恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2016年02月

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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (14)


 な…何で? こんな意固地な直央くん、珍しい。
 もしかして、直央くんはちゃんとミヤの顔を覚えてて、その顔と、今日コンビニで会ったミヤの顔が違ってたから、自分が会ったのはミヤじゃないって言いたいんだろうか。
 でも俺は昨日もミヤに会ったけど、顔なんて別に変わってなかったから、そう考えると、やっぱり今日直央くんのコンビニに行ったのはミヤじゃない人、てことになる。

 ………………。

 いや、それはねぇよ。100歩譲っても、それはない。
 そんな偶然が起こるくらいなら、直央くんがミヤの顔忘れちゃってる、ていうほうが、絶対にあり得る。直央くんには悪いけど。

「えーっと…、この人……じゃなかった? 今日直央くんが会った人」

 口で顔貌を説明するのは難しいし、何かこのままだと埒が明かなそうだから、俺はスマホを出して、ミヤの写ってる写真を画面に表示させた。
 写真ていっても、別に俺は女の子と違って、ダチと会うたびにいちいち写真なんか撮らないし、わざわざそれをスマホに保存なんかしてないから、SNSにアップされてるヤツなんだけど。

「……………………」
「…直央くん?」

 直央くんは、食い入るようにスマホの画面を見てる。
 そんなに考え込むくらい、直央くんが会った人と、この写真のミヤは違う顔をしてるんだろうか。

「直央くん、やっぱ違う人だった? …………直央くん?」

 反応のない直央くんの顔を覗き込んだら、直央くんの顔からは完全に血の気が引いちゃってて、顔面蒼白なんだけど。
 え、何で?

「直央くん、大丈夫?」
「こ…」
「え?」

 直央くんが、震える手で俺の手を掴んだ。俺の手て……いうよりも、俺の手の中のスマホだけど。
 でも一定時間操作してなかったから、画面が暗くなっちゃって、直央くんは焦ったように俺の顔とスマホを見比べながら、スマホの画面を一生懸命押してる。
 …そうだよね、ガラケーの場合、分かりやすい位置にボタンがあって、画面を復帰できるもんね。スマホの場合、大抵は側面か裏の電源ボタンじゃないとダメだからね。

「徳永さっ…画面っ…」
「あぁ、うん」

 直央くんが焦って画面をガシガシし出しすから、勢い余って傷とか付けられないうちに、電源ボタンを押して、画面を復活させてやる。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (15)


「で、この人、違った? 直央くんが会ったの、違う人だった?」
「ち…違わない人だった…」
「それって、この人だったってこと?」

 再び表示されたミヤの写真を見て、直央くんが蒼褪めながらも、微妙にとんちんかんな答えをくれる。
 違わないてことは、直央くんが会ったのはこの写真の人――――つまりはミヤ本人だったわけで、2人の話も一致してたし、まぁ俺としてはムカつくところもあったけど(ミヤにね)、何も問題ない……はずなのに、直央くんはますます青くなってる。
 いや、だから何で?

「直央くん、どうしたの? よかったじゃん、知らない人に間違われて声掛けられたわけじゃなかったんだし」
「よくなっ…」
「何で」
「だってそんな、徳永さんのお友だちの人、俺も会ったことあるのに、全然知らない人だと思ってたし!」

 あー…、さっき、『今日来た人は、俺に会いたかったんじゃない』とか言ったのは、自分がミヤの顔を忘れちゃってた、て事実を認めたくなくての発言だったんだね…。
 自分はミヤの顔を忘れたんじゃない、そもそも今日会った人がミヤじゃなかった、て思いたかったんだよね。
 顔見て知らない人だと思ったのは、ミヤのことを忘れたからじゃなくて、本当に知らない人だから、て思いたかったんだよね。

 でも、そんな直央くんの願いもむなしく、直央くんが会ったのはミヤで間違いなく、直央くんがミヤの顔を忘れてたのも、間違いのない事実だってことが判明したわけで。
 それが直央くんを、この世の終わりみたいな顔にさせているという…。

「徳永さんっ!」
「はい?」

 俺としては、まぁミヤのことは不憫だとは思うけど、直央くんがそこまでミヤのことをしっかりと覚えててくれなかったことには、ちょっとホッとしてる。
 だって、俺よりミヤのほうがいいとか思われちゃったら嫌だし。
 そう思ってたら、直央くんに大きい声で呼ばれた。

「これから宮田さんちに行って来るっ」
「は?」

 え?
 宮田さんちに行って来る?
 これから?
 ミヤんちに行くの? 直央くんが?



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (16)


「宮田さんちに行って、謝って来る!」

 そう言うと直央くんは、俺が『は?』て言う前に、ダッシュで玄関のほうへ走って行った。
 は…速い…!

「ちょっ直央くん!」

 もちろん俺もそれにすぐに反応して、マッハで追い掛ける。
 ミヤに謝るにしろ何にしろ、ミヤの家に行くって……直央くん、ミヤの家なんか知らないはずなのに、どうする気!? てか、もしかして家の場所、知ってるとか!? それはそれで問題あるんだけど!

