恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2016年05月

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どうしたって、君には敵わない (1)


 電話が鳴ったとき、真大は自分の部屋で課題に取り組んでいるところで、今日はそろそろ終わりにしようか、なんて思っているところでもあった。
 ディスプレイに表示されたのは恋人の名前だったが、普段ならコミュニケーションアプリでのやり取りが殆どで、電話なんてめったにないことだから、意外に思いつつも真大はスマホを手にした。

『あ、よかった、真大――――』

 そして眉を顰めた。
 表示されたのは確かに翔真の名前だったけれど、受話口から聞こえて来たのは翔真の声ではなく、彼と同じバイト先で働く安喜隼人のものだったのだ。それだけで嫌な予感がする。

『ちょぉー、何ではやとが電話してんのぉ?』

 ……………………。

 隼人の言葉が続くのかと思いきや、次に聞こえて来たのは愛しの恋人の声だったが、しかし真大は今までに、こんなに甘ったるく語尾を伸ばした翔真の声を聞いたことがなかった。
 こめかみの辺りがひく付く。

『ちょっショウ、大人しくしてろ!』

 静かにしろと隼人が翔真を注意したが、電話の向こうは、ちょっと翔真が声を大きくしたくらいでは気にも留められないくらいざわついているのが、電話越しにでも分かる。
 誰かの家で騒いでいるのではない、もっと大勢の人がいる空間であることと、翔真の酔っ払った声色から察するに、そこは居酒屋かどこかなのだろう。それともクラブとか?
 こめかみだけでなく、口元も引き攣る。

『真大、あのな、今ショウと…』
『まひろぉ』
『ショウっ!』

 隼人が真大に向かって喋ろうとするたび、翔真がそれを邪魔するものだから、てんで会話にならない。
 真大の苛立ちは募ったが、深呼吸して、何とか気持ちを落ち着かせる。真大も翔真を誘っていたのに、それよりも隼人を優先したというなら、苛立つのもやむを得ないが、今日はそうではない。
 翔真が隼人と飲んでいたからといって、無防備に酔っ払っているからといって、いちいち何か言うのは、狭量な男のすることだ。
 別に真大は翔真の行動に制限を掛ける気もないし、どこで誰と飲もうと構わないし、クラブだろうと何だろうと行きたければ行けばいいと思う…………うん、もちろん素直にそう思う。思ってる。思ってるけれど!!

「…何?」

 予想以上に低い声……ではない、思ったとおりの低い声が、真大の口から漏れた。



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どうしたって、君には敵わない (2)


『悪ぃ、真大! ちょぉ迎え来てくんね!?』
「行きますよ。行くに決まってるじゃないですか。行かないとでも思ってるんですか?」

 真大より隼人のほうが年上だが、真大は普段から隼人に敬語など使ったことはない。それが、今この状況でわざわざそんな調子で喋るあたり、真大の怒り具合が窺い知れる。
 とはいえ、隼人だって気は短いほうだし、どこかの組で先陣を切って敵に乗り込んでいきそうな見た目どおり、優しく甘いだけの男ではない。こんな言い方をされたら、普段だったら『あぁ? 何言ってだ?』とキレて凄んで来るところなのに、今日に限っては、

『で…す、よねー…』

 と、乾いた笑みとともに、そんな返事を寄越しただけだった。
 もちろん、そんなことで真大の機嫌が治るはずもない。

「それで? どこに行けばいいんですか?」
『あ、えっとー…』

 飽くまでも敬語を続ける真大に、隼人はたじろぎながら居場所を告げた。
 年下の真大に敬語を使われてビクつくなんて、一体全体どうかしていると思うけれど、今の真大の声色は、実際の彼を目の前にしていなくても、かなりの威圧感があったのだ。

