恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2012年12月

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暴君王子のおっしゃることには! (214)


 言いつけを守らないと機嫌を損ねそうだと思って、侑仁はバスルームを出ようとしたが、ふとすりガラス越しの一伽のシルエットが気になって、足を止めた。
 座っているのはいいとして、しかしどうも少しも動いていない気がする。
 いや、シルエットもそうだが、動いている気配がない。

「一伽? おい、大丈夫か?」
「だいっ大丈夫だってば、ちょっ……何で開けんだよ侑仁のバカっ!」
「や、だって!」

 一伽は大丈夫だと言うが、どうも様子がおかしいので、侑仁が思わずドアを開けてしまったら、途端に一伽から文句が飛んできた。そうは言っても、こちらは心配したのに。
 それに、言葉とは裏腹に一伽は、片膝を抱えるように直に床に座っていて、どう見ても大丈夫な様子ではない。

「一伽? どうした?」
「どうもしないし」
「どこがだよ」

 ジッとこちらを見つめる一伽の瞳が潤んでいて、侑仁は不謹慎にもドキッとしてしまったが、それどころではないと、バスタオルを手に取って、シャワーを止めてやった。
 一伽に向かってバスタオルを広げれば、素直に身を委ねて来たので、侑仁はその体を包み込んでやると、猫のようにすり寄ってくるから、かわいいな、て思う。

「上がる?」
「…ん」

 コクリと頷いた一伽を立たせて、2人でバスルームを出る。
 今までの流れからして、向かうべきはリビングではなくベッドルームだろう、と侑仁は空気を読んでそちらに向かったが、途中、一伽に言われて、コンドームとローションの存在を思い出した。
 こんなときでも一伽は一伽だなぁ、なんて思いながら、ドラッグストアの袋に入ったそれらを手にした。

 バスタオルごとベッドの上に転がった一伽は、早速そのバスタオルを蹴散らして、侑仁の服に手を掛けて来た。
 それにしても、一伽がシャワーに行く前、キスはしたけれどそれだけだし、あれから結構時間も経っているのに、どうして一伽はちょっと勃たせているんだろう。
 侑仁とのこれからの行為に期待して、とかだったら、そりゃあもちろん嬉しいけれど、侑仁がバスルームのドアを開けたときから、そんなだったような…?

「ん…」

 キスをしながらも一伽は、グイグイと侑仁の穿いているスウェットパンツを引っ張る。
 その急いた様子が、無理にでも脱がそうとしているようにも見えて、侑仁はキスを解いて、苦笑しながら一伽の手を取った。

「脱ぐってば。引っ張んなよ」
「らって…」

 侑仁は下着もすべて脱ぎ去ると、再び一伽を抱き寄せた。
 でも、やっぱり女の子とは勝手が違うから、ちょっと戸惑う。別に一伽とのセックスに嫌悪感はないし、一伽の裸を見て萎えることはないけれど、どうすればいいか…。

 大体、一伽はどちら側の役をするつもりでいるんだろう。
 男同士のセックスについて、侑仁はボンヤリとしか知識がないが、最後までするとしたら、どちらかが女役をしなければならないことは、分かっている。

 侑仁としては、突っ込まれるのはちょっと…、と思うが、同時に、一伽だってそう思ってるだろうなぁ、とも思う(だって一伽だし)。
 それに一伽は、男同士のセックスについて、雪乃からいろいろ聞いているようだから、その得た知識から、もしかしたら侑仁に突っ込む気でいるのかもしれない。

 ハッキリ言って、侑仁は殆ど何も知らないも同然だから、選択権も主導権も、一伽にあると言っていい。

「侑仁…、やっぱ無理そう…?」
「えっ? いや、あの…」

 あー、やっぱりヤル気か! と、侑仁は内心焦りまくる。
 しかも一伽は、らしくもなく、しおらしい態度だから、より、侑仁が折れてやらなければ、という気持ちになってしまう。



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暴君王子のおっしゃることには! (215)


「あの…、何なら侑仁、目瞑ってて…?」
「は?」

 一伽の突然申し出に、侑仁は一瞬キョトンとなったが、一伽がローションのボトルに手を伸ばしたことで、我に返った。
 侑仁は、一伽がシャワーに行っている間、一伽がコンドームだけでなくローションまで買って来た意味を考えていたのだが、男の体は女と違うから、こういうものがないとダメなのだと気が付いた。
 そして今、一伽がそのローションを手に取ったということは、やはりそれを侑仁に使おうということなのだろう。

「えと、あの、一伽さんっ…!?」
「もっ…ちょっ、目瞑ってよっ…!!」

 焦っている侑仁に、一伽は泣き出しそうな顔で、そう詰め寄って来た。
 こうなったら腹を括るしかない、と侑仁はギュッと目を瞑った―――――――が。

「――――…………え…?」

 いくら待っても、侑仁が想像していたようなこと(つまりは一伽に押し倒されるということ)は起こらなくて、不思議に思って侑仁はそーっと片目を薄く開けてみた。
 すると一伽は、確かにローションのボトルを開けて、中身を手に垂らしてはいたけれど、その手は侑仁を押し倒そうとするのではなく、自分の…………自分の後ろへと伸びていた。

「ちょっ…侑仁、目開けないでよっ! 何で開けんだよバカッ」
「イテ、ゴメ…ゴメン一伽っ」

 侑仁が目を開けたことに気が付いた一伽は、顔を赤くして、ローションまみれの手で侑仁をバシバシ叩いてきた。
 今さら目を閉じ直しても仕方ないので、侑仁は目を開けたまま、一伽のこぶしを甘んじて受け入れつつ、先ほど視界に入った光景の意味を考えてみた。
 目を瞑らされた侑仁は、一伽に押し倒され、いわゆる女役をやらされることを想像していたのだが、一伽は手にしたローションを、侑仁でなく自分に使おうとしていたわけで。

「え、お前、自分でしようとしてた?」
「ッ…、バカバカ死んじゃえっ!」
「ちょっイテッ、一伽っ、やめっ…イッテー!」

 辿り着いた答えに、侑仁はあり得ないと思いつつ、口にしてみた。
 すると、まさかの図星だったのか、侑仁の指摘に一伽は、赤かった顔をさらに真っ赤にさせて、とうとうローションのボトルまで侑仁に向かって投げ付けて来た。
 幸いにもキャップが閉まっていたので、ローションが零れることはなかったが、まだたっぷりと中身の入ったボトルは、しっかりと侑仁を直撃。

「てめっ」
「うわぁ~~~んっ!!」

 さすがにこれには侑仁もカッとなって声を大きくし掛けたが、一伽が声を上げて泣き出したので、何だか急に怒る気が失せてしまった。
 何しろ相手は一伽なのだ。このくらいのことで怒っていては、付き合い切れない。

「目瞑ってて、て言ったのにぃ~~~…」
「それはゴメンてば! だって、一伽が何しようとしてるか分かんなかったから…。つかお前、俺のことやろうとしてたんじゃねぇんだ??」
「何で俺が侑仁のことやるんだよっ! 俺、ユキちゃんからやり方聞いてきたのにっ」
「いや、だからだろ?」

 雪乃から、男同士のセックスについてやり方を聞いたから、侑仁のことをやろうとしているのだと、侑仁はそう思ったのに。
 しかし一伽の言い方では、そんな気はないようだし、そういうことなら確かに、先ほどの一伽の行動も分からなくはないんだけれど、なら何を雪乃に聞いたというのだ。

「あのさ、俺も何となくしかやり方分かんねぇけど、ぶっちゃけ、どっちかがどっちかに突っ込むわけだろ?」
「…ん」
「お前がユキちゃんにいろいろ聞いてきたとか言ったから、俺、てっきりお前に突っ込まれんのかと思ってビビってたんだけど…………そういうつもりじゃねぇの?」

 ベッドの上だし、一伽は結構ローションまみれの状態だし……しかしもうムードなんてさっぱりだから、こうなったら、一伽がどうするつもりだったのかを聞き出そう。
 でないと、ベッドに入るたびに、同じことを繰り返しそう…。



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暴君王子のおっしゃることには! (216)


「侑仁は知らないかもしんないけど、突っ込まれんのって、いろいろ準備とかいるのっ。それ、いちいち侑仁に説明するくらいだったら、自分でしたほうが早いと思って、そうしようとしたのに、侑仁が目開けるからっ!」
「………………え、」

 何とも思い掛けない一伽の発言に、侑仁はどんな返事をするのが正解なのか分からず、いやそれよりも呆然のほうが大きかったのか、侑仁はただそれだけ言って固まった。

「お前、説明すんのが大変だから、自分でしようとしたわけ…?」
「だって、やり方聞いたつったって、ユキちゃんから口で言われただけだから、侑仁に説明できるほどじゃないし! そんなの、俺だって突っ込まれるより突っ込むほうがいいに決まってんじゃん! 何なら無理やりにでも突っ込んでやろうか!?」
「バッ…バカッ、やめろっ!」

 それを本当に実行したら、冗談では済まされなくなる! 犯罪になるっ! …と侑仁は、伸し掛かって来ようとする一伽を、慌てて制すした。
 侑仁は、一伽がまた突拍子もないことを思い付いた、とただ単に思っていただけだったが、それは一伽なりに考えた末のことだったのだ(まぁ突拍子もないことは突拍子もないが)。

「…侑仁のバカ。どうせ俺となんかやりたくねぇんだろ?」
「何でだよ、違ぇよ」

 拗ねて顔を背けた一伽の機嫌をこれ以上損ねないように、侑仁は一伽を抱き寄せる。
 まだ暖房を必要とする時期ではないけれど、裸でいるには寒いから、一伽の体は少し冷えている。

「ユキちゃんからいろいろ聞いてきた、つったから、俺のことやる気なんだ、て思ったんだよ。だってそんな……普通そう思うだろ? 別にお前とやりたくないんじゃなくて、自分が考えてたのと違ったから、ビックリしただけだよ」
「……」
「つか、じゃあ俺がやっちゃっていいんだ?」
「…いいよ。そのために準備したんだし」

 侑仁の腕の中で、顔をプイと背けたまま、一伽は素っ気なく返事をした。
 その態度は照れ隠しから来るものだと分かるから、なおのことかわいく思える。

「つか、準備って何? さっき風呂入ったの?」

 侑仁は一伽を抱き締めたまま、気になっていたことを尋ねた。
 セックスの前にシャワーを浴びるのは、男同士に限らずあることで、別に準備と言うほどのことでもないのに。

「だから、いろいろあんだってば! だって、侑仁のコレ! このデカチン、俺のケツに突っ込むんだよ? 何もなしに入るわけないじゃん!」
「あぁ、だからローション?」
「そう! それにユキちゃんが、やっぱお尻だし、シャワーとかでキレイにしといたほうがいいよ、て言うから…………だから、シャワー…」

 一伽は段々と声を小さくして言って、しまいにはモゴモゴと口籠ってしまった。
 侑仁は最初、一伽の言っていることが分からなかったが、先ほどバスルームで見た光景を思い出し、その言葉の意味を理解した瞬間、ブワッと体が熱くなった気がした。

 男同士のセックスでは、受け入れるのにお尻を使うから、やる前にソコをシャワーでキレイにしておいたほうがいい、と雪乃に教えられた一伽は、素直にそれを実践したのだ。
 プライドなら決して低くはない一伽が、恥ずかしくても、侑仁のためにそうやってがんばってくれたのだと思ったら、興奮しないはずがない。

「俺としたかったから、がんばったんだ?」
「…」

 視線を逸らしている一伽の顔を覗き込む。
 一伽は先ほど、『どうせ俺となんかやりたくねぇんだろ?』なんて言ったけれど、そんなこと思うはずなんか、あるわけないのに。

「一伽?」
「ッ…、そーだよ! 侑仁とやりてぇの、俺は!」
「うわっ!」

 恥ずかしがっていたのが嘘のように、一伽はそんなことを声高に言って、侑仁をベッドに押し倒した。
 まったく不意を突かれた侑仁は、抵抗する間もなくベッドに沈み、その上には一伽…。



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暴君王子のおっしゃることには! (217)


「ちょっ…、え、一伽…!?」
「んふふー、人間の力で俺に敵うと思ってる? やっぱ気が変わったから、侑仁のことやっちゃおっかなぁー」
「待っ…いや、ちょっ待っ…心の準備がっ…」

 先ほど1度は覚悟を決めたつもりだけれど、一伽にやられないのだと分かった時点で、そんな決意、さっぱりとどこかに行ってしまっている。
 いや、大体それなら、侑仁だってシャワー…………いやいやいや、そうじゃなくて!

