恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2013年05月

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この街は、今日もメイドで溢れている (2)


 お客さんの数が俺らの給料に影響を与えるから、ビラ配りも手は抜けないけど、ウチの店は、ビラ配りの目標枚数はあっても、ノルマじゃないのがいいところ。
 ビラ配り出て、絶対にお客さん連れて来なきゃダメ、とかもないし。
 よそから来たメイドさんが、『前のお店、お給料全然振り込まれないし、店長のお気に入りじゃないと、1日中ビラ配りだけなんだよ~』て嘆いてたの聞くと、ウチの店てかなりいいほうだと思う。
 店長がよく、『自分とこのメイドを大事にしない店なんて、ロクなトコじゃねぇっ』て言ってるしね。

「マナちゃん、ねっちゅーしょう、気を付けてね」
「うん、ありがと」

 この子、熱中症て漢字で書けるのかな? て逆に心配したくなりつつ、俺はビラの束を持って、外へ向かった。
 確かに外、めっちゃ暑い。くるみちゃんも、ぼやきたくなるわけだ。

 ハッキリ言って、ビラ配りの仕事は、メイドさんに人気がない。
 そりゃみんな、『お帰りなさいませ、ご主人様♪』て、オムライスに絵とか描きたくてメイドさんになってんだから、ビラ配りなんかつまんないよね。夏暑くて冬寒いし。
 でも俺はビラ配り、嫌いじゃない。好きでやってるメイドさんだけど、『チューチューごっくん』とかするよりは、やっぱりビラ配りのほうがマシかな、と。

「メイドカフェぴゅあでーす。一緒にご帰宅しませんかぁ?」

 声色を変えて(見た目だけなら女の子だけど、地声は完璧に男だから)、ビラを差し出す。
 興味を持って話を聞いてくれる人には、女の子と男の娘がいる店だって話すけど、単にビラを配ってるときは、女の子だと思われたほうが、ビラを受け取ってもらいやすいからね。

「メイドカフェぴゅあでー……ッ、、、」

 機械的になるのはよくないとは分かってるんだけど、無視られるほうが多いから、気付くと、相手もよく見ないで、ただビラを差し出しちゃってる。
 でも、そんな中でも、足を止めて受け取ってくれた人がいたから、よっしゃあ! て思ったのも束の間、俺は言葉を失った。この人は――――三木本先生だ!

 さすがに構外じゃ白衣は着てないし、なぜかメガネも掛けてるけど、間違いなくこの人は三木本先生だ。
 え、メイドさんとか好きなの? 萌え? てか、そのメガネは、こういうところ来るための変装ですか?

 俺の頭の中は、疑問やら焦りやらでいっぱいになるけど、肝心の三木本先生は、俺のほうを見ることもなく、ジーッとビラを食い入るように見つめてる。
 お店に来る気がある、てことなんだろうか。そしたら俺、先生のこと、お店に連れてかないとじゃん!
 あ、でも、男の娘メイドもいます、て言ったら、萎えて、来ないかな? …いや、そうだとしても、お店の仕組みを説明しなきゃいけない状況に、変わりはない。

 さすがに、見た目でバレない自信はあっても、声聞かれたらバレるに決まってる!
 ずっと声変えて喋り続けるなんて無理があるし…。でも、がんばれば出来るかな? 相当変だと思うけど、三木本先生にバレるよりは、そのほうがマシ!



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この街は、今日もメイドで溢れている (3)


「ご…ご主人様、」
「………………。何時までバイトなの?」
「はっ?」
「今日、何時まで?」

 ビラから顔を上げた先生は、今度は俺の顔をジッと見ながら、そう言って来た。
 声変えて喋り続けようとしたら、若干上擦っちゃって、それに焦り掛けてたけど、それ以上に、先生の言葉にわけ分かんなくなった。何言ってんだ、この人は。メイドさんをナンパしたいだけの人?

「えっと…」

 本気で答えたほうがいいのか、適当に受け流したほうがいいのか、答えに迷う。
 これが三木本先生じゃなかったら、どうとでも出来るのに。

「何時まで?」
「えー…と、23時まで営業中でーす」

 とりあえず、当たり障りのない答え。
 もしナンパ目的だとしても、この返事なら、その気がないのが分かるし(もし伝わんなかったら……先生、鈍感すぎる…)。

「…俺、マナくんの、バイトの終わる時間聞いてんだけど?」

 こないだ、初めて話をしたときは、何かかわいらしい印象だったけど、メガネしてるせいかな? ちょっとクールそうな雰囲気…………て、そうじゃなくて!
 今先生、『マナくん』て言ったよね? もしかして、俺だって気付いてる…?

「何時に終わるの? マナくんメイドさん」

 ニッコリ。
 その最上級の微笑みは、男の娘メイドやってる俺ですら、負けちゃうんじゃないかていうくらい、かわいらしいけど、今の俺にしたら、ただただ恐ろしいだけでしかない。

「三木本、先生…」
「グフ」

 俺が何とか声を絞り出せば、先生は、あの変な笑い方で笑った。
 男の娘メイドやってるのがバレて、俺が焦ってるとでも思ってるんだろうか。
 でも、お店は全然違法じゃないから問題ないし、男の娘だって好きでやってるんだから、俺が焦ることなんか何もない…………わけじゃないけど(やっぱり誰かにバラされたくないし)。

 でも、もし先生が誰かに言ったところで、俺が男の娘メイドやってる証拠なんて、どこにもない。メイド姿の写真はあるけど、それで俺だってバレるわけないし。
 いざとなったら、白を切り通せばどうにかなる!

「『メイドカフェぴゅあ』――――チラシ貰っちゃった、俺」
「ッ!」

 俺が心の中で、三木本先生の思いどおりになんかなんないぞ、てほくそ笑んでたら、三木本先生はそれを見透かしたかのように、手にしていたビラをチラつかせてきた。
 バカか俺は。さっき、三木本先生だって気付かずに、ビラを渡してるじゃないか!



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この街は、今日もメイドで溢れている (4)


 で…でも、お店がバレたって、俺だって気付かれなきゃ大丈夫なんじゃ…(友だちの瑛士だって、初めて俺のメイド写真見たとき、気付かなかったし)。
 けど、メイドカフェで働いてるとか、噂が流れるのは嫌だ。みんなにおもしろがられるのは目に見えてるし。

「で、何時に終わるの? バイト」
「…そんなこと聞いて、どうするつもりですか?」
「それ答えたら、何時に終わるか、教えてくれんの?」

 先生は、どこまでも食い下がるつもりらしい。
 俺が答えるまで、このやりとり、ずっと続くんだろうか。

「…教えます」

 このままじゃ全然ビラ配りが進まないし、俺ら2人して相対している様子は明らかに異様だから、早く切り抜けたくて、俺は渋々そう答えた。
 それに、教えなきゃバラすとか言われても困るし。

「んーとね、バイト終わったマナくんを出待ちして、お持ち帰りするつもりなの」
「ッ…バカかっ! あっ…」

 先生があんまりにもバカなこと言うから、思わず大きな声を出しちゃって、慌てて俺は口を塞いだ。
 メイドさんがビラ受け取ってくれたお客さんに怒鳴るとか、お店のイメージダウンだし、バカなことを言っても相手は先生だし。

「ぐふふ。やっぱりマナくんは、怒ると、口が悪くなる」
「……」
「で、何時に終わるの?」
「…5時です」

 とうとう観念して俺が答えると、先生はニンマリと笑った。
 何かを企んでるみたいな、嫌な顔。
 本気で出待ちするつもりか。つか、メイドさんのお持ち帰りとか、出来ると思ってんの? いや、それ以前に、自分の大学の学生に、そんなことしていいと思ってんの?

「大丈夫。変なことはしないから」
「…」
「じゃ、5時にまた来るね」

 先生は、お店のビラをしっかりとしまうと、メガネをクイッと上げて、去って行った。
 変なことはしない、て言ったけど、三木本先生がちょっと変なのに、その基準で変なことしないとか言われても…。

 あぁ、ビラ配りが嫌いになりそうだ…。




この街は、今日もメイドで溢れている


(つか、どうせなら、お店行って売り上げに貢献しろよ!)



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (1)


(point of view : manaho)



 三木本先生とのことがあったにも関わらず、あれから1時間のうちに、2人のご主人様をご帰宅させた俺は、もしかしたら、くるみちゃんより腕があるかもしれない。
 そんなちょっとした達成感を抱きつつ、ビラ配りを交代してお店に戻ると、ゲームの対戦を指名された。
 お店では、食事だけでなく何種類かのゲームもあって、ご主人様は好きなメイドさんを指名して対戦できるんだけど、そこがお金の使わせどころだから、1回でも多くやってもらうため、メイドさんたちは、実はこっそり必死だ。

「マナちゃん、気合いだけは誰よりあるし、結構器用なんだけどねぇ」
「ううぅ…言わないでくださいー…」
「意外と打たれ弱いよねぇー」
「言わないでー…」

 ゲームを対戦したお嬢様の言葉に、俺は両手で顔を覆った。泣き真似じゃない、本当に泣きたい気分なのだ。
 だって、三木本先生のことが気になっていたせいか、得意のゲームでボロ負け。泣かずにいられるか。

 負けず嫌いの俺は、普段から、指名されると、メイドさんて立場を忘れるくらい本気になっちゃうんだけど、その分、負けたときの落ち込みも半端ない。
 で、そのたびに、ご主人様やメイドさん仲間に慰められてる。

 もちろん今日も、このままじゃ終われないっ! て、もう一勝負したものの、そこでもさらに負け。ますます凹む俺に、お嬢様は気をよくしたみたいで、再度対戦を挑まれた。
 でも結局、何回やっても今日は全然勝てなくて…………今日の俺は、お店の売り上げ的には、すばらしい働きをしたけれど、なけなしのプライド的にはボロボロだった。

「ご主人様……じゃない、お嬢様…」
「ちょっ、そこ間違わないでよっ、キャハハ」

 ゲームに負けて凹んで言い間違いしてるようじゃ、全然仕事できてないけど、このお嬢様にはウケてるみたいだから、セーフかな。

「マナちゃん、次もまた対戦しようねっ?」
「うぬぬ…、かしこまりました…」
「そのときは、ちょっと手加減したげるから」
「ダメです! 全力でやってくださいっ。俺も、あ、私も本気で行きますからっ」

 今日はめいっぱい負けたけれど、だからって、勝負で手加減とかされたくない。
 本気で闘い合って、勝敗を決めることに意味があるんだからっ!

