恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2012年03月

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Honey Bunny Baby! (24)


 別に大した話題ではない、祐介も和衣も今こうして大学のカフェテリアにいる以上、どうにかして寮に帰ったことは分かるので、亮としても何となく聞いただけだろうが、しかし祐介にしたら、言葉を詰まらせるには十分すぎた。

「あ? 寮だよ、寮。ちゃんと帰れたのかっつの」

 亮は、単に祐介が聞き取れなくて、「え」と言ったのだと思ったらしく、何の気なしに聞き返してきたが、祐介は返事が出来ずにいた。
 いや、ちゃんと帰ったから、今日も寮から大学に登校したのだ。朝、亮も一緒にいたじゃないか。だったら、そんなこと聞かなくたって分かるだろう? 察せるだろ? なのに、なぜそんなことを聞くんだ。飲み会は一昨日だったけれど、もういいじゃないか、そんなこと。

「ちゃんと帰ったから、今日ちゃんと学校来てんでしょーが」

 祐介が心の中で、察しろ…! と亮に突っ込みまくっていたら、眞織が代わってそう答えた。
 そうだ、眞織の言うとおりだ。
 無事に寮まで帰って来れたから、今日こうして大学に来れたのだ。うん、それは間違いない。ただ、飲み会があったのは一昨日で、昨日のことではないけれど。

 ――――なら、昨日はどうして学校に来なかったのか。

 飲み会で、和衣はともかく、祐介が二日酔いするほど飲んでいないのは誰の目からも歴然で、とすれば、昨日休んだのは二日酔いが原因ではなく(ましてや祐介は、かったるいとかいう理由で学校を休む男でもない)、来れない理由があったに他ならず。

「ま、酔っ払ったカズちゃん、めっちゃかわいかったもんね、祐介くんっ!」

 実にかわいらしい笑顔を浮かべ、愛菜がバシッと祐介の肩を叩いた。
 まるですべてを悟ったような笑顔に、祐介の背中を冷たいものが伝う。

 確かに一昨日の飲み会の後、我慢できず、寮でなくラブホテルに向かってしまったのは事実で。
 しかも朝までそこで過ごしてしまったものだから、1限の授業に間に合うように寮に戻ることも出来ず、そこそこの時間に2人で帰宅したはいいけれど、いつも以上に愛し合ってしまったせいで、和衣の体の疲労がピークで、残りの授業に出る気力が残っていなかった結果が、昨日の休みに繋がる。

 でもそんなこと誰にも言っていないし、言うつもりもないのだが、どう見ても愛菜も眞織も、すべてお見通しの顔をしている気がしてならない。

「あ、愛菜ちゃん、眞織ちゃーん」

 亮が半分ほど食べ終えたころになって、ようやく睦月と和衣がテーブルのところにやって来た。
 何も知らない和衣は、いつもどおりニコニコしているが、今までの会話、絶対に聞かせられない! と祐介は思う。いや、和衣のことだから、何も気付かないかもしれないが。

「あ、亮も唐揚げのヤツだー」

 亮の隣に座った睦月は、亮が同じものを頼んでいたのに気付いて、のん気にそんなことを言っている。
 和衣は、祐介が何となく渋い顔をしているのを見て、どうしたの? とその顔を覗き込んだ。

「何でも…」
「カズちゃんがかわいい、て話よ! ねっ?」

 何でもない、と言い掛けた祐介の言葉を遮って、愛菜は元気よくそう言うと、よく分かっていない和衣の頭をよしよししてから、眞織と一緒に去っていった。

「……かわい?」

 和衣は2人の背中を見送りつつ、コテンと首を傾げる。
 祐介は、やっぱりさっきまでの話は聞かせられない、と改めて思った。


 お酒もほどほどに。



*END*



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 2011年アンケ1位カプ、ゆっちさん×カズちゃん。普段カズちゃん、「祐介」て呼んでるの、エチの最中は「ゆぅ」て言うんです、無意識に。でも酔っ払ったときもそう呼ぶ設定にした。本人は全部無意識、てことで。私のどうでもいいこだわり。
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1. 目を離せば問題行動するところ (1)


 2011年好きカプアンケ投票ありがとうお礼小説。
 第2弾は、2位カプの亮タン×むっちゃん小説です! (投票結果はこちら→「投票結果を発表しちゃったり、攻めっ子とか受けっ子にいろいろ質問しちゃったりするぞ企画」)
 ぎりぎりセーフの第2弾は、jachinさまからお借りした「お馬鹿な君の可愛いところ七題」でお送りします。お楽しみに。



 亮は今日、本当はバイトがない日だったのに、体調不良による欠勤が生じたことで、急遽仕事に駆り出され、みっちり夕方まで働かされるはめになった。
 まぁもともと今日は特に予定もなかったので、呼び出されても困らなかったのだが、店長も申し訳ないと思ったのか、帰りしな、貰いもののお菓子の残りを、お礼と称して亮に押し付けて来たので、ちょっと笑った。
 亮はそんなにお菓子とか甘いものを食べる人ではないのだが、お菓子大好きの睦月が喜びそうだ、と素直にいただいた。

 しかし、そのお菓子で睦月のことを思い出した亮は、それと同時にそういえば睦月のご飯、お昼の分を作っていなかったことに気が付いた。
 学校が休みで予定もない日、睦月は大体遅くまで寝ているくせに、今日に限って、なぜか亮と同じくらいに起きたので、朝食だけはしっかり与えて来たのだが、昼食のことは忘れていた。

 寮の同室である亮と睦月だが、2人分の食事の支度をするのは亮の役目だ。
 恐らく他の寮生は、自分の分は自分で作り、時々相手の分も作るくらいのことをしているのだろうが、とにかく亮と睦月にあっては、亮がすべて作っている。

 別にそうする決まりも約束もどこにもないのだが、神業レベルで不器用な睦月は、相変わらず自炊が出来ないし、亮はそんな睦月を放っておけないのだ。
 常々祐介のことを過保護だと言っている亮だが、その実、亮も過ぎるほど睦月を甘やかしているのである。

(でもまぁ、いくら睦月でも、どうにかして食い繋いでるだろ)

 睦月は、眠いのとお腹が空いたのを我慢しない子なので、亮がご飯の用意をしていかなくても、腹が減れば、自分で作らなくても、コンビニに走るか、友だちのところに行くか、最悪カップラーメンでも食べていると思う。

「ただいま」
「ん~…お帰りぃ…」

 亮が帰って来ると、睦月はベッドでゴロゴロしながらマンガを読んでいた。
 休日の過ごし方としては何となくもったいない気もするが、睦月にとっては至福の時のようなので、突っ込まないでおく。

「…ん?」

 上着を片付けていた亮は、ふと足元のゴミ箱に目をやった瞬間、その中の様子に眉を寄せた。
 別に亮は、ゴミ箱チェックなんてしたことないけれど、今のこのゴミ箱の状況は、特別な注意力を以ってしなくても、明らかにおかしいことが分かる。
 ゴミ箱の中が、お菓子の包みのゴミで溢れ返っているのだ。

 昼食の他にこれだけお菓子を食べたにしては多すぎる。
 …ということは、だ。

「むっちゃん、これなぁに?」
「ぅん? あ。」

 亮はわざと優しい声で言い、面倒くさそうに顔を上げた睦月にゴミ箱の中身を見せつけると、途端、睦月の表情が変わった。
 やっぱり。
 昼食の他に食べたお菓子なら、睦月がこんな『ヤバッ!』みたいな顔をするわけがない。つまり睦月はまた、お菓子だけで昼食を済ませてしまったのだ。

「睦月、ご飯食べなきゃダメ、て言ってるでしょ!」
「いや、分かっ…あの、あのねっ」

 まるでお母さんのような説教をする亮に、睦月は慌てて言い訳の言葉を考えるが、いつもは口八丁のくせに、全然うまい言葉が浮かばない。
 何しろ睦月の、お菓子をご飯代わりにしちゃう悪い癖は、これで3度目なのだ。過去2回も、散々亮に怒られて、もうしません、と約束していたのに。



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1. 目を離せば問題行動するところ (2)


「だって、だって!」
「だってじゃないの。俺がご飯してかなくても、お昼になったら、お菓子以外の食べなきゃダメじゃん!」
「だって、」
「だってじゃない、つってんだろ」
「いひゃい」

 亮は、必死で俺が悪いんじゃないのアピールをしてごまかそうとする睦月の両頬をつまんで、ギュウと横に引っ張った。

「睦月、俺がいなくても、これからはちゃんとご飯する?」
「ん」
「お菓子、ご飯代わりにしない?」
「しにゃい」
「約束破って、『ゴメンなさい』は?」
「ごえんなひゃい」

 意外にも素直に謝った睦月に、亮は溜め息をついてその頬から手を離した。
 頬を引っ張られていたのもあるかもしれないが、大した抵抗もせず、素直に謝るところを見ると、やはり罪悪感はそこそこあったらしい。

「りょお~、ゴメンね?」

 睦月はベッドの上にペタンと座ったまま、亮のお腹の辺りに抱き付いた。
 単に甘えたいだけかもしれないし、亮のご機嫌を取りたいだけかもしれないが、そのかわいらしい姿に、亮は自分でもバカだと思うが、まんまと絆されてしまう。

「…ご飯にしよっか」
「うん!」

 睦月の頭をポンポンしてから、部屋の隅の簡易キッチンに向かおうとしたら、睦月が腰にしがみ付いたまま、ベッドを降りて付いてきた。

「ねぇねぇ亮、あれ何?」

 亮に引っ付きながら、睦月はテーブルの上に置かれた袋を指差す。
 亮がバイト先から貰ってきたものだ。

「何とかっつー店のお菓子。何つったっけかな? 何か高級らしいよ、ちょっと」
「マジで!? 貰ったの? 亮、貰ったの?」
「うん」
「食いたい!」

 現金な睦月は、高級らしいお菓子に反応して、ピョンと亮から離れた――――が。

「…睦月」

 すぐに亮に首根っこを掴まれた。

「先にご飯でしょ?」
「うにー」

 たった今反省したばかりなのに、その舌も乾かないうちに、もうお菓子に飛び付こうとしている睦月に、亮はお母さんのように言って聞かせる。
 しかし睦月は不満顔だ。

「…………。睦月が、俺のご飯よりお菓子のほうがいいって言うなら、別にそれでもいいけど。その代わり俺も、もうご飯は自分の分しか作んないかんね」
「ヤダ、そんなのっ!」