「ぐふふ、嘘だよー。ちゃんと侑仁に突っ込ませてやんよ。だから早く勃たせやがれ☆」
「てめっ…」

 言っていることは最低だが、それをめちゃめちゃかわいい顔で言われてしまったら、もう逆らえない。
 侑仁は、上に乗っかっている一伽の腕を掴んで引っ張ると、体勢を逆転させて、一伽をベッドに押し倒した。

 散々ドタバタしたせいで、ムードなんてすっかりなくなっていたけれど、まぁそういうものを大事にする2人ではなかったので、気にせずベッドの上で抱き合って、キスをする。
 口の中にねじ込んだ舌で一伽の舌を絡め取って、吸い上げて甘噛みすれば、一伽は侑仁の首の後ろに腕を回して、しがみ付いてきた。
 どうやら一伽は侑仁のキスが好きらしく、そっと目を開ければ、うっとりした表情なのが窺えた。一伽の性格からして、セックスでは絶対に主導権を取りたいタイプだろうに、こんなになっちゃって。

(あーヤベェ…、止まんなくなりそう…)

 そんな一伽を見ていたら、侑仁も熱くなってしまう。
 昨日の今日で早速雪乃にやり方を聞いてきた一伽に、最初は呆れもしたけれど、結局自分だって一伽としたかったんだな、と思ったら、苦笑するしかない。

「んぁっ」

 一伽が侑仁のキスに夢中になっている隙に、侑仁の片手はその脇腹を辿り、もう片方の手で一伽の中心を握ると、直接的な刺激に、一伽は体を震わせた。
 身を捩ろうとするのを押さえて、胸の突起をいたずらに引っ掻いてみれば、一伽はギュウと眉を寄せる。

「乳首、感じんの?」
「違ぇよバカ、侑仁がチンコ触るからだろっ…」

 呼吸を乱して涙目で睨まれても何の説得力もないのだが、一伽がそう言うのだから、とりあえずは信じてやろう。
 けれど、侑仁はもちろん本気でそれを信じたわけではないし、いや、もし本当だったとしても、それなら開発してやろうかとか思って、乳首を舐め上げた。

「はぁっ…ん」

 感じているのではないと言いながらも、侑仁がそれを口に含んで舌先で転がせば、一伽は我慢することなく甘い声を上げる。
 これのどこが感じていないだ。どうせ認めないだろうけれど、侑仁の手はもう、一伽の下腹部へは伸びてはおらず、舌で愛撫するのとは反対側の乳首も、指先で押し潰したり指の腹で擦ったりしているのに。

「ぁ、も…いい、てばぁ…!」

 息も絶え絶えになりながら、一伽が侑仁の体を押し返してくる。
 しかし、人間より吸血鬼のほうが力があると言っていたのに、今はもうそんな力も残っていないのか、分かっていて力を入れていないのか、一伽のその手は、ただ単に侑仁の腕を掴むだけになっている。

「何で? 気持ちいいんだろ?」
「ちが…知らな…」
「今までされたことねぇの?」
「ねぇよ、バカっ…」

 こんな状況で過去のセックスについて聞くなんて、デリカシーないのもいいところだけど、まぁいっか。
 一伽も、それについてどうこう思っているわけもなくて、それより、侑仁が余裕ぽくいることのほうが悔しいらしく、形勢を逆転させようとするのに懸命だ(本当は侑仁だって、全然余裕なんかないのに)。



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暴君王子のおっしゃることには! (218)


 というか、一伽が今まで、女の子との関係を隠さず打ち明けて来ていたから、侑仁もいろいろ知っていて、相当遊んでいると思っていたのに、こういう経験がないのは、ちょっと意外だ。
 やはり一伽は、ベッドの上で受け身になったことなんか、全然ないのだろう。
 それは侑仁も同じだけれど、一伽はかわいい顔して、かなりの肉食系だ。

「もっ…侑仁、やめっ…」
「何でだよ。いいんだろ?」

 言葉とは裏腹に、一伽の中心は熱を帯びていて、侑仁は内心安堵する。
 自分のテクに自信がないわけではないし、一伽のあんなにやりたがっていた様子からして、大丈夫だろうとは思っていたけれど、男にこんなに愛撫されて、嫌悪感を持たれたらどうしようとは思っていたのだ。
 だって、口ではどうとでも言えるが、男の体は正直だから、バッチリ萎えられていたら、やっぱり凹む。

「いいんだろ?」
「ふぁ…、あ、ん……イィ…」

 一伽が弱いと言っていた耳を嬲りながらもう1度尋ねたら、一伽は快感に身を委ねるように、素直にそう答えた。
 もう、余裕がどうだとか、恥ずかしいのがどうだとか、考える気がなくなったのかもしれない。

「ん…ん、ぁ…あぁっ!」

 耳の中に舌を入れ、震える一伽の腰を掴んで、膝で一伽の中心を刺激する。一伽にとってはまだ未知の世界である胸への愛撫もしてやれば、ブンブンと首を振った。
 こんなふうに攻められるセックスなんてきっと経験がないから、どうしていいか分からないのだろう。

「ひぅっ…んっ、あ、あぁっ…」
「イキてぇんだろ? 我慢すんなよ。すげぇよくしてやっから」
「あ…ゃ…、ゆうじぃん…!」

 侑仁はニタリと笑うと、広げた一伽の足が閉じないように片足を膝で押さえつつ、その間に体を入れて、一伽の濡れた中心に手を掛けた。
 しつこいくらいに耳と胸を弄りながら、敏感なところ強めに擦ったら、一伽がキュウと侑仁の腕を掴んでくる。
 爪を立てられて、痛ぇな、と思ったけれど、見れば一伽は、涙と唾液で顔をグチャグチャにしながら快感に酔い知れていて、そんな一伽に、侑仁は気をよくする。
 すげぇかわいい。
 女の子だったら、ここまでになっちゃうと、化粧が落ちて悲惨な感じになるから、侑仁は結構引いてしまうんだけど、一伽だと、純粋にかわいいと思える。

「あーダメっ、らめらめぇっ…!」
「ンだよ、嫌ならやめんぞ?」
「んんーっ…」

 一伽の言葉に、わざと心にもないことを言えば、一伽はイヤイヤするように首を振って、下腹部を侑仁のほうに押し付けて来た。
 固く瞑っていた目を開け、潤んだ瞳でねだるように見つてくるから、侑仁は「イイ子」と笑って、手の動きを激しくしてやり、そしてとどめを刺すように、その先端に爪を立てた。

「あ、ああぁっ…!」

 ビクンと大きく一伽の体が跳ねて、侑仁の手の中に精液が放たれた。
 体勢のせいで、それは一伽自身の胸にも思い切り飛んでいて、エロい眺めだなぁ…と侑仁は思う。

「あ…は、ぁ…」
「こんくらいでへばってんなよ。俺と、最後までやんだろ?」
「あ…?」

 まだ呼吸の整わない一伽の腕を掴んで自分のほうを向けさせれば、一伽は焦点の合っていない瞳で、ぽわんと侑仁のことを見つめていた。

「コレ。そのために用意したんだろ?」
「ッ…」

 投げてあったローションのボトルを取って、侑仁はそれを一伽の目の前にチラつかせた。
 自分で買って来たくせに、それを改めて見せ付けられたら、照れて視線を逸らすとか、そんなの。



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暴君王子のおっしゃることには! (219)


「で、どうしたらいいの? 一伽、教えてよ」
「知らなっ…」
「何で? ユキちゃんに、やり方聞いて来てくれたんだろ? 俺、全然分かんねぇもん、一伽が教えてくんなきゃ」

 いくら侑仁が男同士のセックスについて殆ど知識がないとはいえ、このローションの使い道が分からないわけがないのに、わざとそんなふうに言ったら、一伽は唇を噛みながら、のろのろと起き上がった。
 普通だったら、侑仁のこんな嘘くらいすぐ見抜けるだろうし、ふざけんなっ! と噛み付いてくるところなのに、セックスのときは素直で従順なんて。

「これ…」
「ん?」
「これで、慣らすの」

 一伽は侑仁の手からローションを取って、恥ずかしそうに俯きながら、震える手でキャップを開けた。
 まさか、自分でヤるつもりんだんだろうか。そう思って侑仁が見ていたら、一伽が自分の手のひらにローションを垂らし始めるから、ちょっと焦った。
 そういえば、一伽はさっきも自分でやろうとしていたんだった。
 あのときは一伽がどうしたいか分からなかったからともかく、今はもう、一伽にそこまでさせるつもりなんかない。

「もういいって、貸してみ?」
「んぁ…、らって、慣らさないと、入んない…」
「大丈夫、ちゃんとしてやっから」

 安心させるように一伽にキスをして、侑仁はボトルを取り返すと、一伽の濡れた手をティシューで拭ってやってから、侑仁は自分の手にローションを零す。
 それからふと一伽に視線をやったら、尻をこちらに向けて伏せの姿勢になっていたので、侑仁は思わず「ブッ」と吹き出した。いきなりバックでヤる気か!

「ちょっ一伽…! おま…何つー格好…」

 いや、いいんだけど! いいんですけど!
 でもほんの一瞬前まで、めっちゃ恥ずかしがってたじゃないですか!
 なのに、どうして急にそんな積極的…!?

「あ…? らってユキちゃんが、初めてなら、後ろからのがいい、て…」
「マジか…!」

 侑仁は実際に雪乃に会ったことはないけれど、今までに一伽から聞かされた話からして、いくら一伽に無理やり聞き出されたとはいえ、そんなことを言うような子だとは思っていなかったのに…!

(すげぇよ、ユキちゃん…!)

 よく考えたら、この一伽と一緒に暮らしているのだから、只者ではないに決まっている。
 侑仁は、心の中で雪乃を尊敬しつつ、乾いた唇を舐め、一伽の双丘に手を掛けた。

「ひゃっ…」

 侑仁が尻の間の窄まりに指を滑らせると、一伽はピクンと背中を震わせて、枕に顔を突っ伏した。
 それまで四つん這いの格好だったが、ガクリと肘が崩れると、腰だけを高く掲げた形になって、一伽本人は無意識だろうけど、何だかすごくいやらしい。
 侑仁はゴクリと喉を鳴らして、ローションを直に後ろに注いだ。

「気持ち悪ぃ?」
「にゅ~~~~平気ぃ~~~…」

 一伽がずっと、「うぅ~~」と小さく唸り続けているから、心配になって尋ねれば、明らかに無理をしている声色で、一伽はそんな返事をして来た。
 そんなに嫌ならやめたほうがいい気もするが、一伽のここまでの努力を無駄にするのも何だし、侑仁の下半身だってもう結構切実だから、出来ることならもうちょっとがんばってもらいたいとも思う。

「ヤダったら言って?」

 ――――やめられる自信、ねぇけど。
 侑仁は心の中でそう付け加えて、一伽の秘所にローションを塗り込めるようにしてから、指を1本差し込んだ。



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暴君王子のおっしゃることには! (220)


「ふぅ、んっ…」

 やはり違和感があるのか、一伽は無意識に上のほうへずり上がっていって、けれど侑仁はそんな一伽の腰を掴むと、やんわりと引き戻す。
 一伽が体に力を入れているせいで、もちろんその中もキツくて、指を進めるのも容易ではないが、何とか第二関節くらいまで入れることが出来て、侑仁はビクビクと震えている一伽の腰にキスをした。

「ふえぇ~…」
「何? 痛ぇ?」

 一伽の声が涙声になっているから、念のために聞いてみたら、一伽は枕に顔を押し付けたまま、ブンブンと首を横に振った。
 そんな一伽に、無理しなくても…と思いつつも、一伽のことだから、本気で嫌なら、侑仁のことを殴り飛ばしてでもやめさせようとするだろうし、ここでやめたら、何でやめたんだ、と怒り出しそうだから、続けるしかない。

「はうっ…」

 慣らすのなら、ただ指を奥に進めているだけでは仕方ないだろうと思って、侑仁は中で指をクイと曲げてみた。途端、一伽は背中を強張らせて、侑仁の指を締め付けてくる。
 このキツさじゃ、とても侑仁のモノを受け入れるなんて、無理な気がする(別にデカいとか自分で言いたいわけじゃなくて、だって指1本でこれだし…)。

「一伽、もっと力抜いて? 締め付けすぎ」
「あぁ~ん、出来ないぃ~…」

 ふえぇ~…と、情けない声を上げながら、一伽が首を捻って侑仁のほうを見た。
 侑仁は自分のことを、泣き顔に興奮するタチではないと思っていたけれど、一伽のこの表情には無性に煽られてしまう。

「ひゃうっ」

 一伽は先ほど1度イッているし、この後ろへの慣れない感覚のせいもあって萎えたままだし、身体も強張ったままでどうにもならないので、侑仁は背後から手を伸ばして、一伽のモノを握った。
 体勢的に苦しいかな、とも思ったが、一伽が顔を横に向けているので、そのまま唇も奪う。
 そうすると、一伽はすぐに舌を出してくるから、侑仁が口を開けると、一伽はすぐさま口の中に舌を入れて来た。あぁ、こういうところが、やっぱり肉食系だよね、と思う。

