恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2012年10月

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暴君王子のおっしゃることには! (153)


 だから、雪乃と航平のおかげで、こうやって、ちゃんと家に帰るという元の生活に戻るきっかけが出来たのは、正直ホッとしていた。
 このまま一生、こんな自堕落な生活を送るなんて無理がある…と、心のどこかでは思っていたから。

(…帰ったら、ユキちゃんに謝ろう)

 一伽を心配して航平に電話をしたこと、雪乃は内緒にしてほしかったらしいから、一伽も航平に話を合わせてもらったし、そこは知らない振りで帰ろう。
 それにしても、一伽に内緒にしたかった理由が、余計な心配をしたことを知られると一伽が怒るからだなんて――――そんなことじゃ怒んないのに。いや、何かイライラしていたから、やっぱり怒っちゃったかな。

「……ただいまー…」

 たとえ雪乃と同居しているのだとしても、ここが自分の家なのだから、何を遠慮することなく入ればいいのだが、やっぱり何となく気まずくて、一伽はコソコソとドアを開けた。

「ユキちゃん、ただいまー…………て、何してんの?」
「あ、いっちゃんお帰りー」

 雪乃の反応がないことに、柄にもなくビクビクしながら一伽が進んで行ったら、雪乃はキッチンで一生懸命何かに取り組んでいた。
 キッチンの全然広くないカウンタースペースに、何やら飲み掛けらしい液体が少しずつ入ったグラスがいくつか置かれていて、その周りには切った果物が散らばっている。

「何々? ユキちゃん、これなぁに?」

 帰ったらまず雪乃に謝ろう、と思っていたのに、雪乃のやっていることに興味津々で、そんなことすっかり忘れてしまった一伽は、雪乃の側に駆け寄って、その手元を覗き込んだ。
 雪乃は雪乃で、別に怒っているわけでもなく、久々にこんな時間に帰って来た一伽に何か言うでもなく、ニコニコしている。

「何作ってんの? ジュース?」
「新しいスカッシュの研究」
「スカッシュ? レモンスカッシュのスカッシュ? 研究してんの? ユキちゃんが??」

 レモンスカッシュといえばドリンクのメニューなわけで、それと研究という言葉が、一伽の中ではいまいち結び付かず、首を傾げる。しかも、新しいスカッシュ、て。

「いろんな果物でね、作ってんの」
「スカッシュを? レモンだけじゃなくて? それっておいしいの?」
「だから研究してるんだってば。意外とね、紅茶で作るとおいしいの」
「…こんだけ果物切っといて、紅茶?」

 最初に、いろいろな果物でスカッシュを作っている、と言っておきながら、紅茶のを勧めてくるあたり…。

「でもおいしいから、いっちゃん、ちょっと飲んでみて?」
「…ん」

 雪乃に勧められるがまま、一伽はグラスの1つに口を付ける。
 すごくジロジロ見られているから、ちょっと恥ずかしいんだけど…。

「おいし」
「でしょでしょー?」

 一伽が素直に感想を言うと、雪乃はすぐに得意そうな顔になった。
 そういえばcafe OKAERIでは時々、新しいメニューの打ち合わせがあるし、前に光宏からも、新しいドリンクが出たからオーダーしてよ、とか言われたことがあったっけ。
 一伽は大体コーラが基本だけれど、雪乃たちがこんなにがんばって作り出しているのなら、今度は違うの頼んでみようかな。

「ねぇねぇユキちゃん、紅茶も自分で淹れたヤツ?」
「そう! 俺ね、結構ね、紅茶マスターだよ!」
「言ってろよ」
「ホントだよ! コーヒーはまだそんなじゃないけど、紅茶とハーブティーなら任せて!」

 一伽がからかっても返事に困らないのは、それだけ自信が付いたということだろう。
 現に雪乃は、店でハーブティーをお客様に提供しているようだから、その腕前も、単に口先だけのものではないに違いない。



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暴君王子のおっしゃることには! (154)


「よしっ、今日の研究はこれまで!」

 自分で終了の掛け声を掛けた雪乃は、満足そうにグラスやら包丁やらをシンクの中に入れていく。
 一伽も手伝ったほうがいいのかな、と思ったが、下手に手出しすると事態が悪化しそうなので、やめておいた。

「いっちゃん、お風呂入って来て? 俺、ハーブティー淹れててあげる」
「スカッシュじゃなくて?」
「お風呂上がったら、もう寝るでしょ? よく眠れるように、おいしいの淹れてあげるね」
「ふぅん」

 別にさっきの紅茶のスカッシュもおいしかったから、それでもいいのに、よく分からないまま雪乃に背中を押され、一伽は風呂場へと向かった。
 あ、そういえば、雪乃に謝るとか言って、まだ謝ってなかった。

「ねぇユキちゃん」
「ん?」
「えっと…、……………………、あ、パンツがない」
「は? …………、あーもうっ、持ってくればいいんでしょ!」

 謝るはずが、改まって言おうとしたら恥ずかしくなって、結局そんなことを言ってしまった。
 替えのパンツがなかったのは事実だし、何だかんだで雪乃は取りに行ってくれたし、まぁいっか。

「はい、いっちゃん。パンツとTシャツ! ちゃんと頭とか拭いて出て来てね」

 すぐに雪乃が、着替えを持ってやって来た。
 本当に、どこまでも優しいんだから。

「…ユキちゃん」
「何? まだ何かあんの?」

 着替えを受け取った一伽が、雪乃を呼び止める。
 雪乃はちょっと面倒くさそうに、でも嫌がらず振り返ってくれる。

「今までなかなか帰れなくて……心配掛けてゴメンね?」
「え…、どうしたの、いっちゃん」

 面と向かって言うのは、やっぱり恥ずかしい…。
 それでもがんばって一伽が言えば、雪乃は、言葉ではそんな反応を返したけれど、顔はすごい笑顔だったから、一伽はちょっとホッとした。

「あんま仕事、無理しすぎないでね。俺がおいしいハーブティー淹れててあげるから、それ飲んで、今日はゆっくり寝ようね?」
「…うん」

 もしかしたら。
 本当はもしかしたら、雪乃はいろいろ分かっているんじゃないかなぁ、とも思ったけれど、雪乃はそれ以上のことを言わないし、一伽も何も知らないことにしているから、余計なことは言わない。

 今日はちゃんとお風呂、あったまるまで入ろう。



*****

 一伽が風呂から上がると、雪乃は一伽のためにオレンジピールのハーブティーを淹れてくれていた。
 オレンジは分かるけれど、ピールて何? と思っていた一伽は、ピールの正体がオレンジの皮だと説明され、『皮のお茶…?』と困惑しながらも、それを飲み干した。

 そして一伽は、ここ最近にしては珍しく、早い時間にふとんに入った。

「まだあんま眠くないよ」
「でもずっと忙しかったんだし、いっちゃん、疲れてるでしょ? 早く寝ようよ」
「ユキちゃんはもう眠いの?」
「んー…ちょっとだけ。いっちゃんだって、目閉じてたら眠くなるよ」

 一伽は怪訝そうに飲んでいたけれど、先ほど雪乃が淹れてあげたオレンジピールのハーブティーには、鎮静効果や安眠作用があるから、きっとすぐに眠くなると思う。



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暴君王子のおっしゃることには! (155)


「ねぇねぇユキちゃん」
「…何?」

 目を閉じていたら眠くなるよ、と言ったのに、雪乃に話し掛けて来たんじゃ、何の意味もない…。
 でも返事をしないと拗ねそうだったから、雪乃は一伽のほうに寝返りを打った。一伽はすでに、タオルケットを蹴っ飛ばした状態になっていた。

「ユキちゃん、光宏と仲良くやってる?」
「えっ、何が!?」

 あまりにも突然の質問に雪乃がギョッとすると、一伽もそんなに驚かれると思っていなかったのか、ちょっとビックリした顔になった。

「何でそんなビックリすんの? ユキちゃん、光宏と付き合ってんでしょ?」
「そうだけど、だっていっちゃん、今までそんなこと聞いてきたことないじゃん」
「今まで聞いたことなかったから、聞いてみたくなった」
「嘘。そんな真顔で言ったって、ホントは全然興味ないくせにー」
「そんなことないよ、ぶふっ」

 やはり雪乃の指摘どおり、聞いたわりにそんなに興味はなかったのか、そんなことない、と答えた直後に、一伽は吹き出した。

「もぉー。仲良くやってるよ。てか、いっちゃんこそ、どうなの?」
「何が?」
「いっちゃん、今好きな人いないの?」

 雪乃はうつ伏せになって、少し一伽のほうに身を乗り出した。
 一伽からは、女の子の話はよく聞くけれど、実際のところ、彼女だとか好きな人だとか、いちいち雪乃が聞かなかったというのもあるが、そういう話を聞いたことがない。

「…、え、別に」
「あー嘘だー。好きな人いるんでしょ? 誰?」

 ほんの一瞬だけ一伽がきょどったのを見逃さなかった雪乃が、すかさず突っ込んでくる。
 くそぅ、雪乃のくせに、何か生意気!

「誰、て……ユキちゃんの知らない人だよ」

 それは侑仁のことだけれど、雪乃は侑仁のこと、一伽が前にちょっと話したくらいでしか知らないから、知らない人ということにしておこう。

「その子、かわいい?」
「えっ…、てか何でそんなこと聞いてくんの? ユキちゃん」

 雪乃の知らない人だと答えたんだし、一伽はずっと『かわいい女の子が好き』と言っていたんだから、嘘でも『そうだよ、かわいいよ』と言っておけば何も別にバレなかったのに、つい、侑仁は男だしかわいいとは言わない…とか思ってしまい、うまく返事が出来なかった。

「いっちゃんの好きな人、どんな子なのかなぁ、て思って」
「別にどんなだっていいじゃん」

 口を開いたら余計なことを口走りそうで、一伽は鼻先を枕に擦り付けて、モゴモゴと返した。ちょっとぶっきら棒な言い方になってしまったけれど、仕方がない。
 でも、雪乃の質問は終わらない。

「いつから付き合ってんの?」
「は? 付き合ってなんか…」
「片想いなの?」
「…そうだよ」

 …やっぱり余計なことを言ってしまった。
 まぁ、片想いだってことがバレるくらい、いっか。

「ホントに? いっちゃん、ホントに片想いなの?」
「そうだよ、うるさいな。何か文句ある?」
「そうじゃないけど…、いっちゃん、女の子に自分から声掛けるじゃない、いっぱい。だから片想いなんか、ないのかと思ってた」
「バカ、あるに決まってんじゃん」

 いや、女の子だったら、ないかもしれないけれど。
 かわいい、と思ったときには、余程のことがない限り、声は掛けているし。



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暴君王子のおっしゃることには! (156)


「告んないの?」
「もぉー、何でそんなこと聞くの、ユキちゃん」

 何だろう、この女子中学生みたいな会話は。
 何ていうか……修学旅行の夜的な? イメージだけど。

 眠くない、と言って、自分から雪乃に話し掛けたんだけれど、こんなことになるなら、黙って目を閉じていればよかった。
 けれど、そう思っても後の祭り。雪乃はすっかり、話を聞く気満々だ。

「だって気になるじゃん。ねぇねぇ、いっちゃん、どうなの?」
「告んないよ、告んない」
「ウッソ、何で?」
「何でも」

 だってまず、見込みがない。というか、それしか理由はない。
 侑仁は今フリーだけれど、別に男が好きなわけじゃないんだから、一伽がどんなに思ったって、恋人同士にはなれないのだ。だから、告白もしない。それ以外に理由はない。
 …まぁ、雪乃にはそんなこと言わないけれど。

「告んないけど、…でも好きなんでしょ?」
「今はね。でもそのうち、そうじゃなくなる……と思う」

 ――――なんて。
 そんなのまるで、雪乃に片想いしていたころの光宏みたいだ。自分のほうに気持ちが向いてくれるわけがないから、諦めるしかない…て、そう思っていた。
 でも光宏は結局、雪乃と付き合うようになったけれど。

 なら、一伽にも可能性がある? ――――いや、答えは「NO」だ。
 雪乃はもともと女の子より男のほうが好きだから、光宏の恋には多少の望みがあったけれど、一伽にはそれがない。

「そのうち、好きじゃなくなる、てこと?」
「…嫌いにはなんないだろうけど、恋愛感情とかは、なくなる」
「そうなの?」
「分かんない、多分」

 だってそうするしかない。
 恋人同士にはなれないのに、ずっと片想いでいるなんて、苦しいだけだ。だったらいっそ、恋愛感情とかそういうの、全部なくなってしまえば楽になれる。

(…なくなってしまえば、)

 でも、そんなときが――――侑仁のことを好きだと思う気持ちが、いつかただの友だちを思うような気持ちに変わるときなんか、果たして来るんだろうか。
 自然とそんなふうになるなんて、一体どのくらいの時を経ればいいんだろう。

 だったらいっそ、侑仁にうんと嫌われるとかすれば、いいんだろうか。そうしたら、一伽がどんなに侑仁のこと好きだって、もうどうすることも出来ないし。
 でも、侑仁に嫌われるのはツライから…、なら侑仁に彼女が出来るとか? そうすれば、侑仁のことを諦めざるを得ない。

 …でも問題は、どっちにしたって、一伽の気持ち自体が解消されるわけではないということだ。一伽が侑仁のことを諦めなければいけない状況になるだけで、それで気持ちが恋愛感情から友情にシフトするわけではない。
 やっぱり、一伽自身が、この気持ちをどうにかしないといけないということか。

「いっちゃん、告っちゃえばいいじゃん」
「…………」

 一伽が眉を寄せて1人で考え込んでいたら、隣で雪乃がいとも簡単にそんなことを言った。
 雪乃には、スーパーのイケメン店員・山下さんに告白することも出来ず、光宏の気持ちを知った後、ショックで引きこもっていた雪乃だけには、そんなこと言われたくなかったのに。

