友で仕事仲間だけれど、遥希のことはだいぶ気に入ってしまったので、何かあれば、断然遥希の味方だ。




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「違ぇよバカ」
「何が? ケンカじゃないの?」
「違ぇし。何で俺がハルちゃんとケンカすんだよ」
「いや、知らねぇけど。じゃあ、何でそんな顔なんですかー。これから撮影なんで、テンション上げてくださーい」

 大和がわざと明るい調子で言っても、琉は険しい表情を崩さない。
 遥希と何があったのかは知らないが、まだ仕事中で、もうすぐ撮影が始まるのだ。頼むから、そんな顔だけはやめてくれ。

「違ぇの、ハルちゃんからメール来ねぇの」
「??? それのどこが、ケンカじゃないわけ? お前が何かしたから、ハルちゃん、怒ってメールくれねぇんだろ?」

 どうあっても、ケンカの原因を琉にしたいらしい大和の頭を、琉は鬱陶しそうに叩いた。

「ちょっ、セット崩れる! バカ琉」

 撮影用に、せっかくセットしてもらったヘアスタイルを崩しては、ヘアメイクの人に申し訳ない。
 大和は琉の手を払うと、鏡を覗き込んで髪形を確認した。

「つか、ケンカじゃないなら、他に何なわけ? そんな顔しといて、何でもないとか言わせねぇぞ」

 もとが甘い顔立ちなので、凄んでみても迫力はあまりないのだが、大和は琉に睨みを利かせてみた。
 こうなったら、ちゃんと話すまで諦めてくれなそうな大和に、琉はとうとう観念して、溜め息をついた後、大和に事の次第を話し始めた。

 先日、大和も交えて3人で飲んだ後、酔っ払った遥希をお持ち帰りして(不埒なことは何もしていない、断じて)、次の日、遥希の家まで送ってあげたのだが、バイバイしてだいぶ経ってから『送ってくれてありがとう』というメールは来たけれど、それっきり。
 それからは、琉がメールをすれば必ず返信は来るけれど、『遥希から』のメールは全然来ない。
 またメールして、とは言ったけれど、遥希の性格からして、やはり遠慮しているんだろうか。それとも、あんまり考えたくはないけれど、琉とメールするの……ウザいとか?

 …と、琉は琉で悩んでいたのだ。

「大和~…どう思う~??」
「ウザッ」

 大和がしつこく聞くから打ち明けたのに、言ったら言ったで「ウザい」とか返されると、傷付く…。
 琉にしたら、結構真剣に悩んでいたのに。

「何でだろう、メールしてねって言ったのに。ハルちゃんも『うん』て言ってくれたのに。何でメールくれないの?」
「知らねぇよ。したくねぇんじゃね?」
「…やっぱり?」

 出来れば考えたくないけれど、遥希のほうからメールをくれないということは、すなわちそういうことなのだろう。
 あのときの返事も、何か勢いだけで返事したみたいだったし…。




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「それか、もともとメールとか、あんまやんない子なのかもよ?」
「え、そんなヤツいんの?」
「いや、そりゃいるだろ。お前はケータイ大好きだから分かんないかもだけど」

 いつでも携帯電話を手放さない琉にはちょっと分からない感覚だが、確かに友人の中にもメールの返信が遅い連中もいるし、メールとか殆どしない、て言っている人間も知っている。
 遥希もそういう人なんだとしたら、琉のことがウザいとかでなく、返事をしないのかもしれない。

「それでハルちゃん、メールくんない、てこと? 別に俺のこと、ウザいとか思ってるわけじゃないわけ?」
「たぶんな。でも、そういうメールあんましない子にメールしまくったら、ウザがられるんじゃね?」
「…………」

 大和の尤もな意見に、浮上しかけていた琉は、思わず言葉をなくす。
 そういうことなら、あり得なくはない気もする。琉だって、自分が気乗りしないことに何度も誘われたら、申し訳ないけれど、ウザいとか思ってしまう。
 遥希と会ってから、ウザがられるほど、メールしたっけ…?