「…すぐに行きますから、くれぐれもよろしくお願いしますね」

 一段と低い声でそう言った真大は、隼人の返事を聞く前に電話を切って立ち上がった。



*****

 隼人が告げたのは、有り難いことに派手なクラブではなく、駅に近いチェーンの居酒屋で、真大は正直ホッとしていた。
 恋人が酔い潰れてホッとする場所など、この世のどこにも存在はしないけれど、クラブよりは大衆居酒屋のほうがまだ安心できるし、迎えにも行きやすい。
 電車に揺られながら、真大は若干の安堵感を覚えつつも、まだ翔真の状態を確認したわけではない状況に、ギュッと気を引き締める。

 大体、隼人も隼人だ。翔真があんなにベロベロになるまで飲ませるなんて。
 電話の時点で問い詰めてやろうかと思ったが、それよりも早く迎えに行きたくて、手短に電話を切ったものだから、真大の隼人に対する怒りは、未だに燻り続けているのだ。

 いや、隼人ばかりを責められないことは、真大も分かっている。
 翔真は、決して酒に弱いわけではない。少なくとも真大よりは断然強い。しかし隼人はそれ以上に強いのだ。一緒に飲んだことのある真大は、そのことをよく知っている。
 そして翔真も、隼人が強いことを知っているから、一緒に飲むときは自分のペースを守って飲んでいる。『俺の酒が飲めないのか』的な、考え方の古いノリのシチュエーションではないのだ。
 それなのに今日こういう展開になったのは、恐らく翔真自身の問題だ。きっと楽しくて、隼人につられて、同じように飲んでしまったに違いない。



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どうしたって、君には敵わない (3)


 だから、電話で隼人に怒れなかったし、文句だって言えなかったのだ。
 それでも隠し切れない苛立ちを声に滲ませてしまったのは、翔真がそこまでの状態になる前に、どうして止めてくれなかったのかという思いがあったからだ。

「あーもうっ!」

 駅を飛び出ると、真大は目的のビルへダッシュした。
 ここは真大の普段の行動範囲の中にはなかったが、翔真と隼人のバイト先から最寄りの駅だから、何度か足を運んだことがあって、隼人に言われた店も、地図アプリなんか開かなくたってすぐに分かるのだ。

 嬉しくないことにエレヴェータは最上階に停まっていて、真大は1つ舌打ちをする。
 今のうちに、もうすぐ着くと電話でも入れようか…なんて思ってスマホを取り出せば、逆に翔真から――――いや、翔真の番号からの着信がいくつかあった。
 どうせ早く来いという隼人からの催促の電話だろう。
 真大はあえて掛け直すことはせず、ようやく到着したエレヴェータに乗り込んだ。

 エレヴェータの扉が開くと、両手にジョッキを抱えた店員が「いらっしゃいませ~!」と元気よく挨拶し、さらに別の店員が、「何名様ですか~!」と飛んで来る。

「いえ、ツレがもう来てて…」

 と言ったところで、真大はこのそこそこ広いフロアの中で、翔真と隼人を探すのは厄介だな、気付く。
 見通しよくテーブルが並べられているわけではなく、それぞれの席が仕切られているから、もし自力で翔真たちを探すとなったら、その一つひとつを覗いていかなければならないのだ。

「あー……えっと、電話してみますね?」

 店員に翔真や隼人の名前を言ったところで、案内してもらえるとは思えない。それよりかは自分で隼人に電話して場所を聞いたほうが、はるかに速そうだ。
 真大は店員に会釈しつつ、スマホを取り出す。着信を知らせるランプが点滅している。そういえばさっき電話があったんだっけ。もしかして、自分たちの席を伝えたくて電話して来たんだろうか。
 1度のコールが終わらないうちに、電話は繋がった。

「もしも…」
『おっそい! どこいんだよっ! 早く来いよ!』
「………………」

 騒がしい店内でも、はっきりと耳に届く隼人からの暴言。静めていた怒りが再燃しそうだ。
 というか、いくら店の中がうるさくても、これだけ大きな声を出せば、周りにも聞こえるだろうし、悪い意味で注目を集めそう。



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どうしたって、君には敵わない (4)


