恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2014年06月

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恋の女神は微笑まない (27)


「そう、お試しで。俺のこと知るにもそうだけど、友だちでいたいのと、恋人として付き合いたいのだって、雑誌とかネットじゃ分かんないでしょ? だったら、試しに付き合ってみるのが手っ取り早くない?」

 もしかしたらこのままうまくいくかもしれないと思い、大和は、千尋にあまり考える隙を与えずに話を進める。
 あと一押し。

「ちーちゃん、どうする?」
「んー……………………分かった。お試しで大和くんと付き合う」

 大和が畳み掛けたら、千尋はしばらく考えた末、ついに大和と付き合うという結論を出した。
 喜びと驚きのあまり、「ホントに!?」と大和は心の声を口にして、千尋のほうを向いてしまったけれど、ようやくものにしたチャンスを事故って逃したくはないので、すぐに前を向いた。

「でも俺がこんだけがんばるんだから、大和くんだって、ちゃんとがんばってよね?」
「ぅん?」
「俺のこと、嫌いになるように努力するの!」
「えー?」

 そ、それは、やっぱり、がんばらないといけないの…?
 今までのやり取りの中で、そのことは忘れていると思っていたのに、どうやら千尋は、お互いが努力しないとフェアじゃない、ということが、しっかり頭に入っているようだ。

「でもさ、俺ら、付き合うんだよ? お試しだけど。その相手のことを嫌いになるようにがんばってたら、うまく付き合えないと思わない? ちーちゃん、俺のいいトコとか知ろうとしてるんでしょ? 俺がちーちゃんのこと嫌いになるようにがんばってたら、ちーちゃん、俺の嫌なトコしか見えなくなっちゃうんじゃない?」
「…………、そっか…。じゃあ大和くんは、あんまりがんばれないね」

 大和としては、いつかはお試しでなく、本当にお付き合いしたいと思っているので、最初に千尋が言った大和の努力は、出来ればなかったことにしてもらいたいのだ。
 だから、慌てて言い募れば、千尋はすぐに納得してしまった。
 頭が切れるのか、抜けているのか、天然なのか、抜け目ないのか、本当に千尋という男は計り知れない。

「じゃあちーちゃん、今からよろしくね」
「え、今から!? 今からもうお付き合いするの? 俺たち?」
「ダメ? 今からじゃないなら、いつからがいいの?」

 もし本当に想いを通じ合せて付き合うのだとしたら、それは、一方が告白して、もう一方がそれを受け入れたときから始まるんだろうけど、大和と千尋の場合は、そんなふうにはいかない。
 恋人としてお付き合いするのに、さぁ今から始めましょう、というのもおかしな話だが、2人にはそれが必要なのだ。

「いや、今からでもいいけどさぁ…」
「何かあんの?」
「俺、今めっちゃ腹減ってんだよね」
「………………、…は?」



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恋の女神は微笑まない (28)


 恋人としてお付き合いを始めるタイミングと、今腹が減っているのと、一体何の関係があるというのだろう。
 しかし千尋は、大和と付き合うのが嫌で嫌でしょうがないから、少しでも先延ばししたいと思っている、という様子でもない。

「ちーちゃん、お腹空いてるなら、何か食べに行こうよ。それは別に、お付き合いしてたって、出来るでしょ?」
「だって俺、もんじゃ食いたいんだもん、今」
「え…………ゴメン、…だから?」

 千尋が今お腹が空いていて、何か食べたいものがあるというなら、喜んでそれに付き合うつもりだけれど、どうして千尋はそれをそんなに悩んでいるのだろう。
 そのくらいの些細なわがままを聞けないほど、大和は心狭くないのに。

「いや、だってさ、恋人と初めてメシ食いに行くの、もんじゃとか、なくない? 普通、何かおしゃれなお店とか行くもんじゃん?」

 大和がよほど不思議そうにしていたのに気付いたのか、千尋は説明を続けた。
 親友である遥希がわりと夢見がちで、ロマンチックな雰囲気とかが好きなのに対して、千尋はそういうの、あんまり興味なさそうだったのに、気にするんだ。
 というか、お試しにもかかわらず、大和とのお付き合いで、そういうこと、気に掛けてくれるんだ…。

「おしゃれなお店は、また今度にとっとけばいいんじゃない? もんじゃ行こうよ、俺もお腹空いた」
「ホントに? 大和くんももんじゃでいいの? ヤッタ!」

 大和も、千尋のところに行く前は、ご飯の食べれるお店にいたのだが、結局何も一口も食べないまま、その店を飛び出してしまったので、お腹は空いているのだ。
 だから、しゃれた店で気取って食事をするよりは、もんじゃのほうが嬉しいかもしれない。

 大体、このお試しでのお付き合いは、千尋に大和のいいところとか好きなところを知ってもらう名目なんだから、気取ったり飾ったりすることはないと思う。
 もしそういうことで、千尋が大和に抱く感情がよくないほうに向かったとしても、大和にとっては悲しいことだけれど、それは仕方がないことだ。

「俺ね、明太子もちと、チーズのヤツと、海鮮ね!」
「えっ!? ちーちゃん、何今注文してんの? そんなの俺に言われても…。大体、お店にそのメニューあるかどうか分かんないじゃん。しかも3つとか!」
「ヤダ、それ食う。絶対だかんね!」
「ちょっ…!」

 お試しとはいえ、千尋と付き合えることになって、浮かれていたのも束の間。
 大和は、かわいい王子様(女王様!?)のご所望の品に、慌てふためく。

 ――――ねぇ、そのメニューのあるお店を探し出せなかったからって、やっぱ付き合わない、とかないよね!?



 焦る大和と、不敵に笑う千尋を乗せた車が、夜の街を疾走する。
 やはり千尋は、一筋縄では行かないようだ。



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恋の女神は微笑まない (29)


chihiro & haruki

 お試しで国民的アイドルと付き合うことになったとはいえ、翌日は普通に仕事があるから、もんじゃ焼きを食べた後、千尋は、大和に家まで送ってもらってバイバイした。
 とりあえず連絡先は交換したので、恋人っぽく、デートの後のメールなんかも入れてみた。

 で。
 まぁ今日は普通に仕事だったわけなんだけど。

「…………何だ、これは……」

 勤務時間が終わって控え室に戻った千尋は、取り出したスマホを見て、ひどく嫌そうに眉を寄せた。電話の着信とメールの受信が、半端な数ではないのだ。
 嫌な予感を覚えつつ、千尋が相手を確認すると、2通のダイレクトメールを除いて、電話もメールも他はすべて同じ人物からだった。

「何なんだ、これは…」

 千尋がもう1度同じセリフを呟いたところで、手の中のスマホが震えて着信を告げたが、液晶画面に表示された名前を見て、千尋はそれを無視した。
 …うん、いろいろ見なかったことにしよう。
 そう決めたところで電話は切れたので、何もなかったということでスマホをカバンにしまおうとしたら、再び電話が掛かって来た。

「あーもうっ」

 これは電話に出るまで終わらないと悟り、千尋は仕方なく電話に出た。

「何なの、ハルちゃん!」

 電話に出てすぐ、千尋は相手の『もしもし』も聞かないうちに、苛立ちをぶつけた――――この電話を掛けてきた相手であり、今日1日中、延々と千尋に電話とメールを送り付けてきた相手である遥希に。
 ちなみに、デートの後のメール以降、大和からはメールも電話も来ていない。

『ちーちゃ~ん! 何で全然電話出てくんなかったのっ!? 俺、超掛けまくってたのにっ!』
「……声デカいんだけど」

 苛立ちのあまり、千尋も電話に出た最初の一声は声を大きくしてしまったが、遥希の切羽詰った声色とは裏腹の、どうでもいい内容の電話に、逆に冷めてしまった。

『ねぇちーちゃん、聞いてる!?』
「…ハルちゃんこそ、聞いてんの? つか、俺仕事なの。今終わったトコなの。ハルちゃんみたいな暇人とは違うんですー」
『何それっ! 俺だって別に暇人なんかじゃねぇし!』
「1日中、ストーカーみたいに電話とかメールしまくってる人の、どこが暇人じゃないっていうの?」
『ストっ…』

 千尋のあまりの言い草に、遥希はついに言葉を詰まらせた。
 この隙に電話を切ってしまおうかとも思ったが、それはそれで、後々面倒なことになりそうだから、千尋は「何の用?」と話を聞いてあげることにする。



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恋の女神は微笑まない (30)


『昨日っ! どうなったの!? 話聞かせてよっ! 俺、超心配したんだからね!』
「昨日?」
『つか、これからちーちゃんち行くから、じっくり聞かせてっ!』
「え…………来るの?」

 冗談とかでなく、本気で嫌そうな声が出てしまった。
 なぜなら、すごく嫌だから。

 時間も時間だから、帰ったらご飯食べようと思っていたのに。
 千尋も一応、かろうじて自炊的なことはするから、今日だってそのつもりだったが、遥希が来るとなったら、彼の分も作ってやらないわけにはいかないだろう…………面倒くせぇなぁ…。

 まぁ、外で食べるって手もあるか。
 昨日はもんじゃだったし、今日は何かさっぱりしたもの……寿司とか? でも、遥希に奢らせるには、ちょっと高いかな。そんなことまで考えてやるなんて、俺って優しい。

『ちょっとちーちゃん、聞いてるっ!?』
「あ、和食にする?」
『え……何の話してんの?』
「何って、夜ご飯」
『~~~~~~ちーちゃんっ!!!』

 ……怒られました。

「だって、もう夜ご飯の時間じゃん。じゃあさ、俺が勝手に自分の分だけメシ作って、食ってていいなら、俺んち来てもいいよ?」
『何それ』
「ハルちゃんの分まで作るのが面倒くさい」

 千尋もそうだけれど、遥希も食べ物の好き嫌いがあるから(それがまた、千尋と同じものでないところが…)、非常に面倒くさいのだ。
 人の好みまで考えながら料理するなんて、最高に面倒くさい…!!