「いや、ハルちゃんの性格からして、お前からメール来るの、ウザがるような子には思えないって。お前のこと、すっげぇ好きそうだったじゃん!」

 自分の発言のせいで、テンションをガタ落ちさせてしまった琉に、大和は慌ててフォローする。
 遥希が、琉と同じく、LOVEで琉のことを好きかどうかは分からないが、ファンとしては大好きだってこと、大和でなくたって、遥希を見ていればすぐに分かる。
 大体、男性アイドルであるFATEのCDやDVDを全部買い揃えて、コンサートにまで来てくれる男の子が、琉のことをウザいとか思うわけがない、と大和は思うのだ。

「でも、ハルちゃんの性格からして、ウザいて思ってても、内に秘めて、口に出して言えないと思う…」

 なのに琉は、そんなことを言って、自らますますテンションを落としていく。
 長い付き合いの中、こんなに恋に悩む琉を、大和は今までに見たことがない。今までの彼女との恋愛がいい加減だったとは言わないが、遥希に対しては、本当の本当に本気なのかもしれない。

「だーいじょぶだって。だってお前がメールすれば、ちゃんと返信来んだろ? ウザがってねぇって」
「でも、嫌々してんのかも…」
「えー…」

 どこまでもネガティブな琉に、大和は若干引いてしまう。
 恋に恋する女の子はかわいいけれど、琉は別にかわいくない。

「いくらハルちゃんだって、ホントに嫌なら、返信しねぇって。もー、いい加減テンション上げろよ、琉!」

 肩を落とす琉の背中を、大和がバシンと叩いたところで、撮影を始めるとスタッフが呼びに来た。




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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (68)


haruki


 自分の気持ちを自覚して以来、胸を痛めている遥希のところに千尋からメールが届いたのは、金曜の朝、朝食の支度をしているときだった。
 遥希は、琉にちゃんと朝食を取るように言われてから、がんばって朝も食べるようにしている。
 …まぁ、朝食と言っても、トースト1枚食べるがやっとなのだが。

「…朝っぱらから、珍し」

 ミルクたっぷりのコーヒーを啜りながら、遥希は携帯電話を開いて、千尋からのメールを見た。そして眉を寄せた。
 朝だというのに、テンションが妙に高い。
 もしかして、昨日の夜から寝ていないのだろうか。

 千尋は、服飾系の専門学校を卒業した後、メンズファッションのショップに勤務しているのだが、実は店に置いている洋服のデザインなんかも行っている。
 そのデザインの締め切りが近くなると、時々徹夜もしているのだ。

 徹夜なんか絶対無理…と、大学生の遥希が言うと、千尋は、大人の世界は厳しいのだ、と言って遥希をからかう。

「明日、クラブ~?」

 千尋からのメールは、クラブへのお誘いのものだった。
 一時期は頻繁に通っていた遥希だが、バイト代が底を突いてからは、あまり行かなくなってしまったのだが、それでも千尋は時々誘ってくれる。
 しかし、明日の夜のことを、今から誘ってくるなんて…。
 徹夜明けで、時間の感覚がおかしくなっているのだろうか、と思いつつ、遥希はOKの返事を送った。

 トーストの最後のひとかけらを無理に口に押し込み、冷めたミルクコーヒーを飲み干せば、遥希の朝食は終了。
 適当に片付けて、学校に行く支度をしていたら、今度は電話のほうが鳴り出した。

「え、ちーちゃん? 何?」

 千尋は時間あるかもしれないが、遥希はこれから学校なのに。

「…もしもし?」
『もっしもーし、ハルちゃん、おっはよぉ~』
「…何そのテンション」

 先ほどはメールを返したのに、急に電話に出ないのも、後で何を言われるか分からないので、遥希は仕方なく電話を取ったというのに、電話の向こうの千尋は妙なテンションだ。
 何だかガックリ来る。

