恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2013年03月

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愛には逆らえない (3)


「亜沙美っ! いつまでやってやがんだ! さっさと支度――――」
「おはよ~。今日はみんな早いねー」
「てんちょー…」

 いい加減にしろ、と譲が怒鳴り声を上げたタイミングで、今度こそ朋文が、それものん気にやって来るから、何かあったと思われたくない譲は思わず口を噤んだが、その隙に亜沙美がサササッと朋文のもとへ行った。
 しまったと思っても、もう遅い。朋文に一体何を言うつもりなんだと、譲は一瞬身構えたが、しかし亜沙美の行動は譲の斜め上を行っていた。

「店長、チョコをどーぞ」

 亜沙美は、取り出したチョコの包みを、まるで献上するがごとく、朋文に差し出した。
 とりあえず、余計なことを言われなくてホッとしたが、そのポーズは何なんだ。

「亜沙美ちゃんから? ありがとう」

 朋文も、亜沙美がバレンタインに関心があること自体に驚いた様子だったが、それよりも亜沙美の格好がおかしかったのか、ただ笑っている。
 譲にしたら、どこがおもしろいのかと思うが、朋文はこんなのが結構ツボなのだ。

「手作りですー…」
「えぇ!?」

 義理とはいえ、貰って悪い気はしないから、朋文が素直に喜んでいたら、亜沙美が思いがけない言葉を放ったので、驚いて固まった。だって、職場の義理チョコで、手作り?
 何の気なしに受け取ってしまったけれど、本当に義理チョコだったんだよね?

「え…えと、亜沙美ちゃん、これ…」

 今さら義理かどうか確認するなんて、野暮もいいところだ。
 朋文はスーパー空気読めないキャラで通っているから、きっと失笑されて終わりかもしれないが、そんなに女心が分かっていない男だとも思われたくない。
 けれど、譲が口をポカンと開けて固まっているから(そりゃ、目の前で朋文が女の子から手作りチョコを貰うのを目撃したら…)、やっぱり聞いたほうがいいだろうか。

「義理チョコですー」

 どうしようかと朋文が焦っていたら、亜沙美は朋文の言いたいことが分かったのか、あっさりとそう白状した。
 それには、ひとまずホッ。

「でもすごいね、亜沙美ちゃん。義理チョコに手作りなんて」

 もしかしたら、本命チョコのための練習か、余りものかもしれないが、亜沙美が料理をしている姿はまったく想像が付かないから、何のためであれ、手作りチョコに挑むなんて、大したものだと思う。

「いろいろと、ありますから…」
「え?」
「…いえ。これを食べて、今夜はがんばってくださーい」
「は?」



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愛には逆らえない (4)


 いろいろとは何だ? と、朋文が頭の中を疑問符でいっぱいにしていると、亜沙美はますます意味不明なことを言ってくる。
 しかし、意味が分かっていなかったのは朋文だけだったようで、亜沙美の後方にいた譲が、『ギャー!!』という顔で駆け寄ってきて、亜沙美の頭を引っ叩いた。

「ちょっ…譲!?」
「痛い…」

 譲の暴挙に慌てたのは朋文だけで、亜沙美は、こういう目に遭うことを予測していたのか、本当に痛いのかと疑いたくなるテンションで『痛い』と言ったきり、何も言い返さない。

「アホか、お前はっ!!」

 亜沙美×手作りチョコ×「これを食べて、今夜はがんばれ」の答えなんて、『そのチョコの中に、何か怪しげなものが入っている』、に決まっている。
 そういうことは、変なエロマンガとかの世界だけだと信じたいが、それが亜沙美だと、一気に現実味が増す。現に亜沙美は、譲がどんなに突っ込んでも、否定の言葉を言わないではないか。

「譲さーん…。今日は早く帰りますから、明日、感想を聞かせてくださーい…」
「うっせぇっ! さっさと仕事しろっ!」

 譲に怒鳴られながらも、亜沙美は楽しげに開店の準備に取り掛かった。
 本当に、その背中を蹴り飛ばしてやろうかと思うが、そういうわけにもいかない譲は、悔しそうに地団駄を踏んでいる。

 ――――そんな中。

「えー、どうしたの2人ともぉ。俺だけ分かんない~」

 1人、何のことか分かっていない朋文が、情けない声を上げている。
 しかし、もちろん譲は何も答えないし、亜沙美も微笑んでいるだけで、何も言ってくれない。 

「ねぇねぇ、何なの~?? 教えてよ、亜沙美ちゃーん」
「うっせぇ朋文! お前もさっさと仕事しろっ!」
「譲には聞いてないじゃーん。これ、俺が貰ったんだよ? 聞いたっていいじゃん」
「黙れっ!」

 朋文の言い分はもちろん正しいのだが、彼に、あの方程式の答えを知られたくない譲は、何とか朋文を黙らせようと必死だ。

「…譲さん、ヤキモチ…」
「違ぇっ!」

 亜沙美の言葉に、譲はすぐさま突っ込む。別に譲は、朋文と亜沙美が仲良くしているのにヤキモチを焼いて、機嫌を悪くしているわけではないのだ。
 けれど、譲が、朋文のことに関して機嫌を悪くすればするほど、亜沙美を喜ばせてしまう。

「違うよ亜沙美ちゃん、ヤキモチ焼いてんのは俺! だって2人だけで秘密とかズルい~!」
「お前は黙ってろ、つってんだろ!」

 譲は今、亜沙美のことだけで手いっぱいなのだ。
 もう朋文は大人しくしていてくれ。

「亜沙美ちゃ~ん!」

 しかし朋文は、やはり空気の読めない男なのである。
 懲りない朋文に、譲は「黙れ朋文っ!」と怒鳴り声を上げた。

「…萌え」



 …こうして亜沙美ちゃんの、楽しいバレンタインデーは過ぎていくのでした。



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*END*
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爪先立ちで無理してるところ (1)


 いくら睦月が勉強が嫌いでも、大学に在学している以上、やはり勉強はしないわけにはいかない。
 中には、勉強そっちのけで遊んでいる輩もいるが、睦月としては、そんなことをして留年とかしたくないし、ちゃんとしないと祐介に怒られるから、一応ちゃんとする。
 そのためには、あんまり興味ないていうか、どっちかっていうと好きじゃないていうか、出来ればあんまり行きたくはない図書館にも行くことになるわけで。

(ぅー…本いっぱい…)

 これでもかというくらい当たり前のことを思いながら、睦月はキョロキョロしながら、本棚と本棚の間を歩いていく。
 教授から与えられた課題を完成させるためには、資料を揃えなければならず、そのためには図書館に来る必要もあるのだから仕方ないが、慣れない場所は落ち着かない。
 目的の本を探して、こんなところ、さっさとずらかろう。

「あ、あった――――ゲッ」

 睦月は、手のひらに書いてきた、必要な本のタイトルと同じ本を見つけ、喜んだのも束の間、それが本棚の最上段に入っていることに気が付いて、眉を寄せた。
 無駄にデカい(と睦月が思い込んでいる)本棚の最上段は、かなり高い位置にあって、せっかく見つけたのに、これでは手が届くかどうか分からない。

「ぅぬ~~~…ぐ、ぐ、ぐ……」

 でもここで諦めて帰るわけにはいかない…と、睦月はうんと背伸びをしてみるが、棚の下のところに手が触れるだけで、とても本は取れそうもない。
 仕方がないので、睦月はお行儀が悪いのを承知で、本棚の1番下の段に乗っかって手を伸ばしてみたけれど、本にちょっと手が当たるだけで、ダメそうだ。

「もぉ~~~」

 睦月の身長は、確かに亮に比べたらちょっと低いけれど、20代男子にしたら平均的なものだから、本に手が届かないのは睦月のせいじゃない。本棚がデカいせいだ。
 だから、睦月が必要な本を手に入れられないのも、睦月のせいじゃない。

(うん、俺が悪いんじゃない――――つって、そんな理由じゃ許してくんねぇよ、教授! ぬあぁぁ~~~~!!!)

 図書館で、必要な本に手が届かなくて取れなかったので、課題が出来ませんでした、なんて理由が許されるわけがないことは、いくら睦月がバカでも分かる。
 しょうがない、こうなったら。

「ちょっ睦月、何してんのっ」
「にゃ?」



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爪先立ちで無理してるところ (2)


 1番下の段でダメなら、もう1段上るしかない――――そう思って、睦月が下から2段目のところに足を掛けたところで、背後から声を掛けられて振り返ったら、焦った顔をした亮がいた。

「何、て……本」

 とりあえず睦月は掛けていた足を外して、取ろうとしていた本を指差した。
 あの本に手が届かないばかりに、睦月は一生懸命背伸びをしたり、本棚を上ってみようとしたりしていたのだ。

「いや、だからって何で本棚よじ登んの」
「だって、背伸びしても届かないんだもん」
「それは見てた」
「見てたんなら、助けてよ、亮のバカ」

 睦月がすごく苦労していたのに、見ていただけなんて、ヒドイ。

「だから踏み台持って来たんだって。したら本棚登ろうとしてっから」
「…踏み台、」

 そう言った亮の手には、2段の階段みたいな踏み台がある。
 図書館で、手の届かない高さにある本を利用したい場合は、これを使えばいいのだ。

「初めて見たよ、本棚登ろうとしてる人」

 亮はそう言いながら、睦月の足元に踏み台を置いてやる。
 一緒に図書館に来て、それぞれ別のコーナーで本を探して、ある程度時間が経ったから様子を見に来たら、何だか一生懸命背伸びをして、本を取ろうとしている睦月を見つけた。
 インナーの裾がウエストから出ちゃって、お腹丸見えになりながら爪先立ちしている睦月がかわいくて、思わず『かわいー』と口走りそうになるのを堪えて、踏み台を持って行ってやったら、なぜか睦月は本棚によじ登ろうとしていたのだ。
 小学生がいたずらでしちゃう以外で、そういうことをしようとする人がいるなんて、亮は想像だにしていなかった。