 その言葉に、睦月は慌てて亮を振り返った。
 あ、亮が怒った顔してる。



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1. 目を離せば問題行動するところ (3)


「だって睦月、食べないんでしょ? そんなら、作ったって意味ないし」
「ヤダヤダヤダ~! 食べるっ、ご飯食べる! 亮~」

 亮の言い分は尤もで、睦月に反論の余地はない。
 お菓子は好きだけれど、ご飯は食べなきゃだし、亮が作ってくれないなら、睦月に他になす術はないのに。

「コンビニで買って食えば?」
「ヤダぁ~~」

 そんな意地悪ゆわないで! と睦月は亮にしがみ付く。
 実は亮は別に怒っているわけではなかったけれど、ここで甘い顔をしてはダメだと、表情を引き締めた。
 けれど。

「亮のご飯食べるっ。ねぇ~」

 亮のシャツの裾を掴んでゆさゆさと揺さぶってくる睦月に、亮はとうとう堪え切れずに吹き出してしまった。
 だってこんなの、かわいすぎる。

「亮?」

 何笑ってんの? と、睦月が不審そうに亮の顔を覗き込んだ。

「…何でもない。睦月がちゃんと分かってくれたんだったら、ご飯作ろっかな」
「した! ちゃんと分かった!」

 わざとそんな言い方をしても、睦月は本気で、ようやく亮が機嫌を直してくれたと思ったらしく、ホントにちゃんと分かったからぁ~、とまだ亮の腕を引っ張っている。

「分かったってば。ご飯作るから、睦月、箸とか出すくらい、出来るでしょ?」
「がんばる!」

 使う分の箸や食器を出すのに、一体何をがんばることがあるのかと思うが、今のところ、睦月が出来る精一杯のお手伝いはそれくらいなので、がんばってもらわねば。

「つかさ、睦月、1日お菓子食ってダラダラしてたのに、腹減ってんの?」
「違うもん、1日ダラダラしてないもん」
「してんじゃん」
「してないー! カロリー取り過ぎだ、て思って、途中で1回、無駄にランニングしに行った。外に」
「何そのボクサーみたいな行動。ランニング?」

 1日中、部屋でダラダラゴロゴロしているよりは健康的だけど、その発想がいまいち分からない。
 ランニングしに行った、て(しかも自分で『無駄に』とか言ってるし)。

「亮ー」
「ん?」

 まさか箸が見つからない? さすがにそのくらいは出来るよね? と、亮は料理の手を止めて、睦月のほうを見れば、睦月はギュウと2人分の箸を握り締めていた。

「何?」
「いつもご飯、ありがとう…………ブハッ!」
「え、何で笑うの!?」

 せっかくお礼を言ってくれたのに、亮が喜ぶよりも先に、言った睦月が自分で吹き出している。
 意味不明…と亮は眉を寄せたが、どうやら睦月は自分で言っていて、自分で照れたらしい。

「何睦月、何なの?」
「だって! えへへ。何でもない! 亮、早くご飯!」
「はいはい」

 睦月に急かされて、亮は料理を再開した。
 やっぱり亮は、どうしても睦月を甘やかしてしまうのだった。



※むっちゃんの問題行動。
 1. お菓子をご飯がわりにしちゃう。
 2. 睡魔に負けると、歯磨きしないで寝ちゃう。
 3. ゲームで負けそうになると、インチキするかグチャグチャーてしちゃう。



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2. テンションが上がると奇声を発するところ (1)


 この冬一番の冷え込みとの予報どおり、確かに今朝の冷え込みたるや、凄まじいものだった。
 さすがに亮もふとんを抜け出るのが億劫で、どうせ今日は休みだし、予定もないし、もう少しふとんの中でぬくぬくしていよう、と二度寝を決め込んだ。

 しかし。

「亮、亮、りょお~!!!」
「ぐぇっ」

 睦月に名前を呼ばれた、と思った次の瞬間、ふとんの上からすごい重みが掛かって、何事? と思う間もなく、激しく体を揺さぶられた。
 寝起きの頭にこの事態はさっぱり理解できないが、とにかくこの寒いのに、一体どういうわけか、寒さが極端に苦手な睦月がもう起きて、何とかして亮を起こそうとしているのだ。
 ますます意味が分からない。

「何、何睦月…」
「亮起きて! ねぇっ!」
「え…?」

 睦月よりはマシだが、亮だって特別寝起きがいいわけではない。
 一生懸命起こしてくれているのは分かるが、なかなか完全に覚醒できない。

「亮、起きてよぉ~、ねぇ~」

 揺さぶっても起きないと分かったのか、今度は睦月は亮の腕を引っ張って、ふとんから引き摺り出そうとし始めた。
 ちょっ…冗談じゃない!

「亮~!」
「睦月、やめ…」
「起きて起きて、雪!」
「えぇ…?」
「雪降った! ちょっと積もってる! ねぇ!」
「…………」

 ――――あぁ、どうして。

 あなたは寒いのが死ぬほど嫌いじゃないですか。
 なのに雪のこととなれば、寒さも吹き飛ぶというのですか。

「亮!」

 暖かいふとんよ、さようなら…と思いつつ、亮がふとんから顔を出せば、睦月が最高の笑顔で亮を覗き込んでいた。
 笑顔の睦月に腕を引かれるがまま、亮は体を起こす。

「睦月…」

 一応パジャマの上にパーカーは羽織っているが、見れば睦月は裸足だ。
 ストーブは消して寝るから、部屋の中はすっかり冷え切っているのに、睦月は本気で寒さを感じていないのだろうか――――雪が降ったのが嬉し過ぎて。
 とりあえず窓が閉まっていることにホッとしつつ、亮が携帯電話で時間を確認すると、ただ今の時刻、朝の7時。マジですか。

「睦月、朝早過ぎね?」
「だって雪降ってるよ!?」
「だって、じゃねぇし」



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2. テンションが上がると奇声を発するところ (2)


 昨日の夜は雨だったから、雪が降り始めたのは夜中過ぎか、明け方か。
 亮は昨晩、睦月が寝落ちするのを見ているから、夜中の間ずっと起きていたわけではないだろう。ということはつまり、睦月は昨晩の、『明日は雪になるでしょう』という予報を信じて、早起きして窓の外を確認したということだ。

 寒いのも、眠いのも、早起きも苦手な睦月が。
 雪が降るという予報だけで、たとえほんの一時のこととはいえ、それらすべてを克服してしまったのだ。

(これで雪降ってなかったら、どうなってたんだろ…)

 亮にまったく何の非がなくとも、恐らくひどく当り散らされたに違いない。
 そういう意味では、雪よ、降ってくれてありがとう、という感じだが、やはりこの寒さには堪えられない。

「とにかく睦月、ストーブ点けて。それから靴下、靴下」

 今はこのハイテンションのおかげで、寒さもあまり分かっていないようだが、気温が低いのは事実なので、亮は睦月に防寒対策を講じるよう促す。

「外行こ、亮、外行こう!」
「はぁ? 行ってどうすんの? 寒いじゃん」
「雪触る!」

 触る、て…。
 触ってどうするの? と聞いたところで、このテンションの睦月に、亮の真意が伝わるとは思えないので、「そっか…」とだけ答えた。

「りょお~! 外~!」
「えー、もうマジ~?」

 どうしても外に出る気満々の睦月に折れて、亮は着替えて支度を始めるが、何より外に出たがっている睦月は、最初と同じ格好のままだ。まさかこのまま出る気なんだろうか。

「睦月、着替えてよ。絶対寒いから。つか、パジャマのままでもいいけど、コート! 靴下!」
「ぎゃひっ」
「え、何? 何つったの、今」
「あひゃひゃひゃひゃ」

 何だかよく分からない言葉を発した睦月は、それでも笑顔全開だ。
 亮がギョッとした顔で聞き返しても、睦月は腹を抱えて笑っているだけで、我が恋人ながら、ちょっと大丈夫かな…? と思わずにはいられない。

「睦月、着替えるの? パジャマのままにするの?」
「着替えま~す! ひぃっ!」
「ちょっ…、いちいち変な相槌みたいの入れるのやめてよ、笑っちゃうから」

 寒いくせに、パーカーもパジャマも全部脱ぎ去って、パンツ1枚の姿になった睦月が、ゴソゴソとクロゼットの中を漁り始める。
 順番からして、先に着る物を出しておけば、寒い思いをする時間が短くて済むと思うのだが…。

 亮は、今度こそ暖かい服装に着替え、靴下も履いた睦月にコートを着せてやり、グルグルとマフラーを巻いてやる。

「帽子いいの?」
「被る!」

 準備万端! と言うように、部屋を飛び出そうとした睦月に声を掛けたら、睦月は急ブレーキで戻って来た。
 ふわふわ・もこもこの、睦月のお気に入りの帽子。



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2. テンションが上がると奇声を発するところ (3)


「はいっ、早く!」

 もう待ち切れない睦月は、部屋の鍵を掛けている亮を置いて、集合玄関に向かう階段を駆け下りて行った。
 亮のことなんてすっかりほったらかしの睦月に、亮は、このまま鍵を開け直してもう1度ベッドに戻り直したい気分だったが、行かなかったら行かなかったで拗ねられそうなので、仕方なく睦月の後を追った。

 亮たちが住む寮の敷地は、建物の周りには、庭とも呼べないほどの狭さの、手入れのされていない芝生のスペースがあって、入寮者が好きなように使っている。
 今朝はその芝生の上にも2センチほどの雪が積もっていた。

「亮、亮っ、早く! 早くっ!」
「睦月、ちょっ、もうちょっと静かにしてっ…」

 朝の7時半はもう早朝と言うべき時間ではないかもしれないが、休日で、しかも大学生ばかりが住む寮の敷地の一角なのだ、みんなまだ寝ているに決まっている。
 こんな時間に大きな声で騒いでいたら、迷惑千万もいいところだ。

「むつ……ぶっ!」
「ぎゃはっ」

 しかし、はしゃぎ回っている睦月を取り押さえようとした亮の顔に、融け掛けた雪の塊がヒットした。
 投げ付けたのは、もちろん睦月だ。

「ちょっ…睦月っ!」

 いくら恋人とはいえ、この傍若無人な行いに対しては、怒らないわけにはいかない。
 それに、こんな時間から騒いで、後で文句を言われないためにも、大人しくさせなければ。