『うひゃひゃ、寝てねぇの、俺!』
「分かるよ。寝なよ。俺、学校行くし」
『んん~寝るけどぉ、ねぇハルちゃん、明日クラブ行く~?』
「行くよ。さっきメールしたじゃん。てか、ねぇちーちゃん、もしかして酔っ払ってる?」

 このテンションの高さは、単に寝ていないだけではないだろう。
 遥希が尋ねれば、千尋はあっさりとそれを認めた。




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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (69)


『ちょっとだけね、ちょっとだけ~』
「ちーちゃん、今日お休みなの?」
『そうー。朝まで仕事がんばったし、飲んじゃおっかな~て』
「朝から飲んでんのかよ」

 朝まで仕事をがんばったのは認めるけど、だったら、お酒なんか飲んでいないで、さっさと寝ればいいのに。
 しかもこの酔っ払い方、絶対に『ちょっとだけ』ではない。

『ね、ね、ハルちゃん、明日行くでしょ? クラブ。行くでしょ?』
「行くってば。メール見てないの?」
『見た見た~。行こうねっ。そんで、カッコいい男子、見つけようねっ』
「はぁ? 何言ってんの、ちーちゃん」
『カッコいい男子、ナンパしようね~!』

 電話の向こうでは、『ひゃははは~』と千尋の笑い声が響いている。
 ずいぶん声が大きいけれど、今、ちゃんと自分ちなんだよね…?

「てか、ちーちゃん、ナンパて…」
『だってそうでしょ~? クラブ行く目的は、ナンパでしょっ? ハルちゃんだって、そうでしょっ? ナンパされたいでしょ!?』
「それは…」

 確かに、前にクラブに通い詰めていたときは、ナンパが目的だった。ナンパする…というよりは、ナンパされるのが目的なのだが。
 あのころは、付き合っていた彼氏と別れたばかりで、毎日寂しくて仕方なかったから。
 彼氏の有無で言ったら、あのころと状況は変わっていないのだけれど、気持ちが落ち着いたので、今はそんなこと、思い付きもしなかった。

『ハルちゃん、ここんトコずぅ~~~~~~~~~~~~っと1人でしょ? いい加減、新しい彼氏作ろうよぉ』
「そんな…1人とか、力いっぱい言わないでよ」
『だってホントのことじゃん。それとも何? まさか水落琉のこと、好きになっちゃった?』
「なっ…」

 まさにそのとおりなんだけれど、そんなこと自分の中に封印して、誰にも言うつもりはなかったから、嘘でも『好きになっていない』と言えばよかったのだ。
 けれど、まさか今このタイミングで千尋の口から琉の名前が出るとはゆめゆめ思っていなかったから、嘘のつけない性格の遥希は、そう言うことも出来ず、つい言葉を詰まらせてしまった。

『え、そうなの? マジ?』
「ちっちが…違う、違うっ」

 千尋の言葉に慌てて否定しても、時すでに遅し。
 電話の向こうから、千尋の深い深い溜め息が聞こえてきた。

『ハルちゃん…。友だち以上に好きになっちゃダメだって、あんだけ言ったのに…』
「だから、なってな…」

 酔っ払っているくせに、急に千尋は真面目な口調になって言ってくるから、遥希も何て答えたらいいか分からなくなってしまう。
 琉のことを、友だち以上に好きになったらダメだって、そんなこと、千尋に言われなくたって、遥希が一番よく分かっていた。




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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (70)


「…好きになんか、なってない」
『嘘つき』
「嘘じゃないもん」

 …嘘だけど。
 琉のこと、好きになっちゃったけど。

 だって顔や外見なら、ファンなんだし、好きに決まっている。
 それで実際に琉に会って話とかしてみたら、ゴシップ誌が伝えるようなよろしくないイメージは少しもなくて、むしろ気さくで優しくて…てなったら、そんなの好きになるに決まっている。