「告んない、つったでしょ」
「何で? 諦めちゃうなんて、いっちゃんらしくない」
「らしくなくてもいいの。俺はそういう人に生まれ変わったの」

 あ、そうだ。
 いっそ一伽が、彼女を作ったらいいんじゃないだろうか。
 別にたくさんの女の子といっぱい遊ぶとかでなくて、普通に、彼女。1人だけ。その子だけを愛してけばいい。そうすれば、侑仁のことを友だちだと思えるような気がする。
 うん、これはいい考えかも。



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暴君王子のおっしゃることには! (157)


「…ねぇいっちゃん」
「何?」

 もう結論が出たし、雪乃のハーブティーのおかげか、頭をたくさん使ったせいか、何だかちょっと眠くなってきたから、もう寝かせてくれてもいいんだけど…。

「いっちゃんの好きな人て……侑仁さん?」
「………………はぇっ!?」

 雪乃の思い掛けない言葉に、一伽の落ち掛けていた目蓋が、バチッとまた開いた。
 だって今、雪乃の口から、『侑仁』という名前が出て来たような…。

「え…、ユキちゃん、今何言った?」
「ん? だから、いっちゃんの好きな人て、侑仁さんなの? て。…つか、そうなんだね」

 またしても一伽は、はっきりと『そうだ』と答える前に、反応だけで雪乃に答えを知られてしまった。
 そんな…鋭い雪乃なんて、雪乃じゃないみたいだから、何か嫌だ。

「だとしたら何? 大体ユキちゃん、侑仁のことなんか知らないでしょ?」
「侑仁さんのことは知らないけど、でも前にいっちゃんが侑仁さんのこと話してくれたとき、好きなんだろうな、て思ったよ?」
「……」

 そういえば、ずっとずっと前だけれど、一伽が侑仁にメールしようとしていたのを雪乃に見られたとき、そんなこと言われたことあったっけ。

「ユキちゃん、そんなこと覚えてたの?」
「今話してたら、何か思い出した」
「忘れてよ」

 余計なこと思い出して…と一伽は、頬を膨らませながら、足をパタパタさせた。

「やっぱりいっちゃん、侑仁さんのこと好きなんだ」
「いーじゃん、別に。…つか、俺が男のこと好きになったとか、バカだとか思ってる?」
「そんなこと思ってないよ。でも……好きなのに、ホントに諦めちゃうの?」
「だってしょうがないじゃん。侑仁はホモじゃないんだし」

 前に航平にも言ったけれど、女の子大好きな一伽が男である侑仁を好きになったのと同じように、侑仁までもが一伽のことを好きになるなんて可能性……絶対にない。
 いや、世の中に絶対ということはあり得ないかもしれないけれど、0.1%の可能性なら、絶対にないも同然だ。

「告って、キモがられて、もう会えなくなるか、告んないで友だちのまま側にいるか、告んないけどもう会わないか……この3つしかないと思うんだよね、俺」
「そうかな」
「そうだよ。で、この中で1番マシなのは、告んないで友だちでいるのでしょ?」
「いっちゃんの考えてること……よく分かんない」

 光宏の気持ち、全然分かっていなかった雪乃に言われたくないかもだけど、どうして一伽の選択肢の中には、一伽の告白に侑仁がOKするというのがないんだろう。
 本当に全然そんな可能性、ないの?

「分かんなくていいよ。ユキちゃんは、光宏と仲良くやってれば、それでいいんだよ。ユキちゃん凹むと面倒くさいから」
「何それ。てか、だからだよ!」
「…何?」

 なぜか急に言葉に力の籠った雪乃に、一伽は訝しげに視線を向けた。
 まだ寝ないのかな。

「俺ね、みっくんとお付き合いすることになるまでに、いっちゃんにいっぱいお世話になったじゃない?」
「そうだね、すげぇ大変だった」
「でしょ? …て、そんなキッパリ言わないでよ、ちょっとは『そんなことないよ』とか言ってよ」
「…何ノリ突っ込みしてんの? だって本当に大変だったもの」
「まぁまぁまぁ、それはともかく。俺、すごくお世話になってでしょ? だからね、俺もいっちゃんの力になりたい……て言ったらおこがましいかもだけど、いっちゃんのこと、応援したいよ?」

 雪乃は、先ほどよりもさらに、一伽のほうにずり寄ってくる。



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暴君王子のおっしゃることには! (158)


「応援て……あのね。じゃあユキちゃん、俺がお付き合いしたい! て思えるくらいのかわいい女の子、紹介して?」
「はぁ? 何でそうなるの? 違うよ! いっちゃんと侑仁さんのこと応援する、て言ってんの!」
「だからー、それは無理なんだってば! だから俺が侑仁のこと忘れられるように、誰か紹介して、かわいい子」

 さっきもちょっと思ったけれど、一伽が彼女を作ってしまえば、いちいち『侑仁に告っちゃえばいいのに』的なことを言われないで済むのだ。
 侑仁が彼女を作っても同じことだけど、それはいつになるか分からないし、一伽は苦しい気持ちを抱えたままだから、やっぱり一伽が先に彼女を作るのがいいと思う。

 …ただ問題は、ここ最近、あんなにずっといろんな女の子と一緒にいたのに、1人も彼女にしたいと思える相手がいなかったということだ。
 女の子と一緒の夜は楽しいし、気持ちいいし、かわいいし、寂しくないし…………でも全然心が満たされなくて、毎日が空しかった。
 だから、そうじゃなくて、一伽が本当に好きだと思えるような、お付き合いしたいと思えるような人と出会えたら。

「いっちゃん、ホントに言ってるの? 侑仁さんじゃない人とお付き合いしたいの?」
「何ユキちゃん、誰か紹介してくれんの?」

 まさか雪乃に、一伽に紹介してくれるような女の子の知り合いがいるとも思わなかったので、ちょっとビックリして一伽は顔を上げた。

「んー…ウチの店長とかは? 美人だよ?」
「え、まさかママのこと?」
「うん」
「はぁ~?」

 突然浮上した、cafe OKAERIのママこと店長の笠原美也子の名前に、一伽は口をあんぐりと開けた。
 一伽は何度か美也子に会ったことがあり、彼女が美人なのも知っている。しかし、構われたがりで寂しがり屋の一伽と、料理一筋の美也子が合うとは、到底思えない。

「あのね、俺、本気で言ったんだよ?」
「俺だって別に冗談で言ったわけじゃないけど…」

 一伽が冗談で、女の子を紹介して、と言ったと思って、雪乃はそんなことを言ったのかと思い、一伽は改めてそう言ったのだが、雪乃のほうも冗談ではなかったらしい。

「もぉー、ユキちゃんてホントにバカ」
「何でぇ? いっちゃんが、女の子を紹介して、て言ったんじゃん」
「誰でもいいわけじゃないの。お付き合いしたい、て思えるような人がいい、て言ったじゃん」

 誰でもいいなら、昨日まで毎夜ベッドインしていた数々の女の子たちの、誰だっていいことになる。
 でもそれが嫌だから、一伽はそう言ったというのに。

「だって俺、いっちゃんの好みのタイプなんて知らないもん。かわいい子が好き、ていうのは聞いてるけど、具体的にどんな感じがいいとか知らないし」
「あーもういいよ。別にユキちゃんになんか、何も期待してないから」

 いろいろと気持ちは嬉しいが、雪乃が絡むと余計にややこしくなりそうだから、何もしないでくれていいよ、もう。

「変なの、いっちゃん」
「イテッ」

 急に雪乃が両手両足を広げて、大の字の格好になったから、狭い部屋、雪乃の右手と右足が一伽にぶつかった。
 変なの、とか言われた挙げ句に、痛い思いまでさせられて、一体一伽が何をしたと言うのだ。

「俺の何が変だって? 答えによっちゃ、タダじゃおかないけど?」

 うんしょ、と雪乃の手足を退かした一伽は、そう言って凄んでみた。



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暴君王子のおっしゃることには! (159)


「だって、侑仁さんのことが好きなのに、まだ会ったこともない人とお付き合いしたいとか言うなんて、そんなの変じゃん」
「変でもいいもん」
「でもいっちゃん、俺が山下さんのことカッコイイて言ってたころ、好きならもっと積極的に行かなきゃダメじゃん、みたいなこと言ってたのに」
「……」

 雪乃にそう返されて、一伽は返事が出来ずに、枕に顔を押し付けた。
 確かに、雪乃が山下さんのことで騒いでいたころ、カッコいいだの会えて嬉しいだの言っているわりに、彼女がいるかどうかも知らなければ、まともに話したことすらもない状態だったから、付き合いたいならそんなんじゃダメじゃん! とキレたことはある。
 いやでもあのときは、雪乃が山下さんのことを好きだと言っているくせに、光宏の家に通いまくっていたから、光宏が不憫に思えたからで…。

「ねぇねぇ、侑仁さんの態度はどんな感じなの? いっちゃんのこと、完全に友だちとしてしか見てない感じ? 俺、そういうの感じ取るの苦手だけどさ、いっちゃんは敏感でしょ?」
「そんなの分かんないよ、自分のことなんて。侑仁、俺のこと好きて思ってるかも……とかつったら、俺、超自意識過剰じゃん」

 そりゃ、相手が自分に寄せる感情が、好意なのか嫌悪なのかのくらいは嗅ぎ分けられるけれど、その好意が、愛情なのか友情なのかは、なかなか判断が難しい。
 それは、自分の勘違いだったら恥ずかしいし…、と思う気持ちがあるからかもしれないけれど。

「あ、航平さんは?」
「は? 航平くんが何? 俺、航平くんとなんか絶対に付き合わないかんね?」
「違うってば…。そうじゃなくて。航平さんて侑仁さんのお友だちなんでしょ? 航平さんは、侑仁さんといっちゃんのこと、何も言わないの? 侑仁さんのこととかさ」

 先ほど、お付き合いしたら? という相手の名前に、いきなり美也子の名前を出された一伽は、今度は航平が候補に挙げられたのかと思って身構えたが、そうではなかったらしい。

「航平くんの言うことは、あんま当てになんないからダメ」
「何で? 当てになんない、てどういうこと?」
「だって航平くん、……航平くんだけじゃなくて、海晴とかエリーちゃんとかもだけど、何かみんなして、侑仁が俺のこと特別扱いしてる、みたいなこと言うの」
「ホラ! やっぱりちょっとは脈ありなんじゃん!」

 『海晴』とか『エリーちゃん』とかが誰なのかは分からないが、少しは期待が持てる状況なのだと知り、雪乃の声は明るくなった。
 でも実際は、そんなにいいものではない(だからこそ一伽は、航平の言うことは当てにならない、と言ったのだ)。

「ないもん。だって侑仁、自分でそんなことない、て言ったんだもん」
「え、いっちゃんに?」
「航平くんに。航平くんもさ、侑仁は俺のこと好きそうに見えるて言うの。でもね、航平くんが言うには、侑仁はそのこと認めてないんだって。つまりは、俺のこと友だちとしてしか思ってない、てことでしょ?」

 この間の航平の言葉を思い出して、一伽はちょっと落ち込んだ。
 あのときは、最初に航平が、侑仁も一伽のことが好き、みたいなことを言ったから、それに期待した分だけ、余計にガックリしたのだ。

「でもさ、周りから見たら、侑仁さん、いっちゃんのこと好きそうに見えるんでしょ? だったらもうちょっとがんばれば、何とかなるんじゃない!?」

 雪乃が、まるで自分のことのように浮かれ出す。
 一伽のような図太さなんかまるでないのに、こんなのときのポジティブさは、一伽以上だ。一伽はこっそり、能天気…と思う。

「どうにもなんないよ、ユキちゃん」
「そんなことないって! さっきまでのいっちゃんの話聞いてたら、超絶望的な感じなのかと思ってたけど、全然まったく望みがないわけじゃないんじゃん、ねぇ」

 あんまりにも一伽のほうに寄ってき過ぎて、とうとう雪乃は一伽のふとんのほうに乗り込んできてしまった。
 季節は真夏から初秋に移りはしたものの、こうやってくっ付いて寝るには、まだ十分に暑いのに(というか、一伽は雪乃と同じふとんに寄り添って寝たくなんかない)。



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暴君王子のおっしゃることには! (160)


「ねぇねぇいっちゃん」
「ちょっ…ユキちゃん、邪魔なんだけど」
「あのね、あのね」

 邪魔がられても、めげることなく雪乃は一伽に話し掛けてくる。
 しょうがない、やっぱりここは一伽が大人になって、雪乃に付き合ってあげないと。

「もしね、いっちゃんが、侑仁さんに絶対告んないて言うなら、まぁ…それはそれでしょうがないとは思うけどね、」
「うんうん」
「でもまだ他に好きな人がいるわけじゃないんだし、侑仁さんに告んないとしても、他に好きな人が出来るまでの間だけでも、がんばってみる、ていうのはどう?」
「うんうん……て、は? どういう意味?」

 すごく適当に相槌を打っていたら、雪乃の言葉に引っ掛かって、一伽はつい聞き返してしまった。

「そのまんまの意味。どうせ諦めちゃうんだから、アプローチがうまくいかなくたって後悔しないじゃん」
「そ…そう…??」
「だっていっちゃん、告んないで、侑仁さんのこと諦めるつもりなんでしょ? その諦めるに至るまでの間にさ、何もしないか、ちょっとでもがんばってみるか、選択肢は2つあるじゃない?」
「…うん」
「どっちも選択できるけどさ、でもちょっとでもがんばるほうを選んだら、もしかしたらだけど、いい方向に動くかもじゃん」
「そっか…」

