恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2016年06月

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彼の愛情表現は分かりづらい (1)


yamato & chihiro

 千尋は相変わらず筋肉大好き、鍛えるの大好きで、最近ではジムに通い出したり、ボディビルの雑誌を買っては、その筋肉を眺めてうっとりしたりしているんだけれど(…)、体作りには欠かせない食事については、てんで改善する気はないらしく、これまた相変わらずいい加減な食生活を送っていた。
 いや、栄養のバランスだけを言ったら、それなりに考えているようにも見えるが、何しろ殆ど料理をしない千尋の食事は、外で済ませるか、出来合いのものを買って来る、といった具合なのだ。

 恋人が出来たら、おいしい手作り料理を食べてもらいたいから、苦手な料理も練習して、がんばっちゃう! …みたいな少女漫画を地で行くのが遥希なら、そういう発想を微塵も持ち合わせていないのが千尋だ。
 それでも一応、料理らしいことはしないでもないのだが、しなくていいなら絶対にしない、とはっきり公言しているくらいで、千尋の性格はもう十分に分かっている大和は、千尋の家に行く前には、ちょっと何かを買っていくようにしている。

 千尋は、コンビニ弁当だろうと、スーパーのお総菜コーナーだろうと、そこそこ名の知れたお高めのデリカテッセンだろうと、気にするのはカロリーくらいで、味なんて腹に入れば同じと思っているから、買い物なんてある意味すごく簡単なのに、それでも大和は、千尋が喜びそうなものは何かと頭を悩ませてしまうのだから、大和の思考は、どちらかというと遥希寄りなのかもしれない。

(いや…、ちーちゃんが極端すぎるだけだね)

 結局、自分も食べたいから、という理由で選んだホテルのデリカテッセンの袋を手にした大和は、千尋の家に到着して、ダイニングのテーブルを目にした瞬間、その想いを確信した。
 大和が千尋の家で食事をするとなったとき、何か買って来るのはもう定番だったが、千尋が一応何か用意してくれているのも定番だった。
 それは、仕事帰りに買ってきた出来合いのもののときもあれば、自分で簡単に作ったもののときもあるんだけれど、本日のメニューは、想像の斜め上を行っていた。
 今、テーブルの上にドン! と鎮座ましましているのは、ピラミッド状に積み上げられた豆腐の山だった。

「これは…」

 大和は絶句し、手にしていた袋を床に落としそうになったが、何とかそれは堪えた。
 一応、豆腐は一丁のものを切り分けてあるし、頂点には薬味のネギが乗っているから、冷奴、ということなのだろうが、どうしてわざわざ積んだのか、よく崩さなかったよね!? と、突っ込みたいところは多々ある。

「ちーちゃん、あの…」
「うわっ、ちょーうまそう何これ!」

 大和に冷奴ピラミッドについて尋ねる隙を与えず、すぐさま大和の持っていたデリカテッセンの袋に飛び付いた。
 味には少しもうるさくない千尋だけれど、でもやっぱりおいしいもののほうがいいし、大和が持って来るものは、いつだってすごくおいしいのを知っているから。
 それはともかく、『何これ』は大和のセリフだ、間違いなく。


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彼の愛情表現は分かりづらい (2)


「ねぇちーちゃん、それよりこれ……」
「え?」

 嬉しそうにプラスチックの蓋を開けていた千尋に声を掛けると、一応顔は上げてくれたものの、『何が?』という表情で、自分が用意していた冷奴のピラミッドなどまったく眼中にない様子だ。

「いや、これ…………何?」
「豆腐」
「…………」

 千尋がわざわざ用意してくれていたものに対して、『何?』という言い方はないな…と、言ってすぐに大和は後悔したけれど、千尋はまったく気にしたふうもなく、あっさりと分かり切った答えをくれた。
 うん、これは豆腐だ。
 けれど、切って薬味を乗せるだけとはいえ、冷奴だって料理の一つだというのに、冷奴ではなく、『豆腐』と答えるあたり…。

