恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2015年09月

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恋は七転び八起き INDEX


■恋は七転び八起き (title:明日)
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恋は七転び八起き (1)


  槇村・央・圭人



 少年のような心を持っている、とはよく言われる。悪く言えば、子どもっぽいということなのかもしれない。
 もう34歳になろうかというのに、ゲームに夢中になって睡眠時間を削ってしまうところとか、ちょっとおもしろいことがあると、すぐにはしゃいでしまうところとか。
 同僚であり、幼馴染みである逢坂(おうさか)には、よく『しっかりしろ』とど突かれるが、こればかりは、34年の間に形成されてきた性格ゆえ、どうすることも出来ないと槇村(まきむら)自身は思っている。
 とはいえ、社会の常識ならそれなりに持ち合わせているつもりだ――――少なくとも、17歳の高校生から愛の告白をされて、下心丸出しで手を出さない程度には。

「あのなぁ、央(ひろ)…」

 槇村は頭を抱えて、目の前で真剣な表情をしている央と、その少し後ろで、特に何の感情もなさそうにスマホを弄くっている圭人(けいと)を見た。

 話は数分前に遡る。
 仕事を終えて家路に就いた槇村は、自分のマンションの前に見えた2人の人影が央と圭人だと気付いた瞬間、回れ右をして駅までダッシュで戻ろうとしたのだが、現役高校生の足に敵うはずもなく、すぐに2人に捕獲されたのだ。
 槇村は何とかして逃げ出そうともしたが、あまり騒いで近所の人の目に触れ、変な噂を立てられても困るので、ひとまずは大人しくした。こちらが騒げば、相手も騒ぐ。大人しくすれば、大人しくなるのだ。

『こんな時間にどうした、こんなとこで』

 こんな時間とはいっても、まだ7時を過ぎたところで、高校生が出歩いていても警察に声を掛けられるような時間でもなかったが、ここが2人の帰り道とはかけ離れた場所であることを思えば、そう言わざるを得なかった。
 いや、別に槇村は本気で、央がこんなところで何をしていたかを聞きたかったわけではない。というか、むしろ聞きたくはなかった。しかし、それ以外の掛ける言葉がなかったのだ。

『槇村(まきむら)くんに告ろうと思って、待ってた!』

 問われた央は、何とも晴れやかな表情で、待ってましたとばかりにそう答えた。それは、槇村の予想どおりの答えだった。予想どおり過ぎて突っ込むのを忘れた槇村に、央はキッと表情を引き締め、

『槇村くん、好きです。付き合ってくださいっ!』

 と愛の告白をしてきたのだ。
 槇村は溜め息とともに空を見遣った。月がキレイだ。

 17歳の高校生、それも男子にここまで熱烈な告白をされて、槇村が慌てるでもなく、突っ込むでもなく、呆れを含みつつも落ち着いていられるのは、ひとえに、この告白が8回目のことだからである。
 さすがに初めて告白されたときは、正気か!? と慌てふためいたものだが、顔を合わせるたびに、好きだ、付き合ってくれ、恋人にしてくれ、と言われていたら、そこまでの驚きはなくなる。



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恋は七転び八起き (2)


 それは、毎度央の告白に付き合わされている圭人も同じようで、初めのうちこそ一緒にドキドキと槇村の返事を待っていたけれど、今ではもう、答えなど聞くまでもないと言わんばかりに無関心。今日なんて、逃げた槇村を捕まえるのには協力したものの、央が槇村に告白するころには、時間を潰すためにスマホを構っていた。
 こういうところが、やはり圭人も高校生だ。子どもだ。大人なら、心の中でどんなにそう思っていたって、少なくとも表には出さない。それが礼儀だ。
 しかし、それでも8回もこんなことに付き合ってやる圭人は優しく、友情に厚い男だと思う。もし槇村だったら、2度目の時点で、ない。

「あのなぁ、央…」

 槇村は頭を抱えて、目の前で真剣な表情をしている央と、その少し後ろで、特に何の感情もなさそうにスマホを弄くっている圭人を見た。

「あー待って、槇村くん! 何も言わないで! 怖いっ!」

 槇村が言葉を続けようとするよりも一瞬早く、央は両手で耳を塞ぎ、捲し立てた。槇村の返事を聞くのが怖いらしい。
 何を今さら、と思う。央が今日で8回目の告白をしているのは、もうすでに7回槇村に告白をして7回とも断られたからであり、そこまでの連敗記録を持ちながら、怖いも何も。
 告白の返事を待つのに胸が詰まるような思いがするのは分かるが、さすがに同じ相手にこれだけ告白していたら、いい加減、慣れてもいい。

「……………………槇村くん、何か言ってよぉ~…」
「いや、お前が黙れ、て言ったんだろ」

 耳を塞ぐついでに目もギュウと閉じていた央が、しばらく続いた沈黙に恐る恐る目を開けて情けない声で訴えたので、央の言葉どおりにしていた槇村は、仕方なく突っ込んでやった。

「あのな、央、毎回言ってるけど、お前とは付き合えないんだって。分かるだろ?」
「分かんない! 何で? 槇村くん、俺のこと嫌いなの!?」
「そうじゃないけど、」
「なら付き合ってよ!」
「だからぁ!」

 この堂々巡りの会話を断ち切るには、央に『俺のこと嫌いなの!?』と問われたとき、嫌いだと答えればいいのだろうけれど、残念ながら槇村は、そこまできっぱりと言えるほど、央のことを嫌っているわけではない。
 しかしそれは飽くまで友情、友人としてであって、恋愛感情があるとか、恋人同士になりたいとか、そういうことではない。言葉は同じ『好き』でも、央と槇村の想いはまったく別なのだ。
 そもそも、もし槇村が央のことを、いわゆるlikeでなくloveで好きだとしても、17歳と34歳だ。ダブルスコアだ。付き合えるわけがない。

「央~」

 何で伝わらへんのやっ、と槇村が地団太を踏みそうになったところで、気の抜けた声が央を呼んだ。央が槇村に告白をしている間中、ずっとスマホを弄っていた圭人だ。圭人は、よく分からないキラキラしたヤツでデコレーションされたスマホをカバンにしまうと、肩を竦めて央の横に立った。



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恋は七転び八起き (3)


「央、今日はもう帰ろ~」
「何でっ? 槇村くんから返事貰ってない――――オッケーの!」

 いや、返事はしただろ、と突っ込もうとしたら、錦戸がそう続けたので、槇村は口を挟むタイミングを失った。代わりに圭人が言葉を続ける。

「オッケーの返事は貰ってないけど、付き合えない、て返事なら貰っただろ?」
「ぐっ…」

 何ということはない、圭人は、今目の前で繰り広げられた出来事を口にしただけだが、食い下がる央を黙らせるには十分だったようで、央は大人しく、「分かった…」と頷いた。しかし、頷いたものの、央にその場を去る気配はない。まだ諦め切れないのだろう。そんな央の肩を、圭人がポンと叩いた。

「央、早く帰ろ? 兄ちゃん心配するし」
「純平くんなんか知らん! 槇村くんと毎日一緒に仕事してっ…………羨ましいっ…!」

 圭人が『兄ちゃん』と言ったのは、央の兄であり、槇村の同僚である深山純平(みやま じゅんぺい)のことだ。実の兄弟でもない圭人が彼のことを『兄ちゃん』と呼ぶのに対し、なぜか央は『純平くん』と呼んでいる。
 それはいいとして、どんなに央が純平のことを恨もうが羨ましかろうが、純平が槇村と同じ職場で働き、毎日顔を合わせているのは事実で、さらには、だからこそ央は槇村と出会ったのだが。

「…なら帰るね、槇村くん」
「おぅ」

 しゅんと項垂れて言う央に、まったく罪悪感が湧かないわけではない。しかし、恋人としてお付き合いが出来ない以上、返事は1つしかないのだ、分かってほしい。

「またな、槇村くん…」

 央はクルリと回れ右をすると、圭人とともにトボトボと駅へと向かって行った。
 その後ろ姿を見送りつつ、槇村は、「またな、じゃねぇよ」と漏らすのだった。



  槇村・純平



 人のことを言えた義理ではないが、槇村から見ても、やはり深山純平という男は、少し変わっていると思う。いや、『少し』というのは大人の気遣いであり、実際は相当の変わり者だと思っている。槇村より2つ年下だが、すでに30歳は過ぎているのに、妙なテンションで、妙な動きをしながら、ギャグばかり言っているのだから当然だ。

 とはいえ、覚えは若干悪いものの、真面目に丁寧に仕事はこなすので、人望もあるし、みんなにも好かれている。変人ではあるが、好青年であることに違いはない。その点については、槇村にも異論はない。仕事に於いて純平のことは頼りにしているし、何よりも、彼がいると毎日が楽しい。
 しかし、昨日の今日でとてもそんな気分になれるはずもなく、無駄に明るいテンションで出勤してきた純平を、槇村はギロリと睨み付けた。



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恋は七転び八起き (4)


「おぉ~っと槇村くん、どうしちゃったのかなぁ~、朝からそんな顔してぇ!」

 朝の挨拶もそこそこに、変な動きをしながら声を掛けて来た純平に、槇村は殺意を覚えたが、とりあえず殴り飛ばすのだけは何とか堪えた。こんなことで、社会的地位を失いたくない。