「直央くん待って直央くん、ミヤの家! 知ってんの!? ミヤの家!」

 騒いだところで近所迷惑なんてことがないとはいえ、家の中でこんなデカい声、出したことがない。
 でもおかげでその声はちゃんと直央くんの耳に届いたみたいで、玄関のドアをちょっと開けたところで、直央くんはストップしてこっちを振り返ってた。

「ミヤの家に行くって言ったって、家分かんなきゃ行けないじゃん。知ってんの? ミヤの家」
「………………知らない…………」

 俺の問い掛けに、直央くんは絶望的な表情で答えたが、逆に俺はそれに安堵する。
 これで、『知ってるし!』とか言って突き放されたら、俺、立ち直れない。

「どうしよう…、あ、じゃ、じゃあ電話! 電話して…」
「え、ミヤの電話番号知ってんの?」
「…………知らない……」
「……………………」

 焦ってるのは分かるけど、直央くん、どうして自分にない術を使おうとするの。
 しかも、今ポケットをバタバタ漁ったけど、結局探し出せなかったよね? ケータイ、テーブルの上に上がってたもんね。今持ってないよね。

「………………徳永さん、宮田さんに電話してください」
「え、」

 急に改まった口調で直央くんはそう言って、ぺこりと頭を下げた。

「えっと…、いや、電話するのはいいけど…、何喋んの?」
「…謝ります、今日のこと」

 …どうして敬語のまま話すんだろう…。
 てか、謝る、て……今日ミヤに会ったけど実は顔を忘れてた、て事実を謝りたいんだろうけど、それ、わざわざ電話までして伝えなきゃいけないようなことかな。
 だってミヤは、直央くんがミヤのこと忘れてたの知らないわけで、言わなきゃ分かんないようなこと言っちゃったら、逆にショックを受けるような気もするんだけど。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (17)


「別に謝らなくてもいいんじゃね? 直央くんがミヤの顔忘れてたの、ミヤも気付いてないんでしょ?」
「気付いてなきゃ謝らなくていいわけじゃない!」
「そりゃまぁそうだけど…、でもさ、多分ミヤ、今日直央くんに会えたの、喜んでると思うんだよ。なのに、今さら直央くんがミヤの顔、実は忘れてた、て知らされたら、逆にショック受けんじゃねぇかなぁ、て思って」
「!」

 別に、直央くんがミヤに電話したり、ミヤと喋ったりするのを阻止したいわけじゃない。
 ミヤが不憫だって気持ちが半分と、口下手な直央くんは、どうせうまく説明できなくて、電話したことでかえって逆に落ち込むことになりそうだという気持ちが半分。

「いや、直央くんがどうしても謝るていうなら電話してもいいけど……うまく話できる?」

 今日ミヤがコンビニに来て声掛けてくれたけれど、実はずっと知らない人だと思ってて、でもそういうことも出来ずに接客してました、てことを、うまいことミヤに伝えられるかな。

「…今日、コンビニに来ていただいたときにお会いして、おすすめの飲み物を聞かれましたが、実は宮田さんの顔を忘れていて、知らない人に声を掛けられたと思っていました」
「…………まんまだね」
「…怒らせちゃうかな、宮田さんのこと」
「怒りはしないだろうけど…、まぁ、ショックは受けるだろうなぁ…とは思う」
「うぅ…」

 相当気を遣った言い回しをしない限り、直央くんがミヤの顔を忘れてたことは、どうやったってミヤにショックを与えると思う。
 かといって、直央くんがそんな口のうまいビジネストークみたいなの言ったら、それはそれで違和感あるし、言わされてる感満載でミヤも気付くはずだから、意味がない。
 それに直央くんも、そういうことじゃなくて、自分の言葉で自分の気持ちを伝えたいはずだし。

「でも、何も言わないままなのは嫌だ。俺、宮田さんに怒られても嫌われてもいいから、ちゃんと話する!」
「そ…そぉ?」

 多分、そんなことくらいでミヤは直央くんのこと嫌いになんないとは思うけど…、直央くんはものすごい決意を固めたみたいな顔をしてる。
 悪いことをしたと思って人に謝ろうとしてるんだから、そりゃそうか。

「まぁ…、とりあえず部屋戻ろ?」
「…ん」

 俺は項垂れてる直央くんの腕を引くと、直央くんは大人しく付いて来た。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (18)


s i d e : n a o


 今日コンビニに来て俺に声を掛けた人が、実は全然知らない人じゃなくて、宮田さんだったという衝撃。
 俺の記憶力、ポンコツすぎる…!

 いや、確かに記憶力が悪いのは俺自身もちゃんと分かってたんだよ。分かってたけど、記憶力ないけど、知り合いもいないから、数少ない知り合いのことを忘れるわけない、て思ってたんだよ。
 実際、宮田さんのことはちゃんと覚えてたし。前に徳永さんに連れてってもらったパーティーで、お皿の持ち方とか教えてくれた人ね! ホラ、俺ちゃんと宮田さんのこと覚えてるでしょ!? …顔以外は。

 あー…何で宮田さんの顔、忘れちゃってたんだろ…。
 しかも、徳永さんが宮田さんのこと『ミヤ』て呼ぶから、最初、本気で何のことか全然分かんなかったもんね。そういえば、パーティーのとき、そう呼んでたっけ…。