「何でこんなふうに積んじゃったわけ?」
「おもしろいかなぁ、て思って。おもしろかったでしょ?」
「う…うん…」

 シレッとそんなことを言う千尋に、どんな返事が正解なのか一瞬悩んだけれど、とりあえず素直に頷いておいた。
 崩れやすい豆腐を、わざわざピラミッド状に積む労力と比例したおもしろさがあるかどうかは分かりかねるが、千尋の苦労を蔑にするほど、つまらないものではない。
 というか、懸命に豆腐を積んでいた千尋を想像するほうがおもしろい。

「大和くん何飲む? ビール? チューハイ? 日本酒? ワイン? シャンパン? 何でもあるよん」
「いや、ちょ…、何でそんなにいろいろあんの?」

 千尋がビールと缶チューハイを常備しているのは大和も知っていたが、いつの間にかバリエーションが増えている。しかも、どれにする? と千尋が両手に掲げたのは、ワインとシャンパンの決して小さくはないボトルだ。

「日本酒は貰った。ワインも。シャンパンは、こないだ仕事の飲みで飲んだときに、『すっごいおいしいですね~!』てゆったら、ん~…………貰った」
「貰った、て…」

 それは『貢がせた』の間違いなのでは? と突っ込みたくなったけれど、大和は何とか堪えた。
 千尋にも仕事上の付き合いがあって、その中には飲み会だってあるだろうけれど、すごくおいしいと褒めたくらいでシャンパンを貰える状況て……深く考えないほうがいいヤツだ。

「でもこれ、すっごくおいしかったよ? 開けちゃおっか?」
「え、でも飲み切れないでしょ、この量」

 シャンパンは抜栓後、その日のうちに飲み切ったほうがいいと言われているし、シャンパンストッパーできちんと蓋をしても、風味を保っておいしく飲める限度は2~3日だ。
 今日これから開けて、2人で飲み切れる量では、絶対にない。



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彼の愛情表現は分かりづらい (3)


「でもさぁ、そんなこと言ったら一生開けらんないし。だって飲むとしたら、俺1人か、俺と大和くんの2人か、俺とハルちゃんの2人かのどれかでしょ? いつ開けんの?」
「まぁ…」
「ねっ、だから飲も? 大丈夫、飲み切れなくないよ」

 千尋の想定している、一緒にシャンパンを開ける人が、大和以外は遥希しかいないことに、ある意味ホッとしたけれど、しかし、どのパターンでも千尋が酔い潰れること必至なところが危ない。

「でも俺、明日朝から仕事だから、そんなに飲めないよ」
「俺も朝から仕事だよ? 大丈夫大丈夫、シャンパンくらいで酔っ払わないって」
「ちょっと待って、ちーちゃん。どの口がそんなこと言ってんの」

 そもそもシャンパンは、アルコール度数が最低でも11%はあるのだ。一般的にビールが4~6%くらいだから、それと比べたって、十分度数は高い。
 大体千尋は、初めて大和と飲んだクリスマスイブのホテルでもシャンパンで潰れたくせに、『酔っ払わない』だなんて、よく言えたものだ。

「ぐふふ」

 しかし千尋はもう取り合う気はないようで、楽しげにグラスを用意している。
 これはもう諦めて、付き合うしかなさそうだ。

「これ、アレだよね、氷の中に突っ込んどいたほうがいいんだよね? ホントは」
「でもちーちゃん、ずっと冷蔵庫に入れてたんでしょ? なら冷えてるから大丈夫だよ」
「そう?」

 冷蔵庫よりも、氷を入れたシャンパンクーラーに入れておいたほうが、すぐに適温になるけれど、ずっと冷蔵庫に入れていたのなら、十分冷えているだろう。

「でも、氷の中に突っ込んでたほうが、カッコよくない?」
「そもそもちーちゃん、持ってるの? シャンパンクーラー」
「持ってない。何かそれっぽいの、バケツ……はないし、…………洗面器?」
「それ、カッコいいかな?」