「んふふ、了解」

 すっかり余裕の笑みのお嬢様に見送られ、俺はトボトボと奥に引っ込んだ。
 ゲームで負けて、こんなに凹んでるのに、これから三木本先生に会わなきゃいけないなんて…。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (2)


「マナちゃん、今日ボロ負けだったね、ゲーム。珍し~」
「あぅ…」

 メイド服から私服に着替えるのに、バックルームに行こうとしたら、ビラを手にしたアリスちゃんが笑いながら声を掛けてきた。
 アリスちゃんは、その名前のとおり、ちょっと不思議の国のアリスを意識した雰囲気作りをしている子だ。みんなと同じ制服を着てるのに、髪型とかメイクとかで、そう見えてくるから不思議。

「俺、次までにもっと練習してくる…」
「いや、そこまでしなくても…。でも、たかがゲームで、そこまで本気になれるから、マナちゃん、人気あるのねー。私ももうちょっと見習わないとだわ」
「べ別にそんなに本気になってないしっ」

 負けず嫌いは認めるけど、お客さん相手にそんなにムキになってたのかと思うと、ちょっと恥ずかしい。
 でも、言い返したのに、アリスちゃんには軽くあしらわれるだけで終わってしまった。

 俺はますます落ち込みながら、メイクを落として、私服に着替えた。
 最初はメイクするのも落とすのも、1人じゃ全然ダメだったけれど、今じゃもう完璧。
 ゲームもそうだけど、俺は、やるからにはちゃんとやりたいから、いつの間にか、メイクとかもちゃんと研究するようになってて……瑛士じゃないけど、俺、何目指そうとしてんだろ、て思うこともある。

 三木本先生には、バイトが終わるのは5時だて言ったけれど、終わってから帰り支度とかするんだから、お店を出るのは5時半くらいになってた。
 もしかして先生、5時にここに来て、待ちくたびれて帰っちゃったとかないかな…………なんて思ったけれど。

「遅いぞ、マナくん。ご主人様は待ちくたびれちゃったぞ」
「…………」

 待ちくたびれちゃってるところまでは正解だったんだけど、三木本先生はそれで帰っちゃってるとかはなくて、しっかりバッチリ店の前で出待ちしていた。
 というか、隅のほうとはいえ、店の前でしゃがんでるとか、すごい邪魔なんですけど。

「じゃあ帰ろっか」
「帰るて、どこに」

 さっきと同じ格好、でもさっきよりもたくさんの荷物を抱えた三木本先生が、スクと立ち上がった。
 店に入るような素振りはないから、そういう意味の『ご帰宅』じゃあないらしい。

「俺んち」
「先生んち? 俺も一緒に行くってこと? 何で?」
「マナくんちでもいいけど、ヤダろ?」
「ヤダ」

 失礼かもしれないけれど、嫌なものは嫌だし、この人の場合はハッキリ言わないと通じないと思ったから、きっぱりと答えた。
 というか、俺が聞きたいのは、どこに行くのかもだけど、それ以前に、俺も一緒に行かないといけないのか、てことなんだけど。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (3)


「俺も、先生んちに行くの? 何で?」
「俺んち来るのも嫌なら、どっかのホテルでも入る? 俺は別にどこでもいいけど」
「ヤダよ!」

 何なんだ、その発想は。
 というか、さっき、変なことはしないとか言ってたけど、何かそれも怪しく思えてきた。

「ねぇ、先生んち行って、何すんの?」
「いろいろ」

 …ますます怪しいし、どんどん嫌な気分になってくる。
 いっそこのまま逃げ出しちゃおうかな、とか思ったけれど、ここで逃げたところで、学校で会う可能性はあるし、先生はお店を知ってるから、逃げ切れない…。

「乗って」

 このまま駅に行くのかと思ったら、先生は近くのコインパーキングで料金を精算して、停めてあった車の鍵を開けた。
 何かちょっといい車…。
 大学の講師て、そんなに儲かんの? 有名大学とかだったらそれもありそうだけど、自分で通ってて言うのもなんだけど、ウチの学校、そんなレベルじゃないと思うんだけど。

「なぁに、マナくん。そんなに見惚れちゃうくらい、俺て格好いい?」
「…見惚れてません」

 この人、本当に一体何者? と思って、先生のこと、つい見ちゃってはいたけれど、別に見惚れてなんかいない。
 こういうこと、いちいち言わなかったら、普通に格好いいと思えるのに。

 それから、何の会話もないまま車は10分くらい走って、駐車場のスペースに停まった。
 先生の家に行く、ていうのが本当なら、この辺に先生んちがあるてことか。

「…先生て、目悪いの?」

 車を降りると同時にメガネを外した先生に聞いてみる。
 別にそんなに興味はなかったんだけど、あんまりにもずっと会話がなくて、ちょっと気まずかったから。

「視力? スゲェいい」
「え?」
「何かメガネしてたら、格好いいかな、て思って」
「は?」

 メガネ男子的な?
 萌えの世界では、そういうの流行ってるけど、リアルに実践してる人ているんだ…。
 三木本先生と話とかするのは、こないだ学校でと今日だけで、でもそのうち何度思ったか分かんないけど、やっぱり思う、三木本先生て、すっごく変だ。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (4)


「こっち」
「え、先生んち、ここ?」
「そう」

 思ってた以上にデカいマンション。
 車もそうだけど……先生て何気にセレブ?
 金持ちの感覚て、やっぱり普通の人とは違うだろうけど……でも先生の変なのは、またそれとも違う感じがする。

「一人暮らしですか?」
「んーん、2人。でも出張で、明日の夜まで帰って来ないから、平気だよ」

 2人てことは……彼女?
 まぁ、留守の間に他の女、連れ込んじゃってるわけじゃないから、確かに別に平気だろうけど、でも、その人がいない間に連れ込まれちゃう俺て、実は全然大丈夫じゃないんじゃないかとも思う。

 つか、こんな変な人にも彼女がいて、同棲してんだ。それに驚くよ。
 悪いけど、何がよくて一緒にいるんだろ、て思う。

「お邪魔します…」

 いろいろ不審に思いながら玄関に入ると、そこは、女の人と一緒に暮らしてるとは思えない、さっぱりした感じの玄関だった。だって、何足か靴が出てるけど、みんな男物だし。
 先生が、リアルにメガネ男子とかやっちゃうような、ファッションに興味がある人だとしても、玄関に先生の靴しかないていうのも、どうなんだろ。
 靴なんて普通、女の人のほうがいっぱい持ってそうなのに。

「先生の彼女て、あんまファッションとか興味ないの?」
「は?」

 別にどうでもいいことだったけど、何となく聞いてみた。
 だって、彼女がファッションに興味ないなら、先生のメガネ男子、全然意味ないじゃん。

「? 俺、彼女いないけど?」
「え、彼女と同棲してるんじゃないの?」
「同棲…てか、一緒に住んでんの、男だけど」
「男? じゃあ、ただのルームシェア?」

 何だ。こんな変な人と一緒に暮らしてる彼女てどんななのか、それは興味あったのに。

「うん。ただのセフレ」
「…………、え?」

 先生の言葉に、俺の思考は止まった。
 セフレとか、そういう大人の事情はいいとして、先生、一緒に住んでる人、男て言ったよね? なのに、セフレなの? 先生、女より男のほうがいい人なの?



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (5)


「マナくん、いつまでそこいんの。早く、こっち」
「え…」

 別に俺は、人の性癖がどうであっても構わないんだけど、自分は(男の娘メイドなんかしてても)女の人のほうが好きだから、男の人に迫られたって困る。
 先生、もしかして俺があんな格好でバイトしてるから、勘違いしちゃって、俺のこと誘ったの?
 やめてよ、困る!

 先生はもう中に入っちゃったけど、俺はまだ玄関だ。今だったら逃げられる。
 ここで先生にオカマ掘られちゃうくらいなら、メイドさんしてることバラされるほうがマシだ。
 幸い、俺は三木本先生の授業は取ってないから、逃げたら単位をやらないとか、そんなパワハラ的なことをされる心配もしないし…………逃げるしかないっ!