 そう思うのに、肝心の睦月といえば、自分が悪いことをしたなど微塵も思っていないようで、雪を手で掬っては上に放り投げて、自分でその雪を浴びている。

「ちょっちょっ睦月、何して…」

 自分で自分に雪を掛け捲っている睦月に、亮の怒りは心配へと変わった。
 いくら何でも、テンションが上がり過ぎだ。

「ぎひー!」
「ちょっ、睦月!」
「うわっ」

 テンションが上がり過ぎて奇声を発している睦月を、亮はようやく捕獲したが、睦月はその腕の中から抜け出そうと暴れ捲る。

「睦月、分かったから、もうちょっと小っちゃい声で。ねっ?」
「に゛~」
「つか手袋は!?」

 部屋を出る前に、ちゃんと手袋も着けさせたはずなのに、なぜか今は手袋も何もしていなくて、冷たくて睦月の手は真っ赤になっている。

「亮、離してぇ~」
「睦月、手袋! どこやったの?」
「あっち!」
「えぇ? あっ」

 亮が、『あっち』と睦月が指差した方向に気を取られている隙に、睦月は亮の腕の中を抜け出し、また雪の中を駆けて行った。



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2. テンションが上がると奇声を発するところ (4)


「手袋っ! ふぁあっ!」
「はっ!?」

 地面に放り投げてあった手袋を手にした睦月は、それを自分で着けるのではなく、なぜか亮のほうに放り投げて来た。
 意味は分からないが、亮は反射的にそれを受け止めた。

「何で俺に寄越すの!? 着けてよ!」

 もうまったく手の付けられない睦月に、亮はがっくりと肩を落とした。
 睦月が散々駆け回るものだから、雪の上には足跡がいっぱいで、この分だと、そう時間が経たないうちに雪はみんな消えてしまうだろう。そうすれば、少しは睦月も落ち着くに違いない。

「…何だ、お前らかよ。朝っぱらから何してんの?」
「えっ? あ、潤くん」

 もう1度睦月を捕獲しようかどうしようか悩んでいた亮は、背後から突然掛けられた声に、ビクッと肩を跳ね上げた。
 そこにいたのは同じく寮に住む潤で、眠そうな、ひどく呆れたような顔をしていた。まさか、睦月の声がうるさすぎて、起こしちゃったとか?

「悪ぃ、起こした?」
「いや、今帰って来たトコ。中入ろうと思ったら、何か変な声すっから、何かと思って」
「だって睦月が、雪降ったから外行こう、てうるさくて…」
「ガキかよ」

 亮が再び睦月に視線を向ければ、こちらに背を向けてしゃがみ込んでいる睦月は、ゴソゴソと何かしている(とりあえず静かになってくれてよかった)。

「つか、潤くん、朝帰り?」
「悪ぃかよ」
「別に~。ただ、今日休みの日なのに、随分朝早くから帰って来るなぁ~て思って」
「うるせぇよ」

 何となく見透かした口振りの亮に、潤は蹴りを入れてやる。
 潤だって、休日のこんな朝早く、しかも雪まで降った日に、寮にのこのこ帰ってこようとは思っていなかったし、思ってもみなかったのだが。

「亮、りょお~、見てぇ~! 雪だるまっ!」

 そんな2人のやり取りなど聞いてもいなかった睦月が、パタパタと駆け寄って来た。
 その言葉どおり、睦月の手には小さな雪だるまが乗っている。
 しかも、ご丁寧に、雪の下から芝生を少々毟って目と口も付けてあるのだが、さすが不器用な睦月が作っただけあって、頭も体もボコボコだし、よく見れば、頭のほうが体より大きい気がする。

「あ、潤くん、おはよ。ね、ね、見て、雪だるま!」
「あっそ」

 雪が降っても、睦月のように嬉しくはない潤の態度は素っ気ない。
 こうなると、いつもだったら拗ねまくるくせに、テンションの高い睦月はそんなことまったく気にならないのか、「雪だるま!」とそれを空に向かって掲げている。

「あのさ、潤くん。ちゃんと相手してやって? 睦月、起きた瞬間からずっとこのテンションで、俺、ずっとこれに付き合わされてんだから」
「知るかよ」

 その話を聞いて、潤は若干憐れむように亮を見たが、悪いけれど、寒いし面倒くさいから、亮の代わりに睦月の相手をしてやる気は更々ない。



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潤くんは、「キャンディじゃなくてキスが欲しいよ」にちょこっと出てきた、寮に住んでる人ですよー。
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2. テンションが上がると奇声を発するところ (5)


「ちょっ、ねっ、手冷たい!」
「だから手袋しなってば」

 今さらのようにそんなこと言う睦月に、亮は先ほど投げ付けられた手袋を差し出す。
 すると睦月はちょっと悩んでから、「はいっ」と潤のほうに雪だるまを突き付けたが、意味の分からない潤はもちろん、訝しげに睦月を見るだけだ。

「…何?」
「手袋するから、ちょっと持ってて!」
「はぁ?」

 片手が塞がっていては、手袋が出来ない。
 だから、手袋を装着する間、代わりに雪だるまを持っていろ、ということらしい。

 潤は柳眉を顰めて怪訝そうな顔をしたが、構わず睦月は潤に雪だるまを押し付けた。

「ね、亮っ、手すごい冷たいっ!!」
「冷てっ、触んなよっ」

 変な声を上げながら、冷え切った手を亮の頬に押し付けてくる睦月に、亮は上体を反らしてよけようとするが、手袋をすると言った睦月がなかなかそれを受け取らないから、逃げるに逃げられない。

「睦月、手袋! 早く!」
「ぎゃはー!」

 睦月の手を冷たがる亮の反応がよほどツボにはまったのか、手袋を着けると言ったはずの睦月は、そうすることもせずに、亮の顔やら首やらに手を伸ばしてくる。

「ちょっ、やめっ…」
「ひゃははは! ッ、!!?? に゛ゃ~~~~~!!!!!」

 嫌がる亮にペタペタと手を押し付けていた睦月は、突然頬に触れたものに、引っ繰り返った悲鳴を上げて飛び上がると、一体何事かとキョロキョロ辺りを見回す。

「なっ、な何っ!? あ、潤くん!?」
「早くしろよ、お前」

 睦月に雪だるまを持たされたきり放置されていた潤が、苛立って、持っていた雪だるまを睦月の頬にくっ付けたのだ。

「あはは、すまんすまん」
「全然気持ち籠ってねぇ!」

 相変わらずまったく悪びれる様子のない睦月は、手袋を着けると潤から雪だるまを受け取った。

「ったく。やってろよ」

 潤はガシガシと頭を掻きながら、2人に背を向けた。

「えー、潤くん行っちゃうの~? 一緒に遊ぼ~よぉ~」
「ヤダよ、寒ぃ。それに俺がいるより、2人きりのほうがいいだろ? なぁ、亮」

 チラッと振り返った潤が、先ほどの仕返しとばかりに、亮にニヤリと笑って見せた。

「え、ちょっ…」

 亮と睦月が付き合っていること、もちろん亮は潤に話してはいないし、睦月がそんなこと言うとも思えない。かといって、自分の友人たちがわざわざ潤にそんなことを言い触らすとも思えない。
 なら、一体どうして? と焦る亮に、潤はしてやったりという顔をして、潤は再び背を向けた。

(えー……まさか、ねぇ…?)



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2. テンションが上がると奇声を発するところ (6)


 亮が内心穏やかならぬ気持ちで潤の背中を見送っていたら、その横をさっと何かが通り抜けて行った気がした――――次の瞬間。

「イテッ」

 建物を角を曲がろうとした潤が、変な声を上げて、カクッと前につんのめった。
 亮には最初、何が起こったのか分からなかった。しかし少し後ろから聞こえた睦月のバカ笑いと、潤の頭に着いた雪を見て、ようやく事の次第を悟った。
 睦月が潤に向かって、雪玉をぶつけたのだ。

「てめっ」
「ひゃはー!」

 当然潤は怒りを露わにするが、テンションの上がり切った睦月は、潤が部屋に戻るのを引き止められたことに喜んでいて、そんなことまるで気付いていない。

「むっちゃん、ゴメンなさい、でしょ!?」
「にゃっ!」

 ゲラゲラ笑っている睦月の頭を押さえ付けて、亮は無理やり睦月の頭を下げさせた。
 何となく、潤だけは敵に回してはいけない、と本能がそう諭しているのだ。

「ゴメ…なさぁいっ」

 怒られた子どもが拗ねて仕方なく謝るのと同じ口調で、睦月はようやく潤に謝罪の言葉を口にした。
 その仕草に、潤は怒る気力もすっかり失せて、「勝手にやってろよ」と言って、今度こそ立ち去っていった。

「あ~あ、潤くん行っちゃった…」
「睦月が怒らせたからだよ」
「ぬぅ~~~~……ちゃんと謝ったもんっ」
「ブッ!」

 いきなり目の前が白くなった、と思ったら、顔面が痛いような冷たいような感覚が走った。
 亮は今度こそ、すぐに何だか分かった。睦月が、持っていた雪だるまを亮の顔面にぶつけたのだ。
 まったく、何度やっても懲りないらしい。

「睦月っ!」
「ぎゃはー!」

 あぁもう。
 これだけの暴挙を働いておきながら、どうしてそんな無邪気な笑顔でいられるんだろう。これじゃあ、怒るに怒れない。
 …いや、こういうときにちゃんと怒らないから、睦月がこうなってしまったのか。

「りょお~」

 笑いながら集合玄関のほうに逃げ去った睦月が、建物の陰からひょこっと顔を覗かせた。
 まさか、この期に及んで何か仕出かす気か? と亮は一瞬身構えたのだが。

「ゴメンね、亮」

 意外にも素直に、そして誰かに言わされるのでなく、睦月はしおらしく亮に謝って来た。

「…」

 あぁ、結局こうやって亮はまた、睦月のことを許してしまうのだ。
 だってしょうがない。
 雪が降っただけで、こんなにテンションを上げちゃう睦月のことを、愛しちゃってるんだから。

「…部屋戻ろっか、むっちゃん。寒いし」
「戻ろう戻ろう。明日また雪だるま作るために、今日はもう寝よう」
「まだ朝だよ。しかも明日の予報、雪じゃねぇし」
「ぎゃひっ」
「だから何それっ!」