 千尋の場合、冷やすためでなく、カッコいいから、という理由でシャンパンクーラーを使いたがっているようなのに、代用品が洗面器では、全然格好がつかない。もちろん、バケツでも。
 まぁいっか、と軽口を叩きながら、千尋がキャップシールを剥がし始めている。それを見ていた大和は、ハッとした。

「ちょっと待った! 待った、ちーちゃん!」
「…何?」
「ちーちゃん、シャンパンの開け方、分かるの?」

 急に止められて、千尋は怪訝そうに眉を寄せたが、大和は根本的な、そして大変なことに気が付いたのだ――――シャンパンを開けようとしている千尋の手が、全然コルク栓を押さえようとしていない。
 まだキャップシールを剥がしただけだから大丈夫だけれど、針金を外すとなったら、栓が飛ばないように押さえておかないと危ないのに。



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彼の愛情表現は分かりづらい (4)


「開け方? これ取って、ポーンてすればいいんでしょ?」
「絶対やめて」

 やっぱり分かってなかった! と大和は、千尋の手をシャンパンボトルから離させた。
 千尋が言った『これ』とはコルクを固定している針金のことで、千尋はその針金を外した後、何かのセレモニーかシャンパンファイトのようなイメージで、栓を飛ばそうとしていたのだ。

「壁とか当たったら、穴開いちゃうから」
「そうなの? そんなに? ポーンてしないの?」
「ガラスとか蛍光灯とか当たったら、超危ないよ」

 キョトンと小首を傾げている千尋は、本当に何も分かっていないのだろう。危険すぎる。

「じゃあどうやんの?」
「え、ちーちゃんやる? 俺、代わろっか?」

 前に仕事でシャンパンの開け方を教わったことがあるから、格好よくスマートにとまではいかずとも、少なくとも安全に開けることなら出来る。

「ん~…、じゃあお願い」

 自分でやる! と意地を張るかと思ったのに、意外にも千尋はあっさりと抜栓の役目を大和に譲った。多分もう面倒くさくなっているのだろう。
 大和はボトルを傾けて持つと、栓を押さえながら針金を外す。千尋が興味深そうに大和の手元を覗き込んで来るから、危なくないようにボトルの先を千尋から背けた。そして、ゆっくりとボトルを回して、コルクを傾けながら徐々にガスを抜く。

「…開いたよ」

 よく冷えていたおかげもあって、開けた途端にシャンパンが噴き出すこともなかったので、大和は内心ホッとした。
 シャンパンは栓を飛ばして開けるものだと思っていたくらいの千尋だから、大和のそんな安堵感などきっと気付かないはずで、何とか様になっているように見えただろう。

「はいっ!」

 さっそく千尋が嬉しそうにグラスを差し出してくる。細かいことを言っても千尋は分からないだろうし、面倒くさがるだけだろうから、大和は何も言わず、どのグラスにシャンパンを注いでやった。

「あ、」
「ん?」

 自分のグラスにも注ぎ始めたら千尋が声を上げたから、視線を上げると、千尋がこちらに手を伸ばしていた。もしかしたら、大和のグラスに注いであげるつもりだったのだろうか。
 けれど、千尋が手を伸ばして来たときには、もうすでにグラスの半分くらいまで注がれていて、千尋は大和と目を合わせた後、おずおずと手を引っ込めた。
 大和は少し笑って、ボトルを置いた。



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彼の愛情表現は分かりづらい (5)


「乾杯する?」
「何に?」

 シャンパンを開けたからといって、別にパーティーでも何でもない、ただの夕食だ。千尋が乾杯したいと言うならするけれど、普通に『いただきます』でいいような気もして、大和は聞き返した。