 好きになっちゃダメて思ってたって、この気持ちは友情とかファン心理だって思い込もうとしたって……だってそんなの、無理だったんだもん。

『…そっか。しょうがないよね、好きになっちゃうのは』
「……」
『でもいいの?』
「…何が?」
『水落琉のこと好きなのに、クラブ行くとか』

 へらへらしながら電話をしてきた酔っ払いと同じ人物なのかと思うような真面目な声で、千尋が聞いてきた。
 琉のことを好きになったこと、もっと責められるかと思ったけれど、千尋はいつだって、遥希の気持ちをないがしろにはしないし、かといって、いい加減に聞き流すこともしない。

「…別に、琉とこれ以上どうこうなろうとか思ってないし」
『でも好きなんでしょ?』
「…今は。でも、カッコいい人見つけて、その人のこと好きになれば、琉への気持ち、諦められるじゃん」
『え、諦めるの? 水落のこと』

 遥希は琉と仲良くなったけれど、千尋はまだ1度も会ったことのない相手なのに、なぜか琉のこと、名字の呼び捨てになっていて、何だかおかしい。そういえばさっきまで、フルネームだったし。
 もしかしたら千尋の中で、琉は遥希をたぶらかした悪者になっているんだろうか。

「だって、どうせ無理じゃん。琉はゲイじゃないし。…ゲイだとしたって、アイドルなんだし、彼氏なんか作れないでしょ、絶対」
『まぁ…そうかもだけど。ちょっとの望みにも賭けないの?』
「ちょっとの望みもないじゃん」
『ふぅん? まぁ、ハルちゃんがいいって言うなら、いいけど。じゃ、明日行こうね~。ひゃはは、ハルちゃん、学校遅刻しないでね~、おやすみ~』

 つい今まで真剣な感じで話していたはずの千尋は、遥希がそれでいいのだと決心した途端、最初の酔っ払いのテンションに戻って、ケラケラ笑いながら電話を切った。
 一体どっちの千尋が本当なんだろうとも思ったが、結局どっちも千尋なのだ。

「ヤベッ、遅刻する!」

 遥希は深く考えるのをやめて、学校に行く支度を整えた。




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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (71)


 バイトが終わって、千尋との待ち合わせ場所に向かう途中、遥希はふと気が付いた。
 ちょうど1週間前、バイトが終わった後、琉と大和――――今をときめく、遥希も大ファンのFATEと食事をしたのだ。

(はぁ…夢みたいだった…)

 …その夢みたいな出来事の後、酔っ払った遥希は、琉に連れて帰られたのだが。
 琉とは何もなかったけれど、迷惑は掛けたので申し訳ない気持ちでいっぱいだし、あんなにダメだと思っていたのに、結局琉のことを好きになってしまっていた。
 もちろん琉は、遥希のそんな気持ちなんて知らないから、相変わらず、こまめに遥希にメールをくれるのだが、そのたびに遥希は、嬉しい気持ちと苦しい気持ちの板挟みになる。

 だから昨日の朝、千尋からクラブに誘うメールが来たとき、琉への気持ちを忘れるためにも、カッコいい人にナンパされて、彼氏を作ろう! とOKしたのだ。
 …けれど。
 琉への気持ちを忘れよう…て思っているのに、時間が経てば経つほど、琉がいるのに、クラブなんか行ってナンパされようだなんて、いいのかな、て思えてくる。
 琉は友だちだし、遥希が勝手に好きなだけなんだから、遥希が琉のことを諦めるというのなら、琉に何の気を遣う必要もないのに。

(俺がナンパ目的でクラブ行くとか……琉が知ったら、どう思うんだろ…)

 ナンパするのが好きな人もいれば、そういうのが嫌いな人もいるけれど、遥希は別に、ナンパ自体を悪いことだとは思っていない。出会い方の1つに過ぎないと思うから。
 でも何となく、そういう目的でクラブに行くんだってこと、琉には知られたくない。

(でも、琉もクラブとかよく行くって…)