「マナくん、何してんの?」
「あの、俺っ…」
「あぁ、もしかして、俺にヤられちゃうとか思って、心配してんの?」
「え…いや…」
「大丈夫だよ。俺、ネコ……突っ込まれるほうだから、マナくん連れ込んで、無理やりヤっちゃおうとか思ってないし」

 俺が何も答えられないでいるうちに、先生はあっさりとそう明かしてくれた。
 つか、俺は女の子としかシたことないけど、男同士で、何をどこに突っ込まれるか、想像がつかないわけじゃない。
 先生がどんな男の人と一緒に住んでるかは知らないけど、その人とセックスして、先生は突っ込まれるほうで…て考えたら、何かすごい生々しい感じがして、俺は慌てて頭からそれを振り払った。

「マナくん、大丈夫だから、入っておいで」
「……」

 もう、一体何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないのか、分からない。
 とりあえず、今夜俺は処女を失う心配はなさそうだから、そういう意味では、大丈夫、ということなんだろうか。

「んーふふ、じゃあね、マナくん、これ」
「…何ですか?」

 俺は嫌な緊張感でドキドキしながら、ゆっくりと部屋の中へと進んでいく。
 先生は、両手に抱えていた大荷物をリビングの真ん中で下ろすと、中をガサガサと漁って、何かを取り出した。

「はい、これ着て?」
「は?」

 何かを俺のほうに差し出してきたから、俺はわけが分からないまま、思わずそれを受け取ってしまった。
 でも、その袋に書かれていた店名に、俺は眉を寄せた。それは、俺がバイトしてるメイドカフェの近くにある、コスプレグッズを売ってるお店の名前だ。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (6)


「先生、これ…」
「着て」

 まだ袋の中身を確認したわけじゃないけど、嫌な予感がして先生のほうを見たら、先生は、笑顔だけど真剣な目でそう言ってきた。

「着て、て…」
「ウィッグもあるけど、着ける? 俺的にはないほうがいいけど、着けたほうが気分が出るなら、着けて?」
「先生、何言って…」

 先生が新たに袋から取り出したのは、金茶のロングヘアのウィッグだった。
 嫌な予感は、嫌な確信へと変わる。

「先生、あの…」
「あっちの部屋、使っていいよ? 何ならここで生着替えでもいいけど」

 俺が「no」の返事をするとは思っていないかのように、話が勝手にどんどん進んでいく。
 いや…、確かに先生は、俺に何かしらのコスプレをさせようとはしているけど、それが何も女装とは限らない。何かもっと普通の……男の格好かもしれないし…。
 俺は恐る恐る、受け取った袋を開けて、覗き込んだ。

「ッ…、バカかアンタはっ!!」
「え、何が?」

 袋の中身に、一瞬だけ俺は目眩を起こし掛けたけれど、すぐに気を取り戻して、先生に向かって声を荒げた。
 でも先生は、何で俺が怒鳴ったのか、本気で分かっていない様子で、キョトンと首を傾げた。

「何なんだよ、これっ」
「メイドさん」
「それは分かるけどっ、じゃなくて、何でこれっ!」

 …袋の中身は、一瞬でも期待した男物の衣装ではなく、思い切りメイド服。
 今日、最初に会ったときはこんな荷物持ってなかったから、ビラ配りしてる俺と会った後、わざわざ買ってきたんだろうか。本当にバカだ。バカすぎる。

「マナくん、着てよ」
「着ねぇよ、バッカじゃねぇのっ!?」
「バカじゃないよ。マナくんにこれ着せて、メイドさんになってもらって、オムライス作ってもらおうと思ってたんだから」
「それがバカなんだよっ。何で俺がそんなことしなきゃなんねぇんだよっ!」

 言っても無駄かもしれないけど、余りにバカすぎて、言わずにはいられない。
 こんなことのために、俺はこんなところまで連れてこられたのか。ホント、冗談じゃない。

「でも、マナくんがオムライス作ってくんないと、俺、明日森下が帰ってくるまで、飲まず食わずなの…」
「はぁ?」

 森下というのは多分、先生と一緒に暮らしてるという、セフレの人だろう。飲まず食わず、てのは大袈裟だけど、きっと普段、料理はその人がしているに違いない。
 だからって、どうして俺が、先生のためにオムライス作らなきゃなんないんだ。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (7)


「だって俺、料理できねぇもん。もう出前も飽きたし、コンビニも飽きたのっ! オムライス食いたいのっ!! わーん、オムライス食いたいよぉ~!!」
「ちょっ先生っ…」

 この人、いくつだよ!
 オムライス食いたいからって、何で手足をバタバタさせながら駄々こねるんだよ。俺、こんなの、マンガの中の子どもでしか見たことねぇよっ!

「マナくん、オムライス~! 作ってよぉ~!」
「わ…分かった! 分かったから、先生、ちょっやめてよ!」

 あまりのことに、俺はうっかり、了承の返事をしてしまった。
 それにしても、先生であることには間違いないから、一応『先生』て呼んでみたけど、この人、本当に先生か? て疑いたくなってくる。

「作ってくれるの!? ふわふわのヤツ!?」
「作りますよっ」
「ヤッター! 上にケチャップで名前とか書いてね?」
「……」

 ふざけんな、て言ってやろうかと思ったけれど、面倒くさいんで、とりあえず睨むだけにしておいた。

「つかマナくん、まずはこれに着替えて」
「だから何で! 先生オムライス食いたいだけなんでしょ? 俺がこれ着る必要がどこにあんだよっ」
「そのほうが気分が出るかな、て思って」
「何の気分だよ。大体俺は、メイド服着てオムライス作るのは仕事なの。お金貰ってんの。何でプライベートでそんなことしなきゃなんねぇんだよっ、しかもタダで」

 俺は一人暮らしで自炊もしてるから、メイドカフェで働いてなくたって、オムライスくらい作れるし、先生がそれを食いたいとそこまで言うなら、作ってやらないでもないけど、コスプレまでしてやる義理はない。
 何となくメイドカフェで男の娘メイドはやってるけど、もともとコスプレが好きとか、そういうわけでもないし、仕事以外で女装もコスプレもしたことはない。

「…………、じゃあ、お金払ったら、やってくれるの?」
「はっ…?」
「マナくん、バイトでお金貰ってるから、メイドさんしてるんでしょ? 俺もバイトで雇うから、これ着てメイドさんして?」

 ここまで言ったら、さすがに先生も諦めてくれると思ったのに、先生のしつこさのほうが一枚上手だった。
 というか、ここまで先生に関わってきて分かったんだけど、先生の場合、普通の人なら空気の読めない冗談で済むところが、そうでなくて本気なんだ。
 だから、金を払うというのも、本気でそのつもりなんだろう。その証拠に、鞄の中から、本当に財布を取り出してる。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (8)


「いくら払ったらいいの? 俺、メイドカフェなんて行ったことないから、相場とか知らないんだけど」
「先生…、そこまでする価値ないよ。金払わなくたって、オムライスくらい作りますから」

 面倒くさくなって、俺はそう提案した。
 とりあえずこの人の空腹を満たしてやれば、気は済むわけでしょ? だったら、そうしてやったほうが、手っ取り早い。

「でもマナくん、タダじゃメイドさんしてくんないんでしょ?」
「だから、俺がコスプレしなきゃいいだけの話でしょ!」
「そんなのヤダ!」

 なのに先生は、どうしても俺にメイド服を着せたいみたいで、すんなりとは納得してくれない。
 あーもう、マジで疲れる、この人! 何で俺、こんな人に目付けられちゃったんだろ。

「じゃあ、オムライスとコスプレ込みで、これでどうだっ!」
「ちょっ」

 先生が財布から出したお金は3万円。
 いくら何でも高すぎる! そんなのお店だってぼったくりだ。

「そ…そんなに貰えるわけないでしょ!」

 タダでもオムライスを作ると言っているんだから、そうなると、この3万円は完全にコスプレの値段だ。
 冗談じゃない! お金の話だって、先生を諦めさせるために言っただけで、本当に貰おうと思ったわけじゃないのに。
 もちろんその額は破格で魅力的だけど、先生の場合、それを受け取っちゃったら、他に何をさせられるか分かったもんじゃないから、恐ろしくて貰えない。

「じゃあ、どうしたらマナくんはメイドさんになってくれるの? 俺は、どうやったら、マナくんメイドさんのオムライスを食べたり、その姿を写真に収めたりすることが出来るの…?」
「ちょっと待て、写真て何だ」

 何気なく、サラッと要求を増やしてんじゃねぇよ。
 この人のこと、何かちょっと頭のかわいそうな人に思えて、一瞬絆されそうになってたけど、目が覚めた。

「どうせなら、マナくんのかわいい姿を残しておきたいじゃん。で、後で思い出してはニヤニヤしたいじゃん」
「変態かっ」
「何でだよぉっ! お店じゃ写真とか撮らせてんだろっ! そんなの、絶対後でズリネタに使われてんだぜっ」
「バッ…アホなこと言ってんじゃねぇよっ」

 確かにお店じゃ、オプションで一緒にチェキが撮れることになってて、撮ったヤツはご主人様やお嬢様に上げるけど…。
 そんなこと考えるの、先生くらいだ…………と信じたい。



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (9)


「大丈夫っ、俺はニヤニヤするだけで、それ使ってオナニーしようとか思ってないからっ!」
「当たり前だろっ!」

 さっき、勘違いとはいえ、この人に彼女がいるとか思った俺はバカだ。
 こんな変な人とお付き合いできる女の人なんか、絶対にいない。いや、先生がホモで、恋愛対象が男なんだとしても、お付き合いできる男の人がいるとも思えない。
 大体、友だちいんのか? セフレとはいえ、その森下さんて人、よく一緒に暮らしてるよな。

「…俺、もう帰ります」
「えっ、何で!?」
「アンタが変なことばっか言うからだよっ!」
「オムライスはっ!? 作ってくれる、て言った!」
「知るかよっ」

 俺が吐き捨てるように言うと、先生はオーバーなくらい『ガーン!』て顔をして項垂れた。
 もうそんなのも無視して出ていこうとしたんだけど、その直後に、グシャていう嫌な音が聞こえて、思わず足が止まってしまった。