「ん~…、じゃあ…………2人の出会いに」
「いや…、何で急にそんな気障なこと…」

 決め顔を作って、甘い声色でそう言った千尋に、大和は思わず吹き出した。千尋の口元も、笑いを堪えるように歪み始めている。

「乾杯っ!」

 吹き出す前に、千尋が声を張り上げた。
 おもしろいからいいけれど、グラスに口を付けた途端に、半分以上一気に飲むのはやめてもらいたい。こういう飲み方をするから、千尋はすぐに潰れてしまうのだ。

「ちーちゃん、お願いだから、ゆっくり飲んでね?」
「大丈夫、大丈夫。いただきま~す」

 全然まったく何にも信用できない軽い調子でそう言って、大和の買って来たデリカテッセンのメニューに手を付ける。

「うまっ! 何これ、超うまい!」
「そう? よかった」

 素直に喜んでくれる千尋が嬉しいが、その分、シャンパンの進みも速くて、それだけがちょっと心配だ。

「てか、ちーちゃん、喜んでくれて嬉しいんだけどさ、豆腐も食べてよ、豆腐」

 山積みになった豆腐の一番上のものを大和が皿に取ったきりで、千尋はまったく豆腐に手を伸ばしていないから、未だ山は高いままだ。いくら何でも、大和1人で、これだけの豆腐は食べ切れない。

「食べる食べる……てか、取りづらいね、これ」
「ちーちゃんがやったんでしょ。よく積んだよね」
「あっ」

 千尋は、豆腐に箸を刺して皿に取るという暴挙に出たものの、案の定、あっさりと豆腐は砕けて、豆腐の山を崩れ落ちて行った。
 豆腐をそんなに小さく切っていなかったのだから、当然だ。なのに千尋は、崩れた豆腐にさらに箸を刺して取ろうとするから、ますます豆腐はボロボロになっていく。



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彼の愛情表現は分かりづらい (6)


「もぉ~! あ~もうっ」

 ボロボロに崩れた豆腐を、箸で掻き集めるようにして、ようやく皿に入れた千尋は、1人で怒っている。大和は笑いたいのを我慢しながら、そのかわいい様子を眺めていた。

「ちーちゃんのケータイじゃない? 鳴ってるの」

 どこかから聞こえて来たメロディは、聞いただけですぐ着信音と分かるそれだったけれど、千尋は無反応で、しかし大和のものでないのは確かだったから声を掛けてみたのに、千尋はキョトンとしている。

「え、違う?」
「メール。来た」

 大和が首を傾げたら、千尋がシャンパンを飲みながら答えた。自分のスマホがメールを受信したと言いたいのだろう。しかし千尋は、スマホを取りに行くまったく気配を見せず、シャンパングラスを空にした。

「はいっ」
「ちょっ…速いってば」

 大和のほうに空のグラスを差し出すのは、要は大和にシャンパンを注げ、ということなのだろうが、いや、注ぐぐらいいくらでもやるけれど、だからペースが速いってば!

「いいの? 見なくて」

 千尋のグラスにシャンパンを注ぎながら、大和が聞いてみる。
 基本的に、メールもメッセージアプリも、来たら見ることは見るけれど、返信が必要な内容でなかったら見るだけで終わり、というのが千尋のスタンスだ。何の受信もないのは寂しくて耐えられないけれど、返信するのは面倒くさい、というとんでもない性格の持ち主であることは、大和ももう十分に知っている。
 しかし今は、そのメールを見ることすらしていないわけで…。
 大和がいるから、気を遣ってスマホを弄らないようにしている、とか、そんなしおらしい考えからでないことは、大和にも分かる。ただ単に、面倒くさいだけだ。

「いい、いい。どうせハルちゃんだから」
「何で断言できんの」

 大和とて、恋人がスマホに夢中になっているよりは、自分との食事を楽しんでくれているほうが嬉しいけれど、仕事柄…というか、職業病というか、仕事の連絡を見逃したらマズイという気持ちが働いてしまうのだ。