「…どうする? ホントにミヤに電話していい?」

 徳永さんに腕を引かれてリビングに戻って来ると、徳永さんがスマホを手に、俺に尋ねて来た。俺が、どうしても宮田さんに謝る! て言い張ったから。
 徳永さんには迷惑を掛けちゃうけど、これはやっぱりちゃんと謝らないといけないことだと思う。
 問題は、どうやって宮田さんがあんまりショックを受けないように話をするかだ。宮田さんに怒られたり嫌われたりするのは仕方ないけど、宮田さんが悪いわけじゃないのに、傷付けるのはよくない。

「俺が説明しよっか?」
「徳永さんが?」
「別に特別なこと言うわけじゃないけど、直央くんがうまく話せない、て言うなら、代わりに話してもいいよ?」

 俺が返事をしないでたら、徳永さんがそう提案して来たけど、そんなことまで人任せにするのも、どうかと思う。
 でも、口下手な俺が話すより、徳永さんが話したほうがちゃんと伝わって、宮田さんもそんなにショックを受けないかもしんないし…。

「…電話やめとく?」
「やめない!」

 それだけは譲れなくて、即答する。
 徳永さんは、困ったように肩を竦めた。そりゃそうだ。電話はするって言ってんのに、どうやって宮田さんに説明するのか、その部分が全然決められないでるんだから。

「やっぱ俺が説明しよっか?」
「え!」

 俺がどうしようか悩みまくって、答えられないでたら、徳永さんが一方的にそう決めてしまった。
 見兼ねちゃったのかな。それとももう面倒くさくなったのかな。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (19)


「どうせ、電話掛けて最初に喋るの、俺じゃん? その流れで説明して、それで直央くんに代わるから、そしたら直央くん、自分の言葉で説明すればいいじゃん。そうすれば、ミヤも何の話か分かってるから、直央くんの説明が下手くそでも、あ、うまく喋れなくても、」
「…下手くそでいいです」

 徳永さんの本音が垣間見えた…。
 でも、焦っちゃうと全然うまく説明できなくなるのは自分でも分かってるから、突っ込まないけど。

「…直央くんがうまく説明できなくても、ミヤは話の意味が分かるだろうから、そのほうがいいかな、て思って」

 優しい徳永さんは、『下手くそ』のほうに言い直すことはしなかった。
 徳永さんのその優しさが、俺をダメにしていくんじゃないの? もっと厳しくしてよ!

「でも、もし徳永さんが説明してて宮田さんが怒り出したら、すぐに電話代わってね?」
「は? 怒り出したら、て…」
「俺が宮田さんの顔忘れてたの知って、宮田さんが怒り出したら、すぐ代わって!」
「いや、そんなことで怒んねぇと思うけど……何でそのタイミングで直央くんに代わるの? むしろ代わらないままのほうがいいんじゃね?」
「ダメ! 怒られなきゃなんないのは俺なんだから、電話代わんなかったら、徳永さんが怒られちゃうじゃん!」
「あー…なるほどね…」

 徳永さんは、そんなことで宮田さんは怒らない、て言うけど、分かんないじゃん。
 友だちとして、宮田さんはそんなに器の小さい男じゃない、て言いたいんだと思うけど、俺だって宮田さんのことをそんな小さい男だと思って言ったわけじゃないけど、でも顔を忘れられてた、て言ったら、やっぱり怒るんじゃないかなと思う。

「じゃあ、掛けるよ?」

 徳永さんはそう言ってから、スマホを操作し始めた。
 いつもすごく不思議に思うけど、スマホって何でボタンがないのに、あの画面を触っただけで電話繋がるんだろう。すごいなぁ。…なんて思いながら、ソファの上で、徳永さんとの距離を詰める。電話が繋がったら、宮田さんの声が聞こえるようにだ。
 宮田さんが怒り出したらすぐに電話を代わって、て言ったけど、徳永さんは優しいから、もしかしたら俺にばれないように電話を代わらないかもしれない。だから、宮田さんが何を言ってるかしっかり聞いて、何かあったら、無理やりにでもすぐ代わるんだ!

「――――もしもし、ミヤ? 今いい?」
『いいけど? 何? 仁、今家じゃねぇの?」
「は? 家だけど?」
『いや、だって電話とかしてくっから。直央くんと一緒じゃねぇの? 俺に何か電話してていいわけ?』

 宮田さんの声はそんなに大きくなくて、あんまり聞き取れないから、俺はもっと徳永さんにくっ付いて、電話に耳を寄せる。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (20)


「いや、一緒だけど! ちょちょっと待って、直央くん、ちょっと待って」
「ぅ?」

 徳永さんが『ちょっと待って』て言うの、宮田さんに言ってるのかと思ったら、俺に言ってるみたいだった。どうしたんだろ。もしかして俺に聞かれたくない話するのかな?

「俺が聞いちゃいけない話するならあっち行ってるけど……でも俺の話になったらちゃんと呼んでね!」
「違う違う違う! 違うから、ちょっと待って!」

 ソファを降りて向こうに行こうとしたら、徳永さんに腕を掴まれて引き戻された。
 …違うの? てか、電話…。

「ここにいていい、ここにいていいんだけど…」

 『いいんだけど』何かあるのかな、て思ったのに、徳永さんはそれ以上言って来ない。
 何か、顔赤い?