『分かったよっ! 何か食べに行こっ? で、その後でちーちゃんちに行くっ!』
「えー……結局俺んちには来るんだぁ…」
『そんなに嫌そうな感じで言わないでよぉ! とにかく! これからちーちゃん迎えに行くっ!』

 面倒くさいテンションだなぁ…と千尋が思っているうちに、一方的に電話は切れ、千尋は断りの返事をしそびれてしまった。
 というか、遥希はこれから千尋を迎えに行くと言ったけれど、今まで1回も店に来たことがないのに、場所とか分かるんだろうか。まぁ、店の名前が分かればネットで調べられるけど、遥希の場合、スマホの操作にも不安があるから…。

 それにしても、そこまでして昨日のこと聞きたい、て…………遥希も大概ミーハーだなぁ。大和とは、お試しで付き合うことになっただけだから、特に話すこともないのに。
 遥希に何か話す話題を作るためにも、大和にメールでもしてみようか。

 ……………………。

「いや、書くことねぇな」

 千尋はもともとメールとかマメなほうでないから(遥希みたいにデジタルに弱いわけでも、相手に遠慮しているわけではない)、用事がないのにメールをしろと言われても、本文に書く内容がない。
 むしろ、意味なしメールとか、面倒くせぇ! と思うタイプなので。
 でも、昨日のメール以降、大和からも何の連絡もないから、彼もそういう性格なのだろう。よかった。



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恋の女神は微笑まない (31)


「…ぅ?」

 千尋が、やっぱメールはいいや、とスマホをカバンにしまおうとしたところで、再び着信があって、まさか大和か? と思ったら、遥希だった。

「何? どうしたの、ハルちゃん」
『ちーちゃんのお店の場所が分かんなぁ~いっ!』
「…………」

 やっぱり千尋のところに行くのはやめにする、とでも言ってくれるのかと、若干の期待をしつつ出てみれば、そんなことは全然なくて、最初に思ったとおりのセリフを聞かされ、ガックリ来る。

「ハルちゃん、今どこ?」
『駅ー』
「…今行くから、そこから1ミリも動かないでねっ」

 大きく溜め息を零して、そう言い捨てると、千尋は電話を切って店を出た。



*****

「あ、ちーちゃ~ん!」

 千尋が駅まで行くと、キョロキョロと辺りを見回していたが、その存在に気付いたのか、手を振ってくる。
 1ミリも動くなと言った千尋の言葉を忠実に守っているのか、遥希は確かにその場から少しも動かないが、こんな人が大勢いる駅前で、手を振りながら人の名前をそんな大声で呼ばないでほしい。

「ちーちゃん、ちーちゃんっ!」

 このまま回れ右をして帰ろうかという思いが頭をよぎるが、遥希は、千尋がまだ遥希に気付いていないとでも思っているのか、さらに名前を連呼してくる。
 ダメだ、一刻も早く、遥希を止めないと。

「ちーちゃ…イダッ」

 ダッシュで遥希のもとに駆け寄った千尋は、そのまま遥希の頭をベシッと叩いた。

「何すんの、ちーちゃん! 痛いじゃん」
「うるさいっ。ホラ、行くよっ」
「どこ行くのー? 和食? ねぇ、ちーちゃんちの近くのお店にしようよ」

 千尋に怒られようが呆れられようが、めげない遥希は素直に千尋の言うことを聞いて、その後を付いてくる。

「俺んちの近く? 何かおいしいトコあったっけ?」

 千尋の住んでいる周辺にも、もちろんいくつかの飲食店があり、ときどき千尋も利用しているし、遥希と一緒に行ったこともあるけれど、遥希がそんなに気に入っている店があるとは知らなかった。

「えー? お店、どこにするかはちーちゃんが決めてよぉ。ちーちゃんがご飯て言い出したんだからさぁ」
「は? ハルちゃん、行きたいトコあるんじゃないの?」
「別にどこでもいいよ、俺」

 遥希が、千尋の家の近く、と言い出したから、どこか行きたい店があると思ったのに。
 あっさりと遥希は言ってくる。



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恋の女神は微笑まない (32)


「はぁ? じゃあ何で俺んちの近くがいいとか言ったの?」
「だって、そしたら、ご飯食べた後、すぐにちーちゃんちに行けるじゃん」
「……あぁ」

 飽くまでも千尋の家に行くつもりの遥希に、とうとう千尋は根負けした。

「分ーかったよっ! だったら最初から俺んち行こっ? その代わり、ご飯はコンビニだからねっ」
「いーよ! ちーちゃんとご飯なら、何でもいい!」
「…………」

 そういうかわいらしいことは、千尋でなく琉に言ってやればいいのに…と思いつつ、千尋は遥希を連れて自宅に向かった。



*****

「もぉ~ちーちゃん、信じらんないっ」
「…何が?」

 約束どおり、近くのコンビニで夜ご飯を買って、千尋の家に向かう途中、コンビニの袋を両手にぶら下げた遥希が、喚き散らしている。

「お弁当とかパンとか、こぉ~んなにいっぱい買うなんてっ」
「いっぱいって……パンは食パン1斤じゃん」

 千尋は平然と答えるが、それは他に何も買わなかった場合のセリフであって、お弁当とかをこれだけ買っておいて、言うことじゃない。
 それに、遥希が文句を言いたいのは、それだけではない。

「お酒もいっぱい買ったしっ」
「でも飲むでしょ?」
「それ全部、俺に払わせるしっ」
「ハルちゃんだって飲むでしょ? 飲まないの?」
「飲むけどっ…! でも何で全部俺なの!? ちーちゃん働いてんだから、俺にたかんないでよっ。俺、大学生っ!」
「はぁ? もしハルちゃんが俺んちに来たいとか言わなかったら、俺は自分でご飯作って食べるだけで済んだの。ハルちゃんが来たおかげで、余計なお金使うはめになんなきゃなんないの? ハルちゃんが払って当然でしょ?」
「ぐぅ…」

 絶対に千尋の言うことが理不尽なはずなのに、どうしてか言い返せない。
 悔しいけれど、口では絶対に千尋に敵わないのだ。

「でっでも、何で俺が2個とも持ってんのっ、袋! ちーちゃんだって1個持ってよ!」

 遥希だって、持ちたくて2個とも持っているわけではない。
 会計のとき、遥希がお釣りを貰っている間に、千尋が何も持たずにさっさとコンビニを出てしまったから、仕方なしに遥希は持っているのだ。

「いいじゃん、家そこだし」
「よくなぁ~いっ!」
「ハルちゃん、うるさい。近所迷惑だから、静かにして」
「ぬぅ…」

 きっぱりと言い捨てられて、遥希はシュンと項垂れた。
 最初は遥希のほうが押せ押せで来たはずなのに、いつの間にか千尋に主導権を奪われている…。



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恋の女神は微笑まない (33)


「まぁ~ったく、俺んちに来たいとか、一体何の用なんだか」
「だって、昨日の話、聞きたいじゃんかー」

 そう言ってエレヴェータのほうに行こうとした遥希は、千尋が反対側にある階段を昇り始めたので、仕方なくその後を追った。
 琉の部屋は超高層階にあるから、行くときはエレヴェータに乗るんだけど、千尋の部屋も1階や2階じゃないんだからエレヴェータを使えばいいのに、体を鍛える熱の冷めやらない千尋は、相変わらず階段派らしい。
 というか、だったらなおのこと、この荷物、千尋が持ったらいいのに。

「ハルちゃんもミーハーだね」
「ミーハーじゃないよ、心配してたの!」
「はぁ? 何で俺がハルちゃんに心配されないといけないわけ? 俺がハルちゃんの心配してやるならともかく」

 ひどい言われよう…。
 遥希だって、千尋に心配されたことなんて…………まぁ、ないこともないけれど。

「お邪魔しま~す」
「ホンット、お邪魔」
「ちーちゃんっ!」

 ようやく部屋のある階に到着すると、遥希のペースに合わせることも、遥希を待つこともなく、スタスタと先へ進んでいた千尋が、ドアを開けて待っていてくれて。
 ここまで来て閉め出されなかっただけよかったけど、そこまで嫌がらなくたって!
 ドアを開けていてくれたのだって、遥希の持っているお弁当やらお酒やらが目当てとしか思えない。

「で、で、ちーちゃん、昨日どうだったの?」
「どうって何が? つか、先にメシ食おうよ。俺、腹減ってんだけど」
「えー。先に話してよぉ。…………ハッ、もしかして、話せないようなことがあって、話すんの先延ばしにしようとしてる!?」
「別に話せないようなことなんかないけど」

 相変わらず遥希の想像力は逞しいようで、千尋は若干呆れながら、遥希が運んできたコンビニの袋の中を覗く。

「まずこれ食べよ」
「…あれ、ちーちゃん、パンしまうの?」

 千尋は、取り出した弁当をテーブルの上に置き、食パン1斤はなぜか片付けている。

「明日の朝食う」
「ちょっ! 明日の朝ご飯まで俺に買わせないでよっ」

 図々しいにもほどがある! と遥希は抗議するが、千尋は素知らぬ顔だ。
 こういう性格もひっくるめて、遥希は千尋のことが好きで、親友だと思っているけれど、よく普通に社会人としてやっていけているなぁ、と思うことはよくある。

「で? 話せないことじゃないなら、話してくれるよね? 昨日のこと」

 今度こそ千尋に押し切られないよう、遥希はちょっと強気に千尋に詰め寄るが、そんなこと気にならないのか、千尋はマイペースに弁当のふたを開けている。
 それにしても、確か和食が食べたいと言っていたはずなのに、買ったのはハンバーグ弁当だ。意味が分かんない。



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恋の女神は微笑まない (34)


「昨日のことったって、別に何もないよ。もんじゃ食ったけど」
「もんじゃ? もんじゃ焼き?」
「うん」
「大和くんと一緒に?」
「うん」

 昨日、遥希と琉と一緒にいた大和が、千尋が合コンに参加しているのを知って、店を飛び出していったのを見送って。
 遥希はその後、大和がどうしたのか、2人はどうなったのか、非常に気にしていたのに、千尋の話だと、ただもんじゃ焼きを食べに行っただけのようだ。
 とりあえず大和が千尋と会えたのは分かったけれど、千尋は合コンに参加していたわけで……どういう状況で、もんじゃ焼きを食べに行くことになるんだろう。

「ちーちゃん、昨日合コンだったんだよね?」
「うん。ねぇハルちゃん、飲まないの? 俺これ飲むよー?」
「いいけど…、ねぇねぇ、大和くんて、ちーちゃんが合コンしてるとこに来たの?」
「そうだよ」
「で、2人だけでもんじゃ食べに行ったんだよね?」
「そう」

 まさか大和も交えて、合コン参加者みんなでもんじゃ焼きを食べるという、シュールな状況ではなかったようだ。
 で、だからどうしてもんじゃ?