「だって、俺にメール寄越すの、ハルちゃんくらいだもん」

 他はみんなメッセージアプリでやり取りしているから、別に専用の着信音を設けているわけでもないのに、着信音を聞いただけで、遥希のメールだと分かるのだと千尋は続ける。
 なるほど。そういえば、恋人である琉も、そんなこと言っていたっけ。



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彼の愛情表現は分かりづらい (7)


「てか、ハルちゃんだからいい、ていう理由も…」

 遥希からメールも電話も来なくなったら、絶対に寂しくて堪らないくせに、ときどき千尋はこんなふうに遥希に対して『ツン』な態度を取るのだ。

「ん~…、大和くんがそこまで言うなら、見てやるか。しょうがねぇなぁ、ハルちゃんは」

 別に大和は、どうしてもメールをチェックしろ、とまでは言っていないし、遥希も全然しょうがなくないのだが、千尋はとんでもなく上から目線でそう言って、フラフラと立ち上がった。
 その覚束なくなり始めている足取りに、大和はやはりどうしても不安を覚える。

「ん~…、っとに、ハルちゃんてばバカなんだからー」

 スマホ片手に戻って来た千尋は、当然のようにそれに返信することなく投げ出して、新たに注がれたシャンパンに口を付ける。
 どんなメールが来たのかは知らないが、千尋の遥希に対する感想は相変わらずだ。

「…ん、と」

 グラスは手放さずに、千尋がテレビのリモコンを手に取る。
 食事のときはテレビを消して、みたいな食育思考でなく、ただ単にテレビに興味がないだけなのだが、大和が一緒にいるときに、千尋の家でテレビが点いていたことは殆どないから意外だ。
 大和がぼんやりと視線をテレビに向けていたら、ザッピングしているだけと思っていた千尋の手が止まる。画面に映っていたのは、大和だ。

「え?」

 大和が驚いたように声を上げたのは、そのチャンネルで決定したらしく、千尋がリモコンを置いたことではなく、その後にクルリと大和のほうを振り返ったせいだ。

「え、何?」
「ハルちゃんが、見ろって」
「え? ハルちゃん?」

 大和は何も聞いていないのに、先に千尋が答えた。聞きたそうな顔、していただろうか。でも、千尋が大和の表情を窺っていたようにも見えなかったけれど。
 遥希からメールが来たことと、言葉の足りない千尋の断片的なセリフを繋げて考えると、どうやら遥希が、大和の出ている番組を見ろと千尋にメールして来たようだ。
 これで先ほど千尋の『ハルちゃんてばバカなんだからー』というセリフも合点が行った。千尋は、遥希の熱意に対して、こういう物言いをする男だ。

「バカだよねー」
「いや、俺としては同意しづらいけど…」

 バカだとは思わないが、すごい熱意だとは思う。
 琉が出ている番組はもれなく録画し、それだけでは飽き足らず、CMだって確実に押さえる遥希は、紛れもない琉ファンだが、千尋が大和と付き合うようになってから、頼まれてもいないのに、大和だけが出ている番組もチェックして、千尋に知らせて来るのだから。



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彼の愛情表現は分かりづらい (8)


 しかし、遥希のことをバカだバカだと言いながらも、千尋はチャンネルを替えない。グラスを離す気配はまったくないが、リモコンは早々に放り出していた。
 何だかんだ言っても、千尋は最終的には遥希の言うことを聞いてあげるのだ。
 遥希が千尋のことを好きすぎるだけで、千尋は結構遥希のことを冷たくあしらっているように見えるのだが、その実、千尋が遥希のことを大変大事にしているのは、一緒にいると、よく分かる。

「ハルちゃんさぁ、」

 テレビがいったんCMに入ったところで、千尋がグラスを差し出してきた。
 あ、もう空だ。

「ちょっと待って、ちーちゃん」
「ヤダ、待たない」
「待って、待って。ちょっと温くなってきたから、冷たくして飲も?」

 シャンパンは絶対に冷たいほうがおいしいから……というのは、事実だが口実だ。最初の一口目から気が付いていたことだけれど、やっぱり千尋のペースは速すぎる。
 いつの間にか、豆腐もデリメニューもまったく手を付けずに、シャンパンを飲むだけになっていたのだ。