「つか、腹出てるし」
「ぬ」

 お目当ての本を手に入れて、睦月は満足そうに踏み台から降りたが、シャツの裾が出ちゃって、すっかりだらしなくなっているので、亮がそれを直してあげる。
 睦月はこういうとき、恥ずかしがりもせず、素直に大人しくしているんだけれど、その姿を見ていると、何となく恋人同士というより、お母さんと子どもという感じだ。



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爪先立ちで無理してるところ (3)


「じゃ、睦月、もう帰ろっか」

 亮も、図書館はそれほど好きなほうではないから、用事が済んだらさっさと帰りたい気持ちは、睦月と一緒だ。とても図書館で勉強をしていく気にはなれないから、早く帰りたい。

「まだダメ亮」
「え、何で? 本、それでいいんじゃないの?」
「まだこれしか見つけてない。他に後これだけ」

 睦月は手のひらのメモを、亮に見せ付けた。
 文字数が多いのに、手のひらという、もともと書きづらい場所に書いたことに加えて、手汗とかでちょっと滲んでしまっていて、見せられてもよく分からない…。

「はい、亮、探して」
「探してじゃないでしょ。自分で探しなよ」
「ケチィ。いいじゃん、俺これ探すから、亮、これ探して?」
「はいはい」

 どうせ、睦月とは一緒に帰るつもりだ。
 探すのを手伝ってやったほうが亮も早く帰れるから、亮は面倒くさいと思いつつ、睦月の手のひらを覗き込む(読みづらい…)。

「じゃ、俺、あっち探してくっから」
「お願ーい」

 睦月は、お願いしているわりに、何とも軽い調子で亮を見送ると、また一生懸命本棚を睨み付けている。
 結局は睦月に甘い自分に溜め息をつきつつ、亮は隣の列の本棚を探し始めた。

「…あるじゃん」

 探し始めて1分もしないうちに、亮は目的の本を見つけ出した。
 もしかして睦月は、探すべき本棚がよく分かっていないとか、どうしてもメモの上から順番に探そうとしていたとかなのだろうか。でなければ、こんなに時間が掛かる意味が分からない。

「睦月、あったよー――――て、何で?」

 見つかった本を手に、睦月がいる列に戻って来た亮は、そこにいた睦月の姿を見て、思わず突っ込んだ。
 睦月はまた爪先立ちで、懸命に最上段の本に手を伸ばしていたのだ。

「ちょっ、睦月」

 ついさっき、踏み台を使って本を取ったのに。
 その踏み台が、まだ自分の側にあるというのに。

「何でまたそんな無理してんのっ…!」
「んぁ? だって、本」

 無理して爪先立ちで手を伸ばしている睦月は、すっごくかわいいけれど。

「だから、踏み台使いなってば!」

 かわいすぎて、抱き締めたくなっちゃうから、こんなところでやるのはやめて!



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*end*
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「目の中にゴミが」なんて言うところ (1)


 100人以上入る大きな教室の、端っこの後ろから2列目の席となれば、大抵の学生にとっては、授業中にバレることなく寝ていられる特等席的な席だ。
 学生の本分が勉強である以上、寝ていられるとか、そんなことを言っていてはいけないのだが、まぁそういうことなのである。
 ――――そしてそれは、睦月にもしっかりと当てはまるわけで。

(……爆睡…)

 隣の席の亮がチラリと横目で窺うと、右手にペンを持ち、左手で頬杖を突いた睦月の頭が、先ほどからフラフラと揺れている。
 今日は空いていた席の関係で、祐介と和衣が睦月たちより少し前のほうに座ったものだから、余計に気が緩んだのか、睦月は眠気を堪えることなく寝ているのだ。
 最初、授業が始まって数分で睦月はウトウトしたのだが、そのときは亮がこっそり起こしたので、それからしばらくの間はがんばってノートを取っていたのに、結局耐え切れなくなったようだ。

 亮はもう1度起こそうかとも思ったが、あと5分足らずで授業は終わるし、この教授はそういうことに無頓着だから、とりあえず今日のところはこのままにしておく。
 今から起きたところで、どうせまともにノートが取れるわけがないし、後で亮が見せてやるはめになることに変わりはないし。

「――――ということで、今日はここまで」

 チャイムと同時に教授がそう告げ、みんなが後片付けをし出すと、教室の中がざわつき始める。
 それでも睦月に起きる気配がないから、起こしてやろうと亮が手を伸ばした、その瞬間。グラッと睦月の体が大きく揺れて、あ、と思う間もなく、睦月の頭が頬杖から滑り落ち、

 ――――ガゴンッ!!

 カクンとなった瞬間に、睦月は目を覚ましたのかもしれない。けれど、その一瞬では状況を把握するには至らないし、体勢を立て直すには時間が足りな過ぎた。
 例えばもっと体が硬かったらむしろ、こんなことにはならなかっただろうに、睦月の頭は、重力に逆らうことなく自然落下し、そして机に激突した…。

「…………」
「…………」
「あー……」

 周りに座っていた学生たちも、あまりのことに絶句し、片付けの手が止まる。
 まるで机の上で弾んだかのように、睦月は勢いのままに頭を上げたので、亮とは反対側の隣に座っていた学生が声を掛けようとしたが、亮が『大丈夫だから』と目で合図をして来たので、苦笑しながら去って行った。
 ゼミも違って、名前もよく知らない相手だから、心配に思っても、何と声を掛けるべきか悩むところがあったのだろう。

「何か…、痛い…。………………、ううぅ、いったぁ~~~~~いっ!」

 最初は、何が起こったのか分からない様子で、ボンヤリと亮のほうを見た睦月だったが、徐々に痛みが脳に伝わって来たのか、目が覚めて来たのか、額を押さえて呻き声を上げた。
 かなり思い切り行ったからなぁ…。



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「目の中にゴミが」なんて言うところ (2)


「ぐうぅ~~~~…」
「あの…、睦月さん、大丈夫…?」
「ッ…、だ大丈夫に決まってんじゃんっ、何がっ? 何言ってんの!?」

 さすがに心配になって亮が声を掛ければ、睦月は、ただ自分の頭が痛いというだけでなく、周りにも人がたくさんいて、思い切り見られていたのだということにも気が付いて、恥ずかしさのあまり、アワアワしながら言い返した。

「なぁ睦月、大丈夫? 医務室…」
「だっ…から、何がっ? 別に何もないしっ」
「いや、目に涙いっぱい溜めながらそんなこと言われたって。ちょっと見してみ?」

 頭をぶつけると、その衝撃で生理的な涙が零れるのかどうかは知らないが、とにかく睦月がこんなことで泣くなんて普段あり得ないことだから、絶対にすごく痛いに決まっている。
 なのに亮がそう言っても、睦月は決してそれを認めようとはせず、両手で額を隠してしまった。

「睦月。…むーっちゃん、」
「だから、平気だ、ってば」
「泣きながら何言ってんの。泣くほど痛いんでしょ?」
「違ぇよバカ、目の中にゴミが入っただけだしっ!」
「………………」

 足をジタバタさせながら、睦月はがんばってそう言い返して来た。
 確かに目の中にゴミが入れば、涙は零れる。しかし、一体どこの世界に、だからといって、額を押さえて身悶える人間がいるだろう。いつもは口八丁の睦月も、今ばかりは全然うまくいっていない。

(もう、何なの、この子!)

 目にゴミとか、あまりにもかわいい嘘をつく睦月に、思わず笑みが零れそうになったが、笑えば余計に機嫌を損ねてしまうので、亮は必死に口元を引き締めた。
 本当はきっともっと、痛いと喚き散らしたいんだろうけど、完全に自業自得なので文句も言えないのだ。それが余計にストレスになっているに違いない。

 睦月は涙を拭いながら、ノロノロと荷物を片付け始める。
 いつもは、この後ご飯だから、呆れるくらいの速さで荷物をしまうのに。手加減なしでぶつけたおでこの痛みは、そう簡単には引かないだろう。

「睦月、」
「…ンだよ」
「ご飯、プリンの付いてるヤツにしよっか?」
「勝手に決めんな」

 ようやく荷物をみんなカバンの中に詰め込んだ睦月は、目に涙を浮かべたまま亮を睨む。
 もう次の授業の学生たちが、どんどんと教室にやって来ているから、早く教室を出ないと。

「俺のプリン、睦月にあげる」
「え、マジ!? あ、べ別にいらないし! 何気ィ遣ってんの?」

 プリンの魅力にあっさり負けた睦月は、しかしすぐに我に返って、ツンとそっぽを向いた。

「だって俺、甘いモン食わないし」
「だったら違うの食えばっ」
「ヤーダ。睦月にあげたいの」
「意味分かんないっ」

 そんな返事をしながらも、もうプリンを貰える気になっている睦月の表情は嬉しげだ。
 ちょっとはおでこの痛み、引いたかな。

「プリン食ったら、おでこ痛いのも治るでしょ?」
「ッ、、、、だから、目にゴミが入った、つってんだろっ!」
「はいはい」

 亮は、ゲシッと蹴りを入れてくる睦月を、軽く躱した。
 あーかわい。



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*end*
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イラつくとやつあたってくるところ (1)


 元から睦月は、物の扱い方が雑なのだ。
 カバンも財布も携帯電話も結構ポイポイ投げているし、それによってちょっとくらい傷が付いたり汚れたりしても、気にしない。人の物なら一応気を付けるが、自分のだと、てんでダメ。
 だから、2年使った携帯電話が、もっとずっと長い期間使っていたかのような見た目なのも当然だし、ボタンとか剥がれちゃうのも、仕方のないことだった。