 確かに一伽は、もう侑仁と付き合うことは諦めているのだから、がんばった結果がうまくいかなかったとしても、それは最初から分かっていた結果だと諦めが付くかもしれない。
 いや、そんな簡単に諦められずに、すごく傷付くかもしれないけれど、でも何もしなくても結果は同じなのだから、そう言って自分を納得させられるだろう。
 それに、雪乃の言うように、もしかしたら、本当に限りなく低い可能性だけれど、もしかしたら、何かいい方向に動くかもしれない。

 雪乃に乗せられている気がしないでもないが、何となくそんな気がして来た。

「ねぇいっちゃん」
「ぅん?」
「だからさ、そんなに簡単に諦めて友だちになるとか言わないで、ちょこっとだけがんばろうよ? ね?」

 最初に言っていたように、雪乃は本当に、一伽のこの恋を応援したいと思っているらしく、邪魔だと言っているのに一伽のほうにくっ付いてきて、真剣な目で一伽の顔を覗き込んだ。

「いっちゃん?」
「…………、わーかったよ、ユキちゃんがそこまで言うなら、もうちょっとだけがんばってみる」
「ホント!?」

 窺うような様子だった雪乃は、一伽がそう答えると、ぱぁ…と顔を明るくした。
 本当に、分かりやすい子。

「…その代わり、」
「ぅん?」
「もしうまくいかなかったら、ユキちゃん、責任取って、俺にかわいい子紹介してよね?」
「え、えぇ~~~~! そんなの!」

 雪乃に優しくされると、心配されると、擽ったくて、照れくさくて、素直になれない。
 一伽は、わざとニンマリと、すごく意地悪そうな顔をして、雪乃にそう言ってやった。もちろん雪乃は、すぐにギャーギャーと喚き出す。

「はい、決まり~。お休み~」
「ちょっ、何勝手に…!」
「ぐぅぐぅぐぅ」
「何寝たふりしてんの、いっちゃん!」

 雪乃がゆさゆさと肩を揺さぶって来るが、一伽は笑いを堪えながら、がんばって目を開けない。
 そしてそのうち、2人して眠りに落ちていた。



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暴君王子のおっしゃることには! (161)


一伽 と 航平

 昨日の雪乃との話で、とりあえずすぐには諦めないで、もうちょっとがんばってみる、ということにしたから、有言実行の一伽は、ちゃんとそうすることにした。
 ただ、いきなり積極的になるのも何だかちょっと恥ずかしいし、不審に思われたら困るから、どんな感じでいったらいいかは、やっぱり悩む。

(悩むけど……でもやっぱ、侑仁には会いたいなぁ)

 最後に侑仁に会ったのは、航平と一緒に侑仁の家に行こうとして、でも結局行かなかったあのときよりも前だから、もう随分前のことだ。
 その間、一伽は女の子のところをフラフラしていて、侑仁には何の連絡もしていなかったけれど、よく考えたら、侑仁からも、特にメールも電話もなかった。
 …まぁ、2人はただの友だちだから、そんなの別に普通のことなのかもしれないけれど。

(でも侑仁、家に1人なの嫌だから、友だちとか結構家に呼んでる、て……なのに、一伽には何の連絡もくれなかった…)

 一伽が女の子に連絡していたように、侑仁も女の子に……とは言わないけれど、誰か他の友だちにはメールとか電話をしていただろうに、一伽にはしてくれなかった。
 一伽だって、今まで何度も侑仁の家に行っているし、メールだって結構やり取りしてて、一応友だちのうちの1人ではあるんだから、メールくらいくれたらよかったのに。

 自分からも何もしていないのに、侑仁ばかり責めたって仕方はないけれど、気付いてしまった事実が悲しくて、ちょっと落ち込む。
 何で侑仁は、一伽に全然連絡くれなかったんだろう。

(てか……でもちょっと待って?)

 侑仁て、一伽がメールをすれば返事はくれるけど、今までに1回でも侑仁のほうからメールや電話をくれたことなど、あっただろうか。
 一伽は今までに何度も侑仁の家には行っているけれど、侑仁のほうから誘ってくれたこととか。
 電話もメールも、侑仁の家に行くのも、それは全部、一伽が侑仁の家に行きたくなって、でも侑仁が不在だったら困るから、事前にメールをしたのに返事をくれただけで…。

 もしかしたら侑仁は、本当は一伽なんか誘いたくないし、家にも呼びたくなかったのに、一伽がしょっちゅうメールしてくるから、仕方なく招いてくれてたとか…?
 でも、一伽が行きたいと言えば、ちゃんとオッケーの返事をくれたんだから、そうでもないのかな。いやでも、ダメなときはダメて断るし…。

「ぅー…分かんないっ…!」

 考えても考えても、答えは堂々巡りの迷宮入り。
 一伽にはさっぱり分からなくて、頭を抱えてしまう。

 …と。

「…何が分からない、て?」
「えっ!? あ、航平くん!?」

 怒気を含んだ低い声に驚いて顔を上げたら、目の前には航平の顔があって、さらにビックリする。
 あ、ここはお店だった。

「お前はモップ片付けんのに、どんだけ時間掛けてんだっ!!」
「あわわわわ」

 航平には(癪だけど)結構お世話になっているから、ちゃんとしなければと思って、真面目に掃除を終えたのだが、モップを片付けている途中で、いつの間にか考え込み過ぎていたらしい。

「ちょっと考え事してただけだし! つか、ねぇ航平くん」
「何だ」
「…最近、侑仁からメールとか来る?」
「はぁ?」

 侑仁の友人で、一伽も知っているのは、航平と海晴くらいしかいないので(ニナやエリーも知ってはいるが、女の子とは同じ土俵に乗れないので)、どんな状況なのか、とりあえず航平に聞いてみる。
 もし航平とはしょっちゅうメールのやり取りをしたり、家に行ったりとかしていたら、限りなく落ち込むのは分かっていたが、聞かずにはいられなかった。



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暴君王子のおっしゃることには! (162)


「ねぇねぇ、どうなの? 航平くん」
「何だよ。お前また俺に、侑仁の家に行きたいからメールしろとか言うんじゃねぇだろうな?」
「言わない言わない、絶対言わない。侑仁の家には行きたいけど、航平くんとは絶対に一緒に行きたくない」
「おい、そこまで言うな」

 そんな面倒くさいこと(しかも、いろいろと、後々まで面倒くさい)、頼まれたくはないし、航平だって一伽と一緒に侑仁の家には行きたくないが、そこまで言われたくもない。

「で、どうなの? メール来る?」
「あー…いや、来てないかな。何か仕事忙しいみたいだし」
「侑仁、仕事忙しいの?」
「お前みたいに嘘ついてるんじゃなかったらな」
「むぅ…」

 余計なところで引き合いに出されておもしろくないが、家に帰らなかった理由を、仕事が忙しいせいだと嘘をついたのは紛れもなく自分なので、何も言い返せない。
 でもまぁ、侑仁が親友である航平にそんな嘘をつくわけもないか…。いやでも一伽は、雪乃にそういう嘘をついちゃったし、絶対あり得ないとも言い切れない…。

「おい、そんなんで落ち込むなよ。冗談じゃんか」
「別に落ち込んでないし…」

 いや、凹んではいるけど。
 もしこれで、侑仁が本当は仕事でなくて、何か他のことで……例えば女の子とか、でもそれは一伽だって人のこと言えないし、でも。でもでも。

「気になるなら、お前も連絡したらいいだろ。侑仁のこと信じるか信じないかは、お前次第なんだし」
「…だよね」

 どうせダメ元の恋だ。
 やれるだけのことはやっておこう。

 航平に別れを告げて店を出た一伽は、侑仁にメールをしようと携帯電話を取り出したが、受信トレイを開いたら、女の子からのメールばかりだったので焦った。
 本当にここ最近、女の子と連絡を取りまくっていたのだと、今さらながらに思い知って、一伽は慌ててそのメールを全部削除した。

 でも…、メールをするにしたって、一体何と送ったらいいものかと、手が止まる。
 仕事が忙しいことを航平から聞いている以上、やはり、それに触れておいたほうがいい気はするが、忙しいのが分かっているのに、メールをするのも…。
 ならいっそ、知らないふりで、メールをしたほうが?

 今まで侑仁に送ったメールといえば、これから侑仁の家に行く、という報告メールばかりだったから、くだらないことかもしれないが、それ以外に、一体どんなメールをしたらいいか、正直悩む。
 今だって、侑仁の家に行きたいと思っているのだから、そういうメールをすればいいんだろうけど…。

「ぅん~…電話、のほうが…?」

 グズグズ悩むのは性に合わないし、時間ももったいないから…と、一伽は思い切って侑仁に電話してみた。
 でも、1度目のコールを聞いた瞬間、電話だとしても、一体何を話せばいいのか分からないのは同じだということに、ふと気付いてしまった。侑仁に連絡をする以上、電話でもメールでも、それは同じことなのに。

(あ、あ~…やっぱ電話なんて、やめとけばよかったかな。そういえば今まで侑仁に電話なんかしたことなかったよね? なのに何で急に電話なんて…! でも着信残るし、今さら切るのも…!)

 肝心なところで詰めが甘いというか、考えなしというか、一伽は気付きたくもない自分に、今こんな状況で気付いてしまった。
 何度かコールしているが、侑仁は出ない。なかなか出ないことを理由に、電話を切ってしまおう。うん、それがいい――――と、一伽が1人で焦って、1人で納得した瞬間だった。

『――――もしもし?』
「ッ、ン、あ!?」

 もう電話を切ろう…と、一伽が耳元から携帯電話を離し掛けたタイミングで、侑仁の声が一伽の耳に届いたので、慌てた一伽は言葉が詰まって、うまく返事が出来なかった。



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暴君王子のおっしゃることには! (163)


一伽 と 侑仁

『もしもし? 一伽? どうした?』
「あ、あ…、侑仁…?」
『おう、どうした?』
「どうした、ていうか…」

 えっと、だから…。
 とりあえず、メールだと何と打ったらいいか分からないから、電話を掛けてみたんだけれど、『どうした?』と聞かれると、何と返事をしていいか分からない。
 別にどうもしていないといえば、どうもしていないし、でも侑仁の家に……いや、侑仁に会いたい…かな。

「えと…、あの、今大丈夫…? 電話」
『いいけど?』

 電話の向こうは、わりと静かだ。
 例えばクラブとか、そんな賑やかな場所で電話に出たわけではなさそうだし、たくさんの友だちに囲まれているような状況でもなさそうだ(でも隣に女の子がいて、電話の様子を窺っているんだったら、どうしよう!)。

「侑仁、今……家?」
『いや、まだ会社だけど』
「あ…仕事? 忙しい、んだっけ、てか、忙しいの?」

 侑仁の仕事が忙しいことは知らないという体で話すはずが、つい、『忙しいんだっけ?』と、知っているような感じで聞きそうになり、慌てて言い直したが、どうもうまくいかない。
 時間は8時を過ぎたところで、一伽は営業時間の関係で、この時間に帰るのは普通だけれど、一般的なサラリーマンがこの時間に会社にいるのは残業だろうから、やはり仕事は忙しいのだろう。

『んー…もう大体は目途が付いたかな。今日はもう帰るし』
「そうなんだ」
『何だよ、お前、俺んち来る気?』
「えっ!? えと、えっ…」

 いや、確かに侑仁の家には行きたかったんだけど、そのつもりで電話したんだけど、そんな言い方するなんて、も…もしかして迷惑…?
 今会社にいる、と言ったのはやっぱり嘘で、例えば今女の子と……彼女と一緒にいるとか? だから、今いる場所はともかく、一伽に来られるのは、やっぱり…

『いや、俺、これからメシ食って帰ろうと思ってたから、まだすぐに家に着かないんだけど』
「えっ? は?」
『え? もしもし? 聞こえてるか?』

 一伽があんまりにも聞き返すものだから、侑仁は聞こえていないと思ったのか、そんなことを言ってくる。
 もちろん一伽は聞こえていないわけではなくて、侑仁の言ったことが思っていたことと違っていたので(しかも自分の想像でちょっと落ち込んでいたのもあったし…)、混乱しているのだ。

「メ…メシ??」
『おー。これから帰って作るのもメンドイし、まぁコンビニで買ってってもいいんだけど』
「え、侑仁、ホントに今会社にいんの!? 仕事!?」
『だから、そうだ、つってんだろ。何言ってんだよ、お前。俺だって仕事が忙しいときくらいあるっつの』

 侑仁の仕事が忙しいことは航平からも聞いていたし、侑仁自身もそう言ったけれど、一伽は勝手に違うことを想像していたから、やっぱり本当に仕事が忙しかったんだと分かって、すごく驚いた声を出してしまった。
 そんな一伽がよほどおもしろかったのか、侑仁は特に気を悪くしたふうもなく、笑っている。

「侑仁、これからご飯なの?」
『おぅ。一緒に食う?』
「いいの!?」
『いいけど……何、奢れって? お前、そればっかだな』
「ち…ちが、」

 別にそんなつもりはなかったのだが、今までの一伽の行いからして、そう思われても仕方はない。
 侑仁に笑いながら突っ込まれ、一伽は慌てた。



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暴君王子のおっしゃることには! (164)


「別にそういうんじゃ……ギャッ!」
『えっ? おい、どうした?』
「転んだ…」
『はぁ?』

 電話越しの侑仁に気を取られていた一伽は、前を見て歩いてはいたものの、前しか見ていなかったから、足元の段差に気付かず、突っ掛かって転んでしまったのだ。

「イッテー…」
『何してんだ、お前』

 痛いよりも恥ずかしくて、一伽はさっさと立ち上がって、歩き始める。
 というか、転んだ恥ずかしさよりも、侑仁との電話に浮かれている自分が恥ずかしい。

「に゛ー…」
『おいおい、大丈夫かよ』
「だい…だいじょぶ…。だいじょぶだから、ご飯…」
『何だよ、そんなに腹減ってんのかよー。つか、お前のメシは血だろ? 吸わせねぇぞ?』
「吸わないもん…」

 今日の夜、侑仁に連絡して、もし会えるとなったら、すぐに会いたかったから、吸血はお昼のうちに済ませておいたのだ。
 何だか妙に健気な自分が、ちょっとおかしい。

『じゃ、後でな』
「うん」

 待ち合わせの場所を決めて電話を切ると、一伽の口元がニンマリと上がる。
 やった! 侑仁と会える! しかも、一伽が望んでいたことは侑仁に会うことで、あわよくば侑仁の家に行けるかなぁ…くらいだったのに、一緒にご飯に行けることになった!