『おーい、仁ー。おーい、どうしたー?』

 スマホから、宮田さんの声がする。
 徳永さんが急に話をやめたから呼び掛けてるみたいだけど、このくらい大きい声で喋ってくれたら聞こえるのに。

「…………」

 徳永さんが『ここにいていい』て言ったから、とりあえずソファの上に戻る。
 相変わらず、電話の向こうからは宮田さんの声がしてる。

「あー…えっとさぁ…」
『何だよ。てか、直央くんいるの? 代わってよ。お前なんかより、直央くんと喋りたいんだけど』
「代わるけど! その前にさぁ、ちょっと話あんだけど、聞いてくんね?」
『何だよ?』

 話があると徳永さんが切り出したので、俺はその話を聞いたときの宮田さんの反応がより聞こえるように、徳永さんの側に寄った。
 徳永さんがチラッと俺を見たけど、俺には特に何も言わず、宮田さんとの話を続けた。

「お前、今日直央くんに会っただろ? つか、会いに行っただろ? 直央くんが仕事してるとこまで」
『行ったけど?』

 徳永さんがまた俺を見る。
 話すよ? て確認の意味だと思ったから、俺はコクンと頷いた。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (21)


「いや、それが…、えーっと…」

 確認されて頷いたのに、徳永さんは何だか口籠っちゃって、はっきりと話してくれない。
 もしかして、『話さないほうがいい?』て意味で俺のこと見たのかな? いや、話してよ! て、徳永さんの腕を引っ張った。

「……はっきり言っちゃっていいんだよね?」

 徳永さんがスマホを口元から離して、俺に向かって尋ねて来たので、コクコクと頷いた。
 そりゃ、なるべく宮田さんを嫌な気持ちにさせない言い方がいいけれど、言うことははっきり言ってもらわないと困る。それで宮田さんが怒ったら、素直に謝って怒られようと思う。

「あー…あのさぁ、ミヤ、今日お前、直央くんに会っただろ?」
『会ったってば。何回聞くんだよ、信じろよ』
「いや、それはもう嫌ってほど信じてるんだけど…、その、何て言うか…、直央くん、お前のことは知ってんだよ? 前にパーティーで会ったじゃん? それはちゃんと分かってんだよ」
『ぅん?』
「何だけど、その、何か、お前の顔だけを忘れちゃってたみたいで…」
『……………………』

 徳永さんは、何だかちょっとモゴモゴしたような感じで、でもはっきりと、今日の俺の失態を宮田さんに伝えてくれた。
 電話の向こうが静かになる。小さい声で、何か言ってるのかもしれないと思って、俺はさらに徳永さんにくっ付いて電話に耳を寄せたけど、宮田さんは何も言ってないみたいだ。
 何で??
 …………はっ! もしかして、怒りのあまり、声も出ないんじゃ…!?

「徳永さん、電話代わっ…」
『……ブッ…………はっはっはっはっはっはっはっ!!!』
「…………え?」

 宮田さんが怒り出したら、電話代わってもらわなきゃ、徳永さんが怒られちゃう! て思って、徳永さんから電話を受け取ろうとしたら、なぜか聞こえて来たのは、電話の向こうの笑い声。
 …え? 宮田さん、笑ってる?

 俺はわけが分からなくて、電話に手を伸ばしたまま、それを受け取ることも出来ずに固まった。
 さすがにこれだけ笑ってて、実は内心怒ってる、なんてことはないと思うけど…………でも宮田さんはよく分からない人だから、もしかしたら笑いながらも心では怒ってるのかも。
 どっちにしても、電話を代わってもらって、宮田さんに謝らないと!

「徳永さん、電話、でん…」
『あっはっはっ、やっぱりねー!』
「…………え?」



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (22)


 宮田さんの言葉に、俺は2度目の思考停止。
 …やっぱり?
 どういうこと? て思って徳永さんを見たけど、徳永さんも何か分かってない様子。お友だちの徳永さんですら分かんないことは、俺にも分かんないよ!!
 全然意味分かんないでいる俺らを置いてきぼりに、宮田さんは、『そうじゃないかと思ってたんだよねー』なんて言ってる。え、そうじゃないかと思ってたの!?

「え? え? 何? お前、気付いてたの? マジで? 何で?」

 やっぱり徳永さんも、宮田さんの言葉にビックリしてたみたいで、何回も聞き返してる。

『だってさぁ、直央くん、すっごいキョトンとした顔してんだもん。これ、絶対俺のこと分かってねぇな、て思うよね』
「…お前、分かってて名前言わなかったのかよ」
『直央くんが、必死に俺のこと分かってるふうにしてるのがかわいかったから』
「お前なぁ」

 ガーン…。
 確かに、宮田さんに声を掛けられたとき、向こうは俺のこと知ってる感じだったけど、俺にしたら知らない人だと思ってたから、でもそれじゃ失礼だと思って、がんばって知らないでいることがばれないようにしてたのに。
 全部バレバレだったの? 俺、絶対にばれてない自信があったのに。恥ずかしい…!

『なぁ、直央くんいるんだろ? 代われよー。お前なんかより、直央くんと話したいー』
「…………」

 宮田さんの言葉に、徳永さんが無言で俺のほうにスマホを差し出してきた。
 俺も宮田さんに謝るべく、電話を代わってくれって徳永さんにお願いしてたから代わるけど、でも、宮田さんの反応が、俺の想像してたのと違うから、ちょっと…………どうしよう…。

「直央くん、嫌なら無理しなくていいんだよ?」

 徳永さんはそう言ってくれたけど、俺は首を振ってスマホを受け取った。嫌だとかそういう問題じゃないし。
 それよりも、スマホ、どうやったらいいかよく分かんないんだけど…。これ、喋るのとこがないみたいに見えるけど、普通の電話みたいにして喋ればいいんだよね? 徳永さんがしてたみたいにすればいいんだよね?