「あ、ヤベ、卵が…」

 非情にはなり切れない俺が振り返れば、先生は、さっきみたいに落ち込んでるていうよりは、焦ったように袋の中を覗き込んでた。
 その直前の、『卵が…』てセリフと併せて考えると、きっと袋の中には卵が入ってて、項垂れて手を突いたとき、その卵を押し潰しちゃったんだろう。

「あー……これ、このまま捨てちゃえば、大丈夫かな?」
「は? 捨てる、て…」

 本当に、何をどうしたらいいか分からない子どものような顔で、先生は俺のほうを見上げて来た。
 捨てるというのは、その袋の中身のことだろうけど、見た感じ、袋の中、卵だけとは思えないくらいの膨らみがある。まさか、それを全部捨てる気なんだろうか。

「ちょっ…先生、そのまま捨てる気?」
「ぅ?」

 割れた卵の入っている袋を持った先生が、そのままゴミ箱のほうに向かい出すから、残念ながら俺の予感は的中していたようで、俺は慌てて先生を止めた。
 袋の中を覗けば、やっぱり卵だけじゃなく野菜とかいろいろ入ってて、でも潰れていたのはいくつかの卵だけで、他はちょっと卵で汚れてるだけなのに。

「何? ダメ?」

 約束のオムライスを作らずに帰ろうとした俺への当て付けでなく、何で俺に捨てるのを止められたのか本気で分からないみたいで、先生はキョトンとしてる。
 いくら料理しないにしたって、そんくらいのこと、分かんねぇのかよっ!



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オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい (10)


「あーもうっ、バッカじゃねぇの? 全部捨てることねぇじゃんっ、もったいないだろ!」
「ううぅ…、マナくんがまた怒った…」

 サイズ的に絶対に入り切らなそうなゴミ箱に、無理やり押し込めようとしている先生の手から、荷物を奪い取る。
 先生のことはムカつくけど、この食材たちに罪はない。こんな変な人に買われて、押し潰されて、挙げ句の果てに、調理されることも食べられることもないまま捨てられそうになるなんて。

 しかも、俺がこんなに苛立ってるってのに、それに反して、先生のお腹が『きゅるるるる~』て、それこそマンガみたいに鳴り出すから、もうホント気が抜ける。
 この人に対して、喜怒哀楽のどの感情も、本気で表すのが無駄に思えてくる。

「…作りますよ、オムライス」
「うぇ?」
「俺がオムライス作んないと、その…森下さんて人が帰って来るまで、飲まず食わずなんでしょ? 先生」

 観念して、俺はそう申し出た。
 放っておいたら、このオムライスの材料も捨てちゃいそうだし、何かこの人の場合、出前もコンビニも飽きた! てなったら、本当にそれすらも食わないで過ごしそうだから。

「…トロトロのヤツ?」
「はい」
「メイドさんは?」
「…」

 子どもみたいに、空腹で腹を鳴らしているくせに、どうあっても諦めるつもりのない先生に、俺は溜め息をついて肩を落とした。

「分かりましたっ。着替えればいいんでしょ、着替えればっ!」
「ヤッター!」

 拒否したところで、きっと同じやり取りの繰り返しになるだけだと分かっているから、俺は自棄になりつつも承諾した。多分、それが一番面倒くさくない。

 …そう。
 だから。

 決して、先生に絆されたわけじゃない。絶対にっ…!!




オムライスまでの道のりは、果てしなく険しい


「マナくんマナくん、『ふーふーあーん』もね?」
「調子乗んな!」



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パニエの下の誘惑 (1)


(point of view : mana)



「…先生、さっき向こうの部屋で着替えて来ていい、て言いませんでしたっけ?」

 結局、先生の買って来たメイド服を着る羽目になった俺は、無駄だとは思いつつ、非常に嬉しそうにスマホのレンズをこちらに向けている三木本先生に言ってみた。

 確かにさっき先生は、写真がどうとかは言っていた。
 でもそれは、メイド服姿を撮るのだと思っていたのに(だって、そう言ってたのよね?)、先生は、俺がメイド服を手に取った瞬間から、スマホを構えているのだ。
 生着替えを撮影させるとか、そんなオプション、お店にだってない。

「あっちの部屋で着替えてもいいけど、俺も付いてっていい?」
「それじゃ意味ねぇだろっ!」
「グフ、怒ったマナくんの写メ、ゲーット」
「…………」

 …今の先生に、声を荒げたところで、無駄に体力と気力を削られるだけだ。
 それでも一応言わせてほしい。

「先生、俺のメイド姿撮りたいんじゃなかったの?」
「撮りたいから、早く着替えて」
「…………」

 やっぱり言うだけ無駄だった。
 俺は、何で着替える前の今の姿を写真に撮ったのか、問い詰めたかったのに。

「てか先生、着替えるところも撮る気?」
「動画で撮ってもいい!?」
「変態かっ!」

 どうして、『撮るな』という真意を汲み取れないんだ、この人は!
 しかも、普通の写真から動画へとレベルアップさせるな!

 …大体、男の生着替えを撮影して、何が楽しいのかと思う。
 あぁ、でも先生はホモだから、女より男の裸のほうが楽しいのか――――て、そんなヤツに着替えなんか撮らせちゃったら、大変なことになるじゃないかっ!

「バカ撮んなっ! あっち行けっ!」
「何でっ? いいじゃん、減るもんじゃないんだからぁっ」
「そういう問題じゃねぇよっ!」

 先生の手からスマホを奪い取ろうとするけど、うまくいかない。
 あーもうっ、先生がこの調子だから、ちっとも事が先に進まない。腹減ってて、メシ食いたいんじゃねぇの!?



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パニエの下の誘惑 (2)


「先生が写真とか撮る気なら、着替えねぇっ!」
「にゃあっ! じゃあ撮んないから、ここで着替えて!」
「…………」

 …今この人、『にゃあ』つったよね?
 その後、普通に話を続けてるところ見ると、言い間違えたわけでもなさそうだし…………素で言ったの?

「着替え終わるまで撮んないから! 俺の瞳に焼き付けるだけにするから! それならいいでしょ!?」
「まぁ…」

 その言い方が嫌なんだけど…。
 でもとりあえず、着替えてるところを撮られないだけマシ…て思って、俺はその場で着替えることにした(だって、先生はきっとどうあっても諦めないだろうから)。

「…ていうか先生、」
「何?」

 ショップの袋から中身を全部取り出した俺は、何とも言えない気持ちになって、先生に視線を向けた。
 今度こそ素直にテーブルの上にスマホを置いた先生は、俺が何でこんな呆れたような顔をしているのか、もちろん分からない様子で、キョトンと首を傾げている。

「これ、自分1人で買って来たの? 店行って?」
「そーだけど?」

 聞けば、先生は何でもないふうに返事をするから、俺はギョッとする。
 だって中に入ってたのは、黒のミニ丈ワンピに、白いエプロン、ふわっとしたパニエだ。他にリボンやカチューシャもあるし、白いソックスは、長さからしてオーバーニーだろう。
 それを先生は、1人でコスプレショップに行って、買い集めて来たのだ――――俺にメイドの格好をさせたい情熱、強すぎる!

「…一応聞くけど、恥ずかしくなかった?」
「マナくんに何着てもらおう、てワクワクしてたから、全然」
「あ、そう…」

 もう何も言うまい。
 別にメイド服を購入することは恥ずべきことではないけれど、ネットでこっそり…とかじゃなくて、店員さんがいるお店で、何の照れもなく買える男性客て、そういないと思う…。

「でも、お店の店員さんも、何か変なカッコしてたよ?」
「変な格好じゃなくて、コスプレしてたんでしょ、コスプレショップなんだから」
「メイドさんもいたけど、マナくんのがかわいかった」
「…そりゃどーも」

 男として、男の娘メイドの姿を褒められて、素直に喜んでいいのかは分からないけど、まぁ仕事としてやってるからには、かわいいと思ってもらえるほうがいいんだろうか。



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パニエの下の誘惑 (3)


「早く着替えて!」
「…」

 仕方なく俺は、先生の視線を気にしつつ、シャツのボタンに手を掛けた。
 写真を撮らない代わりに、瞳に焼き付けるとかいうアホな発言どおり、先生は物凄いこっちを見てる。着替えてる様を、人にここまでじっくり見られたことがないから、気になるんですが…。

「この、ふわっふわのスカート、凄いよね。メイドさんはみんな穿いてんの?」
「パニエのこと?」

 ちょうど、ジーンズを脱いでパニエを穿いたタイミングで先生に尋ねられ、俺はパニエの裾をつまんだ。
 チュールとオーガンジーを重ねたこのパニエは、俺が普段お店で着てるのに比べてもかなりボリュームがあるから、これでスカート穿いたら、すんごいふんわりしたシルエットになると思う。

「パニエつーの? 何かスカートがこうっ…こんななってるのがいいです、て言ったら、お店の人が、下にこういうの穿かないとダメなんですよーて教えてくれた」

 先生はわざわざ立ち上がって、スカートがふわっとなってるところを表現してくれるけど、そこまで必死にメイド服を買おうとする、いい年した男て、コスプレショップの店員から見ても、ちょっとどうかと思われてるよなぁ…。

「でもメイド服て、いっぱいあんのな。色とか形とか。俺は断然ミニスカ派だけど!」
「先生、ミニスカ、興味あんの?」
「ミニスカでナマ脚ね!」

 絶対! て先生は力を籠めるけど、ミニスカて普通、女の人が穿くもんじゃん? 何で先生が、ミニスカでナマ脚に興味あんだよ。ホント、意味分かんねぇ。

「でもさ、メイドさんでナマ脚は変だって言うから、靴下も買ったみた。………………。つかさ、マナくん、脚つるつるだね」
「ギャッ!」

 再びしゃがみこんだ先生が、靴下を履く前の、それこそナマ脚状態だった俺のすねをツーッと指でなぞるから、ゾワッてなって、俺は先生を蹴り飛ばしそうになった。
 反射神経はいいらしい先生は、蹴られる前にサッとよけたけれど、本当に蹴っちゃえばよかった。

「マナくん、すね毛は? 剃ってんの? そういうプレイ?」
「アホかっ! 何だよプレイて!」
「だって、つるつる…」
「触んなよ、変態っ!」

 しつこく手を伸ばしてくる先生の手を、バシッと叩き落とす。
 もう、この人、本当に変態だっ!