「やかましいわ。お前が、アホな弟をちゃんと躾けとけば、こんな顔しないで済むんだよ」
「弟…、央ちゃんのこと?」
「他に誰がいるんだよ!」

 動きを止めた純平は、キョトンと聞き返した。
 純平の弟といえば央しかいないわけで、今さらなことを聞いて来る純平に槇村の苛立ちは募るが、それに加えて、純平が動きを止めた瞬間が、まさに絶賛変な動き中だったため、結果、変なポーズを取ることになり、それが余計に槇村を苛立たせた。

「そうだよねぇ! さすがに親父もお袋も、もうがんばらんよなぁ!」
「デカい声で何言ってんだっ」

 純平と央の年齢が一回りも離れているからといって、央の下にさらに年の離れた兄弟がいるとは、槇村だって思ってはいない。独身の槇村が言えたことではないが、もしそんな年齢の子どもが深山家から登場したら、それは純平と央の兄弟ではなく、普通に純平の子どもでなければならないだろう。

「でっ? 僕のかわいい弟がどうしたって?」
「………………、あぁ…、そうだよな、お前がアホだもんな…。アホの弟、躾けられるわけないよな…」
「ちょっ! アホアホ言い過ぎ!」

 格好を付けた口調で、それっぽいポーズを決めて尋ねて来た純平に、槇村は冷ややかな視線を返す。弟がアホなら、兄も大概アホだ。兄貴に期待するのはやめておこう。

「何、槇村くん。央ちゃんが何したん?」
「…お前の弟が俺にすることといったら、1個しかないだろ」

 槇村が心底怒っているのがようやく伝わったのか、純平は今度こそ大人しく姿勢を正して、真面目に聞き返した。その今さら過ぎる質問と、正した姿勢――――小学生のような気を付けが、槇村の機嫌をさらに悪くしているとは、思ってもいないに違いない。

「また告りに行ったん? そんなの槇村くんがオッケーしたったらいいだけの話でしょ」
「出来るか、アホっ!」

 お前は自分の弟が17歳というティーンエージャーだということを忘れたのか! と、ここが会社で、周りに同僚やら後輩やら上司やらがいなかったら、槇村は声を張り上げて突っ込んでいただろう。それを何とか普通の突っ込みだけで乗り切ったところを、褒めてもらいたい。

「何でよ、槇村くん、央ちゃんのこと嫌い?」
「そういうことじゃねぇだろっ」
「そういうことだろ! それ以外に何があるんだっ!」

 槇村としては、なるべく声を潜めて話しているのだが、純平の話につい声が大きくなってしまい、それにつられたのか、単にテンションが暴走したのか知らないが、純平まで声が大きくなるので、無駄に焦る。逢坂ほどうまくはないが、とりあえず純平の頭をバシッと叩いておいた。



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恋は七転び八起き (5)


「あのな…、もう何回も言ってるけど、俺、男だからな?」
「知ってるよぉ。で、央ちゃんも男だ、て言いたいんだろ? みなまで言わないで!」
「言わなくても分かるんだったら、何とかしろっ」

 セクシャルマイノリティに対して、偏見を持っているわけではない。しかし自分は、恋愛するなら男より女のほうがいいわけで、それについては央にももう何遍も言っているし、それと同じだけの回数は純平にも言っているのだ。それなのに、どうして央にはそれが伝わらず、加えて純平にもそれが伝わらないのだ。まったく、嘆いても嘆き切れない。

「でもそんなの、付き合ってもみないで、勝手に決め付けたらダメだよぉ。付き合ってみたら、すっごいいいかもしれないじゃん。やりもしないで諦めたらダメだよ、槇村くん!」
「いや…、そんなすごいいい感じで言わないで」

 青春ドラマのノリを引っ張り出して来る純平に、槇村は怒りを通り越して、溜め息をついた。央に告白されたことについて、兄である純平に苦情を申し立てれば、逆に自分が疲れるはめになることは、それこそ央が告白して来たのと同じだけの回数、槇村は経験しているというのに、それでも言いたくなる気持ちを、少しは察してほしい。

「お前、自分の弟の年齢知らないわけじゃないだろ?」
「ピッチピチの17歳でっす」
「俺は34のおっさんだぞ?」
「槇村くん…、愛に年齢は関係ないんだよ…?」
「そのキャラやめろ、腹立つ」

 無意味なカッコ付けキャラを再登場させた純平は、当然ながら、槇村に先ほどよりも強く頭をど突かれた。

「100万歩譲って男同士はいいとして、高校生はダメだろうが」
「そんなん大丈夫だって、槇村くん。相思相愛なら逮捕されないから!」
「軽々しい!」

 何度ど突かれても、純平は平気でとんでもないことを口走る。むしろ、ど突かれすぎて、どうにかなってしまったんだろうか。
 というか、今の時代、確かに性別やら恋愛対象やらは多様化してきているけれど、それでも、実の弟が17歳にして男に走ろうとしていたら、普通、兄として全力で止めるものだと思う。それを、どうしてこの男は積極的に応援しているのだろう…。

「とにかく! お前はちゃんと央を教育しろ! 兄貴だろ!」
「あぁん、槇村くん、怖いぃ~」
「…………」

 兄がこんな調子だから、弟もああなってしまうのだろうか。他人の弟ながら、槇村は本気で心配になって来る。央には健やかに真っ直ぐに育ってもらいたいのに。
 コイツには何を言っても無駄だ…と、槇村はそう思い、溜め息を零した。これで8回目のことだ。



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恋は七転び八起き (6)


  央・圭人・七海



「マタフラレタ…」
「ぅん? 何その妖怪。アメフラシの親戚?」

 朝、先生が来る前の教室で、机に突っ伏しながら発した央の言葉に、1つ前の席の七海(ななみ)が後ろを振り返って、とんちんかんなことを言い出した。昨日、央が槇村に8回目の告白をしに行き、8回目の失恋をしたことを知らない七海は、央の発音が若干微妙だったせいもあり、央の発言を何か勘違いしたらしい。

「えー、アメフラシて、海にいるカタツムリの中身みたいなヤツでしょ? 何、妖怪て」
「カタツムリの中身? 仲間じゃなくて?」

 七海の隣の席が、圭人だ。彼は央の心配よりも、七海のアメフラシ発言のほうが気になったらしく、失恋したての友人を慰めることもなく、七海の話に食い付いた。そして七海も、最初の質問に対する央からの返事を待たずに、圭人のカタツムリの中身発言に食い付いてしまった。

「仲間じゃなくて中身! 何か、アワビの中身みたいなヤツじゃん!」
「えーますます分かんないんだけど。カタツムリどこ行ったの? アワビの中身? 仲間じゃなくて?」
「違う! 何回おんなじこと言わせるの」

 あからさまに落ち込んでいる央を置いてきぼりに、圭人と七海はアメフラシの生態について、大層盛り上がっている。あぁ…、おちおち凹んでもいられない…。
 もしかしたら、落ち込む央を元気付けるため、バカなことを言って笑わせる作戦なのだろうかとも思ったが、すぐに、そこまでのことを考えられる2人ではない、と思い直した。そんな器用なマネの出来る2人なら、アメフラシについて、わざわざスマホで調べるまでのことなんかしない。

「うるさいっ! アメフラシなんかどうでもいいわ、ボケッ!!」
「イダッ」

 気の短い央がそんな2人にキレないわけはなく、怒鳴りながら椅子を蹴散らして立ち上がると、七海の頭を思い切りぶっ叩いた。続けて圭人の頭も同じように叩くのかと思いきや、そんな素振りは一切見せず、央は椅子を直して席に着いた。彼の中のヒエラルキーが、そうさせるのだ。
 それにしても、昨日、槇村の前で見せていた態度との違いに、今さらながら圭人は若干呆れる。
 しかし、これが央の本性だ。いや、本性という言い方は、言葉がよくない。これが彼のデフォルトだ。槇村の前でわざと態度を変えているとか、ぶりっ子キャラを作っているとかではなくて、好きな男の前では自然としおらしくなってしまう、恋する乙女現象が、央にも起きているのである。

「なら何よ、央ちゃん。どうした」
「バッカだなぁ、ななみん。央がここまで凹む理由なんか、1個しかない」

 ど突かれて、痛い思いをして、七海はようやく本題に入るべく央に尋ねたのだが、その質問の答えは、圭人が横から掻っ攫っていった。それも、全然慰める気のない感じで。

「あー…槇村さん? また告白しに行ったんだ」

 七海も、央がこれまで7回槇村に告白して、7回断られていることは知っているので、圭人のヒントで話はすぐに分かる。そして、央がここまで落ち込んでいることから、失恋記録が8回に伸びたことも、同時に分かった。



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恋は七転び八起き (7)


「『また』言うなぁ…」
「『また』じゃん。『また』告白しに行って、『また』振られたんでしょ?」

 圭人よりも情け容赦なく言い切った七海に、央はもう突っ込む気力もないのか、再び机に突っ伏した。その様子に七海は、ちょっと冷たくし過ぎたか…とも思ったが、しかし、このくらいのことを言われても仕方のないことをしているとも思う。
 だって、もう8回だ。8回も振られている。確かに失恋は、人を地の底まで凹ませる。立ち直れない気持ちにさせる。何度経験したって、慣れるものではないとは思う。けれどそれは、失恋して、新たな恋に向かったものの、また失恋してしまった場合だろう。同じ相手に8回も振られたら、いい加減、耐性が出来ていてもよさそうだ。