 中高生向けの雑誌では、もちろんそういうことは言わないけれど、もう少し上の年齢層向けの雑誌で、そんなこと言っていたのを、遥希は覚えている。
 純粋に音楽とか踊りを楽しんでいるのかもしれないし、もしかしたら女の子と仲良くしているのかもしれないけれど。

(んーん、琉は関係ない。俺は俺だし! カッコいい人、見つけるんだし! …て、そういえば、ちーちゃんこそ、彼氏…)

 思わず琉への思いを募らせてしまいそうな自分を叱咤した遥希は、ふと、千尋のことを思い出した。
 ナンパされようねぇ~! と元気よく言ってきた千尋には、確かサラリーマンの彼氏がいたはずだ。遥希はその人に会ったことはないけれど、話なら、千尋から何度か聞いていたので、知っている。

 千尋から電話を貰ったときは、琉のことでテンパってしまい、遥希も深く考えていなかったのだが、いいんだろうか。
 軽い調子で、ナンパされようね~、なんて言っていた千尋だが、彼氏がいるのにそんなことをする軽い子でないのは知っているし、酔っ払っていたとはいえ、あんなにハッキリと言ってくるなんて……もしかして彼氏と別れたとか?

「あ、いた」

 時間的にも、街は混雑しているのに、千尋のことはたやすく見つけられた。
 特別派手な格好をしているというわけではないが、ファッション系のショップで働き、デザインもしているだけあって、やっぱりおしゃれだし、人目を惹く。




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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (72)


「ちーちゃん、お待たせ」
「…ん。てかハルちゃん、相変わらず地味っ子だね。もうちょっと何かなかったの? 服」
「え、ダメ? この格好。だってバイト終わってそのまま来たし」

 会って早々に眉を寄せる千尋に、遥希は心配そうな顔をした。
 ドレスコードに引っ掛かるような格好ではないから、平気だと思ったんだけれど…。ここしばらくはクラブに行っていないから、今の流れとか、よく分からない。

「いや、店入るのにはオッケーかもだけど、その格好で、ナンパされるかどうかは…」
「うるさい!」

 はぁ~…とわざとらしい溜め息をつく千尋の腕を、遥希はペチンと叩いた。
 でも確かに、ナンパされたくて行くには、ちょっと地味だったかもしれない…と遥希は、自分の格好を上から下まで眺めて思った。

「まぁいいや。ご飯行こ、ハルちゃん」

 千尋のファッションチェックを、すんなり通過できるほどの服もセンスも持ち合わせていない遥希は、結局今回もあっさり『まぁいいや』で済まされてしまった。

「あ、そうだ、ちーちゃん。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「…何? 先に頼んじゃおうよ」

 近くのファミレスに入り、メニューを広げた千尋に遥希が声を掛けると、腹を空かせているらしい千尋は、嫌そうに顔を上げた。
 目的のクラブのオープンまでにはまだ時間があるし、何よりそこでは食事の提供がないから、先にご飯を食べておきたい…と、2人が出掛けるときは、いつも先に食事を済ませる。
 でも大学生の遥希は、お金の余裕があまりないので、大体いつもファミレスなのだが。

「で、何?」

 注文を済ますと、千尋はようやく表情を崩して遥希を見た。
 なのに遥希は、「ちょっと待って、飲み物持って来る」なんて言って、ドリンクバーのほうへ行ってしまった。千尋はアルコールを頼んだから、運ばれてくるのを待つだけだ。

「…ハルちゃん、お酒飲まないの?」

 1人になった席で、千尋は不思議そうに独りごちた。

「お待たせ。あ、でね、話なんだけど」

 何を飲むかモタモタ迷っていたせいで、遥希が席に戻ってくると、すでに千尋のドリンクは運ばれて来ていて、しかも遥希を待たずに千尋は飲み始めていた。

「ていうかね、俺がこんなこと言うの何だけど…、ちーちゃん、いいの? ナンパとか…」
「何急に。ハルちゃんもそのつもりで来たんでしょ? 何で急にそんな、ナンパが悪いみたいな言い方すんの?」
「そうじゃなくて! だってちーちゃん、彼氏…」