「はぁ…ん、ん…」

 キスと前への愛撫で、一伽が先ほどよりも苦しそうな顔はしなくなったので、侑仁は中に埋めた指の動きを早くして、より解すように内壁を擦るようにしながら掻き回していく。

「は…はぅ、ヤバ…」
「ぅん? 何…?」

 急に一伽がキスを解いて身を捩ったので、侑仁も愛撫の手を止めた。

「ヤ…侑仁…」
「や? 何が嫌?」
「は…はぁ…またイキそ…」

 確かに侑仁の手の中のモノは、再び熱と硬さを取り戻してはいるけれど、ここでまたイッたら後々大変そうだと思って、侑仁は「まだ我慢して?」と一伽の耳にキスしながら、そう告げる。
 一伽は困ったような顔をしながらも、コクコクと頭を動かした。

 侑仁はいったん一伽の中から指を引き抜いて、ローションを注ぎ足すと、今度は指を2本にして再び中に押し込めた。
 しかし今度はさほど体を硬くさせず、違和感を訴えることもなかったので、侑仁は一伽がイッてしまわないよう、前への愛撫を緩めつつ、中の指を動かす。

「ひっ、あ、あぁっ!」
「え? え、何?」

 2本の指でグルリと中を掻き回したら、一伽が悲鳴じみた声を上げたので、侑仁も驚いて手を止めた。
 一伽はギュウとシーツを握り締めて、再び枕に顔を押し付けてしまったので、表情も窺えない。



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暴君王子のおっしゃることには! (221)


「ヤッ侑仁、そこダメッ」
「え、そこって? どこ?」

 別に言葉攻めしたいとかそういうじゃなくて、本気で分からなくて侑仁が聞き返しても、一伽は首を振るだけなので、とりあえず一伽の呼吸が落ち着くのを待って、ゆっくりめに指を動かしつつ、一伽の様子を窺う。
 何て言うか……こんな探り探りでセックスすんの、初めてのとき以来だなぁ…と、余裕がないくせに、頭のどこかが冷静なのか、侑仁はそんなことを思った。

「きゃうっ!」
「え、ここ?」

 狙ってしたわけではないけれど、侑仁の指が、一伽の言うダメなところに当たったらしく、また一伽は悲鳴を上げた。
 だが侑仁は、そこで気が付いた。
 一伽はダメダメと繰り返すが、そう言いながらも、一伽のモノは少しも萎えていないどころか、侑仁がただ触れているだけなのに、どんどん質量を増していっているのだ。

「一伽、ここダメなの? 何で? いいんじゃねぇの?」
「らめぇっ…!」

 一伽の手が力なく後ろへと伸びて来て、侑仁の手を止めようとするが、そんな抵抗、もちろん無駄な足掻きでしかない。
 ダメだと言いながらも、一伽の中は収縮するように蠢いているし、勃起したものも硬く張り詰めたままだ。

「はぁっ…ん、ぁっ……ああっイヤッ…!」
「もうちょっと…」

 逃げ出そうとする一伽の腰を押さえ、侑仁は中に入れた2本の指を広げて、さらにローションを注ぐ。
 結構もうグチャグチャで、指を抜き差ししたり、掻き回したりするたびに中から溢れて来て、ちょっとしたAVみたいだ。

「あっ…らめっ、らめなのぉっ」
「何がだよ、よくねぇ?」
「やっあっあぁっ…! イク…! ゆるひてぇ…!」

 一伽は何とか振り返って、泣きじゃくりながら許しを請い、訴えてくる。
 一伽の泣いているところは何度か見て来たけれど、こんな姿は本当に初めてで、何か余計に興奮すんだけど…とか思ってしまった侑仁は、もしかしてSなんだろうか。

「イクの? 一伽、後ろ弄られると、イッちゃうの?」
「ちがっ…違うぅ…、お願……ひあぁっ!」

 根元まで入れた指を中で曲げたら、一伽が驚くくらいに反応して、枕に顔を突っ伏した。
 激しく指を動かしているわけではないが、どうやらそこは一伽がひどく感じる場所らしく、少し指の腹で押しただけでビクビクと体を震わせ、侑仁の指を締め付けてくる。

「ああぁっ…らめぇっ…!」
「何がダメなんだよ、いいくせに」
「はぁんっ…!」

 指を3本にして一伽の感じる場所を攻め立てると、一伽は枕にしがみ付いて、首をブンブンと振った。
 後ろだけでイキそうなくらい感じるなんて、それはいきなり開花しすぎだろ! と侑仁は思ったが、しかし一伽のモノは硬さを失わないし、先走りの液でシーツを濡らしている。

「試しに後ろだけでイッてみる?」
「ヤッ…ヤダヤダバカっ!」
「嘘だよ」

 侑仁が、冗談で風俗のサービスのようなことを言ったら、一伽は即行で拒否してきた。
 もちろん侑仁も本気で言ったわけではないから、それは別にいいんだけれど、こんなに感じて、わけが分からないみたいになっているくせに、ちゃんと聞こえてるんだな。

「なぁ一伽、慣らすって、こんくらいでいいの? もう入れていい?」
「はっあっあっ、んっ」
「それとも、まだ指がいい?」
「はあぁっ…!」

 いくら一伽が雪乃からいろいろ聞いてきたとはいえ、どのくらい慣らしたらいいかまでは恐らく分からないだろうと思いつつ、一応聞いてみたら、やはり返事はなかった。
 でも、最初のあのキツかったのがここまでになったのだから大丈夫かも…と思って、侑仁は一伽の耳にキスをした。



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暴君王子のおっしゃることには! (222)


「入れるよ?」
「ん、んっ…」

 侑仁の言葉に、一伽は返事ともつかない返事をしたが、Noとは言われなかったし…と、元よりこれでやめるつもりなどない侑仁はそう開き直って、一伽の中からズルリと指を引き抜く。
 そして手早くコンドームを付けて、今度は自身をそこに宛がった。

「あ…」

 ようやく指を抜かれてホッとしたのも束の間、一伽は後ろに感じた熱に、ヒクリと肩を揺らした。
 侑仁は、崩れかけている一伽の腰を掴んで、ゆっくりと腰を進めていく。

「ひぅっ…ん…」
「クッ…」

 指で結構慣らしたつもりだったけれど、やっぱりキツイし、女の子のアソコとも全然違う。
 侑仁は舌で一伽の首筋を舐め上げ、耳を愛撫したり、宥めるように一伽のモノを弄ったりして、少しずつ自身を一伽の中に入れていく。

「入っ、た…」
「は…ぁ…、あ…?」

 ゆっくりと時間を掛けてすべてを埋め込むと、侑仁は大きく息をついた。
 一伽の震える背中に、ポタリと汗が落ちる。

「ふ…くぅ、ん…」
「キツイ…?」
「…に決まってんだろ、このデカチン…!」

 侑仁のほうを振り返った一伽が、辛そうな顔をしていたので、心配になって尋ねれば、一伽は相変わらずの調子で睨み付けて来た(若干ムカつくが、まぁいい)。

「痛くはねぇの?」
「分かんね…。何か…お腹、苦し…」

 一伽は眉を寄せて、肩を上下させながら呼吸している。
 その言葉どおり、一伽は本当に苦しいらしくて、だから侑仁は、締め付けてくる快感にすぐにでも腰を動かしたかったけれど、一伽が落ち着くのを待つ。

「何か…マジで入ってんね、侑仁の…」
「入ってるよ、そりゃ。つか、な…もう動いても平気?」
「ぐふ」

 額の汗を拭って一伽に尋ねたら、なぜか笑われた。

「…んだよ」
「何か侑仁、余裕ねぇから。おっかしー」
「チッ。おめぇは余裕じゃんかよ」

 確かに、余裕がないことはない。
 けれどそんなこと、先ほどまで感じまくっていた一伽に指摘されたくはないのだが(というか、どうして突っ込まれた途端、余裕を取り戻しているのだ)。
 侑仁は舌打ちを1つして、ローションを垂らすと、ゆっくりと腰を動かし始めた。

「ん、はっ…」

 笑っていた一伽も、それだけですぐに蕩けた表情になって、甘い声を漏らす。
 女の子とするように動いていいものかと迷うが、一伽は苦痛の表情をすることはないし、萎えてもいないから、侑仁は気を付けながらも、徐々にスピードを上げていく。

「ひゃっ、にゃっ…んっ!」
「にゃ、て……猫かよ」

 横顔を枕に乗せて腰だけを上げた状態の一伽は、ガジガジと人差し指を噛んでいて、侑仁が突き上げたら、まるで猫のように鳴くから、鼻で笑ってやった。
 でも実際は、先ほど一伽に言われたように侑仁もそんなに余裕があるわけではから、快感を貪りつつ、一伽を追い上げることに集中する。

「はぅっ、んぅ、んっ」

 何か言ったところで、結局は感じている一伽がかわいい。
 1度やろうとして、やり方が分からず断念したところからして、一伽が男とヤるのが初めてなのは間違いないだろうけど、初めてにしては感じすぎだろ、と侑仁は思う。
 快感に弱いというか、気持ちいいことが好き過ぎるというか……まぁいいけど。



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暴君王子のおっしゃることには! (223)


「はぁっ…一伽、腰動いてんだけど。そんなにいい? 後ろ」
「ヤッ違うっ…!」
「どーだか」
「ひンッ…!」

 多分、先ほど指でしていたときにも、一伽がすごく感じた場所。意図したわけではないが、侑仁がそこを突き上げたらしく、一伽はピィンと背中を伸ばして、シーツを掴んだ。
 口では否定するけれど、体はひどく正直なのだ。

「あぅっ、んっ…、ヤッらめっ…」
「だーから。何がダメなんだって…」

 侑仁がそこを突くたびに、一伽の中がキュウキュウと締め付けてくる。
 後ろでこんなに感じたことがないから、気持ちよくなってきても、どうしたらいいのか分からないのかもしれない(侑仁だって、全然想像が付かないし)。

「はっはっヤッ…ぁ…あぁっ…」
「ッ…締めすぎっ…」

 そう言いながらも、侑仁は片手を前に回して、一伽の尖っている乳首を抓んで刺激する。
 強い快感に、一伽は逃げるように身を捩って暴れるが、すぐに侑仁に押さえ込まれて、いいように揺さぶられる。

「あっ…やっイッ…」
「ぅん? イク?」
「違っ…ダメ、無理ぃ…!」

 髪を振り乱して感じている一伽に、侑仁の燻っていたS心に再び火が点いてしまって、その顔をもっと見たくなって、一伽の感じるその場所ばかりを突き上げていく。
 一伽は、ダメだとか無理だとか言いながらも、腰を揺らめかせて、快感を貪っている。

「なぁ、やっぱイキそうなんだろ? 言ってみ? イカせて、て」
「うぅ…違うぅ~…」

 一伽の背中に伸し掛かって、その耳元で囁いてやれば、しかし一伽はそんなことを言って突っ撥ねてくる。
 しかし侑仁は、ニンマリと笑った。

「へぇ、じゃあこの手は?」
「あっ…」

 侑仁は一伽の手を掴んで、意地悪く尋ねた。
 先ほどまでシーツを握り締めていたのに、一伽の手は、いつの間にか昂った自身を擦り上げていたのだ。一伽は侑仁に言われるまで、自分がそうしていたことに気付いていなかったのか、戸惑ったように侑仁に視線を向けた。

「イキてぇんだろ?」
「ぁ…」
「違ぇならやめんぞ」

 本当は侑仁だって、こんな状態でやめられるわけがないのに、わざとそんなことを言って腰の動きを止めると、一伽は途端にねだるような表情になる。
 別にそういうことを口にするのが恥ずかしいわけではないだろうに、言えないのは、男としてのプライドが邪魔をするからだろうか。

「ダメぇ…、ゆうじぃん…」

 言えないくせに、やはり快感には勝てないようで、一伽はまたゆらゆらと腰を揺すってきた。まったく。これじゃあ、後ろを刺激されるのが気持ちいいと言っているようなものじゃないか。
 しかしそんなことに気付かない一伽は、甘えた声で侑仁のことを呼ぶ。

「やめたらダメなの?」
「…ん」

 だから侑仁も、甘やかすような声で問い掛ければ、さっきまであんなに頑なだったくせに、一伽は素直にコクリと頷いた。
 陥落寸前の一伽をさらに追い詰めるように、侑仁は畳み掛ける。

「じゃあ、どうしてほしい?」
「…触って」

 スンと鼻を啜った一伽が、掴まれたままの手を自身へと運ぶので、侑仁は言うことを聞いて、濡れたソレを握ってやる。



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暴君王子のおっしゃることには! (224)


 軽く刺激してやれば、一伽は口元を緩ませたが、これだけでは物足りないのか、腰の動きが早くなっていく。

「ん…ゃ、もっと…」
「もっと、何だよ」

 ねだる一伽に、侑仁はさらに聞き返す。
 これくらいでは、一伽はイケないのだ。分かっていてわざと尋ねれば、一伽の瞳から涙が零れ落ちた。

「…………突いて、もっと…」
「ッ…」

 とうとう観念した一伽の口から漏れた言葉は、凄まじい破壊力で、侑仁は思わず持って行かれそうになった。
 やっぱり一伽には、とても敵いそうもない。

「ああぁんっ!」

 侑仁は一伽の望みを叶えるべく、ずんずんと突き上げていく。
 そうすると、注ぎ足したローションが一伽の中から溢れて来て、侑仁が腰を動かすたびに、空気を含んだいやらしい音を立てる。