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パニエの下の誘惑 (4)


「変態て……脚つるつるにしてるマナくんに言われたくない…」
「俺だって別に趣味でやってるわけじゃねぇよっ!」

 お店で着てる制服のメイド服は、女の子も男の娘もミニ丈のワンピで、白のオーバーニーソックスを履いてるんだけど、ソックスは、素材と色の関係で結構肌が透ける。
 だからって、絶対にすね毛を処理しなきゃいけないわけじゃないんだけど、バイトとはいえ、中途半端が嫌いな俺は、キレイにしてるんだ(瑛士には『真面目か!』て突っ込まれた…)。 

「ねぇねぇマナくん、今度剃らせてよ」
「はぁ~っ? それこそ何プレイだよっ」
「剃毛プレイ」
「バカッ」

 真面目な顔して、何答えてんだよ、この人は!
 大体、俺は仕事のためにやってるだけで、別に趣味じゃないし、ましてやそんなプレイがしたいわけじゃない。変態のアンタと一緒にすんじゃねぇよ!

 何か…、今さらだけど、この人のためにわざわざメイド服に着替えることが、すごい空しくなってきた…。
 元はと言えば、先生があんまりにもしつこいから、仕方なしにやり始めたことだけど、何だかんだで先生のペースに流されてるから、これ以上エスカレートさせないように、気を付けないと。

「何か…、何かさ、」
「何ですか」

 さっさと着替えてしまおうと、ワンピースに足を入れようとしたら、先生が目を輝かせてこっちを見てるから、きっとロクなことじゃないと思いながらも、つい尋ねてしまった。

「パニエて、何かエロいね…!」
「…そんなこと言うの、アンタくらいだよ」

 やっぱり、ロクなことじゃなかった…。
 先生てホモだけど、ナマ脚のミニスカとか、パニエとか、何かそういう女性を思わせるものが好きなの? それとも、そういうのを男に着せるのが好きなの?
 男の娘メイドしてる俺が言うのも何だけど、どっちにしても、先生てホントに変態だ…。

「ねぇねぇ、パニエと靴下だけでもよくない!?」
「それじゃ俺が変態みたいだろっ!」

 そういう格好が先生の趣味だとしても、パニエとオーバーニーのソックスだけじゃ、女装がどうとか言う以前に、完全に変態だ。そんなのに、俺まで巻き込まないでくれ。

 もう先生を無視してワンピースを着ると、背中のファスナーを上げた。こういうのも、最初は全然うまく出来なかったけど、バイトでしょっちゅう着てるから、すっかり慣れた。
 それから、長いソックスに足を通す………………と、先生が、立ったままソックスを履こうとしてる俺の真ん前に陣取って、食い入るように見つめてる。このまま蹴っ飛ばしてやろうか。



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パニエの下の誘惑 (5)


「マナくん、おパンツは男物のまんまなんだね」
「だっ…あったりまえだろっ! バカかっ!」

 女の子じゃないから、別に下着を見られたって恥ずかしくはないけど、何かこの人には見られたくない…!
 慌てて足を下ろしてスカートの裾を整えたら、またあの「グフ」ていう変な笑い方で笑われた。

 いちいち先生を相手にしてたら切りがないから(分かってるのに、何度も反応してしまったけど…)、先生に背を向けて反対の足のソックスを履く。
 エプロンと胸の飾りリボンを付けて、カチューシャを装着すれば、完成だ。

「…着替えましたよ」

 嫌々振り返ったら、先生はもうスマホを構えていた。
 三木本先生が普段どんな研究をしてるかとか、その実績とかは全然知らないけど、このくらいの情熱を果たして傾けてるんだろうか。
 つか、この人、本当は保健の先生になりたかったんだよな? で、なれなかったから、今の道に進んだとか…………保健医になるの、挫折してくれて良かったよ…。

「ねぇ先生、このまま写真撮る気?」
「え、何? ポーズとか取る?」
「そうじゃなくて! あの…顔とか、まんま俺だけど…」

 メイクまでして、完璧にコスプレをしたいわけじゃないけど、今のまま写真に撮られたら、俺がこの格好をしてるて丸分かりすぎる。
 三木本先生には一発で見破られたけど、今まで男の娘メイドの格好をしてて、言わなきゃ男だってことすらバレたことないから、お店でチェキとかも撮らせてるわけで。
 こんなバレバレの姿で写真なんか撮られて、もし誰かに見られでもしたら…。

「大丈夫。マナくん、かわいいよ」
「そういうことじゃなくて! これじゃ、俺がやってるってバレバレだっつの!」
「バレるの、ヤなの?」
「ヤッ…だよ…」

 嫌だと言ってしまえば、先生に弱みを握られたことになってしまうけど、かといって、嫌でないなら、文句を言う理由がないわけで。
 でも、咄嗟のことに俺は、思わず、嫌だと言ってしまった。

「まぁまぁ、俺しか見ないから大丈夫」
「…………」

 なのに先生は、別に何かを企むような顔でもなく、あっさりとそう言う。
 その言葉を信じていいものなのか、信じたところで、先生だけが見るにしたって、こんな変な写真を見られるのもちょっと…という気持ちもあるのに。



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パニエの下の誘惑 (6)


「でもやっぱ…」
「照れてるマナくん、かーわいっ」
「ちょっ!」

 今の俺の一体どこがかわいいのか、でも先生は迷う俺に構わず、勝手にシャッターを押してしまった。それも、しゃがんだままの格好で、下からのアングル。
 これじゃスカートの中が丸見えだ、て思って、今さらだけどスカートの裾を押さえたら、それがかえって先生を喜ばせちゃったみたいで、ますます笑顔になって、スマホを近付けてくる。

「先生、ちょっと待ってよっ!」
「先生じゃなくて、ご主人様て呼んでよぉ」

 そんなこと言ってる場合かっ!
 スカートの中を撮りたがるとか、もうホント変態!

「撮るなってば!」
「ん、ん、1枚だけ!」
「バカッ!」
「あぅ」

 足に縋り付いて来ようとする先生を、何とか振り払う。
 1枚だけ…て、すでに1枚撮ってんじゃねぇか!

「先生、いい加減にしてっ!」
「マナくんが、『ご主人様』て言ってくれたら、いい加減にするっ」
「ッ、、、」

 あー言えばこー言う、て感じで、先生とのやり取りは、意味がないうえに切りがない。
 でも先生は、1度言い出したら聞かないし、すっごいしつこいんだけど、とりあえず俺が許容できる範囲でやってやれば、それで気が済むのか、とりあえずその場はいい加減にしてくれるのも確かだ。

「…ご主人様、下から写真撮らないで」
「クフ」

 だから、バカだとは思いつつ、先生の言うことを聞いて『ご主人様』て呼んでお願いしてみたら、先生は非常に満足そうな顔をして、持ってるスマホを下ろした。
 …意外と単純なのかも。

「先生、」
「ご主人様!」
「…ご主人様、もうオムライス作っていい?」
「あ、そうだった。お願いしまっす!」

 …忘れてたのかよ。
 アンタがオムライス食いたい、て言ったところから、事が始まったんだろうがっ。



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パニエの下の誘惑 (7)


 イライラしながら、先生の後に続いてキッチンに向かう。
 先生は料理をしないらしいけど、そんなのがもったいないくらいの、すてきなキッチン。まぁ、これだけの部屋なんだから、キッチンだってそれ相応のもので当然だろうけど。

「ねぇねぇマナくん。マナくんがオムライス作ってるトコは、撮ってもいい?」

 先生が買って来た材料の入ってる袋をカウンターに置いたら、ダイニングテーブルのところの椅子に後ろ向きに座った先生が、スマホを弄りながら、首を傾げている。

「…下からとか、変なのじゃなかったら」

 ダメだと言ったら、先生はまたごねて、同じことの繰り返しになると思ったから、条件を付けて、最初から承諾した(これは……流されたうちに入らないよな?)。
 でもこの作戦は功を奏したみたいで、先生は素直に「うん!」と言って来た。

 俺は溜め息を零しつつ、カウンターに向き直る。袋の中から取り出した材料は、さっき先生が割っちゃった卵のせいで若干汚れてるけど、何とかなりそうだ。
 それよりも、その卵でこのメイド服を汚さないように気を付けないと。
 …いや、本当の、本物のメイドが仕事をするのに、メイド服やエプロンが汚れるのは仕方ないけど、飽くまでコスプレの衣装としてなら、やっぱ汚すのはマズイ。
 コスプレの衣装て激安のもあるけど、今俺が着てるヤツは生地も縫製もよさそうだから、絶対に安くはないと思う。そんなの着て料理するなんて…………エプロンしてるのに、その上から別のエプロン付けたい気分。

「先生、」
「ご主人様!」
「…ご主人様、ご飯てこのパックのご飯使っていいんですか?」
「あ、そうそう。ご飯どうやって作ったらいいか分かんないから、買って来てみた」
「作ったら、て……どうやって炊いたらいいか分かんない、てこと?」
「うん」

 まさかと思って聞いてみたら、先生はあっさりと頷いた。
 そりゃ、その森下さんて人がいなかったら、飲まず食わずにもなりかねないわ。

 俺は何度目になるか溜め息をついて、ご飯のパックを持って、レンジに向かった。
 レンジもそうだけど、フライパンとか調理器具、勝手に使っちゃっていいんだよね? いちいち断りとか入れるのも面倒くさいし、言っても先生、何のことか分かんなそうだし。

「え、ご飯それだけで足りんの? 1回に1個しかあっためらんないの?」

 何分レンジに掛けたらいいか確認してたら、先生がちょこちょこと後ろにやって来て、俺の手元を覗き込んだ。
 確かにご飯のパックは、何個かあった。でもこういうのって、1パックで1食分なんじゃないの?