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3. 悪気は無いこと『だけ』は伝わってくるところ (1)


「今日は最高の天気だぜーっ!」

「イエェ~イ!!」

「最高の遊園地日和だぜーっ!!」

「イエェ~~イ!!!」

「絶叫マシン乗りまくるぜーーっ!!」

「イエェ~~~~~~イ!!!!」


 寮の一室、朝7時。
 カーテン全開、窓まで開けて外の天気を確認した後、テンション高く掛け声を掛け合っているのは睦月1人。
 部屋には同室者であり恋人の亮もいるが、睦月の元気いっぱいの呼び掛けに、『イエェ~イ!!』と元気よく返事をしているのは、他ならぬ睦月自身なのである。

「むっちゃん、お願いだから、声もうちょっと小さくしてね…」

 ただでさえ部屋の壁は薄いから、廊下や隣室に声は響きやすいのに、今はわざわざ窓まで開けてあるのだ。睦月の一人二役の掛け声が、外まで丸聞こえなのも甚だしい。

「亮っ、何ゆってんのっ! これっ、このっ、超いい天気だよっ! やったぁー!!!」
「分かった、分かったからっ、ドタバタすんなって」
「にゅぅ」

 嬉しさのあまり、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた睦月を取り押さえると、何を思ったのか、睦月が亮を抱き締め返してくるから、朝っぱらから2人で抱き合うはめに。
 いや、恋人としては嬉しい状況なんだけれど、とにかく睦月を落ち着かせないと。

「んぅ~~~、亮、今日晴れたら一緒に遊園地行く、てゆった」
「分かってるってば。行かねぇなんて言ってねぇじゃん。行くから、だから睦月、もうちょっと静かにして。まだ7時」
「ん」

 シーッ! と、子どもに言うようにしたら、睦月は素直に口を結んで、コクンと頷いた。
 こんなときだけいい子になるなんて、反則だ。

「はい、亮、早く支度して!」
「はいはい」

 いつもだったら、亮が散々起こして、寝惚けたままご飯と着替えとその他諸々の支度をして、あくび混じりに学校に向かう睦月が、遊園地に行ける嬉しさから、1人でこんなにキビキビと動いている。
 理由はともかく、何となく独り立ちできているような気がして、ちょっとだけ喜ばしい。

 しかし、それはそうと、亮のテンションはあまり上がらない。昨日、どういう流れからか、天気がよければ遊園地に行こう、という話になり、どういうわけか亮は、それを了承してしまったのである。
 そして今日の天気は晴れ。
 睦月が朝から叫んでいるとおり、今日は遊園地に行くことになったのだ。テンションなんか、上がるわけがない。

 いや、恋人同士のお出かけスポットとして、遊園地が候補に挙がることは何ら不思議ではないし、亮だって、そういう場所が特別嫌いなわけではないのだ。
 ただ亮の場合、遊園地自体は嫌いでないものの、絶叫マシンは大の苦手なのである。とにかく嫌い。嫌。大っ嫌い。なぜなら怖いから。グワッてなって、ブワーッてなって、ギャーーーてなるのが怖いの。



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3. 悪気は無いこと『だけ』は伝わってくるところ (2)


 なのに睦月ときたら、そんな絶叫マシンが大好きなのだから堪らない。
 以前、亮が怖いから無理と断ったことで、睦月は翔真と一緒に遊園地に行ったのだが、そのときは全部で15回も絶叫マシンに乗ったらしい。
 1日にそんなに乗れるものなの? 人の体的に。そして時間的に。ずっと乗りっ放し? 園内にいる間、ずっと絶叫しっ放し?

 ――――そんなの、絶対に堪えられないっ!!!!

「亮、支度できた? 早く行こっ?」

 やっぱり今日のお出かけは中止しよう。いや、出かけるとしても、遊園地じゃなくて違うところにしよう――――そう言おうとした亮の気持ちを知ってか知らずか、睦月はニコッとかわいらしい笑顔を向けてくれる。
 危うく絆されそうになって、亮はブンブンと首を振った。
 どんなに睦月がかわいくたって、絶叫マシンの怖さに比べたら、それを乗り越える勇気はどうやったって湧いてこない。

「あの、睦月、あのね、」
「亮、早くぅ~」
「…はい」

 …結局、絆されてしまいました。



*****

「亮、あっち! 早く!」

 まだ開園して間もない時間なのに、すでに混雑し始めている遊園地で、亮の腕を引っ張って睦月が連れて行ったのは、早速絶叫マシンだった。

「ちょっ、待っ、睦月…」

 待って待って待って!
 まだ全然心の準備が出来てなぁ~~~~いっ!!

「もう、亮! 早く並んで、サクサクこなしてかないと、いっぱい乗れないじゃんっ」

 ぐずる亮に向かって、睦月がビシッと言い放つ。
 やっぱり絶叫マシンに乗る気なのだ、睦月は。しかも、いっぱい。
 前に言ったよね? 俺、言ったよね? 絶叫マシン嫌いだって。

(なのに、いっぱい乗るのぉ~~~~!!!???)

 睦月の言葉に、亮がパニックに陥っているうちに、2人の番はすぐにやって来た。
 まずは一般的な感じのジェットコースター。
 クルリと回れ右をして、今来た道を戻したい気分の亮を無視して、人の流れに沿って2人の体はジェットコースターに乗り込むことになり、そして安全バーに固定される。

「ヒッ…」

 ガタッ…と車輪が動いた瞬間、亮の口からか細い声が漏れた。
 安全バーを握り締め、ギュッと目を瞑る。
 無理。無理無理無理無理無理、もう無理。もう無理だってばぁ~~~~~~!!!!



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3. 悪気は無いこと『だけ』は伝わってくるところ (3)


「ッッッッ!!!!!」

 ギャ~~~!! とか、ワァ~~~!! とか、絶叫マシンに付き物の悲鳴を上げることも出来ず、亮は固く目を瞑ったまま、ただ時が過ぎるのを待ち続けた。
 途中、体がブワンと放り出されそうな感覚になったり、グルングルンと回転したり、でも亮は目を開けていないから、何が起こっているか分からない。
 いや、分かりたくもない。

(は…早くっ…)

 飛びそうになる意識の中、亮が心の中でがんばってお祈りした声が通じたのか、ガタン、と急にコースターの動きがゆっくりになった。
 終わった? これで終わり? やっと解放された……と、ホッとした亮が目を開けた瞬間。

「ッ…!」

 そこは最初にコースターに乗り込んだ場所ではなく、地上数十メートルの景色が広がっている。レールの先がない。いや、ないわけではなくて、ほぼ垂直に下に向かって伸びているから、視界に入らないだけだ。
 そんな位置に、コースターが停車している。
 な…何で? と亮が思ったのは、一瞬のことだった。
 その答えを脳が導き出す前に、コースターはゆっくりと傾き、そしてそのレールに沿って、加速しながら滑り落ちて行ったのだ。

「※@☆%$*△&★¥!!!???」

 一瞬ホッとした後だったから、余計にヤバかった。目も開けていたし。
 亮は、言葉にならない悲鳴を上げ、そのままの形で固まった。
 そんな亮に、もちろん構うことなく、ジェットコースターは決められたコースを勢いよく走り続け、ようやく終点に辿り着いた。

「ふー、おもしろかったぁ」

 安全バーが上がり、みんなが怖かっただのおもしろかっただの感想を言いながら降りていくが、亮は立ち上がることもままならない。
 次のお客のためにも早く降りなければ、と思うのだが、体が思うように動かないのだ。

「亮? 大丈夫?」

 先に降りた隣の睦月が、固まったままの亮を不思議そうに振り返った。
 それから少しだけ片眉を上げ、亮の腕を掴んで無理やり立ち上がらせると、ジェットコースターから引き摺り下ろした。次のお客が邪魔そうに亮を見ていたから。

「亮、こんなんでそんななってたら、他の、乗れないよ?」
「乗らなくていい…」

 亮はグッタリしながら、睦月の後に付いていく。
 冗談抜きで、もう帰りたい気分だ。

「でも前に約束したじゃん!」
「な…何を?」
「前、観覧車乗ったじゃん。あんとき、次来たときは、他のも乗るってゆった!」
「うっ…」

 言われてみれば。
 以前、和衣が学園祭の女装コンテストで獲得した旅行券で、睦月と2人でちょっとばかしいいホテルに泊まったのだが、途中で、遊園地の観覧車に2人で乗ったのだ。
 あのときは、時間的にも…とか、今日の目的はいいホテルに泊まることだし…とか何とか適当な理由を付けて、観覧車以外のアトラクションは免れたのだが、そのとき、次は他のにも乗るのだと約束したのだ。



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3. 悪気は無いこと『だけ』は伝わってくるところ (4)


(いや、確かに約束はしたけど…)

 でもそれは、『他のにも乗る』という約束であって、『絶叫マシンに乗る』という、ましてやそれに何度も、幾種類も乗る、というものではなかったはずだ。
 でも睦月にとっては、『観覧車以外のアトラクション=絶叫マシン』らしく、約束したのにっ! と頬を膨らませている。

「分かったっ、分かったからそんな顔しないで!」

 すっごいかわいいから。
 抱き締めたくなっちゃうから!!

 そしてまた絆された亮は、次なる絶叫マシンに連れて行かれるのだった。



*****

「無理っ、もぉ~~~~無理っ!! 睦月が何と言おうと、もう無理ですっ!」

 ジェットコースターに始まり、フリーフォール、バイキング……と、次々に睦月に引っ張り回された亮だったが、4台目を乗り終えたところで、空いていたベンチにどっかりと座り込み、そう喚いた。
 いくら睦月がかわいくても、もう無理なものは無理だ。
 大の苦手の絶叫マシンに、もう4台も乗ったのだ。それで十分じゃないか。これだけがんばれば、もう十分でしょう? ねぇ?