「あひゃひゃ。嬉しー!」

 周囲の訝しむ視線など気にすることなく、一伽は変な笑い声をあげながら、ピョンピョンと飛び跳ねる。嬉しくて、大人しくなんかしていられないのだ。
 今までに何度だって侑仁の家に行ったことはあるし、侑仁の作ったご飯だって食べたこともあるし、何だって平気でやって来たくせに。

「でも嬉しいっ! きゃはー!」

 一伽はダッシュで路地裏に入ると、コウモリに変身して飛び立った。



*****

「えと…、え、ここ?」

 電話をしたとき侑仁はまだ会社にいたから、飛んで行ける一伽が向かうのが簡単だと思って(まぁ、侑仁の働いている場所を見てみたいという気持ちもあったし)、侑仁に会社の住所を聞いてやって来たのだが。
 一伽は、侑仁に電話で言われた場所に到着すると、目の前に建つ……というよりそびえ立つと言ったほうがいいかもしれない高層ビルに、我が目を疑った。

「嘘……こんなすげぇビル…?」

 身内ばかりの小さな会社だと聞いていたから、勝手に、ごく普通の雑居ビルの1フロアに入っていると思っていたのだが、ビルの大きさが、一伽の想像を遥かに超えていた。
 いや、でもこれは一伽の勘違いで、近くの違うビル……と思ったが、辺りを見回しても高層ビルばかりで、この中の、どのビルにオフィスが入っていたとしても、やっぱり一伽は仰天するしかない。

(侑仁の会社、何階かな)

 やっぱり、高層階のほうが、家賃が高いんだろうか。
 でもホテルやマンションと違って、眺望を売りにするわけではないから、そんなの関係ないんだろうか。



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暴君王子のおっしゃることには! (165)


(俺、入ってって、怒られない…?)

 侑仁には、着いたらビルのエントランスに入って来ていい、と言われているのだが、こんなすごいビル、セキュリティだって厳しそうなのに、一伽なんかが入っても大丈夫なんだろうか。
 でもきっと侑仁はここから出てくるはずだから、一伽がわざわざ中まで入らなくても、ここで待っていれば、侑仁に会えるだろう。
 中に入るのはやっぱり怖いから、外で待っていよう。

「侑仁、まだかな」

 まるでデートの待ち合わせみたいに、ドキドキワクワクしながら、侑仁が来るのを待つ。
 実際のところ、一伽の女の子とのお付き合いは、そんなかわいらしいデートよりも、気持ちいいこと優先の、超即物的な関係ばかりだったので、こんなにドキドキしながら人を待ったことはないのだが。

(久しぶりに侑仁に会うの、どんな顔してたらいいのっ?)

 もう本当に今さらのことを思っては、一伽の心は弾む。
 あんまり浮かれていたら、侑仁に変に思われるのは分かっているのだが、やっぱりどうしても嬉しい(でもここであんまり浮かれていると、不審者だと思われる…?)。

「侑仁、まだ…?」

 ここはオフィスビルが立ち並んでいるが、1つ向こうの通りは繁華街だから、カップルやら、酔っ払いやら、元気のいい友だちグループだとかが、一伽のそばを通り過ぎていく。
 何だか1人で佇んでいるの、寂しい…。

 一伽はポケットを漁って携帯電話を取り出すと、時間を確認する。
 先ほどん電話をした時点で、侑仁の仕事は終わっているはずだから、侑仁としては、会社の入っているフロアから、ここまで下りてくるだけでいいはずなのに。
 もしかしたら、仕事で何かしらあって、まだ帰れなくなってしまったんだろうか。
 だとしたら、一伽が今電話とかメールをしたら迷惑かな。でも状況が分からないし、とりあえず確認の電話……もし都合が悪くなったのなら、残念だけど、また今度にしないとだし…。
 一伽が少し迷ってから侑仁に電話をすると、たったワンコールで電話は繋がった。

「もしも…」
『一伽、お前今どこいんだよ。まだ着いてねぇの?』
「はぇ?」

 電話に出た侑仁は、一伽が想像していたようなセリフではなく、待ちくたびれたようにそう言った。

『お前、飛んで来るとか言ったから、そんなときに電話しても出ねぇのかな、て思って、掛けないでたんだけど……まだ着かねぇの? まさか道迷った?』
「いや、迷ってない……と思う。ビルの前にいる、今……てか、ずっと」
『ずっとぉ~?』

 侑仁が、怪訝そうな声を出す。
 でも一伽はずっと、侑仁が出て来るのをここで待っていたのだ。

『あ、いた』
「ぅ?」

 電話越しの声と、直に聞こえる声がダブって、一伽がそちらを振り返ったら、ビルから出て来た侑仁が、携帯電話を耳に押し当てて呆れた様子で一伽を見ていた。
 久しぶりに見た侑仁の姿に、浮かれすぎてちゃダメ…と自分に言い聞かせていたにも関わらず、一伽はまたドキドキがぶり返して、クラクラして、はぅっ…! てなって、どうにかなってしまいそう。

(どうしよう、俺、超ヤバい人だ、でもどうしようっ…!)

 一伽は、全然自慢にならないが、たとえその期間が1週間くらいだとしても、いわゆる『彼女』としてお付き合いした女の子は何人もいるし、体だけの関係の子なら、もっとずっといっぱいいる。
 けれど所詮、そんな感じの付き合い方しかしてこなかったから、本当に好きになった相手を前にして、どうしたらいいのか分からない。
 今までは、嫌われたら嫌われたでいいや、とか思っていたけれど(他の子を探せばいいから)、でも侑仁の代わりなんてかいないし、侑仁に嫌われたくないし、嫌われないためにはどうしたらいいの?



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暴君王子のおっしゃることには! (166)


「ったく、中入ってろ、て言ったろ? お前がなかなか来ねぇから、下でずっと待ってたのに」
「だって…、何か勝手に入ったら怒られそうだったから…」
「いや、誰が怒るんだよ…。1階はエントランスホールだし、誰でも入れるから」

 地上30階建てのこのオフィスビルは、何も各階に入っている会社の社員だけが出入りするわけではなく、それぞれの会社に来客もあるし、何かしらの業者も来るから、そんなに怯えることなどないのだが…。

「でも、侑仁がこんなすごいトコで働いてるなんて、知らなかった…。嘘つき、やっぱりセレブなんじゃん」
「いや…別に俺がセレブなわけじゃないし」

 この立地場所にして、この高層ビルの23階にオフィスを構えていれば、その家賃だけでもバカにならないとは思うが、侑仁は一社員でしかないから、詳しいことは分からない。
 高校時代の先輩であり、この会社の代表である滝沢の話では、こういうところに所在があれば、小さな会社でも、それなりに信用してもらえるのだという。

 とりあえず侑仁は、好きなことを仕事にしてメシに有り付いていられればいい…という、この時代に生きるにしてはのん気なスタンスなので、オフィスの所在地も、窓からの眺望も、どうでもいいのだ。
 ただ侑仁は、『セレブ』と言われる人たちに肩を並べるほどではないが、同年代のサラリーマンに比べたら、かなり羨ましがられるだけの額は貰っているのだが…。

「ねぇ侑仁、どこ行くの?」
「とりあえず車出すから、こっち」
「は? 車? 車で行くの? タクシー??」

 どういうことなのか分からず、一伽は小首を傾げつつ、侑仁の後を付いていく。
 一伽の移動は、徒歩以外は大体コウモリの姿で飛んで行くのだが、人間の友人に合わせて、電車に乗ることだってあるから、切符の買い方とか、改札の通り方は、知っているのに。

「いや、自分のだけど」
「えっ侑仁、自分の車があるの!?」

 はうぅ~…やっぱりセレブ…。
 大体からして、セレブの基準が低い一伽は、またそんなことを思ってしまう。

「いや、今日も帰りが遅くなるかも、て思ったから乗って来ただけで、結構電車も乗るよ? つか、何食う? 飲むなら、車置いてかないとだな」
「んー…」

 一伽は車の運転が出来ないから、侑仁がお酒を飲みたいなら、そういうことになるだろう。
 でもちょっと、侑仁の車、乗ってみたいな。

「何にする?」
「ん、俺は何でも…」

 人間のような食事を必要としない一伽は、特に夜ご飯となると、誰かに誘われたり、クラブに遊びに行ったりでもなければ、食べることがないので、店もあまり知らない。
 それに今は、侑仁と一緒なのが嬉しいだけだから、何を食べるか自体は、わりとどうでもいいんだけど、でもこういうときは、『何でもいい』て言うより、何か答えたほうがいいのかな。

「んと…、……て、え?」

 侑仁の食べたいものでいいけどなぁ…と思っていた一伽の横を、女の子2人組が通り過ぎていく。
 街は賑やかだし、周りにいる他の人たちの声も結構大きいから、その子たちが特別目立ったわけではないんだけれど、通り過ぎ際、何となく視線を向けたら、見覚えのある顔だった。

「んぁ…? あー、いっちゃんら~」
「ちょっ、美亜! 重いっ」

 2人のうち1人は知らない顔だったが、もう1人は、一伽の、吸血したり気持ちいいことをしたりするお友だちの、美亜だった。

「あ…美亜ちゃん…。え、どうし…」

 まだそんなに遅い時間ではないのに、一緒にいる友だちの女の子が支えるのもやっとなくらいに、美亜はすでにかなり酔っ払っていて、足元も覚束ない様子だ。
 侑仁と一緒のときに、あんまり関わりたくないなぁ…なんて勝手なことを思ったが、さすがに美亜の様子が心配で、声を掛けた。



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暴君王子のおっしゃることには! (167)


「何、美亜、知り合い? 友だちなの? お願い、ちゃんと立って!」

 それまで何とか歩いていたのに、一伽に会った途端、足を止めてしまった美亜に、友人の子は、怪訝そうに、そして面倒くさそうに一伽を見た。
 髪は金茶で、派手めの美亜よりも、さらに派手な感じの子。

「んーんー、いっちゃん聞いて~、美亜ね、あのねぇ」
「わっ、ちょっ、美亜ちゃんっ」

 友人の手を離れた美亜が、一伽に抱き付いてくる。
 いつもだったら大変嬉しい状況だけれど、今はとっても困るから、離してほしい…!

「ねぇ、聞いてゆ~?」
「聞いてる聞いてる、何?」
「美亜ねぇ、またフラれたのよぉ?」

 一伽に抱き付いた美亜は、甘えるような仕草で、上目遣いに一伽を見る。
 そばに侑仁や美亜の友だちがいなかったら、以前の一伽だったら、そういう意味で慰めてあげるべく、美亜をお持ち帰るしているところなんだけれど、今はそういうわけにはいかない。
 かわいらしい美亜は大変魅力的だけれど、一伽はそれどころではないのだ。

(てか、侑仁に誤解される…!)

 フラれてしまった美亜はかわいそうだが、一伽も、こんなことで侑仁にフラれたくはない。
 というか友だちの人! 見てないで、助けて~!

「ねぇいっちゃ~ん、これから美亜んち行こうよぉ、遊ぼっ?」
「いや、ダメだって。俺、これから…」

 一伽は何とか美亜を押し戻すが、完全に酔っ払っている美亜は、再び一伽に抱き付いてくるから、まったく埒が明かない。
 相手は女の子だし、人間だから(リコと違って、美亜が人間なのは間違いない)、一伽は本気で力を出せば引き剥がせないこともないが、さすがにそれもちょっと…。

「ん~…ダメ? 美亜、ダメ?」
「や、美亜ちゃんはダメじゃないけど、お願い、今日はっ…」

 うぇ~ん、何で今なのっ? 何でこのタイミング!?
 お願い美亜ちゃん、離れて~~~~!!!