「気持ちい?」
「ん、ぅん、侑仁っ、イイ…ん、気持ちい…あぁっ」

 侑仁に揺さぶられながらも、一伽は懸命に首をコクコクさせる。
 多分、女の子が最中にこんなに声を上げても、AVを思い起こさせて、かえって萎えそうな気がするのに、一伽の感じている声は、もっと聞きたいと思う。
 もっと感じて、乱れた姿を見たい。

「んんーっ…、あぁっ、あっ、んっ」
「かわい」

 一伽のモノを強めに擦り上げると、堪らず一伽は目をキュウと瞑った。
 侑仁は奥歯を噛んで、イキそうになるのをやり過ごすと、さらに深く腰を突き入れる。

「ひぃっ、んっ…! ぅん、んっ、あっ、あっ、らめぇっ…、うぅんっ…」

 一伽の耳たぶを舐った後、唾液でベトベトになった口をキスで塞いで舌をねじ込み、感じる場所だけを突き上げると、一伽の内ももが痙攣するようにビクビクと震えて、限界が近いことを知る。
 でも、簡単にイカせてやる気もなくて、侑仁は一伽の根元をキュッと握った。

「うんーっ…!」

 驚いた一伽が目を開け、嫌だと訴えるように首を振るが、侑仁は一伽の顎を押さえて、逃げる舌を追い掛けるように、キスを深くする。
 瞬きのたびに、一伽の瞳から涙が零れ落ちていく。 

「ふ、うえぇんっ…、お願ぁいっ…」

 一伽はパタパタと暴れてキスを解くと、侑仁にいいように揺さぶられながらも、必死に侑仁の手を自身から引き剥がそうとする。
 快感を堰き止められて、けれど中の気持ちいいところを侑仁の熱で擦られ、突き上げられて、もう気が狂いそうだった。

「ゆうじぃんっ…!」
「ッ、分かったってっ…」
「や…っ、あんっ、あんっ…、あっあっ…!」

 泣き声で名前を呼ばれて、侑仁は頬を伝う涙を舐め取ると、一伽のモノを握っていた手を緩め、今度は射精を促すように先端を刺激してやりながら、ガツガツと腰を打ち付ける。
 段々と一伽の声も上擦っていって、侑仁はとどめを刺すように、最奥を突き上げた。

「あっ…ああぁっ…!」

 体を硬直させて、一伽は侑仁の手の中に熱を迸らせる。
 そして、一伽が達したことで、中の締め付けがさらにキツくなって、侑仁も堪え切れずに射精した。



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暴君王子のおっしゃることには! (225)


「ふ、ぅ…」

 侑仁が中から自身を引き抜くと、一伽はクタリとベッドに沈んだが、まだ快感の余韻が続いているのか、ひくひくと体が震えている。
 汗で額に張り付いた前髪を掻き上げた侑仁は、コンドームを外してゴミ箱に投げると、一伽の隣に横たわった。

「一伽、平気?」
「…んっ」

 濡れた髪に指を絡めると、まるでそこまで性感帯になったかのように、一伽はピクンと反応して、それからのろのろと体を動かすと、侑仁のほうを向いた。

「侑仁ー…」
「ぅん?」

 気怠そうに名前を呼ばれ、怠いのかな? 痛いのかな? そりゃそうだよな、もしかして超ご機嫌斜め? と、侑仁は急に気が付いて、普通に返事をしながらも焦る。
 やっている最中はお互い夢中だったけれど、今はホラ、いわゆる賢者タイムだし。それは2人とも男だから、お互い様だけれど、でも!

「ねぇ侑仁…」
「…ん」

 しかし侑仁の焦りとは裏腹に、一伽は甘えるように侑仁のほうに腕を伸ばして、唇を重ねてきた。
 やっぱり機嫌は悪くない? と侑仁は混乱しつつも、一伽のキスを受け入れる。

「んぁ…」

 唇を舐められて口を開ければ、すぐに一伽が舌を差し込んでくる。
 かわいいなぁ、と思って侑仁がキスに応えていると、一伽はますますムギュ~としがみ付いてきて。

「一伽?」
「侑仁! ちょ~~~ヤバいねっ!」
「は?」

 唇を離したかと思うと、まだうんと顔の近い状態で、一伽は嬉しそうにそんなことを言ってきた。
 その表情からして、一伽の言った『ヤバい』は、いいほうの意味なのだろうが、それにしても、今のキスは!? と侑仁は突っ込みたい。
 別にムードを大事にする2人ではないけれど、たった今終わって、その後あんなにかわいくていやらしいキスを仕掛けてきたくせに、どうして急にそんな!?

「…ヤバいて何が?」
「超~~~~気持ちよかった!」
「え、あ、そう…?」

 そんなこといちいち言っていてもしょうがないと侑仁は諦めて、とりあえず、何がヤバいのかを聞いてみれば、一伽からはそんな答えが返って来るわけで。
 いや、気持ちよかったのなら、それに越したことはないけれど、同じ感想を言うでも、面と向かってこんなにはっきりキッパリ言われたことはないから、面食らう。

「だってさ、ケツだよ? ケツ! お・し・り!」
「言い直さなくても分かる。つか、うるせぇよ」
「俺、お尻がこんな気持ちいいとは思わなかった…。ヤバイね、マジで。侑仁がうめぇの? それとも男はみんな、お尻こんなに気持ちいいの?」
「知らねぇって。つか、暴れんなよっ」

 セックスのときとはまた違った興奮でテンションを上げている一伽が、侑仁の腕の中でジタバタするから、手とか足が当たって痛い。
 もう、何なのこの子!(かわいいけど!)

「でもさぁ、お尻めっちゃ気持ちいいのはいいけど、何か腰が怠い…。バックでやったから?」
「知らねぇよ。でもユキちゃんがそのほうがいいて言ったんだろ?」
「言ったけどー。侑仁が激しすぎなんじゃね? 超エロかったし」

 文句を言いつつも、侑仁から離れる気のない一伽は、もぞもぞ動いて足を絡めてくる。
 分かっていて腰を押し付けてくる辺り、エロいのはどっちだ。

「あー腰痛ぇ。お尻気持ちいいけど、腰がぁ~」
「うるせぇよ。お前だってめっちゃよがってただろっ」
「だから気持ちよかった、て言ってんじゃん。女いらずになりそうなくらいなんだけど。でも腰は痛い」

 そんなにも感じてくれて嬉しいんだけど、どうして一伽は、かわいい顔をして、こういう言い方をするんだろう…。
 しかも、お尻お尻と言い過ぎ!



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暴君王子のおっしゃることには! (226)


「ねぇ侑仁ー」
「ん?」
「もっかいヤろっ?」
「はぁ?」

 一伽の言動に呆れていたら、侑仁の項に指を滑らせていた一伽が、突然そんなことを言い出したので、侑仁はますます呆れる。
 足を絡めてきた辺りから、もしかしたらとは思っていたが、やはりそうだった。そりゃ求められたら嬉しいけれど、たった今まで腰が痛いと喚いていたのは、何だったんだ。

「ねぇヤろうよぉ、侑仁~」
「お前なぁ」

 一伽にゆさゆさと肩を揺さぶられながら、侑仁が時計をチラ見すれば、日付なら、もう変わっている。
 もっとうんと若いころなら、時間なんか気にせず、すぐノッてしまうけれど、そうはいっても今の侑仁は、健全なサラリーマンだ。明日も仕事があると思ったら、何となく乗り切れない。

「侑仁、どこ見てんの~? 俺はこっち」
「ちょっ」

 頬を両手で挟まれて、顔を一伽のほうに向けさせられる。
 大体一伽だって、明日は仕事だろう? 影響が…と侑仁は言いたかったが、キスで塞がれて言い出せない。

「はぁっ…、侑仁、その気になってきた…?」
「一伽、」
「ダメ? 勃たない?」
「あっコラ!」

 一伽が侑仁の下腹部に手を伸ばしてくるので、腰を引こうとすると、一伽は絡めた足に力を込めて、逃げられないようにしてくる。
 キスしながら、一伽は侑仁のモノを育てようと、懸命に手を動かす。

「侑仁、早く復活して」
「無茶言うなっ」
「じゃあ俺が勃たせたげる」

 言うが早いか、一伽は侑仁から離れると、侑仁に逃げ出す隙を与える前に、ベッドの足下のほうにずり下がっていって、まだ反応していない侑仁の性器を舐め上げた。
 あぁもう! 分かっていたが、やはり一伽には敵わない。
 侑仁だって結局はそういうこと嫌いじゃないし、ここまでされて乗らないなんて、そんなのあり得ない!

「ん、ぁ…ちょっとデカくなってきた…」
「バッ…一伽っ」

 侑仁のモノを擦り上げながら、一伽はちゅば、とその先端に吸い付いた。
 早く勃たせろと言ったくせに、このままイカせる気なんじゃないかと思えてきて、侑仁は焦る。

「ねぇ、すごいね。さっきこんなデカいの、俺の中に入ってたんだよ」
「はいはい、すごいね、一伽くんは」
「んふふふー」

 適当に褒めてやれば、一伽は非常に満足げに笑う。
 もう、一体どこまでが本気なのか、まったく分からない。

「うわっ、冷てっ」
「あ、ゴメンゴメン」

 今さらながら侑仁が一伽の思考回路について考えていたら、急に性器に冷たいものが掛けられて、驚いて視線を向ければ、一伽が思い切りローションをぶっ掛けていた。
 しかも、全然悪びれてない!

「何してんだよっ」
「ローションプレイ~。気持ちよくね?」
「冷てぇよ! 萎えるわっ」
「ダメー」

 侑仁だって、女の子とこういうものを使ってやったことはあるけれど、こんなに雑な感じでやられたのは初めてだ。
 一伽にも同じモノが付いているんだから、分かりそうなものを。



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暴君王子のおっしゃることには! (227)


「はぁっ…、何か超やらしー…」

 一伽はわざとそうしているのか、擦り上げるたびに、グチャグチャと空気を含んだ音がする。
 こんな直接的な刺激を与えられているのだから、侑仁はもちろん当たり前だけど、やりながら一伽も興奮してきているようで、段々と声も熱を帯びてきている。

「…つか、お前、そんなに入れられてぇの?」
「え…?」
「腰。動いてる」
「だって…」

 侑仁が視線を向けた先、蹲っている一伽がモジモジと腰を動かしていて、指摘すると恥ずかしそうに目を伏せた。
 時々こうやって純情そうなところを見せるから、男なんて単純なもので、それがたとえ計算だとしても、やられてしまう。

「えへ、もう入るかな」

 一伽はローションでベトベトになった手を自分のお腹で拭って(だから、雑だってば!)、侑仁のモノにコンドームを被せると、上に覆い被さってきた。
 こんなに積極的で、侑仁を襲わんばかりの勢いなのに、侑仁にヤられたいだなんて!

「もう知らねぇかんなっ」
「侑仁大好きー」

 一伽相手に我慢するだけ無駄だと、侑仁は一伽をベッドに押し倒して体勢を反転させると、自ら積極的に足を広げる一伽の膝裏を持って、まだ熱く濡れたままのソコに自身を沈めた。

「ああぁんっ…! あっ…、ぁ、ん…」

 どれだけ欲しがっても、受け入れるのは2度目だから、さすがに一伽の体は心と裏腹に逃げるように捩られたが、キュウとシーツを掴んでいた手に侑仁が手を重ねると、一伽はホッとしたように目を開けた。

「あ…、侑仁の、入ってゆ…」
「入ってるよ、見えんだろ?」
「ん…」

 仰向けの状態で、侑仁が膝の裏を掬うようにして一伽の足を持っているから、その結合部は一伽にも丸見えだ。侑仁の言葉に、一伽は蕩けた表情でコクンと頷いた。

「はぁー…ヤバい…」
「ヤバい? 気持ちよくて?」
「うへ」

 侑仁が聞き返すと、一伽は子どもみたいな顔で笑った。
 一伽は、年齢的には十分大人だが、性格は十二分に子どもで、顔もやや童顔。笑うと、もっと幼く見えるの。でもこういうときの顔は半端なくエロいから、本当に堪らない。

「まだ入れただけだけど」
「でも気持ちい…」

 一伽のその言葉に嘘はないようで、まだ入れられただけで、直接的な刺激を与えられてもいないのに、一伽のモノは萎えるどころか、少し勃ち上がっている。

「じゃあ、このままでもいいの?」
「やだぁ…。侑仁、動いてよぉ…」

 こんなに蠢いていて、締め付けてくる中で、このままでなんて、侑仁だっていられるはずもないのに、そう言ってみれば、一伽は不満そうに眉を寄せて、腰を揺すってきた。
 

「お前、今自分が何してるか分かってんの? 超エロいね」
「ぁん…らってぇ…」

 普段から羞恥心があるとは言い難いが、気持ちよくなってくると、一伽はますます羞恥心のリミッターが外れてしまって、すごいかわいいんだけど、参る。

「あぁんっ…!」

 侑仁は一伽の足を抱え直すと、さらに奥まで自身を押し込んだ。
 雪乃の教えどおり、やはり体勢的には先ほどのように後ろからヤッたほうが楽だし、奥まで入る感じがするけれど、これはこれで、違った感じで気持ちいい。
 それに、感じている一伽の顔がすぐ見れるし。