「まだ4個しか乗ってないよ?」
「4個も乗りました」
「ショウちゃんとは、15回も乗ったよ?」
「俺はショウじゃねぇ」

 ベンチに座る亮の前に立った睦月は、唇を尖らせて言い募るが、亮はいい返事をしない。
 そんなに拒否らなくても。

「つか、亮て、ゆっちよりもヘタレなんだね」
「ッ!!!????」

 何気なく言った睦月の一言は、その一言は亮を絶句させ、固まらせるのには十分すぎるほどの威力を持っていたが、そんなことに気付くわけもない睦月は、話を続ける。

「ゆっちもさぁ、絶叫系とか超苦手だけど、もうちょっと乗れるよ?」
「!?」
「俺、ゆっちと亮だったら、ゆっちのほうがヘタレだと思ってたのに」
「……」

 睦月は、亮より祐介のほうがヘタレだと思っていたらしいが、そんなの亮だって同じだ。
 自分の性格がヘタレなのは承知しているが、和衣には悪いが、祐介よりはマシだと思っていたのに。

(ガーン…)

 まさかそのことを睦月に指摘されようとは。
 密かにショックを受けて落ち込んでいる亮をよそに、睦月は何も言わず亮の前から去っていった。もしかして、祐介よりもヘタレの亮に呆れて、1人で絶叫マシンに乗りに行ったのだろうか。
 亮としては、もう絶叫マシンに乗らなくて済むのなら、それに越したことはないけれど、睦月に呆れられるのは嫌だし、こんなところに見捨てられたままなのも嫌だ。



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3. 悪気は無いこと『だけ』は伝わってくるところ (5)


「むっ…むっちゃん、待っ…」
「ホラ」
「え」

 慌てて睦月の後を追い掛けたら、なぜか睦月はこちらに引き返してきて、そして亮の目の前に何かを突き付けて来た。
 見ればそれは、缶コーラだった。

「ん?」
「飲めよ」

 戸惑っている亮に、睦月は無理やりコーラの缶を押し付けた。
 ぶっきら棒な言い方だが、一応、亮のことを心配してくれているらしい。

「さっきのトコ、座ろ? まだ空いてっかな?」

 睦月に言われるがまま、先ほどまでいたベンチに2人で腰掛ける。
 亮は、チラッと睦月の様子を窺ってから、缶を開けた。

「はぁ~…」

 冷えたコーラを一気に半分ほど飲んで、亮は大きく息をついた。
 ようやく人心地が付いた気分だ。

「ったく、しょうがねぇなぁ、亮は」

 そんな亮に、睦月は容赦ない言葉を投げ付ける。
 亮は軽く傷付くが、睦月に悪びれたふうはない――――そう、睦月に悪気はないのだ。
 祐介よりもヘタレだと言った言葉も、しょうがねぇなぁ、と呆れて吐いたセリフも、睦月にしたら、全然まったく何の悪気もないのである。

「ん? どうしたー亮。復活した?」
「あー…いや…」

 これだけヘタレだと言われたら、少しくらいは格好つけて、ビシッと言い返してやりたいところだが、『もう大丈夫』と答えると、再び絶叫マシンに乗せられるのかと思ったら、亮は思わず口籠ってしまった。

「…………」

 隣の睦月は、ジーッと亮の横顔を見つめている。
 亮は、ぅん? と睦月を見遣る。俺の顔、何か付いてる?

「やっぱ亮て、ヘタレだなぁ」

 キッパリすっぱりそう言い放って、睦月は唖然とする亮の手からコーラの缶を奪い取って飲み干した。
 そして最高の笑顔を見せる。

「じゃあ、そのヘタレを克服するために、次の絶叫マシン乗りに行こぉ~!」
「えっ、えぇ~~~~!!!!???」

 慌てる亮の手を掴んで、ベンチから無理やり立たせる。
 そして亮は、そのさっぱり悪気のない笑顔に、またもや絆されるのであった(だってかわいいしっ!)。



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4. いい匂いにつられてフラフラと消えるところ (1)


「あ、むっちゃんがいない」

 そう漏らしたのは、和衣だった。
 今日の授業がすべて終わって教室を出たところで、翔真は真大と約束があるからと別れ、後はこのまま寮に帰ろうか、どこかに寄ろうか、なんて話しているところだった。
 学校を出て少し歩いたところで、ふと気が付いた――――睦月の姿がない。

 そのとき亮は祐介と話をしていて、その後ろで、和衣と睦月が話しながら歩いていたのだが、途中でメールが来たので、和衣は睦月に断わって返信の文章を打ち始めた。
 和衣は今どきの子にしては珍しく、メールを打つのが遅いから、相変わらずモタモタ文字を打ち込んで、やっと返信した! と思って顔を上げたら、もうそこに睦月はいなかったのである。

「は? え、マジ?」

 何言ってんだ? と訝しげに振り返った亮は、しかし和衣の言葉どおり、本当に睦月の姿がないことに気が付いて慌てた。

「だってカズ、お前、睦月と話してたんじゃねぇの?」
「してた。でも途中でメール来て、返信してた」
「だとしても、隣にいるヤツがいなくなったら、気付くだろ、フツー!」
「だから気付いたじゃん!」
「完全にいなくなってから気付いたって、遅ぇよ!」

 亮が頭ごなしに怒鳴り付けてくるから、和衣もついムキになって言い返してしまったが、亮の言うとおり、前を歩いていた亮と祐介はともかく、隣にいた和衣なら、睦月の姿が完全に見えなくなる前に気付くのが普通だろう。
 それは和衣にも分かる。
 分かるけれど、そんなこと言われたって、納得いかない。

「だって、普通いなくなるとか思わないじゃんっ!」
「そりゃそうだけど!」

 あーもうっ! と亮は地団駄を踏む。
 隣にいた人がいなくなったのに気付かない和衣も和衣だが、そんなこと思いも寄らないと言う和衣の主張も間違ってはいない。普通は、いきなり何も言わず、いなくなったりはしないから。
 しかし睦月に限っては、その『普通』がいつでも通用するわけではないのだ。

「あーん、むっちゃ~んっ!」

 どこ行ったのぉ~!? と和衣は軽くパニックだ。
 まさか、こんな白昼堂々の誘拐!? 和衣がメールに集中しすぎてたから!?

「どどどどーしよう、亮、祐介!!」
「どーしよう、て!」
「つか、あそこいるの、睦月じゃね?」

 和衣だけでなく、珍しく亮まで慌てふためいている中、唯一冷静だった祐介が指差したのは、路肩に停められた1台のワゴン車。クレープ屋さんの看板が下がっていて、親子連れと女の子のグループが並んでいる。
 その列の後ろに、睦月はいた。

「え、むっちゃん、並んでんの…? クレープ??」
「あの感じからして、食う気満々じゃね?」
「とりあえず連れ戻そう」



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4. いい匂いにつられてフラフラと消えるところ (2)


 慌てる亮たちをよそに(祐介は慌てているというより呆れているが)、睦月は女の子のグループの後ろでちょっと背伸びをして、クレープを作っているところを覗いている。
 あの様子からして、やはり睦月は、クレープを食べる気のようだ。

「むっちゃんっ」
「ん? あ、カズちゃん、何?」
「何、じゃなくて」

 急いで戻って来た3人に、睦月は『どうしたの?』と言わんばかりに、キョトンと小首を傾げている。
 どうやら事の次第を、本当に分かっていないらしい。

「何してんの?」

 クレープ屋さんの列に並んでいる以上、それを買うのだということは、聞かなくなって本当は分かるんだけれど、それが俄かに信じられなくて、和衣は突っ込みもかねて聞いてみた。
 だって睦月は、今日のお昼、デザートにプリンが付いた日替わりランチを食べて、甘いものがそんなに好きでない亮からも、そのプリンを貰って食べたのだ。
 なのに、今からさらにクレープ?

「いい匂い」
「え…うん、分かるけど。食うの?」
「カズちゃんも食う?」
「いい…」

 やはり睦月は、この期に及んでクレープを食べる気らしい。
 和衣にも勧めてくれるが、和衣も、お昼には睦月と同じプリンを食べたのだ。甘いものは好きだけれど、1日にそんなにたくさんは…。

「睦月、お昼に俺のプリンも上げたでしょ? なのにまだ食う気?」

 和衣に続いて、亮も怪訝そうな顔をするが(祐介は、言うまでもなく、ずっと呆れ顔だ)、睦月は気にすることなく、クレープの出来上がる様子を見つめている――――本気だ。
 だが、そんな睦月の前に立ち塞がったのは、和衣だった。

「むっちゃん、そんなに甘い物ばっか食べてちゃダメだよ」
「ぅ? そう? 食べ過ぎ? ダメ?」
「ダーメ!」

 亮や祐介の言うことには、つい反論してしまう睦月だが、お小言を言ってくる相手が和衣や翔真の場合、わりと素直に言うことを聞くタチのようで、このたびも少し考えたふうではあったが「分かった」と納得した。

「てか、むっちゃん、急にいなくなっちゃうから、ビックリしたんだからね」
「えへへ」

 基本、亮も祐介も睦月に対して過保護だが、和衣の場合、単に過保護というより、祐介以上に父親…というか母親要素が強いので、最近、睦月をちゃんと叱ってあげる役目は和衣のことが多い。
 和衣に叱られて、睦月は笑って眉を下げた。


(そういえば、同じような光景を、こないだ見た…)

 和衣相手とはいえ、相変わらず、怒られてもあんまり悪びれた様子のない睦月を見ながら、ふと亮は、先日一緒に映画を見に行ったときのことを思い出した。

 女の子とのデートで見るような、甘ったるいロマンチックな映画でなくて、子どもから大人まで人気のアニメ。見たいと言い出したのは睦月で、亮も二つ返事でOKしたときのこと。



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4. いい匂いにつられてフラフラと消えるところ (3)


 始まるまでの時間、グッズとかを売っているコーナーで、睦月は何か買おうか迷っていて、亮は隣のコーナーに並んでいた映画雑誌を適当に捲っていた。

 時間にして、ほんの数分。
 いや、もしかしたら1分にも満たなかったかもしれない。
 なのに、次に亮が雑誌から顔を上げたときにはもう、睦月の姿がそこにはなかった。

 もちろん亮は、思わず『はぁ~?』と言った。
 いや、口に出しては言わなかったと思う。でも心の中では、『はぁっ!?』て感じだった。
 だって、そんなに広くない売場、見回して視界に入らないわけがないし、チケットは亮が持っているから、先に中にも入れないはずなのに、一体どこに行くところがあるというのだ。

 ト…トイレ? いやいやいや、ここに来る直前に行ったでしょ。さすがにそこまでトイレ近くないでしょ。お腹痛いの? ――――て、そんなわけねぇし!
 …と、焦りから亮が1人乗り突っ込みをしていたら(睦月の場合、お腹痛いとか、言うのを我慢する子じゃないから)、何とも呆気なく睦月の姿を発見した。
 睦月は、ドリンクやフードを売っているコーナーで、レジの列に並んでいたのだ。