「…今、店の中にいるんですけどね。あなたたちの席が分かんないから」
『あっ…』

 真大がゆっくりとそう言うと、隼人が焦ったように声を漏らした。
 どうやら先ほどの着信も、まだ来ない真大への文句を言うためだったようだ。

『あー、えーっと、こっち、右の奥のほう…』

 隼人がエレヴェータのところまで迎えに来てくれたら早いのに…と思うが、酔っ払った翔真がいるので、そうもいかないのだろう。
 真大は店員さんに頭を下げてから、隼人の下手くそな誘導に従って店内を進む。1つ角を折れたところで、スマホを片手に、立ち上がって手を振る隼人を発見した。
 真大は電話を切ると、駆け出しはしないが、ぐんぐんと足を進めて隼人のもとに向かう。

「どーも」
「お…おぅ…」

 真大がニコリともせずに声を掛けると、隼人はビクリと肩を震わせた。
 隼人だって、凄めばそれなりに迫力のある見た目はしているものの、どうしても真大には勝てない。こんなかわいい顔をした、年下の男には敵わないのだ。

「一応、どうしたの? て聞いておこっかな」

 ベンチ式になっている席で横になっている翔真は、もう完全に熟睡しているようだった。最初の電話の後、真大を待っている間に寝てしまったのだろう。
 先ほどの電話で聞いた声だけでも、翔真がいかに酔っ払っていたか分かるが、まだ電車も動いている時間に、酔い潰れて寝てしまうのだから、本当に飲み過ぎているに違いない。

「――――隼人くん、」
「あ、えっとー…、いやっ、普通に飲んで話してたんだよ、ホントっ」
「別にそんなの、初めてじゃないでしょ? なのに何でこんなことになっちゃうわけ?」
「それはー…」

 はっきりしない隼人の返事に、今度こそ真大は苛立ちを隠さず、翔真が寝ているベンチの隅に腰を下ろした。
 すぐにでも翔真を連れて帰るつもりだったが、これは隼人にしっかり理由を聞かなければ帰れない。聞かずに帰ったら、絶対にこのままはぐらかされるに決まっている。
 真大は眼だけで隼人に座るよう促す。あの隼人が大人しく素直に言うことを聞くあたり、真大に対して申し訳ないという気持ちが少なからずあるのだろう。

「いや、あのっ、話が弾んだというか…」
「ふーん」
「…………すいません……」



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どうしたって、君には敵わない (5)


 冷ややかな真大の視線に、隼人は縮こまって謝罪の言葉を口にした。そのままこんな状況になった理由を言えばいいのに、隼人はそのまま口を噤んでしまう。
 早く話せと促すことも出来たが、言わなくても真大は何となく事の次第を察した。
 話が弾んだ、つまり翔真がおもしろがって飲酒のペースが上がる話題で、隼人が口籠りたくなること――――つまりは隼人の片想い人、湊の話に決まっている。

「もういい加減、湊くんに告白してよ、隼人くん」
「ッ!!!」

 真大の言葉に、隼人は弾かれたように顔を上げた。

「違うの? そういう話してたんでしょ? 翔真くんと」
「ち…ちがっ…」
「まぁいいけど」

 否定のような言葉も一瞬聞こえたけれど、この態度はどう見ても肯定のものでしかない。絶対に理由を聞いてやる、と思っていたけれど、言わなくてもこれだけ分かりやすい態度を取られたら、聞くまでもない。
 これ以上隼人から答えを引き出そうとするのは時間の無駄だと思い、真大は話を切り上げると、隼人のほうに手を差し出した。手のひらを上に向けて。

「…何だよ」
「タクシー代」
「はっ?」

 当然のように要求して来た真大に、さすがに隼人も嫌そうに顔を歪めた。
 しかしそんなことで真大が怯むはずもなく、不機嫌そうに続ける。

「こんな状態の翔真くん連れて、電車乗れるわけないでしょ? 嫌なら、隼人くんが連れて帰ってよ」

 わざわざ迎えに来て、しかもこんな状態の翔真を目の当たりにして、今さら隼人に連れて帰らせるつもりなどもちろんないのだが、そうでも言わなければ、隼人がタクシー代を出してくれそうもないので。