「も…もしも…」
『直央く~ん!』
「…………」

 俺が緊張しながら喋り出したら、『もしもし』を言い終わらないうちに宮田さんが話し掛けて来た。
 …うん。いくら俺がバカでも分かる。宮田さんは怒ってない。
 いや、これで実は本当は怒ってるなら、宮田さんは相当演技が上手だ。でも、そこまでして怒ってることを隠しても意味がないから、やっぱり怒ってはいないんだろう。
 どうしよう、予想外の展開だ。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (23)


『久しぶり~、ていうか、半日ぶり? 直央くんにしたら、数か月ぶり? ミヤさんだよー、覚えてるー?』
「は…はぁ…」

 謝らなきゃ、て思うのに、謝るタイミングを掴めない…。
 というか、喋り出すタイミングすら掴めない。

『ホントに覚えてる~?』
「え、お覚えてます…」

 宮田さんのことは覚えてる。パーティーでお世話になった人だし。
 ただ、ちょっと顔があやふやになってたというか、何ていうかな、あの…。

『では、ここで問題です』
「え?」
『今日、コンビニで直央くんに声を掛けた人は、誰でしょ~かっ?』
「……宮田さん」
『ピンポーン、正解でーす』

 ………………。
 何これ。
 常々、セレブて変な人だなぁ、て思ってるけど……いや、『変』ていう言い方はよくないな。何か、何て言うか、よく分かんねぇなぁ、て思ってるけど、宮田さんは特にそんな感じだ。
 パーティーで会ったときも、ちょっとおもしろかったもんね。

 そんなおもしろい人を忘れちゃってたなんて。…いや、忘れてないけど。忘れたのは顔だけね、顔だけ。
 だって、そのパーティーで1回しか会ったことない人が、俺なんかに会いにわざわざコンビニまで来るとは思わないじゃん。来られたって、違う人だと思うじゃん。

 でもまぁそれは俺の言い訳に過ぎないから、それは宮田さんには言わないで、素直に謝るだけにしよう。
 問題は、どうやったら謝罪の言葉を口に出来るか、だ。謝るタイミングが全然ない。

「あ、あの、宮田さっ…」
『ちょっとちょっと、直央くん』
「え? あ、はい?」

 よし、謝るぞ! て思って、気合入れて宮田さんに声を掛けたら、またも言い終わらないうちに遮られてしまった。
 謝るどころか、会話にならない…。

『俺のこと、『ミヤ』て呼んで、て言ったじゃ~ん。それも忘れちゃったの?』
「え、えと…」

 今日会ったときはそんな話にはならなかった(はず)だから、前のパーティーのときでのことだろう。
 正直、覚えてない。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (24)


『仁のこと、『仁』て呼ぶようになったら、俺のことも『ミヤ』て呼んでくれるって言ったじゃーん。まさか、まだ仁のこと、『徳永さん』て呼んでんの?』
「は…はぁ…」

 宮田さんとそんな約束したことはさっぱり覚えてないけど、徳永さんのことは相変わらず『徳永さん』て呼んでるから、宮田さんのことを『ミヤ』と呼ばないのはセーフだ。
 それよりも、謝らせて。宮田さん、俺に謝らせてください。

「あの、宮田さん!」
『ん?』

 今度こそ宮田さんに遮られないよう、俺は声を大きくして宮田さんを呼んだ。

「今日は本当にすみませんでしたっ! うわっ」
『え? 何が?』

 言葉だけじゃなくって、謝るために頭を下げたら、声の大きさに比例して勢いが付いたみたいで、頭を下げた拍子にそのまま前につんのめってソファから落ち掛けた。
 徳永さんが支えてくれたから無事だったけど、徳永さん、すごいビックリした顔してる。俺もすごいビックリしたよ…。

『それって何の謝罪?』

 多分、俺の『うわっ』て声は電話の向こうまで聞こえてただろうに、宮田さんはそれには全然触れて来ない。いや、別に触れなくてもいいけど…………いいんだ?

「えと、だからその…、宮田さんのこと忘れて……たわけじゃないけどっ、あのっ、えーっと…、えー……今日コンビニでお会いしましたが、あの、おすすめの飲み物を聞かれましたが、実は知らない人に声を掛けられたと思っていました、から」

 よし! さっき1回言うのを練習してたおかげで、ちゃんと説明できた!
 …て思ったのに。

『何か直央くん、来日したての外国人みたい』
「は?」

 何か…ちょっと宮田さんが何言ってんのか分かんないけど、どうも俺が思ってるほどにはちゃんと宮田さんに説明できてなかったみたいだ。…俺の言ったこと、通じなかったのかな。
 てか、『は?』とか言っちゃった。