「合コン終わってから行ったの?」
「んーん、途中で」
「合コン、途中で抜けて、もんじゃ食べに行ったの?」
「うん。まぁもんじゃ食べに行ったのは、結果だけど」
「…よく分かんない」

 千尋は、聞いたことには答えてくれるけど、聞かないと何も言ってくれないから、どうも話が見えてこない。
 そうやって話をはぐらかしているのかとも思ったが、千尋の場合、本当にそうしたかったら、遥希がここに来ること自体を、何とかして阻止しているだろうから、単に喋るのが面倒くさいだけなのだろう。

「何でもんじゃ食べに行ったの?」
「食べたかったから」
「それはそうだろうけど…、合コン途中で抜けてまで?」

 遥希は自分の分の弁当を開け、大量に買ってきたアルコールに手を伸ばす。
 コンビニでは、千尋がポイポイとかごの中に入れるのを止められなかったけれど、本当にこれ全部飲むつもりだろうか…。

「いや、合コン途中抜けしたのは、大和くんが『ちょっと来て』て言ったからだけど」
「で、ちーちゃん、それに付いてっちゃったの? 合コンの途中だったのに?」
「結構つまんない合コンだったし。高くはついたけど」
「合コンつまんなかったから、大和くんに付いてったの? 大和くんがカッコよかったからとかじゃなくて?」
「大和くんは最初からイケメンじゃん? アイドル様様だし」
「そうじゃなくて! 何かすごいカッコよく登場して、ちーちゃんを奪い去ったとかじゃないの!?」

 千尋の合コン参加を知って、慌てて飛び出していった大和を見ているだけに、遥希としては、ドラマのようなシーンしか思い浮かばないんだけれど。
 なのに、千尋の話だと、そんな雰囲気が全然伝わって来ない。



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恋の女神は微笑まない (35)


「ハルちゃんの妄想力て、果てしないね」
「何で!? 普通そう思うじゃん! ちーちゃんの説明、意味分かんないもんっ。合コンしてたら大和くんが来て、『ちょっと来て』て言うから付いてって、もんじゃ食べた、とか。何それ」
「だってそうだし。あ、お試しで付き合うことにはなったけど」
「あっそ。……………………うぇっ!? ケホッケホッ…!」
「何してんの、ハルちゃん」

 千尋が、本当に何でもないふうに、サラッと普通のテンションで言ったから、遥希は一瞬聞き流してしまったんだけれど、その内容が脳に行き渡って、とんでもないことだと気が付いた。
 何してんの…て、そんなこと聞いて、吹き出さないわけがない!

「えっ? えっ? ちーちゃん、今何て言った!?」
「今? 『何してんの?』…だったかな?」

 慌てる遥希をよそに、千尋はのんきに缶のカクテルをあおっている。

「そんなボケいらないから!」
「は? 何のこと言ってんのか知らないけど、ボケのハルちゃんにそんなこと言われたくないね」
「はぁっ!? 俺のどこがボケなのっ!? じゃなくてっ! ちーちゃん、付き合うとか言わなかった!?」
「言ったけど?」

 遥希が噎せ返るほど驚いているというのに、千尋ときたら、本当にまったく何でもない様子でいるから、もしかして、真面目な顔で言った冗談なのだろうか。

「えー…っと。えっと。ちーちゃん、大和くんと付き合うの?」
「お試しでね」
「冗談?」
「は?」

 念のために確認してみれば、逆に千尋に怪訝そうな顔をされる。
 そんな千尋は、ハンバーグ弁当を食べ終えて、バナナを持って来て食べ始めていて。
 もう和食にはほど遠いし、ご飯食べた後にさらなる栄養補給とか意味分からないし、千尋の言っていることもさっぱり分からないし、遥希はすっかり混乱状態だ。

「ねぇちーちゃん、もっかい言って?」
「何を?」
「全部」
「はぁ? ハルちゃん、今まで何聞いてたの? あんなにいっぱい質問しといて」
「だって、ちーちゃんの言うこと、意味分かんないんだもんっ」
「ハルちゃん、もう酔っちゃったの?」
「いやそれ俺のセリフだと思う!」

 遥希も飲み始めてはいるけれど、まだ数口しか飲んでいないから、いくら遥希がお酒弱くても、酔ってなんかいないし、変なことも口走っていない。
 変なことを言っているのも、酔っ払っているのも、絶対に千尋だ!

「ねぇちーちゃん、もっかい確認するけど! 昨日ちーちゃん、合コン出てたでしょ?」
「うん」
「そこに大和くんが来て、『一緒に来て』て言うから、合コン途中だけど一緒に行ったんだよね?」
「うん」
「で、もんじゃ食べて…………大和とお付き合いすることになったの?」
「うん」



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恋の女神は微笑まない (36)


 意味が分からなくて、しつこいと思われるのを覚悟で、もう何回目になるかもしれない質問を繰り返せば、千尋は嫌がらずに返事はしてくれるけれど…………ちっとも流れが見えて来ない。
 大和が、千尋の参加していた合コンの会場に登場したところまではいい。それを見送った遥希の想像の範囲だ。大和が千尋をその場から連れ出したことも。
 分からないのは、その後だ。
 そんなドラマみたいなことがあったのに、どうしてその後、もんじゃ焼きなんか食べに行ったのか。そして、どうして大和と付き合うことになったのか。

「もんじゃ食べながら、告られたの?」

 それってちょっとムードなさすぎるんじゃ…? と思うのは、遥希が夢見がちなせい?
 でも、あの大和が、わざわざもんじゃ焼きを食べに千尋を連れ出して告白するとも思えないから、もんじゃ焼きをリクエストしたのは、千尋に違いない。
 まぁ、何を食べようが勝手だが、遥希が聞いていた話だと、千尋は大和に対して、好きだけど付き合うほどではない、という感情しか持っていなかったはずなのに、何が功を奏して千尋は大和の告白を受け入れたのだろう。
 …もんじゃのおかげ?

「いや、告られたのは、もんじゃの前。つか、付き合うの、お試しだから」
「お試し?」

 そういえば先ほどから千尋は、何かにつけて、お試しで付き合うとか言っているけれど、そもそもそれがどういうことなのかが、遥希には分かりかねるのだが。

「何か、お試しで付き合おう、てことになって。で、腹減ったから、もんじゃ食いに行った」
「全然分かんないっ。お試して何、ちーちゃん!」

 千尋は簡単にそう言うけれど、人と付き合うのに、お試しがあるとは思えない。
 そんな突拍子もないことを言うのは、やっぱり千尋かな。でも大和も、結構大胆なことするからなぁ…。

「だって俺、大和くんのこと、付き合いたいて思うほど好きなわけじゃないでしょ? だから大和くんに、俺のこと嫌いになって、て言ったんだけど、それは無理て言うし」
「は…はぁ…?」
「だから、俺のこと嫌いになる努力して、て言ったのね。でも大和くんだけ努力すんの、フェアじゃないから、俺は大和くんと付き合いたい、て思えるように努力することにしたの」
「う、うん…」
「そしたら大和くんが、どうやって付き合いたい、て思えるようにがんばるの? て言うから、俺、大和くんのいいとことか好きなとことかをいっぱい思い浮かべる、て言ったの」
「……」
「そしたらね、俺のそういうとこ、いろいろ知ってんの? て言ってきてね、だったらお試しで付き合ったらいいんじゃない? てゆってきたの」

 いつの間にか3本目の缶を開けていた千尋は、酔いが回ってきたのか、喋り方が舌足らずになってきている。

「それでちーちゃん、大和くんとお付き合いすることにしたの? お試しで」
「うん。だって大和くん、お試しで付き合ったら、そういうの、好きなとことか、分かるじゃん? みたいなこと、ゆうからぁ」
「そ…そっかぁ…」

 その大和の発想自体、遥希にしたら、とても考え付かないことだけれど、なかなかに手強い千尋に対して、苦肉の策に打って出たのだろうか。
 それにしても、それにオッケーした千尋も千尋だ。



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恋の女神は微笑まない (37)


「ちーちゃん、お試しで大和くんと付き合って、ホントに大和くんと付き合いたいって思えるように、がんばるの?」
「そぉ」
「けどさ、大和くんはちーちゃんのこと嫌いになる努力してるんでしょ? いいの? ちーちゃんがホントに付き合いたいって思うようになったころには、大和くん、ちーちゃんのこと嫌いになってるかもよ?」
「あー、うん。何かそんなこと、大和くんにも言われたわ。でもさ、大和くんが俺のこと嫌いになる努力しながら、試しにお付き合いしても、俺、大和くんのいいとことか、なかなか分かんないじゃん? だからぁ、大和くんはあんま努力できないね、て話になったぁ」
「そっかぁ…」

 何となく、千尋がいいように丸め込まれたことは、鈍い遥希にも分かる。
 千尋はしっかり者だけど、時々すごい抜けているところがあるし…。

「それで、その後もんじゃ食べに行ったの?」
「そーそー。普通さぁ、お付き合いして最初にご飯食べに行くなら、何かおしゃれなとことかじゃん? でも俺、もんじゃ食いたくてー」

 やはりもんじゃ焼きは千尋のリクエストだったらしい。
 別に何を食べてもいいけれど、お試しとはいえ、付き合うことになって、その後に普通にご飯に行けるところが、何かすごい。
 好きな人とお付き合い出来るてなったら、嬉しいけど、緊張しちゃって、いきなりはご飯どころじゃない気もするけど…。あ、お試しでのお付き合いで、まだそこまで好きなわけじゃないから、平気なのかな。

「じゃあちーちゃん、大和くんとメールとかしまくってんだ?」
「別にぃ。昨日は、バイバイした後、メールしたけどー。何か恋人ぽいことしたほうがいいのかな、て思ってぇ」
「後は? 今日とか」
「ぜーんぜん。今日は、ハルちゃんからストーカーされてただけだしぃ」
「ストーカーじゃないってば! でもお試しってったって、恋人じゃん? メールとかしないの?」

 遥希と違って千尋は、相手が芸能人で忙しいだろうから…とか、そういうのは全然気にしなそうなのに。

「んー? さっき、メールでもしてみるか、て思ったけど、でも別に言うこともねぇな、て思って、やめた」
「言うことない、て…。何かあるでしょ? だって恋人だよ?」
「ないよぉ、何も。だって俺、今日仕事してただけで、特別何もなかったもん。何言うのぉ?」

 千尋はふにゃふにゃと床に寝転がった。
 見れば、もう3本目の缶が空になっている。遥希はまだ1本目の途中なのに。
 遥希よりは千尋のほうがお酒に強いから、千尋が酔っ払っているときは、遥希もグズグズになっているので、遥希が、こんなふうになった千尋を見ることは珍しい。

「今日、お仕事大変だったとか。大和くん今日どんなお仕事したの? とかさぁ」
「仕事~? いつもどおりだよぉ、そんなの。それに、大和くんの仕事なんか興味ないしー」
「興味ない、て…。大和くんの好きなとこ、いっぱい思い浮かべて、付き合いたいて思えるようにがんばるんでしょ? もっと興味持ちなよっ」
「んー…そっかぁ~」



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恋の女神は微笑まない (38)


 遥希の言い分を納得はしている様子だが、それを実行する気はないようで、千尋はスマホでなく、新しいお酒に手を伸ばしている。
 そんな千尋に、遥希の情熱がメラメラと燃え上ってしまう。
 遥希は別に、千尋が口約束を破って、努力を怠ろうとすることに怒っているわけではない。恋人として、相手に興味がないとか、そういうのはよくないと思うのだ。

「ちーちゃん、大和くんにメールしなよっ、今!」
「今ぁ~?」
「そう、今! 大和くん、きっと待ってるよ、ちーちゃんからのメール!」
「そーかなぁ~? 別に大和くんからもメール来ないし、いーんじゃない~?」
「えっ…、大和くんからも、メール来てないの?」
「んー…」

 大和からもメールがないとは……それにはちょっと驚く。
 あんなに千尋のこと好きな様子だったのに、仕事、忙しいんだろうか。琉は、忙しい仕事の合間にもメールをくれるけれど、大和はそういう性格ではないのかもしれない。