「先生、そんなに食べんの?」
「ご主人様ね。つか、じゃなくて、マナくん食わないの?」
「は?」

 いちいち『ご主人様』て呼ぶように訂正されるのは面倒くさいけど、それよりも、何か先生の中で、俺も一緒に食うことになってるみたいなのが、気になるんですが…。



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パニエの下の誘惑 (8)


「マナくん、お腹空いてないの? ご飯食べたの?」
「いや、食べてないですけど…」
「じゃあ一緒に食べようよぉ~」
「……」

 俺の腕を掴んで、ゆさゆさと揺さぶってくる先生は、完全に子どもだ。
 相変わらず先生は面倒くさくて、早く帰りたいと思う反面、まだご飯を食べてないのは事実だし、ここで食べてっちゃえば一食分浮くから、まぁいっか、とも思う。
 だってきっと、オムライスを作り終えたからって、そのまますんなり帰してもらえるとは思えないし。

「分かりました! 食べていきますから、とりあえず料理を続けさせてくださいっ。早く食べたいでしょ?」
「早く食べたい」

 俺がそう言うと、先生は素直に椅子のところに戻った。
 はぁ…、何かいちいち疲れる…。

 とりあえずご飯をレンジに掛けて、他の材料に付いてる卵を落とす。
 卵は何個か割れて使いもんにならなくなってるけど、なぜか先生が3パックも買って来てるおかげで、数は足りそうだ。

「クフ。お料理してるマナくんの横顔~」
「……」

 …ホント、疲れる。せっかく椅子のところに戻ったのに、何で先生、大人しく座っててくんないんだろ…。
 でも、下からとかじゃなかったら撮ってもいい、と言ってしまった手前、俺のそばに来て、スマホで写真を撮ってる先生のことは、とりあえず無視して料理を続ける。

 オムライスはお店でも定番のメニューで、俺も何回も作ってるから、チキンライスだって、オムレツだって、ササッと作れる。
 レンジでチンするパックのご飯でケチャップライスを作ったのは初めてだけど、味見してみた感じ、ベチャッともしてないし、それなりにおいしく出来てる。

「マナくん、俺も味見したいっ!」
「…どーぞ。てか、せんせ……あ、ご主人様、お皿はどこですか?」
「ね、ね、あーん、てしてよっ」
「は?」

 またアホなことを言い出した…と、呆れて先生のほうを見れば、ニコニコしながら、俺の『あーん』を待ってる先生がいた。
 俺は頭を抱えたくなったけど、仕方なく、木べらの上に少しケチャップライスを掬って、先生の口元へと差し出してやった。



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パニエの下の誘惑 (9)


「熱いですよ?」
「アチッ」
「…」

 何なんだ、このお約束どおりの人は。
 俺が何とか突っ込みたいのを堪えていると、先生は口を押えながら、モグモグしている。

「どうですか?」
「おいひい」
「それはよかった。で、お皿は?」
「あぁん、もうっ。マナくん、素っ気ない! でも、何かそんなところがかわいい…。ツンデレ?」

 先生は1人でゴチャゴチャ言いながら、でもちゃんとお皿を取りに行ってくれた(ご飯の炊き方も知らないくらいだから、オムライスに見合った皿が分かるのかと思ったけど、そこは何とか大丈夫だった)。
 つか、ツンデレて…………今までどこに『デレ』部分があったと言うんだ。

「ご主人様、もう出来るから、席に着いてください」
「ぅんー」

 盛り付けたケチャップライスの上にオムレツを乗せて、ダイニングテーブルへと運ぶ。
 先生は自主的にスプーンを用意してくれて、まぁそこまではよかったんだけど、それを口に銜えて待ってる姿は…。

「これ、トロトロの?」

 ケチャップライスの上に、楕円型のオムレツが乗っているのを見た先生が、不思議そうに、不満そうに、スプーンを銜えたまま、俺のほうに視線を向けた。
 俺はそれに構わず、持ってきた包丁をオムレツの中央部分に入れて、縦に切り開いていく。

「あ、トロトロ!」

 半熟の部分を中に折り込んで作ってるから、それを開けば、先生が希望してたトロトロの部分が出てくる。
 ちなみに、お店で出してるのも、こういうヤツね。

「ね、ね、ケチャップで、『三木本先生LOVE』て書いて?」
「はいはい」

 ここまで来たら、もう多少のことでは腹が立たない。この人は大層な変態だけど、小さい子どもだと思えばいいんだ。
 それに、俺ももうかなりお腹空いてるから、余計なことに時間を費やしたくないし。

「…これでいいですか?」

 いつもの感じで、オムライスの上にケチャップで文字を書いていく。
 もちろんお店じゃ、もっと愛想よくやってるけど。



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パニエの下の誘惑 (10)


「クフ。これ、萌え~て言ったほうがいいの? 萌え?」
「いや、別に言わなくてもいいです。つか、冷めるんで早く食べ…」
「マナくんのには、俺が書いたげる! あ、その前に写メ!」

 …まったく、忙しない人だ。
 右手にスマホ、左手にケチャップを持って、一体どうしようというんだろう。その両立は、絶対に無理でしょ。

 先生はアタフタしながら、何とかオムライスを写真に収めると、今度はケチャップを手に取ると、まるで『シャキーン!』て効果音が付きそうな感じで、俺のお皿の上に構えた。
 おいおい、何書く気だ?

「、よし、出来た!」
「…………」

 あんなに意気込んだ様子で始めたのに、書いた文字は『マナ』の2文字。
 文字数も画数も少なすぎる。

「じゃ、いただきま~す」

 俺が突っ込みそびれていると、先生は両手を合わせてから、スプーンを掴んだ。
 先生が腹が空いていると言い始めてから、一体どのくらいの時間が経ったのか、ようやく食事にありつくことが出来た。

 それにしても先生は、結局何のつもりで俺をここに呼んだんだろう。ご飯を作らせたいだけなら、このメイド服とか、かなりの出費だから、やっぱりコスプレさせたかったのかな。
 つか、ビラ配りのとき、先生に見つからなかったら、こんなことにはならなかったのに。今までメイドの格好してて男だってバレたことなかったから、油断してた。
 何で先生、俺がビラ配りに出た途端、登場すんだよ。

 …ん?
 いや、マジで先生、何であんなにタイミングよく現れたんだ? 俺がくるみちゃんと交代して、結構すぐに来たよな?

 俺、先生がビラを受け取った後にメイド服とか買いに行ったと思ってたから、てっきり、あのとき初めてメイド姿の俺を見て、今日のこんなことを思い付いて、買い物に行ったんだと思ってたけど…。
 もうずっと前から俺が男の娘メイドをしてるのを知ってて、今日のこのこともずっと計画してて、俺に声掛けようと、ビラ配りに出てくるのを待ってたとか…。

 いやいやいや、それはちょっと自意識過剰でしょう、俺。そんなわけない……て、でも今日のコレ、あのとき俺に会ってから思い付くには、ちょっと一瞬すぎる。
 だって、先生の第一声、『何時までバイトなの?』だった。てことは、ビラを受け取ったときにはもう、俺を家に呼ぶことを思い付いてたってことだ。
 でもそんなの、ものの数秒で思い付くようなこと? いくらなんでも無理がある。

 だとすると、やっぱり先生は、俺があそこで働いてるのを前から知ってて、今日こんなことをさせるために、ビラ配りに出てくる俺をずっと待ってた、てことになるし…。
 そんなのストーカーじゃん!