 しかし睦月は、電話とメールくらいしかしない人だから、そのくらいならまだ機種変更するレベルではない、と放っておいたのだが、今日突如として、電話をしても、こちらの声が相手に聞こえないという致命的な故障が見つかった。
 携帯電話の本来の機能である『電話をする』という部分が壊れてしまっては、さすがに買い替えないわけにはいかず、睦月は仕方なく亮と連れ立って、携帯電話の販売店に向かったのだが。

「スマートフォン…」

 今や時代はスマートフォンなのだ。
 睦月も、周囲の状況やテレビなどから、そのことは分かっているつもりだったが、実際に自分がそれを手にすることになることには、まったく実感がなかった。
 亮がすでにスマートフォンを持っていて、睦月も少し構わせてもらったことはあるけれど、何かよく分かんないし、電話とメールだけしかしないなら、今のままでもいいかな、と思っていたくらいだから。

 しかし、店頭にはフィーチャーフォンももちろん並んではいるものの、このご時世に携帯電話を買い替えるのに、スマホにしないの? という雰囲気はある。
 そんなの気にせず、我が道を行ってもよかったのだが、結局睦月は店員さんの熱意に負けて、スマートフォンを手に入れてしまったのである。

「ううぅ~…ん、やっぱし分かんない…」

 寮に帰って来た睦月は、購入したばかりのスマートフォンを前にして、唸り続けていた。
 設定はみんなお店でやってもらい、後は使うだけという状態のはずなのに、さっぱり分からない。分からなければ、説明書を見ればいいのだが、パンフレットがたくさんあり過ぎて、どれが必要な説明書なのかも分からない始末。
 亮も助けてくれているのだが、機種が違うから、確実な助言が出来ないでいる。

「だから俺、亮と同じヤツがよかったのに~…」
「しょうがねぇじゃん、もう売ってなかったんだから」

 睦月がジタバタしながら泣き言を言うが、すでに2世代くらい前のものとなってしまった亮の機種は、すでに店頭からは姿を消していたのだ。
 どうにかすれば入手できないこともないだろうが、そこまでするのも面倒くさいし、いつまでも携帯電話なしの状態も嫌だから、結局同じメーカーのものに落ち着いたのだが、やはり勝手は違う。



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イラつくとやつあたってくるところ (2)


「あーもう分かんないっ。つか、充電したいのに、それすらも分かんねぇっ!」

 とうとう睦月はスマートフォンを放り出し、後ろへと引っ繰り返った。
 買ったばかりの電話は充電が満タンではないうえに、何をどうしていいか分からない睦月がずっと構っていたものだから、電池残量がかなりヤバい状態になっているのに、充電の仕方すら分からないのだ。
 もう完璧にお手上げ。
 あーかわい。

「もうヤダ、分かんないー!!」
「ちょっ、暴れんなって」
「やっぱこの電話、直してもらえばよかったっ!」
「今さら言ったって、しょうがねぇじゃん」

 それまで使っていた壊れた携帯電話は、いろいろデータも入っているということで、お店に返さず持って帰って来たのだが、まだその携帯電話に未練のある睦月は、今さらそんなことを言い出すから困る。
 修理には時間もお金も掛かるから、新しいものに買い替えたというのに。

「だぁって、分かんないもんっ、亮のバカ! 何でケータイ壊れちゃうんだよっ」
「睦月がしょっちゅう落っことしたりしてっからだろ」
「そんなんで壊れんなぁ~~!!」

 まったくむちゃくちゃなことを言っている睦月に、スマートフォンは、今までの携帯電話よりももっと丁寧に扱わないとダメなんだよ、と言ってあげるタイミングはいつなのだろうかと、亮は悩む。
 というか、どうして亮は今、バカ呼ばわりされたんだろう…。

「買っちゃったもんはもうしょうがねぇじゃん。ホラ、充電の仕方、ここに載ってるよ? はい」

 睦月より先に充電方法の載っている個所を見つけた亮が、充電器と一緒にそれを睦月に差し出せば、睦月はまったく渋々といった様子で、それらを受け取った。

「…………。そういえば、このストラップはどうしたらいいんだ」

 モソモソと充電の支度をしながら、睦月がポツリと呟いた。
 目が若干虚ろなのは、気のせいだろうか。

「ストラップ?」

 今までの携帯電話に付けていたストラップは、亮と出掛けたときに、買ってもらったヤツだ。
 携帯電話を新しいものにするときに、ストラップも変えてしまう人もいるが、睦月的にはせっかくだから、このままこれを継続したい。



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イラつくとやつあたってくるところ (3)


「ここに付けるトコあるよ?」
「………………」

 亮にストラップを付ける場所を教えてもらった睦月は、無言で前の機種からストラップを外すと、新しいものに付け始めた――――が。

「……」
「睦月? むっちゃん?」
「…………」
「出来た?」
「………………」

 亮の呼び掛けに反応もせず、睦月は黙々とストラップを付けようとしている。
 しかし睦月は神業レベルで不器用なのだ。携帯電話にストラップを付けるくらいで……とは思うが、それが簡単に出来れば、苦労はない。

「ねぇむっちゃん、出来た? やってあげよっか?」
「うっせぇな、集中できねぇだろっ」

 新しいスマートフォンがさっぱり意味不明なのと、ストラップを付けるという、睦月の苦手なちまちました作業をしなければならないことで、睦月のイライラはピークに近く、亮はまったく何にも悪くはないのだが、つい八つ当たりしてしまう。
 とりあえず、声を掛けたら怒られそう…と、亮は大人しく睦月の様子を見守ることにした。

「ッッッ、、、、んんん~~~~~……もぉヤダぁ~~~~!!」
「ちょっ睦月!」
「あーもうバカバカバカっ! 亮のバカ!!」

 どうせ出来ないのだから、今からでも亮に頼めばいいものを、1度突っ撥ねてしまった手前、今さら素直になれないのか、睦月は理不尽に亮に当たり散らしている。

「睦月、貸してみ?」
「何がっ? 亮にやってもらわなくたって、自分で出来るしっ」
「…んーと、じゃあ俺にもやらせて? 俺もやりたい」
「………………」

 亮にやってもらう、ということが、どうも癪に触っているようだと気が付き、亮が言い方を変えて言ってみれば、睦月は大人しくスマートフォンを差し出して来た。
 本当に素直じゃないんだから!



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イラつくとやつあたってくるところ (4)


「はい、出来たよ」
「…………」

 睦月からスマートフォンを受け取って10秒足らずで、亮はストラップを付けてやる。
 その様子をジッと見つけていた睦月は、黙ったまま亮からスマートフォンを受け取った。

「…睦月? どした?」

 まだ機嫌悪いんだろうか。
 そう思って、亮が顔を覗き込もうとしたら、思い切り顔を背けられた(そんな!)。

「…俺、ホントは、スマホごときで、亮に当たりたくない」
「ごとき、て…」

 言い方はちょっとアレだが、どうやらイライラして亮に八つ当たりしたことを、睦月なりに気にしていたらしい。
 唇を尖らせて、何だかアヒルさんみたいだ。

「でも、何か全然分かんないからムカつくし、もうヤダ! て思っちゃうし、でも何かもぉ~~~~…!!」

 睦月は再び後ろへバタンと引っ繰り返った。苛立つ気持ちと反省する気持ちが綯い交ぜになってスッキリしないから、余計に気持ちがモヤモヤして来るのだろう。
 亮も、睦月の隣に寝転んだ。
 すると睦月は、気まずげに視線を逸らす。そんな睦月がかわいくて、思わず笑みを覗かせたら、案の定、睦月は「何笑ってんだ」と蹴りを入れて来たが、亮はそれを甘んじて受け入れ、睦月に腕を伸ばした。
 何だかんだ言っても、やっぱり睦月のことが好きなのだ。

「むーっちゃん」
「…んだよ」
「これから一緒に覚えてこ? ね?」
「むぅ~~~………………うん」

 何かを考え込んでいたのか、ただ単に素直になるのに時間が掛かっただけなのか、何とも言えない渋い顔で唸っていた睦月は、少しの時間の後、コクリと頷いた。



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*end*
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「さっきはごめん」と謝るところ (1)


 寒がりで暑がりなうえに、大変な面倒くさがりでもあるから、睦月は結構引きこもり体質だ。それでも、亮と一緒に出掛けるのは楽しいから、誘われたうちの5回に3回くらいは出掛けている。
 今日はその確率6割のお出掛け気分の日だったようで、睦月が亮の誘いを二つ返事で承諾したので、2人で街へ繰り出したのだが。

「く、ぷ…、寒い…」

 袖口にファーの付いたコートにマフラー、手袋、そしてふわふわのロシア帽という完全防備をしているにもかかわらず、やはり寒いことは寒いようで、睦月は肩を竦めた。

「耳! 耳冷たいっ!」
「その耳当て、下ろしたら?」
「ぅ、うんっ、亮、やって!」

 ピョンピョン跳ねながら、睦月が亮のほうにすり寄ってくる。
 亮は自分を特別寒さに強いとは思っていないが、今日の寒さで睦月がここまで寒がっているのを見ると、睦月は本当にこの冬を乗り越えられるのかと、ちょっと心配になってくる。

「ふぅー、あったか、あったか」
「すっごいもこもこですね、睦月さん」

 しっかり帽子を被ってマフラーも巻き直して、ようやく寒さから逃れられたらしい睦月はホッと息をついたが、ここまで寒がられると、何だか外に誘ったことが申し訳なくなる。

「睦月、どっか入……」
「亮、ケータイ鳴ってるよ?」
「え? あ、ショウだ。ワリ、ちょっと…」

 寒いならどこかに入ろうかと亮が提案しようとしたところで、ちょうど亮の携帯電話が音を立てたため、話が途中になってしまった。
 しかし相手は翔真だったし、睦月も『出なよ』という顔をするから、亮は電話に出る。