「………………」

 しばらくの対峙の後、折れたのは隼人で、渋々という表情は崩さずに財布から5千円札を取り出して、真大に握らせた。

「そんな顔すんなら、俺のこと呼ばなきゃいいのに」

 遠慮することなくそれを受け取って、真大は追い打ちを掛けるようにそんなことを言う。
 こんな状態の翔真が、自分以外の男の家に連れて行かれるのは、それはそれで十分大事なのだが、隼人だって翔真の友人なのだから、真大にタクシー代を渡すのが嫌なら、自分で翔真を連れて帰ればいいのだ。



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どうしたって、君には敵わない (6)


「しょーがないだろ! コイツがお前に電話しろ、てうるせぇからっ。会いたいとかほざきやがって。そうじゃなかったら、お前になんか電話するかっ」
「……」

 苛立たしげに言う隼人の言葉を聞いて、しかし真大は逆ににんまりする。
 そうか、翔真が真大に会いたいと言ったのなら仕方がない。うん、それは仕方がない。翔真はもう寝てしまっているけれど、それなら来た甲斐があった。
 こんなことで機嫌を直すなんて、単純だとは分かっている。でもやっぱり嬉しいじゃないか。

「翔真くん、翔真くーん、帰るよ」
「…ぅ…」
「翔真くーん」
「……うぅ…ん…」

 真大が肩を揺さぶると、わずかに翔真が反応する。
 たとえ隼人の奢りでタクシーに乗れるとしても、そこまでは何とか自力で歩いてもらわないと。もちろん真大も肩は貸すけれど、さすがに正体をなくした翔真を抱き上げたり背負ったりするのは、無理があるから。
 いや、背負うくらいだったら、やれなくはないか? でも、翔真は上背もあるし、何度も裸を見ているから分かるけれど、結構筋肉もあるから、背負うのも厳しそう…。

「………………。翔真くん、起きないと犯すよ? 今ここでアダッ」

 翔真の耳元で物騒なことを囁いた真大の頭は、即座に隼人に叩かれる。それも、結構な力で。
 会計伝票を手にした隼人が、真大の背後にいたのだ。

「こんなとこで何言ってんだ、お前はっ…!」
「別に聞こえないでしょ、こんだけうるさいんだから」

 しれっと言い返して、真大はわずかに目を開けた翔真を抱き起こす。どうやら肝心なセリフは、隼人にしか届かなかったらしい。

「………………まひろぉ……?」
「そうだよ翔真くん起きて。帰るから」
「んー…………」

 まだ半分以上寝惚けている翔真に肩を貸して、真大は席を立った。
 これは多分、自分で真大に会いたいと言ったこと自体を忘れているパターンだとは思ったけれど、今はそれを追及しても仕方がないので、真大は翔真を連れて隼人の後に続く。
 ここに来て何の飲み食いもしていない真大は、もちろん会計で1円たりとも出すつもりはないけれど、隼人は先ほど真大にタクシー代を渡してくれたから、そのせいで会計が足らなかったら気まずいというか、後々面倒くさいというか、まぁ一応隼人を気遣う気持ちもわずかながらあるので、真大は先にエレヴェータに乗り込むことはせず、隼人を待っていた。

「ホントに…」
「後で翔真くんに請求すればいいじゃん、半分」
「当たり前だ、ボケッ」

 どうやら隼人の持ち合わせだけで何とか足りたようで、ブツブツ言いながらも隼人は財布をしまっている。



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どうしたって、君には敵わない (7)