「れーぞーこ、入れるの、零れちゃうよ」
「シャンパンクーラー、ないんだよね?」
「洗面器ならあるけど」
「洗面器…。ボウルは? 大きめの、ある?」

 千尋が、シャンパンクーラーなんかないから、これ以上温くなる前に全部飲んじゃおう! とか言い出さないうちに、大和が先手を打つ。シャンパンクーラーの代用なら、洗面器よりはボウルのほうがマシだ。
 千尋に「その下のところに入ってるから、勝手に出して」と言われて、いくつかあったボウルの中から一番大きいものを取り出すと、たっぷりの氷水を入れて、その中にシャンパンのボトルを沈めた。

「冷蔵庫より、この方が早く冷えるから」
「そーなの?」
「だから、もうちょっと待ってて、てか、もっと豆腐食べて」

 大和はもう3つ目の豆腐を食べているけれど、千尋は、最初に何とか皿に入れたボロボロの豆腐が、まだ残っている。

「んー」
「てか、ハルちゃんが、何?」

 そういえば、先ほど千尋は、グラスを差し出しながら、『ハルちゃんさぁ、』と切り出して来たのだ。
 千尋の飲むペースが速すぎることに気を取られて、忘れかけていた。



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彼の愛情表現は分かりづらい (9)


「ハルちゃん、水落が出てる番組、ぜーんぶ録画してんの」
「うん、知ってる。琉から聞いた」

 だから、苦手なバラエティ番組でも手が抜けない、嫌な顔できない、と琉がよく言っている。
 遥希は、ただ録画するだけでなく、それを何回でも繰り返し見る子なのだ。大好きな遥希に、そんな姿を見せたくない、と琉は心を入れ替えているのだ。

「で、ハルちゃんちで飲んでると、一緒に見よ~、とか言って、その録画したヤツ、見せられる」
「え、そうなの? ハルちゃん…」
「水落が映ってんの見て、何がおもしろいんだっつの」
「でも、一緒に見てあげるんでしょ?」

 口では文句を言いつつ、付き合ってあげている千尋の姿は想像に難くない。今も、散々遥希のことをバカだと言いながら、言うことを聞いてテレビを点けたばかりだ。
 千尋の場合、陰口なんかではなく、本人を前にしても、平気でバカだと口にするタイプだから、状況は今とそう変わらないだろう。

「『見たくない』つってんのにさぁ、『大和くんが一緒に出てるヤツだよ』て。『大和くん出てるんだから、ちーちゃんだって見たいでしょ』てゆうの、ハルちゃん」
「それでちーちゃん、一緒に見てんの?」
「だって、『別に』てゆうと、『別に、て何!?』てうるさいんだもん」

 どこまでも琉大好きな遥希に笑ってしまうが、千尋はそれとは完全に対照的で、琉に興味がないのはともかく、大和が出ていても、そんなに見る気がないところが…。

「ねぇ…、ちーちゃんて、ハルちゃんに一緒に見ようて言われなかったら、俺が出てる番組とか、全然見ないの?」

 そういえば以前、公式ショップに売られているFATEの写真、遥希は千尋のお姉ちゃんと一緒に買いに行って、それを琉に見られて誤解されたことがあるけれど、千尋は大和の写真を買いに行くつもりがないどころか、そもそも欲していないことは、酔った勢いの千尋に断言されたことがあるくらいだ。

「ん~…、そもそも殆どテレビ付けないしー…。テレビ、くだらないのばっかじゃん」
「まぁ…」

 千尋よりは制作側に近い立場にいる大和としては、そこまではっきり言うことは出来ないんだけれど、確かに、今どきのテレビは…、なんて言われることが多いのは、よく分かっている。
 それは、何となく感じ取る雰囲気、というだけでなく、『視聴率』という、ばっちりと目に見える形でも示されているし。