「いや、今出掛けてるし。え? 何? ちょっ…聞こえねぇって」

 屋外で電話に出ると、意外と周りの音がうるさくて、相手の声が聞こえにくいもので、その状況は今の亮にも当てはまるのか、翔真の声が全然聞き取れない。
 仕方なく亮は、睦月に断りを入れて、人の少ないほうへと移動した。

「うに…寒い…」

 外にいる時点で、歩いていたってもちろん寒いのだが、ただ立っているのも、足元のほうから冷えて来て、すごく寒い。
 和衣と違って、全然やきもち焼きではない睦月は、デートの途中で彼氏が電話に出たって、別に何とも思わないけれど、寒いのだけはいただけない。
 しかし、亮を置いてどこかには行けないから、やはりここにいるしかないのだろう。



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「さっきはごめん」と謝るところ (2)


「ぅー…ぬー…」

 こういうとき人は、携帯電話でも弄って時間を潰すんだろうけど、もともと睦月は携帯電話をそんなに構わない人だし、何と言っても、スマートフォンに買えたばかりで操作方法もままならないから、それも出来ない。
 しかも聞くところによると、普通の手袋だと、着けたままでは画面が反応しないらしいので、なおさらだ。

「さっさむっ、寒いっ」

 妙な調子をつけて、歌うようにそんなことを言いながら、睦月はピョンピョンと飛び跳ねてみる。
 落ち着きがない仕草は、とても21歳の男子には見えないが、決して小学生ではないのだ。

「何してんの?」
「あ、亮、電話…………え?」

 後ろから声を掛けられて、てっきり亮が電話を終えて戻って来たのかと思ったら、振り返った先には知らない男がいた。
 睦月に話し掛けて来たのかと思ったけれど、そうじゃないのか……と、恥ずかしくなって、睦月が顔を背けようとしたら、その男が「ぷっ」と吹き出した。

「いやいや、君だから」
「……」

 キョロキョロしても、周りに立ち止っている人は他にいないから、やっぱり睦月?
 けれど知らない人。
 基本、睦月は他人にあまり興味がないので、人の顔も名前もなかなか覚えられなくて、もしかしたら会ったことがあるけれど、忘れてしまっているんだろうか。

「…何?」

 会ったことがある人でも、睦月自身が顔も名前も忘れてしまっている以上、知らない人と同じだ。
 人見知りの睦月は、警戒しながら、男に聞き返した。

「何かピョンピョンしてたじゃん。かわいいね」
「別に…」

 寒いから何となく飛び跳ねていただけで、深い意味はないのだが、それを見られていたのかと思ったら、ちょっと恥ずかしくて、睦月は口元に手をやり、ふわふわのファーで顔を隠した。
 というか、『かわいい』とか、ムカつくんですが。



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「さっきはごめん」と謝るところ (3)


「1人なの? 暇なら、どっか遊び行かない?」

 笑顔の男は、まるで昔からの知り合いのような調子で、睦月を誘ってくる。
 それでようやく睦月は気が付いた。この男の目的は、ナンパだ。しかも、『かわいい』とか言ってくるあたり、睦月を女の子と勘違いしているに違いない。
 とりあえず睦月は、体ごと男から背けてみる。女の子と間違われていることは非常に不愉快だが、知らない人と話をするのは苦手だから、無視するしかない。

「あー…ゴメン、急に声掛けたから、驚かせちゃった? ゴメンなさい。かわいかったから、ちょっと話したくて声掛けたんだけど」
「…………」

 ナンパNGの意思表示をしたにもかかわらず、男は睦月の前に回り込んできて、しつこく話し掛けてくる。
 あんまりしつこいナンパは、本当の女の子が相手だとしても、嫌がられるのに。

「それとも友だち待ってるの? ここ寒くない? 来るまで、どっかあったかいトコで行こうよ。1人でいるより、暇つぶしになるじゃん?」
「…………」

 亮、早く来い~、と睦月は心の中で念じてみるが、残念ながら翔真との電話が終わらないのか、亮はなかなか姿を現さない。
 ここで、ナンパされて困っている睦月を救うべく、タイミングよく亮が現れたら、相当格好いいのに。

「ダメ? ね、そんな隠してないでさ、かわいい顔見せてよ?」
「………………、…あのなぁ、さっきから、かわいいかわいい、て…………誰に向かって抜かしてやがるっ!」
「へっ? えっ!? ちょっ」

 とうとう我慢の限界に来てしまった睦月は、怒りに任せて、男の胸倉を掴み上げた。
 女の子と間違われたと分かった瞬間、ブチ切れたかったのをここまで我慢したのだ。1度ナンパを無視した時点で、諦めてさっさと消えていれば済んだものを。

「何が『かわいい』だっ! 男と女の区別もつかねぇくせして、その目は飾りモンか、このヤロウっ!」
「ちょっ、むっちゃんっ…!! 待った待った待った!!」

 睦月がこぶしを振り上げた瞬間、今さらのタイミングで登場したのは、言わずもがな、亮だ。
 あと10秒早かったらよかったのに、と思ったところで遅い。睦月はもう、このナンパ男を殴り飛ばさないと気が済まないところまで来ているのだ。



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「さっきはごめん」と謝るところ (4)


「むっちゃんダメダメっ手放して!!」
「に゛ゃっ!?」
「ホラ、ゴメンなさい、でしょ?」

 しかし、睦月の気持ちを知る由もない亮は、無理やり睦月の手を男から引き剥がすと、睦月の頭を押さえ付けて、お辞儀させる。下手をしたら、警察のお世話になりかねないから。
 睦月は何とか亮の手を振り払って、もう1度男に掴み掛かろうとするが、亮に抑え付けられてうまくいかず、余計に腹立たしい。

「あー…………こっちこそ、すんませんっ!」

 自由の身となった男は、呆然と睦月を見ていたが、ひとまず頭を下げる。
 何が何だかがけれど、とりあえず分かったことは、自分が声を掛けたかわい子ちゃんは男で、彼氏なんだか友だちなんだか知らないが、連れがいるということ。
 ナンパが失敗に終わることは多々あるが、殴られそうになったのは初めてのことで、これってもしかしたら、訴えたら勝てる系? とも思ったが、これ以上は関わり合いになりたくないので、そそくさとその場を逃げ出した。

「ちょっ、もう、亮のバカっ。逃げられちゃったじゃんかっ」
「逃げられたじゃないでしょっ、何しようとしてんのっ」

 睦月としては、あの男だけは殴っておかなければと思うし、殴られても文句は言えないことをしていると思うのに、亮は何だか睦月が悪いみたいな口振りだから、それがまた頭に来る。

「アイツが悪いんじゃんかっ。何で俺が怒られなきゃなんないんだよっ」
「何言ってんの! 人に手上げるなんて、睦月が悪いに決まってんでしょっ?」
「じゃあアイツは何も悪くない、つーのかよっ!」
「そうじゃないけどっ。でも何があったか知んないけど、殴っちゃったら、どうやったって睦月が悪いことになっちゃうんだよ? 警察に捕まっちゃうかもしんないし」
「知るかよっ、バカッ!」

 睦月は力任せに、亮の手を振り解いた。
 あのナンパ男の姿はもうとっくに見えなくなっているし、顔もロクに覚えていないから、殴ろうと思ったって今さらどうにも出来ないけれど、だからって、苛立ちがそう簡単に収まるものではない。

「俺はなぁ、アイツに女に間違われたうえに、ナンパされたんだぞっ! 俺のどこが女だよっ。殴られたってしょうがねぇだろっ!」
「ナンパぁ~!?」

 まだ怒りを露わにしている睦月から事の次第を聞いて、今度は亮が声を大きくする。
 最終的にはそのナンパ男は撃退されたけれど、自分の恋人が、目を離した隙にナンパされていたと知って、気分のいい男はそういない。
 けれど、よく考えたら睦月は、初めて亮と会ったそのときから、女の子に間違われてナンパされていて、そのときも、相手の男を殴ろうとしていたんだっけ。



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「さっきはごめん」と謝るところ (5)


「ちょっ睦月、何ナンパなんかされてんの?」
「はぁっ? 知るかよっ」
「そんなかわいい格好してるからでしょ、もうホント、気を付けてよっ」

 亮は、睦月がかわいいのはもちろんよく分かっているから、誰か他に彼の魅力に気付いて、好意を寄せてきたらどうしよう、といつだって心配しているのだ。
 和衣ほどの嫉妬深さはないけれど、やっぱり恋人がナンパされたのを知った直後で動揺していたため、声を掛けられたのは睦月のせいではないと、頭では分かっているのに、ついそんなことを言ってしまった。

「…んだよ、亮まで俺のこと女に見えるとか思ってるわけ? だったら、着替えたときにそう言ってくれたらよかったのに」
「いや、違っ…、そうじゃなくて、」

 先ほどまでの、ただ昂った怒りを剥き出しにしていたのと違って、睦月は静かに低い声で言ってくる。
 そこで亮はようやく、自分がさらに睦月の怒りに火を点けてしまったのだと気付いたが、もう遅かった。

「大体今日だって、亮が出掛けようて言うから、寒くたって出て来たのに。女には間違えられるし、亮はムカつくし…………最悪」
「え、ちょっ、睦月、どこ行く…」
「帰んだよ」

 睦月はクルリと回れ右をすると、来た道をスタスタと戻って行く。
 亮は慌てて後を追い掛けたが、睦月は足を止めようとも、振り返ろうともしない…………だってムカつくもん。

 亮は、睦月がナンパされたのが悪いみたいなことを言うけれど、睦月だって、好きでナンパされたわけではないのに。
 あのナンパで誰が悪いかといったら、睦月を女の子と間違えて声を掛けて来たあの男だと思うが、亮は、睦月が女の子と間違われるような格好をしているからだと言う。
 でも、だったらそんなの今さら言うな、という話だ。
 睦月は女の子の格好がしたいわけではないし、今着ている服だって全部男物だし、自分では女の子に見えるとも思っていない。それでも女の子に見えるというなら、出掛ける前にそう言えばよかったのだ。

(つか、亮がどっか行っちゃうから、俺が1人であんなトコにいるはめになって、ナンパされたんじゃんか)

 だとしたら、電話をして来た翔真が悪いということになるのだろうか。しかし、翔真は亮と睦月が出掛けていることを知らなかっただから、彼に非はない。
 それなら、電話に出た亮が悪いのか。
 けれど睦月も、亮に電話に出るなとは言わなかった。相手は翔真だし、別に出るなと言うほどのことではない。それに、まさかその間に、こんなことになるとも思っていなかったから。

 ならやっぱり、ナンパしてきたあの男が悪いに決まっている。
 大体、睦月のどこが女に見えるというのだ。目が腐ってる。眼科行け。



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「さっきはごめん」と謝るところ (6)


(……女の子に、見えるかぁ~…?)