「だからさぁー、さっきも言ったけど、隼人くんがさっさと湊くんに告って付き合っちゃえばいいだけの話でしょ?」
「なっ」

 到着したエレヴェータが空だったのをいいことに、真大は乗り込むと先ほどの話を再開させた。
 大層慌てる隼人に構わず、真大は話を続ける。

「別に翔真くんと飲むなとは言わないけど、酔い潰すほど飲ませて、挙げ句の果てに帰るに帰れなくなって俺のこと呼ぶとか、もうマジやめてよね」
「いや、ちょっ、それは悪かったとは思ってるけど、それとそのっ、アイツが何の関係があんだよっ」
「隼人くんがいつまでもそんなだから、翔真くんがおもしろがっちゃうんでしょ」
「知るか、アホッ」
「翔真くんじゃなくて、湊くんのこと誘いなよ、メシー」
「ッ、、、」

 決定打を貰って、隼人は言葉を詰まらせた。
 そんなこと改めて真大に言われなくても、隼人だって十二分に分かっている。翔真と飲むのは楽しいけれど、目の前に座っているのが湊だったら…と思わないわけではないのだ。

「じゃあね、隼人くん。ホラ翔真くん、タクシー乗って!」

 一応起きているらしいがフラフラの翔真をタクシーに押し込むと、まだ何か言いたそうにしている隼人に手を振って、真大はタクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げた。

「……ん…」
「翔真くん? 大丈夫? 気持ち悪いとかないよね?」

 寄り掛かっていた翔真がわずかに身じろいだので、真大は心配して声を掛けた。
 力の入っていない翔真は重たかったし、早く家に連れて帰りたいのもあったから、さっさとタクシーに乗ってしまったけれど、水の1本くらい買ってくればよかった。

「ちょっ…」

 翔真の体がぐらりと傾いて、真大が焦る間もなく、真大のももの上に翔真の頭が乗っかった。
 一瞬、何が起こったか分からなかったけれど、とりあえず声だけは何とか抑えられたので、よしとしておく。ただでさえ酔っ払い連れだ、運転手に迷惑な客だと思われたくない。

「…翔真くん?」

 そっと顔を覗き込んでみれば、翔真は目を閉じていて、どうやらすぐに寝てしまったらしい。

「…ったく」

 真大はぼやくふりをして、その頬を指でつついた。



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どうしたって、君には敵わない (8)


 正直、家に着いてからのほうが地獄だった。
 店を出るときはエレヴェータがあったし、翔真も一応起きていたから何とか連れ出せたけれど、翔真はタクシーの中で完全に寝てしまったし、真大の部屋は2階だけれどエレヴェータがあるわけではないから、ここに来てまさかの、翔真を背負って階段を上る、というハードな筋トレをするはめになったのだ。

「重っ……死ぬ…」

 女の子相手には、さすがに『重い』などとはっきり口にすることはないが、筋肉のある男の体は冗談でなく重たくて、真大は足元をふらつかせながら、1歩ずつ階段を上る。
 とにかく翔真を落とさないように、そして自分が階段から落ちないように、早く部屋に向かわなければ。

「はぁっ…はぁっ…。もぉ隼人くんっ…、絶対許さないんだからっ…」

 それでも怒りの矛先が翔真に向かわないあたりが、愛情だろうか。
 ようやく部屋の前まで辿り着き、翔真を背負ったままの厳しい姿勢で鍵を出す。

「…………ぅ、…………」
「えぇっ?」
「……ん、まひろ…?」
「ちょっ」

 何とか真大が鍵を開けて部屋の中に入ると、本当に今さらというタイミングで翔真が目を開けた。
 別にそれを責めることなんて何1つないんだけれど、せめてあと5分早く…! とはどうしても思ってしまう。

「翔真くん? 起きた? 大丈夫?」
「…う、ん……」
「はぁっ、もうっ」

 真大は翔真をベッドに寝かせた。
 今までに酔っ払った同級生の面倒を見たことは何度かあって、そういうときは床の上にぞんざいに放り出しておくんだけれど、さすがに恋人にそんな真似は出来ない。
 口では文句を言いながらも、真大は心配そうに翔真の顔を覗き込んだ。蒼褪めているとか、具合悪そうな感じがあるとかではなくてホッとするが、とりあえず水くらいは飲ませないと。