「ぅ~…いっちゃんまで美亜のことフるのね、ヒドイ~」
「ちが、そうじゃなくてっ…」
「美亜~、今日はもう帰ろうよ~」

 ヤバい、友だちの子が面倒くさくなってきているっ…!
 そんなに一伽がいいなら、と美亜を一伽に託されても困るので、早めに切り上げないと。

「美亜ちゃん、お友だちが帰ろう、てゆってるよ? だから今日はもうバイバイしよ? ね?」
「ぅん~…、じゃあいっちゃん、キスしてぇ~?」
「えぇっ!?」

 一伽ががんばって、子どもを諭すような口ぶりでそう言ったら、美亜がとんでもないことを言い出した。
 『じゃあ』と言うからには、一伽がキスしたら、今日のところはバイバイしてくれるんだろうか。でもだからと言って、こんなところでキスなんか出来るわけがないし。

「美亜ちゃん何言って……ホントお願い、ちゃんと立って!」
「美亜ー、よく分かんないけど、この人も困ってるから、離れなよ~」

 非常に面倒くさそうに、友だちの子が一伽から美亜を離してくれた。
 美亜はもう、すっかりグニャグニャだ。

「ゴメンね。美亜、また男に捨てられて、さっきまでヤケ酒だったの」
「もぉ~~あんな男、知らないもんっ!」
「はいはい」

 せっかく友だちに立たせてもらっているのに、美亜がブンブン腕を振り回すから、また倒れ掛かっている。
 本当はあんまり相手にはしたくないが、こんな状態の美亜を、この子1人に任せて大丈夫なのかと、心配になってくる。



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暴君王子のおっしゃることには! (168)


「えと、あの…」
「とりあえず、今日のところはアタシが連れて帰ります。また何かあったら、美亜の相手、してやってください。いっちゃんさん? ホラ美亜、行くよ~」
「ん~…」

 一伽に会ってテンションを上げ切ったらしい美亜は、電池が切れたように大人しくなって、友だちに肩を借りている。
 酔っ払って力の抜けている子を連れて行くのは結構大変なんだけど、この子が何とかしてくれるみたいだから、申し訳ないけれど、お任せしよう。

「それじゃあ、どうも~」
「あ、うん…」
「美亜、いっちゃんさんにバイバイしなくていいの?」
「にゃぁ~…」

 爆弾を落とすだけ落として、美亜は力尽きたのか、一伽のほうを見るわけでもなく、手を振るような仕草をしただけで、友だちに連れられて行ってしまった。

「はぁ~…」

 嵐が去って、一伽は大きく溜め息をついた。
 酔っ払った美亜の相手って、こんなに大変だったっけ?

 ――――てかっ!

「あ、侑仁っ、あの…!」
「んー?」

 そういえば、隣には侑仁がいたんだったっけ! と、一伽が焦って侑仁のほうを向けば、侑仁は物珍しそうに、去っていく美亜たちの後ろ姿を眺めていた。

「あの、あのね、侑仁、あの子はっ…」
「お前より酒癖悪いヤツ、久々に見たわ」
「え…?」

 酔っ払った美亜に絡まれて、『遊ぼ』とか言われて(それがそういう意味なのかは、侑仁だって分からないわけがあるまい)、キスまで迫られたのに、侑仁の感想はそれ…?
 一伽は、侑仁に誤解されたんじゃないか…て、すごく焦ったのに。

(…てか、そんなの別に気になんないくらいの友だちでしかない、てことか……俺なんて)

 どうせ侑仁の中で一伽は、美亜とのことを勘違いしたり、嫉妬したりなんて、そんな対象にまで達していないレベルの存在なのだ。

「あの、侑仁…」
「ぅん? つか、いーの? 追っ掛けなくて」
「……」

 もう姿の見えなくなった、美亜たちの去って行ったほうを指差す侑仁に、一伽は口を閉ざした。
 バカ。何でそんなデリカシーのないこと言うの。

「一伽?」
「…侑仁とご飯行くのに、何で美亜ちゃんのこと、追っ掛けないといけないわけ?」

 思ったよりもずっと拗ねたような声が出て、一伽は自分で自分が嫌になる。
 こんなことで自分が機嫌を悪くしてどうするのだ。

「いや、だって……女の子大好きなのはお前だろ? 俺なんかよか、そっちのがいいじゃねぇの?」
「そんなことないもんっ…」
「ふぅん?」

 一伽なりに精いっぱい否定したのに、侑仁は全然関心なさそうな声で返事をして、「じゃあ行くか」と歩き出した。
 確かに一伽は女の子が大好きで、いっぱい遊んできて、侑仁もそのことを知っているから、侑仁がそんなこと言うのも分かるけれど、一伽はもう、そういうことはやめたのに。

(でも、そのこと侑仁に言ったわけじゃないし…女の子好きなままだと思われたって、仕方ないか…)

 実は侑仁のために、密かにいろいろ変わろうとしているのだが、一伽の今までが今までなだけに、侑仁に伝わるまでには相当時間が掛かりそうだった。



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暴君王子のおっしゃることには! (169)


 侑仁の車の助手席で、一伽はボンヤリと窓の外の景色を眺めていた。
 オーディオからは、何やら英語の曲。嫌なリズムではないが、英語なんてさっぱりの一伽は、眠くなってしまいそうだ。

(つか……侑仁のバカ)

 先ほどの美亜との一件の後、一伽はドキドキしながら侑仁の様子を窺っていたのだが、侑仁は至って普通で、それが一伽には、却って居心地が悪かった。
 根掘り葉掘り聞かれたくはないが、何も聞かれないのも気まずい。
 かといって、自分からは言い出しにくいから、侑仁が何か言ってくれたら、そんなんじゃないよ、俺、女の子とそういうことすんのやめたんだよ、て言えるのに。

「侑仁、あのね……うわっ」
「何だよ」

 流れる景色が止まって、赤信号なのだと思った一伽は、何となく運転席のほうを向いたら、侑仁がこちらを見ていたので焦った。

「つか、もう面倒くせぇから、俺んちでもいい?」
「えっ…うん、いいけど……ご飯作るほうがめんどいんじゃないの?」

 侑仁の提案に、そのほうがラッキーだと一伽は舞い上がるが、ふとした疑問が湧き上がった。
 申し訳ないが、侑仁に代わってご飯を作ってやれるような腕前、一伽にはさっぱりないから(あぁでもこういうとき、ご飯を作ってあげられたら、ポイント高いんだろうな…)。

「や、買ってく」
「コンビニ?」
「悪ぃか?」
「…別に」

 ご飯なんて食べても食べなくてもいい体の一伽にしたら、侑仁がそれでいいならいいけれど、あんなすごいビルにあるオフィスで働いている侑仁が、コンビニ弁当ていうのが、すっごく似合わない…。

「何笑ってんだよ」
「笑ってないよー」

 …いや、ちょっと笑っちゃったけど。
 それでも侑仁は、普段はちゃんと自炊しているわけだから、一伽なんかよりずっとすごいんだけど。

「てか侑仁て、ホントにスーツじゃないんだね」
「何だよお前、また言うかぁ? でもホストにも見えないだろ?」

 仕事帰りのはずの侑仁は、家にいるときほどラフではないけれど、一伽が思っているような、いわゆる『サラリーマン』の格好ではなくて、結構カジュアルな姿だ。
 確かインターネットか何かの会社だったはずだけど、そういうところは服装、あんまり関係ないんだろうか。

「ん、ホストにも見えない。てか、ホストだったら、これからご出勤だよね」
「お前連れて、同伴出勤か?」

 侑仁は笑いながら、タバコに手を伸ばした。
 あ、カッコいい。

「ん? あ、ワリ、タバコ吸っていい?」
「うん」

 一伽はタバコを吸わないけれど、タバコの煙は全然気にならないから平気だし、侑仁もそれは知っているはずだけど、車内でタバコに火を点けるのに、一伽を気にしてくれたらしい。
 侑仁は自分の家でもキッチンで吸うくらいだから、誰に対しても気を遣っているんだろうけど、でも気に掛けてくれたことが、やっぱり嬉しい。

 侑仁の笑顔とちょっとした優しさに触れただけで、一伽は、先ほどまでの重苦しいような、何か言い訳したいような気持ちを忘れて、侑仁と一緒にいられる今が楽しくて仕方なくなる。
 先ほどまで、ただ眠たくなるだけだと思っていた音楽も、何だかすっごくいい曲に思えてくるし。

(…あぁ、やっぱり俺、侑仁のこと好きだなぁ)

 一伽はまっすぐ前を見る振りをしながら、タバコを吸いながらハンドルを握っている侑仁の姿をコッソリと盗み見ては、幸せな気分に浸っていた。



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暴君王子のおっしゃることには! (170)


 途中のコンビニで、侑仁の夕食と、2人分のアルコールと、一伽が食べたがった抹茶味のロールケーキを買ってから、侑仁の家に向かった。
 2人でコンビニなんて……何かちょっとデートぽくない? コンビニデート! と一伽は勝手に盛り上がったが、所詮はただの買い物風景でしかないことは、一伽自身もよく分かっている。
 しかも一伽的には、侑仁の家にお邪魔するんだから、自分の分と、せめてアルコールの分くらいはお金くらい出したかったのに、侑仁に、『面倒くせぇから一緒でいいよ』とか言われて、結局、全部侑仁が払ってくれた。

「お邪魔しま~」
「す、まで言いなさい」
「ぐふ」

 前に来たときと同じく、挨拶を省略して言ったら、侑仁がいつもみたいな感じで突っ込んでくれたので、嬉しくて一伽も笑った。

 ご飯だから、ダイニングのほうに行くのかな、と思ったら、侑仁がコンビニの袋をリビングで広げたので、一伽もソファに座った。

「抹茶ロール…、激しくビールと合わなさそうだけど……ホラ」
「合わなくないよ、おいしいよ」

 一伽ご所望の抹茶ロールケーキに眉を寄せつつ、侑仁はそれを渡した。
 一伽は結構甘いものが好きだから、ロールケーキとアルコールの組み合わせは平気だけれど、侑仁には少し理解しがたいことらしい。

「いただきまーす」

 今度はちゃんと最後まで言って、一伽はロールケーキにかぶり付いた。

「そういえば侑仁、ずっと仕事が忙しかったの、毎日コンビニ弁当だったの? 体、大丈夫? つか、寂しくない?」

 コンビニで温めてもらったパスタを食べ始めた侑仁を見て、一伽は思わず尋ねてしまった。
 ただでさえ、1人ご飯が寂しくて出来ないらしい侑仁が、仕事が忙しかったとはいえ、毎日コンビニ弁当で済ませていたんだとしたら、何だかいろいろ心配だ。
 誰か…ご飯を作って帰りを待っていてくれる人がいるとか……だったら、今日いきなり電話をしてきた一伽を、家に招きはしないか。

「いや、メシはいろいろ。会社のヤツと食ったりとか。いくら忙しくても、そこまで寂しくはない」
「そっか」
「でも、殆ど毎日、外で食ってたよ。コンビニのつっても、久々に家でメシ食うー」

 侑仁はソファの背に凭れて、大きく伸びをした。
 今日、一伽が仕事が終わった後に電話したら、侑仁もちょうど終わったころだったようだけれど、仕事の始まる時間が違うだろうから、侑仁のほうが確実にたくさん働いている。
 しかもそんな状態が、今日だけでなく何日も続いていたわけだから、すごく大変だったんだろうな。
 雪乃に、仕事が忙しいと嘘をついて、女の子と遊んでいた自分が、情けないやら、申し訳ないやらだ。

「つか、お前に会うのも何気に久々だよな」

 体を起こした侑仁が、グラスを傾けた。
 一伽が最初に侑仁の家に来たとき、缶のまま直に飲むのはイヤだからグラスが欲しいと言ったワガママを、侑仁は今でもちゃんと覚えてくれているらしい。

「何か全然メールとか寄越さなかったし」
「そんなの侑仁も一緒じゃん。何も連絡くんなかった」
「仕事忙しかったんだってば」
「そうじゃないときだって。今までも、俺からメールすることあっても、侑仁からくれたことないじゃん。…侑仁、他の友だちとか、ご飯誘ったりするんでしょ?」

 抑え切れず、思っていたことを言ったら、何だか僻みぽくなってしまい、恥ずかしくて一伽は、ごまかすようにグラスに口を付けた。
 別にそんなことまで言うつもりはなかったのに。

「でも、お前のメシは血じゃんか」

 侑仁、呆れちゃったかな…と思ったが、視線を向けると、侑仁は何だか不思議そうな顔でキョトンとしてた。
 一伽のご飯が血なのと、侑仁が他の友だちを誘うように一伽に連絡をくれないのと、一体何の関係が?



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暴君王子のおっしゃることには! (171)


「血じゃなくたって、普通のご飯だって食べるよ? 侑仁の作ったヤツだって食べたじゃん」
「そうだけど。何だ、じゃあメシ誘ったら来るんだ?」
「行くよ! …え、もしかして侑仁、俺のメシは血だから、誘っても来ないと思ってたの?」
「うん」

 まさか、と思って一伽が尋ねると、侑仁はあっさりとそれを肯定した。
 侑仁からメール来たことない…と、一伽は密かに落ち込んで気にしていたのに、その理由が、単なる侑仁の思い込みから来るものだったとは…! 

「いや、飲みとかさ、クラブ行くとかだったら来るけど、普通にメシだけは来ねぇのかな、て思ってたんだよ。だから今日お前から電話来て、メシ誘ったけど、ホントに来るとは思わなかったし」
「そんなことないよ! 行くよ、行く! 前にcafe OKAERIにも一緒に行こう、て言ったじゃん!」

 そんな勘違いをされたままでは堪らないと、一伽は必死に言った。
 ついでに、侑仁が忘れているであろう約束も付け加えて。

「分かったよ、今度からお前にも声掛ける。そのカフェも、今度行くか」
「ホント!? 絶対ね!」
「はいはい」

 何でこんなにとんとん拍子に事が進むの!? と不思議に思いつつ、でも嬉しさのほうが勝って、一伽は素直に喜んだ。
 …そしたら。

「何か嬉しそうだな、お前」
「えっ、べ、別に」

 あっさりとそれを侑仁に見破られた。
 嬉しいことは間違いないんだけれど、それが顔に出ていたかと思うと恥ずかしくて、一伽は慌てて否定しながら、自分の頬をむにむにと摘んだ。

「俺にメシ誘われたら、嬉しいの?」
「は? な…何言ってんの、急に」

 何してんだ、と侑仁に手の甲を突かれて、一伽はさらに慌てて、ぶんぶんと首を振る。
 突然、何を言い出すのだろうか、侑仁は。そりゃ侑仁に誘われたら、一伽は確実に嬉しいけれど、どうしてそれを侑仁自身に確認されないといけないんだ。
 それとも、言われるほど、そんなに嬉しそうな顔してた?