 睦月は足早に歩きながら、ショーウィンドウに映った自分の姿をチラッと見たが、いつも見ている自分の顔なので、もちろん女の子になんか見えやしない。
 強いて言えば、確かに服装は、ガッツリ男物というほどではなく、どちらかといえばユニセックス的な感じだけれど、顔は男そのものだ。ロシア帽の耳当てを下ろしていたから、顔がよく見えなかったんだろうか。

(でも、そういえば、耳当て下せば、て言ったの、亮じゃん!)

 亮がそう言ったから、睦月は、被っていたロシア帽の耳当てを下ろしたのだ。そのせいで顔が隠れて、女の子と間違われたんだとしたら、あのナンパは睦月のせいでなくて、亮のせいだ!
 いやでも、それは睦月があんまりにも寒がるから、亮はそう言ってくれたわけで…。

 ということは、睦月が寒がり過ぎるのが、今回の要因ということか?
 でも寒がりなのは体質なのだから、仕方がない。治せるものなら睦月だって治したいけれど、何をどうしたらいいかも分からないから、どうにもならない。
 それに、睦月が寒がりなことは、亮だって知っているのだから、分かっていて外に出掛けることを提案しなくても、と思う。

(てことは、やっぱり亮が悪い…)

 そうだ。最終的に、悪いのはやっぱり亮だ。
 亮が睦月を誘わなければ、こんなことにはならなかった。睦月は寒くなかったし、ナンパもされなかったし、それに……こんなケンカもしないで済んだ。
 だから、亮が悪い。

(でも…)

 亮は睦月と一緒に出掛けたいと思ってくれたわけだし、睦月を楽しませたいとも思ってくれたわけで。
 そんなことを言っていたら、睦月はもう亮とお出掛けできなくなるし。

 もうわけが分かんなくて、睦月が考えることを放棄したくなったところで、寮が見えてきた。
 建物に入ってしまえば、向かう先は自分たちの部屋しかない。2人は一緒の部屋で生活しているのだから、そうなったら、この気まずい雰囲気のまま、部屋に2人になってしまう。
 何で亮、ずっと付いてくるんだよ、と思うけれど、それはきっと、亮もいろいろ気にしているからなわけで。

「……」

 グズグズ思っているうちに、部屋の前まで来てしまった。
 鍵…。
 カバンの中、手袋をしたままだと、うまくいかない。そういえば、部屋を出るとき、鍵を閉めてくれたのは亮だ。いつだって亮は、睦月を甘やかしてくれるし、足りない部分を補ってくれる。



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「さっきはごめん」と謝るところ (7)


 何だか、泣きたい気分だった。
 でも睦月は男だから、人前では泣かない。大体、こんなところでいきなり泣くのは意味不明だし、亮とケンカしているという状況を合わせて考えたら、睦月が泣くのは卑怯だ。

 睦月はごまかすように鼻を啜って、カバンを開ける。自分で施錠しなくても、鍵ならいつも財布の中に入っている。
 でもやっぱり手袋をしたままだとうまくいかなくて、睦月がモゾモゾと四苦八苦していたら、背後から腕が伸びて来て、亮が黙って鍵を開けてくれていた。
 ドアが開いて…………でも足が進まない。だって、入ってしまえば。

「…寒いから、中入ろ?」

 亮はそう言って、背中を押してくれる。怒ったような声では、もうない。
 でも、部屋の中に入ってしまえば。

「…さっきはゴメン」
「えっ!?」

 睦月は足を止めたまま、亮のほうを見ることもなくそう言った。
 あぁ、ちゃんと顔を見て言えばよかった。こういうところがダメなんだ。分かっている。睦月はいつだって子どもで、いろいろ全然うまく出来なくて、でも亮は、呆れずに側にいてくれる。
 こんな俺でも、本当にずっと好きでいてくれるの? 俺、亮に嫌われたくない。

「どういう格好がいいのか、何かよく分かんないけど、こういうのダメなら、もっと勉強してちゃんとするし。…だから亮、俺のこと嫌になんないで?」
「睦月…」
「今着替える、から……もっかい出掛けよ? 亮、もうヤダ? 俺、男に声掛けられるから?」

 泣いたらダメだと思うのに、涙が零れそうになって、睦月はいっぱい瞬きをしながら、亮の横をすり抜けて部屋に入る。
 クロゼットに向かおうとしたところで、亮に肩を掴まれた。

「…何?」
「このままでいいから、このままの睦月がいいから、だから、もっかい出掛けよ?」
「でも、」
「俺は、今のままの睦月が好きなの。睦月が寒いの嫌じゃないなら、もっかい外行こ?」
「…寒いのは、ヤダ」

 亮と出掛けるのはいいけれど、ついさっき、いろいろ反省はしたけれど、でもやっぱり、寒いのは嫌だ。
 そう思って言ったら、亮は嫌な顔をするんではなく、笑みを漏らした。

「じゃあ、あったかいところ、行こっか。それならいいでしょ? むっちゃん」
「うん」

 睦月は、差し出された手を掴んだ。



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*end*
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精一杯返そうとするところ (1)


 和衣の機嫌がよすぎて、何だか気持ち悪いなぁ、と思うが、まぁそれを口に出して言うほど睦月は子どもではないので(それ以外では十分すぎるほど子どもだが)、黙って和衣の様子を見守る。
 亮はバイトだし、翔真は真大とデート。祐介は、いつものメンバーの中では自分だけが取っている授業があって、それに行っているから、今は睦月と和衣の2人だけ。
 いったん寮に帰ってもいいのだが、バイトに行くまでの時間、大学のカフェテリアで何となく時間を潰している。

「…ん、やっぱオムライス? ベタかな? でも肉じゃがよりは狙った感じはないよね?」
「ぁにが?」

 2人でカフェテリアにいるといっても、和衣は先ほどから雑誌に夢中で、全然睦月の相手をしてくれないから、ちょっとウトウトなっていたのに、急に声を掛けられたから、頭が付いていかない。
 睦月は目をこすりながら、和衣の見ていた雑誌を覗き込んだ。

「………………」

 料理のレシピが掲載された雑誌(今の時代、料理をするのは女性だけの仕事ではないが、明らかに女性向け)の今月の特集は、『彼が喜ぶ手料理レシピ』だ。
 和衣がよく女性誌を買ってるのは睦月も何となく知っていたが、こういう本も読んでいたとは…。

「ね、むっちゃん、どう思う?」
「えー…」

 優柔不断を発揮するのは、プレゼント選びのときだけにしてもらいたい。
 そして、睦月を巻き込むのは、本当に勘弁願いたいのに。

「…何でもいいんじゃない? カズちゃんが作ってくれたのなら、何でも喜ぶと思うよ?」

 和衣はまだ一言も祐介の名前を出してはいないが、特集のタイトルと、先ほどの和衣の言葉から推測するに、祐介に作ってあげたい手料理のメニューが決まらずに悩んでいることは、一目瞭然だ。
 プレゼント選びのときと同様、睦月が返すセリフは決まっている。だって、本当にそうだもの。

「でもぉ…」
「カズちゃん、オムライスがいいと思ったんでしょ? ならそれでいいじゃん」
「でもね、オムライスはね、前に1回作ってあげたことあんの。だったら別のがよくない?」
「そうだね。別のがいいね。じゃあグラタン」

 しかし相変わらず、和衣はそんなことですぐに納得はせず、難しい表情を浮かべたまま雑誌を睨んでいるから、雑誌を盗み見た睦月が次なる助言をしてやる。
 男が彼女の手料理としてグラタンを喜ぶのかどうかは、睦月にとってはよく分からないが、雑誌がそう言っているのだから、そうなのだろう。そういう裏付けがあるなら、和衣を説得しやすい。



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精一杯返そうとするところ (2)


「グラタンかぁ…。祐介、グラタン好きかなぁ」
「知らねぇよ」

 多分、嫌いではないだろうなぁ、とは思うが、睦月は祐介の食生活にそこまで興味はないから、何とも言えない。
 というか、いつも思うが、和衣は睦月に祐介の好きなものとかいろいろ聞いてくるけれど、睦月が詳しく知っていたら絶対に嫉妬するのに、何で聞くんだろう。

「つかさ、ゆっちに作ってやる、て……どこで作るの? いや、部屋で作るだろうけど、どうやってゆっちに振る舞う気?」

 何となく流されていたけれど、当然の疑問がそこにはあり、睦月は首を傾げる。
 寮で生活しているのは、みんな一緒だ。亮と睦月は同じ部屋だから、睦月は亮の作ったものを食べているけれど、祐介と和衣は部屋が別だから、手料理を振る舞うにしたって、互いの同室者がいるだろうに。