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暴君王子のおっしゃることには! (228)


「アッ――――……ヤッ、そこっ…!」
「ッ…」

 侑仁が何度か抜き差ししたら、感じる場所を突いたのか、一伽がビクリと体を震わせて、背中を大きく仰け反らせた。
 そうすると、侑仁のほうに腰を突き出してくるような格好になるから、侑仁にも快感の衝撃が伝わって来て、思わずイッてしまいそうになったが、何とか堪えて、先ほど来、一伽がひどく感じているその場所を狙って腰を動かす。

「ここ、一伽の気持ちいいトコだろ?」
「ひっ…ひンッ…! うぅ、ん、んっ…」

 堪らず一伽は身を捩ってシーツを手繰り寄せたが、しかし侑仁は、一伽の足を担ぐようにすると、その細い腰を掴んでさらに自分のほうへと引き寄せた。

「やっ…、あぁんっ、そこっ…」
「ここがイイの? こっち?」
「あーらめらめっ、あぁ、あぁっ、んゃぁっ、すごっ…んんっ!」

 ダメだと言いながらも一伽は、まるで発情した猫のように啼いて善がり狂った。
 侑仁は、感じすぎて泣き出してしまった一伽をかわいく思いながら、その唇を奪う。無理やり舌をねじ込めば青臭い味がして、あぁそういえばコイツ、さっきフェラしてたっけ、と思い出した。

「ぅん、んっ、ふぅ、ん…っ」

 キスしていたって、鼻で呼吸すればいいだけの話なんだけれど、こうして突き上げられているとそれもままならないらしく、一伽が苦しそうな声で首を振ったので、侑仁が唇を離すと、しかし名残惜しいのか、一伽の舌が追い掛けてくる。
 それが、すごく求められているような感じがして、何だか嬉しくて、侑仁はもう一度その舌を絡め取った。

「はぅっ…ん、んぁっ、や…イクっ、イキた…」

 一伽の言葉に侑仁が視線を向けたら、確かに一伽のモノはもう、はち切れんばかりになっている。
 多分、あとちょっとの刺激でイケるだろうことは侑仁も分かったけれど、一伽の中の締め付けをもっと味わっていたくて、あえてソレには触れてやらず、ガツガツと腰を打ち付けた。

「あぁんっ、やっ、さわ、触ってよぉ、イカせてぇ…」
「っ、すっげ…、マジ後ろだけでイキそうじゃんっ…、一伽。なぁ?」
「ヤダぁ…! ふぇっ、ぅんんっ…!」

 侑仁は、半分本気の半分冗談で言ったのだが、一伽はすっかり本気にしたのか、侑仁が触ってくれないのなら、と互いの腹の間にある濡れた自身に手を伸ばした。 

「エッロ。超かわいい」

 自分のモノ以外で、勃起した男の性器をモザイクなしで見ること自体、一伽が初めてだから当然だけど、男の自慰を生で見るのも初めてだ。でも何か興奮する。
 一伽が自分でしてる姿がエロいから? いや、一伽が自分のモノを擦り上げるたびに、中がキュウキュウ締まるから? 何でもいい。

「あぁっ、俺、もぉっ…」
「ぅん? イク?」
「んっ、うんんっ、イクっ…、イッてもいいっ…? んぁっ、イキたいっ…」

 別に侑仁は何も禁止していないし、そう出来ないように拘束しているわけでもないし、ましてや一伽は自分で自分のモノを刺激しているのに、一伽は侑仁の許しを得ようと、必死に懇願してくる。
 とってもかわいくて、淫ら。

「侑仁…お願ぁい…! はぁっ…あぁぁんっ!」
「…いいよ。イクとこ見して?」
「やっ…、そんなのやぁ…!」
「でも丸見えだし」

 ヤダヤダと一伽は掴まれた足をバタつかせるが、もちろん逃げられるわけもないし、自身を慰める手も止まらない。そんな状態で、一体いつまで我慢する気だろう。
 侑仁はイッてもいいと言ったんだし、早く楽になったらいいのに。

「っ、イケって、ホラっ…!」
「ああぁっ! あっ侑仁、ダメっ! ダメ、俺もぉっ…!」

 一際高く啼いてビクンと体を跳ね上げると、とうとう一伽は絶頂に達した。
 侑仁が一伽の足を抱えているから、その体勢のせいで、放たれた精液は一伽の胸から顔にまで掛かっていて、すごく卑猥だ(だってセルフ顔射とか…!)



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暴君王子のおっしゃることには! (229)


「ひあぁっ! やっあっ待っ…俺、イッて、あっ、あぁんっ、いやぁっ!」
「ッ…一伽っ…」
「あっ、すごっ…、俺おかしっ…、らめ、おかしくなっちゃ…、もぉ許し…!」

 一伽がイッても、侑仁は突き上げるのをやめず、締め付けを味わい尽くし、快感を貪る。
 イッたばかりで敏感になっているのに、中の気持ちいいところを突かれて、一伽は泣きじゃくっていて、そんな泣き顔にすら、侑仁は興奮を覚えてしまって。

「あぁんっ、侑仁、好きっ…!」
「…ん、俺もっ…」

 こんなにめちゃくちゃにされてもなお、こんなふうにかわいいことを言ってくれる一伽をいとしく思いつつ、侑仁も一伽の中で絶頂を迎えた。



*****

 どんなに夜遅くまでがんばろうと、朝は確実にやって来るわけで。

「あぅー…腰痛いぃ~…」

 何とかベッドを抜け出した一伽は、ダイニングのテーブルのところで、グッタリしながら喚いていた。
 侑仁は目をこすりながら、朝食の支度をしている(と言っても、今日はトーストとコーヒーくらいだ)。

「侑仁、腰痛い~。股関節怠い~。ねぇ、侑仁~」
「分かってるよっ。だからまだ寝てろつってんだろ。時間になったら起こしてやっから」
「やぁだぁ~」

 どうせ一伽は朝食を取るわけでもないし、着替えなら侑仁が用意してやったものがあるのだ。そんなに調子が悪いなら、ギリギリまで寝ていたらいいのに。
 そう思って言ってみても、一伽は子どものように駄々を捏ねるばかりだ。

「だって、1人で寝てんのヤダもん。侑仁だって、俺が側にいてほしいでしょっ★」
「…静かにしてればな」

 また、よく分からないキャラ設定をしている一伽に、侑仁は素っ気なく答えた。
 好きな人が側にいてくれるのはもちろん嬉しいけれど、疲れているところにこれだけ騒がれるのは、ちょっと勘弁願いたい。



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暴君王子のおっしゃることには! (230)


「だって怠いのも、腰痛いのも、侑仁のせいじゃんっ。侑仁が激しくするからぁ!」
「お前がもう1回とか言ったんだろうが」
「だって、もっかいしたかったんだもん」

 侑仁だってそのお誘いに乗ってしまったわけだから、一概に一伽のことは言えないんだけれど。
 でも、侑仁ばかりが責められることでは絶対にないはずなので、一応そのことは言ってみるが、思ったとおり、一伽に悪びれた様子はない。

「一伽、コーヒーは?」
「…いらない」

 ダイニングテーブルにべたっと突っ伏した一伽が、怠そうに侑仁に視線を向けて答えた。
 やはり、調子は相当悪いようだ。

「お前、そんなんで仕事大丈夫なのか?」
「…ダメかも。航平くんに何か言われたら、侑仁のセックスが激しかったから、て言っていい?」
「バカ、ふざけんな。絶対言うなよ」

 一伽の場合、絶対に冗談と思われることも、冗談でなく本当に実行することがあるから、釘を刺しておかないと。
 航平は、侑仁と一伽のこれまでのことを知っているから、付き合うことになったのを知っても驚かないだろうが、前の晩のセックスが激し過ぎて仕事に支障が出たなんて知れば、ふざけるなと吐き捨てるに決まっている。

「だって俺、航平くんに怒られたくない~。侑仁のせいて言えば、航平くん、あんま怒んないと思う」
「怒るわっ!」

 たとえ親友であっても、航平の怒りが和らぐとは思えない。というか、余計に怒りが増しそうだ。
 怒り狂った航平の顔を思い出しつつ、侑仁はトースターに向かった。

「お前もさぁ、何か食わなくてもいいつったって、ちょっとは何か食ったほうが…………え? ――――うわっ!」

 焼き上がったトーストを皿に乗せて振り返った侑仁は、今の今まで話をしていた一伽の姿がなくなっていて、驚いた次の瞬間、椅子のところにポツンとコウモリがいたので、さらに驚いた。

「ビビったー…。何してんだよ、お前はっ」

 そのコウモリの正体といえばもちろん一伽で(別に侑仁にコウモリを見分けられるわけではないが、この状況から考えて一伽しかあり得ない)、一体どういうことなのかと、思わず突っ込んだ……が。

「…いや、コウモリの格好で何か言われたって分かんねぇし」

 コウモリ姿の一伽が、侑仁の質問に答えるべく何か言っているが、チィチィ言っているだけで、侑仁には分からない。
 姿はコウモリでも人間の言葉を喋ることが出来るとかだったらいいんだけれど、コウモリになると、人間の言葉は聞き取れるが、発する言葉はコウモリに従ってしまうから、うまくはいかない。

「コウモリになれば、何か腰とか痛くねぇかなぁ、て思ったんだけど。だってホラ、こんなん腰とかあんのかねぇのか分かんねぇし。でもダメだね。何か全身怠かった…」
「バカやってんじゃねぇよ」

 人間の姿に戻った一伽が明かした理由があんまりだったので、侑仁は頭を抱えたくなった。
 もしコウモリの姿なら腰や体が痛くなかったとして、その姿で仕事が出来るとでも思っているのだろうか。それこそ航平に怒られる。

「…一伽、」
「ぁん?」
「血、吸う?」

 トーストを半分くらい食べたところで、侑仁が思い切ってそう提案してみれば、一伽は意味が分かっていないような顔で、パチパチと瞬きをしながら侑仁を見た。

「…何急に」
「いや、何か調子悪そうだし…、お前、血飲むと復活したりすんじゃん」

 以前、酒を飲み過ぎた翌日に、血を飲んでもまだ飲みたいみたいなことを言っていたから、今日は二日酔いではないけれど、調子が悪いなら、何か効果があるかな、と思ったのだ。
 でも一伽は申し訳ないと思っているのか、そんなことで効き目はないと思っているのか、いつもだったらすぐに飛び付いてくるくせに、渋ってなかなか「うん」と言わない。



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暴君王子のおっしゃることには! (231)


「いらねぇなら、別にいいけど」

 侑仁だって、別に血を吸われることが好きなわけではなくて、ならば吸血されないに越したことはないと未だに思っているくらいだから、一伽がいいなら、無理に吸わせる気などない。
 意地悪をするつもりでなく、ただそう思って侑仁が言ったら、「ぅ…やっぱ飲むっ…」と一伽が身を乗り出して来た。

「いたらきまーす」

 いつもより遠慮がちに侑仁の首筋に噛み付いてきた一伽は、椅子から落っこちないように侑仁に抱き付きながら、吸血する。
 その姿が何だか必死で、かわいくて、侑仁はちょっといけない気持ちになりそうだったが、さすがにそれはまずいことは分かっているので、侑仁の手は、一伽が落ちないように支えるだけに留まっていた。

「ぷはっ…ん、ごちそーさまでした」

 血を吸い終わった一伽は、ノロノロと椅子に座り直そうとしたが、侑仁はそんな一伽の体を自分のほうに引き寄せてキスをした。

「…ん、にゃに、侑仁。朝からする気…? ダメ、腰痛い…」
「バカ、しねぇよ」

 そのつもりなら、さっきの時点で手を出していたよ、と侑仁は心の中でぼやいたが、そんな侑仁の胸中を察しない一伽は、今度は自分からキスを仕掛け、舌まで入れて来た。

「ん…」

 とっても魅力的な誘惑だけれど、これ以上それに乗っている場合ではない。
 名残惜しいけれど、侑仁は一伽の体を離した。

「でも俺、今回のことで学習した」
「何が?」

 やっぱり俺もコーヒー飲む! といつもの調子に復活した一伽のワガママに、雰囲気! と思いつつも、侑仁がコーヒーを淹れてやっていると、一伽が真剣な表情でそんなことを言い出したので、侑仁は訝しげに振り返った。

「俺さぁ、女のことなら毎晩でもセックス出来るけどさぁ、侑仁とするのは、休みの前の日じゃないと無理かも…」
「何学習してんだ、お前は」
「だってそうだもん、残念ながら。でも侑仁とするのが、今までで一番気持ちよかったよ、マジで! だから、週に1回とか2回とかしか出来ないけど、女の子といっぱいするより、断然いいから!」
「はいはい」