「いや…嬉しいのか、ただ気ぃ遣ってるだけなのか、どっちなのかな、て思って。最近お前、気ぃ遣うヤツになったじゃん、ちょっとだけ」
「ちょっとだけ、てなんだよ! ちょっとじゃないよ! …てか、何の話? 何で急に、気ぃ遣うとか、そんな話が出て来んの?」

 いろいろと気遣いの出来る子になろうと、確かに一伽ががんばり中だが、それと侑仁に誘われるのが嬉しいのと、どういう関係があるというのか。
 今日だって、侑仁にご飯誘われて(たとえそれがコンビニ弁当になったとしても)(いやむしろ、2人きりだし、侑仁の家に来れたし、ラッキーだけど)、嬉しいだけなのに。

「ぅん? いや、俺と先に約束したから、気ぃ遣ったのかと思って」
「え? 先に…てか、俺今日、侑仁としか約束してないけど?」
「さっきの子。ミアちゃん? だっけ? 断ってたから」
「ッ…!!」

 久々に侑仁の家に来て、何だかいろいろ嬉しくてほわほわしていた一伽は、先ほど出会った美亜のことなんてすっかり忘れていたので、突然話を振られて、驚いて、言葉を詰まらせた。
 美亜のことを言われたら、そんなことないんだよ、て、女の子と遊ぶのはもうやめたんだよ、て言おうと思っていたのに。

「美亜ちゃんとは何もなっ…、彼女とかじゃないし、ホント、あの子とは何もないよ、侑仁、信じて!」
「まぁ…あの子も何か振られたみたいなこと言ってたし、別にお前の彼女とは思ってないけど」
「…ホント?」
「うん」

 まさかこんなふうに美亜のことを話すはめになるとは思っていなかったので、全然うまい感じに話せなかったが、美亜が一伽の彼女だという誤解だけは避けられたようで、少しホッとした。
 で、気を遣うとは?



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暴君王子のおっしゃることには! (172)


「や…お前が女の子の誘い断って俺のほう来るなんて、俺に気ぃ遣ってんのかな、て思うじゃん。それか、あの子すげぇ酔っ払ってたから、連れて帰っても介抱くらいしか出来ないし?」
「そんなんじゃ…、俺、侑仁とご飯…」
「嘘、冗談だよ。お前が女の子の誘い断んのが珍しかったから言っただけじゃん。そんな顔すんなよ」

 今までの自分の行いのせいとはいえ、侑仁にそういう人間…いや、吸血鬼と思われていたのが、ちょっと悲しい。
 女の子は大好きだし、でも重たい関係は得意じゃなくて、気持ちいいことが出来ればよくて……だからさっき美亜に誘われても乗らなかったのは、彼女が酔っ払っていたからだ、と思われても仕方ないんだけれど。

「俺、今日侑仁とご飯…」

 ちょっと悲しい、どころじゃない。胸がギューて痛くなるくらい、悲しい。
 ヤバいぞ、涙が出そうだ。

「ゴメン一伽。悪かった、てば。いや…さっきまでちょっとはそう思ってたけどさ、俺がメシ誘う、つったら、お前が何か嬉しそうな顔するから、もしかして今日も、気ぃ遣ったとか、そういうんじゃないのかな、て思って、聞いてみたかっただけで…………ゴメン」

 一伽が泣きそうなのに気付いたのか、むくれていると思ったのか、侑仁が慌ててフォローしてくる。
 今さら何言ってんだよ、て言い返してやろうと思ったのに、侑仁の手が、俯き気味の一伽の頭を撫でてくれて、その手がすごく優しかったから、何も言えなくなってしまった。

「…俺ね、そういうの……女の子と、いろいろ何かすんのは、もうやめたの」
「は? お前が? え、お前が?」
「何で2回言うんだよ! やめたってば!」

 言おうと思っていたことがやっと言えたのに、侑仁が何度も聞き返してくるから、そんな侑仁がもどかしくて、一伽はつい声を大きくしてしまった。
 まったく…今日の自分は一体何キャラなんだと、一伽は自分でも分からなくなってくる。

「いや…何かビビった…。何で? お前、あんなに女の子大好きだったじゃん。何で急に…。じゃあ吸血は?」
「吸血はするよ。しなきゃ死んじゃうもん。でも今は、吸血したら、女の子とはバイバイしてる」

 女の子とそういうふうに遊ぶのをやめても、吸血をしないわけにはいかないので、そこは正直に告げる。
 吸血だけとはいえ、やはり男から血を吸う気にはなれないので、相変わらず女の子に声を掛けたり連絡したりしているのは、残念ながら事実だし。

「マジかよ…。一体何の気になったわけ?」
「そんなの…いろいろあんの!」

 驚きすぎてポカンとした顔になっている侑仁に、一伽はそう言って話を纏める。本当は、侑仁のためだよ! て言ってやりたいけど、それも出来ないので。
 しかし、そう断言した一伽がよほど珍しいのか、何で? 何で? と侑仁はしつこい。

「なぁ、何でだよ」
「侑仁、しつこい! 何でそんなに気にすんの?」
「だって気になるし」

 何でだよ! と一伽は頭を抱えたくなったが、侑仁がそんな一伽の肩を揺さぶって来たので、それも叶わない。
 もしかして侑仁、もう酔っ払っているんだろうか。ペースが早いわけでもないし、量だってまだそんなに飲んでいないけれど、疲れとか…何かそんなので、回るのが早いとか。

「なぁ一伽ー」
「~~~~~~、もぉ~~っ! だってそんな、好きな人がいんのに、そういうことすんの、何かダメじゃんっ!」

 一伽が言っても全然説得力がないかもしれないけれど、恋する一伽は、そういう吸血鬼になったのだ。
 好きな人が出来たら、たとえその相手と付き合っていないんだとしても、やっぱりそういうのはよくない。…いや、フリーのときから身持ちが堅いほうが、印象はいいはず。

「ん? 侑仁?」

 一伽としては、たとえ説得力がなくても、それなりにまともなことを言ったはずなのに、なぜか侑仁は何とも言えない表情で一伽のことを見ていた。

「何、侑仁」
「え、お前、好きな人、いんの?」
「えっ…」

 パシパシと瞬きをしながら侑仁が尋ねて来て、その言葉に一伽はハッとなった。
 理由を打ち明けるのに、勢いでつい余計なことまで付け加えていたらしい。



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暴君王子のおっしゃることには! (173)


 確かに一伽には今好きな人がいて、それは侑仁のことで、雪乃との昨日の話で、もうちょっとがんばってみることにはしたけれど、いきなりそんな、想いを告げるつもりもないから、ここは何とかごまかさないと。

「いや、好きな人がいたら、てこと。もし好きな人が出来たときに、あんまそんな、遊んでる人とかだったら嫌がられるかな、て思って」
「ふぅん…?」

 焦って早口になりそうなのを何とか抑えて、一伽は尤もらしい言葉で言い直した。
 侑仁は何となく納得していないような雰囲気を出していたけれど、さっきまであんなにしつこかったのが嘘のように、何も聞き返さずにグラスを空にした。

(この話題には……そんなに興味ないの、かな…)

 …侑仁が聞いてくるから、答えたんだけど。
 どうやら、一伽が女の子といろいろ遊ぶのをやめた理由には興味があっても、一伽の好きな人のことには、それほど関心がないらしい。
 一伽自身に関心がないわけではないようだけど、その好きな人のことに興味がないということは、やはり一伽のことを友だち以上には思っていない、ということだ。

(まぁ…、そんなにいきなりは無理か)

 昨日まで友だちと思っていた相手を、今日ちょっと一緒にご飯したくらいで、恋愛感情を持つほどになんかなるとは思えない。
 いや、人が恋に落ちるきっかけは、案外単純なものではあるけれど、今日の一伽と侑仁の間には、そんな出来事、何もなかったし。

「…侑仁、ずっと忙しかった、て……どんな仕事してたの?」
「え? あぁ、えっと…」

 もうこれ以上この話を引っ張るのは何となく気まずい気がして、一伽のほうから話題を変えた。
 一伽の突然の方向転換に、侑仁は一瞬だけ呆気に取られたようだったが、すぐに仕事の話をしてくれた。

「つかお前、聞いといて、実は全然分かってないだろ」

 途中まで話したところで、侑仁はふと気付いたようにそう言った。
 侑仁は、なるべく専門用語とかを使わないで、一伽にも分かるように話してくれていたようだったけれど、もともとパソコンだのインターネットだのにはさっぱり疎い一伽は、侑仁の言うとおり、全然分かっていなかった。

「だって俺、パソコンとか全然分かんないし」
「全然て……どんくらい?」
「…どんくらいか言うのも恥ずかしいレベルで分かんない」

 家でインターネットくらいはするけれど、ちょっと興味のあるサイトを覗くくらいで、ネットで買い物だとか、何かを予約するだとかは、まったく。
 今は、音楽だってCDを買うんじゃなくて、ダウンロードするのが一般的になってきているらしいが、一伽にしたら、それすらも何のことやら、の世界なのだ。

「でもお前の店、ネットショップなかったっけ? 俺、何か買ったことある気がする」
「あー…うん、あることはある。でもそれは全部志信がやってる」

 一伽が最初にパソコンは殆どまったく構えないことを航平に伝えてあるので、自慢ではないが、志信がいない日だって、1度も任されたことはないのだ。

「つか航平くん、俺にパソコン触らせてすらくれないの。やってみなきゃ、覚えらんないのにさ!」
「覚える気はあるんだ?」
「いや、あんまない」
「ねぇのかよ!」

 口先だけの一伽のやる気に、侑仁は非常にウケて、手を叩きながら笑い転げている。
 最初のころ、一伽もちょっとだけやってみようかなぁ…と思って、志信に教わりながらちょっとやったけれど、入力し終えた後、決定ボタンを押すのが怖くて、やっぱりやめたのだ。

「いいんだよ、俺は地道に服売りまくってやんだから!」
「あはは、がんばれ」

 これでも一伽は仕事中、それなりに愛想を振りまいて、精一杯接客しているんだから。



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暴君王子のおっしゃることには! (174)


「あ、でも侑仁、お店に来たことないでしょ?」
「ん? そっか?」
「そうだよ! ネットだけじゃなくて、お店にも買いに来て!」

 積極的になる、と雪乃には話したけれど、どのくらい積極的に行ったらいいかの加減もよく分からず、一伽は勢いでそう言ってしまい、言った後で恥ずかしくなって、あわあわと横を向いた。

「分かったよ、今度行く」
「…ホント?」
「行って、そんでお前の働きぶりをよく見てくる」
「ちょっ…、ちゃんと働いてるし!」

 一伽的にはちゃんと働いているつもりなのに、どうも、侑仁が航平から聞いている働く一伽像は、決していい感じではないようだから、本当に嫌になる。
 でも…侑仁がお店に来てくれたら、何かちょっと嬉しいな。

「侑仁が来たら、俺の接客テクで、いっぱい買わせてやるっ」
「やれるもんならやってみろ」

 そんな…嬉しいなんて素直に言えるわけもなく(何で? て突っ込まれたときに、答えられないから…)、ついそんなことを言ったら、侑仁が爆笑しながら言い返してくる。

(何だ…、俺、侑仁とちゃんと会話、出来んじゃん)

 実際に侑仁に会うまでは……いや、会った直後までは、侑仁のことこんなに好きで、まともに会話なんか出来るのかと思っていたけれど、話し出せば、いつもどおり、普通に話が出来る。
 でもそれは、嬉しくもあり……少し寂しくもある。
 いつもどおりということは、侑仁も今までと同じく話をしてくれているわけで、今までと同じということはつまり、一伽のことをやはり友だちとして思っているということだ。

(まぁそんな……いきなりは変わんないよね)

 昨日の今日で、一伽はちょっと焦っているのかもしれない。
 一伽のことをまだ友だちとしか思っていない侑仁に、好きになってもらおうと、これからがんばるんだから、侑仁の態度が今までと同じだって仕方ないのに。

(でも…もし他に侑仁のこと好きな人がいたら…)

 リコはもう侑仁のことを諦めると言っていたけれど、侑仁はイケメンなうえにこんな性格だから、女の子に絶対モテるだろうし、侑仁が他の誰かを好きになるかもしれない。
 もしそうなったら、一伽のこの努力だって……そう思うと、やはり焦らずにはいられない。

(こんなことなら、友だちでいようなんて思わないで、もっと早くからがんばればよかった…)

 それはもう本当に今さらのことだけれど、みんなに、友だちのままでいいのかと言われたときに、どうして決心しなかったのかと、悔やまれる。
 過ぎたことを言っても始まらないけれど。

「一伽ー、もう1本飲む?」
「えっ、あ、うん」

 一伽がボーっとしているうちに、侑仁はもう飲み終わったのか、キッチンにビールを取りに向かおうとしていた。
 いつもの侑仁だったら、一伽が潰れないように、あんまり飲むなとうるさいくせに、今日はどうしたんだろう。仕事が一段落して、飲みたい気分なのかな。

「ホラ」
「…ん、ありがと」

 まだ一伽の飲んでいた缶にはビールが残っていたけれど、とりあえず侑仁から新しいものを受け取る。
 侑仁はもうパスタも食べ終わって、ただビールを飲んでいるだけになっていて(しかも、もうグラスに注ぐのもやめている…)、そんな飲み方して大丈夫? なんて、一伽が言える立場ではないけれど。

「ねぇ侑仁ー」
「…んー…?」

 侑仁の反応が、明らかに先ほどよりも遅くなっていて、見れば、やはり眠そうな顔。まだそんなに遅い時間ではないけれど、残業続きで疲れているに違いない。
 今日はまだ木曜日で、休みはカレンダーどおりだという侑仁は、たとえ残業するほど忙しいのではないとしても、明日は仕事だろうから、もう休んだほうがいいのかも。



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暴君王子のおっしゃることには! (175)


「侑仁ー、もうこんな時間だし、俺、帰………………て、寝てるし」

 ほんの数秒前まで、一伽の声に返事をしていたはずの侑仁は、ソファの背に身を預けたまま目を閉じて、寝息を立てていた。
 本当に寝てる……よね? 寝たふりをする意味もないし…と、一伽はドキドキしながら、向かいのソファにいる侑仁に、静かに近づいていって、その顔を覗き込んだ。

「侑仁…、寝るならベッド行ったほうが……俺帰るし…」

 寝ている侑仁を前にして、一伽もどうしたらいいのか分からず、口では、侑仁を起こしてベッドに行かせるつもりのことを言いながら、とても侑仁を起こせるような大きさではない声を出してしまう。

 …そういえば、侑仁の寝顔、初めて見た。
 これまで一伽は何度となく侑仁の前で酔い潰れ、眠りこけている姿を曝して来たが、侑仁が一伽より先に寝たり、後から起きたりしたことがないから、それも当然だ。

 ソファで一晩明かしても、まだ風邪を引く季節ではないけれど、一伽はいつもベッドで寝かせてもらっているから、こういうときは、ちゃんとしてあげたい。
 でも、ベッドルームの場所は分かるが、勝手に行くのも何だし、侑仁を起こさずに連れて行ける自信もないから、出来れば侑仁が目を覚まして、自分でベッドまで行ってほしいんだけれど。

「侑仁てば」
「ん…」

 侑仁の肩を少し揺すれば、わずかに吐息が漏れて、その掠れたような侑仁の声に、一伽の胸は飛び跳ねる。
 寝顔も格好いいし、漏れ出た声は何だかセクシーだし、こんなの、侑仁のこと好きな一伽にしたら、ドキドキしないほうがおかしい。

(や、でも今はドキドキしてる場合じゃないしっ…!)