 遥希の質問の意図を思い違いした千尋が、嫌そうに眉を寄せたので、遥希は慌てて言葉を付け加えた。千尋には彼氏がいたはずなのに、ナンパされようなんて遥希を誘って来たことが、気になったから。
 遥希だってちょっと前は、ナンパされたくて、通い詰めていたんだから、今さらナンパが悪いだなんて思ってもいない。




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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (73)


「あぁ、そういうこと。いいの、いいの。こないだ別れたから」

 遥希の言いたいことが分かると、千尋はあっさりとそう答えた。
 答えにくいこと…というか、触れられたくないことだったかな、と遥希は心配していたのに。

「ちーちゃん……別れちゃったの?」
「うん。だってさ、向こうリーマンじゃん? 何かいろいろ時間とか合わなくて」
「すれ違い、てこと?」
「んー…てか、俺はそういうの全然平気なんだけど、向こうは嫌だったみたい。何で土日休みじゃないんだとか言い出してさぁ、何かウゼェな、て思って」

 そう言って千尋は、おもしろくなさそうに唇を尖らせた。
 千尋は、束縛されること自体はそんなに嫌いではないようだが、自分の仕事のことについて、否定的なことを言われるのは大嫌いなのだ。
 今回も、そのことが原因だったらしい。

「ねぇちーちゃん。もしかして、昨日朝から飲んでたのって、そのせい?」
「え、まさか。別れちゃって、やけ酒とか? ハルちゃんじゃないんだから、そんなことしないよ。昨日は、詰めてた新商品のデザインが出来上がったから、そのお祝い酒だし」
「1人でお祝いしてたの?」
「うっさい」

 やけ酒も、1人のお祝い酒も、『それってどうなの…?』的には、同じくらいだと思うのだが。
 大体遥希だって、彼氏と別れたからって、1人でやけ酒なんか…………したことは4回くらいしかない。

「もぉ、俺のことはいいから、ハルちゃん、自分の心配してよね!」
「え、何が?」
「新しい彼氏! 見つけるんでしょ!」
「えっ…、まぁ、うん…」

 そういえば電話で、琉への気持ちを忘れるためにも新しい彼氏を作る、て千尋に言っていたんだった。
 その気持ちは確かに本当なんだけれど、千尋があまりに意気込んでいるから、ちょっと気後れしたのだ。
 でも、好きだと自覚した相手とは恋人にはなれないんだから、気持ちに区切りを付けるためにも、千尋みたいに気合を入れて、がんばってカッコいい人を見つけないと。

「ハルちゃん、がんばろうね!」
「う、うん…」

 でもやっぱり、千尋の気合の入り方には、ちょっと負けそう…。




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haruki & chihiro


 久し振りに来たクラブの感じを、遥希は少し懐かしく思った。
 それなりに大きい箱で、雰囲気も音楽も好きなんだけれど、どちらかというとナンパ箱なので、遥希たちの目的にはちょうどいいし、ゲイやビアンも多いから、昔から2人はよくここを利用していた。

「…ハルちゃん、何でお酒飲まないの?」

 ここに来る前に寄ったファミレスでもソフトドリンクだったし、今もオレンジジュースなんか注文している。
 遥希の酒癖の悪さを千尋は十二分に承知しているが、少しくらいなら大丈夫なんだから、飲めばいいのに。

「いいの。今俺、オレンジジュース飲みたい気分なの」
「何それ。今日はそういうキャラ設定なわけ?」

 最近お気に入りらしいシャンティガフのグラスを受け取った千尋が、冷ややかに遥希を見る。そんなことしなくたって十分かわいいんだから、そんなことしなくたっていいのに。
 けれど遥希にしたら、別にかわい子ぶってオレンジジュースを頼んだわけじゃないから、そう思われるのは、ちょっと心外だ。