「あの…、宮田さん?」
『ねぇねぇ、それよりもさぁ』
「え? え?」

 そ…それよりも?
 いや、今俺がちゃんと謝ること以外に、他に何かある?
 どうしよう……意味が分かんない。



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「…直央くん、ちょっと貸して?」

 どうしていいか分かんなくて、とりあえず徳永さんを見たら(俺よりも宮田さんのことをよく知ってるから、どうしたらいいか分かると思って…)、徳永さんにそう言われたので、素直にスマホを徳永さんに渡した。

「おい、ミヤ、あんま直央くんを困らせるな」
『何だよ、仁。何で代わるんだよ。お前の声とか聞きたくないんだけど』
「うるせぇよ、もう切るぞ」
「ちょっダメ!」
「あ、直央くん!」

 せっかく徳永さんに代わってもらったけど、でも徳永さんが『切る』とか言うから、俺はスマホを奪い返した。まだちゃんと謝ってないんだから、切っちゃダメ!
 いや、俺はちゃんと謝ったんだけど、宮田さんに伝わってる感じが全然しないんだもん。

「宮田さんっ!」
『あ、直央くんになった』
「今日のこと! 本当にゴメンなさいっ!」
『今日のこと? あぁ、直央くんが俺の顔、すっかり忘れちゃってたこと?』
「う…」

 さっきはサラッと流したのに、今度はしっかりと言って来るあたり……やっぱり宮田さん、相当怒ってたのかな…。
 宮田さんがちゃんと話聞いてくれないから、つい声を大きくしちゃったけど、今の俺は、そんな立場じゃなかった。

「あの、それはホントに…」
『別にそんなに必死に謝んなくてもいいのにー。まぁ、おかげで直央くんから電話来たから、ラッキーだけど』
「いや、そんな、ラッキーとかそういうことじゃなくて…。あの、すみません…」
『何でそんなに謝んの?』
「だって、すごく申し訳ないし…」
『ふぅん?』

 最初はテンション高かった宮田さんだけど、俺が謝れば謝るほど、何だかテンションが下がってってる感じがする。
 段々と、俺の仕出かしたことに腹が立って来たのかな。怒らせたくはないけれど、怒っても仕方のないことはしたわけだし、しょうがないよね…。

『そっかー、直央くん、そんなに申し訳ないと思ってたんだー』
「え、えぇ、まぁ…」
『ふーん、そっかーそっかー』
「…宮田さん?」

 何となく押し付けがましいようにも聞こえる宮田さんの口調に、何だか嫌な予感がして来る。
 だって宮田さん、変な感じの人だもん。あのパーティーのときも、お皿の持ち方とかいろいろ教えてくれて、いい人だったけど、何かおもしろかったもんね。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (26)


『じゃあさ、もう俺の顔を忘れないように、ケータイの待ち受け、俺の写真にしてよー、送るから』
「…………え?」

 予想どおり、宮田さんがおもしろいことを言って来た。
 待ち受け、て……ケータイの待ち受けを、宮田さんの写真にするの? は? 何の意味があって? あ、意味はあるのか。宮田さんの顔を忘れないために、ていう。

『ね。仁の写真なんかやめて、俺のにしてよー』

 いや、別に徳永さんの写真にもしてないし。かわいいワンちゃんの写真だよ。
 この待ち受けの写真、すごく気に入ってるけど、でも宮田さんがそうしろて言うなら、しないとダメだよね…。だって今回の件は、絶対に俺に非があるわけだし。
 でももし宮田さんの写真にしたとして、それって一体いつまでなんだろう。俺が宮田さんの顔を覚えるまで? でもそんなの、どうやって判断するの? まだ覚えてなくても、もう覚えた、て言っちゃったら、それまでじゃない?
 逆に、俺が本当に宮田さんの顔を覚えたとしても、宮田さんが、まだまだ、て言ったら、いつまでも俺は宮田さんの写真を待ち受けにしてなきゃいけない。
 俺は頭が悪くて、覚えも悪いから、もしかしたら、ずっと宮田さんの写真を待ち受けにしたままにしとかなきゃいけないかもしれない。うぅ…ワンちゃん…。

「…………………………」
『直央くん? おーい、直央くーん?』

 もうあのワンちゃんともお別れなのかと思ったら、すごく悲しくなって来た…。

「おい、ミヤ、お前、直央くんに何言ったんだよ」

 宮田さんに呼び掛けられても返事できないでいたら、徳永さんが俺の手からスマホを取って、代わりに話し始めた。

『何、て…』
「直央くん、めっちゃ泣きそうなんだけど!」
『えっ、何で!?』
「だから、それを俺が聞いてんだよ! お前、何言ったんだよ!」
『えー! 泣かすようなことなんか言ってないし! ケータイの待ち受け、俺の写真にしてよー、て言っただけだし。そんな…泣くほど嫌なんて…………俺だって傷付く…』
「知るかよ! つか、何でお前の写真なんだよ!」

 俺は、徳永さんが宮田さんと話してる間に、自分の携帯電話を持って来る。
 このワンちゃんの写真にしたのはずっと前で、しかも徳永さんがやってくれたから、正直、待ち受け画面の変え方なんて知らない。徳永さんにやってもらわないと。
 あ、そもそも宮田さんの写真なんか持ってないや。そういえばさっき、送るって言ってたっけ。じゃあ、送ってもらわないと…。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (27)