 嬉しいことは言ってくれているんだけれど、いまいちデリカシーに欠ける一伽の言葉に、侑仁は何となく返す言葉がなくて、適当に頷いた。

「だから侑仁、心配しないでね」
「何を?」
「もう、吸血のたびに、女の子とエッチなことしません!」

 いくら一伽が今まで女の子大好きキャラで、そのキャラに違わず節操がなくて、貞操観念が薄かったとしても、別に侑仁は浮気とか心配していなかったんだけれど。
 改めて一伽にそう言われたら、そういえば一伽て今まで、女の子に血を吸わせてもらうとき、その後に必ずと言っていいほど気持ちいいことをしていたんだっけ、と思い出した。
 わざわざそんな宣言するくらいだから、一伽のことを信用していいんだろうけど、でも吸血といえば、今侑仁にしたように結構密着するわけで、その後に何もないとはいえ、ちょっと複雑な気持ち…。

「でもこればっかりはしょうがないじゃん。俺、1日1吸血しないと死んじゃうもん」
「べ…別に何も言ってねぇだろ」

 まるで侑仁の心を見透かしたようなことを言ってくる一伽に、侑仁は慌てて言い返す。
 一伽の言うとおり、吸血鬼である以上、こればかりはどうしようもないのだ。

「大丈夫、大丈夫。いくらケツが気持ちよくても、男の血吸ってセックスしようとか思ってねぇから」
「お前の言い方が軽すぎて、余計心配になるわっ!」
「キャハハ」

 本当に大丈夫かよ…と、笑い転げている一伽とは対照的に、侑仁は頭を抱えたい気分だった。
 もちろん侑仁は一伽のことが大好きだし、好きになったことに対して後悔はないが、大変な子を好きになってしまったものだと思う。

「だーいじょうぶ、侑仁のことが一番好きだからっ」
「おっと」

 腰が痛いと喚いていたくせに、一伽はピョンと椅子を飛び下りると、侑仁の膝に飛び乗り、抱き付いてきた。

「侑仁が心配してる暇もないくらい、いーっぱい愛してあげる!」
「お手柔らかにお願いしまーす…」

 ワガママな暴君王子の過剰なまでの愛を受け取りつつ、侑仁は仕事に行くまで、あとどのくらいキスしてられるかな、とチラリと時計を盗み見た。



*END*



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rain in my heart (1)


 夕方から降り出した雨は、止む気配を見せずにシトシトと降り続けている。時折雨足が強くなるのか、テレビの音に雨音が混じる。
 テレビではそれほどおもしろくもないバラエティショー。怜士(レイジ)は煙草の煙を燻らせながら、ぼんやりと画面を見つめていた。

 ――――ピンポーン…。

 遠慮がちに玄関から音がする。チラリと玄関に視線を向けてから、煙草を消して玄関に向かった。モニターで来訪者の姿を確認する。

「蒼衣(アオイ)…」

 俯いてはいたけれど、それが蒼衣であることはすぐに分かった。怜士が急いでドアを開けると、その音に反応して蒼衣が顔を上げた。
 蒼衣はもうびしょ濡れで、彼の立っているところは、もう水溜りになっている。

「怜士くん…」

 蒼衣の色をなくした唇が動いた。
 怜士は事情を聞くより先に蒼衣を家に上げ、バスタオルを持ってきて蒼衣に渡したけれど、蒼衣は受け取ったバスタオルを胸のところで抱き締めたまま、動かなかった。

「風邪引くといけないから」

 怜士は蒼衣をバスルームに連れていった。風呂にお湯を溜めるには時間が掛かるので、シャワーを使わせる。

「シャワーだけど、ちゃんとあったまれよ? 着替え、出しとくから」
「…ゴメン」

 小さく謝って、蒼衣はドアを締めた。怜士は、蒼衣がシャワーを使い始めると、濡れた蒼衣の服を洗濯機に入れた。

 洗濯機の稼動する音に、テレビの音と雨音、そしてシャワーの水音。不協和音に耐えられず、怜士はテレビを消した。
 キッチンでミルクを温める。少しだけ砂糖を入れて、カップに注いだ。自分の分にはコーヒーをブラックで。零さないように気を付けながらリビングに戻った。

 少ししてシャワーの音が止み、蒼衣が現れた。新しい煙草に火をつけていた怜士は、チラッと視線だけを向けた。やはり蒼衣に怜士の服は大きく、ズボンの裾は折り返しているし、シャツも袖の先から指先が少ししか出ていない。

「ミルク温めたから」
「…ありがと」

 タオルは首から掛けたきり、それで頭は拭いていないようで、髪の先からポタポタと雫が落ちている。

「頭、拭けよ。そのままじゃ風邪引くだろ?」
「…うん」

 答えて、蒼衣はノロノロと手を動かした。ある程度髪の水分を拭き取ると、蒼衣はミルクの入ったカップに手を伸ばした。チラッと怜士を見てからカップに口を付ける。
 怜士は点いていないテレビの画面を見つめて、煙草を吸っていた。

「卓(スグル)と、別れた」

 1口飲んでから、蒼衣ははっきりとそう言った。
 怜士はゆっくりと蒼衣のほうを向いたが、「そう」とだけ答えた。蒼衣はまた1口飲んだ。怜士は煙草を消して、コーヒーに手を伸ばした。少し冷めかけている。
 カタッ…という音がしてふと視線を上げると、テーブルに置いたカップを、蒼衣が両手でギュッと握っていた。

「…ケンカしたくらいで、『別れる』なんて言うなよ」

 蒼衣は卓とケンカをすると、決まって怜士の家を尋ねる。そしていつも『卓と別れる』と言う。だから怜士も、いつもと同じように、いつもと同じセリフを吐く。
 けれど今晩の蒼衣の反応は、いつもと違っていた。

「いつものケンカとは違う」
「同じだよ」
「違うの……『別れる』じゃないんだ。『別れた』んだ」

 なるほど確かに蒼衣は先ほど、『卓とはもう別れる』ではなく、『卓と別れた』と言った。
 蒼衣は顔を上げずに、冷めかけたミルクを飲んだ。怜士はコーヒーを飲み干し、空になったカップを手のひらの中で弄んでいた。



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rain in my heart (2)


「そっか…、別れたのか」
「うん、別れたんだ…」

 キレイなテーブルの上に、ポトッと透明な雫が落ちた。表面張力で、丸い小さな粒になっている。けれど蒼衣はその水滴を潰すように、その上にカップを置いた。まだ少しミルクが残っている。

「雨…止まないね…」
「…そうだな」

 怜士の煙草に火がついた。小さな灰皿は、いつからの吸い殻が入っているのか、もういっぱいだった。

「…初めて怜士くんちに来たときのこと、覚えてる」

 蒼衣は残りのミルクを飲み干した。

「卓とケンカするたびに、怜士くんちに来たんだ。何回来たか、知ってる?」
「……18回」
「1回目は、卓に告白したって、報告しに来たんだ」
「じゃあ19回だな」
「俺、卓んち、3回しか行ったことない」

 怜士は灰皿の隅で煙草を消した。

「怜士くんち来る日って、いっつも雨降ってる」
「そうだな」
「卓んち行くときは、いつも晴れてた」
「…そう」

 雨音が激しくなった。

「俺、雨より、晴れてるほうが好き」
「へぇ」
「なのに、怜士くんち来るときは、いっつも雨なんだ」
「いっつもか?」
「いっつもだよ」
「…そっか」




「…俺、もう帰ろうかな」

 蒼衣は壁掛けの時計に視線を向けながら、そう言った。いつかに日付は変わっていた。
 怜士はもう、煙草に火をつけなかった。

「卓の家に行ったって、雨は止ねぇぞ」
「…卓の家には行かないよ」
「行かないのか」
「行かない」

 ゆっくりと怜士のほうを向いた。怜士はずっと蒼衣を見ていた。

「卓も、晴れてるほうが好きだって言ってた。雨は嫌いだって、言ってた。怜士くんは?」
「…どっちも好きだよ」
「ズルイ答えだね」
「ズルイか?」
「ズルイ」
「じゃあ、こういうのは? 雨より晴れてる方が好きだけど、お前のことは好きだ」
「そっちのがズルイ」
「そうかな?」
「そうだよ」

 蒼衣は空になったカップに手を伸ばした。空なことは分かっていたが、何となく手持ち無沙汰だった。

「まだ飲むか?」
「…ん。温めなくてもいい、もう寒くないから」
「あぁ」

 冷蔵庫から1リットルのパックを持ってきて、空のマグカップに注いでやった。ついでに自分のにも入れる。もう1度冷蔵庫まで戻るのも面倒で、パックはそのままテーブルの上に置いておいた。



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rain in my heart (3)


「俺…卓と別れたんだ」

 テーブルの上に置いたまま少しだけカップを傾けて、蒼衣はミルクを1口飲んだ。

「1年も付き合ってたのに。いっぱいいっぱい好きだって言ったのに。……卓は1回も言ってくれなかった。だから俺、『別れよう』って言ったんだ。きっと卓は俺のこと、好きじゃないから」
「…そっか」
「うん。でも、怜士くんは簡単に好きだって言ってくれるんだね」
「好きだから」
「好きだから、か…。卓は俺のこと好きじゃないから、言ってくれなかったのかな?」
「…さぁ」

「俺…、卓に『別れよう』って言っちゃった…」
「言っちゃったんだ」
「…うん、言っちゃった…」

 蒼衣は立てた膝を抱えて、そこに顔をうずめた。



♪~~~~♪~~~~♪

 不意に、蒼衣の携帯が音を立てた。

「卓だ…」

 ディスプレイから顔を上げた蒼衣の視線の先には、ジッと自分を見つめる怜士の姿があった。蒼衣は怜士から視線をそらして電話に出た。

『蒼衣! 今どこにいるんだよ!?』

 電話越しの卓の声は、怒りに満ちていた。

『急に別れるなんて、どういうことなんだよ! ちゃんと説明しろよ、蒼衣!!』

 受話器の向こうからも、雨音がした。
 卓も、雨より、晴れているほうが好きなのに。

『蒼衣っ!! 俺は認めねぇぞ、別れるなんて! 理由言えよ!!』
「別れたくないの…?」
『当ったり前だろ! ふざけんなよ! 俺がいつ、お前と別れたいだなんて言ったんだよ!?』
「卓…俺のこと、好き…?」
『言わなきゃ分かんねぇのかよっ!?』
「…………」
『蒼衣っ?』
「卓、今どこ…?」
『はぁ!? お前んちの前だよ! 行ったら留守だから!』
「そっか…。……今から帰るね」
『あ? あぁ…』
「じゃぁ…」

 そして電話は切れて。



「卓は、別れたくないみたい…。好きなのかどうか、言わなきゃ分かんないのかって、怒られちゃった」
「…そっか」


「俺…、最初から、怜士くんのこと好きになればよかった」
「かもな」


「俺…。帰るね」
「服、乾いてるよ」
「ありがと…。あと…タクシー呼んでもらえると嬉しいんだけど」
「あぁ」

 短い会話の後、蒼衣は乾いた自分の服に袖を通し、怜士は携帯でタクシーを呼んだ。







「雨…止まないね」

「…そうだな」

 呟きも、雨音に溶けて消えた。



*END*



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恋と呼ぶにはまだ早い (1)


 今年のクリスマス小説は、この子たちです。お気付きかとは思いますが、今から始めて、もちろんクリスマスで完結するわけもなく、相変わらず年越しまっしぐらなわけですが、どうぞお付き合いください。


haruki & chihiro


「ち~い~ちゃんっ!」

 と、語尾にハートマークが付きそうな甘い声で遥希が千尋を呼んだときは、とにかく要注意なのである。

 それを知っているのに、迂闊にもご飯の後に遥希の家に行ってしまった千尋は、これは俺に学習能力がないせいじゃない…、酔っ払って気が緩んだだけだ…、と誰も何も言っていないのに、1人で心の中で言い訳していた。

「ちーちゃん、はいっ」

 冷蔵庫から缶チューハイを2本持って来た遥希は、苦虫を噛み潰したような顔をしている千尋に、にこにこーっと笑顔で1本差し出した。
 何も分かっていない遥希に若干イラッとするが、千尋は素直にそれを受け取った。明日は休みだし、まぁいっか(遥希のバイトとか大学のことは知らない)。

 自分の分の缶をテーブルに置いた遥希が、何やらゴソゴソと引き出しを漁っている。
 その背中を眺めながら、千尋はグビグビとチューハイを煽っていく。

「じゃ~ん!」

 千尋も酔っ払っているが、一緒に飲んでいた遥希だって、大概酔っ払っている。
 クルッと振り返った遥希は、アホな効果音をつけて、何かを千尋のほうに見せ付けて来た。

「…………。何ですか、遥希さん」

 白けた表情でわざとらしく聞き返す千尋に気付くでもなく、遥希は「見て見て~!」と、その何かを千尋の目の前に突き付けてくる。
 近すぎて見えないってば。

「FATEのコンサートチケット! 取れたの~!」

 何か紙切れのようだと思ったら、どうやらそれは、水落琉と一ノ瀬大和からなる超人気アイドルユニットFATEのコンサートチケットらしい。
 相変わらず遥希は、琉の恋人になった今でも、FATEの――――いや、水落琉の大ファンなのである。

「取れた、て…」
「ファンクラブの~、えへへ、予約てゆうかぁ~」

 本当に幸せそうに話す遥希は、どうやら今までどおり、入会しているFATEのファンクラブの申し込みを通して、このチケットを手に入れたようだ。
 しかし、そんな遥希を見つめながら、千尋はポカンとした表情だ。

「え…、ハルちゃん、自分でそのチケット取ったの? ファンクラブので?」
「そーだよっ?」
「へぇー…」

 千尋に聞き直されても、遥希の答えは同じだ。
 やはり自力で入手したらしい。

(そういうのて普通、関係者席的な、何かそういうチケット? みたいの、あるんじゃねぇの? 水落、そういうのハルちゃんに渡さねぇの…?)