「今度の連休ねぇ、俺の部屋の人、実家に帰るんだって。だからね、いないの。えへへ」
「ふぅん」
「よし決めた。グラタンにするっ! 今日から練習だ!」
「は? 練習??」

 そうか、部屋の人がいないなら、連休中、和衣と祐介はラブラブだな、と睦月がボンヤリ思っていたら、和衣が突如そんな決意を固めたので、睦月は驚いて和衣を見た。

「練習て……何の練習すんの?」
「グラタン作る練習に決まってんじゃん。だって今まで作ったことないのに、いきなり作ってうまくいくわけないでしょ? 祐介に食べてもらうんだから、失敗できない!」
「そっかぁ…、そーだねぇ…」

 和衣の言うことはもちろん一理あるが、何だかそこら辺の女の子よりも、よっぽど女子力が高い気がして、笑うに笑えない。

「あ、ねぇ、むっちゃんも一緒に練習する?」
「は?」

 和衣の女子力の半端なさに感心していたら、急に和衣がそんなことを言ってくるから、意味が分からず、睦月は首を傾げた。
 今、和衣が言わんとする練習は、『グラタンを作ること』であり、どうしてそんな練習を、睦月まで一緒になってやらなければならないのだ。

「むっちゃん、未だに全然料理しないんでしょ?」
「未だにね」
「相変わらず、亮が作ってんでしょ? 全部」
「相変わらずね」

 睦月の不器用さは今に始まったことではないが、そのおかげで、親元を離れてから1度も料理に携わるということをしてこなかった睦月は、未だに包丁を握ることどころか、皿の1枚を洗うことも出来ないレベルなのだ。



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精一杯返そうとするところ (3)


「たまにはちょっとやったほうがいいんじゃない?」
「だって亮がやらなくていい、て言うし」
「もぉ。そうやって亮がやらせないから、いつまで経っても出来ないんじゃん。いつも亮がやってくれてんなら、たまにはお返しのつもりでさぁ、むっちゃんも何か作ってあげたら?」
「んなこと言ったって。言っとくけど、グラタンなんて無理だかんね?」

 睦月にとっては、いくら何でも、いきなりレベルが高すぎる。
 亮のために何か作れと言うのなら、面倒くさいが、まぁやってみないこともないけれど、作るものまで和衣と一緒にされては困る。そんなことが出来るのなら、もうとっくにやっているんだから。

「んー…じゃあ、それこそオムライスにしたら? 彼が喜ぶ手料理、1位!」
「…簡単?」
「チキンライス作って、卵で巻くの。あ、卵焼き作って、上から乗せてもいいけど」
「チキンライスて、どうやって作んの?」
「野菜とか肉切って炒めて、そこにご飯入れて……」
「ちょっと待ったカズちゃん!」

 オムライスは確かにおいしい。
 作れるものなら作ってあげたいけれど、和衣がサラッと言った作り方を聞いていた睦月は、ちょっと待って、と和衣を止めた。

「…野菜、切るの?」
「切らなきゃ入れらんないじゃん。むっちゃん、作ったことなくても、オムライス食べたことあるでしょ?」
「でも俺、野菜切れないよ?」
「……」

 睦月が包丁を持てないことなら、和衣だって知っているはずだ。
 それなのに、そんな呆れた顔しなくたって。

「材料切らなくてもいい料理…………卵焼き? 目玉焼き?」
「卵割ったことない」
「……」

 もちろん、鍋もフライパンも火に掛けたことなんかないけれど、卵割りの経験だって、睦月にはない。
 ていうか、そんな顔しないでってば!

「ゆで卵は?」
「それって料理?」
「むっちゃんでも出来そうなのを言ってるんでしょ! 卵も割らないで、包丁使わなくていいヤツなんて、そんなにないよ」

 ゆで卵は料理かと言われれば、それは和衣も首を傾げるところはあるが、睦月の不器用さ加減を考えたら、そのくらいしか思い浮かばない。
 お湯くらい沸かしたこと…………なさそうだけど。



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精一杯返そうとするところ (4)


「でもまぁ、卵ゆでるだけだもんね。そんくらいなら、何とかなりそう」
「何その自信。どっから湧いてくんの?」
「だって、カズちゃんが勧めてくれるから。俺にも出来そうだから、ゆってくれたんでしょ?」
「そうだけど…。ここにゆで卵の作り方載ってるから、上げるよ。つか、今日1回作ってみる? 一緒に」

 どうにも心配で、和衣はそう提案する。
 本当は、バイトから帰ったらグラタン作りの練習をしたいけれど、それよりも、睦月のゆで卵のほうが心配だ。最初に睦月に何か作ったらと言ったのは和衣だし、そこは最後まで責任を持たないと。

「うん。じゃあ今日バイト終わったら、カズちゃんち行く」

 ようやくやる気を見せた睦月を無下には出来ず、和衣は頷いた。



*****

「まずは、お湯を沸かす…」

 先日、和衣と一緒にゆで卵を作ってから5日。
 今日は亮がバイトで、睦月は何もない日だから、1人でゆで卵を作る練習だ。
 あのときは大部分を和衣がやって、睦月は言われるがまま、鍋にお湯を入れたのと、最後に卵の殻を剥いただけだったけれど、一通り見ていたし、作り方の書いてある雑誌のページを貰って来たから、大丈夫だと思う。

 鍋にたっぷりの水を入れて、沸騰させる。
 コンロの火を点けるのは、亮と一緒のときにも何度かしているから、それは大丈夫。

「沸騰したら、卵…」

 練習だし、失敗したとき勿体無いから1個だけにしようと思ったが、もしうまく出来たら亮に食べてもらいたいから、やっぱり2個にしよう、と睦月は冷蔵庫から卵を取り出す。
 何か落としそうで、すでに怖い…。

「もう入れてもいいよね…………アチッ!」

 卵はお湯の中にソッと入れろと雑誌にも書いてあるし、和衣にも言われていたのに、睦月は何も考えずにボチャンと入れたものだから、当然お湯が跳ねて、睦月にも掛かってしまう。
 何か指先、火傷したかも…。

「え、何これ。何で?」

 睦月が鍋を覗き込むと、卵から何か白いものが…。
 それはもちろん、殻にひびが入って、中から白身が出たせいなのだが、そんなの見たことのない睦月は、ちょっと怯んでしまう。



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精一杯返そうとするところ (5)


「でも、卵とお湯しか入れてないんだから、丈夫だよね…? えーっと、10分、10分……て、今何時だ? 時計……ケータイ!」

 ゆで時間を確認しないことには、ゆで卵は作れない。
 本当なら時計にしろ、タイマーにしろ、事前に用意しておくものだが(もちろん和衣もそうした)、段取りなどまるで分っていない睦月は、今になって携帯電話を探しに行く。

「今、7時15分。てことは、25分まで? あ、でももう何分か経ってるか。じゃあ……20分までにしてみよっかな」

 …すでにいろいろダメなのだが、細かいところは気にしない性格の睦月は、それでいいことにして、携帯電話を閉じた。
 そしてここまで来て、卵を混ぜたほうがいいのだということを思い出し、箸を持って来て、鍋の中を掻き混ぜ始める(菜箸の長さも違うのだが、それも気にしない)。

「あ、氷水!」

 剥きやすくするため、ゆで上がった卵を氷水に入れたらいいと聞いているので、氷を持って来て、ボウルの中に氷水を作る。
 さすがにそのくらいは、睦月にだって出来るのだ(氷をボウルに入れるとき、1個床に落としたけれど)。

「この中に入れたらいいのか…」

 火を止めた睦月は、鍋の取っ手を掴むと、シンクに置いた氷水のボウルに向かって、徐に鍋を傾ける。
 しかし残念ながら、鍋の中には卵だけでなく熱湯も入ったままだ。本来は、卵だけを氷水に入れるべきなのだが、そんな発想、睦月の中にはさっぱりないのである。

「うわっ、アッチー!」

 ザバァーとシンクにお湯を零せば、湯気が思い切り睦月を直撃する。
 思わず鍋の取っ手を離しそうになったけれど、そこはがんばって持ち堪えた。

「ふぅ…。後は殻を……つか、氷融けてんだけど…………アツッ!」

 氷水の中に沸騰したお湯を入れたのだ。氷だって融けるに決まっている。
 でも、言われたとおりにしたのだから、これでいいのだと思っている睦月は、ゆで卵の入っている元氷水の中に手を突っ込んだが、思ったよりも水が熱くて、ビックリして手を引っ込めた。
 氷水に対して、熱湯のほうが多かったのだから、当たり前だ。

「うぅ~…どうしたらいいの…?」

 最初に火傷した指先を銜えながら、睦月は、和衣と練習したときのことを、必死に思い出す。
 あのとき和衣は卵を氷水に浸けた後、睦月に、水の中で殻を剥かせたのだ。あのときは、完全に水の温度だった。ということは、今これがお湯になっているのはやっぱり誤りだから、水に入れ替えないと。



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精一杯返そうとするところ (6)


「はぁ~……もう大変!」

 ゆで卵くらい、と舐めてかかっていたが、結構難しい。
 和衣は簡単そうにやっていたのに…。

「つか、全然剥けないんだけど…」

 水に入れ替えたボウルの中で、睦月は一生懸命に卵の殻を剥いてみるが、殻に白身がくっ付いて来て、全然キレイに剥けない。
 和衣と一緒にやったときは、もっと簡単に、つるんと殻が剥けたのに。あのときと同じ手の感じで睦月はやっているのに、今度は全然うまくいかないのはなぜ?