 酔っ払った侑仁をこのまま放置できないし、一伽だって家に帰りたいし(出来ればもっと侑仁の家にいたいけれど、今日このままお泊りするわけにもいかないので)、早く何とかしないと。

「ねぇ侑仁、起きて? ねぇねぇ。おふとん行こ?」

 何とか侑仁を起こそうとするけれど、残念ながら起きる気配なし。
 こうなったらしょうがない、無理やりでも侑仁を担いで、ベッドまで連れて行こう。ベッドルームに勝手に入るのも…と思ったけれど、状況が状況だ。

「よいしょ、と…」
「ん…」

 肩を貸そうと、一伽が膝立ちになって侑仁の腕を取ったら、侑仁のまぶたが少し動いた。
 よかった、起きてくれそう。

「あ、侑仁、起きて? ベッド…」

 しかし、再び侑仁の肩を揺すろうとした一伽の背に、なぜか侑仁の腕が回った。
 そうすると侑仁に抱き付かれるような格好になるから、恥ずかしいんだけど、侑仁は酔っ払っているし寝惚けているみたいだから、起き上がらせてほしくて、腕を伸ばしたのだろう。
 …もしかして、今までの彼女にもこうやって甘えてたのかな、とか思って、一伽はちょっとモヤモヤもしたけれど、とりあえず起き上がるの、手伝ってあげないと。

「侑仁、ちゃんと立って……て、え?」

 一伽は侑仁を立たせようとしているのに、一伽の背に回った侑仁の腕は、その肩に掴まろうとはせず、そのまま一伽を抱き寄せた。

「えっ、ちょっ、ちょっ、ちょっ」

 侑仁が立てるように、足に力を入れていたつもりだったけれど、まさかそんな抱き締められるみたいになるとは思っていなかったから、一伽はバランスを崩して、侑仁の胸に顔を突っ伏してしまった。

(ギャ~~~侑仁に抱き締められてる~~~!!?? 何でぇ~~~!!??)

 寝惚けるにも程がある。一伽のこと、抱き枕か何かと間違えているんじゃないだろうか。
 でも、侑仁にはただの抱き枕かもしれないけれど、一伽にしたら、侑仁の腕のぬくもりとか、こ…香水? 何かいい匂いが…とか、いろいろあってパニック状態だ。



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暴君王子のおっしゃることには! (176)


 とにかく侑仁の腕から逃れないと、と思うけれど、体勢が悪くてうまくいかず、困って侑仁の顔を見れば、思った以上に近い位置に侑仁の顔があって、余計に焦る。

「ちょっ、侑仁、起き…」
「一伽…」

 一伽ががんばって侑仁の胸を押し返すと、侑仁は薄らと目を開けた。
 よかった、気が付いてくれた。

「えっ?」

 しかし、侑仁は寝惚けているのか、それともまだ夢の中なのか、一伽のことを離してくれないばかりか、ますます抱き寄せてくる(ちょっ…近い近い近い!)。
 一伽はワタワタしながら侑仁から離れようとしたが、焦っているせいか、全然逃げられない――――そして。

「ぇ…、」

 一伽が驚く間もなく、2人の唇がは重なっていた。

 侑仁の唇は、熱かった。
 ほんのりアルコールの味がした。

(え……キ、ス…?)


 ――――侑仁に、キスされている。


 ……………………。

 …え?

 えぇ!?
 キキキキキキキキスしてるっ…!?


「うわっ!?」
「ッ、ぅを!?」

 突然のキスに頭の中が真っ白になっていた一伽は、唇に触れる感触、目の前にある侑仁の顔に、ようやく自分の身に起こったことを認識したけれど、どうしてこんなことになったのかを考えるより先、驚きのあまり、侑仁の体を思い切り突き飛ばしていた。

「イッテ…」

 ソファに座っていた侑仁は、一伽に突き飛ばされた勢いで、その背凭れに背中を強かにぶつけて呻いたが、一伽は侑仁の力が緩んだ隙に、その腕の中から抜け出して、テーブルを挟んだ反対側に逃げた。
 先ほどまでは、体勢の悪さとドキドキでうまくいかなかったが、腕力で、吸血鬼の一伽が人間の侑仁に負けるわけがない。

「イッテー…、何だ…?」
「………………」

 侑仁は頭を掻きながら、辺りをキョロキョロする。
 彼のほうこそ、自分の身に一体何が起こったのか、まったく分かっていない様子だった。

「あれ…? 俺、寝てた…?」

 一伽は、侑仁にキスされた唇を手で押さえながら、侑仁の様子を窺っていたが、テーブルの向こうで蹲る一伽を見つけた侑仁は、キョトンとそんなことを尋ねて来た。
 いや、寝てはいたけれど。
 寝てはいましたけれど!
 今だったら、もっと他に言うことがあるんじゃありませんか!?

「~~~~~~ッッッ、、、、もう帰るっ!」
「はっ? え、一伽!?」

 寝惚けていたのかもしれないけれど、自分からキスをして来たくせに、全然分かっていない様子の侑仁に居た堪れなくなって、一伽はバシンッとテーブルを叩くと、驚く侑仁を無視して、一目散に部屋から駆け出していた。

 侑仁のバカッ!
 バカバカバカバカバカバカッ!!

 ――――そして。
 一伽が心の中でひたすら文句を言いながら、ダッシュしていたころ。

「帰った…」

 うるさく閉じられたドアを見つめていた侑仁は、指先でそっと唇をなぞった。



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暴君王子のおっしゃることには! (177)


 侑仁にキスされた衝撃で、一伽はめちゃくちゃになりながら家まで帰って、もう寝ようとしていた雪乃に抱き付いて、喚き散らした。
 ただワーワー言っているだけで支離滅裂の一伽に、雪乃は我慢強く付き合ってあげて、頭をよしよししてあげていたら、いつの間にか2人して眠っていた。

 だから一伽は、朝、仕事に行く支度をし始めるまで、財布も携帯電話も荷物全部、侑仁の家に忘れてきたことに気が付かなかった。

(何てことだ…)

 一伽は絶望的な気分で、頭を抱えた。
 荷物を取りに行くとなれば、また侑仁に会わなければならないわけで、昨日の今日で、それはまさしく気まずいとしか言いようがない。
 しかし財布も携帯電話も大事だから、取りに行かないわけにはいかないのだが、雪乃は侑仁の連絡先を知らないから、航平から侑仁に連絡してもらうしかないのが、また一伽を落ち込ませる。

(あーもう嫌だ…)

 侑仁の家に荷物を忘れて来たから連絡してほしい、なんて航平に言えば、あれこれ聞かれるに決まっている。
 雪乃にすらまだ昨日のことをロクに話していないのに、どうして航平なんかに…。

 心配そうに見つめる雪乃に昨日のことを謝って、「帰ったら話すから」と言って、一伽は出勤した。



*****

 店に着くと、なぜか待ち構えたように航平が近付いてきたので、一伽は訝しみつつも、挨拶をする。
 …侑仁の家に荷物忘れて来たから、連絡してくれるように、言わないと。

「あの…航平くん、侑仁に…」
「お前、昨日侑仁の家に、荷物みんな忘れていったんだって?」
「に゛ゃ!?」

 一伽が言い出すよりも先、航平がそんなことを言い出すから、一伽は変な声を上げて固まった。
 何で知って…。

「今朝、侑仁からメール来たんだよ。お前が昨日来て、携帯やら何やら、みんな忘れて帰った、て」
「あ゛ぅ゛…」

 何でそんなメールを航平に! と思ったが、一伽が携帯電話まで忘れていっている以上、忘れ物のことを一伽に伝えるには、共通の知り合いである航平に頼るしかないのだろう。

「どうやったら、そんだけみんな忘れられんだよ」
「…そんなの俺が知りてぇよ」

 …侑仁からは、ただ一伽が荷物を忘れて帰った、としか聞いていないのだろうか。
 そうだとしたら、今の航平は、一伽のことをとんだ間抜け野郎と思っているんだろうな。本当は侑仁のせいなのに。侑仁が一伽にキスしたせいなのに。

「…まぁいいけど。仕事終わったら、侑仁、ここに来るて言ってたぞ」
「え、侑仁が来んの?」

 わざわざ一伽の荷物を届けに?
 …一伽に会社に来られるの、そんなに嫌なんだろうか。
 昨日は何ていうことなく一伽を会社まで呼んだけれど、あのとき一伽は何かいろいろダメダメだったから、もう来られたくないと思ったのかもしれない。
 それに……会社まで行くなんて、何だか特別な関係の人みたいに見られるから、やっぱり嫌なのかも。

「何か買いモンもしたいし、ついでだから、て」
「え!? あ、そっか」

 なるほど。
 何か買い物したいから、そのついでに届ける、ということか。
 そういえば昨日、一伽は侑仁に、ネットだけでなく店にも来て! と言ったし、そうでなくても侑仁は航平と友人だ、店で買い物をする気になったに違いない。
 それを、一伽のことが関係していると思うなんて、何て自意識過剰なんだろう…。



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暴君王子のおっしゃることには! (178)


 それに、よく考えたら、侑仁が店に来てくれたほうが、航平や志信もいるから、あんまり気まずくならなくて済むかもしれない。
 2人がいれば、侑仁も昨日のキスの話なんか、切り出さないだろうし。

(…いや、ちょっと待て)

 大体侑仁は、昨日のキスのこと、覚えているんだろうか。
 というか、そもそも侑仁に、実際にキスをしたという認識があるんだろうか。

 あの直前まで確かに侑仁は寝ていたし、キスの瞬間も、何だか寝惚けているようだったから、もしかしたら、全部夢の中の出来事と思っているかもしれない。
 そうだとすれば、一伽が意識しているだけで、侑仁は何も分かっていないんだから、一伽が言わない限り、あのキス自体、なかったことになってしまう。
 一伽1人がアタフタして、余計に侑仁のことを好きになって……それでおしまい。

 だったらいっそ、昨日侑仁がキスしたから、ビックリして荷物置いて帰って来ちゃったんだよ! て言ってみようか。

(……………………)

 いやいやいやいやいや、それはないな。
 大体、一伽がキス1つで慌てふためいて逃げ帰るなんて、あり得ない(いや、実際はあり得たんだけれど)。少なくとも、侑仁や航平は、そんな話信じないだろう。

(つか侑仁、寝惚けてキスするなんて、どんな夢見てんだよ…)

 それとも、一伽のこと、彼女と間違えたんだろうか。
 昨日は、いきなり電話をした一伽のことを家に招くなんて、きっと家で待っていてくれる誰かはいないんだろう、と判断したけれど、たまたま彼女より先に一伽が電話したから、一伽を呼んでくれただけで、本当は彼女に連絡しようとしていたのかもしれない。

(…や、それだったら、俺のほう断るよな、普通)

 残業続きでなかなか会えないでいた彼女に久々に会えるとなったら、それより先にただの友だちでしかない一伽から電話が来たって、また今度、て言うと思う。
 ということは、やっぱり侑仁に彼女はいなくて、一伽にキスしたのも彼女と間違えたわけじゃなくて、

(じゃなくて……………………何だ?)