 しかし、冷蔵庫を開けても、水分補給になりそうな品はなく。
 水道の水で十分だとは思うけれど、それをコップに汲んで翔真に渡したところで、零さず飲めるとも思えない。ベッドが濡れるのも困るし…。

「翔真くん、水買って来るから、ちょっと待ってて」

 コンビニよりも近くに自動販売機があるから、すぐに行って来れる。
 酔っ払っているとはいえ、数分目を離すくらいなら大丈夫だろう、と真大は財布を手にする――――と。

「ちょっ、翔真くんっ…」

 目を覚ましたとはいえ、意識がそれほどはっきりしているとは思っていなかったのに、ベッドを離れようとした真大の腕を、翔真が掴んだ。



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どうしたって、君には敵わない (9)


「ね、ちょっ、翔真くん、離して」
「……や…」
「水買って来るだけだから、すぐ来るから」
「ヤダ、行かないで」
「、」

 酔っ払いの言葉に深い意味があるなんて思っていないけれど、ベッドの上でそんなセリフを言われたら、理性がどこかにサヨナラしてしまいそうになるから、勘弁してほしい。
 ただでさえ今は、アルコールのせいで、変な色気が漂ってるし。

「翔真く…………ちょっ!」

 酔っ払いのどこにそんな力があるのか、いや、酔っているからこそ力の加減が出来ないのか、翔真が真大の腕を引っ張って、油断していた真大はそのままベッドに倒れ込んだ。

「翔真くんっ!」
「あはは」

 反射的に反対の手をベッドに突いたおかげで、翔真の上に勢いのまま倒れることだけは避けられたけれど、声を荒げる真大に対して、翔真は何とものん気に笑っている。

「危ないよ、もぉ。離して翔真くん」
「何で~?」
「何でじゃないよ、ホントに…」

 くすくす笑っている酔っ払いに、溜め息をつきたくなる。
 行くなと言うなら、水を買いに行くのは諦めるから、とにかく腕を離してほしい。起き上がらせてほしい。だって今のままじゃ、まるで翔真のことを押し倒しているみたいだ。
 いや、自分たちはもうそういう関係の2人だから、真大が翔真を押し倒していたって特に問題はないんだけれど、さすがにこれだけ酔っている翔真と、このままセックスするというのは気が引けるというか…。

「まひろぉ~」
「ちょっ! うわっ」

 なのに翔真は、そんな真大の気持ちも理性も知らずに、掴んでいた腕を引っ張り、さらには反対側の腕を真大の背中に回して抱き付いて来た。
 り…理性が…。

「重い~…」
「翔真くんが引っ張るからでしょ!」
「あははは」

 一見するとクールな印象を与えがちな翔真だが、酒が入ると、ちょっとかわいい感じというか、幼い感じになるのは真大も前から知っていたけれど、アルコール量が増えると、ここまでになるのか…。
 これ、今は相手が真大だからいいけれど、誰彼なくこんな調子じゃないよね? と少しばかり不安を覚える。
 そもそも翔真がここまで酔っ払うということ自体がそうないことだから、年がら年中気を揉んでいなければならないわけではないけれど、少なくとも隼人と飲むときに、こうなり得るということだ。



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どうしたって、君には敵わない (10)


「翔真くん、いい加減にしないと、このまま襲っちゃうよ?」

 翔真を迎えに行った居酒屋でも、もちろん冗談だが、起きなければ犯すと宣告しているのだ。少しは危機感を持ってもらいたい。

「襲うの? 真大が? 俺を?」

 しかし、真大の想いとは裏腹に、翔真は無邪気に笑っている。
 はぁ~…、これだから酔っ払いは…!