「う~ん……あんまり食べたい感じじゃないなぁ…」

 ようやく剥けた1つを眺めて、睦月は一言漏らす。
 卵をゆでただけなので、マズイとかはないだろうけど、とても食欲をそそる出来とは言い難い。それを、自分で食べるのではなく、亮に食べさせようかというのだから、そんなの絶対に『ナシ』だ。

 それでもがんばってもう1つも剥いてみたが、結果は同じ。
 失敗もいいところだ。

「何がダメだったんだろ…」

 いろいろとダメなところはたくさんあったのだが、自分では、和衣に言われたとおりのことをしたと思っている睦月には、その原因はまったく分からない。
 まぁ、今日生まれて初めて作ってみたのだから、失敗も仕方がない…と、和衣と違って根がポジティブな睦月は、そう思った。

「つか、ヤベ。亮来る前に片付けないと…」

 今日は飽くまで練習だから、ゆで卵を作っていたことは、亮には内緒だ。
 別に知られたっていいんだけれど、結局失敗に終わったから、やっぱり隠しておこう。

「この殻……どうしたらいいんだ?」

 和衣は、剥いた殻を纏めて生ゴミのところに捨てていたけれど、今はボウルの中にグザグザに浮かんだ状態になっていて、どうやって水と殻を分けたらいいか、よく分からない。
 というか、この部屋で、生ゴミはどうしたらいいんだ?

「ど…どうしよ…」

 とりあえず殻は後回しで、鍋を片付けよう。
 洗う。

 ……………………。

 ダメだ、分からない。
 多分このスポンジに洗剤を付けたらいいんだと思う。どのくらいの量かは分からないが。



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精一杯返そうとするところ (7)


「えーっと…、えっと、えっと…」

 困り果てた睦月が部屋の中をウロウロしていたら、玄関のドアの開く音がして、ビクリと肩を竦ませた。
 亮が帰って来た!
 それまでには片付けまで全部終わる予定でいたのに、まったく計算違いだ。

「ただいまー」
「わぁー亮! 待って! 待って待ってー!」

 睦月は慌てて玄関に駆けて行ったが、今一歩遅かった。
 すでに亮は靴を脱いで部屋に上がり込み、そして台所の惨状を目の当たりにしていたのだ。

「え…、何これ…。睦月、台所で何したの? …ゆで卵?」
「あー…」

 ボウルの中の不格好な塊がゆで卵だと見抜いた亮は、台所と睦月の顔を交互に見る。
 ここが亮と睦月の部屋で、亮が身に覚えがないのなら、台所をこんなふうにしたのは、睦月に他ならないから。

「ゆで卵食べたかったの? 言ったら作ったのに。俺が帰って来るのも待てないくらい?」
「……」

 コートをしまった亮は、台所に向かう。睦月がグチャグチャにしたのを片付けるつもりなのだろう。…そんなこと、亮にさせるつもりなんか、ないのに。
 ゆで卵だって、そこまでして食べたかったわけではない。
 亮に何かしてあげたくて、でも出来ることなんか何もなくて、ゆで卵くらいなら…と思っただけで、でもよく考えたら、亮がゆで卵を食べたいタイミングなんか分からないし、食べたくもないものを作ったってしょうがないのに。

(それ以前に、あれじゃ食べる気しない…)

 睦月は、自分の作ったゆで卵らしきものを思い出し、溜め息を零した。
 とりあえず、亮はあのゆで卵を、睦月が自分で食べたくて作ったものだと思っているようだから、もうそういうことにして、さっさと食べてしまおう。

「はい、落とさないでね?」
「……」

 睦月が作ったゆで卵をお皿に乗せて、亮が渡してくれる。
 きっと本当は『ありがとう』と言うべきなんだろうけど、睦月は何も言えずに、お皿を持ったまま、亮の背中を見つめる。…こんなはずじゃなかったのにな。

「…亮、ご飯は?」
「え? 俺? 食って来たよ?」
「ふぅん」

 …そっか。なら、なおさらこんなのいらないのか。今日は練習で、本当に亮に食べさせるつもりで作ったわけではなかったから、別にいいんだけれど。
 でもなぜか、ちょっと残念に思う自分がいるから、困る。

「どうした、睦月?」
「…お風呂、行く」
「あ? そう? え、食わないの? 卵」
「…………、後で」

 不思議そうな顔をする亮の横をすり抜けて、睦月はパンツとタオルを手にすると、部屋を出て行った。



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精一杯返そうとするところ (8)


 睦月のカラスの行水のような入浴の後、亮も風呂に行って戻って来ると、睦月はブランケットに包まってテレビを見ていたが、若干ウトウトしていたのか、ドアの開く音に反応して、ビクンとその体が震えた。
 …10時。
 一般的な大学生が寝るには、過ぎるくらい早い時間だが、睦月的にはそろそろおねむの時間だ。

「睦月、テレビ見てるの? ニュース?」
「見てるー…」
「嘘ばっか。変えていい?」
「…ん」

 先ほどまで見ていた番組が終わって、次のニュース番組になってしまったのだが、チャンネルを変えるのが面倒くさかっただけなので、亮が変えたいのなら勝手にすればいい、と睦月は頷いた。

 チャンネルは、何やらバラエティーショー。
 普段からこの時間はそろそろ寝ようかと思っている時間帯なので、睦月が毎週欠かさず見ている番組もないため、何をやっているのかはよく分からない。
 お笑い芸人さんがたくさん出ていて、亮、こういう番組好きなんだっけ…? と、寝惚けた頭で睦月は思う。

「ねぇ睦月」
「別にいいよぉ…? この番組でも…」
「いや、そうじゃなくて」

 もともとテレビとかそんなに興味ないから、亮が見たい番組でいい。
 そろそろ眠くもなってきたけれど、睦月は明るくてもうるさくても眠れるし。

「じゃなくてね、これ食っていいの? 俺?」
「…ぅ? ………………うぇ!?」

 亮が何のことを言っているのか分からず、目をこすりながら亮のほうを見たら、亮が持っていたのがゆで卵の乗ったお皿で、一気に睦月の眠気が覚める。
 そういえばテーブルの上に出しっ放しだった。
 先に睦月が風呂に行くとき、亮には後で食べると言っていたのだが、風呂から戻って来ても、何となく食べずにいたのだ。

「え、何で? 亮、ご飯食べて来たんでしょ? 何で食うの?」

 別に亮が食べたら悪いわけではないのに、焦り過ぎたせいで、早口で捲し立てた言葉は、何だか責めるような口調になってしまった。
 亮のほうが見れなくて、睦月は視線を落としたまま、「いや…、別に食っていいけど…」と、おずおずとお皿ごと亮のほうに差し出した。

「俺、眠いからもう寝るね。亮おやすみっイテッ」
「ちょっ」

 眠いのは嘘ではないし、ゆで卵のことをいろいろ追及されるのは嫌だから、睦月は亮にお皿を渡すと、そそくさとベッドに潜り込もうとした。
 が、慌てていたせいで、すねをベッドの縁にぶつけてしまった…。



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精一杯返そうとするところ (9)


「ううぅ~~~…」
「何してんの、大丈夫? …じゃないよね」

 痛みを堪えて、睦月がベッドの上で蹲っていると、亮の近付いてくる気配がする。
 何かいろいろ何でもないことにして、さっさと寝てしまいたいのに。

「睦月? 足打ったの? 見してみ?」
「へい、き…」

 こればかりは亮に見せたところでどうにかなるものではないので、睦月は大人しく痛みが引くのを待つ。
 しばらくして、だいぶマシになったところで体を起こしたら、亮に捕獲された。

「や…、もう寝る…」
「寝ていいけどさ。ね、睦月、アレ、俺のために作ってくれたの? 卵」
「違っ…」
「でもカズが、睦月と一緒に練習した、て言ってたよ」
「なっ…!」

 カズちゃんのお喋り! と、睦月は心の中で、世話焼きな友人に文句を言う。
 確かに先ほど一緒に風呂に行ったとき、ゆで卵を失敗したことと、それが亮にバレたものの、睦月が自分で食べるものだと勘違いしていることを、和衣に話した。
 それを聞いて、和衣が亮に事情を話したに違いない。

「違うよ、今日のは亮に食べさせるつもりで作ったんじゃないし。今日も練習だもん。これは違うの!」

 うまく出来たら亮に食べてもらおっかなぁ…とは、実はちょっと思っていたけれど、一応今日は練習ということで、亮が帰って来る前に作って、お片付けまでしておくはずだったのだ。
 …まぁ、全然予定どおりに事は進まなかったけれど。

「でも、初めて睦月が1人で作ったんでしょ?」
「ぅ…、まぁ…」
「俺のために」
「だから別に亮のためとか、その、だから…」

 いや、元を正せば、和衣に唆されて、いつもお世話になっている亮に、お礼も兼ねて何か作ってあげよう、というところから始まりはしたんだけれど。
 それは、うまく出来たら亮に食べてもらう、ということであって、こんなのを食べさせたかったわけではない。

「睦月が、俺のために何かしてくれた、てだけで、すっげぇ嬉しいんだけど」
「…ん」

 むぎゅ、と抱き締められて、ちょっと苦しい。
 でも離れたくなくて、睦月も亮の背中に腕を回す。



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精一杯返そうとするところ (10)


「…ホントはね、もっとつるんてなるはずだったの」
「卵?」
「だって、カズちゃんとしたときは、もっとおいしそうだった」

 でも、いよいよ自分で作ってみたら、この有り様だ。
 まぁあのとき睦月は、鍋にお湯を入れたのと、卵の殻を剥いただけだけれど。

「だから、亮にはこんなのじゃなくて、もっとちゃんと出来たの、食べてもら…」
「でも嬉しい」
「俺は嬉しくないっ…」

 最後はみんな亮にやってもらったし。
 こんなはずじゃなかったし、しかも今何だか拗ねた感じになっているのも嫌だし、何か全部嫌だ。なのに亮、嬉しいなんて言わないでよ。