 亮は今度こそ本当に『はぁ~…』と口にして、雑誌を元に戻すと、睦月のもとに向かった。

『睦月、』
『あ、亮、ポップコーン、ポップコーン! キャラメルのヤツ! いい匂~い!』

 これから映画だから、定番どおりポップコーンでも何でも買えばいいし、もう小さい子どもでもないから、亮に黙ってその売り場に行ったからって、叱るようなことではないんだけれど、相手が睦月なので、亮は一応、ちょっと怒ってますよー的な雰囲気を出して名前を呼んだのに、睦月にはまったく通じていなくて、ただ素直に嬉しそうにしている。

(すっげー食いたそうな顔してる…)

 どうやらキャラメルポップコーンの甘い匂いに誘惑されたらしく、これから始まる映画が楽しみ、というより、確実に目の前のポップコーンの虜になっていた。



 …そのときの顔が、今クレープ屋さんに並んで、自分の番が回ってくるのを待っていた表情と、まったく同じだった。

 いや、睦月が甘いもの大好きなのは知っている。
 和衣ですら、『むっちゃん、甘いもの食べ過ぎー!』と、今だけでなく何度も言っているくらいに、相当。

 ――――だとしても。
 いい匂いにつられて、いなくなっちゃうとか。

 小 学 生 で す か。

 人知れず溜め息をつく亮を尻目に、もう2度と睦月を見失うまいと言わんばかりの意気込みで、和衣が睦月の隣を歩いている。
 もう20年からの付き合いになるけれど、相変わらずおもしろい幼馴染みだ。

「むっちゃん、知らない人に『お菓子上げる』て言われても、付いてっちゃダメだよ?」

 そうは言っても、睦月はもう21歳の大学生で、決して小学生ではないのだが、和衣は本気で真剣に睦月に言って聞かせている。
 さすがにこれには祐介も苦笑しているが、睦月は睦月で、小学生みたく「はいっ!」と元気よく返事をするから、亮も思わず吹き出した。



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4. いい匂いにつられてフラフラと消えるところ (4)


「大丈夫。知らない人の時点で、付いていかない」

 自信満々に言ってのける睦月に、確かにそうだ…と、みんなが納得する。
 相変わらず睦月は、人見知り全開なのだ。

「でも、知らない人に付いていかなくても、いい匂いにつられていなくなっちゃってる時点でダメだけどな」

 実は意外と毒舌な祐介がボソッと言ったら、それはしっかりと睦月の耳に届いていて、「うるせぇ」と蹴っ飛ばされた。



*****

「ねぇねぇ、亮~」

 部屋に戻ってきたら、睦月が上着も脱がないまま、ポフンとベッドに飛び込んだので、亮は思わず「むっちゃん、」と子どもを叱るような口調で言ってしまった。
 祐介や和衣は、睦月のお母さん代わりでもお父さん代わりでもいいけれど、亮は飽く迄も睦月の恋人なのに。

「何、どうしたの? お腹空いた?」

 ベッドの上でうにゃうにゃしている睦月に声を掛ければ、睦月はピタッと動きを止めて、「違ぇ」と亮を睨んだ。
 そんな…睨まなくても。

「俺、思ったんだけどね、」
「何」
「俺、ダメだね」
「…………。何が?」

 唐突に切り出された睦月の話に、亮は少し考えてみたが、やっぱり意味が分からなくて、聞き返した。
 ダメ、て……何が?

「だからね、亮。俺は生まれ変わる、今から」
「は?」

 睦月の話があまりに突拍子もなさ過ぎて、何を聞き返したらいいかも分からず、亮はただポカンとしてしまう。
 その前に言った『俺、ダメだね』と併せて考えると、睦月は、何かしらが原因で自分のことをダメだと思い、だからこそ生まれ変わらなければ、と感じたのだろうが……そうだとしても、やっぱり意味が分からない。
 何なの、その突如の生まれ変わる宣言。

「俺は今から、いい匂いがしても、フラフラどこかに行きません!」
「……………………」

 ガバッと起き上がった睦月が、そのままベッドの上で仁王立ちになって、自信満々に、堂々とそんな宣言をするから――――亮は今度こそ、本気で絶句した。
 …だってそうでしょう?

 何ですか、その宣言!



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4. いい匂いにつられてフラフラと消えるところ (5)


「………………」
「………………」
「…………秋月さん」
「……何でしょう、上原さん」
「なぜ黙っているの?」

 まったく無反応で固まっている亮に、睦月は腰に両手を当てたまま、コテンと首を横に倒した。
 どうやら、もっとこう…『おぉ~~!!』みたいな反応が欲しかったらしい。

(いやだって、そんなのわざわざ宣言するようなこと!?)

 それは、わざわざ言わなくても、みんな分かっているというか、暗黙の了解というか、そういうものだと思う。
 それをこんなに真剣に言われてしまうと。

「…んだよ、もぉ~。カズちゃんが気を付けなさい、て言うし、こないだも映画見にいったとき、亮がいつの間にかいなくなんないでよ、とか言ったから、ちゃんとしようと思ったのに!」

 プン! という感じに分かりやすく拗ねた睦月は、ぴょんとベッドから降りて、上着を片付けに向かう。
 あちゃー、機嫌損ねちゃった…と亮は頭を掻くが、それにしても、この間の映画のポップコーン事件を覚えていたのは、亮だけではなかったのだと思ったら、少しだけ心が擽ったかった。
 あのくらいのこと、睦月の中では些細なこと過ぎて、いつものこと過ぎて、忘れ去られていたと思っていたのに。

「ゴメンゴメン、むっちゃん。ちゃんとしようと思ったんだね」

 不謹慎にも、ちょっとだけ嬉しい気持ちになりながら、亮は睦月の後を追う。
 よしよしと頭を撫でてやれば、気が済んだのか、睦月は満足げな顔をした。

「まぁ…、――――じゃあ上原くん」
「ぅん?」
「まぁこれからはしっかりと気を付けたまえ」

 わざと偉そうな感じで言ってやったら、部屋着(高校のときのジャージ…)に着替えた睦月に、「うっせぇ!」と腹パンチを食らわされました。



 そして、その日の夜。

「あ、いい匂~い。亮、何作ってんの?」

 夕食の支度をするため、亮が台所に立っていたら、テレビを見ていたの睦月がぽてぽてとそばにやって来て、亮の背中に貼り付いたので、亮は料理の手を止め、睦月を振り返った。

「…………」
「ぅ?」

 睦月の、その様子はすごくかわいいんだけれど。

(さっそく匂いにつられて、フラフラしてっし!)

 いい匂いがしてもフラフラどこかに行きません宣言をしてから、まだ数時間しか経過していないのに、睦月ときたら、もう夕ご飯の匂いにつられてフラフラしている。
 あの自信満々の宣言は、一体何だったんだろう。

 ただ睦月は今も、分かっていてわざとやったのでなく、本当に無意識に今もフラフラやって来たに違いなくて。

(先が思いやられる…)

 でもまぁ。
 今はフラフラやって来たのが俺のところだから、よし。



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5. 叱る気も失せる笑顔を持っているところ (1)


「秋月さん、ちょっといいですか」
「は?」

 夕食の支度をしている亮のもとに来た睦月が、なぜか改まった口調で亮のことを呼んだ。
 しかし亮は知っている。睦月がわざわざいつもと違う感じで話し始めるときは、大体からして、ロクなことがないということを。

「何ですか、上原さん」

 だから亮も、わざと畏まったように聞き返す。
 包丁を置いて振り返ると、睦月はひどく深刻そうな顔をしていた。

「秋月さん、大変です。僕のケータイ電話がありません」
「………………」

 やはり亮の予想は、今回も外れてはいなかった。
 は? マジで? と聞き返そうと思ったが、ベッドの上にカバンの中身がグチャグチャーと投げ出されているのを見た瞬間、睦月の言葉が嘘ではないことが分かって、何も言えなくなった。
 一応睦月も、亮のところに来る前に、カバンの中を探しまくったのだろう。

「ちょっと、あの、あれ、電話を鳴らしてもら、えません、か?」

 亮が心底呆れた顔をしたら、普段だったら、『何だよぉ!』と何とか、逆ギレしてくるのに、さすがに今はヤバい状況だと思ったのか、睦月はへどもどする。
 睦月の携帯電話がなくなって困るのは睦月自身に他ならず、亮が愛想を尽かしたらそれまでなのだから、当然だ。

「いや、掛けるけどさ。でも睦月、電話マナーモードじゃないよね?」
「え、」
「授業中マナーモードにして、そのままとかじゃないよね? 音鳴んなかったら、分かんないじゃん」

 面倒くさがりの睦月は、よっぽどのことがないとマナーモードにしない子なのだが、大学の授業では、和衣がちゃんとしろとうるさいので、マナーモードにするようにしているのだ。

「睦月?」
「秋月さん、ゴメンなさい。もしかしたら、マナーモードのままかもです」
「……」

 マナーモードの設定自体、するのも面倒と思っている睦月は、当然それを解除するという行為も、忘れるか、覚えていても、まぁ後でいっかぁ、と思って後回しにすることが多いのだ。
 今日がどうだったかは、さっぱり思い出せないが、普段を思えば、マナーモードのままである可能性は低くない。

「…とりあえず、掛けてみるからね」

 もしかしたらバイブの音で分かるかもしれないし、と亮は睦月の携帯電話に掛けてみる。
 部屋中の物音を消して、静かにして耳を澄ましてみるが、携帯電話の微振動する音は聞こえてこない。

「………………」
「………………」

 睦月は、カバンの中身を散らかしてあるベッドに近付き、さらに念入りに耳を寄せるが、やっぱり静かだ。
 この分だと、部屋の中に睦月の携帯電話はないと考えたほうがいいだろう。

「マジか…!」

 わりと能天気なタチの睦月だが、さすがに今回はショックだったようで、頭を抱えてへたり込んでしまった。
 普段、電話とメールくらいしか使っていなくても、やはり携帯電話を紛失することは、ダメージが大きい。




 秋月さんは亮タン、上原さんはむっちゃんですよん。寮の部屋、新入生は50音順で部屋割りが決まるので、2人は同じ部屋になったんです。本当に最初の最初のころの設定(*´ω`*)


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5. 叱る気も失せる笑顔を持っているところ (2)


「えっ、ちょっ…」

 それでもと思って、亮がもう1度電話を掛け直したら、先ほどは留守電に切り替わってしまった睦月の携帯電話に、今度は誰かが出た。
 慌てる亮の声に、睦月が「ん?」と振り返った。

「あ、はぁ、そうですか。いや、どっかで落としちゃったみたいで…。そうです、はい。ありがとうございます」

 誰かが電話に出たということは、睦月の携帯電話は、今もどこかに放置されているのではなく、誰かが拾ってくれたということで、亮が『ありがとうございます』なんて言うからには、電話の相手は悪い人ではなさそうだ。

 睦月は期待に満ちた目で立ち上がり、亮の腕にしがみ付いた。
 電話の相手の声が聞こえない。
 拾ってくれたの? 今どこ?