「てか、こんだけ振られてんのに、また告りに行けるって、すごいわ、央ちゃん。ホント尊敬する。普通、8回も告る前に諦めるって」
「ななみん…、それ誉めてない…」

 圭人もわりと空気は読めないほうだが、七海ほどではないと思う。圭人だって、央のこの8回の告白と失恋には呆れたというか、飽きたというか、そんなだけれど、それを央に言う勇気はない。まぁ七海の場合、分かっていて言っているところもあるのだろうが、央にダメージを与えているという意味では、自覚の有無は関係ない。

「ううぅ…明日こそは…」
「え、明日? まさか明日も行く気?」

 顔を上げないまま、弱々しい声で新たな決意を固め出した央に、声を上げたのは圭人だった。思わず嫌そうな顔をしてしまったが、央は机に伏していて、圭人のことを見ていなかったから、まぁセーフだろう。

「明日も行く! 今度こそは…」
「今度こそ、て…、もう8回も振られてんのに、何で今度こそはオッケーしてもらえるとか思ってんの?」
「………………」

 せっかく央が『明日も行く!』と元気よく顔を上げたのに、七海の余計な一言で、再び机のお友だちになった。 圭人は七海を睨もうと思ったが、この一言で、央が明日の告白を断念してくれたらそれに越したことはないので、やめておいた。もし告白しに行くとなったら、どうせまた圭人が付き合わされるのだ。

「でも、今度こそはオッケーしてくれるかもしれないじゃん…?」
「だから、その根拠て何! 昨日と明日で何が変わんの? 今日何かするわけ?」
「…………」

 七海に矢継ぎ早に言われて、央は黙り込んだ。
 これが8回も同じ相手に告白して、振られた男のやることだろうか。数打ちゃ当たる理論もいいけれど、何か告白を成功させるための行動だとか駆け引きだとかなしに、ただ告白しているだけでは、一生オッケーの返事なんて貰えないだろう。9回目の告白をしに行く前に、央はそこのところをもう少し考えたほうがいい。でなければ、七海は断言できる、9回目の告白も失敗だ。



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恋は七転び八起き (8)


「まぁまぁななみん、そんなキツいこと言わなくても。央も今落ち込んでんだから」

 とうとう見兼ねて、圭人が口を挟んだ。もう8回もこんなことに付き合わされているというのに、本当に優しい男だ。
 もしかしたらその優しさが、央をこんなふうにダメにしているのではないだろうか。彼がもうちょっとビシッと言ってやれば、央だって何か変わるかもしれないのに。

「央も…、ホラ、いつまでも凹んでないで、顔上げなよ」
「だってぇ…」

 圭人に優しくも厳しい言葉を掛けられ、央は涙声で返事をする。
 あぁ…、たとえ8回目の失恋であっても、泣くほど切ないのね…。ならばなおさら、明日告白しに行くのはやめておいたほうがいい。そんな傷口に塩を塗るような真似、いくら央がドMでも、耐え切れないだろう。

「あ、央、先生来た」

 教室の前のドアが開いて、このクラスの担任である板屋越(いたやごし)がやって来たので、小声で央に声を掛けると、圭人と七海は前を向いた。
 板屋越はいつも、それほど高くもない背と細すぎる体に絶対に見合っていない、ダボダボでヨレヨレの白衣を羽織り、クリーム色という絶妙な色の便所サンダル(それも、おしゃれな感じのでなく、あからさまな便所サンダル)という姿だ。しかも、教師らしからぬ長髪で、眉間には大体いつもしわが寄っている。
 一見すると、生徒からも周りの教師からも疎まれそうな存在だが、意外にも生徒からの人気は高い。こんななりだが、授業は分かりやすくておもしろいからだ。加えて、それほど厳しくもない。
 また、ビシッとしたときの板屋越は非常に格好いいと、女子生徒たちの間ではもっぱらの噂だ。その姿を見掛けた者は多くはないが、この噂が消えることはない。

「出席取るぞー…………欠席なし」

 出席簿を開いて、教室の中をグルリと一周見回した板屋越は、一人ひとりの名前を読み上げることもなく、本日の出欠確認を終えた。いつものことである。
 だが本当のことを言うと、まだ来ていない生徒が1人いて、欠席の連絡もないことから遅刻か無断欠席なのだろうが、板屋越は全員出席にしてしまった。これもいつものことだ。いないことに気付かなければ、それで終わり。
 こんなことでは、ちゃんと登校している生徒から不満が出たり、遅刻する生徒ばかりになったりしそうだが、意外にもそれはなかった。逆のパターンもあるからだ。
 来ていないことに気付かれた場合、出欠確認の最中に教室にやって来たとしても、遅刻を覆してもらえないのである。下手したら無断欠席扱い。おまけはないのだ。しかも、板屋越の出欠確認の時間は短いので、一人ひとり名前を読み上げていたら間に合ったかもしれないところ、涙を呑むことも少なくないのだ。
 とはいえ、トータルで見たら、おまけをしてもらっているほうが多いだろうが。

 一度生徒から、『甘いな~』と茶々を入れられたことがあったが、そのときに、『別にお前らが遅刻ばっかりする人間になろうと、俺の知ったっちゃないわ。お前らが困るだけで、俺は何も困らん』と言い切った男である。
 保護者が聞けば激怒しそうな台詞だが、高校生の胸にはそれなりに響いたようで、板屋越のクラスは他のクラスと比べても、出席簿上だけでなく、実際の遅刻も少ないほうだ。
 板屋越のいい加減な出欠確認が、かえって生徒の遅刻を減らしていると言っても過言ではない。



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恋は七転び八起き (9)


 板屋越は、連絡事項を伝達しながら、ふと教室の片隅で視線を止めた。相変わらず央が、机に突っ伏したままでいる。本来ならば教師として、真面目に話を聞け、と注意するところだが、板屋越はおもしろそうに少し目を細めただけで、何も言わなかった。
 央がなぜ今そんな状態なのか、板屋越には見当が付くからだ。どうせまた槇村に告白して、振られたに違いない。央が落ち込む原因など、そのくらいしかない。

 ちなみに、そこまでの事情を察せられるからといって、板屋越が特別央と親しい仲というではない。板屋越は、槇村と仲がいいのだ。いや、この年齢で仲がいいと言ったら何となく気持ち悪いから言い直す、板屋越は槇村と幼馴染みであり、今も付き合いのある腐れ縁なのだ。
 板屋越は前に槇村から、今時の高校生の気持ちがさっぱり分からないから教えてくれと言われて、何事かと思ったら、高校生から告白されたと打ち明けられた。
 槇村は見てくれがいいから女にはモテるけれど、高校教師の板屋越と違って高校生と触れ合う機会はそうないはずなのに、一体どこで女子高生なんかと知り合ったのだと詰め寄ったら、女子ではなく男子だと言うし、聞かされた名前は、どう考えても聞き覚えのあるものだったから、板屋越は大変驚愕したのだ。
 しかも、もう何回も断っているのに、断っても断っても告白しに来るという。そこまで槇村のことが好きなのか、でもそれってちょっとストーカーぽい…と、それ以来、板屋越はいろいろな意味で央のことを気にしている。
 もちろん、気にしていると言っても、央の将来を危惧しているわけではないし、友人たる槇村が高校生に手を出してお縄につかないか心配しているわけでもない。おもしろいことになりそうだと、事の成り行きを生温く見守っているのだ。

(また振られたか、央…)

 もう何度目だろうか、板屋越は面倒くさくて数えるのをやめているが、前に槇村から聞いた時点で5回は超えていたはずだ、それなのに懲りもせず槇村のもとへと行く央を、若いなぁと思うし、愚かだとも思う。若さとは愚かしいものだ。
 また槇村の愚痴を聞くはめになるのか…と思いつつ、板屋越は教室を後にするのだった。



*****

「央ちゃんてさぁ、もう8回も槇村さんに振られてるわけじゃん? いわば失恋のプロじゃん? なのに、何でいつもそんなに凹むわけ?」

 ――――昼休み。
 3限が終わったところで弁当をすべて食べ終えた七海が、購買で買って来たパンを頬張りながら、何とも容赦ない言葉を投げ掛けたので、話を振られたくない圭人は、七海からも央からも目を逸らして、卵焼きをゆっくりと咀嚼した。
 七海の言ったことは、確かに圭人も何度も思っていることだが、今のところ1回も口にしたことはない。央を気遣ってではない、いつも七海が先に言うからだ。
 央は何も言い返さず、もそもそと焼きそばパンを口に運んでいる。七海の言葉が胸に刺さって……というよりも、やはり昨日の失恋の後遺症が大きいせいだろう。
 七海の台詞ではないが、もう8回も同じ相手から振られているというのに、どうしてここまで落ち込めるのかというのもあるが、ここまで落ち込んでいるのに、明日にはまた槇村に告白しに行こうと思うところが謎だ。



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恋は七転び八起き (10)