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彼の愛情表現は分かりづらい (10)


 というか、くだらないのばっかりじゃん、とテレビ番組を評した千尋にとって、今見ている番組はどうなんだろう、とちょっと心配になる。
 流行りの芸人さんもたくさん出ていて、賑やかな番組収録だったけれど、普段は歌と演技の仕事が多いFATEの大和にとっては、ちょっとごちゃついた印象だった。
 人より少しでも目立たなければ、いくらその人に才覚があっても、誰の目にも止まらない。みんな売れたくて、少しでも多くテレビに映りたくて、前へ前へ出ようとするから、結果、騒がしいだけの仕上がりになることは多い。出演者が多ければ多いほど。
 そういう中に、畑違いのアイドルが顔を出しても、曖昧に笑っているだけしか出来ないから、実のところ、こういう番組に出演するのは、すごく苦手だ。

(あ、琉の気持ち、分かったわ…)

 遥希ほど念入りにテレビチェックをしない千尋だけれど、まったく完全に見ないわけではなく、今日みたいに遥希に言われてテレビを点けることだってある。
 そのたまにしか見ないテレビ番組で、大和のあまり乗り気でない顔を見られたくはない。
 もちろん、いくら内心では乗り気でないと思っていたって、それを顔に出さないくらいの演技力なら、大和だって持ち合わせているけれど、大和の気持ちの問題として。

「大和くんは?」
「ん? 何が?」

 千尋は、何がおもしろいのか、シャンパンクーラー代わりに氷水を張ったボウルの中に手を突っ込んで、掻き回している。
 テレビ画面では、企画コーナーのVTRが流れていて、大和は映っていない。

「大和くんは、見ないの? 自分が出た番組。録画して」
「録画してまでは…。タイミングが合えば、見たりはするけど」
「水落は? 水落て、自分が出てるの、見ないの?」
「え? 琉?」

 思いがけず千尋の口から琉の名前が出て来て、大和は不思議そうに首を傾げる。
 千尋と琉は犬猿の仲…とまでは言わないが、反りが合わないのは確かで、千尋は、そんな琉をからかったり挑発したりするのを楽しんでいるところはあるが、そういうことでなく、千尋が琉の話題を振って来るのは珍しいと思ったので。

「ハルちゃんが水落に番組の感想……ドラマとかじゃなくて、バラエティかな? 何か感想言ったら、そんなシーンあったっけ? みたいな反応だったらしくてー。見てないのかな、て思っちゃったみたい」
「あー…」
「つか、見てないのかな、て思っちゃっただけで終わればいいけど、ハルちゃんの場合、水落がそんなに見てないなら、あんまり感想とかベラベラ喋って、それ聞かされんの嫌かなぁ!? とか言い出すから」
「ハルちゃんらしー…」



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彼の愛情表現は分かりづらい (11)


 遥希は、品行方正な琉ファンであると同時に、琉第一主義だ。遥希自身はまったくの無自覚のようだが、周りから見ると、必要以上に琉に気を遣いすぎているというか、遠慮しすぎているようなところがある。
 例えば今のテレビの感想の件だって、そんなことくらいで嫌だと思うはずもないだろうに、琉に嫌な思いをさせてたかも…! と1人で勝手に思い込んでしまったのだろう。
 そして、そういうことは、当然琉に直接言えるタイプではないので、相談者の役割が千尋に回って来るというわけだ。

「そんなのどうでもいいわっ! て思うけどさぁ、ハルちゃん、しつこいからぁ」
「じゃあこれからは、積極的に自分の出てる番組見るように、琉に言っとくわ」
「うん。そんで、ハルちゃんの感想もっと聞きたい、一緒に感想語り合おう、てハルちゃんに言うように、水落に言っといて」
「それは…」