 遥希がビックリしていると、千尋は寝転んだまま、カバンの中を探ってスマホを取り出すと、遥希に投げて寄越した。
 そういうことだから勝手に確認しろ、ということなのだろうが、いくら親友で、千尋がスマホの中身を見ることを了承しているとはいえ、積極的にそういうことはしたくない。

「ちーちゃん、ケータイ渡されても困るよぉ」
「ハルちゃん、大和くんにメールしてぇ…?」
「はぁ? 何で俺がしなきゃいけないの? ちーちゃんがしなよ! あ、でもここランプ点いてるから、何かメール来てるんじゃない? 大和くんからかもよ!?」

 受け取ったスマホの、着信等を知らせるランプが青色に点滅しているのに気が付いて、遥希は千尋にそれを見せつける。
 けれど、完全酔っ払っている千尋は、千尋はそんなことに関心がないのか、コンビニの袋を漁っているだけで。

「んー…ハルちゃん、見てぇ?」
「何で! ヤダよ、人のメール見るなんて! ちーちゃん自分で見てよっ」

 …ダメだ。
 千尋は大和に、付き合いたいように思えるようがんばる、なんて言ったらしいが、そんな努力をするようには、まったく見えない。
 お試しとはいえ、千尋と付き合えるようになって、きっと大和はすごく喜んでいるだろうに、こんなんじゃ、ちっとも報われない。

「ちーちゃん、ちゃんとしなよっ!」
「んぁ…?」
「大和くんと付き合いたいって思えるようにがんばるんでしょ!」
「うー…」

 千尋が、大和と付き合いたいと思えるようにがんばる、という約束を守るかどうかは、別にどうでもいいと思っていたけれど、この態度はあんまりだと思って、遥希はつい声を大きくしてしまう。
 遥希に怒られ、ようやく千尋はスマホを受け取った。



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恋の女神は微笑まない (39)


「別にゆーこともなぁ~い。じゃー、ハルちゃんと飲んでる、て書こっかなぁ~」
「まぁ…うん…。てか、まず、大和くんからのメール見ないとっ」

 とにかくメールしろ、と言った身としては、内容についてあまりとやかく言って、千尋が面倒くさくなってメールするのをやめられたら困るから口出ししないけど、恋人相手に、他の男ことメールするって…………あり?

「大和くん、何て?」
「今、仕事終わったってー。へぇー」
「ちょっちーちゃん、返事、返事!」

 へぇー、で話を終わらせて、スマホを投げ出してしまった千尋に、遥希のほうが慌てる。
 自分から言うことが別になくても、大和から来たものには、返事くらいしないと!

「返事ったって……仕事終わった、て言われて、何て返事すればいいのぉ?」
「何て、て……何か言うことあるでしょ!?」
「うぅん…、んー…………メール打つの面倒くさいから、電話しちゃおー」
「そうなの!?」

 遥希なんか、未だに琉に電話するの、ちょっと遠慮することがあるくらいなのに、千尋のこの積極性は何…?
 いや、千尋が口にしたとおり、単にメールを打つのが面倒くさいだけなのかもしれないけれど…。

「ん…ん…もしもぉ~し、大和くんお仕事、らったのぉ…?」

 どうやら本当に電話を掛けたらしい千尋は、トロトロとした口調で電話越しの相手に声を掛ける。
 千尋も甘えているつもりはないのだろうが、口調が口調なだけに、何となくそんな感じがする。遥希ですらそう感じるんだから、恋人(仮)の大和はメロメロだろう。

『そうだよ、今終わったトコ。…ちーちゃん、お酒飲んでるの?』
「ぅー…………んーん。飲んでない……お酒」

 別に遥希も、2人の会話に聞き耳を立てているわけではないが、こんなに近くで電話をしているのだから、大和の声は聞こえなくても、千尋の声は聞こえるし、何となくどんな会話をしているのかも、想像は付く。
 そんな中、千尋が、お酒を飲んでいない、なんて言い出すから、ギョッとして千尋を見た。
 千尋は、俳優顔負けの演技をしたり、わりとシレッと嘘をついたりするけれど、今のはまったく下手くそだった。それだけ舌足らずに喋っていて、一体どこが飲んでいないのだ。

『嘘。飲んでるでしょ?』
「飲んでなぁ~い」
『だからー、何でそんなこと言うんだって。飲んでんじゃん』
「う゛ー……らってぇ、大和くんお仕事がんばってたのに、俺ばっか飲んでたらダメかなぁ、て思ってー」

 コロリと寝返りを打って、千尋は新しいお酒の缶に手を伸ばす。それなのに、よく『飲んでない』なんて言えるものだ。
 でも、そんなかわいげのあるセリフ、遥希は酔っていようが素面だろうが、絶対に言えないだろうな。気の利いたこととか、ちっともうまく言えないし。



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恋の女神は微笑まない (40)


『どこで飲んでんの? そんなに酔っ払って…………外じゃないよね?』
「うち~。ハルちゃんがぁ、うちに来る、て言うからぁ」
『ハルちゃん一緒なの?』
「ん。大和くんはぁ?」
『俺? 琉と一緒だよ?』
「ちょっ水落と代わってぇ…?」

 千尋の口から、自分の恋人の名前が出て来て、遥希はドキッとする。
 大和は今ほど仕事が終わったようだが、それは琉と一緒のことだったらしい。
 それにしても、琉と電話を代わってもらって、一体何を話す気だろう。

『…んだよ、酔っ払い』
「あ、水落ー。ヘーイ、ハルちゃん、パース!」
「へっ!? ちょっ!」

 いいな、琉とお喋りできて…と、遥希が羨ましそうに千尋を見ていたら、突然千尋がスマホを放り投げてきたので、遥希は慌てに慌てて、そのスマホをキャッチした。
 床はフローリングだし、今千尋は結構高く放ったから、遥希が受け取り損ねたら、本気で壊れていたかもしれない。

「ちーちゃん、何してんのっ…………て、寝てるしっ!」

 これで、もしスマホが壊れてしまったら、間違いなく遥希のせいにされるので、こんな暴挙に出た千尋を叱らねばと思ったのに、肝心の千尋は、遥希にスマホをパスした格好のまま床にぱったりと倒れて、そのまま眠っていた。

「…もしもし?」
『あ、ハルちゃん』
「琉!」

 千尋のことも気になるが、繋がったままの電話も気になるので、千尋のスマホだけれど出てみれば、相手は琉だった。
 本当に琉に代わってもらっていたらしい。

『ハルちゃん、アイツと飲んでんの?』
「…ん。昨日大和くん出てっちゃったきりで、心配だったから…。琉、大和くんから話聞いた?」
『まぁ、ちょっとはね。つかハルちゃん、飲むの付き合わされてんの?』
「付き合わされて、ていうか……ちーちゃんがいっぱい飲んだだけで、俺は殆ど飲んでないよ」

 遥希がお酒強いほうじゃないことは琉も知っているから、余計な心配を掛けないように、本当のことを言っておく。
 もし、千尋と同じペースで飲んでいたら、遥希は今こうして琉と普通に喋ってなんかいられない。

『もう話終わった? これから帰るんでしょ? 俺、迎えに行くから、一緒に帰ろ?』
「うん! あ、でも…」
『大丈夫、まだそんな遅い時間じゃないし、明日、仕事午後からだから、これから迎えに行くくらい平気』
「いや、そうじゃなくて…」

 琉の迎えを躊躇う遥希に対し、琉は遥希が仕事の心配をしているのだと思ったようだが、もちろんそれも気には掛けていて、遠慮する気持ちはあるのだけれど、そうじゃなくて。



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恋の女神は微笑まない (41)


「ちーちゃん酔い潰れちゃったし、今日俺、ちーちゃんちに泊まってく」
『えっ、マジで!?』
「うん。だって心配だもん」

 例えば2人して外で飲んで、そのままバイバイしたなら、家に帰ってからの千尋のことをそこまで心配はしないけれど、今まさに目の前で酔って潰れたのを放って帰るのは、ちょっと気が引ける。
 千尋は、セーブしながら飲んで、あんまり酔っ払わないときもあるけれど、時々すごくベロベロになるから、余計に心配だ。

「ゴメンね、琉…。俺、まさか今日、琉に会えるとか、声が聞けるとかも思ってなくて…」
『んーん、いいよ。ハルちゃんが悪いわけじゃないし。悪いのは千尋…………いや、大和だしさ』
『ちょっ、何で俺が悪いんだよっ! つかお前、いつまで喋って…』

 遥希のそばに千尋がいるように、琉のそばには大和がいるから、近くで喋っている声が電話に入ってくる。
 せっかく琉が誘ってくれたのに、遥希がそれに応えてあげられないのは、多分誰のせいでもないけれど。

『あ、そうだ! 俺、いいこと思い付いちゃった』
「え?」

 喚いている大和を無視して、琉が勝手に話を進めている。
 そういえば、これが千尋のスマホであるように、琉が使っているのも、大和のスマホだった…。

『ね、いいでしょ? ハルちゃん』
「え? あ、うん」
『じゃあ、決まり。すぐ行くね』

 遥希がちょっとボーっとしているうちに、琉の言う名案には大和も賛成していたようで、しかも遥希が思わずしていた返事は、遥希の同意を告げるものになっていたらしい。
 何だかよく分からないけれど、これから琉がここに来るのは間違いなさそうだ。

『じゃあね、ハルちゃん。愛してるよ』
「えっ」

 サラッと琉に『愛してる』なんて言われて、驚いて何も返せずにいるうちに、電話は切れてしまった。
 琉と恋人になってしばらく経つのに、相変わらずこういうことには慣れない。こんなとき、『俺もだよ』て返したほうがいいんだろうし、遥希もそうしたいと思ってはいるのだが、なかなかうまくはいかない。

「ちーちゃんは、そういうの、うまく出来そうだよね…」

 千尋もあんまりそういうことを口にするタイプではないけれど、相手が言ってほしいときに、言ってほしいセリフを言うことが出来る、器用な人だから。
 千尋は、大和のことを付き合いたいと思えるように努力する、なんて遥希じゃ思い付かないようなことを言っていて、確かにそれはちょっと突拍子もないことだけれど、そんなふうに、相手のことを思って努力するのは、大切なことだと思う。
 だから遥希も、琉のために、琉が喜んでくれるようなことが出来るように、努力しなくちゃ。

「とりあえず、琉が来る前に、ちーちゃん、おふとんに連れて行かなきゃ」

 千尋は、一見した感じと違って、筋肉たっぷりだから、酔い潰れて意識がないのを連れて行くのは大変だけど、琉の手を煩わせるのも嫌だから、ここはがんばろう。
 頼めば、琉だってやってくれるだろうけど、どうも琉は千尋のことが苦手なようだし。