「…徳永さん」

 徳永さんはまだ宮田さんとお話してる途中だったけど、電話を切る前に写真を送ってもらうように言わないと。

「あぁ、直央くん、ちょっと待ってね、」
「…写真…」
「え?」
「写真…………宮田さんの写真を待ち受けに……」

 俺は下を向いたまま、携帯電話を徳永さんに差し出した。
 自分の力では出来ないから、徳永さんにやってもらわないと…。そして、宮田さんに写真を送ってくれるように、言ってもらわないと…。

「いや、直央くん、いいんだよ。別にミヤの写真なんか待ち受けにしなくたって」

 徳永さんはそう言ってくれたけど、俺は首を振った。
 だって、宮田さんがそうしろって言ったし、しないわけにはいかない。

『直央くーん! 直央くん、直央くん!! そんなにヤダった!? 俺のこと、泣くほど嫌いなの!? ねぇ直央くーん!! 泣かないでよー!!』

 徳永さんが持ってるスマホから、宮田さんの声がする。徳永さんが耳から離してるせいもあるだろうけど、多分、電話の向こうで宮田さんが相当デカい声を出してるんだろう。
 てか、別に宮田さんのことを嫌いだとは思ってない。変な人だとは思ってるけど。そして、泣いてない。

「…宮田さん、俺は一体いつまで宮田さんの写真を待ち受けにしてたらいいんでしょうか」
『えっ!? いや、嫌ならそんな無理に、あの、冗談だからさ、』

 俺は徳永さんからスマホを受け取って、再び宮田さんと話をする。

「…大丈夫です。宮田さんの顔、忘れてた俺が悪いんだし。ただ俺は今、待ち受け画面をすごくかわいいワンちゃんにしてて、それがすごく気に入っているので、いつかはそれに戻したい…」
『そ…そうなの?? 俺のこと嫌いすぎて泣いてんじゃないの?』
「泣いてないです。それに、別に宮田さんのことは嫌いじゃないです」

 何でか宮田さんは、俺が泣いてると思ってるみたいだから、それは否定しておく。あと、別に嫌ってもいないから、それも言っておく。ただ、変な人だとは思ってるけど、それはまぁ言わなくていいだろう。

『えと…、じゃあ、俺の写真を待ち受けにするのが嫌ていうより、待ち受けがそのワンちゃんの写真でなくなるのが嫌だってこと?』
「…大丈夫なので、宮田さんの写真を送ってください」

 本当は宮田さんの言うとおりなんだけど、でもそれはさすがに肯定できないので、返事をする代わりに話を進めた。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (28)


『…いや、やっぱいーや、待ち受け変えなくても』
「でも!」

 宮田さんの突然の心変わりに、俺は反論する。
 俺は別に泣いてないけど、宮田さんは俺が泣いてると思ってるみたいだから、それで何かかわいそうに思えて来て、待ち受け画面を変えなくてもいい、て言ってくれたに違いない。
 優しい人だから。

『いや、いいよ変えなくて。かわいいワンちゃんなんでしょ? 仁が待ち受けになってんなら、そんなのやめて俺のにしてよー! て思ったけど、ワンちゃんには敵わないからね』
「でも…」
『その代わり!』
「はい!」

 何かワンちゃんから待ち受けを変えなくてもいい感じになって来て、『でも…』なんて言いながら、俺がちょっと嬉しくなって来てたら、見透かしたように宮田さんが『その代わり!』て言って来たから、緊張してすぐに返事をした。
 何かすごい代わりの条件とかを言われるのかな。どうしよう…。

「な…何ですか…?」
『次会ったときも俺の顔忘れてたら、今度こそ絶対俺の写真、待ち受けにさせるからね』
「絶対忘れません! 一生!」

 どんな条件を言われるのかとドキドキしてたら、思ったよりも簡単なことだったから、すぐに返事をした。
 簡単な…て言っても、俺、頭が悪いから、ホントに絶対一生忘れずにいられるかは心配だけど、でも今回の反省から、絶対に忘れない! ていう気持ちはすごくあるから。

『一生忘れないー? 俺の顔』
「はい、忘れません! 宮田さんの顔!」
『ホントに忘れない?』
「ホントに忘れません!」

 宮田さんが何回も聞いて来るから、やっぱ俺の言葉なんてそう簡単に信じないよね、だって今日完全に忘れてたわけだし…て思うけど、信じてほしくて、力いっぱい返事した。

『約束だからねー?』
「はい! 約束しま…………あっ!」

 約束します、て言い終わる前に、徳永さんが俺の手からスマホを取っちゃうから、ビックリして振り返ったら、「じゃあな、ミヤ、バイバイ」とか言って、徳永さんが勝手に電話を切っちゃった。
 まだ話してる途中だったのに、何で!