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パニエの下の誘惑 (11)


「マナくん、食わないの? おいしいよ?」
「えっ…、あ、食いますけど…」

 自分の想像に自分でゾッとしてたら、いつの間にかスプーンを持つ手が止まっていたらしい。口元をケチャップで汚している先生が、首を傾げて、俺のことを覗き込んでいた。
 その顔を見てると、さっきまで考えてたことが、途端にバカバカしく思えてくるんだよなぁ…。

「…口んトコ、ケチャップ付いてますけど」
「拭いてー」

 一応教えてあげたら、先生は、ん、と顔をこちらに近付けてくるから、俺は黙ってティシューで口元のケチャップを拭いてやった。
 こんなサービス、お店でもやってないんだからな!(あ、でもお店だったら、自分の分までオムライス作って食わないか)。

「ごちそーさまでした!」

 先生に、今日俺がビラ配りをしているところに現れた理由を尋ねようと何度も思ったけれど、どう切り出したらいいか分からなくて、そうしているうちに、先生は全部食べ終えてしまった。

「んんー、おいしかった。ね、ね、マナくん。また森下がいないときは、ご飯作りに来てくれる?」
「は? 何で」
「マナくんは、俺が飢え死にしてもいいの?」
「コンビニでも出前でもあるでしょ?」

 今回だって、最初のうちはそれで凌いでたんだから、どうにだってなるはずだ。
 そう思って言ってみても、やっぱり先生はしつこく食い下がって来る。

「ねぇお願~い。メイドさんの格好しなくてもいいから~、ねぇねぇマナくん」
「そういう問題じゃ、」
「お願いっ」

 両手を合わせ、ちょっと上目遣いで見てくる先生は、確かに女の子が喜びそうなかわいさはある。でも、先生としての威厳は、残念ながらまったくない。

「…まぁ、もしそういう機会があったら」
「ヤッター!」

 先生が、俺の腕にしがみ付いて、ゆさゆさ揺さぶって来るから、今日はもうこれ以上、疲れるやり取りをしたくない俺は、とりあえず了承の返事をした。
 森下さんが何の仕事をしてるか知らないけど、そんなに出張ばかりのこともないだろうし(じゃなきゃ今までの生活が成り立ってない)、次の機会がそんなにすぐ来ることはないだろうから。
 それに、そのときになって断ることだって出来るだろうし。



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パニエの下の誘惑 (12)


「森下、また出張行かないかな。1か月くらい」
「何言ってるんすか」

 1か月も家を空けてくれだなんて、いなくてもいいと言っているようなものだ。
 こんな変人で変態な人と一緒に暮らしてる上に、食事の世話までしてやってるなんて、森下さん、絶対にいい人に決まってるのに、よくそんなことが言えるよな。

「だって、そうしたら、マナくんのご飯が毎日食べられる…」
「そんなこと言って、森下さんに愛想尽かされちゃったとしても、俺、知りませんからね」
「…ぬ。でもまぁそうだよなぁ。森下がいなくなっちゃうと、同居してくれる別のセフレ探さなきゃなんないし、それは面倒くせぇよなぁ」
「ッ、、、」

 そう言って先生はテーブルにベチャッと突っ伏したけど、俺はその言葉に、先生がホモだってことを思い出して、言葉を詰まらせた。
 人の性癖に何か言うつもりもないし、偏見もないんだけど、セフレだっていう森下さんがいなくなったら、先生、欲求不満が高じて、何かしてくるんじゃないかと、不安を覚える。
 さっき気付いたストーカー疑惑も払拭し切れてないし。

「アイツさぁ、いろいろウゼェんだけど、セックスはうまいんだよねー、ムカつくことに」
「ますます知りませんよ、そんなことっ…」

 別に俺だって童貞じゃないし、こういう話題で恥ずかしがる年でもないんだけど、ペラペラと喋る先生に、ちょっと焦る。
 大体、何でセックスがうまくてムカつくんだ。男としてのプライドか? いや、それ以前に、何で先生は、女子高生が恋バナを語り合うみたいな感じで、俺に話してくるんだ?

「はぁ~…、セックスがうまくて、俺の言うことを何でも聞いてくれる男、いないかなぁ…」
「絶対にいませんよ、そんな人」

 とんでもない理想を言ってのける先生に、俺は力いっぱい否定してやった。少なくとも、先生のその壮大な理想に適う相手は、今のところ森下さんしかいないと思う。
 というか、別に本当に森下さんがいなくなっちゃうわけじゃないのに、どうして他の誰かを探そうとしているんだ、この人は。

「先生、別に森下さんのこと、嫌いなわけじゃないんでしょう? だったら今のままでいいじゃないですか。いなくなったら困るんでしょ?」
「んー、まぁ下半身的には」
「……」

 ねぇ森下さん。
 会ったことない俺が言うのも何だけど、完全に『都合のいい男』になってないですか? セフレてこんなもんなの? 大人の事情は、俺にはよく分かんない。

「んふ。森下の次の出張が楽しみだなぁ~」

 無邪気に笑う先生を横目に、俺は冷めたオムライスの最後の一口を口に運んだ。




パニエの下の誘惑


「あ、今度は先生と生徒ごっこね」
「ごっこも何も…」



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どこにも帰れない (1)


(point of view : morishita)



 夕食の支度が出来て、ミキくんを呼びに行ったら、いい大人が、よくもまぁここまでだらしない格好が出来たもんだ…と、呆れを通り越して、うっかり感心しちゃいそうな格好で、ソファに寝転んでた。
 だってさ、2人掛けのソファで、肘掛けに足乗せて、大股を押っ広げてんだよ? 小学生か! て言いたくなるよね。
 しかも、何かスマホ見ながらニヤニヤしてるし。

「ミキくん、エロサイト見てニヤケてんのもいいけど、メシ出来たよ?」
「ギャッ! ちょっ見んなよっ!」

 俺が近付いてたの、ホントに全然気付いてなかったみたいで、背後から覗き込んだら、ミキくんは慌ててスマホの画面を伏せて、俺を睨み付けて来た。
 一応冗談で言ったんだけど、ホントにそういうサイト見てたわけ? つか、今さらそんなことで恥ずかしがってもしょうがないでしょ。

「見てないよ。つか、ご飯の前に盛んないでよ? 俺、腹減ってんだから」
「うっせぇよ、そんなんじゃねぇよっ! お前と一緒にすんなっ!」

 すばらしい腹筋力でヒョイと起き上がったミキくんは、小学生並みのボキャブラリーで喚き散らしてくる。
 つか、『一緒にすんな』て、こっちこそ一緒にされたくないよ。

「ったく。大体何で俺がエロサイトなんか見なきゃなんねぇんだよ。お前じゃねぇんだから」
「あのさ、何でいちいち俺を引き合いに出すわけ? 俺だって、そんなの見ないよ。ミキくんじゃあるまいし」
「だから! 見てねぇ、つってんだろ! マナくんの写真見てたのっ!」

 そう言ってミキくんは、ほんの一瞬前まで、画面を見せまいと必死で隠していたスマホを、俺のほうにズイと突き付けて来た。
 まぁ、それを狙って言ってみたんだけど、まさかこんな簡単に引っ掛かるなんて……ホント単純なんだから。

「ふぅん? これがミキくんのお気に入りのマナくん?」
「あっ! ちょっバッ見んなよっ!」
「見んな、て……ミキくんが見せて来たんじゃん。ね、もうちょっと見せてよ?」
「ダメだってば!」

 慌てて自分の背後にスマホを隠すミキくんの横に無理やり座って、笑顔でミキくんを見た。ミキくんには、よく『胡散臭い』て言われる、あの笑顔ね。でも今は、それに突っ込む余裕もないみたい。

「さっき一瞬見せてくれたじゃん。何でダメなの?」
「他の人に見せない、てマナくんと約束してんの!」
「そうなの? でもさ、俺、そのマナくんと面識ないし、ましてやその子、大学生なんでしょ? これからも絶対に俺と接点ないじゃん? なら、俺が見たって、そのことをミキくんがマナくんに喋らなかったら、バレないと思わない?」
「確かに…」

 …自分で言っといて何だけど、ミキくん、そんな簡単に納得しちゃって大丈夫?
 でも、ミキくんがここまで気に入るなんて珍しいから、どんな子なのか、ちょっと興味あるんだよね(場合によっては、ミキくんが性犯罪に走らないうちに、止めないとだし…)。



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どこにも帰れない (2)


「ホラ、これ! かわいーだろ。お前にはやんないぞ!」
「あ、うん…」

 その『やんないぞ』が、この写真のことなのか、それともマナくん本人のことなのかは、よく分かんないけど。
 ミキくんが見せ付けて来たスマホの画面には、メイド服を着た男の子が、ちょっと照れた感じの表情で写ってて――――見せてくれと言ったのは俺だけど、感想に困る。
 いや、確かにその子は、男にしてはかわいい顔立ちをしてるんだけど、パッと見でも、女の子と間違うような顔じゃない。そんな子がメイド服着て………………かわいいか?
 せめて、メイクでもして、もっと女の子に近付けるとか…。

「えっと…」
「もぉ~~~~さっ、この照れた感じが堪んないよねっ!」

 戸惑う俺をよそに、ミキくんは1人で興奮状態だ。
 さっきニヤニヤしてたのは、この写真見てたからなんだよね? 百歩譲って、彼がかわいいことは認めるとしても、どこにあんなにニヤニヤする要素があるんだろう。

「あのさ、ミキくん。何でこの子、メイド服着てんの?」
「ご主人様とメイドさんごっこしたの」
「あ、そう…」

 そもそもの部分を聞いてみたら、あっさりと返されて、かえって次の言葉を見失った。
 何ごっこでもいいけど、それって、どっちが言い出したことなんだろう。…やっぱミキくんかな、そんな変態なこと言うのは。マナくん、よくそんなのに付き合ったな…。

「俺ね、初めてコスプレ屋さん行ったんだよ、マナくんに似合うメイド服探すのに。いーでしょ? これ」

 ミキくんは自慢げに、他の写真も見せてくれる。
 包丁を持ってる姿とか、キッチンに立つ後ろ姿とかあるけど……これ、ウチのキッチンだよな。わざわざ来てくれたなんて、優しすぎるよ、マナくん。
 でも写真を見る限り、マナくんは完全に渋々、嫌々やってる感じだな。あぁ、だからメイクとかも拒んだのかな。そりゃ、そこまでやりたくはないよね。

 けど、こんな素顔のまんまじゃ、マナくんだってこと、バレバレだよ。
 俺はマナくんのこと知らないからいいけどさ、スマホの中の写真なんて、結構みんなに見せたりするじゃん? そのときうっかり知り合いに見られちゃったらどうすんの?
 だって、写真持ってるの、ミキくんだよ? 人には見せないて約束、故意に破るつもりはなくても、何かやらかしちゃいそうじゃん? 現に、俺には見せちゃってるし。