 思春期の中学生男子みたいに、女の子とチューする夢見てました! みたいな感じだろうか。…そんな侑仁、何だか嫌だな。

「はぁ~…何かよく分かんないや…」

 結局考えは纏まらないまま、一伽は航平に責っ付かれて、開店の準備に取り掛かった。



*****

 一体いつごろ侑仁が来るのだろうと、一伽はソワソワしながら待ち続けていたが、結局侑仁が店に現れたのは、閉店の30分ほど前だった。
 ちなみに一伽自身は、自分がソワソワしているなんて思ってもいなくて、それを指摘してきた志信の足を蹴っ飛ばしたのだが。

「よぉ侑仁、久しぶりだな」
「航平、久しぶり~」

 航平が出入り口に近いところにいたので、侑仁は自然と先に航平と会話を始めた。
 それは全然仕方のないことで、一伽も分かってはいるんだけど、何となくちょっとおもしろくない。

「ふぅん、あれが侑仁さんかぁ」
「…んだよ」

 一伽がヤキモキしながら2人の様子をこっそり窺っていたら、離れたところにいたくせに、わざわざ一伽の隣にやって来た志信が、わざとらしく言って来たので、一伽は思い切り睨み付けてやった。まだ蹴られ足りないんだろうか。

「イケメンだねぇ、侑仁さん」
「うるせぇよ」
「アイダッ」

 ニヤニヤしている感じがムカついたので、一伽は思い切り志信の足を踏み付けてやった(満足!)。



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暴君王子のおっしゃることには! (179)


「一伽、ホラ、荷物」
「…ん」

 航平との話が終わったのか、侑仁が一伽のほうにやって来る。相変わらず侑仁はスーツ姿ではなくて、でもやっぱりカッコいいなぁ、て思って、一伽はドキドキしながら荷物を受け取った。
 朝の、一伽と航平のやり取りを聞いていたので、志信も一伽が荷物を忘れて来たことは知っていて、だから何となくしおらしい一伽に笑ってしまう(その後の報復は知っているくせに)。

「お前、全部忘れてくとか、ねぇだろ」
「そんなのだって侑仁がっ…」

 侑仁に笑われて、一伽はムキになって答えようとしたが、『侑仁がキスしたから』なんて言えるわけもなくて、慌てて口を噤んだ。

「俺が何だよ」
「な何でもないよっ、荷物置いてくるっ…!」

 追及されたくなくて、一伽は逃げるようにスタッフルームへと向かった(そのとき、志信の足を踏んでいくことも忘れずに)。

「はぁ~…」

 スタッフルームに逃げ込んだ一伽は、閉めたドアに寄り掛かって、大きく息をついた。
 本当に侑仁は、いちいち心臓に悪い。

 でも、今一伽に会った侑仁の様子を見ても、昨日侑仁の会社や家に行った一伽に嫌気が差して、一伽に会社とかに来てほしくないから自分から店に来た、という感じはしない。
 ということは、やっぱり買い物がしたいのと、久しぶりに航平に会いたかったからなんだろうか。

 どちらにしても、航平に渡して一伽に返すという方法を取らない侑仁は、昨日の今日で一伽に会うのが気まずくないのだから、やはり、一伽にキスしたことを覚えていないのだろう。

(…じゃなきゃ、あんなに普通のはずない)

 侑仁がキスのこと覚えていなくて、一伽に今までどおりに接してくれるのなら、一伽も気まずいとか思わず、何もなかったように普通にしていればいいのだ。
 そうすれば、丸く収まる。
 雪乃には、これからもっとがんばると言ったけれど、このキスは一伽にとっては何のプラスにもなりそうにないから、なかったことにして、今日からがんばることにしよう。

「うしっ」

 一伽はカバンを雑にソファに投げると(いつものこと)、頬をパンッと叩いてから店内に戻った。



*****

 侑仁はそれから閉店間際まで店にいて、商品を見たり航平と話をしたりして、結局服とアクセサリーを購入した。
 その間、侑仁は時々一伽のほうに視線を向けるので、好きな人に見られるドキドキと、俺ちゃんと仕事出来てる!? というドキドキの、二重のドキドキで、終わるころにはグッタリと疲れてしまった。

「ねぇ航平、仕事終わったらメシ行こうよ~、久々じゃん」
「あん?」

 店内に侑仁以外の客がいなくなり、会計を済ませた侑仁が、気軽に航平に声を掛けた。
 後片付け用のモップを出そうとしていた一伽は、ピクリと聞き耳を立てる。

(…何だよ、侑仁。今度から俺にも声掛ける、て言ったじゃん、昨日。なのに何で航平くん誘ってんの?)

 キスだけでなく、その約束も忘れてしまったんだろうか。そんなのヒドイ。
 でも一伽も、昨日のことはなかったことにして、今日からがんばることにしたんだから、同じことなのかな。
 それに、一伽が侑仁と会わないでいた間、仕事が忙しかった侑仁は、航平にだってずっと会っていなかったわけで、昨日会った一伽より、航平を誘いたがるのも分かるんだけど。



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「一伽も行くっしょ?」
「うぇっ!? わっちょっ!」

 明日は休みだから、志信を誘ってヤケ酒してやる! と一伽が勝手に思っていたら、侑仁にそう声を掛けられたので、ビックリしてモップの柄を手放してしまった(ちなみに明日が休みなのは一伽だけで、志信は仕事だ)。

「一伽も一緒に行かね? メシ。今日は何か予定あんの?」
「えっ、いや、ないけどっ?」

 何で誘ってくれないの? とは思っていたけれど、本当に声を掛けてくれるとも思っていなかったので、ドキドキしながら、でもそれが悟られないように、何とか普通の感じで返事をした。

「じゃ、行こ?」
「う、ん…」

 侑仁にニコッと笑い掛けられ、一伽は胸をキュンキュンさせながら、頷いた。
 だって、侑仁の笑顔、カッコいい…!

「俺はやめとくわ、今日は」
「えぇ~?」

 断りを入れたのは、航平だった。
 一伽に気を遣ってくれたのか、ただ単に何か用事があるのかは分からないが、不満を漏らす侑仁に、「今日はダメなんだよ」と両手を合わせる。

「また今度な」
「絶対だかんね」

 食い下がる侑仁に、航平は「はいはい」と苦笑しながら答えた。

「じゃ俺、外で待ってんね」
「あ、うん…」

 さっきまでずっと、侑仁に会ったら気まずいと思っていたのに、いつの間にか一伽は、侑仁と2人でご飯に行くことになり、一伽の仕事が終わるのを侑仁が待つ、ということになっていた。
 急な展開に、ちっとも頭が働かない。

「航平くん…」
「何だ」

 closedの看板を出し、後片づけを始めようとしていた航平は、一伽に呼ばれて振り返った。

「何か俺…、侑仁とまたご飯行くことになっちゃった…」
「そりゃお前がそういう返事したんだから、そうなるだろ」
「うん…」
「今日は荷物忘れないようにしろよ?」
「ん…」

 いつもだったら、航平に皮肉の1つも言われようものなら、何倍にもして言い返す一伽なのに、今日は素直に返事をしてくるから、航平も何だか調子が狂う。

「何だよ、一伽。どうした?」
「…うぅん…」

 問われて一伽は首を振る。
 別に、何がどうした、というわけではない。でもまさか、今日から改めてがんばる、と決意した矢先に、侑仁とまた2人きりになるチャンスが巡ってくるなんて、想像だにしていなかったから。
 …こんなときは、どうしたらいいの?

「とにかく早く掃除しろよ。侑仁が待ってんだから」
「分かってるよっ」

 もう決まったことに気を揉んでも仕方がない。さっきだって何ともなかったんだから(いや、そんなに何ともなかったわけではないけれど…)、今日これからだって、大丈夫。
 それよりも、以前侑仁に、これからはちゃんとする、と言ってしまっているので、モタモタ後片づけをして、待たせるわけにはいかない。



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(侑仁が待ってる…、侑仁が俺のこと…)

 待ち合わせているのだから、待っていて当たり前なのだが、待ち合わせをしているという事実が、どうしようもなく一伽の胸を高鳴らせる。

(ギャーもう恋する乙女かよっ!)

 恋はしているけれど、乙女ではない。
 そんな柄じゃない。

「あーもうっバカバカ!」
「早くしろつってんだろっ!」
「うわっ、はいっ!」

 航平の怒鳴り声で我に返った一伽は、慌ててモップを掛け始めた。



*****

 ダラダラと言うほどではないが、いつもどおりそれほどキビキビとも動いていなかった一伽は、掃除を終えると、侑仁に持って来てもらったばかりの荷物を掴んで、店を出た。

「おっお待たせっ」
「おぅ」

 店を出たすぐそこにいた侑仁は、一伽を見つけて微笑んだ。
 相変わらず一伽は、そんなことにすらキュンキュンしてしまうのだが、ふと、店の前を通り過ぎていく女の子たちが、チラチラと侑仁のほうに視線を向けては、キャーキャー言っているのに気が付いた。
 男の一伽から見ても侑仁は格好いいと思うのだから、仕事帰りの疲れたお嬢様方が、偶然見かけたイケメンに胸をときめかせて、癒されると思うのも無理はない。

「ねぇ侑仁、ずっとここに立ってたの?」
「え? そうだけど……何? あ、ワリ、邪魔だった?」
「いや、それはいいんだけど…」

 侑仁は、女の子たちの視線に、気付いていないんだろうか。
 侑仁が鈍感なのかそうでないのかは、何だかよく分からないけれど、気付いてないんだとしたら、相当鈍感な気はする。
 前に侑仁が女の子をナンパしているところを見たことがある(…というか、一伽と思いっ切り被ったのだが)から、女の子に興味がないわけではないだろうに。
 それとも、女の子に騒がれるのなんていつものことだから、もう慣れているのかな(それはそれで、男としてちょっと悔しい…)。

「今日どうする? 昨日はウチでコンビニ弁当だったしなぁ」
「ん」

 一伽としては、実際のところ、食べるものが何であるかはそれほど重要ではないので、どこかで食べて、そこでバイバイするよりも、コンビニ弁当でも、侑仁の家に行って2人になりたい。

(でも侑仁は、2日続けてコンビニ弁当じゃ、嫌だろうなぁ)

 というか、残業続きで、昨日だってすぐに眠くなっちゃったのに、家で1人でゆっくり過ごすとかいう発想は、侑仁の中にないんだろうか。
 そのくらい1人が嫌なのか……そうだとしても、一伽に会いたかったんだとしたら、嬉しいな。

「お前ってさ、普段のメシ、血なわけじゃん? 血以外に好きな食いモンとかねぇの?」
「好きなの? んー…」
「つか、味って感じんの?」
「感じるよ!」

 何を今さら、ということを言われて、一伽は侑仁を見遣った。
 どちらかと言えば、吸血鬼は五感とも人間より優れているから、味覚だって人間よりも敏感なのだ。でなきゃ、血の味の違いまで、分かるはずがない。

「でも…侑仁の食べたいのでいいよ?」
「ふぅん? つかお前、何か雰囲気変わったよな?」
「はぇ!?」

 今って何かデートみたい!? と、一伽が密かにドキドキしていたら、侑仁にそんなことを言われて驚く。
 もしかして、一伽の気持ち、バレちゃった!?



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「な…何ゆってんの、侑仁」
「いや、何かさ。まだ、ちゃんとするキャンペーン中?」
「へぇっ!? あっ…あー…うん、そう」
「……」

 侑仁が、そういう意味で『雰囲気が変わった』と言ったのだと分かって、一伽はホッと胸を撫で下ろした。
 もしかしたら、いつか自分の気持ちを伝えるかもだけど、今はまだ早い。

(焦って、侑仁に知られちゃって、嫌がられたら困るもん)

 でも、一伽の、誰の前でもちゃんとする作戦が、何となく侑仁にも効果を現しているのを見ると、いつかは一伽の想いも侑仁に届くんじゃないかと思えてくる。
 じわじわと、侑仁に染み込んでっちゃえばいいのに。



*****

 一伽はご飯を食べたらバイバイだと思っていたのに、明日一伽も仕事が休みだと知った侑仁が家に誘ってたので、一伽は戸惑ったけれど、今日から改めてがんばることにしたし、侑仁とはちょっとでも一緒にいたいからと、それに乗った。

「お邪魔しまー…すっ!」
「ふっ」
「ぶふっ」

 侑仁に言われる前に、一伽が最後まで挨拶をい言い切ったら侑仁が笑ったので、一伽も吹き出した。

 途中でアルコールを買って、昨日は久しぶりだと思って入った侑仁の家に、今日もまた訪れる。
 以前のように、侑仁が一伽に『あまり飲み過ぎるな』と言わなくなったのは、外でなく侑仁の家で飲むからだろうか。それとも…昨日自分が飲み過ぎたという自覚があるから?

(…だとしたら、キスのことだけ覚えてないなんて、随分じゃない!? あ、いやいやいやいや)

 一伽は思わず憤ったが、それはもうなかったことにして、今日からがんばることにしたのだと思い出す。
 それにしても、昨日のことはなかったことにするはずなのに、全然なかったことに出来ないでいる自分に、嫌になってしまう。

(そりゃキスされたんだもん…、そんな簡単になかったことになんか、出来ないよ…)

 いっそ一伽も昨日、全部忘れてしまうくらい、飲んでしまえばよかった。
 でも、今日これからいっぱい飲んだって、意味ないんだろうなぁ。

「…侑仁のバカ」

 一伽はソファに身を沈めて、ポツリと呟いた。
 一伽ばっかり、どんどん侑仁のこと好きにさせて、ずるいよ。

「誰がバカだって?」
「うぇ!? うわった、た、た、た…!」

 急に目の前に侑仁が現れて、驚いた一伽はビクッと体を跳ね上げたかと思うと、そのままソファから滑り落ちた。

「何してんだよ」
「だって侑仁がビックリさせるから…」

 一伽は大きく息をついてから、ソファにずり戻った。
 呆れ顔の侑仁が、テーブルにグラスを置いた……が。

「…え、何?」

 グラスを置いた後も、なぜか侑仁が一伽の前から退かずに、膝立ちみたいな格好で、ソファに座る一伽をジッと見ている。

「侑仁?」
「…お前さぁ」
「ん? えっちょっ何?」

 立ち上がりかけた侑仁が、一伽の顔の両脇に手を突いた。
 体勢的に、うんと顔が近くなって、一伽はドキドキがまたぶり返してくる。



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