「だって、睦月がそうやって返そうと思ってくれただけで、俺、嬉しいんだもん」
「んぅ~~~…」
「ね、だから食っていい?」
「…ん」

 睦月はとうとう観念して、コクリと頷いた。
 亮の腕が少し離れて、ちょっと寂しくなっていたら、亮がボロボロのゆで卵を食べていた。その姿を見るのも、なぜだか切ない気持ちになって、睦月は亮の胸に顔を押し付けた。

「何でそんな顔してんの? 俺、嬉しいて言ったの……信用ならない?」
「…んなことない」
「はい、むっちゃんも食べて?」
「ぅむ」

 いらないと言おうとした口に、ゆで卵が押し付けられて、睦月は仕方なくそれに噛り付いた。
 …見た目ほど、変な味ではない。まぁ卵をゆでただけだし、当たり前なんだけれど。でもそれが、少しだけ救いになる。

「…ありがと、亮」
「何で? ありがとう、は俺でしょ? ありがと、むっちゃん。だーい好き」

 鼻先にキスされて、睦月は擽ったそうに笑った。



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*end*
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30万hitしてました。ありがとうございます。 & おまけのアリス


【本日のお話の更新は、1つ前の記事です】

 いつの間にやら30万Hitしておりました。ご訪問くださるみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。
 日々の訪問者数を見ると、1日に150人くらいのかたが来てくださっていて、数あるサイトやブログの中から、我が家を気に掛けてくださっているのだと思うと、本当に嬉しく思います。
 また、コメントや拍手、ランキングのクリックなどをくださるみなさま、ありがとうございます。大変励みになっています。
 これからも恋三昧を、よろしくお願いいたします。


 あと、お詫びがあります。
 ここ最近、更新ミスが多くて本当にすみません。
 私がもっと気を付けていれば起こらないことなのに、申し訳ない気持ちと情けなさでいっぱいです。
 こうして1つの区切りを迎えることが出来たのを機に、気持ちを引き締め、訪問くださるみなさまが読みやすく楽しいブログを目指していきますので、よろしくお願いします。

 何か気付いた点がありましたら、お手数でなければ、教えてください。恋三昧の半分は、みなさまの善意から成り立ってます(笑)



 さてさて、相変わらずおもしろい企画もへったくれもないブログですが、私がおもしろくないのはいつものことなんですけどね、せっかくなので今回はお礼のおまけをお届けします!
 題して、『「君といる~」のみんなで、アリスの配役をしちゃうぞ企画!』……ノーセンスなのは生まれたときからです。ゴメンなさい。
 こういうのが苦手でないかたは、どうぞ。


==========

愛菜「みなさま、お待たせいたしました! これより『「君といる~」のみんなで、アリスの配役をしちゃうぞ企画』を始めます!」
眞織「司会進行は、私たち愛菜&眞織で、いつもよりテンション高めにお送りいたしまっす!」

亮、睦月、和衣、祐介、翔真、真大が2人の前に横一列に整列。何でこんなことしなきゃいけないのかとは思うが、何となく逆らえない。

愛「内容はタイトルどおり、アリスに登場するキャラをみんなに配役しちゃおうという、それだけの企画です!」
眞「それだけ! でも一応、衣装もあります! ちなみに役は主なキャラである、アリス、白ウサギ、チェシャ猫、帽子屋、三月ウサギ、ハートの女王です!」
愛「配役については、話し合いで決めるという意見もありましたが、とりあえずハートの女王は真大くんでお願いします!」

亮「えっ、何その独断。そうやってどんどん配役されてっちゃうの? 俺ら」
愛「いや、他はまだ決まってない。でも何となく真大くんは女王様かな、て思って」
真「そーですよ、亮くん。文句あるヤツは、首をはねちゃうぞ☆」

睦「(すでになり切ってる…)」
祐「(サラッと恐ろしいこと口走ったよな、コイツ…)」

眞「続きまして…………あ、むっちゃん、帽子屋さんか三月ウサギやる? この2人…つーか2匹、ずっとお茶会してんのよ。何かむっちゃん向きじゃない?」
睦「お茶飲みしてるだけでいいの?」
愛「お茶飲みて言うと、おばあちゃんみたいな感じだけど…。お茶会でお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしてんの」
睦「やる! (ハッ)帽子屋!」
眞「帽子屋がいいの? 三月ウサギじゃなくて? 帽子屋は頭イカレてんのよ?」
睦「帽子屋がいい」←三月ウサギはウサ耳を着けなければいけないことに気が付いた
愛「じゃあ、むっちゃんが帽子屋てことで」

亮「やっぱりお前らが勝手に決めてってんじゃん!」
眞「じゃあ亮、何がやりたいのよ」
亮「何って…、睦月が帽子屋やるなら、三月ウサギ! 一緒にお茶会!」
愛「アンタのウサ耳とか、全然見たくないんだけど」
亮「うっせぇ」

眞「残りはアリスと白ウサギとチェシャ猫か…。祐介くんは白ウサギだね、やっぱ」
祐「えっ!? 俺、ウサギ!? ちょっ(ホントは帽子屋がよかったのに…!)」←帽子屋を決めるとき、口を挟めなかった
愛「この中なら白ウサギでしょ」
祐「何で!?」
愛「チェシャ猫の趣きがない」
祐「趣き…」

睦「ゆっちがウサ耳…。フッ」←人のことなら、どうでもいい
祐「(女装よりはマシ、女装よりはマシ、女装よりはマシ…)」←気を落ち着けるおまじない
亮「いいじゃねぇか。ウサギ同士、仲良くしようぜ」
祐「(女装よりはマシ、女装よりはマシ、女装より…)」←聞いてない

愛「じゃあ次は…」
翔「(ハッ)はいっ、はい、はいっ! 俺チェシャ猫!」
眞「どうしたの、急に。別にいいけど。じゃあ翔真がチェシャ猫ね」
翔「(あっぶねー、ここでチェシャ猫を取らなかったら、アリスになるトコだった…!)」

愛「じゃ、カズちゃんがアリスね」
和「えっ何でっ!?」←さっさと配役が決まっていくので、付いていけてなかった
眞「大丈夫、かわいく変身させてあげるから♪」
和「やっ…ヤダ~! ショウちゃん、変わって!」
翔「ダメだって。もう決まっちゃったのは変われないの!」
和「ヤダぁ~」
翔「それにカズ、ホラ、白ウサギは祐介じゃん? アリスは白ウサギ追っ掛けるんだよ? 俺が追っ掛けたらおかしいじゃん。やっぱ、そこはカズじゃないと!」
和「………………。そっかぁ」
全員「(納得した…!)」


(生着替えは、主に大人の事情で、ここでは省略いたします(笑) 需要があれば、また…笑)


愛「それでは衣装チェンジの終わったみなさまから、一言ずついただきましょう!」
眞「どうぞ!」

カズちゃん as アリス
「また女装~! もぉやぁ~!!」

ゆっちさん as 白ウサギ
「ウサ…耳…」←まだ現実を直視できていない

亮タン as 三月ウサギ
「6人中3人が耳着けてんだ。恥ずかしがることもねぇだろ」

ショウちゃん as チェシャ猫
「まともな男の格好て帽子屋だけだし、それ思うと、俺てまだマシなほうだな」

むっちゃん as 帽子屋
「このお菓子、おいし~!」

真大タン as ハートの女王
「(女王様×ネコ耳……新しいジャンルを開拓しそうだ…)」




 相変わらず、私だけが楽しくてすみません。既存のお話で、自分のキャラの配役を考えるのは、結構好きです。
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手がいつも冷たいところ (1)


「睦月、何してんの?」

 授業が終わって大学を出たところで、隣を歩く睦月がコートのポケットを引っ張り出したり、カバンの中を漁ったり、妙にモゾモゾしているから、気になって亮が声を掛けると、睦月は眉を寄せて亮を見た。

「何? どうした?」
「…手袋がない」
「は? 手袋?」

 手袋といえば、スーパー寒がりな睦月の、冬の必需品だ。
 コートを着て、ロシア帽を被って、マフラーと手袋を装着して、完全防備をしなければ、この時期は絶対に外になんか出ない睦月が、一体どうしてその大事な手袋をなくすというのだろう。

「だって、朝行くとき着けてたじゃん」
「そうだよ! だから、ねぇっつってんじゃんかっ!」
「いや、そんなキレられても…」
「う゛ー…」

 学校に着いて、授業が始まるときには、みんな外してはいるけれど、いつもどおりの行動、カバンの中に入れるか、そうでなくても他の荷物と一緒に置いているだろうに。

「教室、もっかい見てくる?」
「…他の授業で使ってないかな?」
「分かんねぇけど…、行くなら付き合うよ?」

 迷っている睦月に、亮はそう提案する。
 もう1度大学の中に戻るのは面倒くさいけれど、この後、亮は別に何の用事もないし、睦月が手袋を探したいと言うなら、それに付き合ってもいい。
 今日、大学の構内で、睦月が立ち寄った場所なんて、高が知れているし。

「うぅ~…どうしよっ」
「他の手袋持ってないなら、一応探しに行ったら? まだ冬は長いんだし。それとも、新しいの買う?」
「…探す」

 その手袋が、ものすごいお気に入りなわけではないけれど、この冬買ったものだから、また買うのも何だかもったいない気がするし、手袋がない状態で外に出るのが、何よりもツラい!

 最初の授業で手袋を外してから、大学の構内にいる間はいちいち手袋を着けたりしないから、1限の哲学の教室にある可能性が高い、ということで、とりあえずそこに向かってみる。
 幸い今の時間は使っていなかったようで、教室には誰もおらず、2人は授業中に座っていた席の辺りに急ぐ。でも。



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