「睦月、ケータイあったって」

 電話を切った亮が、コツンと睦月の頭を叩いた。

「308教室の、机の下。何でそんなトコに落とすかな」
「分かんない」
「しかも308て、今日最初に授業があったトコじゃん。今日3つも授業あったのに、何で今まで気が付かないかなぁ」
「分かんないもん」

 亮の言うことは本当に尤もなことで、口八丁な睦月といえど、反論の言葉がない。
 それを承知で亮が言っているのは睦月も分かったが、さすがにこの状況で逆ギレできないので、睦月は言われっ放しの状況を甘んじて受け入れる(でもやっぱり、拗ねたような口調にはなってしまったが)。

「今、学生課で預かってるって。学生証持って来れば返すってさ。よかったね」
「あい…」

 さっき睦月の頭をコツンとした亮の手が、今度は優しくその頭を撫でてくれる。
 携帯電話が見つかってホッとした気持ちも相まって、睦月はむぎゅと亮に抱き付いた。

「――――睦月、」
「ゴメンね、亮。ありがとう」
「ッ…!」

 祐介や和衣のように、ちゃんとしなきゃダメ! と、もっと叱ろうと思ったのに。
 ここで簡単に許してしまえば、睦月は絶対に懲りないから。

 でも。

 …でも。

「あぁ~~~もうっ!!」
「ふぇ? 亮? 何?」

 そんな最強のスマイルで、スーパーツンデレの睦月に素直に謝罪とお礼を言われたら、これ以上怒れるわけもなくて。

「亮? 何? どうしたの? うわっ」
「…むっちゃん、好き」



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5. 叱る気も失せる笑顔を持っているところ (3)


 不思議そうにキョトンとしている睦月を、ギュッと腕の中に閉じ込める。
 突然のことに驚いた睦月は一瞬だけパタパタと暴れたが、すぐに大人しくなって、「何急に…」とか言いながらも亮の背中に腕を回した。

「いや、好きだなぁ、て思って」

 どんなに振り回されても睦月のことが好き…て、相変わらず重症だなぁ、と、亮は自分自身に苦笑した。



*****

「秋月さん、ちょっといいですか」
「…はい?」

 夕食の支度を再開した亮のもとに、ベッドの上を片付けていたはずの睦月がやって来て、改まった口調で亮のことを呼んだ。
 嫌な予感がする。

 睦月は全然まったく携帯電話ジャンキーでないから、所在がはっきりしていて無事ならば、自分の手元になくても平気だから、学生課に預けられている睦月の携帯電話は明日取りに行く、ということで落ち着いたのだが。

「僕、携帯電話、アラームの設定がしてあるんですけど」

 恐る恐る振り返った亮に、睦月は困ったような半笑いを浮かべていた。

 寝起き最悪の睦月が、携帯電話のアラーム機能だけで起きたためしがないのは今に始まったことではないが、それでも睦月は、いつかは自分の力だけで起きられるかもしれないから、と言って、毎朝アラームが鳴るように携帯電話を設定しているのだ。
 そしてその携帯電話は今、大学の学生課…。

「えっとー…、あ、むっちゃん、でもマナーモードにしてんでしょ? なら、朝鳴ったって平気じゃね? アラームって止めなくても、いつか勝手に止まるし…」
「いや、マナーモードじゃないかもしれないです」
「は? 何で? だってケータイ落としたの、最初の授業のトコでしょ? なら、マナーモード解除してねぇんじゃね?」
「そもそも今日は、マナーモードにしてない気がします。今日の1限、カズちゃんと席離れたから」
「……」

 そもそも睦月は、授業中に携帯電話をマナーモードに設定するのは、和衣がいろいろ言ってくるからで、要は言われないとやらないというか、やることを忘れてしまっているのだ。
 そして肝心の、今日の1時間目の授業だが、少し遅れて教室に入ったせいもあって、5人が纏まって座れる席が空いていなかったから、和衣と祐介だけ離れた席に着いたのである。

 ――――つまり。

「誰も何も言わなかったから、マナーモードにしてない、と思、います、ボク…」

 仏の顔も三度、とは言うけれど。
 亮は仏様でも何でもない、ただの大学生男子でしかないから、3度までも持ち堪えられず。

「………………むっちゃんっ!」
「ゴメン、亮っ!」

 バシッと両手を合わせて、睦月は深々と頭を下げた。
 アラームの設定をしてあるから、やっぱり明日でなく今取りに行く…が、自分1人でやることなら、睦月はここまで申し訳なさそうにはしないだろう。
 要するに、今から大学まで携帯電話を取りに行くのに、亮も付いてきてくれ、と言いたいのだ。

「…むっちゃん、」

 今度こそ、ちゃんと叱らないと。
 じゃないと、睦月のためにもよろしくない、絶対に。
 絶対に叱…

「ねっ、亮、お願~いっ! 一緒にケータイ取りに行こ!?」
「…はい」
「ありがと~、亮、大好きっ!」

 …やっぱり君の笑顔には、弱いのです。



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6. 慌てて裸足で追っかけてくるところ (1)


 長風呂が苦手なくせに、なぜか睦月はいつも、お風呂大好きの和衣を誘って風呂に行く。
 それで絶対長く入ってられなくて、さっさと上がるか、あまりにもさっさと上がろうとしすぎて和衣に引き留められ、逆上せ掛けるかの、どっちかだ。

 そんななのに何で一緒に入るの? とは亮も思うが、睦月に聞いても、和衣に聞いても、『何でだろう?』と、自分たち自身のことなのに全然分かっていない様子だから、何か言うのはもうやめた。
 そもそも、寮の共同の風呂で何が出来るわけでもなし、別に一緒にお風呂できなくても、亮としては何か思うところはない。

 だがしかし。

(何でこんなとこに毛布が…)

 脱衣所の籠の中。
 本来は脱いだ服やら着替えやらが入っているはずのその籠の中に、なぜか替えのパンツやらと一緒に、膝掛けサイズというには少し大きいブランケットがぐしゃぐしゃに丸めた状態で押し込まれているのだ。

 亮は、風呂から上がって着替えようとしていたときにその毛布を見つけたのだが、そのブランケットには見覚えがあったし、ついでに言うとその替えのパンツにも見覚えがあった。
 どちらも睦月のものだ。

 今日は、亮のほうが先に風呂に行き、後から睦月と和衣がやって来たから、睦月がどんな状況でこのブランケットを持ってきたかは知らないが、まさか寒さのあまり、これを被ってきたとか?
 何となく睦月ならやりそうな気がして、笑うに笑えない。

(よくカズが何も言わなかったな…)

 和衣は最近、友だちというレベルを超えて、睦月のお母さんみたいになっているから、睦月が変なことしたら、絶対何か言うはずなのに。
 でも、言って素直に言うことを聞くとは限らないのが睦月だから、きっと寒いからってブランケットを被ってここまで来たのだろう。

 亮は苦笑してから、脱衣所に置きっ放しになっている共同のドライヤーを手に取った。
 睦月と違って、亮はここでちゃんと髪を乾かしていくのだ。

 それから、亮が髪を乾かし始めて1分もしないうちに、睦月が風呂から上がって脱衣所に来るのが鏡に映った。
 本当にほんのさっき風呂場で顔を合わせたばかりなのに、もう上がるの?

「りょお~」

 お風呂を終えた睦月は、髪を乾かしている亮の姿を見つけると、体も拭かず、すっぽんぽんのまま亮のところに駆け寄ってきた。

「むっちゃん、体拭きなよ……って、ちょっ」
「きゃはっ」

 ドライヤーを止めた亮が呆れたように言うと、何を思ったのか睦月は、びしょ濡れになった犬がそうするみたいに、ブルブルと頭を振り始めた。
 そんなことをすればもちろん、全然拭いていない髪から思い切り水が飛んで、近くにいる亮に被害が及ぶのは言うまでもない。

「睦月、やめて」
「にゃう」

 ガシと亮に頭を押さえられ、睦月は動きを封じられた。

「早く体拭いて着替えないと、風邪引くよ?」
「ん。てか亮、置いてかないでね? 待っててね?」
「はいはい」
「つか、何か頭クラクラする…」
「頭振ったからだよ」

 裸のまま、クラクラするくらい頭を振って、亮に水を掛けて、本当に一体何の意味があったんだか。
 いくら風呂場が廊下とかに比べて暖かいとはいえ、この時期に素っ裸でうろつくには寒すぎる。というか、湯冷め一直線コースなのに。



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6. 慌てて裸足で追っかけてくるところ (2)


 髪を乾かす自分を見るふりをして鏡の中の睦月を見れば、睦月は適当に体を拭いて、髪もまだビッショビショなのにパジャマ代わりのスウェットに袖を通している。
 あ、一応髪の毛拭く気はあるのね。だったら服着る前に拭いたらいいんだよ。そしたらスウェット、そんなに濡れないから。

「むっちゃん、もう行くよ?」
「ちょっ、ダメ! 待って!」

 さっき裸のままウロウロしていたせいで、やっぱり寒くなって来たのか、ブランケットを被ったり、タオルで頭を拭いたり……どちらか先にやればいいのに、睦月はそれを同時進行しようとしているから、結局どっちも出来ずにモタモタしていて。
 髪を乾かし終えた亮が声を掛けたら、焦ったのか、今度は服の入った籠を引っ繰り返している。

「もう待ちませーん。俺だって寒いもん。早く部屋戻りたい」
「やっ、ちょっ、待っ」

 別に置いていったところで帰れない距離でもないし、大体いつも睦月は1人で部屋に戻って来ているのに、どういうわけか(きっと大した意味はない)今日は待っていてほしかったらしく、睦月は慌てて亮を追い掛け、パーカーの袖を掴んだ――――まではよかった。

「……むっちゃん…」
「亮が悪いんだもん…」

 俺のこと置いてくから――――そう続けた睦月の足元は裸足。
 いくら慌てたからといって、裸足で追っかけてくるのは、某国民的アニメの人だけだと思ってました…。

「俺、悪くない…」
「…そうだね、むっちゃんは何も悪くないね。俺が悪かったね」

 亮は口元が緩みそうになるのを堪えながら、分かりやすく拗ねている睦月の頭を撫でてやり、棚に入っていたサンダル(「むつき」とデカデカ書かれているから、すぐ分かる)を出してあげた。

 この寮の建物の中で、各部屋と風呂場以外は、外と同じで何か履物が必要なのだ。
 だから睦月がいくら面倒くさがりでも、ここまでは何かしら履いてきているはずなのに、亮に置いていかれたくないばかりに、思わず裸足で追い掛けてくるとか。

 そんなの、にやけるに決まってる!