「ちーちゃん、おふとん行こー?」

 遥希は、未開封のお酒の缶を握り締めたまま眠っている千尋の肩を揺すった。



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恋の女神は微笑まない (42)


chihiro & yamato

 いつもどおりの時間に鳴り出したアラームに、千尋はうにゃうにゃしながら手を伸ばした。
 いつもと同じ朝なのに、いつものようにすっきり目覚められないのは、仕事で徹夜が続いたからではない、昨日飲み過ぎたせいだ。
 いや、飲み過ぎたというほどは飲んでいないかもしれないけれど、ちょっとペースが速かった。自分の家だし、一緒にいたのは遥希だったし、気を抜いた。あー…怠い。

「う゛ー…」

 何とか目をこじ開けると、そこはベッドの上だった。
 しかし、自分でここまで来た記憶はないから、遥希が連れて来てくれたのだろう、しかも、ちゃんとパーカーを羽織って、下もスウェットに着替えてるし。くそぅ、遥希に借りが出来てしまった。

 しかし、そうだとしても、遥希の姿が見当たらない。
 千尋をベッドまで運ぶだけ運んで、帰ってしまったのだろうか。別にそれでもいいんだけれど、今さら何かを遠慮するような仲でもないんだから、泊っていけばよかったのに。
 それとも、どうしても自分の家に帰りたかったのかな。だったら、千尋なんか床に投げ出したまま帰ってもよかったのに、律儀なことだ。

「うに…」

 とりあえず、シャワー浴びて、ご飯…。
 今日は遅番だから、ゆっくり支度をしても間に合うだろう。千尋はベッドを降りると、着替えと新しいパンツを手にして、ベッドルームのドアを開けた。
 そして、そのまま固まった。

「え、」

 前に1度だけ行ったことのある琉の家のように、何部屋もあるわけではないから、ベッドルームを出たらすぐにリビングなんだけれど、誰もいないと思っていたそこに、誰かいる。
 しかも、いるとしたら遥希しかいないはずなのに、ソファに座るその後ろ姿は、完全に遥希ではない。

 変な夢か? うん、そうに違いない。
 だって千尋は誰にも合鍵を渡していないから、これが現実なら、そこにいるのは誰なんだ、という話になる。泥棒にしては寛ぎすぎだし……居直り強盗?
 まさかのストーカー!?

 何にしても、下手に係わらないほうがよさそうだ。
 早くシャワーは浴びたいけれど、仕事に行くにはまだ時間があるから、そこは我慢しよう。どうしても間に合わなさそうになったら、事情が事情だから、お店に連絡するしかない。
 いや、今のうちに110番か? あれ、119番?

 とにかく、ベッドルームに戻ろ……

「あ、ちーちゃん、おはよ」
「ギャーーー!!!!」
「えぇっ!?」



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恋の女神は微笑まない (43)


 ばれないよう気を付けたのに、あっさり見つかったのと、相手がなぜか自分のことを知っている様子なのの両方にビックリして、千尋はとんでもない声を上げて、あたふたとベッドルームに逃げ込んだ。

『ちょっ、ちーちゃんっ!?』

 ベッドルームのドアを閉めて、そこに寄り掛かって、呼吸を整える。
 ドアの向こうから、相手の声が聞こえる。
 『ちーちゃん』なんて、随分親しそうに呼んで来るけれど、そんなふうに千尋のことを呼ぶのは遥希と大和くらいで………………大和!?

 聞き覚えのある声と、言われてみれば見覚えのある後ろ姿と、ベッドルームに逃げ込む直前にチラッと見えたその顔は、そういえば大和のような気がする。
 混乱しながら、そぉーっとドアを少しだけ開けると、そこにはまさしく一ノ瀬大和その人がいた。

「えっと…………何してんの? ちーちゃん」

 ドアの隙間から少しだけ顔を覗かせて、外の様子を窺うと、大和がポカンとした表情で立っていた。
 確かに今の千尋の行動は、『何してんの?』と言われて仕方がないけれど、そのセリフだったら、千尋だって言いたい。大和こそ、こんなところで一体何をしているのだ。

「…大和くんこそ、何してんの? ケーサツ呼んでいい?」
「ちょっ! 待ってください…」

 たとえ相手が国民的アイドルだろうと、お試しの恋人だろうと、不法侵入は不法侵入だ。
 驚かせやがって。警察に突き出してやるっ!

「ちーちゃん、あの…」
「あと5秒」
「え?」
「待つ」
「ッ…、あの、あのねっ、昨日っ」
「ブー時間切れー」
「まだ5秒経ってないっ!」

 千尋が本気なのか冗談なのかさっぱり分からず、大和は慌てふためく。
 とりあえず説明だけでもさせてください。

「昨日ちーちゃん、俺に電話くれたでしょ?」
「えっ……………………あー……うんうんうん」
「…もしかして覚えてない?」
「えっと…………え? あれ? 俺が大和くん呼んだんだっけ…?」

 とにかく説明だけでも…! と、ドアを開けてもらって、大和が昨晩の話を始めた途端、千尋はハッとした表情になり、そのまま固まった。
 実際は、千尋が大和を呼び付けたわけではないので、その部分の記憶はなくて当然なのだが、今の千尋の様子からして、大和に電話をしたこと自体、覚えていないようだ。



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恋の女神は微笑まない (44)


「昨日、ちーちゃん電話くれたのに、すぐに琉に電話代わってくれって言って」
「え、水落に? 何で? 何それ。俺、水落と喋りたいなんて思ったこと、生まれてから1回も思ったことないのに」
「そこまで言わなくても…」

 本気で琉のことを嫌っているわけではないようだけれど、どうも千尋の琉に対する扱いは、いつもヒドイ。
 これなら、『付き合うほどではない』と言われているほうが、まだマシかも…。

「いや、俺が琉と電話代わったら、ちーちゃんはハルちゃんと電話代わったでしょ?」
「そーなの? あぁ、ハルちゃんと水落を喋らせてやろうという俺の優しさが、酔っ払ってても滲み出ちゃったんだね」
「うーん…」

 本当のところは、大和に電話をしてみたものの、喋るのが面倒くさくなって、遥希と電話を交代する口実を作りたかっただけのような気もするが、それだとあまりに自分という存在が虚しく思えるから、気付かなかったことにしておく。

「で? ハルちゃんと水落が電話すんのは別にいいけど、そこから、何で大和くんがウチに不法侵入することになるわけ?」
「ちょっ…不法侵入て言わないで!」

 確かに千尋に招き入れられたわけではないから、不法侵入と言えば不法侵入だし、警察に捕まっても文句の言えない状況だけれど、それはいろいろとまずいので、勘弁してもらいたい。

「ホントはハルちゃんがちーちゃんちに泊まろうとしたの。ちーちゃんのことが心配だから」
「うん」
「でも、それ言ったら琉が、えー!? てなっちゃって」
「はぁっ?」
「いや、あの、怖い…。で、それでですね、ちーちゃん1人にすんのが心配で帰れないなら、代わりに俺が泊まればいいじゃん、みたいな話になって…」
「それで水落のヤロウがハルちゃんをお持ち帰りしたわけか…。許せんっ」

 本当のことを言わないと、本気で千尋に警察に突き出されそうだったので、昨夜の事情を話してしまったけれど、結果、琉が1人で悪者になってしまった…。

「ゴゴゴメンね、ちーちゃん…。一応あの2人はホントに恋人なわけだし、許してあげて?」
「………………そりゃそうだよね…、ハルちゃんだって、こんな酔っ払った下衆野郎の心配するより、水落と乳繰り合ってるほうがいいよね…」
「ちょっ、ちーちゃん、急に自分のこと、そんなに蔑まないで…!」

 というか、大和も自分で言っていた何だが、琉と遥希のことを『ホントの恋人』と思わず言ってしまって、切なくなる。
 あの2人は本当に本当の恋人だが、こちらはお試しもいいところ、不法侵入の罪で警察を呼ばれてしまいそうな関係なのだ。



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恋の女神は微笑まない (45)


「いや、だって、そうじゃん? 大和くんこそ、よくそんな水落の提案に乗ったよね。何か弱みでも握られてんの? 水落に」
「何その発想…! 違うよ、俺もちーちゃんに会いたかったんだよ」
「仕事終わって疲れてんのに、酔っ払いの介抱するのが趣味なの?」
「………………。ちーちゃん、わざとはぐらかそうとしてる?」
「大和くんが俺のことを嫌いになるお手伝いをしてみました」

 飽くまでも今2人が付き合っているのは、千尋が大和と付き合いたいと思えるようになるための一環みたいなもので、代わりに大和は千尋のことを嫌いになる努力をしなければならないから、千尋の言い分も、まぁ理に適ってはいるのだが…。
 千尋のちょっと突拍子もない性格を知ったうえで、それでも千尋のことを好きでいる大和にしたら、こんなことくらいで嫌いになるわけがない。

「…とりあえず、何で俺がここにいるかは分かってもらえたかと思うけど…………警察、呼びますか?」
「面倒くさいから、もういいや。つか大和くん、どこで寝たの? 寝るトコないよね? 寝てないの? それとも……ハッ…!」
「えっ何?」

 訝しんでいた千尋は、突然何かに気付いたらしく、急に着ていたパーカーとTシャツを捲ったり、穿いていたスウェットの中を覗いたりし始めて…………それってもしかして…。

「…………ちーちゃん…。言っとくけど昨日、ちーちゃんのことベッドまで運んだだけで、何もなかったからね。ちーちゃんが今想像してるようなことは」
「あ、そうなの?」

 千尋が想像しているようなこと――――つまりは、昨日千尋の家にやって来た大和が、酔い潰れた千尋を手込めにした的なことなど、悪いが間違ってもない。
 もちろん酔っ払って寝ていた千尋は非常に魅力的だったが、大和はそこまで理性のない男ではないのだ。
 それよりも、千尋は本気で大和がそんなことをしたと思って慌てたのか、わざと慌てた振りをして、大和をからかおうとしたのか、そっちのほうが気になる。

「じゃあ何、大和くんどうしたの? マジで寝てないとか?」
「いや、あのソファのとこで寝たよ、ちょっと」
「まるで神のようだね。仕事終わった後、自分の家にも帰らず酔っ払いの世話をして、自分はベッドも使わずソファで仮眠とか。ベッドで寝てもよかったのに」
「ちーちゃんの隣で?」

 確かに千尋のベッドは、男2人で寝ても狭苦しく感じるサイズではないが、想いを寄せている相手と1つのベッドで寝て、それこそ何もしないで一夜を過ごせる自信はない。
 いや、そこまで理性のない男ではないと、たった今思ったばかりだけれど。

「あ…はは…、また今度のときに」

 とりあえず、苦笑しておくしかない。
 『また今度のとき』が、千尋と本当の恋人同士になっていて、何を憚ることなくそう出来るときだったら、いいんだけどな。



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恋の女神は微笑まない (46)