「違うし。アルコールはいらないな、て思ってるだけだし」
「…………。ハルちゃん、今度は何やらかしちゃったの? お酒飲んで。まーた何か失敗したんでしょ?」

 ふて腐れたような雰囲気を出している遥希にピンと来たのか、千尋は呆れたように遥希の顔を覗き込んだ。千尋は、遥希のお酒を飲んでの失敗談をたくさん知っているのだ。

「何したの? また、目が覚めたらゴミ捨て場でゴミに埋もれてた? それとも、知らない人についてっちゃった?」
「違うってば。何もないよ。もぉちーちゃん、しつこい!」

 まさか、酔って琉とベッドインしたなんて(一緒に寝ただけで、何もなかったけれど)、そんなこと千尋に言えるわけもないので、遥希は、全然うまくないごまかし方でごまかして、話を終わらせた。

 溢れる音楽の中、どんな感じの顔触れが揃っているのか確認するため、2人はとりあえずバーの近くに立ったまま、メインフロアを眺めていた。
 相変わらず、純粋に踊りや音楽を楽しんでいる人もいれば、ナンパの勢いもすごい。
 例えば、バーのほうへ向かっていた女の子2人組なんか、そこに辿り着くまでの数分の間に、3,4人の男性に声を掛けられていた(残念ながら、誰も成功しなかったけれど)。

「あ、あの人カッコいい」
「でもさっき、女の子に声掛けてたよ。てかハルちゃん、相変わらずハルちゃんが好きなるのって、ノン気の男だよね~」
「好きになったなんて言ってないじゃん。カッコいいて言っただけじゃん」

 ちょっと言っただけなのに、千尋に皮肉っぽく返されて、遥希は唇を尖らせた。
 でも、千尋の言い分はあながち間違っていないので、強くは否定できない。同属の勘というか……普通、相手もゲイだということが、何とはなしに分かるものなのだが、遥希はいまいちその能力が低い。

「ねぇねぇ、あの人は?」
「どれ~? え、あのムキムキの人? ちーちゃん、マッチョ好きなんだっけ?」
「嫌いではない」

 品定めするかのごとく、2人して顔を寄せ合って(音が大きいので、そうしないと聞き取れない)話している姿に、同じくナンパ目的で来ているゲイの視線が集まり出す。
 友人と遊びに来る男はたくさんいるけれど、女の子と違って、普通、男2人でここまで仲良さそうにくっ付いて話なんかしないから、それこそ、ゲイだと分かってしまう。



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「ねぇねぇちーちゃん、あーゆームキムキのマッチョのこと何て言うんだっけ? ほら、ちょっとマッチョの人て、細マッチョて言うじゃん」
「知んない。でも、どうせマッチョなら、細マッチョより、あーゆーガッツリマッチョのがよくない?」
「それって、ボディビルの人じゃなくて?」
「あんなにテカテカしてなくていい」

 テカテカて……それは千尋の偏見のような気がするが、男の好みは個人の趣味なので、遥希はそれ以上、口を出さない。
 それにしても、確かに千尋は、以前から筋肉好きだったけれど、いつの間にあんなにムキムキのマッチョがタイプになったんだろう。
 うーん…、遥希だったら、あそこまでガッツリマッチョじゃなくてもいいかなぁ…と、遥希はオレンジジュースを飲みながら、そのマッチョを眺めてみる。

「ねぇねぇっ、ハルちゃんっ!」
「何、何っ、痛いよっ」

 興奮気味に千尋が、遥希の肩をバシバシ叩いてくる。
 千尋は人の筋肉も好きだけれど、自分が鍛えるのも大好きだから、加減なしに叩かれると、本気で痛いのだ。

「あっちのマッチョもすごくない!?」
「いや、すごいけど……え、ちーちゃん、今日は完全にマッチョ狙い?」
「だって、あんなすごい筋肉にギュッとされたら、堪んなくない!?」