「もぉ~亮のバカぁ~、バカバカバカ」
「分かった分かった」

 なぜか亮に対してバカバカ言っている(理不尽!)睦月の手を引いて、部屋へと向かう。
 今のところ誰ともすれ違っていないが、寮内……人前なのにガッツリ手を繋いでいるが、睦月はブランケットを頭から被っていて、何がしたいかよく分からない状態だし、まぁいっか。

「バカバカバカバカカバ」
「カバじゃねぇ」
「じゃあバカなのは認めんだ?」
「裸足で追っかけてくる人に言われたくありません」
「グッ…」

 いつもは口で負けない睦月なのに、どうも今日は分が悪い。
 でも言い負かされっ放しなのはおもしろくない。嫌だ。負けず嫌いだから。

「イデッ!」

 だから、亮と繋いでいた手に、ギュウ~と力を込めてみました、思いっ切り。

「むっちゃんっ!」
「ぎゃははっ!」

 今度こそ絶対に怒ってやる! と、寮の廊下にもかかわらず、亮が声を大きくしたら、それより早く睦月は亮の手を解いて逃げ出したのだが。

「うわっ!?」

 ブランケットのせいで前がよく見えていなかったのか、残念ながら睦月の足は縺れ、その足からサンダルがすっぽ抜け……またもや睦月は裸足になってしまう始末。

「むっちゃん…」
「…………」

 もうさすがに亮にバカとも言えなくなったのか、ポカンと立ち竦んでいる睦月に、亮は先ほどと同じように頭を撫でてやり、頭からも肩からもずり落ちてしまったブランケットを掛けてあげると、もう1度手を繋いだ。

「寒いから、早く部屋戻ろうね?」
「…ん」

 あぁもう。
 だから睦月のことは嫌いになれないんだよなぁ、ホント。



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7. 理由もなく体を突っついてくるところ (1)


 苦戦していた課題の提出を終えて、昨日までの張り詰めた緊張感から解放された睦月は、床であっちにゴロン、こっちにゴロンと、意味もなく寝返りを打っていた。
 だらけた感、満載。
 何て言うか……1日をダラダラ過ごすこと、睦月に限らずあるだろうけど、こうも絵に描いたようなだらけ方をするのは睦月くらいなものだろう…と、バイトから帰って来た亮は思った。

「りょう、おかえりー」
「…ただいま」

 亮が帰って来たのに気付いた睦月は、寝返りをやめたけれど、仰向けに大の字の格好で寝転がったまま、起きようともせずに亮に声を掛けた。
 それでも、挨拶をしてくれる気があっただけでも、マシなのか。でも何だかひらがな口調だ。

「一応聞くけど、睦月、何してんの?」
「ごろごろ」
「……」

 そうだね。
 まったくそのとおり過ぎて、返す言葉がない。

「りょうもする?」
「しない」

 いやこれで、テレビとかゲームとかマンガとか……同じダラダラするにしても、何かもっと他にありそうなのに、ただ床でゴロンゴロンしているだけのことに誘われたって、いくらそれが睦月からのお誘いだって、亮はお断りだ。

「しなくてもいいけど、りょう、ここきて」

 ここ、と睦月は右手でぽんぽんと床を叩く。
 隣に来いということか。

 とりあえず亮は上着を脱いで、いい子に手洗いとうがいをしてから、睦月の隣に座る(ちなみに睦月は、本当にすることが何にもないのか、亮が来るまでの間、ずっと床をぽんぽんし続けていた)。

「これでいいですか? 睦月さん」
「よしよし」
「で、何がしたいわけ?」
「なんもー」

 言われるがままに睦月の隣に座ってみても、結局のところ、睦月は何をどうしたいということもなかったらしく、亮と反対側のほうに寝返りを打ったかと思うと、また亮のほうに転がって来た。

「すげぇだらけっぷり」
「すごいでしょ?」
「威張ることじゃねぇし……て、何っ?」

 全然褒めていないのに、なぜか『えっへん』という感じに得意顔をした睦月に、面倒くさいと思いつつ亮が突っ込んだら、さらになぜか、睦月が亮の脇腹を突っついた。

「きひひ」
「いや、意味分かんねぇし。何すんの、むっちゃん」
「なんでもー」
「ちょっ、やめてよ、擽ったい」

 理由らしい理由を言わないまま、睦月はさらに亮の背中やお腹を突っついてくる。
 もうまったく意味が分からない。



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7. 理由もなく体を突っついてくるところ (2)


「睦月さん、やめてください。セクハラで訴えますよ?」
「やらー」

 クフクフ笑いながら亮を突っつく睦月は、何だかもう舌足らずになっていて、もしかしたら眠いのかもしれない。
 起きていてもただダラダラしているだけだし、別に寝てくれたっていいけれど、眠りに就くまでこうやって突かれていたのでは堪らない。

「やめろってば」
「にひ」

 擽ったがっている亮がおもしろくなってきたのか、亮の制止の声も聞かず、睦月はわざわざ起き上がって、しつこく手を伸ばしてくる。
 もうホント、こういうところは小学生と一緒!

「ぎゃっ!!」
「!?」

 もういい加減にして! と亮が逃げようとしたら、不意に睦月の手が亮の鎖骨に触れて、亮は思わず飛び上がった。
 こうやって触られる中で、どこが苦手って、鎖骨が1番ダメなのだ。

 しかし睦月も、意図して鎖骨に触ったわけではないので、亮の大袈裟なほどの反応にビックリして、そのまま後ろに引っ繰り返って、後頭部を床にぶつけてしまった。

「いたい…なにすんの、りょうのばか」
「いや、それ俺のセリフだし。何すんの、ホントに」

 鎖骨を庇いながら睦月の顔を覗き込んだら、ちょっと涙目になった睦月に睨まれた。
 本気で痛かったらしい。

「おれがバカになったら、ぜんぶりょうのせいだ」
「え、全部? それって荷が重すぎね?」
「ぜーんーぶ! だからりょう、せきにんもって、さいごまでめんどうみなさい」
「…」

 コロンと亮のほうに転がって来て、睦月は寝転んだまま、亮の腰に腕を回して抱き付く。
 亮が少し体勢をずらしてやったら、腿の上に頭を乗せてきて、膝枕の状態。

「…睦月、」
「ぁに?」

 性懲りもなく、また亮のお腹を突っつこうとする睦月の手を捕まえて、その指先にキスをすれば、睦月は、何急に? という顔をする。
 きっと自分がとんでもないことを口走ったなんて、思っていないだろうし、もちろんその言葉に、そこまで深い意味を込めて言ったわけではないんだろう、でも。

「分かりました。睦月のこと、最後までちゃんと面倒見ます。一生かけて」
「ぅん?」

 だから、ずっとそばにいてよ、一生。
 責任持って、最後まで面倒見るからさ。

「好きだよ」



*END*



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 ということで、アンケ2位カプ亮タン×むっちゃん「お馬鹿な君の可愛いところ七題」これにて終了です(*^_^*)
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4月1日まで更新お休みします。


【今日のお話の更新は、1つ前の記事です】


 さて、今まで毎日更新をしてきた恋三昧ですが、タイトルのとおり、3月いっぱい更新をお休みさせてください。
 というのも、今仕事で緊急事態が発生し、お話を更新できるような状態ではなくなってしまいました。

 次に更新のお話は、ほぼ完成しているのですが、少しでもよいものをみなさまにお届けするためには、もう少し校正や見直しをしたいので…。

 楽しみにしてくださっているみなさまに残念な思いをさせてしまうのは心苦しいのですが、4月に入ったら更新できるようがんばりますので、どうかそれまでお待ちくださいますよう、お願いいたします。

 なお、時間が許す限り、コメントには返信したいと思いますが、遅れることがあるかもしれません。その際は、どうかご容赦ください。


H24.3.27 如月久美子 
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明日4月1日から更新再開します


 このたびは更新のお休み、誠に申し訳ありませんでした。

 実は、年度末で忙しいところに来て、去年の地震のときよりも被害の大きい事態が職場に起こり、その対応のため、全然お話を書くことが出来ないでいました。
 その対応自体はもう終わりましたが、何せ新年度が始まりますので、忙しさは続きます(私自身に異動はなかったんですが、一緒に仕事してた人が異動したり、課内で退職者が3人もいたり…)。

 4月から、実生活がどんな状態になるのか分かりませんが、ひとまず今までどおりの更新をしたいと思います。
 ただ、本当は明日からアンケ第3位カプのお話にするつもりだったんですが、最終調整したいので、明日と明後日は、前に書いてた亮タンとむっちゃんの短編を前後編で挟みます(本っっ当にゴメンなさい!!!)。

 恋三昧を始めて4年、こんなグダグダになったのは初めてで、自分でもちょっとショックなんですが、久々にリアルで切羽詰まってて、何をどうしたら…という感じが続いてます。
 こんな私ですが、どうかこれからも恋三昧のこと、生ぬるい感じで見守ってていただけたらと思います。


 最後に。
 更新お休み中にもかかわらず、ご訪問くださったみなさま、本当にありがとうございました。
 拍手もすごい数で、とってもビックリ&感激しています。本当に励みになりました。
 また、コメントをくださったみなさま、ありがとうございます。レスが遅れていて申し訳ありません。明日には必ずお返事したいと思いますので、どうかお待ちください。


H24.3.31 如月久美子
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