「何で槇村くん、俺と付き合ってくれないのかなぁ…?」

 はぁ…と溜め息を零して、央は半分ほど食べた焼きそばパンを机に置いた。先ほどの七海の言葉には、答える気はないようだ。

「央ちゃんが男だからじゃない?」

 自分の話が無視されたことは特に気にせず、七海は結構デリケートな央の質問に、あっさりばっさり、何のデリカシーもなく答えた。
 男である央に告白されて、それを気持ち悪がったり嫌悪したりすることはないから、少なくとも同性愛に対して偏見はなさそうだが、だからといって、槇村も男が好きかと言ったら、必ずしもそうとは限らないだろう。

「槇村くん、女のほうが好きなのかなぁ…?」
「そうなんじゃない? 知らんけど」

 適当に答えて、七海はパックの牛乳を吸い込んだ。そういえば七海はよく牛乳を飲んでいるけれど、やっぱり牛乳を飲むとこうも身長が高くなるのか…と、170cm台にも届かない圭人はしばしば思う。

「でもさぁ! 付き合ってみたら、おっ…男だっていいかもよ…?」
「いや…、それ、俺らに言われても…」

 急に力強く声を上げて、でも内容が内容だけに最後は声を潜めて央はそう言ったけれど、それを七海や圭人に言われても困る。

「じゃあ、槇村くんに言ってみたらいいの? そしたらオッケーしてくれるかな!?」
「どうだろうなぁ…」
「何だよ! お前が、何かしろとか、俺らに言っても…とか言ったんだろ!」

 七海の発言だけ考えれば、朝から切れどころはたくさんあったはずなのに、なぜか今さらこんなタイミングでぶち切れた央に、しかし七海はのん気に構えているから、圭人が代わりに央を宥めてやった。

「あぁ~もう、何でなの槇村くんっ…」
「んー…アレなんじゃない? 槇村さん、めっちゃおっぱい好きとか」
「は?」
「だって央ちゃん、全然おっぱいないじゃん? おっぱい好きなら、男もいいかも…とは思わなくない?」
「そ…そっかぁ…」

 何だその理論は、と圭人は呆れた気持ちで七海を見たが、央にはものすごく説得力のある説明だったようで、七海に尊敬の眼差しを向けていた。
 ちなみに、一回り以上年上の槇村のことを、当然圭人も七海も『さん付け』で呼ぶが、兄の純平の影響からか、央は普通に『槇村くん』と呼んでいるのだ。

「おっぱい…」

 央は、焼きそばパンの次に食べるつもりだったメロンパンと、七海が封を開けようとしていたあんパンを手に取ると、おもむろにそれを自分の胸元へと持って行った。

「央!」

 慌ててそれを止めたのは圭人だ。七海はあんパンを取られて、え~ちょっとぉ、みたいな顔をしたが、それはあんパンに対しての執着だけで、その後の央の行動など気にしていない。



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恋は七転び八起き (11)


「だって、おっぱい…。こんなのがいいんでしょ?」
「央、やめなって!」

 せっかく圭人が止めたのに、央は結局メロンパンとあんパンを自分の両胸に当てた。服の上からだが、即席の偽おっぱいの完成だ。

「あっはっはっはっ、央ちゃん、キモッ」

 本はと言えば、七海のおっぱい発言が原因だというのに、七海は無責任に高笑いしている。
 圭人の止める声と、七海のバカ笑いのせいで、クラスメイトの視線が3人……いや、パンでおっぱいを作っている央に向くが、それに気付いたのは圭人だけで、央は「おっぱい…、槇村くん…」と嘆き悲しんでいるだけだし、七海は笑いすぎて噎せ返っているしで、全然ダメだ。

「央、央、とりあえずそのパンを離そうか」

 シュンとして俯いてしまったにも関わらず、両手のパンおっぱいだけはそのままの央に、圭人はその手首を掴んで、何とか胸からパンを退かした。

「やっぱり槇村くん、ボインのオネエちゃんが好きなのかなぁ…」
「そりゃそうでしょ、男はみんな、ボインボインのオネエちゃんが好きなんだって」
「うぅ…」

 七海は追い討ちをかけると、央からあんパンを奪い返した。

「ななみん、余計なこと言わないで!」
「あっはっはっ」

 涙まで浮かべて笑っている七海には、この後、央を慰める気など更々ないだろう。その役目は、そのまま圭人に回って来るのだ、勘弁してほしい。

「央、ホラ、顔上げて、ご飯食べな?」
「圭ちゃ~ん…」

 素直に顔を上げた央は涙目で、人一倍の優しさを持っている圭人はそんな央が不憫でならなくて、自分の弁当から央の好物である唐揚げをつまむと、その口に入れてやった。

「でもさぁ、央ちゃんて、槇村さんのどこが好きなわけ?」
「カッコいいところ!」

 大好きな唐揚げを食べて少し復活した央が(唐揚げ1つで、単純な男だ…)、七海の質問に元気よく即答する。

「何だ、外見か」
「外見だけじゃないよ、中身もカッコいい」
「例えば?」
「ぅ?」
「中身もカッコいいエピソード、教えてよ」

 七海は、1度だけ槇村に会ったことがある。央が告白しに行こうとしたとき、圭人がどうしても都合が悪くて、けれど央がどうしても行くと言うから、代わりに付いて行ったのだ。外見なら、央が一目惚れしたと言ってもあり得なくはないイケメンだったが、たった1度の出会いでは、中身の良さまでは分からない。



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恋は七転び八起き (12)


「そんなのいろいろあるよ!」
「だから、何?」
「ッ、何でそんなん、お前に言わなきゃなんないんだよ! アホ! 死ね!」
「え…、何で俺、こんなに罵られないといけないの? いや、別にそこまで知りたいわけじゃないから、言いたくないなら言わなくてもいいけど」

 何となく流れで聞いただけで、槇村の内面の良さなんて、七海にしてみれば別にどうでもいいことだ。
 まぁ、もし槇村がすごく嫌な男で、恋人同士になったとき、央がツラい思いをするのだとしたら、それは困るけれど、そもそも槇村は央の告白を断っているわけで、今のところその心配もない。
 というか、央のこの焦り方からして、そんなエピソード、本当はないのではないかと思えてくるのだが…。

「あぁ~でもどうしよっ。槇村くんがボインのオネエちゃん好きなんだとしたら、俺、勝ち目ないわ~。なぁ圭ちゃん、どうしたらいいと思う!?」
「えっ…えー…」

 急に話を振られ、圭人は返事に困る。そんな難解な質問のときにだけ、自分に話を振らないでほしい。圭人は困って七海を見たが、パンを食べ終えた七海は、腹一杯で眠くなったのか、あくびをしていて、まったく頼りにならない。

「でも央、ホントに槇村さんがボインのネエちゃんが好きかどうかなんて分かんないじゃん。確かめたわけじゃないでしょ?」
「ないけどぉ…」

 先ほどの七海の話では、すべての男が女性の胸を好きであり、出来れば大きいほうがいいと思っている、ということになるが、一概にそうとは言えないだろう。現に央は、女性の胸への興味なんて、まるでないではないか。

「あー知りたいっ、知りたいよぉ、圭ちゃぁ~ん」
「そんなこと言われても…、俺、槇村さんにそんなこと聞くなんて嫌なんだけど」
「うぅ…」

 央が恋を実らせるためにがんばると言うなら、面倒くさいけれど、圭人も出来る限り手伝ってやりたいとは思うが、そんな変態くさい質問を投げ掛ける役目なんて、絶対にゴメンだ。

「そんなの、央ちゃん、自分で聞いたらいいじゃん。知りたいんでしょ?」
「絶対嫌だわっ。そんなの聞いたら、変態だと思われるだろっ」
「あ、変態くさい質問だってことは分かってたんだ」

 困り果てる央に七海がいい加減な提案をしたら、それはあっさりと拒絶された――――が、央はその質問が変態くさいことは自覚していていたようだ。分かっていて圭人に頼もうとしていたあたり…。

「あ、いいこと思い付いた!」
「え、何?」
「圭人、聞かないほうがいい。絶対ろくなことじゃないわ。見てみ、央ちゃんのあの悪そうな顔」

 急に央が顔を輝かせたので、一体どんな名案が閃いたのかと思ったが、七海の言うとおり、確かに悪そうな顔をしている。名案と言うより、悪知恵に違いない。余計なとばっちりを受けないためにも、ここは何も聞かないでおこう。
 それよりも、央は思い付いた『いいこと』にニンマリしているが、それによって知り得た槇村の女性の胸に対する志向が、央の望まない答えだったらどうするつもりなのだろう。
 浮かれている央を見ながら、圭人は困ったように眉を下げ、七海は呆れたように首を横に振った。



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恋は七転び八起き (13)


  央・純平



「ただいまー」
「あっ、純平くんだ!」

 夕食のトンカツを口に運んでいた央は、玄関から聞こえて来た純平の声に、バタバタと玄関に駆け出した。
 いつもは純平が帰って来ても知らん顔で夕食を食べている央が、顔を輝かせて純平を出迎えに行くものだから、両親は何事かと顔を見合わせた。

「純平くん、お帰りっ!」
「おぉ~央ちゃん、どうした」

 純平にとっても、央のお出迎えなんて滅多にないことだから、喜びのあまり、デレッと顔を崩す。

「なぁ純平くん、お願いがあるんだけど! 聞いてくれる?」
「お願い? 何でしょう! かわいい弟のためなら、何だってしようじゃありませんか!」
「ホント!? だったらお願い! 槇村くんに、ボインのオネエちゃんが好きかどうフガッ」