 酔っていても、その辺はしっかりしている千尋は、当然の疑問にぶち当たったが、当の遥希は全然まったく気が付いていないようで、「あ~幸せ!」とジタバタしている。



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恋と呼ぶにはまだ早い (2)


(あの、ハルちゃん大好き水落琉が、一体どうしたよ)

 缶チューハイを飲みながら、千尋は琉の思惑を考察するが、如何せん千尋も酔っ払っているので、考えは纏まらない。
 しかし、千尋がそう思うとおり、遥希のことを好きで好きで堪らないはずの琉なら、自分たちのコンサートのチケットくらい、いくらでも融通しそうなのに。

「でね、でねっ、ちーちゃん聞いて!」
「聞いてる、聞いてる。ハルちゃん声デカい」
「実はね、今回取れた席ね、今までの中で、いっちばんいい席なの~~!!!」

 声がデカいと言っているのに、遥希はお構いなしに、その喜びを、声を張り上げて千尋に伝えてくる。うるさくして、お隣さんに怒られるのは、遥希自身なのに。

「はにゃ~…、俺もうホンット幸せっ! こんなクリスマスプレゼント…」

 両手でしっかりとチケットを握り締めたまま、遥希は後ろへと引っ繰り返った。
 大事なチケットを汚して、遥希を絶望のどん底に突き落とす気のない千尋は、興奮している遥希がテーブルを蹴っ飛ばしてチューハイを零さないように、缶をテーブルの真ん中に移動させてやった。

「…………、ねぇねぇハルちゃん、一応聞くけどさ、」
「なぁにぃ~?」
「その、今までの中で一番いい席が取れたこと、水落にも言った?」
「ぅ? ゆったよ? 一番にっ!」
「へぇー…」

 それを聞いて千尋は、どうして琉が遥希にチケットを都合してやらなかったのか、何となく分かった気がした。
 遥希のことだ、どうせ今みたいに本当に幸せいっぱいに、琉にチケットが取れたことを報告したのだろう――――今までで一番いい席が取れたとか言って。
 そんな遥希の苦労を知って、遥希思いの琉が、それを差し置いて、タダで関係者席のチケットを渡すわけがない。

(ハルちゃんも、なかなか罪作りだねぇ~…)

 本人は無自覚だろうが、これだけの琉ファンでありながら、琉に対してこんなに無欲な子は、そういないんじゃないかと思う。
 今まで琉の彼女になった子のことは何も知らないが、好きで彼女になったわけだから、やっぱりコンサートを見に行きたいとか、ずっと一緒にいたいとか、そのくらいのワガママなら言っただろうし、琉もそれを叶えてきただろうけど、遥希の場合は、本当に純粋に琉ファンなのだ。

(ただのファンだって、もうちょっと貪欲な気もするけど…)

 発売日の前日にCDとかDVDをフラゲして、雑誌を買って、写真を買って、携帯電話の着信音にFATEの曲を設定して、時々コンサートに行って。
 こんなに品行方正なファン、そういないと思う。

 しかし、千尋がそんなこと考えているとは微塵も思っていない遥希は、「ちーちゃんに一番に教えなくてゴメンね?」と、見当違いのことを言っている。

「別にいいけど。興味ないし」

 本気でFATEにも、水落琉にも興味のない千尋は、素っ気ない。
 千尋も遥希と同じくゲイだし、イケメンは嫌いではないけれど、遥希との繋がりから、芸能界に交友関係を広げようという気はないので、どうでもいい。



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恋と呼ぶにはまだ早い (3)


「あ、でもちーちゃん、チケットはちーちゃんの分もあるから、心配しないで?」
「ぅん?」

 心配? 何を心配?
 千尋は何の心配もしていない。
 いや、遥希と琉がうまくいかなくなったら、遥希がすんごい落ち込んで面倒くさいことになりそうだから、そのとばっちりを食うことがありませんように、という心配ならしているが、それ以外は何もない。

「えへへー、ちーちゃん、24日、ちゃんと予定空けててね?」
「はい?」

 いやいやいや、ちょっと待ってください、遥希さん。
 千尋の分のチケットがある? 予定空けといて?

「はぁ~~~~!!!???」
「なっ、ちょっ、ちーちゃん、声おっきいよっ…」

 先ほどまでの自分の声の大きさを棚に上げて、慌てて起き上がった遥希は「シーッ!」と千尋を注意する。
 しかし、そんなことされたって、千尋はごまかされない。

「何、俺の分のチケットて」
「え? だからFATEのコンサートのチケット。今までずっとその話してたじゃん。だいじょぶ? ちーちゃん、酔っ払っちゃった?」
「…………」

 いや、『大丈夫?』はこっちのセリフだ。
 酔っ払ってはいたけれど、今、完全に醒めたし。

「え…何、コンサートのチケットて……は? 俺の分?」
「ぅん? ちーちゃんの分もあるよ? だって、1回に2枚まで取れるもん。ちゃんとちーちゃんの分も取ったってば」
「いやいやいや、『ちゃんと』の意味が分かんない」

 別に千尋は1度だって遥希に、『FATEのコンサートに行きたい』なんて言った覚えはない。
 もちろん、千尋の分もチケットを取ってほしいなどとお願いしたこともないし、それ以前に、FATEのコンサートに行きたいと言ったことすらないのに。
 なのに。

「え、何で? 行くでしょ、ちーちゃんも」

 何ですか、そのごく当然のような口振りは。
 遥希の中で、千尋がFATEのコンサートに行くのは、もうずっと前から、それこそチケットを取ろうとしているそのときから、決定事項ですか。

「何言ってんの、ハルちゃん。俺が行くわけないじゃん」
「はぁっ? 何でぇ!?」
「何で、じゃないよ。それこそ、何で俺がそんなの行かなきゃなんないの?」
「『そんなの』て何~!?」

 突っ込むべきところはそこではないのに、いちいち細かいところが気になるのか、遥希はバシバシとテーブルを叩いてむくれる。

「『そんなの』だもん。俺、そんなの行かないもん」
「何でぇ~? 行こうよ、ちーちゃん。超いい席だよ~?」
「知んないっ」

 わざわざ千尋のほうにずり寄って来て、遥希はその腕に縋り付くが、千尋はプン! と顔を背けた。



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恋と呼ぶにはまだ早い (4)


「何で? 何でっ? ちーちゃん、何でそんなことゆーの? 一緒に行こうよ、FATEのコンサート!」
「ヤダよ! 何で行かなきゃなんないの? ハルちゃん1人で行きなよ」
「チケット2枚ある~!」
「じゃあ、誰かファンの人と行きなよっ。どうせいっぱいいるでしょ、FATEのファンなんて」
「『どうせ』て何ぃ~!?」

 だから、突っ込むべきはそこではないのに。
 FATEのことを悪く言われれば、ファンとして文句を言いたくなるのは当然のことだが、今はただでさえ酔っ払ってタチ悪い感じになっているから、余計に突っ掛ってくる。

「あーもう、うっさい! だってさ、俺、コンサート行ったって、こんなだよ? 隣の人がこんなだったら、ハルちゃんもつまんないでしょ? それより一緒に盛り上がれる人のほうがいいでしょ?」
「ヤダー、ちーちゃんがいい~!」
「何で!」

 どうあっても千尋と一緒に行きたいらしい遥希は、頑として説得されてくれない。
 千尋は宙を仰いだ後、深い溜め息を零した。

 千尋にとってFATEは、特別ファンでもないが、毛嫌いするほど嫌いなわけでもない。
 遥希を琉に取られたのはおもしろくないが、千尋は遥希を恋愛対象として見ていないから、そのことで琉を恨むつもりはないし、相方の大和のことはよく分からない。
 遥希がCDを買っただの、携帯電話の着信音をFATEの曲にしただの、そういうことは、『勝手にやってよ、いちいち報告しなくていいから』というスタンスだ。

 しかし、一緒に写真を買いに行こう、一緒にコンサートに行こう、となったら話は別だ。
 どちらも、その場所には女の子しかいない。いや、『若干』と言うのも申し訳ない程度の男性ならいないこともないが、99.99%の割合で女の子しかいないのだ。
 千尋はゲイだが、女の子が苦手なわけではない。けれど、そんな女の子祭りの会場に男2人で行くことの恥ずかしさなんて、想像するまでもない。

「もぉ~、何でハルちゃん、俺と一緒がいいの? ハルちゃんだって、男2人で行ったら恥ずかしいの、分かるでしょ?」
「そうだけどー。でも俺の友だちの中で、FATE大好き! ていうのを分かち合ってくれる人が、ちーちゃんの他にいない」
「いや、別に俺だって、何も分かち合ってないけど」

 遥希がベラベラ勝手に思いの丈をぶちまけるのに付き合ってはいるが、それに賛同したことも、一緒に盛り上がったことも、1度だってない。

「でも、俺が琉と付き合ってるの知ってるの、ちーちゃんだけだもん」

 確かに、それはそうだった。
 一昔前の少女マンガのような出会いから始まり、紆余曲折を経て、晴れて恋人同士となった2人。その関係を知っているのは、大和とマネージャーの南條以外では、千尋しかいないのだ。

「だからって、俺が一緒に行く理由には…。大体24日てイブじゃん。クリスマスイブ! そんな聖なる夜にどうして…」
「でもちーちゃん、どうせ予定ないでしょ? 今フリーだし」
「…………」

 先ほど千尋が『どうせいっぱいいるでしょ、FATEのファンなんて』と言ったとき、その『どうせ』という言葉に反応して、遥希は散々喚き散らしたというのに、今度はシレッとそんなことを言ってくるか…!
 千尋はピクピクと口の箸を引き攣らせつつ、どう言い返してやろうかと思案する。遥希と本気でケンカをするつもりはないが、言われっ放しでは気が済まない。



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恋と呼ぶにはまだ早い (5)


「でもちーちゃん、筋肉大好きでしょ? コンサート行けば、生で裸見れるよ?」
「はぁ? 水落の裸なんか、別に見たくないんだけど」

 しかし、そんな千尋の気持ちも知らずに、遥希はそんなことを言ってくる。
 まさかそんなことで、千尋が心を動かされるとでも思っているのだろうか。琉の腹なんかぷよってるし、そんなの全然見たくない。

 けれど、遥希には更なる切り札を持っていた。

「琉の裸じゃなくて、大和くんの」
「、」

 絡み付く遥希を腕から引き剥がそうとしてた千尋の手が、耳元で囁かれたその一言でピタッと止まる。
 遥希は内心ほくそ笑んだ。脈あり、だ。

「ちーちゃん、大和くんの裸、すごいすごい、てゆってたじゃん。あれが生で見れるんだよ?」
「大和くんの裸…」

 先日、大和が単独で主演した映画が公開されたのだが、映画の中で裸になることの多かった大和は、役作りとして、鍛えられた体をさらに絞ったのである。
 映画雑誌でそれを知った千尋は、その鍛え抜かれた裸体とストイックな精神にいたく感動して、珍しく自分から遥希を誘って、映画館に足を運んだのだ。

「大和くんの裸、見れるの? 生で」
「見れるよ。だって最後のほう、絶対脱ぐし。それにね、」

 遥希はそこでいったん言葉を区切ると、ふふ、と笑みを深くした。
 千尋がすっかり乗り気になっているのは分かる。でも遥希には、もっとスペシャルな最終兵器があるのだ。

「実はね、琉が、コンサート終わったら楽屋においで、て誘ってくれたの!」
「ふぇ…?」

 2人しかいない部屋なのに、遥希がコッソリと千尋の耳元で打ち明けると、何事? という顔で、千尋が遥希のほうを見た。
 思考回路が止まりかけてるのかな。珍しい。でもそれだけ、強烈なインパクトがあったのだろう。後もう一押し。