「あーマナくん、かわいいなぁ」
「はいはい、よかったね」

 会ったこともないマナくんのことをこっそり心配してたら、その心配の元凶が、のん気にそんなことを言ってる。
 あーあ、こんな人に気に入られちゃって。ご愁傷様、マナくん。

「あーヤベェ、勃ちそう」
「何で」

 マナくんのことに関しては、何言っても無駄そうだから、あえて適当に流してたんだけど、すごいサラッととんでもないことを言ったよね、今。さすがに流せなかったわ。
 別にミキくんが何見て興奮しようが構わないけど、男の子が、まんま素顔でメイド服着てる写真の、どこに性的興奮を覚える要素があるんだろう。



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どこにも帰れない (3)


「いや、マナくんがかわいすぎて勃つ」
「そんなの真顔で言われても」

 俺だって男イケるけどさ、これ見たって、全然勃たねぇよ? 萎えるまでは行かないけど、絶対勃たない。それはない。

「やめてよ、ミキくん。今それで勃ったとか言われても、相手しないよ?」
「大丈夫、そこまでじゃない――――今は」
「…今は?」

 付け加えられた最後の一言に、俺は念のため聞き返した。
 今は勃つほどじゃないけど、やっぱりその写真見て、勃ったことはあるんだ? だとしたら、結構引くけど。

「マナくんには、写真見てニヤニヤするだけで、オナニーはしない、て言ったんだけど、実はもう2回、オナっちゃったんだよねー」
「そんな報告いらないんだけど」

 聞き返しちゃった俺も悪いけど、そんなこと、笑顔で爽やかに言わないでよ。
 これで2回もオナれる、つーのもすごいけど、『写真見てニヤニヤするだけで、オナニーはしない』ていうのを、本人に伝えてんのもすごいよ、ミキくん。
 しかも、それを俺に笑顔で言ってくるとか……ホント、生粋の変態ですね。

「じゃあミキくん、約束破りまくりじゃん、マナくんとの」
「何で? しょうがねぇじゃん、こんなかわいいマナくん見てて、ムラムラしないほうがおかしくね!?」
「自分の基準を世界基準に当て嵌めないでね」

 これ見てムラムラするほうがおかしいに決まってるでしょ。
 てか、写ってる内容はともかく、写真見てムラムラするとか…………思春期の中学生じゃないんだから。

「つかさ、約束破ったことなんてお前しか知らねぇんだから、お前が黙ってりゃ済むことじゃん」
「自分が悪いくせに、よくそんな開き直れるね」
「…ンだよ、じゃあどうしろってんだよ。お前、マナくんに喋る気かよ」

 そんなしょうもないことバラすつもりもないけど、あまりの言い種だから、ちょっと言ってみたら、ミキくんも、口で言うよりは気にしてたみたいで、窺うようにこちらを見た。
 …っとに。素直に、自分が悪かったから言わないで、て言えばいいのに。

「喋んないよ、ちゃんと黙ってる」
「絶対だかんな!」

 で、人が下手に出ると、この態度だもん。ホント、しょうがない人。
 よく今まで、普通に社会生活を営んでこれたよな、て思う。つか、友だちとかいんのかな。いないから、寂しくて、マナくんとやらを連れ込んだんだろうか。
 こんな変な人に付き合ってやるなんて、マナくん、いい人だなぁ。

「じゃあさ、ミキくん」
「ぁん?」
「口止め料」
「ウザッ」

 全部が全部、ミキくんの思いどおりなのも何だから、ちょっとは俺もおいしい思いをしないと…て、関係ないマナくんを出しに使って申し訳ないけど、キスをねだってみる。
 そしたらミキくんは、心底嫌そうな顔をして吐き捨てたけど、俺のシャツの襟を掴んで強引に引き寄せると、唇を重ねてきた。



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どこにも帰れない (4)


 でもまぁ、そんな軽いキスで終わらせるつもりもないから、ミキくんの腰に手を回してキスを深くすれば、積極的に舌が絡んでくる(ウザいとか言ってたくせに)。

 あーでもヤバイな。自分から仕掛けたことだけど、このまま流されちゃうと、また食いっ逸れるかも…。
 でもこのタイミングでメシとか言ったら、ミキくん、絶対キレるよなぁ。

「ちょっ…しつけぇ!」
「…ん?」

 キスしながらメシのこと考えちゃうなんて、我ながら最低もいいところだ、なんて思ってたら、ミキくんにグイグイと体を押し返されて、我に返った。
 見れば、ミキくんが、濡れた唇を手の甲で拭っていた。

「おめぇのほうこそ盛ってんじゃねぇよっ。メシにすんじゃねぇのかよっ」
「あぁ、そうだったね。ご飯出来たから、呼びに来たんだった」

 キスを解かれて、その次に出た言葉が『メシ』だったら、デリカシー! て言ってやりたくなるところだけど、今ばかりは、自分も同じことを考えてたから、文句を言わずに同意する。
 なかなか気が合うじゃない、俺ら。

「じゃあ、続きはメシ食った後ね?」
「はぁ? 知らねぇよ、1人でマス掻いてろ」
「ならミキくんは、またそのマナくんの写真でオナるの? まぁそれもいいかもね。だったら、やってるトコ見せて?」
「変態!」

 どうせなら…とミキくんに提案してみたら、ものすごい蔑んだ目で見られた。
 まぁ確かに、1人でやってるトコ見せてなんて、変態の言い分だけどさ、変態のミキくんに変態とか言われたくないよね。

「あー腹減った。マナくんのオムライスが食いたいなぁ」
「作った本人が目の前にいるのに、他の人の手料理を食いたがらないでよね」
「こないだ、オムライスの上に、『三木本先生LOVE』て書いてもらったんだぜ!」

 俺のボヤキなんか無視して、ミキくんは自慢げにそう言ってくるけど、全然羨ましくない。
 つか、オムライスにお絵かきとか、ベタだよねー。書いてもらう内容も。まぁ、メイドカフェごっこだから、ベタでいいのか。

「はいはい、じゃあ俺も書いてあげるよ、カレーだけど」
「バカ! 俺はカレーに粉チーズ派なの! 書けるもんなら書いてみろ」
「へぇ、粉チーズ」

 …困ったな。
 実は粉チーズ切らしちゃってること、どのタイミングで打ち明けよう。




どこにも帰れない


「…粉チーズ、ないんだけど」
(モグモグモグモグ)
「………………。わーん、やっぱりマナくんのオムライスがいいー! 森下なんかどっか行っちゃえ~!」



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愚かだということは分かっている (1)


(point of view : mana)



 メイドカフェで男の娘メイドしてることが三木本先生にバレ、その後なぜか先生の家に行くことになり、さらになぜかメイドの格好でオムライスを振る舞うはめになったのが1週間前。
 もう2度と来るまいと思っていたデカいマンションの前に、今俺はいる。

 先生には森下さんていうセフレの同居人(男)がいて、確かに、その人が出張でいないときにはまたご飯を作りに行く、という約束はしたんだけど…。
 それは、そんな状況がめったにないからだと思ったからで――――森下さん、週末のたびに出張なの!?

 やっぱ、用事があったとか適当なこと言って断ればよかったかな…。
 でもそういう嘘は後が続かないだろうし、先生しつこいから、食い下がってきそうだもんな。そうなったほうが面倒くさい。

 それに先生は、頭おかしい変態だけど、そこそこ言うことを聞いてやれば、約束は守ってくれる感じだった。
 どこまで信用できるかは分かんないけど、この間先生の家に行ったときもそうだったし、それに……俺が男の娘メイドしてることも、黙ってくれてるみたいだし。
 逆に言うと、先生の言うことを聞かなかったら、何されるんだろう…ていう不安もあるんだけど。

(俺、どうなっちゃうんだろ…)

 不安を覚えながらも、エントランスのところでインターフォンを押す。
 すごいよなぁ、こういうマンション。俺が住んでるトコは、それぞれの部屋のドアにしか鍵がないから、建物自体には誰でも簡単に入れちゃうもんね。
 大人になったら、俺もこんなトコに住めるのかな。

 いろんな意味で暗くなってたら、『上がって、上がってー』て明るい先生の声とともに、鍵が開いた。
 この間は先生が一緒だったけど、今は1人。先生が鍵を開けてくれて中に入ったんだから、何も悪いことしてないはずだけど、本当に大丈夫かな、て心配でドキドキしてくる。

「はぁー…」

 先生の部屋の階に着いて、エレヴェータを降りたけど、先生に会うのヤダな…ていうのと、このマンションの雰囲気に圧倒されたのとで、何か気分悪くなってきた…。
 でも、ここまで来て引き返しちゃったら、完全に不審者になっちゃうよな。先生には会いたくないけど、何かあって警察のお世話にはなりたくないし…。

「マナくん、待ってたよぉ~!」
「…………」

 渋々先生の部屋まで行くと、俺の気持ちなんて相変わらずさっぱりの先生が、満面の笑みで出迎えてくれた。
 この時点で、もうドッと疲れが湧いてくる。

「ささっ、入って!」

 やっぱり帰っちゃおっかなぁ…なんて思う隙も与えず、先生が手を引くから、俺は思わず靴を脱いでしまった。だって土足はマズイとか思ったら、何か慌てちゃって…。
 つか、何で先生、学校にいるときみたいに白衣着てるんだろ。もしかして論文書くとか、仕事をしていたんだろうか。
 そんなに白衣が好きなら、今からでも資格取り直して、保健の先生にでもなればいいのに………………いや、何かいろいろ危なそうだから、やっぱりやめといたほうがいいかな。



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