「徳永さん! ちょ、電話、まだっ……もしもし? もしもーし……あぁっ!」

 徳永さんからスマホを取り返してはみたものの、画面は真っ黒。
 電話を切ったように見えたけれど、もしかしたらまだ繋がってるかなーて思って呼び掛けてみても電話の向こうは静かだし、徳永さんみたくスマホの画面を触ってみても、何も反応しない。
 うぅ~…ホントに切れちゃったんだ…。



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世界はほんの少しの溜め息で出来ている (29)


「ひどい、徳永さん!」
「ひどいのは直央くんでしょ。いつまでミヤと話してんの。しかも絶対忘れないとか、何の約束してんの」
「宮田さんの顔忘れない約束」
「いや、それは分かってっけど」

 え、『何の約束してんの?』て聞いて来たから、答えたのに…。
 電話の向こうの宮田さんの声が聞こえなかったから、俺が宮田さんと何の約束したか分かんなくて聞いて来たんじゃないの? 聞こえてたの? 宮田さん、声おっきかったもんな。

「だって俺、宮田さんの顔忘れちゃってたから。もう忘れません、て約束しなきゃ、宮田さん許してくれないでしょ?」
「そんな、許さないとか…」
「あ、ちが、別に俺、宮田さんのこと、器が小さいとか思ってるわけじゃなくて、宮田さんのこと忘れちゃってたのが悪いと思ってたからで…」

 そうだよね、自分の友だちが、俺なんかにそんなふうに思われてたら悲しいもんね。
 でも俺は本当に、宮田さんがそんな小っちゃい男だとは思ってないよ。変な人だけど、すごくいい人だったし。

「いや、別に直央くんがミヤのことを小せぇ男だな、て思ってたって全然いいんだけど。じゃなくて! ミヤのこともいいけど、俺のこともちょっとは考えて、てこと!」
「え、徳永さんのこと?」

 急に徳永さんのこととか登場して、何が何だか分かんなくなる。徳永さんのことはもちろん考えてるけど、今は俺が宮田さんのことを忘れちゃってた話だから…。
 てか、俺が宮田さんのこと、小さい男だと思っててもいいの?
 徳永さんの話が見えてこない…。

「もう、そんな。恋人が目の前で他の男と約束取り付けてる姿見て、ムカつかないヤツなんて、この世にいないでしょうが」
「は?」

 思わず『は?』て言っちゃったけど……いや、これはそう言っちゃうよね。本当にゴメンなさいだけど、ちょっとだけ『何言ってんの、徳永さん』て思っちゃった。
 だって、いや確かに俺は今、宮田さんと約束を交わしたけど、それは俺が宮田さんの顔をもう忘れない、ていう約束で、今日すっかり宮田さんのことを忘れちゃってた俺としては、当然の約束のような気がするんだけど…。

「それにね、今度宮田さんの顔忘れたら、今度こそホントにケータイの待ち受け、宮田さんの写真にしないとだから」
「何で!」
「宮田さんがそう言ってた」
「いや、それ、そんなに素直に言うこと聞かないでよ、お願いだから」

 徳永さんがすごい溜め息をつきながら、項垂れた。何で?
 待ち受けを変えたくないから、宮田さんの顔を絶対忘れないようにしようとしてるだけなのに。

「あー、分かった! 分かったから、直央くん!」
「ぅん?」
「ミヤの顔は絶対に忘れなくていいから、今度ミヤが直央くんに会いに来ても、絶対に無視してよね!」
「…何で?」

 分かってて無視するほうが、よりタチが悪い感じなのに…………何で??
 セレブって、やっぱ意味分かんねぇ。



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*END*



 タイトルは明日から。
 でもよく考えたら、前にこのタイトル使ったことある…。
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今週中には更新します。


 いつも恋三昧にお越しいただき、誠にありがとうございます。
 『世界はほんの少しの~』が終わって以来、音沙汰なく更新せずに申し訳ありません。
 ただいま仕事が忙しく、思うように執筆できていない現状です。
 今週中には次のお話を更新できるはずですので、どうかお待ちください。
 またしばらくは、1つのお話が終わった後、少しお休みをいただいてから次のお話を更新する、というような状態が続くかもしれません。
 不甲斐ない更新状況で大変申し訳ありませんが、恋三昧のこと、呆れず見捨てずいてくれたら嬉しいです。
 今後も恋三昧をよろしくお願いいたします。
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くだらない明日にドロップキック (1)


 どうして。


「はぁっ…、あっ、あ、純平…!」


 一体どうして。


「あ、ぁ、イク…、ああぁっ…!」


 ――――どうしてこんなことに。



 純平はもう何度も何度も自問していたけれど、答えは一向に出て来なかった。分かっているのは、今自分の下で喘いでいるのが、板屋越なつめだということだけだ。
 いや、だからこそ、分からないのだ。一体どうして自分は、その彼と、今こうしてセックスしているのか――――。











 板屋越は純平の弟である央のクラス担任だが、授業参観だの面談だのは両親の役目だから、純平は板屋越に会ったこともなければ、顔も名前もろくに知らなかった。央から先生に対する不満を聞いたことがないので、いい先生なのだろうとは思っていたが、そのくらいだ。
 その彼と実際に対面したのは、会社帰りに寄った居酒屋だった。同じ会社の先輩である槇村と逢坂に誘われて向かった居酒屋には先客がいて、それが板屋越だったのだ。

 3人が到着すると、板屋越は卓上のメニュースタンドから顔を上げ、「遅いわ、ボケ」と毒づいた。それに逢坂が、「だから、お前が早すぎるんだ」と突っ込み、「お前、ホント、生徒より先に学校出て来てるんじゃね? 毎回毎回」と槇村が続けた。
 その会話から純平は、板屋越が学校勤務だと察したが、だからといって、彼が央のクラス担任だとは思っていなかった。そんな繋がりを想像しろというほうが無理な話だった。何しろこのとき板屋越とは初対面であり、槇村と逢坂からは自分たちの友人であること以外の情報を与えられていなかったのだから。



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