「えと…、とりあえずちーちゃん、時間大丈夫かな?」
「大和くんこそ」

 大和の言葉に、千尋は壁に掛かっている時計に視線を向けたが、酒を飲んだ翌日とはいえ、いつもの時間に目を覚ましたし、今日は遅番だから、何の心配もない。
 そもそも、スケジュールの心配なら、国民的アイドルのほうがすべきだろう。

「俺は昼からだから」
「ふぅん? 前も思ったんだけど、アイドルて朝っぱらから夜中まで仕事してるんじゃないの? むしろ明け方まで。寝る間も惜しんで働いてんじゃないの?」
「ドラマとかあると、そういうこともあるけど」

 千尋だけでなく、一般の人からしたら、芸能人の生活リズムなんて、そういうことなのだろう。
 もちろんそのくらい過密なスケジュールに陥ることもあるけれど、毎日がそうだというのは大いなる偏見だ。アイドルだって人間だから、寝ないわけにはいかない。

「仕事昼からなら、もっと寝る? ちゃんと寝てないんでしょ? 俺のベッド、使ってもいいよ?」
「いや、ちーちゃん…………え、それ、天然?」
「は?」

 千尋の場合、演技なのか、本気なのか、冗談なのか、はたまた天然なのか、なかなか分かりづらくて困る。
 単に大和の睡眠不足や疲れを心配してのセリフだったのだろうが、普通に考えて、これから大和が千尋のベッドを借りて、そこで寝るとか、絶対におかしいから。

「俺が、ちーちゃんちのベッドで寝るの? これから? おもしろすぎない?」
「え? え? だって…」
「そこまで眠くないから大丈夫だけど……もし俺が、じゃあそうする、つって寝ちゃったら、ちーちゃんその後、何する気?」
「えー? シャワーするよぉ。あ、大和くんも風呂入ってないよね!? 先入る? あ、俺が寝た後、入った?」
「初めて来た人の家で、そこまで傍若無人な振る舞いはしません」
「そう?」

 これが琉の家で、もし琉が酔い潰れていたんだとすれば、勝手知ったる何とやらで、大和は遠慮なくそうしていただろうけど、さすがに初めて来た千尋の家で、それは出来ない。
 というか、さっきまで不法侵入呼ばわりしていたくせに、急にそんなに優しくなられると、気持ちが付いて行かないんだけど…。

「とりあえず俺、シャワーしたい。大和くんがこれから寝ようが寝まいが」
「寝ないってば。いいよ、してきて。俺、もう帰るから」

 ひとまずの大和の役目は、千尋が酔いが醒めるまで無事でいられるよう見守ることだったから、千尋は二日酔いもしていないようだし、もう帰ってもいいだろう。
 もちろん大和としては、まだ千尋と一緒にいたいけれど、彼も仕事を行くのに、いろいろと準備があるだろうし、大和自身も帰って支度をしないとだから。



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恋の女神は微笑まない (47)


「何で帰んの? 仕事昼からなんでしょ? まだ時間あるじゃん」
「そうだけど、仕事行く前に1回帰んないと。俺も風呂入って着替えたいし」
「なるほどね。俺んちじゃ風呂は入れても、着替えがないもんね。でも水落のヤロウは、大和くんが俺んちに泊まったこと知ってんだし、別に昨日と同じ服でもよくね? 俺と何かあったみたいでいいじゃん」
「いや、『いいじゃん』じゃないし…」

 千尋の言うとおり、大和が千尋の家に泊まることは琉も知っている……というか、琉が言い出したことだから、それについては、ばれて困るという事態もないのだけれど。
 琉にヤイヤイ言われるのは、やっぱり嫌だ。まだ何もないのに、何かあったと思われるのも、絶対に嫌だ。
 勝手な想像をされるのは、ゴシップ誌だけで十分だ。

「じゃあさ、帰る前に1つ教えてよ、大和くん」
「何を」

 千尋もこれから仕事だし、大和の事情もある程度は理解しているらしく、千尋はそれ以上しつこくは引き留めて来なかった。
 というか、パーカーの袖の中に手をしまって、萌え袖状態になっている千尋は、それだけで、言葉どおり萌えることこの上ないのに、手をパタパタさせて、袖を振り回している姿は…!
 大和は、緩みそうになる口元を、必死に堪える。

「神のように俺にここまで親切にしてくれたのは、やっぱ、俺にいいトコとか見せなきゃだから?」
「は?」
「俺が大和くんのこと、付き合いたいて思えるようにがんばるの、大和くんのいいトコとかいっぱい知らなきゃだから。だから、こんなにも俺に親切にしてくれたの?」
「いや…………まぁ、確かにちーちゃんには俺のいいトコとか知ってもらいたいとは思ってるけど…、俺、そこまでの親切とか、したかな…?」

 大和が千尋の家に来たのは、琉の思惑と大和のほんのちょっとの下心のためだが、酔い潰れた千尋をベッドルームまで連れて行くことは、そんな大層なことではないと思う。
 むしろ、千尋に対してというより、千尋をベッドに連れて行こうとして、全然出来ずにいた遥希に対する親切と言ったほうがいいような気もするし。

「ふぅん? あのくらいのことは、大和くんの中じゃ、全然大したことじゃないってこと?」
「…普通そうじゃない?」
「何の見返りも求めず、ただ無償の愛を与える…………それが大和くん?」
「大げさすぎるよ」

 酔い潰れた千尋をベッドまで運ぶくらいで、一体何の見返りを求めるというのか。
 南條の話によれば、千尋は相当酒癖が悪く、南條も、もう2度と千尋の介抱などするものか、と思うくらいの目に幾度となく遭っているらしいから、千尋は昨日の自分がそんな振る舞いをしたと思っているのだろうか。

「昨日のちーちゃんは、ただ寝てただけで、何も変なことしてないよ? 俺も、ちーちゃんのことベッドに運んだだけで、そんな大それたことなんてしてないから」
「そうなの? 何だ…」

 あからさまにホッとした顔をする千尋は、やはり自分の醜態を大和に晒したのではないかと心配していたらしい。
 突拍子もなくて、勝手気ままではあるけれど、そういうところはちゃんと気にする性格のようだ。



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恋の女神は微笑まない (48)


「そうだよね、俺、酔っ払ったって、そんなにひどくないよね? 寝てるだけだよね。南條のヤツ、大げさなんだから!」

 ホッとした途端、千尋は今まで散々お世話になってきたであろう南條に対する暴言を吐き出した。
 南條の言い草が大げさなのは大和にも想像は付くが、世話焼き体質の南條が、もう2度と千尋の面倒は見たくないと思うくらいだから、千尋の酒癖の悪さも、かなりのものなのに違いない。
 そういう意味では、大和はまだ、グダグダになったかわいい姿しか見ていないわけで、千尋のことを嫌いになる努力をしなければならない身としては、その酒癖の悪さを発揮した千尋を世話してやったらいいんだろうか。

「じゃ、今度は、そこまで酔っ払ったちーちゃんのお世話、しないとだね。ちーちゃんのいろんな面を知る意味でも」
「なっ…何言って…! だから、別に普通だっつの!」

 酔うと記憶をなくしてしまいがちな千尋が、酔っ払った自分が普通であることを、そこまで強く主張できるわけがないのに、千尋は「南條が余計なこと言うからだ!」と南條のせいにしている(報われない…)。

「とりあえず俺、帰るけど……あ、そうだ。俺からも1個聞きたいんだけど、」
「にゃに?」

 さっきまでパタ付かせていた手を止め、癖なのかな、袖口をあむあむしていた千尋は、大和の問い掛けに首を傾げた。

「ちーちゃんて、メールとか面倒くさい人なの?」
「ぅ?」
「いや…、何かそんな感じのこと、ハルちゃんから聞いたから」
「もぉ~ホンット、ハルちゃんのお喋り! バカ!」

 確かに千尋は昔から、今日の出来事をいちいち恋人にメールする人ではなかったし、用事がないのにメールする意味も分からないし、意味なしメールは面倒くさいと、本気で思っている人ではあるけれど。
 恋人同士というのは一般的に、そういうもので繋がっているのだろう、とは思っているから、お試しのお付き合いを始めたその日は、それっぽくメールを送ってみたのに。
 そんな努力が、お喋りな遥希のせいで、台無しだ。

「でも大和くんも、あんまメールとかしない人なんでしょ?」
「え、何それ、誰情報?」
「俺」
「え…………俺、ちーちゃんに何かそういう話したっけ?」

 FATEの2人で、携帯電話大好きの琉に比べれば、大和はしないほうかもしれないけれど、それなりにメールはするし、恋人同士ともなれば、毎日でもしたいと思うほうなんだけど。

「いや…、昨日ハルちゃんからはストーカーみたいにめっちゃメール来たけど、大和くんからは全然来なかったから、大和くん、メールとかあんましない人なんだなぁ、て思って。違うの?」
「人並みにはしますけど。でも、ちーちゃんがそういうの鬱陶しいて思うなら、控えめにするよ?」
「んー…………まぁ、鬱陶しいことはないこともないけど」
「え、どっち」

 裏の裏の裏をかくような、持って回った言い方をされても、非常に困る。
 嫌なら嫌だと言ってくれたほうがすっきりするというか、千尋が、そういうことを遠慮して口に出せない性格とも思えないのだが。



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恋の女神は微笑まない (49)


「鬱陶しくない、て言うなら、俺、毎日ちーちゃんにメールするかもよ? いいの?」
「いいよ! その代わり、俺マジで、用事ないとメールしない人だかんね? 俺からはぜんっぜんメールしないよ? 俺のこと嫌いになるなら、今のうちだよ!?」
「そんな…、そのくらいのことで嫌いになんないってば」

 毎日メールするのも厭わない性格とはいえ、別に依存症のきらいがあるわけでもないので、千尋がそういう性分だと知っていれば、少し寂しいとは思うけれど、嫌いにはならない。
 それよりも、千尋は『いいよ!』と元気よく返事をしてくれたけれど、本当に大和が毎日メールをしたら、返事が煩わしくなって、大和のことを嫌いになってしまわないか心配だ。

「大丈夫。メールすんのが面倒くさいだけで、見るくらいは見るから」
「え…、いや、見てるなら返事してよ」
「返事が必要なときは、ちゃんと返してるよ? でも、今日何々した~、みたいなこと言われても、別に返事することなくね? 何その報告、て思うじゃん」
「…………」

 大和にはちょっと理解し難いけれど、メールやインスタントメッセンジャーをあまりしない人たちの殆どが、こういう感覚なのだろう。
 まぁ、中には遥希のように、相手に遠慮しすぎてメールできないという人もいるのだろうけど。

「ちゃんとメールの返事をしない俺、嫌いになる?」
「ならないってば。ちーちゃんこそ、俺からのメール、返事しないのはいいとして、面倒くさくなって俺のこと嫌いになんないでよ?」
「大丈夫大丈夫」
「軽っ! ホントに大丈夫? 何でそんなに自信たっぷりに言えるわけ?」
「だって、ハルちゃんからアホみたいにメール来るけど、俺、未だにハルちゃんのこと嫌いになってないし」