 何でも聞くと言った手前、純平は最後まで話を聞こうとしたが、飛び出したワードがあまりにもどえらいものだったので、慌てて央の口を塞いだ。
 ここは家の玄関で、ちょっと向こうの台所には両親がいるのだ。槇村の名前だけならギリギリセーフだが、その後のボインのオネエちゃんはまずい。非常によろしくない。

「央ちゃん、お部屋行こっか?」

 純平が声を潜めて尋ねると、央は黙ったままコクコクと頷いたが、果たして彼に、純平が口を塞いだ理由と、部屋に行こうと行った理由が理解できただろうか。

「純平くん、お願い! 槇村くんに、ボインのオネエちゃんが好きかどうか聞いて!」
「……………………はい?」

 素直に純平の言うことを聞いて、無言で部屋まで付いて来た央は、部屋に入った途端、先ほど途中で遮られたお願いを一気に伝えた……が、純平の反応は薄かった。玄関を開けて、『ただいま』と言ったときのテンションはど

こに行ったのだろう。

「えー…っと、央ちゃん、何て?」
「ぅん? だからぁ、槇村くんに、ボインのオネエちゃんが好きかどうか聞いて?」

 純平があまりにも静かに聞き返すものだから、つられたのか、央も普通の声色に戻って、しかし変わらずとんでもない内容を言うのだった。

「………………、えーっとですね、」

 央にしたら、もう3度も同じことを言っているのだ。これ以上聞き返したら、確実に切れられる。しかし純平は、それでももう1度確認したかった。1度と言わず、何度でも。



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恋は七転び八起き (14)


「槇村くんに…………聞く? ボインのオネエちゃんが好きかどうか…?」
「うん!」

 改めて自分の口から発してみて、それがいかにハレンチな質問かと自覚した純平は、いい年をして顔を赤くさせた。いや、央が明るくはつらつと言っていたときは、そんなこと全然思わなかったが、いざ自分が言うと、とんでもなく卑猥な感じがする。

「ゴメンな央ちゃん、もっかい確認させて? えっと…、槇村くんに、ボインのオネエちゃんが好きかどうかを聞くの? 俺が?」
「純平くん以外に誰がいるの!」
「えっ…」

 純平以外の誰かを挙げよ、と言われても誰も思い付かないが、かといって、純平がその質問を槇村にぶつけるのに最適な人間かと言われたら、そんなことはないと断言したい。
 だが、残念ながら央はそうとは思っていないようだ。

「だって純平くん、毎日会社で槇村くんに会ってるんでしょ? 聞くチャンス、いっぱいあるじゃん!」
「それだけの理由で!?」
「それだけ…て、十分すぎる理由じゃん!」

 理不尽な理由を純平にぶっつけては、何とか言い包めようとしてくる。

「ちょっちょっと待って央ちゃん、まずは話聞かせて? 何なん? 何でなん? 何でそんなこと知りたいわけ?」
「知りたいから」
「………………」

 自分に立った白羽の矢をどうにか抜いて、話を別の方向へ持って行こうと純平は奮闘したが、呆気なく返されて終わった。

「いや、だからね…、何で知りたいのかなぁ…て」
「何でそんなこと純平くんに言わなきゃなんないの!」
「えぇー!! そこは言ってもらわないと! 俺、わけも分からずそんなこと聞くの嫌だぁ!」
「あ、聞くことは聞いてくれるんだ! ありがとう純平くん!」
「あ…」

 最終的にはお断りする方向で考えていたのに、つい口を滑らせた純平は、央にしっかりと言葉尻を取られて、結局央のお願いを聞くはめになってしまった。
 兄と違い、央は頭の回転がすごく速いのだ。

「あーもうっ、分かりました! 聞きます、聞けばいいんでしょ!」

 純平はやけになって、開き直った。拗ねた言い方が、ちょっと気持ち悪い。



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恋は七転び八起き (15)


「ありがとう、純平くん!」
「…で、何で知りたいのか教えてよ」
「えー? だからぁ、知りたいからだって」
「だから、何で!?」

 堂々巡りの質問の応酬。央はどうしても、本当の理由を言いたくないようだ。言うのが恥ずかしいのだろうか、しかし質問の内容がもう十分恥ずかしいものだから、今さらだろう。

「央ちゃん、ホントのことを言いなさい」
「だって、槇村くんが…」

 純平が表情を引き締め、静かに言葉を放つと、央はとうとう観念した。純平がテンション高くふざけているときは、央も調子に乗っていられるけれど、真面目に兄の顔をされると、やはり敵わない。

「だからぁ…、俺、槇村くんのことが好きじゃんかぁ?」
「う…うん」
「でも槇村くん、付き合ってって言っても、全然オッケーしてくれなくて…。それって槇村くんが女のほうがいいからなのかな、て…」
「え…、で、そのボインのオネエちゃんというのは…?」
「でも付き合ってみたら、男だっていいかもしれないじゃん? そう言ったら、でも槇村くんがおっぱい好きなんだったらダメだろ、て言われて。俺、おっぱいないし…」

 そう言って央は項垂れた。
 そのつむじを見つめながら、央にそんなことを吹き込んだ誰なのかと思いを巡らせれば、思い付く人間は2人しかいない。しかし、浮かんだ2つの顔のうち、すぐに圭人のほうは消えた。こんなろくでもないことを言うのは、七海に決まっている。

「だからお願い! 槇村くんに聞いて来て!」
「………………」

 あぁ…、先ほど帰って来たときまで、玄関でのん気に『ただいま』と言ったときまで、時間を遡らせてほしい。出迎えに来てくれた央に喜んで、央の願いなら何でも聞くと言った自分を、殴り飛ばしたい。

「あの央ちゃん…」
「何?」
「その…、その質問をするとき、その理由を槇村くんに話してもいいのでしょうか…?」
「ダメ!」
「えぇ~!」

 純平の怖ず怖ずとした質問は、即行で拒絶された。

「そんなんっ…、そんなこと俺が知りたがってるって知られたら、変態だって思われるじゃん!」
「いや、理由もなくそんなこと聞いたら、俺が変態だって思われる!」
「じゃあ、純平くんが知りたくなったから、てことにして!」
「そっちのほうが変態だ!」

 どんな状況で、会社の先輩がボインのオネエちゃんが好きかどうかを知りたくなるのだ。確実に変態だ。大人として失格だ。



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恋は七転び八起き (16)


「そんなことしたら、俺、次の日から会社行けなくなるよ…。央ちゃん、お兄ちゃんがこの年でニートになってもいいの?」
「そしたら俺が純平くんのこと養ったげるよ!」
「いや…」

 そんなプロポーズのような言葉を兄に投げ掛けなくとも、槇村に央が知りたがっているから、と言わせてくれればそれでいいのだが…。

「央ちゃんお願い! 槇村くんにホントのこと言わせてっ?」
「えぇ~…」
「槇村くんは、央ちゃんが槇村くんのこと好きなの知ってるし、そういう理由だって分かれば、変態だなんて思われないよ」
「…………」
「というかむしろ、俺が知りたいから、てことで聞いたら、俺が変態だって思われるじゃん? 兄ちゃんが変態だってなったら、槇村くん、余計に央ちゃんと距離置きたがるんじゃない?」
「ッ! それは困る!」

 央的には、生まれてから17年も一緒にいる純平の生態は知り尽くしていて、彼が変態だろうとそうでなかろうと、今さら好きも嫌いもないが、彼の性癖によって、槇村が自分からより離れて行っては困る。

「…分かった。ホントのこと言ってもいいよ」
「よかった」
「でも! 俺が変態だって思われないように聞いてよっ? お願いだからね!?」
「う…うん…」

 一体どんな聞き方をすれば、槇村がボインのオネエちゃんが好きかどうかを弟の央が知りたがっている、という質問で、央が変態だと思われないのだろう…。
 願いが聞き入れられてホッとしているかわいい弟を前に、純平は溜め息をつきながらネクタイを緩めた。



  槇村・純平・逢坂



 始業のチャイムが鳴ったらすぐに仕事に取り掛かれるよう準備さえ整えられれば、出勤時間は決められているものではない。時間ギリギリに来る者もいれば、余裕すぎるほど余裕を持って来る者もいる。
 槇村は後者だ。部署の中では、大体いつも1番か2番に出勤している。最初は後輩も合わせて早く来ていたが、槇村が余計な気を遣わなくていいと言ってからは、みんなそれぞれの時間に来るようになった。純平もそのうちの1人だ。
 しかし今日は違った。純平は、いつもより何本も早い電車に乗って出勤した。央の願いを叶えるべく、槇村に会うためだ。同じ課で働く槇村とは一日中顔を突き合わせているが、内容が内容だけに、他の人がいない時間がいい。

「まっ槇村くんっ!」

 純平が会社に到着すると、槇村はもうすで来ていて、ブラインドを開けているところだった。



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恋は七転び八起き (17)


「おぅ、おはよう。早いな」

 振り返った槇村は、しかしいつもふざけた調子で登場する純平が、こんな早い時間から、しかも真面目な顔をしてやって来たので、挨拶はしたものの、少し怪訝そうな顔をした。

「おっおはようございます槇村くんちょっといいですかっ僕の話を聞いてくださいっ」
「………………嫌だ」
「えっ!」

 なるべくいい印象を、自分の好印象が央の好感度へと繋がると思い、純平はいつになく堅く真面目に話を始めたのに、少しの間の後、槇村は冷めた調子で拒んだ。気持ちが逸り、力が入りすぎてしまったせいで、かえって胡散臭さが増したのが原因だろう。
 しかし、まだ内容も伝えていないうちから拒まれるとは思っていなかった純平は、予想外の展開にアドリブも利かず、ただただ言葉を詰まらせた。