「そしたらね、ちーちゃん! もっと近くで大和くんの裸、見れるよ?」

 ゴクッ…と千尋の喉が鳴った。
 分かりやすい。

「ね、ちーちゃん。FATEのコンサート、行くよね?」
「行く!」

 さっきまであんなに嫌がっていたというのに、千尋は二つ返事で承諾した。

 やはり、遥希が語尾にハートマークが付きそうな甘い声で千尋を呼んだときは、要注意なのだ。



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恋と呼ぶにはまだ早い (6)


ryu & yamato


「あ、そういえば水落、コンサートのゲスト席、小野田くんの分どうすんの? どこ来るって?」

 次の雑誌の取材現場に向かうのに、琉と大和が車に乗り込んだところで、運転席の南條がルームミラー越しに琉を見た。
 今年のFATEのコンサートツアーは、地方からスタートして、全国6都市15公演が予定されており、その最終公演が東京ドームのクリスマス3daysとなっている。
 南條としては、遥希が行きたいなら、どの公演でもゲスト席のチケットを用意するつもりだが、大学生の遥希が、地方の公演まで行けるのか分からないので、念のため確認する。

「水落?」
「…いや、ハルちゃんの分はいい…」
「は?」

 ハットを深く被った琉の表情は窺えないが、発したその低く暗い声は、まさに彼の心境をそのまま表しているのではないだろうか。
 エンジンを掛けた南條は、思わず後ろを振り返った。隣の大和も、マジマジと琉を見つめる。

「え、何で? 小野田くん、ドームは来るんだろ? チケットは? え? は? ケンカでもしたのか?」

 一体何事かと、南條は矢継ぎ早に琉に尋ねる。
 同じことを思っていた大和は、口を挟む隙がなくて、ただパクパクと口を動かしただけだった。

「ケンカなんかするわけねぇじゃん! 超ラブラブですよー」
「じゃあ何で。コンサート来ないのか?」
「来るって。中日の24日」

 腕を組んでリアシートにどっかりと座った琉は、知らない人が見れば、不機嫌以外の何でもないが、南條や大和からすれば、単に拗ねているだけなのが分かる。
 とりあえず南條は車を発進させた。

「水落?」
「だってしょうがねぇじゃん! ハルちゃん、ファンクラブので、自分でチケット取っちゃったんだもん!」
「え、マジで?」

 琉の発言に驚いて、南條はポカンと口を開け、大和は声を上げて笑い出した。
 2人の反応に、琉はおもしろくなさそうにハットを投げ捨て、頭を掻き毟った。

「え、マジで? マジでハルちゃん、自分でチケット取ったの?」

 笑いながら大和が、琉の顔を覗き込む。
 絶対におもしろがってる!

「そりゃ、今までだってそうしてたんだから、チケットくらい取るだろうよー」

 あの遥希の中に、恋人である琉に頼めば、コンサートの席がどうにかなる、なんて発想、絶対にないだろう。
 だから今までどおり、自分が行けそうな公演に申し込みをして、ドキドキしながら当落の発表を待って、チケットを獲得したに違いない。

「え、でもさ、ハルちゃんがチケット取ったの、ドームの中日だけなんだろ? 最終日とか呼べばいいじゃん?」

 ファンの中には、ツアー中、何度も公演に足を運んでくれる子がいるのは知っている。
 遥希に地方が無理でも、東京ドームなら、中日だけでなく来れると思う。



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恋と呼ぶにはまだ早い (7)


「いや、それが…」
「何? 何か予定あり? 恋人のコンサート最終日よりも、大事な用事~?」

 からかいたくて、大和はニヤニヤしながらわざとそんなことを言ってみたのだが、琉の表情はまったく晴れない。
 まさか、本当に琉よりも大事な予定が?

「違ぇよ。つか、ゲスト席とか、ハルちゃんに言ってない」
「は? え、何で?」

 ムスッとした顔で前方を睨んでいる琉に、大和は呆然となりながらも聞き返した。

 今まで琉は、付き合っていた彼女をコンサートに呼んだことなんていくらでもあるし、それ以外にも友人だとか家族を招いたこともある。現に今回のツアーも、母親が見に来ることになっている。

「ねぇ、何で?」
「…言えるかよっ。ハルちゃんに『今までで一番いい席が取れたんだよ~!』てチケット見せられて、お前、『ゲスト席あるよ』とか言えるか!? あぁっ!?」
「あー…確かに…」

 溜まっていたものが爆発して、琉はすっかり柄の悪くなっているが、その横で大和は、チケットが取れた喜びを、嬉しそうに琉に報告する遥希の姿を思い浮かべていた。
 想像に難くない。
 きっと遥希のことだから、一番に琉に報告したんだろうな。

「あーもうっ、こんなことなら、ツアーが決まった時点でさっさと言ってるんだった!」

 琉は大げさに頭を抱えたが、反動でシートベルトに引っ張られて、背もたれのほうに体が引き戻された。

「ま、今のツアーが終わんないうちに言うのも何だけど、来年のツアーはがんばれー」

 琉がモヤモヤしている理由が分かって、大和はおもしろがって言う。
 ただでさえ忙しいFATEの水落琉は、ツアーが始まって地方に行くことが増えたことで、遥希に会えない日がますます多くなり、ヤキモキしているのだ。
 これ以上、琉のストレスの種を増やさないでくれー、と運転席の南條は思うが、大和の知ったことではないらしく、実に楽しげだ。

「でも、楽屋にくらいは呼んだんだろ? ハルちゃんのこと」
「呼んだ。コンサート終わったら、来てくれる」
「終わったらだけ? 始まる前は?」
「始まる前も来ていいって言ったのに、『これから始まるのに行ったら悪いよ』とか言われました…」

 あまりに遥希らしい答えに、運転席の南條も苦笑する。
 今まで琉が付き合ってきた彼女たちを思い返しても、こんなに真面目な子はいなかった。自分から行きたいと言わなくても、琉が楽屋に誘えば、まさかそれを断るなんて、なかった。

「しかもさ、『始まる前はグッズ買わなきゃだし』とか言ってるし…」
「グッズ…」

 もちろん、そうやってグッズを買ってくれるファンがいるからこそなので、その気持ちは大変ありがたいのだが、琉とお付き合いしているのだから、グッズくらいいくらでもどうにでもなるだろうに、やはり遥希にはそういう発想はないのだろう。
 というか、琉本人がいるのに、やっぱりグッズは欲しいんだ…?



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 お知らせ
 12/29~31まで出かけるため、年内のリアルタイムでの更新は、これが最後となります。
 コメレスや年末のご挨拶が遅れますが、どうかご容赦ください。
 ただ、予約投稿でお話は毎日アップしますんで、ぜひ遊びに来てくださいね(*^_^*)
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恋と呼ぶにはまだ早い (8)


「最初は、終わった後も遠慮してたんだよ、ハルちゃん。『疲れてるのに悪いよ』とか、『俺、関係ないのに行っていいの?』とか言ってさ」
「んー、なかなかハルちゃんらしいねぇ」

 それでも琉が、遥希に会いたいのだと言って説き伏せたら、ようやく遥希も説得されて、嬉しそうに『ありがとう、琉…』と微笑んだのだ。
 あのときの遥希の顔ったら!

(もうマジかわいかった…!)

 何かと遠慮することの多い遥希に、逆に琉が焦れることもあるんだけれど、そんなの、遥希の笑顔1つでどうにでもなってしまうのだ。

「だからとりあえず、ドーム中日だけはよろしくね、南條ー」
「はいはい。よろしくしますけど、くれぐれも羽目を外さないように! 次の日もコンサートがあるんだからな」
「分かってますよ」

 琉がよろしくお願いしているのは、コンサートが終わってから遥希が楽屋に来るまでの手筈もだが、まさか楽屋訪問だけで遥希を帰す気など更々ないので、もちろんその後のことだ。
 都内での公演は自宅から通える距離感だけれど、2人の体調管理と、マネジメントのしやすさと、タチの悪いファン対策として、3daysのときはホテルに宿泊する事にしているから。

「何だよ、結局ラブラブかよー。ムカつく!」

 先ほどまで琉をからかって楽しんでいた大和は、一転、琉が幸せそうに顔を綻ばせたので、おもしろくなさそうにサングラスを掛け直すと、フロントシートを蹴飛ばす真似をした。
 遥希のことで、琉に対して本気で苛立つことはないけれど、ただいまシングルの身としては、いくら親友とはいえ、無邪気に惚気られるのはおもしろくないのだ。

「あ、そういえば、千尋…くん? と一緒に来るってよ、ハルちゃん」
「千尋くん? あ、ちーちゃん?」

 相変わらず、遥希の親友である千尋のことは、嫌いではないけれどちょっと苦手かも…の琉は、『千尋くん』と呼ぶのも何となく微妙な感じで、千尋の名前を出した。
 初めて会ったときから、千尋のことを『ちーちゃん』と呼んでいる大和は、最初、『千尋』という名前にピンと来ていなかったが、すぐに顔を思い出したようで、いきなり苦笑した。

「そうなんだー、ちーちゃんも来るんだー」
「何かハルちゃん、がんばって説得したらしい」
「説得? 何ちーちゃん、そんなに来たくなかったの? 俺らのコンサート」
「いや…女の子ばっかじゃん? お客さん。そんなトコに男2人で行く、つーのが…」

 遥希にその話を聞かされたとき、確かにそれはそうかも…と、珍しく琉は千尋の意見に同調した。
 FATEのファンは大半が女の子だけれど、中には、純粋にその音楽が好きだという男性ファンもいる。しかしそうした男性がコンサートに来るとしたら、やはり女性と一緒だろう。
 今まで全国各地で何度となくコンサートをして、何十万、何百万という観客を動員してきたFATEだけれど、男2人組はかなりレアだ。
 しかし、かといって、いくらゲイとはいえ、遥希が女性同伴でコンサートに来て素直に喜べるかといったら、そんなわけもないので、やはり千尋と一緒で正解だと思う。

「ハルちゃんが、がんばってちーちゃんのこと説得したの? 何か想像付かない」

 千尋と遥希の揃ったところを見たのは、クラブで2人を救出して琉の家に連れて行ったときだけなのだが、あのときの2人の感じからして、とても遥希が千尋を説得できるとは思えないのだが。



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恋と呼ぶにはまだ早い (9)


「お前、ハルちゃんが来る日、ちゃんと脱げよ?」
「は?」

 体を少し大和のほうに傾けて、琉はボソッとその耳元で囁く。
 ファンを虜にするその甘い声も、悪友である大和にしたらいつものことなので、特に心動かされることはない。ただ、言っていることが意味不明なので、何事? と視線は向けるが。

「『ちーちゃん』がお前の裸、見たがってんだって~」

 ニヤリ。
 口元を歪めて、琉は大和を見遣る。
 ポカンとした表情の大和は、まだ琉の言った言葉の意味を理解し切れていないのだろう。

「ちょっ、おまっ…」
「終わった後、ハルちゃんと一緒に楽屋来るからさぁ、たぁ~っぷり見せてやってよ、お前のその鍛え抜かれた、は・だ・か」
「てめぇ~…」

 今までの仕返しとばかりにニヤニヤと言ってくる琉に、大和は、してやられた! と思ったが、もう遅い。
 まさか自分の知らないところで、こんな形で出しに使われていたとは。

「どうせお前の入れ知恵だろ?」

 まさか遥希が自分で思い付いて、そんなこと言うとは思えない。
 きっと、千尋と行きたいけれど乗り気になってくれない、と遥希に相談されて、琉が唆したに違いない。

「だってハルちゃんに楽しんでもらいたいし~。まぁいいじゃん、脱ぐのはいつものことだし」
「てめぇはよぉ…」

 琉の言うとおり、コンサートのアンコールともなれば、衣装を脱ぎ捨て上半身裸になるのは常だから別にいいけれど、琉にいちいち言われるのが、何だか癪に障る。

「でも大和、何だかんだで千尋くん? のこと、気に入ってたじゃん?」
「お前、いまだにちーちゃんのこと、呼び方定まってねぇの? 『千尋くん?』とか、ちょっと微妙な感じで呼ぶなよ」
「だってアイツ微妙だもんっ!」
「そう? ちーちゃん、かわいいじゃん」
「はぁ?」

 琉としては、今まで男でかわいいと思ったのは遥希しかいないから、千尋がかわいいかどうかはよく分からないけれど、琉と違って大和は千尋のことを気に入っているらしい。
 一体どこがいいんだか。

「ま、大和がアイツのこと気に入ってんなら、余計何も問題ないじゃん。大和が脱いどきゃ、アイツのご機嫌取りになるんだし」
「おい、そういうつもりなら、貸し1だからな」
「分かってるって」

 このことで借りを作っても、相手が大和なら、別に構わない。
 だって、これからも遥希と良好な関係を続けていくためには、どうしたって千尋の機嫌を取っておく必要があるから。

「んふふ、ドーム公演、楽しみだー」

 『ハルちゃんのために歌うよ』と言えば、『それは嬉しいけど、ドームに来てるファンの子みんなのために歌って?』と真面目な顔で言ってくる恋人だ。
 邪なことばかり思っていたら怒られそうだ、と琉は顔を引き締めた。



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