「ちょっ、んっ…」

 もう全然分かっていない翔真の唇を、そのまま塞ぐ。翔真の瞳が、驚きで丸くなる。本当に襲うとは思ってなかった?
 けれど、一瞬だけ翔真の手が真大の体を押しただけで、後は大した抵抗もなく真大の舌を受け入れた。

「ん、ぅ…」

 アルコールの味のする翔真の口の中を味わいながら、真大は体勢を立て直して、シャツの裾から手を滑り込ませる。

「まひろぉ…? するのぉ?」
「するよ。襲う、て言ったでしょ?」

 もちろん最初は本気で言ったわけではないけれど、ここまで来たら止まれない。
 なのに翔真は、もぞもぞと身じろぎ出して――――あ、嫌な予感。

「だめ」

 やっぱり!
 真大は天を仰ぎたくなった。
 これだから酔っ払いは…! と再び真大は思ったけれど、しかし真大の嫌な予感は、今度こそ的中しなかった。いや、ある意味、的中したと言えるのか。

「俺がまひろのこと襲う」
「はい? ちょっイダッ!」

 しっかりと翔真のことを押し倒していたはずなのに、あっさりと翔真は身を起こすと、そのまま真大の体を仰向けに倒した。
 形勢逆転とは、まさにこのことを言うのだろう。翔真に伸し掛かられて、真大は身動きが取れない。

「ちょっ翔真くんっ!」
「んふふ」

 にぃ~と口に大きく笑みを浮かべると、翔真は真大の抵抗をものともせず、素早く真大のジーンズの前を寛げると、下着の上から下腹部を撫でた。



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どうしたって、君には敵わない (11)


「翔真くん、マジでっ…」
「何がぁ?」

 焦る真大にお構いなしに、翔真は体の位置をずらすと、真大の下着のゴムを引っ張って脱がしに掛かる。
 真大は上体を起こして逃げようとしたけれど、それより早く、翔真が露わになったそれを口に含んだ。

「あ、ッ…」

 どうしてこうなった!? と真大は必死に考えるが、そんなのまったく分からないし、気持ちいいし、もう何か全部どうでもよくなってくる。悔しいけれど、翔真のフェラは上手い。
 時々上目で真大の表情を窺いながら、翔真は高ぶったそれに舌を這わせる。

「…ん、ちゅ…ん、」
「ちょ、翔真くん…、ヤバ、いって…」

 意外でも何でもなく翔真はセックスが好きだし、フェラも好きだから、うまいのは認める。認めるけれど。

「まひろ、ひもちいぃ?」
「いいっ、いいから、ちょっ…」

 酔ったらフェラのテクが上がるとか、そんなわけないだろうけど、あっという間に持っていかれそうになる。ちょっ…こんなに早いとか、恥ずかしいんですけど!
 なのに翔真は、一向にその手を緩めてくれない。

「ちょっお願……翔真くんっ…!」

 離してくれ、と真大は翔真の頭に手を置いてみたけれど、さすがにその髪を掴んで強引に引っ張るわけにもいかず、真大はもう少し手を伸ばして翔真の肩を掴んで押しやった。

「…んだよ」

 引き剥がされて、翔真は不満そうに顔を上げる。しかし片手はまだ真大のモノを掴んだままだ。
 何て言うか……人質を取られている気分…。

「いや…、マジでイキそう、だから…」

 その目力で睨まれると、別に真大が何か悪いわけではないのに、悪いことをしたような気分になって来て、思わずしどろもどろに答えてしまう。
 しかしそれは、翔真にとってはなぜか満足のいく答えだったらしく、にんまりと笑みを浮かべた(相手が恋人なのであまり言いたくはないが、それはおよそ人のよさそうな笑みとは言い難い…)。



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どうしたって、君には敵わない (12)


「イキたかったらイケばいいじゃん」
「あっ」

 さらりと男前にそうのたまって、翔真は真大の手を払うと、再びそこに顔をうずめた。
 いや、イキそうだって言ってるのに、銜えないで!
 だって、このままじゃ…

「ッ、ちょっ待っ……」
「ん…、ぅん…」
「…………っ……」

 さっき翔真の顔を離したのだって、真大がイキそうだったからだ。翔真にだって、はっきりとそう言った。だから、真大は悪くない――――翔真の口の中に出したからといって。
 でも。