「ええええええっと槇村さんっ」
「お前の話は聞きたくない。以上」
「ちょっそんなぁ!」

 自分の部署のブラインドを開け終えた槇村は、がんばって声を掛けた純平にきっぱりとそう言い切って、スタスタと純平の前から立ち去った。
 あまりの事態に頭が追い付かなかった純平は、槇村を呼び止めることも、その背中を追い掛けることも出来ず、我に返ったのは、次にやって来た同僚に肩を叩かれたときだった。

 どこで時間を潰していたのか、槇村が席に戻って来たのは、始業のチャイムと同時だった。純平は縋るような視線を槇村に向けたが、まるで無視された。
 仕事中に私語は御法度だが、何気ない多少の雑談ならある。とはいえ、さすがにここで央からの質問は出来ないので、純平は槇村が1人になる機会を窺っていた。槇村はたばこを吸わないので、喫煙所で一服…ということはないが、トイレくらいは行く。そのときに。
 …そう思っていたのに、槇村は純平が電話中など、席を離れられないタイミングで席を立つのだ。どうやら純平の浅はかな思惑は、お見通しだったようだ。

 ならば次のチャンスは、昼休みだ。昼食に出る槇村を捕まえて、声を掛ける。それしかない。
 あと数分で12時だ。槇村が席を立った。トイレだろう。先ほどまでは今しかないと思っていたこのタイミングも、もうすぐ昼休みになるとなれば、それほど重要とも思えない。純平はのん気に構えていた。
 チャイムが鳴る。昼休みだ。槇村が戻って来ない。

「えっ、あれっ?」

 節電のためフロアの電気が消され、輪番制の電話番を残して、みんな昼食へと出掛けて行くも、槇村が戻って来る気配はない。純平は慌ててトイレにダッシュし、中を覗いたが、そこに槇村の姿はなかった。

「やられた…」

 あのとき席を立った槇村は、本当にトイレに行ったのかもしれないが、その後、席には戻らず、そのまま外に出たのだろう。昼休みに外に出るときは、いったん席に戻らなければならない決まりはないから、槇村の行動に問題はない。やはり槇村のほうが上手だ。



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恋は七転び八起き (18)


「お前、さっきから何してんだ」
「うぇ!?」

 はぁ~と純平が肩を落としていると、背後からいきなり声を掛けられて、ビクッと肩を跳ね上げた。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは逢坂だった。彼もまた同じ部署で働く、純平の先輩だ。

「お…逢坂くんこそ…」
「はぁ? 便所に来てすることなんか1個しかないだろ。何言ってんだ」
「イタッ」

 何をしているのか先に聞いて来たのは逢坂のほうで、純平はそれに重ねて聞いただけなのに、バシッと背中を叩かれた。突っ込みは彼の得意とするところだが、力があるので結構痛い。

「そんで? さっきから何してんの?」

 小便器の前に立った逢坂が、用を足しながら尋ねて来た。彼はもちろん、トイレですることは何か、の答えが欲しいわけではない。『さっきから』と付けるからには、午前中の純平の態度のことを言いたいのだ。

「ものすごい槇村のこと気にしてただろ。槇村が席立つときとか、ガン見してるし」
「そ…そう? そんなに?」
「無意識か!」

 気持ち悪っ! と続けながら、用を足し終えた逢坂が洗面台のほうへと移動した。
 そこまで分かりやすく槇村のことを気にしていたとは思わなかったが、逢坂の話した自分の行動を想像すると、確かにすごく気持ち悪い。まさか今ごろ、職場のみんなのネタにされているのだろうか…。

「いや、みんなは思ってないんじゃね? 誰もそこまでお前のこと見てないだろ」
「じゃあ何で逢坂くんは…? ハッ! まさか逢坂くん、俺ことをそんなに意識してくれてたの? でもゴメンなさい、僕は男の人より女の人のほうが…」
「おい、黙って聞いてたら、何勝手なこと抜かしてんだ。何が悲しくて、俺がお前のこと意識しないといけないんだ。あぁっ? お前が俺の前の席だからだろうが」

 黙って聞いていれば、ひどいことを言っているのは逢坂のほうだ。まぁ、他のみんなに気付かれていないというなら幸いだけれど。

「実は…」

 どうせ槇村は昼休みが終わるまで戻って来ないだろうし、彼が今どこにいるかも分からないから、昼休み中に質問するのは無理だと諦めた純平は、それならば、と逢坂の話に乗った。

「槇村くんに用があるんけど、全然槇村くん、捕まえられない…」
「央絡みか?」
「ッ…」

 鈍感でがさつな逢坂にしては珍しく、あっさりと核心を突いて来た。まぁ、単に純平が槇村に用事があるだけなら、槇村だってこんなにも逃げやしないわけで、そこに央が絡んでいるからこそだとは、槇村と央の関係を知っていれば容易に想像は付く。逢坂も、その事情を知る1人なのだ。



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 9/19~9/21まで不在にするため、更新をお休みします。あれだけ休んでおいて、まだ休むのか! て感じですが……すみません、よろしくお願いいたします。
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恋は七転び八起き (19)


 ちなみに、逢坂が央のことを知っているのは、何も、純平がばらしたからではない。槇村と逢坂は昔からの友人であり、槇村が、高校生男子に告白されたことを逢坂と、ここにはいないもう1人の友人に相談したことが始まりだ。そこから、あれよあれよという間に央が純平の弟だということが逢坂にも知られ、さらにはもう1人の友人――――板屋越が、何と央のクラスの担任だという事実も発覚した。

「何したんだ、央。告白すんのは毎度のことだろ。ラブレターでも届けてくれって言われたか?」
「そんなかわいいもんじゃない…」

 弟の央はかわいいが、今さらそんなかわいげのある行動などしないことは、純平だってよく分かっている。そんな子は、好きな相手に、ボインのオネエちゃんが好きかどうかを、兄経由で聞こうとはしない。

「ちょっと聞いてほしいことがある、て…」
「ふぅん? そんくらいだったら、槇村も聞いたったらいいのにな」
「まぁ…」

 槇村にはまだ質問の内容を伝えていないのだから、確かに話くらい聞いてくれてもいいとは思うが、だが、逢坂が言うほど簡単な事態ではないのも事実だ。

「なら、俺が聞いて来てやろうか?」
「え?」
「お前だから警戒されるんだろ? だったら俺が聞いて来てやるよ」
「うんっ……あ、いや、それは」
「ん?」

 逢坂の有り難い申し出に、純平は思わず頷いたが、それはあまりにも軽率だと、咄嗟に返事を有耶無耶にした。
 何しろ質問の内容は、槇村がボインのオネエちゃんを好きかどうかだ。もし槇村がおっぱい好きなら、男には転ばないだろうから、央の望みは絶たれてしまうわけで、央は純平にその質問を託したのである。
 しかし央は最初、その理由を槇村に話すことすら嫌がっていたくらいなのに、逢坂にまで知られたとあっては、大変なショックを受けるに違いない。ショックを受けて、ブチ切れて、純平はボコられるという展開だ。やはり逢坂に話すのはやめておこう。

「何だよ」
「いや…、央ちゃんも、あんま他の人に知られたくないみたいだから…………俺が直接聞くわ」
「そうか? あぁ、だからみんなのいるトコで聞けなかったのか。でもそうなると、槇村が捕まんないことには始まんないな」
「うん…」

 自分で直接聞くと言ったところで、肝心の槇村が純平から逃げ回っているうちは、聞くに聞けない。
 しかし、今か今かと答えを待っている央は、今日純平が帰宅したら、さっそく聞いて来るに違いない。それなのに、まだ聞いていないとあっては、確実に切れるだろう。『聞いていない』のではなくて、『聞けなかった』のだと言っても、それは恐らく通用しない。



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恋は七転び八起き (20)


「あぁ~…どうしよぉ~、逢坂くぅ~ん…」
「甘えんな、気色悪い。まぁとりあえず飯行くか? どうせ昼休み終わるまで槇村も戻って来ないだろ。それとも、電話してみるか?」
「いや、いいよ。どうせ切られる」
「それもそうか」

 純平のスマホで掛ければ、槇村はそもそも電話に出ないだろうし、逢坂に掛けてもらっても、純平に代わった途端に電話を切られそうだ。槇村がどこに行ったか分からない以上、昼休みのうちに探し出すのは難しいから、ひとまずここは自分も昼食に行くことにする。
 どうせ槇村は、朝と同じくチャイムと同時に戻って来るだろうし、仕事中に純平と2人きりにならないよう気を付けるだろうから、チャンスは業後だ。

「ホントお前もしょーがないヤツだなぁ」
「え、僕がしょうがないん?」

 央でもなく、槇村でもなく、純平のことをしょうがないヤツだと言う逢坂に、純平はムッとはせず、逆に困ったように眉を下げた。
 兄がこんなだから、弟の央があんなふうになったのだ、と言うことなのだろう。槇村にもよく言われる。まだ両親も健在で、共に暮らしているのだから、そういうことは両親に言ってもらいたいところだが、一回りも年の離れた兄弟なのだから、もう少し弟に対してビシッとした態度を取れと言いたいのだろう。