 キャー! という感じで舞い上がっている千尋は、今度は別のマッチョ男を指差している。
 興奮するのは勝手だが、人を指差してはいけません。

「声掛けちゃう? ねぇハルちゃん、声掛けちゃう!?」
「いや、俺は…。ちーちゃん、気になるなら声掛けたら?」

 2人が話している間にも、千尋が一目惚れしたらしいマッチョ男には、別のマッチョが話し掛けている。あ、外国人だ。

「今話し掛けてるほうのマッチョは? 外国の人みたいだけど」
「外国のマッチョ…。何か、いろいろすごそうだよね…」
「ちーちゃん…、何想像してんの?」

 半笑いの表情で、千尋は2人のマッチョに見惚れている。
 まったく、本当に何を想像しているのやら。

「2人で来てんの?」
「ひゃっ!」

 2人してマッチョに見惚れていたら(見惚れていたのは千尋だけで、遥希は何となく見ていただけだが)、誰か近付いて来ているのに気付かなくて、ビックリして遥希も千尋もビクッと肩を跳ね上げた。

「ゴメン、ゴメン、そんなにビックリした?」
「あ…」

 声を掛けて来たのは2人組の男で、それぞれ遥希と千尋の隣に立った。
 2人ともそれなりにイケメンだが、千尋は先ほどまでマッチョに興奮していたので、この筋肉では、ちょっと物足りないかも…と思ってしまう。



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「2人とも、ここよく来んの? 俺ら、久し振りに来たんだけど」
「えと…俺は結構久し振り…かな。ちーちゃんは?」
「そこそこ」
「そこそこ? てか、ちーちゃんて言うの? 名前」

 千尋のとんちんかんな回答にウケつつ、遥希が千尋のことを『ちーちゃん』と呼んだのを聞き逃さず、隣の男は千尋のことを呼びながら、肩を触れ合わせている。
 彼が千尋狙いなら、自然と遥希の相手はこちらの男になるのだろう、と遥希は、自分の隣の男を見た。 …うん、まぁまぁイケメンかな(というか、遥希のイケメンの基準が琉なので、世のイケメンの大半が『まぁまぁ』に分類されてしまうのだが)。

「何飲んでんの? もう空じゃん。何飲みたい? 奢るよ」
「んー…」

 遥希は考える素振りをしながら、さりげなく千尋を見た。
 すると千尋は、まだ筋肉への熱が冷めやらぬのか、服の上からだが、その男の胸をペタペタと触っている。…あぁ、これはもう、完全の乗り気だ。

「『ちーちゃん』と一緒がいい?」
「…別にそういうんじゃないし」

 こっそり見たはずなのに、千尋に視線を向けたことがバレてしまい、恥ずかしくて、遥希はちょっと唇を尖らせた。
 男の笑ってる気配がする。

「ちーちゃんのも空じゃん。みんなで何か飲もうよ」
「飲もう飲もう」

 千尋のボディタッチのせいか、千尋とその隣の男は、すでに結構盛り上がっている。
 遥希に声を掛けている男は、遥希にしたら、すっごいタイプというわけではないが、今この場を楽しむのに悪くはない感じだから、一緒に盛り上がろうかな。

「ねぇねぇ、あの子がちーちゃんなら、君は何ちゃんなの?」
「遥希」
「遥希? ハルちゃん?」
「…遥希、て呼んで」

 千尋は遥希のこと『ハルちゃん』て呼ぶけど、まぁ大体の友人が『遥希』と呼ぶから、そのほうが馴れ馴れしすぎなくて、今はちょうどいい。

 千尋に胸を触られていたほうの男は大輔(ダイスケ)といい、遥希に声を掛けて来たほうは匡平(キョウヘイ)というらしい。
 明らかに年上そうだったので、遥希が「匡平さん」と呼んだら、「呼び捨てでいいよ」と笑われた。

「何飲む?」
「ん…コーラ…」
「コーラ? ソフトドリンクなの? お酒ダメ?」

 別にお酒が嫌いでソフトドリンクを頼んでいるわけではないから、そう言われると、うまい切り返しの言葉が出て来ない。
 もともと咄嗟の一言は苦手なのだ。



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