 もし本当に琉がそんなことを言って、遥希が真に受けたら、2人でいる間中、琉は自分の出演した番組の感想を語り合い、下手したらそのまま一夜を明かしかねない。
 それはそれで、想像すると大分おもしろいことになっているけれど、それは飽くまでも他人事だから言えることで…………当事者だったら、ちょっと耐えられない。

「俺らも語り明かす? ちょうど大和くん出てるし」
「えー…いいよ、遠慮しとく…」

 自分が出ている番組を、まったく全然見てくれないのは寂しくもあるが、2人で過ごす夜を、自分の出演した番組の感想を語り明かすことに費やしたくはない、とはつい今しがた思ったばかりだ。

「そう? じゃあ静かに見よっか。あ、てか、ねぇ大和くん、1個言っていい?」
「何?」
「手がめっちゃ冷たい」
「…………。だろうねぇ」

 先ほどからずっと手を氷水の中に浸けっ放しなのだ、冷たくなっていることは、言われなくても分かっている。
 そもそも、どうしてそんなところに手を突っ込んだのか、突っ込みそびれていたけれど、今からでも突っ込んでいいだろうか。

「ねぇ、これもぉ冷えたぁ?」

 手が冷たいなら、さっさと氷水の中から出せばいいのに、千尋は手を浸したまま、シャンパンのボトルを掴んでいる。
 というか、やっぱりまだ飲みたいんだね…。

「もー冷たくなくてもいいから、飲むー」
「分かった分かった。だからとりあえず手出して。冷たいんでしょ? あ、待った、タオル! タオルどこ、ちーちゃん」



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彼の愛情表現は分かりづらい (12)


 ようやく氷水の中から出した千尋の手から、ぽたぽたと雫が垂れるのを見て、大和が慌てて千尋を止める。千尋のことだから、絶対にそのままそこらじゅうをビショビショにする。
 千尋が氷水に入れていないほうの手で、『あっちー』とタンスのほうを指差したので、大和はタンスを開けさせてもらって、タオルを取り出した。

「はい、手」
「はーい」

 千尋は大和の持って来たタオルに、素直に手を乗せた。
 子どもみたいな仕草に見えるのは、やはり千尋が酔っ払っているからだろう。

「ちーちゃん、手、めっちゃ冷たくなってるじゃん」
「そうだよ、めっちゃ冷たくなってるよ」

 他人事のように言う千尋の手をタオルで包んで、温めてやる。そんなことをされても千尋は何も言わず、というか、してもらって当然のような顔で、大和を見ている。
 そして、その反対の手には、空のシャンパングラス…。

「はい、どーぞ」

 千尋の手を拭き、そして温めていたタオルでボトルの雫を拭って、千尋のグラスにシャンパンを注いでやる。
 ちょっと加減して注いだほうがいいかぁ…と思って、6分目か7分目くらいまで注いだところで、手を止めて顔を上げたら、『もっと』と言わんばかりの表情の千尋と目が合った。

「だいじょーぶ」
「すっごく疑わしいけど」
「らいじょーぶ、豆腐も食べるから」

 もちろん豆腐だって食べてもらいたいけれど、豆腐を食べるから大丈夫だという理屈がよく分からない。
 何も食べずにアルコールだけを摂取するよりは、何か食べていたほうがいいだろうけれど、千尋の場合、最終的にそれでは済まないほど飲んでしまうから。

「これさぁ!」

 千尋の満足するまで(つまりは満タンに)グラスに注いでやって、大和が自分のグラスもシャンパンを注いでいたら、千尋が声を大きくして、テレビを指差した。
 見れば、筋肉自慢の芸人さんが、周囲に乗せられて、上半身裸になっているところだった。
 あぁこれは、千尋の筋肉好きの神経を刺激したな――――と思ったのだが。

「こんなの、大和くんのほうが絶対いいと思う!」
「何が?」
「筋肉! こんなのより、大和くんのがいい!」
「俺の筋肉のほうが、てこと?」
「そう!」

 力強く頷いて、千尋がグイッとシャンパンを呷った。



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