「ホント俺、しょうがないなぁ」
「何自分で言ってんだ。分かってるなら、ちゃんとしろ」

 逢坂の突っ込みを後頭部で受け止めた純平は、さっさと先に行く逢坂の後ろを追い掛けた。



  槇村・純平



 純平の予想どおり、槇村はチャイムと同時に戻って来て、純平のほうを見ることもなく席に着くと、何事もないように仕事を始めた。逢坂はチラリと純平を見たが、特に表情を変えずパソコンに視線を戻した。
 案の定、槇村は仕事中、純平と2人きりにならないよう細心の注意を払い、間もなく終業のチャイムが鳴ろうかという今、チャイムと同時に帰れるよう支度をしている。仕事が間に合っているのなら、無駄な残業などせず早く帰るに越したことはないが、今はまさしく純平から逃げるためだろう。
 これを逃したら、今日はもうチャンスはない。というか、明日以降もチャンスなんか巡って来ない気がする。純平も後れを取らぬよう、素早く帰り支度を始めたが、パソコンの電源が切れないうちにチャイムが鳴り出し、それと同時に槇村が席を離れた。

「あぁっちょっ!」

 とりあえずパソコンは放って槇村を追い掛けようかと思ったが、そこはちゃんとしていかないとマズイと思い直し、純平はその場でジタジタと足踏みをしながら、パソコンの電源が切れるのを待つ。その間にも、槇村は事務室を出て行――――こうとしたところで、行き先を塞がれ、立ち往生していた。



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恋は七転び八起き (21)


「ちょっ逢坂、お前何だ、退けよっ」

 事務室の出入口のところに仁王立ちしている逢坂は、まさに仁王のような顔をしていて、なるほど、仁王立ちという言葉の意味をすごく分かりやすく教えてくれている。いや、逢坂はそんな説明のために立っているわけではなく、帰ろうとする槇村を逃がすまいと、先回りしてそこにいてくれているのだ。
 昼休みに純平から話を聞いた逢坂は、どうせ純平がこのチャンスを逃し、槇村に逃げられるであろうことを分かっていたようだ。鈍感ではあるが、頭の回転は速い男だ。もしかして昼休み明けに目が合ったのは、これを示唆していたのだろうか。

「おい、ちょっ、逢坂! 何だお前ら組んでたのかっ!?」
「知らねぇよ」
「知らないことないだろ、だったら退けよ!」
「言われなくても退くわ」

 力尽くで通り抜けるには、槇村は逢坂に対して腕力が足りないし、それ以前に、いい大人がこんなところでそんな小競り合いをするのは、大変みっともない…と槇村が悩むより先に、意外にも逢坂はあっさりとそこを退いた。何だ、そんなことなら、さっさと退いてくれればよかったのに。

「槇村くん、ちょっと話があるんだけど」
「!」

 一体何だったんだ、どういうつもりなんだ、と逢坂に詰め寄ろうか、いや、それよりも早く帰らなければ、と槇村が逢坂の横を通り抜けようとしたところで、背後からポンと肩を叩かれた。純平だ。
 槇村はギギギ…と油の切れたロボットのように、ゆっくりと後ろを振り返った。途中、満足げな逢坂の顔が視界に入り、やはり純平のためにそこにいたのだと知る。純平が間に合ったからこそ、逢坂はあっさりと退いてくれたのだ。

「いい加減に諦めろ、槇村。これから一生、こんなことしてられないんだぞ」
「ッ…」

 諭すように逢坂に言われ、槇村は言葉を詰まらせる。確かに今この場を凌いでも、明日がある。明後日もある。その次も。まぁ土日はいいとして、同じ会社、同じ部署で働いている以上、これから先ずっと、今日のようなことをしていられないことは槇村だって分かってはいる。分かってはいるが、出来る限りのことはしたいと思ったのだ。

「じゃあ、ゆっくり話聞いてやれよ?」
「お疲れ様でした! さ、行きましょ、槇村くん」

 逃げられないよう、純平はガシッと槇村と肩を組み、連れ立って歩く。背後の事務室からは、「アイツら見習って、俺らも早く帰るぞ」という逢坂の声がする。

「…おい純平、逃げないから、離れろ」
「話聞いてくれるまで、離しません」
「なら、早く話せ。おかしいだろ、何でお前と肩組んで帰らないといけないんだ」

 槇村はチャイムと同時に席は立ったが、逢坂に足止めされたせいで、多少遅くなった。そのせいで廊下には、他課の社員もちらほらと姿を現していて、そんな中を純平と2人、肩を組んで歩いている姿は、はっきり言って異様だ。



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恋は七転び八起き (22)


「けど、人に聞かれたらダメなんです。だからひと気のないところへ…」
「おい、このままひと気のないところ向かうとか、何の罰ゲームだ」

 酔っ払いが陽気に肩を組んでいるならまだしも、まだ外は明るく、しかもまだ会社の中だ。このまま社内のひと気のないところに向かうにしても、外に出て2人きりになるにしても、怪しすぎる。

「あーもうっ、ここで話せっ!」
「ちょっ槇村くんっ…!」

 自分が勝手に逃げていたとはいえ、今日1日、純平に振り回されたのだ。これ以上好き勝手にされて堪るか、と槇村は純平の腕を振り払った。逃げないから、と最初に言った手前、大人しくそこに留まってはいる。律儀なのだ。

「いや、ここはちょっと…」

 それなのに、純平はモゴモゴと口籠った。聞きたくもない話を聞いてやろうとしているのだ、槇村の優しさに感謝し、さっさと話を始めてもらいたい。

「あと5秒以内に話さなかったら、もう一生お前の話は聞かない」
「えっちょっ」
「ごぉ、よん、さん、にぃ、い…」
「槇村くんは、ボインのオネエちゃんが好きですか!?」
「ブッ!」

 槇村のファイブカウントに慌てた純平は、ひと気のないところでないと…と言っていたことも忘れて、央から頼まれていた質問をその場でぶちまけてしまった。
 純平が切羽詰って槇村のところに来るときは大体が央絡みだから、今回だってそうだと思っていたのに、まさかそんな質問が飛び出してこようとは、槇村も大いに慌てる。そりゃ、ひと気のないところに行きたいわけだ。

「おまっ…ホントおまっバッカじゃね!?」
「あばばばばばっ…」

 逢坂のようにスパンッときれいに突っ込みを入れられればよかったのだが、純平の質問があまりにも突拍子のないものだったため、槇村も慌てすぎて、あたふたするしかなかった。いや、純平のセリフがとんでもないものだと、咄嗟に判断できただけでも褒めてもらいたい。

「ちょっだって5秒…!」

 混乱する頭で、純平は涙目になりながら、ぶんぶんと首を横に振る。
 純平は悪くない。いや、悪いのは純平だけれど、槇村が5秒以内とか言わなかったら、こんなことしなかった。焦らせた槇村が悪いのだ。純平の脳のキャパシティを甘く見ないでほしい。

「分かったから大人しくしろっ…」
「ッ…」

 言われて純平は、横に振っていた首を、今度は縦にコクコクと動かす。声に反応して動くおもちゃみたいだ。
 槇村は呼吸を整えながら、周囲を窺う。騒いでいる2人をそれとなく見ていく者はいるが、みんな立ち止まらずに通り過ぎて行っているし、先ほどの純平の爆弾発言が広く知れ渡っている様子はない。



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 昨日は更新せずに申し訳ありませんでした。FC2へのログインがうまくいかず、更新することが出来ませんでした。
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恋は七転び八起き (23)


「…で、何だって? ――――いや、ここで言うな。黙れ。喋るな」

 改めて話を聞こうとして、そういえば純平が切り出したのはとんでもない話題だったことを思い出し、口を開き掛けた純平を、槇村は慌てて制した。いくら純平でも、今のを教訓に、声は潜めて喋るだろうけど、念には念を入れておかないと。

「とりあえず人のいな…」
「喋るな」
「…はい」

 ひと気のないところに、と最初と同じことを言おうとした純平を、槇村はすぐに遮る。純平は、分かりやすくシュンとしてみせるけれど、別にかわいくも何ともない。
 純平の言い分は分かったが、会社の中でひと気のない場所なんて……いや、なくもないが、終業後に槇村と純平の2人でそんなところに向かうのは怪しすぎるので、遠慮しておきたい。
 とはいえ、こんなところでコソコソと喋っているのも、絶対におかしい。少なくとも、会社の人間の目に付きたくはない。

「なら、家来る?」
「何でだ」
「だって…、俺が槇村くんち行くのは嫌でしょ?」

 黙れと言っているのに喋り出す純平の提案に、槇村は眉を寄せた。
 確かに純平に家に来られるのも嫌だが、純平の家に行くのだって嫌だ。そもそも、1人暮らしの槇村と違って純平は実家暮らしで、まぁ自室に行けば家族に話は聞かれないだろうけれど、気分的に嫌だ。第一、純平の家に行けば、央がいるではないか。

「…とりあえず、外出るか」

 会社の中でひと気のないところに行ったら、シンと静まり返っていて、逆に声が響きそうだから、いっそ外に出て、雑踏の中とか、ざわついたところで話をしたほうがいいのかもしれない、そう思って槇村は歩き出す。
 絶対に家には来てほしくないし、純平の家にも行きたくないから、駅までの間に話は終わらせてやる。