 遥希は、恋人である琉に対しては、忙しいだろうし…とか言って、なかなか自分からメールしないくせに、千尋には、結構くだらないこともたくさんメールして来る。
 毎日とまでは言わないが、週に5, 6日は千尋にメールをくれる遥希のことを、そういえば千尋は、面倒くせぇなぁ…と思ったことはない(メール以外のことでは、たくさんあるが)。

「…分かった。とりあえず、ちーちゃんはメール見てくれてる、て信じて、返事が来なくてもメールするよ…」
「………………。そんなに尽くさなくても、俺のことなんか嫌いになっちゃえば、楽になるのに」
「そんなんで嫌いになれるなら、最初から好きになってないし」
「そっか」

 昨日やたらにメールを寄越した遥希のことを、千尋は『ストーカーみたい』なんて冗談で言っていたけれど、嫌いになってくれと言う相手に、無理だと言って、自分の想いを遂げようとする大和のほうこそ、ストーカーの気があるんじゃないかと思えてくるけど。
 千尋に本気で突っ撥ねられれば、潔く諦めるつもりはあるから、まだ大丈夫なのかな。
 本当に、『嫌いになってよ』じゃなくて、『嫌いだから付き合いたくない』とはっきり言ってくれたらいいのに。

「まぁ、じゃあ、他の人からのメールよりはたくさん、大和くんには返事することにするね」
「もぉ~…何その小悪魔」
「うひひ」

 嫌いになるように仕向けたいのか、でも思わせぶりなことも言ってくるから、本当に参る。
 千尋は本当は一体どちらを望んでいるのだろうか。



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恋の女神は微笑まない (50)


「期待し過ぎないで待ってる。…じゃあ、時間なくなってきたから、もう行くね?」
「あ、うん」

 肩を竦めた大和が踵を返したので、千尋も慌ててその後を追う。
 遥希くらいだったら、ほったらかしで、帰るのを見送ったりはしないけれど、今はまぁ一応。

「じゃあね、ちーちゃん。次またいつ会えるか…」
「いいよ! メールでも何でもして! 俺、そういう必要なことには、ちゃんと返事する人だから!」

 威張って言うほどのことでもないが、千尋は得意そうにそう言う。
 メールやインスタントメッセンジャーは、飽くまでも事務連絡の手段の1つとしか考えていないようだが、そうだとしても、返事をくれると言われれば嬉しく思ってしまうのだから、大和も本当に重症だ。

「じゃあ………………」
「ぅ?」

 靴を履いた大和が、千尋のほうを向き直る。
 千尋は萌え袖になっている手を、プラプラさせている。
 …本当の恋人だったら、こんなとき、別れ際にキスとかハグとかするんだろうけど、お試しの恋人の場合は、どうしたらいいんだろう。

「大和くん? うわっ」

 千尋が不思議そうに、コテンと首を傾けたところで、大和がその体を腕の中に包み込んだ。
 筋肉大好きで、鍛えるのも大好きで、自分も筋肉ムキムキになるのを願ってやまない千尋の体は、抱き締めてしまえば、それでも華奢なほうだと感じてしまう。

「な何、大和くん」
「何、て……俺たち恋人同士でしょ? お試しとはいえ。バイバイのときはやっぱハグとかするもんじゃない?」
「まぁまぁまぁまぁそうですけど」

 メールとかが面倒くさいと思う人であっても、帰り際のハグぐらいいいんじゃないかと思ったのに、千尋は明らかに動揺した様子で、大和の体を押し返そうとしている。
 お試しの恋人だから、こういうことはしたくないの?
 それとも、ハグとかされたくはないと思うくらいには、大和のことが好きじゃないの?

「…ちーちゃん?」
「だから、ちょっ…ヤバいって…」
「何が?」
「そんな……こんな筋肉にギュっとされたら、興奮しちゃう…」
「………………」

 切なくなり掛けていた大和は、自分が想像していたのとはまったく違う方向の答えが返って来て、言葉を失う。
 あぁ…、そもそもからして千尋は、大和の筋肉なら、好きで好きで仕方がない子だった…。
 イブの夜、FATEのコンサートが終わった後、楽屋にやって来た千尋を抱き締めたところ、まるで逆上せたようになって気を失ったのは、まだ記憶に新しい。



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恋の女神は微笑まない (51)


「まぁあの…………大丈夫。大和くんが帰ったらお風呂入るから。そこで…」
「…言わなくていいから」

 千尋がどんなセリフを続けたいのかが分かって、大和はそれを止めた。
 別にそんなことを恥ずかしがるほどかまととぶるつもりはないが、わざわざ言ってもらうようなことでもない。千尋のそういう行動を知って、喜ぶような性癖はないのだ。
 大和はもっと千尋のことを抱き締めていたかったけれど、本当に時間もなくなるし、名残惜しいと思いながらも腕を解いた。

「ふぅ…」

 すると千尋は、ホッとしたように息を吐き、わざわざスウェットの中を確認している。
 わざとやっているのか、天然の行動なのか分かりかねるが…。

「ちなみにちーちゃん。…キスは?」
「ぅん?」
「お試しの恋人は、バイバイのキスをしたらダメでしょうか?」
「えっ……」

 自身の下の状況を確認し終えた千尋は、どういうわけかTシャツとパーカーの裾をスウェットの中にしまい込んだが、その後の大和の質問が意外だったのか、一瞬ポカンとなった後、何度か瞬きをした。

「ダメ?」
「は? べ別にキスくらいあれだけど? だってホラ、恋人同士だし?」
「…何でそんなキョドってんの?」
「キョドってねぇし。つか、いや、だから、キスくらい別にいいけど、でも俺たちお試しじゃん? 何かそんな、俺、誰とでも簡単にキスとかそういうのするキャラと思われるのも癪ていうか、」

 要は、純情キャラを気取りたいわけではないが、軽い子だとも思われたくないらしい。
 お試しの恋人という位置付けは、何かと難しい。

「だから別に、大和くんがキスしたいて言うなら…………ちょっ」

 確実に狼狽えているにもかかわらず、何でもないふりをしている千尋をかわいいと思いつつ、大和は千尋の手を引いて、そしてキスをした――――その頬に。

「にゃ、に…」
「唇にするのは、ホントの恋人になってからのほうがいいかな、て思って」
「ッ…」

 千尋から離れた大和が笑顔を向けると、千尋は言葉を詰まらせたが、1, 2秒の後、ゆっくりとその左手を上に上げた。入れていた袖から出された手は、こぶし。
 まさかとは思うが、殴られる?

「ま…まぁ、いい心掛けなんじゃない?」

 しかし、そのこぶしは大和のほうに飛んで来ることはなく、キスされた自分の頬にグリグリとこぶしを押し付けられた。
 それこそまさかとは思うが、頬にキスされて、照れているんだろうか。まぁ確かに、少女漫画ならまだしも、現実社会で頬にキスて、なかなか経験し得ないことだから。

「じゃ、またね。ちーちゃん」
「…………」

 唇を突き出したような、何とも言えない表情をする千尋は、『バイバイ』とも『またね』とも言ってくれなかったが、萌え袖の手をプラプラと振って、一応それっぽい挨拶を返してくれたので、そこまで機嫌を損ねたわけではないということにして、大和は千尋の部屋を出た。

 とりあえず、酔い潰れた千尋をベッドまで運んだ後、実はこっそりキスをしてしまったことは、絶対に隠し通さなければならないだろう。



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恋の女神は微笑まない (52)


chihiro

 大和と別れた後、仕事に向かった千尋は、大和のことばかり考えて、まったく仕事が手に付かなかった…………などということもなく、いつもどおり、そつなく仕事をこなして1日を終えた。
 大和には、メールとかあんまりしない…というか、面倒くさいほうだとは言ったが、返信はしなくとも見ることは見るとも言った手前、メールが来ていないかは確認しておかないと。

「…………。何だ、来てないじゃん」

 なのに、大和からは、何のメールもメッセージも来ていなかった。
 大和が、毎日でもメールする、みたいなことを言っていたから、てっきり何か来ているのかと思い、せっかくだから、返信をしてみようと考えなかったばかりでもなかったのに。

「ま、いっか」

 何も来ていなければ、返事をしようかしまいか、考えなくて済む。
 千尋は、受信してた遥希からのメールを適当に無視してスマホをしまうと、店を出た。

「――――千尋、くん?」
「え?」

 店を出たところで背後から呼び止められ、千尋は訝しみながら振り返った。
 今のところ、千尋の周囲で、千尋のことを『千尋くん』なんて呼び方をする人間はいない。
 会ったばかりのころ、琉がそう呼んでいたけれど、琉にとってもその呼び方は微妙なのか、今は名前を呼ばないよう彼が気を付けていることに、千尋は気付いている。
 だから、振り返った先にいたのは、やはり琉ではなかった。

「えっと…」

 そこにいたのは琉ではなかったが、千尋の知っている男でもなかった。
 いや、相手は千尋の名前を呼んだのだから、知らない人間ということはないのだろう。しかも、苗字ではなく、下の名前で呼んだのだ。そこそこ親しい間柄に違いない。

「あー…えっと、覚えてない、かな? 俺のこと」

 えっと…と言ったきり、千尋がそのままの表情で固まったことで、今の状況を察したらしい彼は、困ったように頭を掻きながら笑った。

「あー……ははは、えへへ」

 相手が笑うので、千尋も笑ってみたが、笑っている場合ではないことは、千尋にも十分分かっている。

「いや、あの、一昨日…」
「一昨日?」

 男に言われて、千尋は記憶を巡らせる。
 昨日は遥希に家に押し掛けられ、酔い潰れるまで飲んで、一昨日は大和くんともんじゃ………………あ、合コン。

「あぁ、一昨日の!」
「う、うん…」
「合コンの!」
「そう…」



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恋の女神は微笑まない (53)


 あの合コン、すっごくつまらなかったから、すっかり忘れていたけれど、千尋は大和ともんじゃ焼きを食べに行く前、合コンに参加してたんだっけ。
 でも、今目の前にいる彼が、その合コンの場にいたのかは、ゴメンなさい、全然記憶にない。

「で?」
「え?」
「あ、いや、何でここが分かったのかな、と」

 何の用事があるのか知らないが、わざわざ来てくれた人に対して、『で?』はなかった。名前もろくに覚えていない上に、『で?』はない。
 千尋はごまかしついでに、生じた疑問を投げ掛けた。

「あのとき、自己紹介で言ってたから…」
「あ、そっか。そうだっけ?」

 なるほど、自分で言っていたのか。すっかり忘れていた。
 そして、会話が止まる。千尋にしたら、また『で?』と言ってしまいたくなる状況だ。

「えっと…………何か用?」

 ちょっと言い方が悪かったかもしれないけれど、きっと何か千尋に用事があって彼もここまで来ただろうに、なかなか話を切り出さないから、直球で聞いてみる。
 千尋はしつこいのも嫌いだが、まどろっこしいのも嫌いなので。