「あーーーーゴメン! ゴメンゴメンゴメン!!」

 ハッと我に返った真大は、全力で翔真に謝る。別に初めてのことではないけれど、やっぱり申し訳ない。
 真大は慌ててティシューを探して翔真に差し出そうとしたが、残念ながらティシューは手の届かない位置にあって、『あぁっ…!』と真大が絶望にも似た気持ちを抱いている間に、翔真の喉が上下した。

「…ん、」

 離せと言ったのに、いや実際に1度は離したのに、それでも再び真大のモノを口に含んだ翔真は、酔っていたとはいえ、分かっていてやったわけで、特に気を悪くした風はない。
 むしろご丁寧に、唇の端に付いていた精液をベロリと舐める始末だ。

「もぉ…、翔真くん…」
「あはは」

 肩を落とす真大を前に、相変わらず翔真はのん気に笑っている。
 とりあえずティシューは諦めて、真大は体勢を立て直した。今は翔真の勢いに負けて押し倒されてしまったけれど、これ以上好き勝手にはさせない。

「翔真くんっ」
「あはははは」

 真大は翔真の肩に手を置く。
 相変わらず翔真は笑いっ放しだ。何がおかしいのか……酔っ払いの心境は、素面のときには分かりかねる。というか、こんな笑い上戸だったっけ?

(いや…、フェラしてゴックンした後に、そんなに笑われると…)

 何というか、いろんな意味で複雑な心境になるが、もしかしたら真大の考えすぎかもしれないと思い直しておく。
 でないと、いくらハートの強い真大でも、ちょっと凹みそう…。



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どうしたって、君には敵わない (13)


「あは、は…」
「ん? 翔真くん?」
「はは…………は……」
「ちょっ翔真くんっ!」

 いくら何でも笑い過ぎ! と真大が突っ込もうと思った矢先、翔真の体が真大のほうにぐらりと傾いた。
 また押し倒されるのかと真大が身構える間もなく、翔真の体が真大の胸に倒れ込んで来た。

「翔真く…………ん?」

 凭れ掛って来たきり動かなくなった翔真を不審に思い、真大はそっと顔を覗き込む。
 どこかに頭をぶつけたとかはないはずだけれど…………

「………………寝てるし…………」

 酔っているから、いつ寝てもおかしくはないけれど(居酒屋にいたときも、タクシーの中でも、寝たくらいだし)、でもまさかこのタイミングで寝てしまうとは…。
 とはいえ、襲うとか言ったのは飽くまでも言葉の綾で、最初から酔っ払い相手にセックスなんてするつもりもなかったし、なのにフェラまでしてもらって、真大としては思いがけずラッキーだったわけだけれど。
 でも。

 でも…。

「何でここで寝るんだよ~!!」

 いや、1度は精を放ったわけで、すっきりしていると言えばすっきりしているんだけれど、でも、これからでしょ!? 夜はこれからでしょ!? と突っ込みたい気持ちも、どうしても消せない。

「はぁ~~~~もうっ!!!」

 それでもと思って、何度か翔真の肩を揺すってみたものの、何の反応もなく。真大はガシガシと頭を掻くと、すっかり寝入っている翔真を、今度こそ健全な気持ちでベッドに寝かせてやる。
 中途半端に脱がされたジーンズを直し、先ほどは手の届かなかったティシューを掴むと、真大は、まだうっすらと汚れている翔真の口元を拭ってやった。
 フェラして口の中に出されたんだから、きっとうがいとかしないと気持ち悪いだろうけど、寝てしまったらそれも無理だから、これで勘弁してもらいたい。

「…ったく」

 人の気も知らないで、翔真はすっかり眠りこけている。
 真大は溜め息を1つ零して、その唇にキスをした。

「次はないんだからね!」



*****

 …翌朝、目を覚ました翔真が蒼褪めたのは、また別のお話。



*END*



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タイトルは明日から。自給自足。
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