「それで、何だったんだ、さっきのは」
「何、て……だから、槇村くんへの質問…。その……まぁ、好きかどうか」
「お前…、俺にそれ聞いて、何て答えてほしいんだ」
「『好きじゃない』」
「…………」

 別に槇村は本当に、純平が槇村に答えてもらいたがっていることを聞きたかったわけではない。何でそんなことを聞いて来るのかについて、たっぷりの嫌味を込めて言っただけなのに。

「…言い方変えるな。何でお前、そんなこと知りたいんだ。知ってどうすんだ」
「央ちゃんに教えます」
「やっぱり央か…」

 朝、純平に声を掛けられたときから想像はしていたが、やはり純平がこんなふうに槇村に近寄って来るときは、央が噛んでいるのだ。
 槇村は溜め息とともに、頭を抱えた。央のことに関しては、いくら溜め息をついてもつき切れない。央をちゃんと教育しろと言ったのは、つい昨日のことのはずだが。



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恋は七転び八起き (24)


「一応聞くけど、何で央はそんなこと知りたがってんだ」
「えーっと…、央ちゃんの話によると、男より女のほうがよくても、付き合うてみたら男もいいかも…て思えるかもしれないでしょ? でも、槇村くんがおっぱい好きだったら、男のほうがいいかも、とは思わないじゃん? みたいな」
「…………」

 改めて純平の話を聞いて、とうとう槇村は頭が痛くなってきた。何なんだ、央のその理屈は。
 いや、『付き合ってみたら、男もいいと思えるかもしれない』というのは、確かに、経験もせずにいいも悪いも言えないわけだから、間違ってはいないと思う。しかし、『おっぱいが好きだったら、男のほうがいいとは思わない』というのでは、槇村はいつも、胸目当てで女性と付き合っていることになってしまう。体だけの関係ならともかく、そうでないなら、女性と付き合うのに胸の大小は関係ない。

「…あのな、いや、お前も気付けよ」
「何が?」
「別に俺は、央に胸がないから付き合わんわけじゃないぞ? ボインのネエちゃんが好きだからとかじゃないんだ」
「おっぱいは関係ないと」
「関係ないわ。央の言うことも分かるよ、付き合うてみたら、男もいいかも…て思えるかもしれない。でも、そうじゃなくて、それ以前に央はまだ17歳だろ? 俺、捕まるわ」

 一体どうしてこんな年齢になって、おっぱいだのボインだのという単語を、男2人で言い合っているんだろう。しかも素面で。本当に頭が痛い。

「つまり槇村くんは、警察のお世話にはなりたくないと」
「当たり前だっ! いいか、よく央に言っとけよ? そんで、お前はもっとしっかりしろ!」
「はいっ!」

 弟がかわいくて仕方のない気持ちなら槇村にも分かるが、それにしたって純平は、ちょっと央の言いなりになりすぎだ。純平がもう少しでもしっかりしてくれたら、槇村はこんなに頭を痛めずに済むのに。
 しかし、そんな槇村の気持ちは、ビシッと敬礼を決めている純平には伝わっていないのだろうと思うと、どっと疲れが押し寄せて来る気がした。



  央・純平



「た…」
「お帰り、純平くんっ!」
「…だいまー…」

 昨日は、純平の『ただいま』の声に反応して、台所から駆け出してきた央だったが、今日は玄関を開けたら、もうそこにいた。いつからそうしていたのか、純平の帰宅に、母親がホッとした顔で台所から顔を覗かせた。
 それだけ早く質問の答えを知りたかったということか。よかった、ちゃんと槇村に話を聞けて。これで、『今日は槇村くんに質問できませんでした』とか、『聞いたけれど、答えてもらえませんでした』とかだったら、大変なことになっていた。



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恋は七転び八起き (25)


「純平くん、部屋行こっ、早くっ!」
「あ、うん…」

 央は嬉々として、純平の腕を引っ張っていく。純平は、大丈夫だと母親にサインを送って、央に連れられて部屋へと向かった。

「純平くんどうだった!? 槇村くん、何て? ボインのオネエちゃん、好きだって?」
「いや、おっぱいは関係ないと言っていました」
「ホント!?」

 着替えようとする純平に纏わり付いて央が答えを急かすので、純平は先ほど槇村に言われたとおりのことを伝える。途端、央は喜びのあまり、純平に抱き付いて来た。

「よかったぁ~。俺今日1日、めっちゃドキドキしてたんだよ!」
「あ、そう…? あ、あの、央ちゃん…」
「何っ?」
 央は今度は勝手に純平のベッドに上がると、掛けぶとんの上をゴロンゴロンと転がりまくっている。これではまるで、槇村からオッケーの返事を貰ったかのようだ。
 しかし、キャッキャしている央には悪いが、槇村は確かにおっぱいは関係ないとは言っていたものの、かといって、央と付き合うと言ったわけではない。むしろ、央とは付き合えないというようなことを言っていた。純平はその事実を伝えなければならない。

「えっと…、槇村くんは、おっぱいは関係ないとは言ってたけど…」
「うんっ」
「おっぱい関係ないから、央ちゃんと付き合うてもいいよー、とは言ってなかったよ?」
「……………………」

 ベッドの上を転がっていた央が、ピタリと止まる。ジッと純平のことを見つめる。本人に睨んでいるつもりがなくても、睨んでいると思われるくらい目力のある央に見つめられ、純平はドッと冷や汗が噴き出した。

「えー…っと…、央ちゃんが言うてた、付き合うてみたら男もいいかも…て思えるかもしれない、ていうのは、まぁ分かった、て言ってたけど…」
「………………」
「でも、央ちゃんはまだ17歳だから、ダメだ、て…」
「………………」
「18歳未満だと、やっぱり、その…」
「………………」

 無言を貫く央に、純平の声も段々と小さくなる。別に純平は何ら悪いことなどしていないのだから、堂々としていればいいのだが、そうは出来ない性格なのだ。

「…じゅーはっさいみまんだから、ダメだてこと?」
「、ッ、ん?」

 ゴロンと寝返りを打って、央は純平の枕に顔をうずめた。そのせいで声がくぐもったのと、このタイミングで聞き返されるとは思わず油断していたので、純平はうっかり央の言葉を聞き逃してしまった。聞こえていた振りをしようとしたが、思わず漏れた声が央の耳に届いていたようで、ギロリと、今度はしっかりと睨まれた。



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恋は七転び八起き (26)


「俺がまだ18歳未満だから、ダメだってことなのっ?」
「あ、うん。まぁそういうことだと…」

 強く聞き返されて、純平はコクコクと頷いた。純平は前に槇村に、愛し合っているなら年齢は関係ない、というようなことを言ったが、槇村はこの年齢については大変気にしているようで、このことはよく言っている。

「じゃあ、俺が18歳になったら付き合ってもいいってこと!?」
「えーっと…、それについては、聞いてません…」

 18歳未満だからダメだというなら、裏を返せば、18歳になったら付き合ってもいいということになる。しかしあのとき、槇村はそこまでは言っていなかったし、純平も聞かなかった。槇村はわざと言わなかったのかもしれないが、純平はすっかり言い包められていて、そんなことに気付いていなかった。

「何でだよ! 聞いてよ、純平くん!」
「え、え、でも…、俺が聞いて、いいにしろダメにしろ返事貰ったら、央ちゃんの告白の返事、俺が貰うことになるけど……それでいいの?」
「それは…………ダメかも…」

 頼まれたことはしたけれど、それ以上の働きをしなかった純平に、央はもっと怒るかと思ったが、純平の言葉に一応は納得したのか、声を荒げることなく、シュンとしてしまった。

「うー…何で18歳未満はダメなの? なぁ何で? 純平くん」
「捕まるんでしょ? よくニュースでやってるじゃん。18歳未満と知りながら――――て」
「でもあれって、お金払ってエッチなことするからダメなんでしょ? 愛し合ってるなら、いいんじゃないの?」
「…と思いますが、法律はよく分かりません」

 純平もそう思って、槇村に言ったことはあるが、槇村からは、『軽々しい!』と怒られてしまった。やはり、愛し合っているから、という理由だけではダメなのかもしれない。

「18歳までなんて待てないー!」
「あと1年じゃんか」
「その間に、槇村くんに彼氏が出来たらどうすんの!? 純平くん、責任とってくれんの!?」
「いや、それは…」

 央がまだ17歳なのは純平のせいではないし、18歳になるのが来年なのも純平のせいではないのだから、そんなことで責任を負わされるのは困るのだが、それ以前に、どうして『彼女』でなく『彼氏』なのだろう…。

「今は何が出来るの? 何ならいいの? どこまでだったら捕まらないの!? デートは? デートもダメ!?」
「んー…、でもデートて、もう付き合ってることになってるじゃん。恋人同士でするのがデートでしょ?」
「じゃあ、ただのお出掛け。それなら、いいってことでしょ? 恋人じゃないし、エッチなこともしないし、お金も貰わなかったら、槇村くん、捕まらないでしょ?」
「そう思うけど…、央ちゃんはそれでいいの? 恋人じゃない、て思い切り言ってるじゃん」
「今はまだ、てこと! で、18歳になったら、恋人にしてもらう」
「うーん…」



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