「いや、その…」
「何?」
「千尋…くん、途中で帰っちゃったじゃんか?」
「あぁ、うん。ゴメンね。え? お金足んなかった?」

 確かあのとき千尋は1万円札を置いていった気がしたけれど、それでも足らなかったんだろうか。
 合コンだろうと、ただの飲み会だろうと、1人当たり1万円以上もの会費を払うはめになったことなんか、未だかつてなかったけれど。

「そうじゃない、そんなことないよ。そうじゃなくて…」
「じゃあ?」

 何とも煮え切らない態度の男に、千尋は先を促す。
 これで相手が遥希だったら、『もぉ~何っ!?』と大きな声を出しているところだが、千尋にとっては初対面も同然の男に対して、さすがにそれは出来ない。

「その…、あのときはあんまり喋れなかったし…」
「うん」
「だから、その、もうちょっと喋りたいな、ていうか…、また会いたかった、ていうか…」
「………………」

 自分でその自覚はないが、周囲に言わせるところ、千尋は自分のことに関してわりと鈍感らしいのだが、その千尋を以ってしても、今彼の言わんとすることは分かった。
 どうやら千尋は、あのつまらなかった合コンで、今目の前にいる彼に気に入られたらしい。
 正味1時間もいなかったであろう合コンで、しかも彼と直接喋った記憶もない相手に好意を持たれるなんて、千尋も結構モテるんだ。



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恋の女神は微笑まない (54)


「あの…、これから、ご飯でも…」
「んーと…」

 今日はこれから、特に何か用事があるわけではないけれど、お試しの恋人がいる身として、一緒に食事に行ってもいいものだろうか、とは思う。
 いや、お試しでない恋人がいたときだって、他の男と食事に行くことくらいあったけれど、それは明らかに相手が友人だったからで(昨日だって遥希と一緒だったわけだし)、相手がそういう意味で千尋に好意を持っていると分かっていて、のこのこ付いて行くというのも…。

「ダメ…かな?」
「ダメ、ていうか」

 大和とのことを話すのも面倒くさいから、あなたのその好意を受けることは出来ないので、ご飯も一緒に行けません、とでも言っておけばいいだろうか。嘘ではないし。
 そう思ったところで、ふと千尋は、彼と大和の違いを考えた。

 千尋は大和のこと、嫌いではないけれど、お付き合いしたいと思えるほどでもなくて、だからこそ、お試しでお付き合いを始めたのだが、そう考えたら、今目の前にいる彼だって、そこまで好きではないけれど、特別大嫌いなわけでもないのだ。
 だったら、お試しで付き合うのは大和でなく、彼でもいいはずなのに。
 なのに千尋は今、大和のことを思って、彼の誘いを断ろうとしている。

(…何でだろ)

 大和のほうが、彼よりも先に言って来た、というのはある。
 だとすれば、もし一昨日の合コンに大和が現れなくて、最終的にこの彼に告白されていたとしたら、千尋はお試しで彼と付き合っていたのだろうか。
 けれど、目の前にいる彼は、お試しで…とか言わなそうだから、それはないか。千尋が、そんなに好きではない、というようなことを匂わせたら、あっさりと身を引きそうだし。

 いや、もし彼も大和と同じようなことを言って来たとして、果たして自分はそれに乗るのだろうか。
 同じことでなくてもいい、大和より先でなくてもいい、だってもし大和以上に魅力的な人が現れたら、お付き合いがお試しだろうと本当だろうと、心が移ってしまうことだってあるはずだ。
 それなのに、今千尋が、この彼の誘いにすんなり応じないのは、恋人(仮)がいるからではなく、2人を比べたときに、大和のほうが好きだから、ということなのか。

 そうだとしたら、この人の、何がダメなんだろう。
 大和のことは、実は毎日でもメールをしたい人だ、というのを今朝知ったくらいで、それ以外はそんなに知らないから、そういう点では、2人は同条件だ。
 なら、見た目か?
 大和はアイドルだから、見た目がいいのは当然のことだが、千尋は特別に面食いでもないので、それも関係ないと思う。そもそも、見た目だけで判断はしない。
 もちろん、外見がまったく判断材料にならないわけではないが、彼の見た目が千尋にとってそこまで嫌なものかといえば、そうではないし。

 なら――――あ、筋肉?
 大和にあって、彼にないもの。
 確かに千尋は筋肉大好きだけれど、それだけで恋人を選んでいるわけではない。もしそうなら、大和なんて、まさに条件ピッタリなんだから、本当に付き合えばいいのだ。でも、そうではない。



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恋の女神は微笑まない (55)


「えと…、千尋、くん?」
「ん? あ、ゴメン。今夜の予定を思い出してるはずが、いつの間にか全然違うこと考えてた」
「えっ……」

 いや、今夜の予定は、特別何もないということを、考え始めて1秒もしないうちに思い出していたけれど、いつの間にか全然違うことを考えていたのは本当のことだったので、正直に答えたのに、彼は言葉を詰まらせてしまった。
 別に千尋もこのことに関して、特別な反応を期待していたわけではないが、そんな…絶句されると、何だか変なことを言ったみたいで、居心地が悪い。

 もしこれから彼と食事に行ったら、ずっとこの調子なんだろうか。だとしたら、大和とのことを抜きにしても、ちょっと嫌かも…。
 いや、この数分の出来事だけで彼のすべてを判断してはいけないことは分かっている。
 しかし、世の中には『第一印象』という言葉もあるくらいで、例えば合コンだってそうなわけだから、千尋は今相手から受ける印象と、それに対する自分の気持ちを大事にしてもいいと思う。

「ゴメン、これから一緒にご飯は無理かも」

 ただ単にご飯を食べるだけなら大丈夫かもしれないが、彼は最初に、千尋ともっと喋りたかった、と言ったのだ。でも、残念ながら千尋は、彼とはもうこれ以上、喋りたいとは思わない。というか、会話を続けていける自信がない。
 だから、本当にゴメンなさいだけれど、一緒にご飯には行けない。

「そっか…。いや、あのときもそんなに喋ったわけじゃないし、ダメだろうな、とは思ってたんだけど、それでも、何も言わないまま終わるなんて出来なくて…」
「ゴメンなさい」
「いや…、俺のほうこそ、いきなり押し掛けて、ゴメン」

 先ほど千尋が想像したとおり、彼はあっさりと身を引いた。
 それに比べて大和ときたら、千尋が大和のことを嫌いだとはっきりと言ってくれなければ諦められない、なんて言って。挙げ句にお試しで付き合うことを提案してきたのだ。
 テレビの見過ぎじゃない? ていうか、出演したドラマにそんなにがあったの? なんて思わないでもないけれど、そんなことを言われて、愛想が尽きなかったのは自分だ。
 別に、映画のような恋がしたいわけじゃないのに。

「彼氏がいるのに、あわよくば奪っちゃおうなんて、柄でもないことは分かってたんだけど」
「………………ん?」

 苦笑する男の言葉に、今度は千尋のほうが言葉を詰まらせた。
 それは、この優男の頭の中に、そんな気宇壮大な計画があったことに驚いたからではなくて、彼の口から『彼氏がいるのに』なんてセリフが吐き出されたからだ。
 この場合の『彼氏』とはやはり、三人称の代名詞のことではなく、恋人である男のことを言っているのだろう。

 しかし千尋は、この男に彼氏がいるなど話した覚えはない。
 いや、合コンで彼に会ったこと自体、殆ど覚えていないのだから、そんな話はしていない、と断言は出来ないが、大和とお試しの恋人になったのは、合コンの会場を去ってからなので、やはり彼に恋人がいることなど話してはいないはずだ。

「えと………………え?」
「え?」
「いや、あの、今何て…? 彼氏がどうとか、て…」

 聞き間違いというには、あまりにも長いセリフだったから、多分聞き間違いではなかったんだろうけど、聞き返さずにはいられなかった。
 一体どうしてこの男の発想の中に、そういうことが出てくるのだ。



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恋の女神は微笑まない (56)


「え、だって……あのとき、千尋くんのこと迎えに来た人、彼氏……じゃないの?」
「えっ…」

 その人が、今を時めくアイドル、FATEの一ノ瀬大和であることは、どうやら気付かれていないようだけれど、代わりに千尋の彼氏であるとは思われているようだ。
 じゃあ千尋は、彼氏がいるのに合コンに参加した人だと思われているということ?

「いや…、彼氏とケンカして、その腹いせで合コンに参加したんじゃないか…て、千尋くんが帰った後、話してた」
「………………」

 千尋は、千尋と大和の関係を知っているから、あのときの状況もどういうことなのか分かるけれど、何も知らない人が見たら、確かに意味が分からない。
 千尋が合コンから去った後にそんなことを話していたのか! と憤りたくもなるが、そう思われても仕方のない行動をしていたのだ。

 ケンカの腹いせに合コン参加するキャラ、と思われたままでいるのは癪に障るが、この彼とももう会うことはないだろうし、わざわざ誤解を解くまでもないだろう。
 説明をするのは面倒くさいし、言い訳がましい感じもする。
 それに、最終的に話が、あのとき一緒に去った男は誰なのか、ということに及んだら、何となくまずい気もするし。

「じゃあ、またね……て、あ、またねじゃないか。あの、じゃあ…」
「あ、うん」

 自分で言った別れの挨拶にも戸惑っている彼に、千尋は思わず吹き出す。
 これから彼とご飯に出掛けて、会話を楽しむことは出来ないけれど、心底嫌いになることも出来ないな、て思う。そんなこと言うと、お試しでのお付き合いが大和である必要かどうか議論に戻ってしまうから、もう考えないことにするけれど。

「じゃあね」

 千尋が別れの言葉を言ったところで、カバンの中のスマホが音を立てた。
 目の前の男は少し笑って、千尋に背中を向けた。彼氏からのメールだと思ったのかもしれない。千尋は、大和からの着信だけ違うメロディにしているわけでもないから、今受信したメールが誰からかなんて、千尋にだって分からないのに。

「ホラ、ハルちゃんだし」

 それでも念のためにスマホを確認すれば、メールを送って来たのは遥希だった。
 しかもどうやら内容は、先に送ったメールの続きのようで、『さっきのなんだけど、』という書き出しで始まっている。

「いや、さっきのとか分かんねぇし」

 仕事中に受信していた遥希からのメールは、先ほど適当に無視したばかりだ。
 仕方がないので、遥希から来ているメールを全部見るとするか。

「………………」

 相変わらず、千尋のスマホの受信メールは遥希で埋め尽くされている。
 千尋の友人たちは、千尋がメールとかに関して不精なことを知っているから、それこそ本当に必要なことしか送って来ないのだが、親友と言っても過言ではない遥希だけは、それが分かっていないのか、連日、メールを送ってくれる。
 これでいて、恋人である琉へのメールは遠慮がちだと言うのだから、まったく意味が分からない。聞くところによると琉もメールとか好きらしいから、そんな遠慮いらないだろうに。



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